ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ダボス会議でのクロちゃん卒業スピーチ

2023年01月24日 | 日本の金融政策

ダボス会議の前に、最新スキー事情をお知らせします。

  一昨日まで3日間、息子と二人で白馬八方尾根スキー場に行っていました。3日間とも晴天に恵まれ、とても楽しく初滑りを楽しむことができました。

  驚いたのは、海外からのスキーヤーの多さです。すでに海外旅行者全開と思われるほどでした。ランチ時のレストランで比率を見ると、約4割が海外からのスキーヤーと思われます。スキー場ではリフトやゴンドラに乗ると、乗り合わせた人同士が会話を交わすことが多いのですが、私は日本人・外人を問わず、積極的に話しかけるのが楽しみの一つです。海外スキーヤーの8割方がオーストラリアからで、多くは1週間~2週間ほどの滞在で、子連れのファミリーが多数を占めています。

  八方尾根は本州では志賀高原に次いで大きなスキー場ですが、その一角にオーストラリア植民地と呼ばれるエリアがあります。そこはスキーヤーのほぼ全員がオーストラリア人で、レストランは英語しか通じないし、スキースクールも幼児用から大人用まで英語のみ。このエリア名、スクールの名前である「エバーグリーン」の方が、咲花(さっか)ゲレンデより通用します。

  ニセコも広大ですが4つエリアのうちの一つ「花園」は、やはりオーストラリア植民地と言われ英語しか通用しない場所です。

  今回は滅多にない快晴無風が2日間、最後の一日も晴れたりくもったりでやはり無風の天候に恵まれ、北アルプスの絶景を眺めながらの滑走をエンジョイできました。

 

  さて、同じ真冬の風物詩となったスイスのダボス会議ですが、今年は大きなニュースだねにはなっていませんでした。日銀の黒田総裁最後の晴れ舞台でしたが、自画自賛に終わったので周りはしらけていたようです。

まず日経ニュースを引用します。

引用

黒田総裁の任期は4月8日に満了する。黒田氏は「この10年間でデフレを根絶することに成功した」と10年間の任期を振り返った。金融緩和で女性の労働参加が広がり、雇用者数の増加につながったとの分析も披露した。(←ホントか?)

  もっとも消費者物価指数の伸びは足元で4%に達しているものの、輸入物価の上昇に大きく起因しており「2%の物価目標が持続的・安定的に達成されているとはいえない」と指摘した。

引用終わり

  ちょっと待てよ。

>「この10年間でデフレを根絶することに成功した」

と言いながら、

>「2%の物価目標が持続的・安定的に達成されているとはいえない」

だって?矛盾してないかい?

じゃ、「デフレの根絶に成功した」ってなんのこと?

 このところのインフレの発端はコロナだし、それをグンと押し上げたのはロシアでしょ。クロちゃんがコロナの原因でもなければ、プーチンをけしかけたのでもない。

 

  もうみなさんもうんざりだと思いますが、今後のためにアベノミクスと黒田バズーカをレビューしておきましょう。

  そもそも、オレ様なら2年で達成可能と豪語して登場したはずのクロちゃん。10年かかっても達成できないってどういうこと。日本国債をGDP総額と同じ額まで爆買いして達成できなくて、この後始末をどうするの? 

  後任とおぼしき副総裁の中曾君、どうも引き受ける以外なさそうだけど、気の毒だね。

 

  そもそも一国の経済成長が金融政策で達成可能だなんてことはどの教科書にも書いてありませんよね。それができるなら、どの国も経済成長なんて簡単でしょう。

  2年やってダメなものを10年やってもだめはダメ。ひたすら国債を買い上げて金利を下げ、それをいいことに国は赤字を垂れ流し放題にして、「じゃ、さいなら、さいなら、さいなら」ですか。間違いなく「戦後の日本をダメにした10人」には選定されることでしょう。

  国民はしらけかえっていて、いくら岸田首相が「新しい資本主義」だの「NISAの拡大」だの言っても、騙されるのはほんの一部でしょう。NISAも予想通り、「5年でなんかやめられないし、枠も拡大間違いなし」でした。

  今後も我々国民は1,000兆円の預貯金を、株式投資しかないNISAに注ぎ込むなんてこと、しやしませんよ。相変わらず債券への投資はNISAの対象外だしね。まあ、分散型投信で債券が含まれるものは、しかたないから入れておいてあげよう、だってさ。

 

  それよりも、信託報酬を払う必要のない米国債投資だね。

チャンスは続くよ、米国債投資でいこう!

  3%台の10年債を1ドル130円で買えるんですからね。

なぐり書きにて失礼。ペコリ

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「財政の崖」、アメリカのデフォルト

2023年01月18日 | アメリカの金融市場

  1月13日にイエレン財務長官が、「財政の崖に対処せよ」と発言し、ニュースになっています。また愚かな「財政の崖」をめぐる争いが始まりそうです。単なる政争に過ぎずわざわざ話題にしたくないのですが、心配をされる方もいらっしゃるかと思い、簡単に解説します。

  「財政の崖」問題は、私が著書を出版した11年9月の寸前に最初に発生しました。アメリカ政府は日本と違い、歳出の行き過ぎを制限するため債務の上限を決めているのですが、その上限を突破しそうになり、国会が上限を引き上げないと資金が調達できず、アメリカの政府債務に定義上のデフォルトが起ってしまう危険性があることを指します。

  これは、アメリカが財政上本当にデフォルトするか否かではなく、単に国会が上限の引き上げを承認するか否かのテクニカルな問題です。上限引き上げを渋るのはいつも共和党保守派で、私に言わせれば彼らは「自分の首に縄を結び付け、『崖から飛び降りるぞ!』と叫んでいる愚か者」となります。その後も債務の上限に近づくたびに同じ愚を繰り返し、今回もまたか、ということです。

  一応アメリカ財政の責任者であるイエレン財務長官へのインタビュー記事を見てみます。ロイター電を引用します。

 

引用

イエレン米財務長官は13日、米国は1月19日に31兆4千億ドルの法定債務上限に達する可能性が高く、財務省は特別な資金管理措置に着手せざるを得なくなると述べた。

議会指導部宛ての書簡で「上限に達すれば財務省が米国のデフォルト(債務不履行)回避に向け特別措置に着手する必要がある」と指摘。議会に債務上限引き上げに向け迅速に行動するよう要請した。

また「財務省は現時点で、特別措置によって政府の債務支払いを継続できる期間を推定することはできないが、現金や特別措置が6月上旬までに枯渇することはない」とした。

財務省のデータによると米連邦債務は11日の時点で上限を780億ドル下回っている。

引用終わり

  とまあ、「この時点でわざわざニュースにするほど深刻ではない」というのが、私のコメントです。共和党の強硬派とて、アメリカが崖から落ちるまで突っ張るかといえば、必ず寸止めするにちがいないのです。

 では財政赤字について日米を比較します。数字は日本の財務省のHPからの引用で、といってもこれは大本営発表ではなく、むしろ楽観的な政治家と国民をいさめるため、本当の姿を知ってもらおうとする意図を感じます。GDPに対する累積債務の比率です。

 

  22年末、日本265%、アメリカ125%です。

  何故GDPに対する比較で見るのか。その理由は、GDPは税収の根本的要素だからです。たとえば消費税収入は家計の消費支出に比例します。消費はGDPの3分の2近くを占め、消費が大きければ当然GDPも大きく、税収も比例して上がります。そのためGDPと債務の比率を比較するのは重要なのです。

 さらに別の角度からアメリカの死角を見ておくことにします。新年にちょうどよい解説がありました。それは新ボンド帝王と呼ばれ、ボンド投資の第一人者であるアメリカの巨大債券ファンドを運用する、ジェフリー・ガンドラック氏へのインタビュー記事です。とても長いので、1月1日の日経ニュースを部分引用します。

引用

米運用会社ダブルライン・キャピタル創業者で「債券王」の異名を持つガンドラック氏。長期にわたる物価と金利の低位安定が終わったと指摘したうえで、グローバル化の巻き戻しが投資環境の「ニューノーマル(新常態)」になるとの認識を示した。

――22年の金融市場はインフレ高進と金利上昇に見舞われ、株式と債券は歴史的な価格下落を記録しました。潮目は変わったのでしょうか。

私の年代やその下の世代が知っている市場の動きは、40年間にわたるインフレと金利の低下という長期トレンドで事実上、すべて説明できる。この間、経済のグローバル化が進んでいた。ところが新型コロナウイルスのパンデミックを機に輸入の中国依存を見直す動きが広がっている。

多くの市場参加者は、過去40年の経験で自分たちが知っていること、学んできたことに自信を持ちがちだが、気をつけたほうがよい。次の数年間で起きる事象は過去40年間の経験と異なるものになるだろう。

――低インフレ時代が終わった後の「ニューノーマル」は何ですか。

グローバル化の巻き戻しだ。地政学的な緊張は明らかに高まっている。米国は財政難にもかかわらず、ウクライナ向けの武器を買うために、本来必要のないお金を使っている。同様に台湾を支援する可能性がある。今の米国が同時にロシア・中国との代理戦争に突き進んだ場合、十分な人材や貯蓄、実質経済成長力がない。

米国と欧州の人々は中国の超低賃金で生産された安価な商品に頼って生活してきたが、今後はできなくなる。生活水準は向上するどころか、悪化していくだろう。欧州の一部地域は貧しくなっている。日本も貧しい。中国もあまりよくない。さらに高齢化で生活の質が落ちる。生活の悪化が各地で民族主義を助長し、世界は地政学的な緊張にさらされやすくなる。

――米ドル相場の見通しを教えてください。

23年のストーリーは『FRBが政策金利を引き上げず、他の中央銀行が金利を上げる可能性が高い』というものだ。ドル安が進むとみている。通例では不況になると米ドルは下落しやすい。

米財政赤字の対国内総生産(GDP)比率は歴史的にみて非常に高い水準にある。米国がひどい不況期に入ると、政府は再びお金をばらまくようになるとみている。米ドルの価値が本格的に下がるのはその時だ。ドル安予想に基づき、新興国株の投資判断を『オーバーウエート(買い)』としている。このテーマは23年だけで終わらない。今後3年間は続くとみて大丈夫だ。

引用終わり

  以上が発言の要旨です。新ボンド帝王の発言と言われると、このご託宣は信用のおけるものに感じられる方もいらっしゃると思います。ドル安の予想など、米国債投資を考えるみなさんには、「都合の悪い予想」ではありますが、あえて取り上げました。

 

  しかしこの帝王、過去に大きな間違いを起こしています。それは私が忌み嫌って何度もブログでも取り上げ、バクチ呼ばわりしていた仮想通貨に関する予想です。彼は仮想通貨の将来性を高いものだとして推奨していたことがあります。もちろん最近はそれに賛意を示す人は皆無でしょう。仮想通貨など、しょせんバクチのサイコロに過ぎませんでした。

  それは別にしても彼のように超長期視点で物を見ることは非常に大切で、私の経済や金融市場の見方も常に超長期視点をバックに持って見ています。

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 物価上昇4%だって、冗談じゃない!

2023年01月11日 | ニュース・コメント

  昨日、東京都区部の12月の物価上昇率が4%と発表されました。

 電気代が前年比26%、都市ガス代は37%と大幅に上昇。そして生鮮食品を除く食料品は7.5%、生鮮食品も6.5%。携帯電話代も22.1%の上昇。

 われわれが日常生活で支払っているものの大半がこんなに上昇しているのに、その他を含めて合計するとたった4.0%だと発表されています。実感とはかけ離れています。いったい何故こんなことになるのか。理由はおかしな理屈が隠されているためです。それは物価指数の構成比で2割を占める「帰属家賃」の存在です。

 

 帰属家賃とは何か?

 そもそも物価指数は、家計が何にいくら使ったかの割合を家計調査から計算し、その割合の合計が100になるよう調整して計算します。構成比は数年ごとに変化させます。でないと例えば携帯電話の普及などを反映できないからです。

 それだけであれば、持ち家のある方は家賃の上昇率は家計には響きません。しかし物価統計上はみなし家賃を支払っているとされ計算されるのです。それが帰属家賃で、構成比はなんと家計費全体の2割も占めているのです。実際にアパートを借りている人の家賃上昇率は1%にも満たない0.7%上昇ですが、それを全家庭が払っているものと仮定されるため、物価上昇率の足を引っ張っています。

 そのためエネルギーや食料品の爆発的上昇の足を引っ張り、加重平均合計値がわずか4.0%になってしまうのです。

 

 だったら実感を反映する「実感物価上昇率」を発表すれいい。それが私の主張です。食品・エネルギーは当然含め、帰属家賃は除く。そうすれば家を持つ人の実感により近づきます。

 

 しかし物価当局はさらにそれとは正反対のことを行っています。どういうことか?

 それは食品・エネルギーを除く「コア指数」の発表です。コアとはいかにもそれが一番大事だぞというネーミングですが、それには変動の激しい食料品もエネルギー関連も除かれているのです。何故そんなことをするのか。その理由は、食品・エネルギーは変動が激しく、長期のトレンドがつかみづらいというエコノミストなど専門家の要請があるからです。ちなみに昨年12月のコア指数は3.6%で、総合物価4.0%よりさらに低い数字です。我々はそれらの歪んだ数字を大本営発表として受け入れざるをえません。

  日銀などはコア指数をベンチマークにして金融政策を決めますので、経済全体はコア指数によって大きな影響を受けるのです。

(注)コア指数は日本とアメリカでは採用品目で「生鮮」食料品を含めるか否かなどで違いがあります。話を複雑にしないため、ここでは生鮮食品だけを除く日本基準を使っています。

 

 ついでに腹立ちまぎれに申し上げれば、これだけ物価が上がっている中で日本の厚労省は年金支給額を減らす老人いじめもしています。老齢年金満額支給の月額は令和2年度の65,171円に対して今年度は65,075円。わずかですが「マクロスライド」という訳の分からない政府のごまかし政策により減らされているのです。ここではそのお話は省略します。

 一方私は、金額は少ないですが、アメリカ合衆国から年金をもらっています。毎年12月に来年の年金額のお知らせが来るのですが、今年はなんとプラス8.7%です。物価上昇率をきっちりと反映してくれますので、納得の数字です。これまでもほぼ毎年増額してきました。なんという差でしょう。なおアメリカと日本では、支払い年度の開始月が異なるため、それも若干考慮する必要はあります。

 以上、「物価上昇4%だって、冗談じゃない!」でした。

 

 

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今年の10大地政学上リスク

2023年01月07日 | 地政学上のリスク

  今回は前回の続きです。前回は22年のリスクをレビューしましたが、今回はアメリカの地政学上のリスクの調査会社「ユーラシア・グループ」が1月3日に発表した「ことしの10大リスク」を少し掘り下げます。

  まず初めに10項目と簡単なサマリーを並べ、そののち私が最重要と思われる2つの項目を、私なりに分析してみます。以下の10項目はNHKニュースの引用です。

1.「ならず者国家ロシア」
ロシアは世界で最も危険な「ならず者国家」になり、世界全体に深刻な安全保障上の脅威をもたらす。

2.「権力が最大化された習近平国家主席」
去年、開催された共産党大会で習主席は建国の父とされる毛沢東以来の権力を掌握。

 3.「テクノロジーの進歩による社会混乱」
AI=人工知能の技術的進歩は社会の信頼を損ない、ビジネスや市場を混乱させる。ポピュリストなどは政治的利益のためAIを武器化し、陰謀論や「フェイクニュース」を広める。

4.「インフレの衝撃波」
世界的な景気後退の主な要因となり、社会的不満と世界各地での政治的不安定にもつながる。

5.「追い込まれたイラン」
政権に抗議するデモが相次いでいる。政権崩壊の可能性は低いが、過去40年間のどの時点よりも高くなっている。

6.「エネルギー危機」
エネルギー価格の上昇は消費者と政府に負担をかける。

7.「阻害される世界の発展」
新型コロナウイルスの流行、ウクライナ侵攻、世界的なインフレなどが続き経済的、安全保障的、政治的な利益がさらに失われる。

8.「アメリカの分断」
アメリカは世界の先進国の中で最も政治的に偏向し、機能不全に陥っている国の1つで政治的暴力のリスクが続いている。

9.「デジタルネイティブ世代の台頭」
1990年代半ばから2010年代初めに生まれた若者を指す「Z世代」がアメリカやヨーロッパなどで新しい政治勢力になる。

10.「水不足」
水不足が世界的かつ体系的な課題となる。しかし、各国政府はこれを一時的な危機としてしか扱っていない。

 

  順序は重要なもの順になっていますので、それも含めてこれら10大リスクを頭に入れておきましょう。では10項目の中から私が最も重要と判断したロシアと中国に関して、私なりの分析を加えることにします。

  昨年はロシアのウクライナ侵攻の序列は5番目でしたが、今年はトップです。しかもプーチンとロシア国家をROGUE=ならず者呼ばわりし、最大限の非難の言葉を浴びせています。私ももちろん大賛成です。発表内容は太字です。


1.「ならず者国家ロシア」

屈辱を受けたロシアは、グローバルプレーヤーから世界で最も危険なならず者国家へ変貌し、ヨーロッパ、米国、そして世界全体にとって深刻な安全保障上の脅威となるだろう。ウクライナに侵攻し、電撃的勝利を約束してから約 1 年。もうロシアには戦争に勝つための軍事的選択肢が残っていない。ウクライナの都市や重要なインフラへの攻撃は続くだろうが、地上の軍事バランスに影響を与えることはないだろう。しかし実際に核を使用する可能性は低い。

   この最後の「実際に核を使用する可能性は低い」という予測は安心材料ですね。そして最近アメリカはロシア軍を叩く兵器ハイマースや、ミサイルを迎撃するパトリオットを供与し、フランスやドイツも地上での強力な戦闘用車両の提供を始めました。これらによりウクライナ軍は従来より強力になりつつあります。

さらに周辺国ではスウェーデンとノルウェーのNATO参加もあり、プーチンが主張しているNATOによる侵略どころか、逆に彼こそがNATOを呼び込む最大の立役者になっています。私からはならず者の上に、「愚かなる」ならず者という称号をプーチンに授与してあげます(笑)。

 

2.「権力が最大化された習近平国家主席」
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は2022年10月の第20回党大会で、毛沢東以来の比類なき存在となった。共産党の政治局常務委員を忠実な部下で固め、国家主義、民族主義の政策課題を事実上自由に追求することができる。しかし、彼を制約するチェック・アンド・バランスがほとんどなく、異議を唱えられることもないため、大きな誤りを犯す可能性も一気に大きくなった。

 

 最近の習近平は連続して大失敗を犯し続けていますね。私は以前から「コロナを笑う者はコロナに泣く」と繰り返し言ってきましたが、習近平はまさにそのドツボにはまっています。感染の再拡大中に「中国はコロナを征服した。ゼロコロナ政策は解除だ」と宣言しました。3月5日に行われる全人代を意識して成功を誇示するスローガンでしょう。

 おかげで感染は拡大どころか大爆発。ふたたび病院にコロナ患者があふれ、霊柩車が火葬場にあふれました。それをごまかすために感染者数の発表をやめるという姑息な手段を繰り出し、効果の薄い自国製ワクチンのみに頼ると言う愚かな選択をしています。聞く耳を持たない典型的独裁者病に罹っています。

 しかしもっとうがった見方もできます。それはコロナを3月の全人代までに克服するための究極的手段、『赤信号、みんなで感染すれば恐くない』政策かもしれません。

 つまり今の中国は効かないワクチンによるコロナ退治より、荒療治による強制的免疫獲得のほうが早いという判断をくだしたのかもしれません。まあ世界の人々のためにそれが果たしてワークするか否か、どんどん感染実験をしてもらいましょう(笑)。

 

  もっともたとえそれがワークしても、先日私が「オレ様独裁者たちのたそがれ」の中で指摘したとおり、不動産市場の崩壊が中国人民と政府をむしばむため、「白色革命」の激化防止にはならないだろうというのが、私の勝手な見立てです。その結果、やぶれかぶれの台湾進攻が起らないといいのですが・・・。

 それに関しては、ロシアのウクライナ侵攻を民主主義国家グループがしっかりと叩くことを見せつけることが最大の防御になるでしょう。そうすればさすがに習近平も愚かな冒険はしないものと思われます。

 

以上、私の2大リスク見通しでした。

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イアン・ブレマー氏の「10大リスク」発表

2023年01月04日 | ロシアのウクライナ侵攻

  みなさん、明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

 

  昨年末私は自分のブログで年末最後の投稿をしたつもりですが、それがアップされていないことを今になって気が付きました。年末の忙しさで操作を間違えたのか、あるいは歳のせいで注意力が散漫になったのでしょう(笑)。未投稿のままブログの編集サイトに残っていました。申し訳ありません。

 

  そこで今年の最初の投稿はまずそれを投稿するとにします。

 

12月31日付

タイトル;慧眼、イアン・ブレマー氏の22年10大リスク

 今年の漢字に「戦」が選ばれ、平和な世界からは程遠い1年でしたね。遠い地域でのウクライナ戦争から日本は無縁と思われましたが、とんでもない。ロシアの侵攻以前から始まっていた石油などの資源エネルギーや穀物をはじめとする商品相場の上昇が侵攻により暴騰し、日本も多大な影響を受けました。物価上昇により平穏とはとても言えない日常を経験することになりました。コロナの爆発的蔓延も含め、世界の繋がりの緊密さは驚くほどです。

テレビや新聞で今年の10大ニュースについて論じられる時期になりました。ニュースへの反応は個人個人の感じ方に差があると思いますし、それは報道にお任せします。

私は自分で感じた今年最大のニュースを取り上げます。それはまぎれもなくロシアによる独立国家ウクライナへの侵攻でした。第2次大戦後、先進巨大国家による唯一かつ最悪のあからさまな侵略だからです。マイナーな侵略や紛争は数多く起こっていますが、それらは長く歴史上に残るほどの戦争ではありません。ウクライナ侵略は今後の展開によっては核兵器を使う可能性すら意識せざるを得ないほどの重大かつ許されない侵略です。それを侵攻前からしっかりと予想していた人がいます。イアン・ブレマー氏です。

 

 毎年1月初旬にイアン・ブレマー氏率いるユーラシアグループが「世界の10大リスク」を発表しています。今年はその中にロシアによるウクライナ侵攻が入っていました。非常に的確な予想でしたので、日本語版発表資料をちょっと長いですが以下にそのまま引用します。侵略の可能性や今後の展開に関する示唆も含まれ、さすが地政学上のリスクの第一人者とうならざるを得ない分析です。

 

引用

リスク No. 5 ロシア

米国とロシアの関係は極めてギリギリの不安定な状態にある。昨年、ウクライナ周辺での段階的な軍備増強として始まった動きは、今や欧州の安全保障構造を再構築するというロシアのより大きな要求へと変化している。これに選挙妨害やサイバー工作の懸念が加わり、ロシアは国際的な危機を引き起こす寸前である。

プーチン大統領は、NATO の東方拡大に反対するロシアの意向に対応するよう欧米に強要している。ウクライナとの協定のあり方、ロシアと西側諸国との関係におけるゲームのルールという2つの問題で影響力を得るために、ウクライナとの国境に約 8 万人の軍隊を集結させたのである。プーチンは自分の信用を賭けている。もし米国主導の西側諸国から譲歩を得られないなら、ウクライナで何らかの軍事作戦を行うか、他の場所で劇的な行動を起こす可能性がある。 妥協が可能な分野に焦点を当てれば、外交によって軍事的な対立を回避することはできるだろう。ウクライナが NATOに加盟する見込みはないが、米国と NATO同盟国はそれを公言するつもりもないだろう。しかし、双方はその旨の暗黙の了解に達する可能性がある。また、ウクライナへの武器供与の制限やロシア国境付近での軍事演習など、他の問題についても合意は可能だろう。しかし、まだ予断を許さない状況だ。

上記のような問題が合意されたとしても、プーチンを満足させるには十分ではないかもしれない。プーチンがウクライナに直接侵攻すれ ば、少なくともロシア国債の流通市場における米国民取引の禁止にロシアは直面し、 NATO軍は前線基地をロシア国境に近づけ、ソ連崩壊以来の緊張を高める事態になるだろう。プーチンには、そこまで大規模ではないにしても、欧米の同盟に大きな問題をもたらす別の選択肢もある。

ウクライナがドンバス地域でロシア系民族に対する大量虐殺を行っているという(虚偽の)主張に自ら対応して、プーチンは占領地に軍隊を送り込み、その軍隊を守るために占領地を正式に併合し、ついでにウクライナ領土内に小さな緩衝地帯を追加で奪う可能性もある。

このようなシナリオの場合、欧州諸国はその結果生じる あらゆる経済的影響(そしてこの冬のエネルギー不足)を考慮した上でも、米国との同盟関係を維持するだろうか。欧州との連携が成立しなければ、この出来事はバイデン政権にとって恥ずべき失敗となり、米欧関係に深い溝を作ることになるだろう。

引用終わり

 

さすが第一人者、侵略の開始やその後の展開に関する予想までぴったりです。

その部分を繰り返します。

 

『ウクライナがドンバス地域でロシア系民族に対する大量虐殺を行っているという(虚偽の)主張に自ら対応して、プーチンは占領地に軍隊を送り込み、その軍隊を守るために占領地を正式に併合し、ついでにウクライナ領土内に小さな緩衝地帯を追加で奪う可能性もある。』

  昨年2月24日のロシア侵攻開始よりはるかに前からブレマー氏はこのように予想していました。まさに「慧眼」というべきでしょう。

  さらに22年末のインタビューで彼は「プーチンが追い詰められることで、核兵器の使用が危ぶまれる」とはっきり述べています。この先の戦闘の展開予想や和平交渉の行方は、23年1月初旬に発表される「23年の10大リスク」を待ちましょう。

  

  ウクライナは、国土面積が日本の約1.6倍の60万3700平方キロメートルで、人口は約4500万人。国土のほとんどが山の日本と違いほぼフラットで、あらゆる用途に利用可能な豊かな土地を持っています。その広大な地域は、子供時代に学んだ地理では「国土地帯と呼ばれ肥沃な土地である」と習いました。

 

  平和なはずの独立国家を一方的に蹂躙し、これまでに一般人の死者は6,826人、兵士の死亡推定数は1万~1.3万人。海外への避難者数は1,600万人にのぼります。

  日本にいるわれわれができることは少なく、発電機や衣料品を送ったり、日本に避難している人々を助けるくらいしかありませんが、心の中では精いっぱいウクライナを支援したいと思います。

12月31日分、引用終わり

 

ではあらためまして、今年の最初の投稿です。

  昨日1月3日にユーラシアグループが23年の10大リスクを発表しました。発表内容はまだ英語版だけですので、私が勝手に発表資料の冒頭にある「サマリー」を翻訳しみなさんにお届けします。

 

サマリー

私たちはほぼコロナのパンデミックを乗り越えつつあります。ロシアがウクライナで勝つ方法はありません。EU欧州連合はこれまで以上に強力になっています。 NATO はその存在意義を再発見しました。 G7は強化されています。 再生可能エネルギーは非常に安くなりつつあります。 アメリカの軍事・経済などの総合力は依然として無敵です。 米国の中間選挙は明らかに正常に行われました。そして、民主主義に脅威を与える候補者の多くは敗れました。 一方、ドナルド・トランプは彼が大統領に就任して以来、いまが最も弱体であり、多くの共和党員が共和党の次の大統領候補指名をうけるために準備をしています。

引用終わり

 

  内容中、ロシアによるウクライナ侵攻と国際情勢に関する記述で大事な部分だけ繰り返しますと、

「ロシアがウクライナで勝つ方法はありません。EU欧州連合はこれまで以上に強力になっています。 NATO はその存在意義を再発見しました。 G7は強化されています。」

という部分です。これまで彼は繰り返し「Gゼロの世界」ということを前面に唱え、国際社会における1強であったアメリカの退潮が世界の不安定要因であると主張してきました。

  私は彼の今回の見通しは、それを大きく転換するものだととらえています。つまりロシアのおかげでGゼロからG7が復活し、ヨーロッパでEUが結束を固め、その両者が参加するNATOこそがヨーロッパ全体の平和に対する存在意義を高めた、ということです。

  このことは日本やアジア太平洋地域でも同様なことが言えるのだと思います。つまり専制主義国家の脅威に対しては、アメリカを中心に民主主義国家が連合を組むことで対抗可能だということです。

  

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