中国の株式相場について私は「損したヤツが騒ぎ、得したヤツは黙ってほくそ笑んでいるので、全体を見渡せば大した問題ではない」と申し上げました。しかしこのことはあくまで株式相場の暴落について述べただけで、中国経済全体が問題ないわけでは決してありません。
去年の春ころに何度かに渡って中国リスクについて述べています。特に不動産問題や地方でバブルとして膨らんでいた理財商品の問題を取り上げました。そしてバブルが崩壊した場合のインパクトを、日本やリーマンショックと比較しています。
引用
1. 日本のバブルとの比較・・・その1
一人当たりGDPでは中国はまだ日本の5分の1しかないため、長い目で見た衝撃の吸収力は中国のほうがある。
2.世界の実態経済への影響度
世界の工場と言われる工場の具体的立地はほとんどが沿海地域で、(理財商品などで)バブっている地方都市とは離れているので影響は大きくない
3.世界の金融市場への影響度、日本との比較・・・その2
海外から中国市場への投資はすべてが制限されているので、世界が損をかぶることは少ない。中国の大金持は政治的崩壊リスクと経済バブル崩壊のリスクヘッジをすでに十分進めている。
4.中国バブル崩壊の心理的効果・・・リーマンショックとの比較
リーマン前夜は日本を含め、世界の大部分がアメリカの好景気の恩恵を受けバブル状態にあり、世界中で株・不動産が沸き立っていたため、ショックの伝搬力が強かったが、中国の場合はそうした世界的バブルの気配はないため、激震の震度は弱い。
以上のように、中国バブルの崩壊が金融市場と実体経済に与える影響は瞬間的には大きくとも、リーマンショックほど全世界に甚大な影響を与えるほどではないと予想しています。ただし、政治体制の崩壊が同時に来ると、混乱は大きくなり長引きます。
引用終わり
こうした見方は現在も変わっていません。このところ中国政府は株式市場の混乱を抑えようと躍起になって介入をしています。私は先日、介入の仕方がしょせん資本主義を理解していない共産党の稚拙なやり方だと批判しました。何故株式市場にこれほど必死に介入するのか。それはまさしく引用した昨年の文章の最後の部分、「政治体制の崩壊が同時に来ると、混乱は大きくなり長引きます。」これを防ごうとしているためです。
「中国の実態経済は、政府発表の数字とは違う」ということがたびたび言われます。私も懐疑的に見ていますが、そればかりは決定的証拠があるわけでもないため、確証には至っていません。
例えば「新常態」というスローガンを掲げ、成長率を7%くらいに設定して、このところのGDP成長率発表数値は毎期ほとんどその通りのぴったり7%くらいで動いています。それってかなり怪しいですよね。よく言われるのは電力消費量と貨物輸送量の発表数値との乖離です。
以下ではそれについての石・平(せき・へい)という日本に住む中国人の批評家で中国問題に詳しい方のコメントを引用します。
『2013年、中国政府公表の成長率は7.7%であったが、それに対して、関係部門が発表した13年の全国の電力消費量の伸び率は同じ7%台 の7.5%であった。しかし2014年、中国全国の電力消費量の伸び率は13年の半分程度の3.8%に落ちていることが判明している。だとすれば、14年 の経済成長率が依然として7%台とは疑問を抱かざるを得ない。
2014年の中国経済の減速が政府発表以上に深刻であることを示すもう一つの数字がある。中国交通運輸省の発表によると、2014年1月から11 月までの中国国内の鉄道貨物運送量は前年同期と比べると3.2%も減っていることが分かった。生産材や原材料の多くを鉄道による輸送に頼っている鉄道大国の中国で、鉄道の貨物運送量が前年比で3.2%減ということは、中国全体の経済活動がかなり冷え込んでいることを物語っている。』
引用終わり
石平氏は中国生まれで北京大学を卒業し、神戸大学で博士号をとっている人で、中国にはかなり批判的な人です。日本と中国両方の事情に通じている人はあまり多くありません。私はもう一人中国人でやはり日本にいて中国問題を専門にしているSMBC日興のエコノミスト肖敏捷氏の発言も常に注目しています。肖氏も中国の実態経済を分析する場合、同じ様な指標を使うことがあります。
ある程度信頼に足るという意味では、HSBC(イギリス系の香港上海銀行)が元々発表していた製造業のPMIなども信頼性は高いと思われます。HSBCのPMI(製造業購買担当者景気指数)はHSBCが発表する景気指数の一つで、数値が50を越えて上がると企業が先行きを強気に見ているとされます。最近はHSBCがこの業務から撤退し、中国の財新というところが受け継いでいるのが残念です。この購買指数は国家の統計局も発表していますが、HSBCはどちらかといえば中小企業が多く、国家統計局は大企業が多いと言われ、常に一定の乖離があります。
HSBCの数値でいうと今年に入って2月だけが50を上回りましたが、あとは49台と50を下回る状態が続いています。そして財新になっての直近の7月の数値は48.2とかなりショックな数値でした。それに対して国家統計局の数値はだいたい50を常に上回り、直近の6月分は50.2でした。
つづく