ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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警鐘;日銀のゼロ金利解除 その3

2024年04月03日 | 日本の金融政策

 ここまで2回の論点をまとめます。

 日銀のゼロ金利解除によって円が強くなるであろうという市場予想がありましたが、実際にはそうはならずに逆に円は強含んでしまっているという結果になり、その理由を述べてきました。中でも重要なのは、「日本の作り出す経常黒字が、円高の要素ではなくなりつつある」ということでした。

 では次に、ゼロ金利解除により株価はどうなのか。こちらも同じく年末のダイヤモンド誌に掲載された8人の著名な株式アナリストによる予想を示しますと、1年後に4万円を突破と予想したのはマネックス証券の広木隆氏一人でした。その予想値は42,000円です。あとの株式スペシャリストはことごとく、今年の高値は3万円台と予想していました。すでに4万円を超えていて、おおハズレです。

 もっとも広木氏は株屋さんの典型で、万年強気予想しかしない人なので何年も外し続けたのですが、今年は久々に当たったのです。

 

 そこで思い出したのは、私がかつて在籍した80年代の日本経済研究センターの理事長の話です。理事長はエコノミストとして著名な金森久雄氏でしたが、面白い言葉を残していました。それは、「私は3年に二度は必ず予想を当てます。その理由はいつも強気の成長率を予想しているからです。なので逆に3年に一度は必ずハズシます(笑)」。高度成長期ですから、常に強気の予想を出せば3回に2回は当たるという、ごもっともなお話です。

 

 とまあ、為替相場も株式相場も、専門家でも予想はとても難しいということです。もちろん今年はまだ長いので、今後為替相場も株式相場も逆に動くということは大いにありえます。アナリスト商売は数字で評価されるため、厳しいものがありますね。

 こうしたことから我々が心すべき警鐘は、日銀によって歪められた日本経済は、日銀の思惑通りには動かないということです。そしてまた理論通りに動くハズと予想するアナリスト予想もうのみにしてはいけないという警鐘です。

 現在の為替市場での話題は、いったい何円まで円安が進むと日本政府が介入してくるかという点に絞られています。それは152円だろうと言われていますが、それとてゆっくりと上昇していった場合は、介入はないかもしれません。日本政府は介入の場合の条件として、急激な変動を条件にしているからです。今後の行方を見ていきましょう。

 

 もう一つ指摘しておきたい警鐘があります。みなさんのところにもNISAブームの中、多くの金融機関が新NISA口座の開設と株式投資のお勧めを言ってきていると思います。そこで注意すべきは投資に関わるすべての金融機関が言う言葉、

「今がチャンス!」です。

 どこぞの通販じゃあるまいし。乗り遅れまいとする一般投資家は、証券・銀行などの言うがままに新NISA口座を作り、作ったからにはすべからく即投資を開始します。相場の居所などおかまいなし。

「30年ぶりに日経平均が高値を更新し続けている今がチャンスです」。

えっ、逆でしょ!

 「株式は安い時に買って高い時には売るべし」です。高ければ買わずにいればいいだけです。特に今新たにNISAで投資を始めようとする方は、積立投資でない限りある程度の資金を現預金で持つ方が多いと思います。そのような方がスピード違反気味の相場を目にして、追いすがるように投資を開始するのは避けるべきです。

 

 今回のNISAには若い方に向けて別の殺し文句も用意されています。それは同じ金額を長期間少額積立投資で運用する場合のメリットです。いわゆるドルコスト平均法という投資法です。ほとんどのNISAでの投資対象は個別株でなく投資信託での運用のため、毎月1万円でも2万円でも簡単に投資できます。同額投資を継続するメリットは、相場が高い時に買える口数は少なく、安い時には多くの口数を買うことができます。例えば1万円で買える口数が2単位とします。同額で株価が半分に下がっている時には、2倍の4単位買えますし、逆に2倍に値上がりしていると半分の1単位しか買えません。すると長期では平均買値を下げることができるのですが、その方法をドルコスト平均法と言います。だからと言って高い時から開始するのはやはり得策とは言えません。

 ここでバフェット爺さんに登場していただきます。彼が2月24日に公表した「株主へのレター」の中で、

「今の米国株式市場は高騰していて、カジノみたいになっている」と述べています。彼の言葉には素直に耳を傾けるべきでしょう。

 また日経新聞の3月29日付でフィナンシャルタイムズのコラムニストは以下のような警鐘を鳴らしています。

タイトル;AIの「夢物語」に要注意

・テック各社が人工知能AIからいずれは巨額の利益をあげるはず、というユーフォリア(陶酔感)に不安を覚える

・米市場調査会社は、AI向け半導体最大手のエヌビディアの株価は、今後4,500年配当を出し続けなければ正当化できないと分析 ←(林の注)ただし現在のPERは75倍程度なので、この4,500年には疑問がありますが、割高レベルではあることは確かです。

・AIを動かすには膨大な水とエネルギーが必要だかEUなどはその必要量を開示せよと求める動きがある

・AIが著作権問題をクリアーするのは大きな困難が伴う

とまあ、いろいろネガティブな指摘をしています。そして今の相場はすべてがAIに集中する陶酔感のただ中にあり、エヌビディアがコケたら日本株までみなコケる可能性すらあると思いますので、要注意です。

 

 こうして為替や株式に関して見てきましたが、日銀により政策金利のマイナスがゼロになったところで正常化とはとても言えません。欧米の中央銀行はこぞって金利引き上げを終えて、いつ引き下げるかを話しています。日本は周回遅れ、それも2周くらい遅れています。日本では、金利引き上げのインパクトがゼロからさらにプラス金利の領域に達した場合、いよいよ大きなインパクトが出てくると考えておくべきだと思います。特に住宅ローンを変動で組んでいる方は要注意です。現状は変動金利での借り入れが7割を占めると言われていますので、金利上昇に伴いみんなが一斉に固定化しようとすれば、前にも申し上げたようにパニック症状が出かねません。要注意です。

 こうした変動から固定への動きは、企業の銀行ローンでも同じことが言えますので、慌てないようにしましょう。

警鐘;日銀のマイナス金利解除 終わり

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警鐘;日銀のゼロ金利解除について その2

2024年03月29日 | 日本の金融政策

 前回は、日銀がゼロ金利を解除したが、その後のドル円レートは大方の予想に反して、円高ではなく反対のドル高に動いてしまった。その理由として私が指摘したのは、

  • 日本は貿易立国にもかかわらず貿易収支は赤字が常態になっている。
  • 海外投資の黒字分を外貨のまま現地に残すことが当り前になってきて、日本に還流させないこと。つまり経常黒字が円高要因ではなくなっている。
  • 日本の一般投資家も企業同様賢くなり、成長力の衰えた日本から海外へ投資マネーを移している。

ということを理由に挙げました。

  では、このドル円レートを専門家はどう予想していたか、まだ年が明けて3か月も経過していませんが、昨年末に行われた為替のアナリスト達のドル円予想を見てみましょう。ダイヤモンド誌が年末に恒例として行っているアンケート調査の結果です。著名な為替アナリスト8人が予想をしていましたが、そのうち今後1年で円高予想をしていたのが7人、円安予想はたった一人でした。

公表されていることなので名前をあげますと、当たりは「ふくおかファイナンシャル・グループ」の佐々木融氏だけで、今年のドルの予想値は155円で今後はしばらく円安と予想しています。佐々木氏は元日銀マンで、その後JPモルガンで為替のアナリストをしていました。

 もちろんまだ3月ですから1年間の結果は出ていませんが、少なくともここまでは大外れで、8人中方向を当てたのはたった一人。それほど為替の予想は難しいということです。

 では日銀の政策変更で実際に金利はどうなったかを検証します。短期金利変更はただちに普通預金の金利の変更という影響をもたらしています。3月19日のロイターニュースを引用します。

引用

日銀の政策変更を受け、大手銀行が預金金利を引き上げる。三菱UFJ銀行は19日、日銀の利上げを受けて普通預金金利を0.001%から0.02%に引き上げると発表した。日銀が前回利上げをした2007年2月以来。3月21日から引き上げる。定期預金の利率も見直し、1年物は0.002%から0.025%とする。優良企業に融資する際の最優遇金利、短期プライムレートは1.475%を維持する。同レートは、住宅ローンの変動金利の基準でもある。

三井住友銀行も普通預金金利を年0.02%(従来は年0.001%)に引き上げ、4月1日から適用する。定期預金金利も引き上げを予定しているという。

みずほフィナンシャルグループも、普通・定期預金の金利を引き上げる。木原正裕社長は日銀の利上げ決定後、ビジネスの原資として「預金を持つことの重要性が一層増す」とのコメントを出した。

グループに4行を抱えるりそなホールディングスも、預金金利を引き上げる検討に入ったことを明らかにした。

引用終わり

 

 では三菱銀行に普通預金で100万円を預けていると、1年でいったい金利がいくらになるのでしょうか。

利上げ前 100万円 X 0.001% = 10円

利上げ後 100万円 X 0.02%  = 200円

 200円だと1回でも振り込み手数料をはらうと吹き飛んでしまう額です。とてもじゃないですがこれで預金をしようと思うような金利ではありません。しかもこれから源泉税を2割取られます。つまり円預金は金利を期待して預けるようなものではないということです。 

 では預金の代わりに円建てのMMFへの投資はどうか。MMFとは、マネー・マネージメント・ファンドの略称で主な投資対象を国債など国内外の公社債や譲渡性預金、コマーシャル・ペーパーなど、短期金融資産とするオープン型の公社債投資信託で、1円以上1円単位で購入でき、毎日収益が計上され、運用成果は実績に応じて変わりますが、投資とは言え預金にかなり近い投資です。

 しかしネットで調べた結果、野村證券のMMF金利は年率0.021%で、預金より0.001%だけ上ですが、とてもこの商品に投資する気にはなれません。

 では、ドル建てのMMFはどうか。同じく野村のMMFでは4.739%(予想金利)。これだと金利をしっかりもらえるので投資する気になります。あくまで変動金利のため、日々変動するリスクはありますが。100万円の投資をすると年に4万7390円もらえる勘定です。もちろん為替のリスクはありますし、利回りも変動しますが、この1年あまりは4%台が続いているようです。

 ではこの円とドルの金利差はいったいどうして生じるのでしょうか?

 一番の理由は、ドルと言う通貨は金利を生む力がある通貨であり、円と言う通貨は金利を生み出す力はないということなのです。

 一般の投資家もこのことをうすうす感じ始めていて、円よりドルへの志向が強くなってきているのではないでしょうか。その証拠がNISAによるアメリカ中心となるオルカン投資です。

続く

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警鐘;マイナス金利解除について その1

2024年03月25日 | 日本の金融政策

 しばらくご無沙汰してしまいました。理由の一つは個人的運用相談が多かったこと。もう一つが花粉症です。3月に入って何度か寝込むほどの花粉症に見舞われました。いつもこの時期は気をつけているので、これほどひどいことはないのですが、今年は格別です。ブログを書くには全力を使うほどの集中力が必要なのですが、症状がひどいと集中力に欠け、持続力もなくなります。書きかけていた投稿をやっと完成させることができましたので、アップさせていただきます。

 

 このところスポーツ界では大ニュースが連続していますね。せっかく大谷翔平がドジャースデビューを果たしたのに、通訳水原一平氏のギャンブル・スキャンダルは暗いニュースとしてとても衝撃的でした。大谷選手にはめげずに頑張って欲しいと思います。

 一方相撲界では110年ぶりの快挙という超明るいニュースがありました。まだ大銀杏を結えないちょんまげ頭の尊富士の優勝、心から「おめでとうございます」と申し上げます。しかも今回優勝争いをしたもう一人の若手大の里も、髷も結えないザンバラ頭で準優勝。驚くしかありません。相撲界はきっとこのあとも二人の活躍で久々に明るいニュースで盛り上がりそうで楽しみです。

 

 では本題です。日銀がマイナス金利を解除し、短期の誘導金利をゼロ近辺にしました。また長期金利を強引に抑える政策を解除する方向に変更しています。

 しかしその結果円は下落しました。市場関係者の大方の予想とは逆の展開です。何故逆かといいますと、円金利の上昇はドルとの金利差を縮小させるためドル選好を弱め、円高要因のハズだからです。

 

 ではどうしてそのような反対の展開になっているのか。多くの為替のアナリストが説明しているのは、「マイナスだった金利がゼロになったり、長期金利が多少上昇したところで、依然として日米の金利差は大きいからだ」という説明をしています。

 

 ちょっと待てよ。そんなことは今さら指摘されなくても事前にわかっていたはずで、日銀が長短金利を予想以上に大きく上げることなどありえません。従ってこれでは説明になっていません。

 

 私の見方は以下のとおりです。

  • 日本は貿易立国にもかかわらず貿易収支は赤字が常態になっていること。
  • 海外投資の黒字分を外貨のまま現地に残すことが当り前になってきて、日本に還流させないこと。つまり海外で稼いだ外貨を、投資機会が少なくかつ金利ゼロの国内円預貯金に戻す理由が見当たらないのです。そのため対外収支統計上の経常収支は黒字でも、稼いだ外貨を国内に還流させていないので、実務上外貨を売って円転換することが少なくなっているのだと思われます。つまり経常黒字が円高要因ではなくなっているのです。
  • 新たにNISA投資が加わりました。日本の一般投資家も企業同様賢くなり、成長力の衰えた日本から海外へ投資マネーを移しています。今回の新NISAの一番人気の投資先が「オールカントリー投信(オルカン)」と呼ばれる海外メインの投信であることを先日書きました。しかも投資の仕方で毎月同じ投信を買い続ける積立投資が多くなっているため、外向きのフローは一過性ではなく、継続することになります。

 

 もちろん為替の変動要因はこれらばかりではないため、今後様様々な雑音も交じりますが、大きな動きをつかむことは大切です。

続く

 

 

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反省しない黒田前日銀総裁

2023年11月10日 | 日本の金融政策

 10月31日の日銀によるYCC=長期金利政策の再調整はドル円相場に円安のインパクトを与えました。今回の政策変更は7月に次いで2回目ですが、いわゆる一般的に言われる政策金利の調整ではありません。一般的政策金利とは翌日物の短期金利のことで、昔の呼び名公定歩合に近いものです。

 日銀は世界の金融界の一般常識に反して、長期金利まで自分の力でねじ伏せようとするYCC=イールドカーブ・コントロールを実施しています。イールドカーブとは、翌日物の金利から3か月物、1年物・・・・10年物などの長期の金利レベルを順にグラフに書くと、金利レベルがカーブを描くのでそう呼びます。中でも日銀のYCCは長期金利の指標となる10年物国債金利を主要なターゲットとしてそれを抑え込もうとしています。

 

 11月6日に植田総裁はYCCを調整した理由を、「副作用が生じるのを和らげるため」と説明しました。この官僚言葉を普通の日本語にすると、「副作用が生じているので、やむなく金利を上方修正した」となります。

 景気をよくするために長期金利まで下げるには、膨大な量の国債を買い続ける必要があります。何故なら日本は財政赤字が巨額なため、常に国債を発行し続けているからです。しかもこの数十年黒字になったことがないため、過去の国債が償還を迎えると、その償還のために借換国債を発行する必要があり、それがまた大量発行に拍車を掛け、日銀がそれを買う。発行体である国が一心同体である日銀に国債を買わせて、まさに自転車操業を行っているのが実態です。

 今年度予算は歳出が史上最高の114兆円。税収とその他収入見込みが79兆円、赤字国債発行が35兆円です。ところが過去に発行された国債を償還するための借換債発行額が160兆円もあるため、実際の国債発行総額は約200兆円にもなります。収入の2倍以上の国債を発行するという異常な予算が毎年常態化しているのです。赤字国債発行額の35兆円など、うそっぱちもいいところであることをみなさんは是非認識しておきましょう。誰がなんと言い訳しようが、年間の国債発行額は200兆円です!

 

 このところ岸田総理が言っている税収増加の還元とは、見込みよりわずか6兆円増えたから大盤振る舞いをすると言っているのです。毎年200兆円も借金をするのに、さらに支出をするとは言語道断。借金を返すべきです。しかしそれを糾弾する声は野党を含めほとんど聞かれません。だれもがその恩恵に浴しそうなので、本気では批判しないのでしょう。国会の論戦で200兆円の国債発行を糾弾する声など皆無です。国会議員ですら国債発行額は新規赤字の35兆円だと思っているからにちがいない。しかたないので私が叫びます。

「国債発行額は毎年の税収の2倍以上、今年も200兆円だ!」

  気の毒なのは将来借金のツケをいつか払わされる若い世代のみなさんです。そのツケを回した張本人はもちろん黒田前総裁です。

 

  日経新聞今月の「私の履歴書」は黒田前日銀総裁です。普段私は社長を退任した方の履歴書などあまり面白くないので読まないのですが、今回は楽しんで読んでいます。いったいあの異次元緩和を黒田氏自身がどう評価しているか知りたいのです。その第一回目で彼はこう言い切ったのです。

 「日銀の同僚と総力を挙げた大幅な金融緩和で「デフレではない」経済は実現した。

 よく言うよ!

 一体就任演説で高らかに歌い上げた「2年で達成する」という約束はどうしたんだ。彼は10年在任し、しかも彼が在任中に国債買い上げのために使ったオカネはなんと500兆円。一人でそんな莫大な額を使ったのは、歴史上黒田氏だけでしょう。

 だいたい今のインフレは10年続けた日銀の緩和策によるものではなく、ロシアのウクライナ侵攻に始まる国際商品価格の高騰と円安による外的要因によることは、誰の目にも明らかです。履歴書の初回からここまで平気で自画自賛するとは、私もあきれ返っています。

 

 こうした彼の自信がいったいどこから出ているのか、その一端が11月7日、7回目の投稿に見られるので引用しながら説明します。

 それは彼が大蔵省からロンドンのケンブリッジに留学した時代にヒックス教授から受けた授業によると書いてありました。ヒックス教授とはノーベル賞を受賞した高名な経済学者で、私も大学時代にゼミで経済政策を専攻したので、彼の著書を読んだ覚えがあります。ケインズ理論を進化させたIS=LM理論の構築者です。ヒックス教授の言葉として黒田氏が書いている内容を以下そのまま引用します。

 

ヒックス教授が述べたのは、「イングランド銀行(日銀にあたる中央銀行)が公定歩合をわずか0.5%上げただけで景気過熱が止まり、物価上昇が収まる。そこには中央銀行の決意が示されているからだろう」。金融政策でのコミットメントの重要性を述べた指摘は、半世紀後に、はからずも日銀総裁となった私にとって、これほど有益なものになるとは思いもしなかった。

 

 私はこのパラグラフで彼の頭の中の大半がどうなっているかをだいぶ理解できたと思いました。就任時の公約「資金供給を2倍にすることで、2年で2%の物価上昇を達成する」とプラカードを使って公約を掲げました。多分彼は日銀総裁が強力にコミットしさえすれば、ヒックス教授から得た「決意だけで経済はどうにでもなる」と信じていたに違いない。

 常に無謬性を誇る元大蔵官僚の自画自賛、そしてオールマイティー幻想。その思い込みのために今後500兆円のツケを払わされることになる若い世代の方々が本当に気の毒です。

 

 一方で私は先ごろアメリカの連銀=FRB議長でリーマンショックを作ってしまったグリーンスパン元議長のことを書きました。彼は非常に長期にわたり議長を務めてマエストロと称賛されました。退任直後の回顧録で自画自賛して見せたのですが、すぐに世界的大ショックとなった金融危機が起こってしまったため、「このバブルを作ってしまったのは私です。ごめんなさい。」と回顧録の補足版を有料で出版しました。

 それを知っているに違いない黒田氏は回顧録を書けるだろうか。2年のコミットが10年もかかっても実現できず、結局外的要因でインフレになり、500兆円のツケを後世代に残した責任を感じていれば、自画自賛の出版などできるとは思えません。日経新聞私の履歴書に書くのがせいぜいでしょう。

 

 最後にとどめを刺します。それはみなさんもあまり感じてはいない円資産の目減りです。彼が日銀総裁になった13年4月のはじめのドル円レートは、95円でした。それが今や150円ですから、

150円÷95円=1.58・・・つまり円資産は約6割も目減りしているのです。もし円をドルにして米国債を買っておけば、金利分も加算されます。

 この目減りは円の預貯金・株式・債券ばかりでなく、ヘッジは難しいですが給与や年金もそうだし、不動産の価値も同じく安くなっているのです。

 彼の就任直後に「この緩和はヤバイ、ドルにしておこう」と思ってドルヘッジをした方は、きっと人知れずほくそ笑んでいることでしょう。

 今からでも遅くはありません。しっかりとご自分の円資産のヘッジを行っていきましょう。

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さよならクロちゃん、そしてわが子供たちへ送る言葉

2023年04月03日 | 日本の金融政策

 クロちゃん、あなたは10年前の就任演説では「異次元」という言葉を最初に使って威勢よく公約しましたね。この言葉、その後政治家を始め多くの方が使う流行り言葉になりました。ですが、それと同時に謳い上げた「2年でマネタリーベース(資金供給)を2倍にし、物価上昇率2%を達成する」ハズが、いまだもって達成できず去るのはさぞ心残りと思います。今の物価上昇はコロナとロシアのおかげです。

  今を去ること10年前、13年4月クロちゃんの就任記者会見の古い記事を引用します。会見の質疑応答部分です。

引用

記者;黒田総裁にお伺いします。総裁は、国会の所信聴取の席などで、 2%の物価目標に関して、「2 年程度で達成は可能である」という趣旨の発言を されていると思います。この点について、改めて、総裁の決意をお伺いします。 また、具体的にその目標に到達するために、どのような手段を講じて いく考えがあるのかということも伺います。

黒田総裁; (前任の)白川前総裁のもとで、政策委員会が、既に 2%の消費者物価上 4 昇率を目標・ターゲットと定め、それをできるだけ早期に実現するよう、金融緩和を推進することを決めているわけですから、当然、これに沿って、最大限努力することになると思います。この 2%という物価安定目標は、「政府と日銀との共同声明」に明記されているわけですが、共同声明の中では、金融緩和とともに、機動的な財政運営あるいは成長戦略、そして中期的な財政健全化の取組みが、政府の役割として示されています。 日本銀行としては、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することに尽きると思いますが、その場合、各国の状況をみると、物価安定目標の達成に向けて 2 年程度を一種のタイムスパンと考えている中央銀行が多いようです。そうしたことも十分勘案し、2 年程度で物価安定の目標が達成できれば 非常に好ましいと思っています。

 次に、そのための手段ですが、これはまさに、さらに量的ならびに質的な緩和を進めることに尽きると思います。量的な緩和が不可欠であることは事実ですが、単に、マネタリーベースを増やすことにとどまらず、資産側で、 イールドカーブ全体の引下げや、必要に応じてリスクプレミアムの引下げを促していくことを通じ、量的ならびに質的な両面から大胆な金融緩和を進めていくことで、2%の物価安定目標を達成すべきであるし、達成できると確信して います。

引用終わり

 

  こうして白川氏は石をもって追われ、クロちゃん公約の2年が始まりました。バズーカをぶっ放しながら国債を買いまくり資金供給をしましたが、その資金は国債を売却した銀行を通じて産業界、ひいては国民に回るはずが一向に回らず、ひたすら銀行から日銀の当座預金勘定に還流するだけでした。

  2年経って辞めるのかとおもいきや、何の反省や弁解の言葉もなく同じようなペースでなんと10年も続き、日銀の資産勘定には国債が565兆円にも積み上がってしまいました。つまり年間50兆、2年で100兆円のつもりが、10年続いて565兆になってしまったことになります。

 そして3月10日の事実上のサヨナラ会見でも「私の不徳の致すところです」など反省の言葉はいっさいありませんでした。ここまでくると巻き戻しなどできようはずもなく、お気の毒に「失敗でした」という言葉すら発することができません。そんなことを言おうもんなら株式は大暴落し、人々は銀行に走り、もちろん日本人の性であるトイレットペーパー買いが猛然と始まるでしょう(笑)。しかしこの影響は笑い事では済まされません。なぜなら破綻規模からいって世界中が「日銀ショック」に見舞われるからです。

 

  一方では、日本国債を空売りしていた海外勢が、泣いて喜び、大儲けするにちがいない。しかしもう一つ、安堵するグループが日本人の中にもいます。それは私のこれまでの主張を真に受けて、米国債をしこたま買っていた人たちです。

  こんなひどい日銀ショックなどなくとも、この10年クロちゃんに疑問を感じ米国債投資を続けていた方々は、すでに密かにほくそ笑んでいるに違いないと思います。

  「異次元緩和の結果がこのまま平穏で済むなら警察はいらない」。日本では政府を含む国全体が、永続することなどありえない超低金利を享受し、それを前提としたさまざまな財政運営、投資や経済活動が行われています。いったん日本でも金利が本格上昇しはじめるとアメリカのシリコンバレー・バンク(SVB)と同じような「破綻の教科書」ケースが出てくる可能性があります。

 

  そもそも銀行業務の基本中の基本は、短期の低金利で調達して長期の貸し出をし、長短金利差を利益の源泉にするビジネスです。短期の低金利の多くは、何も文句を言わない我々の預金です。そのビジネスの前提が金利上昇により崩れると銀行に破綻のおそれが出ます。

  SVBの破綻で混乱したアメリカの例を見てみましょう。SVBの破綻は短期の調達金利がFRBの利上げで高金利となり、運用利ザヤが逆ザヤになったのです。そして長期債をシコタマ抱えて運用していたSVBが破綻しました。

  先週、アメリカ上院の銀行委員会がFRB副議長のバー氏を呼び公聴会を行いました。その席上バー氏が証言したのは「SVBは破綻の教科書だ」という言葉でした。要はFRBが金利を引き上げたら破綻するなんて、銀行にあるまじき初歩的経営ミスだということです。

 私は3月14日の投稿で「SVBは金利上昇にヘッジで対処できていない」と書きましが、同じことです。もし日銀が破綻に瀕したら、「日銀は破綻の教科書だ」と言ってあげましょう。

 

 さらに私は、「日本の場合、低金利への悪乗りナンバーワンは政府だ」とも言っておきます。政府は日銀とグルになって低金利をエンジョイし借金をしまくり、後の世代に大きな負の遺産を残してくれています。

  

  そこで私から団塊ジュニア世代のわが息子・娘たちへは、次の言葉を送ります。

  「トイレットペーパーを買わずに、米国債を買え!(爆)

 

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