ここまで2回の論点をまとめます。
日銀のゼロ金利解除によって円が強くなるであろうという市場予想がありましたが、実際にはそうはならずに逆に円は強含んでしまっているという結果になり、その理由を述べてきました。中でも重要なのは、「日本の作り出す経常黒字が、円高の要素ではなくなりつつある」ということでした。
では次に、ゼロ金利解除により株価はどうなのか。こちらも同じく年末のダイヤモンド誌に掲載された8人の著名な株式アナリストによる予想を示しますと、1年後に4万円を突破と予想したのはマネックス証券の広木隆氏一人でした。その予想値は42,000円です。あとの株式スペシャリストはことごとく、今年の高値は3万円台と予想していました。すでに4万円を超えていて、おおハズレです。
もっとも広木氏は株屋さんの典型で、万年強気予想しかしない人なので何年も外し続けたのですが、今年は久々に当たったのです。
そこで思い出したのは、私がかつて在籍した80年代の日本経済研究センターの理事長の話です。理事長はエコノミストとして著名な金森久雄氏でしたが、面白い言葉を残していました。それは、「私は3年に二度は必ず予想を当てます。その理由はいつも強気の成長率を予想しているからです。なので逆に3年に一度は必ずハズシます(笑)」。高度成長期ですから、常に強気の予想を出せば3回に2回は当たるという、ごもっともなお話です。
とまあ、為替相場も株式相場も、専門家でも予想はとても難しいということです。もちろん今年はまだ長いので、今後為替相場も株式相場も逆に動くということは大いにありえます。アナリスト商売は数字で評価されるため、厳しいものがありますね。
こうしたことから我々が心すべき警鐘は、日銀によって歪められた日本経済は、日銀の思惑通りには動かないということです。そしてまた理論通りに動くハズと予想するアナリスト予想もうのみにしてはいけないという警鐘です。
現在の為替市場での話題は、いったい何円まで円安が進むと日本政府が介入してくるかという点に絞られています。それは152円だろうと言われていますが、それとてゆっくりと上昇していった場合は、介入はないかもしれません。日本政府は介入の場合の条件として、急激な変動を条件にしているからです。今後の行方を見ていきましょう。
もう一つ指摘しておきたい警鐘があります。みなさんのところにもNISAブームの中、多くの金融機関が新NISA口座の開設と株式投資のお勧めを言ってきていると思います。そこで注意すべきは投資に関わるすべての金融機関が言う言葉、
「今がチャンス!」です。
どこぞの通販じゃあるまいし。乗り遅れまいとする一般投資家は、証券・銀行などの言うがままに新NISA口座を作り、作ったからにはすべからく即投資を開始します。相場の居所などおかまいなし。
「30年ぶりに日経平均が高値を更新し続けている今がチャンスです」。
えっ、逆でしょ!
「株式は安い時に買って高い時には売るべし」です。高ければ買わずにいればいいだけです。特に今新たにNISAで投資を始めようとする方は、積立投資でない限りある程度の資金を現預金で持つ方が多いと思います。そのような方がスピード違反気味の相場を目にして、追いすがるように投資を開始するのは避けるべきです。
今回のNISAには若い方に向けて別の殺し文句も用意されています。それは同じ金額を長期間少額積立投資で運用する場合のメリットです。いわゆるドルコスト平均法という投資法です。ほとんどのNISAでの投資対象は個別株でなく投資信託での運用のため、毎月1万円でも2万円でも簡単に投資できます。同額投資を継続するメリットは、相場が高い時に買える口数は少なく、安い時には多くの口数を買うことができます。例えば1万円で買える口数が2単位とします。同額で株価が半分に下がっている時には、2倍の4単位買えますし、逆に2倍に値上がりしていると半分の1単位しか買えません。すると長期では平均買値を下げることができるのですが、その方法をドルコスト平均法と言います。だからと言って高い時から開始するのはやはり得策とは言えません。
ここでバフェット爺さんに登場していただきます。彼が2月24日に公表した「株主へのレター」の中で、
「今の米国株式市場は高騰していて、カジノみたいになっている」と述べています。彼の言葉には素直に耳を傾けるべきでしょう。
また日経新聞の3月29日付でフィナンシャルタイムズのコラムニストは以下のような警鐘を鳴らしています。
タイトル;AIの「夢物語」に要注意
・テック各社が人工知能AIからいずれは巨額の利益をあげるはず、というユーフォリア(陶酔感)に不安を覚える
・米市場調査会社は、AI向け半導体最大手のエヌビディアの株価は、今後4,500年配当を出し続けなければ正当化できないと分析 ←(林の注)ただし現在のPERは75倍程度なので、この4,500年には疑問がありますが、割高レベルではあることは確かです。
・AIを動かすには膨大な水とエネルギーが必要だかEUなどはその必要量を開示せよと求める動きがある
・AIが著作権問題をクリアーするのは大きな困難が伴う
とまあ、いろいろネガティブな指摘をしています。そして今の相場はすべてがAIに集中する陶酔感のただ中にあり、エヌビディアがコケたら日本株までみなコケる可能性すらあると思いますので、要注意です。
こうして為替や株式に関して見てきましたが、日銀により政策金利のマイナスがゼロになったところで正常化とはとても言えません。欧米の中央銀行はこぞって金利引き上げを終えて、いつ引き下げるかを話しています。日本は周回遅れ、それも2周くらい遅れています。日本では、金利引き上げのインパクトがゼロからさらにプラス金利の領域に達した場合、いよいよ大きなインパクトが出てくると考えておくべきだと思います。特に住宅ローンを変動で組んでいる方は要注意です。現状は変動金利での借り入れが7割を占めると言われていますので、金利上昇に伴いみんなが一斉に固定化しようとすれば、前にも申し上げたようにパニック症状が出かねません。要注意です。
こうした変動から固定への動きは、企業の銀行ローンでも同じことが言えますので、慌てないようにしましょう。
警鐘;日銀のマイナス金利解除 終わり