ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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「財政の崖」、アメリカのデフォルト

2023年01月18日 | アメリカの金融市場

  1月13日にイエレン財務長官が、「財政の崖に対処せよ」と発言し、ニュースになっています。また愚かな「財政の崖」をめぐる争いが始まりそうです。単なる政争に過ぎずわざわざ話題にしたくないのですが、心配をされる方もいらっしゃるかと思い、簡単に解説します。

  「財政の崖」問題は、私が著書を出版した11年9月の寸前に最初に発生しました。アメリカ政府は日本と違い、歳出の行き過ぎを制限するため債務の上限を決めているのですが、その上限を突破しそうになり、国会が上限を引き上げないと資金が調達できず、アメリカの政府債務に定義上のデフォルトが起ってしまう危険性があることを指します。

  これは、アメリカが財政上本当にデフォルトするか否かではなく、単に国会が上限の引き上げを承認するか否かのテクニカルな問題です。上限引き上げを渋るのはいつも共和党保守派で、私に言わせれば彼らは「自分の首に縄を結び付け、『崖から飛び降りるぞ!』と叫んでいる愚か者」となります。その後も債務の上限に近づくたびに同じ愚を繰り返し、今回もまたか、ということです。

  一応アメリカ財政の責任者であるイエレン財務長官へのインタビュー記事を見てみます。ロイター電を引用します。

 

引用

イエレン米財務長官は13日、米国は1月19日に31兆4千億ドルの法定債務上限に達する可能性が高く、財務省は特別な資金管理措置に着手せざるを得なくなると述べた。

議会指導部宛ての書簡で「上限に達すれば財務省が米国のデフォルト(債務不履行)回避に向け特別措置に着手する必要がある」と指摘。議会に債務上限引き上げに向け迅速に行動するよう要請した。

また「財務省は現時点で、特別措置によって政府の債務支払いを継続できる期間を推定することはできないが、現金や特別措置が6月上旬までに枯渇することはない」とした。

財務省のデータによると米連邦債務は11日の時点で上限を780億ドル下回っている。

引用終わり

  とまあ、「この時点でわざわざニュースにするほど深刻ではない」というのが、私のコメントです。共和党の強硬派とて、アメリカが崖から落ちるまで突っ張るかといえば、必ず寸止めするにちがいないのです。

 では財政赤字について日米を比較します。数字は日本の財務省のHPからの引用で、といってもこれは大本営発表ではなく、むしろ楽観的な政治家と国民をいさめるため、本当の姿を知ってもらおうとする意図を感じます。GDPに対する累積債務の比率です。

 

  22年末、日本265%、アメリカ125%です。

  何故GDPに対する比較で見るのか。その理由は、GDPは税収の根本的要素だからです。たとえば消費税収入は家計の消費支出に比例します。消費はGDPの3分の2近くを占め、消費が大きければ当然GDPも大きく、税収も比例して上がります。そのためGDPと債務の比率を比較するのは重要なのです。

 さらに別の角度からアメリカの死角を見ておくことにします。新年にちょうどよい解説がありました。それは新ボンド帝王と呼ばれ、ボンド投資の第一人者であるアメリカの巨大債券ファンドを運用する、ジェフリー・ガンドラック氏へのインタビュー記事です。とても長いので、1月1日の日経ニュースを部分引用します。

引用

米運用会社ダブルライン・キャピタル創業者で「債券王」の異名を持つガンドラック氏。長期にわたる物価と金利の低位安定が終わったと指摘したうえで、グローバル化の巻き戻しが投資環境の「ニューノーマル(新常態)」になるとの認識を示した。

――22年の金融市場はインフレ高進と金利上昇に見舞われ、株式と債券は歴史的な価格下落を記録しました。潮目は変わったのでしょうか。

私の年代やその下の世代が知っている市場の動きは、40年間にわたるインフレと金利の低下という長期トレンドで事実上、すべて説明できる。この間、経済のグローバル化が進んでいた。ところが新型コロナウイルスのパンデミックを機に輸入の中国依存を見直す動きが広がっている。

多くの市場参加者は、過去40年の経験で自分たちが知っていること、学んできたことに自信を持ちがちだが、気をつけたほうがよい。次の数年間で起きる事象は過去40年間の経験と異なるものになるだろう。

――低インフレ時代が終わった後の「ニューノーマル」は何ですか。

グローバル化の巻き戻しだ。地政学的な緊張は明らかに高まっている。米国は財政難にもかかわらず、ウクライナ向けの武器を買うために、本来必要のないお金を使っている。同様に台湾を支援する可能性がある。今の米国が同時にロシア・中国との代理戦争に突き進んだ場合、十分な人材や貯蓄、実質経済成長力がない。

米国と欧州の人々は中国の超低賃金で生産された安価な商品に頼って生活してきたが、今後はできなくなる。生活水準は向上するどころか、悪化していくだろう。欧州の一部地域は貧しくなっている。日本も貧しい。中国もあまりよくない。さらに高齢化で生活の質が落ちる。生活の悪化が各地で民族主義を助長し、世界は地政学的な緊張にさらされやすくなる。

――米ドル相場の見通しを教えてください。

23年のストーリーは『FRBが政策金利を引き上げず、他の中央銀行が金利を上げる可能性が高い』というものだ。ドル安が進むとみている。通例では不況になると米ドルは下落しやすい。

米財政赤字の対国内総生産(GDP)比率は歴史的にみて非常に高い水準にある。米国がひどい不況期に入ると、政府は再びお金をばらまくようになるとみている。米ドルの価値が本格的に下がるのはその時だ。ドル安予想に基づき、新興国株の投資判断を『オーバーウエート(買い)』としている。このテーマは23年だけで終わらない。今後3年間は続くとみて大丈夫だ。

引用終わり

  以上が発言の要旨です。新ボンド帝王の発言と言われると、このご託宣は信用のおけるものに感じられる方もいらっしゃると思います。ドル安の予想など、米国債投資を考えるみなさんには、「都合の悪い予想」ではありますが、あえて取り上げました。

 

  しかしこの帝王、過去に大きな間違いを起こしています。それは私が忌み嫌って何度もブログでも取り上げ、バクチ呼ばわりしていた仮想通貨に関する予想です。彼は仮想通貨の将来性を高いものだとして推奨していたことがあります。もちろん最近はそれに賛意を示す人は皆無でしょう。仮想通貨など、しょせんバクチのサイコロに過ぎませんでした。

  それは別にしても彼のように超長期視点で物を見ることは非常に大切で、私の経済や金融市場の見方も常に超長期視点をバックに持って見ています。

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予測の神様のご託宣

2022年05月26日 | アメリカの金融市場

  ちょうど1年前の記事を再掲します。

  アメリカの長期金利が低迷する1年前に、一人金利上昇をご託宣した神様がいました。現在の金利状況は、まさに神様の言う通りに推移しているように思えます。

 

以下、再掲です。

  ウォール街で予測の神様と言われた男がいます。その名はヘンリー・カウフマン。アメリカの金利の大きな転換点を言い当てたアナリストとしてその名を轟かせました。アメリカ金利最大の転換点とは1981年の高金利からの転換点です。金利レベルの変化がどの程度だったか、長期金利の指標である10年物金利を例にとり説明します。戦後からの超長期的推移を見ますと、40年代の2%台半ばから20年かけて60年代にやっと3%台半ばまで上昇。ところがその後の20年間は怒涛の上昇を見せ、80年になんと15%程度まで上り詰めます。その間には73年のオイルショックで原油が2倍に高騰し、一般物価も世界的に大暴騰。日本でも74年のインフレ率が23%にもなり「狂乱物価」と言われたこともありました。

  10年物金利が15%に近づいた時に金融アナリストとして名をはせていたヘンリー・カウフマンによる神のご託宣がありました。

「金利は転換点を迎え、低下する」という予測を出したのです。当時カウフマンはボンドハウスとして「ウォール街の帝王」とまで言われたソロモン・ブラザーズに在籍し、チーフ・エコノミストを務めていました。

  ご託宣直後にピークを付けた長期金利は2020年代の現在までほぼ一貫して低下を続け、遂に1%台に至りましたので、彼のご託宣はいまだに生き続けていると言っても過言ではありません。

  その彼が最近久々にご託宣を出したのです。その内容は、「FRBは今年の年末から年始にかけてゼロ金利を解消する」というものです。FRBの示唆や一般的予想よりはるかに転換点は早く来るという予想です。

 

  ではちょっと長いですが新潮社の国際情報サイトである「Foresight」によるインタビュー記事を興味深い内容ですのでそのまま引用します。コロナへの対処やアメリカ経済・金融財政事情の見通しも述べています。

 

タイトル;予測の神様カウフマン氏「来年にかけて米ゼロ金利解消」

21年5月14日

米国の物価上昇が世界の市場を揺さぶっている。(林の注;4月の物価は前年比4.2%)大規模な財政出動や金融緩和の継続が、経済に何をもたらすのか不透明感が強まってきたためだ。1982年に始まった金利低下への大転換を言い当て「予測の神様」と呼ばれるエコノミスト、ヘンリー・カウフマン氏に聞いたところ、米連邦準備理事会(FRB)は「ゼロ金利を年末から来年初めにかけて解消する」と予想した。

 

――市場でインフレ懸念が高まっています。

「景気が平常のレベルに回復するのに伴い物価は上昇する。とくに景気回復の初期にはインフレ圧力が急激に拡大するのは避けられない。年後半から来年にかけて物価は一段と上昇し、インフレ率は2~3%程度まで上昇すると予想する。新型コロナウイルスが景気に与える影響が収束するのに伴い、ゼロ金利も年末から来年初めにかけて解消するとみている」

「ただ、米国や世界の他の諸国がコロナ危機から脱却すれば、インフレ圧力が長期にわたり加速する可能性は小さい。世界経済は依然として物やサービスで生産能力がかなり過剰な状態となっているからだ」

 

――パウエルFRB議長は資産購入縮小の時期はまだ先と表明しています。米連邦公開市場委員会(FOMC)参加者の政策金利見通しでは2023年末までゼロ金利が中央値です。

「FRBは現在、月に1200億ドル(約13兆円)相当の米国債と住宅ローン担保証券(RMBS)の購入をいつ止めるかのタイミングをはかっている最中だ。コロナの収束がはっきりする今年後半にはテーパリング(購入縮小)を開始するとみている」

 

――コロナ禍の景気後退への政府やFRBの対応をどう評価しますか。

「景気のサイクルから逸脱し、100年に一回くらいしか起こらないという意味では異例の景気後退となった状況で、米国債やRMBSといった資産の購入を実施したFRBの対応は評価できる。ただ、信用度に劣る低格付け債(ジャンク債)などの民間企業の債務や州・自治体の地方債まで購入の用意があるという意思表示は不適切だ。金融市場が不必要にゆがむ要因になるからだ」

「コロナ禍で打撃を受けた航空業界への政府支援も別のやり方をすべきだった。業績が悪化したのなら米連邦破産法11条による会社更生を申請し、その下で事業を継続すべきだった。市場メカニズムを利用すれば、政府は支援金を別の用途に回すことができた。航空業界にとっては債権者との交渉で債務の構成を改善する機会にもなったはずだ」

「こうした危機に直面した場合には、政府や中央銀行が能力以上の介入をするよりも市場の機能に委ね、いくつかの会社の破綻などを許容しながら、経済を回していくというのが得策だ」

 

――バイデン政権になって"大きな政府"を懸念しますか。

「現在の米経済は、Capitalism(資本主義)から、大きな政府、大企業、大手金融機関が寡占するStatism(国家統制主義)に転換しつつある。例えば、1990年代には金融機関大手10社で米金融資産の10%を握るにすぎなかったが、現在ではそれが80%に上る。国民の貯蓄や投資資金の流れの大半を大手10社が握るという状況はマネーを広範に配分すべき金融市場の競争を妨げる」

 

――今、金融市場で最大の懸念は何ですか。

「中央銀行による過剰な流動性供給で、ジャンク債など投機的な債券も利回りが急激に低下し、投資適格社債との利回り格差が急激に縮小したことだ。格付けがトリプルAの社債は1980年代には60本ほどあったのが、現在ではジョンソン・エンド・ジョンソンとマイクロソフトの2本だけだ。社債の質は全般に悪化していながら金利が低く抑えられている。金融政策が引き締めに転じた時にジャンク債市場が深刻な打撃を受ける可能性がある。それを懸念している」

 

以下はインタビューに続くカウフマン紹介記事の内容です。

 

ヘンリー・カウフマン(Henry Kaufman) ニューヨーク連銀、米証券ソロモン・ブラザーズの調査部長、シニア・パートナーを経て88年に独立。ヘンリー・カウフマン&カンパニー代表。金融危機を前に警鐘を鳴らし「予測の神様」と呼ばれた。このほど出版した著作「The Day the Markets Roared」で、30年間続いてきた金利上昇から低下への大転換を予測した82年8月17日のメモや、予測を巡る金融業界の動揺を描いた。3カ月物米財務省証券(TB)の金利が15%近かった当時から40年近くを経てゼロ金利に至る現在までの金利低下の始まりの予測だった。93歳。(私はソロモンに90年に入社したため、彼とはすれ違っています)

 

  ここからは林の解説と見方です。現在FRBは市場に資金を供給するために国債や住宅抵当証券を大量に買い入れ続けています。テーパリングとはその買い入れ額を徐々に削減する政策変更ですが、額を削減しても買い入れを続けるのに何故そのことが大きな問題になっているのでしょうか。それは08年のリーマンショック後に大規模緩和をして、そこから経済が回復している13年に買い入れ額を削減しようとして当時のバーナンキFRB議長が「テーパリング」の一言を言ったとたん、株式市場が暴落してしまったからです。

  その再現を嫌って現在のパウエル議長も緩和基調の転換に非常に神経質になっています。しかし13年5月のバーナンキショックは実際には大暴落ではなく、大ショックというほどのものではありませんでした。ですので私にはバーナンキは「あつものに懲りてなますを吹いている」としか思えません。

 

  それでも先日「アメリカ株式バブル崩壊の足音」で書いたように、あらゆる資産価格が大きく膨らんでいるため、特に株式市場や仮想通貨市場の反応は厳しいものが見込まれます。FRBは23年までゼロ金利政策を続けると示唆しているため、市場の見方もそれに近いのですが、カウフマンは1年以内とかなり強気の見方をしています。

  私自身はその中間、カウフマンよりは遅いが市場やFRBの示唆よりは早めにテーパリングが開始され、金利も上昇を始めるだろうと思っています。

以上

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2021年アメリカの金利動向、さときびさんの質問への回答

2022年01月10日 | アメリカの金融市場

  さときびさんからの質問、「テーパリング、利上げ局面の展開の見方」への回答です。

 

  タイトルにある「テーパリング、利上げ局面の展開の見方」という質問は、そのまま回答するには専門的かつ難しすぎるため、これを「今後の金利動向をどう見るか」に変更させていただきます。たぶん多くの方の関心はこの点にあると思うからです。結論的にはさとうきびさんの見方と同じで、金利は簡単には上がらないだろうと思っています。その根拠をかいつまんで説明します。

  私は従来から金利見通しに重大な影響を及ぼすファクターは、「物価と雇用」だと申し上げてきました。これが最重要であることに変わりはありませんが、現在の局面には債券投資の需給状況というファクターを入れる必要があると思っています。

  21年11月のアメリカの消費者物価上昇率は前年同月比6.8%上昇、変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数でも4.9%の上昇と、FRBが利上げに踏み切るには十分な数値でした。レベルとしてCPIは1982年以来の高い数字です。先行きの物価についても、「しばらくすればインフレは収まる」から、「今年は年間を通じて高水準だろう」という見方に変わっています。従来から目標としてきた2%に行くか行かないかの攻防など、どこへ行ってしまったのかというとんでもない水準です。

 

  一方の雇用を見ると、1月の発表数字で失業率は3.9%と非常に低い水準でしたが、指標として重要な非農業部門雇用者数が前月比19万9千人増と、市場予想の40万人増を下回ったため、市場関係者はご不満のようです。

  しかし21年通年でみると増加幅は640万人と、1939年の統計開始以降で最大となり、非常に好調だと言えます。技術的には労働参加率が低いなどと指摘する向きもありますが、そこにはコロナと言う不確定要素もあり増加の多さは経済の強さを十分に反映していると見るべきでしょう。

 

  では「物価と雇用」がいずれもかなりのレベルなのに、何故金利がそれもFRBの操作できる短期ではなく、10年物に代表される長期金利が上昇しないのでしょうか。その答えは私の見るところいわゆる「カネ余り」です。

  コロナ禍の経済的打撃を回復するためFRBがジャブジャブに資金を供給していることもあり、各セクターが莫大な待機資金を抱えているからです。

  まず機関投資家が抱える待機資金を保有MMFで推定すると、3.2兆ドル=約360兆円あります。個人投資家は1.6兆ドル=180兆円。企業の流動資産は69兆ドル=790兆円。このうち企業の流動資産は設備投資などへの待機という面もあるため、すべてが自社株買いや債券投資に向かうわけではありませんが、それにしても巨額の待機資金です。

  これではギャンブル的株式投資は続くでしょうし、一方大きなリスクを取りたがらない向きの債券投資も、金利が上昇すれば投資してくるにちがいないと思われます。

  FRBの金融政策は買い入れを縮小するテーパリングどころか、これまでに買い入れた米国債などの売却=資産縮小すらありうるという姿勢に変化しつつあるため、市場への債券放出はあるでしょうが、買い入れ圧力は非常に高いものがあるのではないでしょうか。

  ちょっと古いのですがNY連銀によるおもしろい予測があるので参考までに紹介します。昨年5月のロイター電です。

引用

ニューヨーク連銀は5月24日、米連邦準備理事会(FRB)の継続的な資産買い入れにより、FRBのバランスシートが2022年末までに9兆ドルに拡大するとの予測を発表した。

民間銀行の準備預金は22年末までに6兆2000億ドルのピークを付ける可能性があり、その後は安定的に減少すると予想。NY連銀の市場チームによる年次報告書に予測が盛り込まれた。

償還国債および政府機関(エージェンシー)保証モーゲージ担保証券(MBS)の再投資を継続した場合、FRBの保有資産は25年まで同じ水準を維持する可能性があると指摘。「その後は、連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策のスタンスを正常化するのに伴い、保有資産についてどのような選択をするかで、道筋が決まる」とした。

月額1200億ドルの債券買い入れを21年末まで継続し、22年末までに緩やかに縮小させゼロに達するとの前提を置いて試算した。NY連銀による市場参加者とプライマリーディーラーの調査に基づき、将来的な資産買い入れと金利に関する前提を立てた。

フェデラルファンド(FF)金利の中央値は23年第3・四半期まで0.125%で推移したあと、26年末には2%強に上昇すると想定。長期的には2.25%に達するとした。

また10年債利回りは長期的に2.5%に、30年固定住宅ローン金利は4.1%に上昇するとした。

FRBが昨年、米経済や企業の資金調達を支援するために金利をゼロ近辺に引き下げ、緊急資金供給を相次ぎ打ち出し、毎月の資産買い入れ規模を増やしたため、バランスシートは膨れ上がった。

先週時点で保有資産は8兆ドル弱となり、2020年初め時点の約4兆1000億ドルから急拡大した。

報告書は、さまざまな状況を想定すると、FRBのバランスシートは2030年まで9兆ドル近くに維持されるか、6兆6000億ドルまで減少する可能性があるとの見通しを示した。

引用終わり

 

  現実はこの予想よりかなり早くテーパリングが完了し、利上げも行われると思われるのですが、それでも待機資金の多さから長期金利の上昇は緩慢なものにならざるを得ないだろうというのが私の見方です。

 

  以上ですが、回答になりましたでしょうか。

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FRBの豹変、アメリカ金利のゆくえ

2021年06月22日 | アメリカの金融市場

  先週のNY市場の株価は5日連続で下落し、最後の金曜日が533ドル安。一週間の下落幅は1,200ドルと結構な下げ幅だったのですが、その原因の一つは木曜日のFOMC(連銀の公開市場委員会)の結果、FRBがこれまでの緩和維持の政策を豹変させたことにあります。それはいままでFRB議長などが一言も触れなかったテーパリング(緩和縮小)について言及したことです。

 

  5月25日の投稿で私は「予測の神様のご託宣」という記事をアップしました。その内容は、金利予測で名を馳せたヘンリー・カウフマン氏が、「FRBは23年まで金利を上げないと言うが、もっとずっと早く利上げに踏み切るだろう。今年の年末から来年にかけてだ。テーパリングも今年後半には開始するだろう。」というものでした。このご託宣は今回のFRBの緩和策縮小の示唆開始により、見事的中したと言えるでしょう。もちろんFRB政策の本命は利上げですが、緩和縮小はその一歩とみなされ、翌日の株式相場がそれまでの下げに加えて大幅に下落したのです。

 

  私はバーナンキ現FRB議長のことを、「あつものに懲りてなますを吹いている」と批判しましたが、すくなくともこれでなますは吹かなくなったと思われます。

 

  では今後の利上げが神様のお告げ通りに今年の年末から来年にかけて行われたとしますと、はたして長期金利はどうなるでしょうか。

  ちょっと解説します。「FRBによる利上げ」とは短期金利、それも超短期の翌日物金利の利上げを指します。これはどの中央銀行も同じで、中銀はオーバーナイト金利と呼ばれる超短期金利はほぼ自由に操作できます。しかし短期でも3か月以上になると公開市場で債券を売買し金利を操作する必要があるため、債券需給に左右されて自由には動かせません。ましてや価格変動幅が大きくなる長期金利の代表である10年物金利となると、市場規模が大きいため実勢にまかせることになります。もちろんコロナショックやそれ以前のリーマンショックのような時は例外的に長期を含む債券を猛烈な勢いで買いまくり、金利を低下させることは例外的にあります。

 

  では今回のように逆に緩和措置を停止し、つまり市場からの債券買い上げを縮小しながらむしろ引き締める方向に転換する場合、長期金利までむりやり上げる市場操作をするでしょうしょうか。景気を急激に冷やしかねない長期金利の高め誘導はしません。市場実勢に任せるのが通常のやり方です。従って、たとえFRBが短期金利の利上げに踏み切ったとしても、長期金利への波及は大きくない場合もありえるのです。米国債に投資しようと待ち構える方にとって即朗報につながるとはかぎりません。

 

  現在アメリカの物価がかなり上昇しています。5月の総合物価指数は前年比5%という驚くべき数字で、食糧・エネルギーを除くコア指数でも3.8%という異常に高い伸び率でした。しかし長期金利は上昇していません。市場のアナリストは、前年の物価の異常な低さが今年の伸びにつながったもので、ベースのトレンドはさほど高くないと見ています。その見方が、物価高=金利高につながらない理由の一つになっていると思われます。今後物価が落ち着きを取り戻すと、長期金利は大きく上昇するのは難しいかもしれません。

 

  以上、FRBの豹変と長期金利の見通しでした。

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神様のご託宣、後日談

2021年05月29日 | アメリカの金融市場

  前回の投稿で1980年代初頭ソロモン・ブラザーズのアナリスト、カウフマンのご託宣が大当たりし、それまで金利が上昇一方であったのが、金利の下降トレンド入りした。それがいまだに収まらないと申し上げました。

  この場合の下降トレンドとは、40年レンジの非常に長いスパンのお話です。しかし実際には金利は日々上下し、時折大きなイベントがあると乱高下します。カウフマンは大きなトレンド変化を予測しただけでなく、短期的な上下もかなりの確度で言い当てていました。

 

  一方、当時投資銀行としてのソロモン・ブラザーズは最強のボンドハウスの名を欲しいままに、債券トレードで毎年莫大な利益を上げていたのです。そこに目を付けたSEC(証券取引委員会)は、ソロモン・ブラザーズの査察に着手しました。トレーダー連中がご託宣をあらかじめカウフマンから聞き出し、先回りして売買しているのではないかという疑いをもったのです。債券価格が上昇する予測が出る前に買っておき、ご託宣が出て市場参加者が買いの手を入れる時にはニッコリ笑って売り渡す。そうすればいくらでも儲かるので、あのような莫大な利益を上げているに違いないと目星をつけたのです。

  しかし査察が入って間もなく、ソロモンは無罪放免となりました。ソロモンのトレーダー達は、そんなすぐにバレるようなドジは踏んでいなっかたのです。ではどうして大儲けできたのか。その理由は、ご託宣に動かされウゾウムゾウの市場参加者が全員買いに回り価格が暴騰した時に、逆に空売りを仕掛けるという勝負をしていたのです。一日で非常に大きく買われると、その反動は必ずあると踏んで、ウゾウムゾウとは逆のトレードをして儲けていたのです。

  逆も真なり。金利が上がるというご託宣が出ると、みんなが債券を売りに回る。そこで底値を拾い、反動でみんなが買う頃に売りに回る。株式でもそうですが、暴騰や暴落の翌日などは反動が出ます。反動の値動きが小さくとも繰り返すことでチリも積もれば山となる。

  売買のヒストリーはトレーダー一人一人の記録が詳細に残されていますので無実が証明され、あっと言う間に無罪放免となりました。しかしそうした手口が知れ渡ると次々に真似る証券会社が出てきて、利益率も落ちてしまいました。その次に出てきたのがアービトラージ=裁定取引という手法です。

  単純な売り買いでは得もすれば損もする。丁半バクチのような原始的手法では大きな損失を被る危険性もあります。その点、裁定取引では市場全体の動きには中立のポジションを取るため、大暴落したからといってたいして損もしなければ得もしません。その原理を簡単な例で説明します。

 

  今のNY株式市場を例にとります。ここ10年程度、代表的銘柄30種で構成されるNYダウ平均株価に比べると、ナスダック市場はかなり株価の値上がり率は高く推移しています。今後もそのトレンドが続くであろうと見込んだ場合、ナスダックを100単位買い、ダウは同じ100単位空売りします。

  その両建てのポジションを取る意味は、例えば今回の突然のコロナ禍の暴落があっても、したたかに生き残ろうという戦略です。もし2020年年初にそのポジションをとったとします。するとそのわずか3か月後突然のコロナ禍により、株式市場全体は3割もの大暴落に見舞われました。しかし両建てにしていたためその時の損得はダウの33%下落に対してナスダックは25%でした。すると空売りしていたダウでは33%の利益。買っていたナスダックでは25%の損。その差8%が儲けとして残ります。もしどちらかを買いだけで保有しているとダウ だと33%、ナスダックだと25%損してしまいます。売りと買いを両建てにするのはこうした暴落への備えになります。

  ではそのポジションを21年の5月末現在まで保持しているとどうだったでしょうか。空売りしているダウ は20%値上がりしてしまったので、その分が損失になります。一方買い持ちのナスダックは52%値上がりしていますので、その差は32%と、大きく儲かります。52%まるまる得はしませんでしたが、暴落時にもヘッジされていたため、ニッコリ笑ってやり過ごすことができたはずです。

  これはたまたま成長著しいナスダックとまあまあの成長であるNYダウをヘッジに利用した成功例です。もし今後も何年か同じような傾向が続くと見れば、この戦略は続ける価値があるかもしれません。

  しかしナスダックの高成長もそろそろだと考えるのであれば、逆のポジションを取りましょう。つまりナスダックを空売りして、同額のダウを買うのです。そうすれば今後の株式市場全体の暴落には備えられますし、うまくいけば行き過ぎたナスダックの空売りで儲かるかもしれません。

  しかし今後もナスダックの成長が著しいと、両者の乖離が縮小せず逆に拡大の一途をたどり、股裂きに合うかもしれません(笑)。

 

  ソロモンでは80年代後半から90年代にかけて高度な数学的解析手法を使い様々な裁定取引を行い、莫大な利益をあげていました。90年に入社した私も、日本市場ですら裁定取引部隊の儲けぶりには本当に驚かされました。

  ところが好事魔多し。91年に債券トレーダーの一人がアメリカ国債の新発債発行額の9割方を買い占めるという違法行為をして、債券取引や裁定取引のヘッドが全員クビになりました。新発債を毎度ソロモンが力任せに買い占めるのはけしからんとして、3割までにしろというルールができていたのです。その名もソロモンルールと呼ばれていました。

  そこでクビになったトレーディング部隊の何名かが自分たちの実績を背景に、94年にLTCMというヘッジファンドを組成して資金を集めました。そのグループにはノーベル経済学賞を取った研究者まで参加したためドリームチームと呼ばれ、なんと初手から1千億円を超えるカネを集めました。最初の3年間は毎年数十%にものぼる利益を出しましたが、97年からのアジア危機で股裂きに合い、数千億円の損失を出し解散したのです。先ほどの例でたとえれば、ナスダックもいずれ崩れるに違いないと踏んで空売りしたのですが、ヘッジ用に買ったダウとの差は開く一方で、股裂きに合ったというような具合です。しかもその損失処理額が大規模な裁定ポジションを取っていたため莫大で、なんとFRBが出動するまでにいたりました。こうして裁定取引も舞台の主役から降りることになったのです。

 

  奢れる者久しからず。儲け過ぎるといずれは破綻が待っています。LTCMしかり、その後のリーマン・ブラザーズしかり。今後のナスダック市場についても複数の識者から、「いにしえの南海泡沫事件やオランダのチューリップ投機並みだ」と言われるほどになっていますので、要注意です。

 

  おのおの方、決して油断召されるな!

 

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