ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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中国国内に変化の兆し

2020年02月20日 | 中国の恐ろしさ

  コロナウィルスの大流行で混乱する中国国内ですが、さすがに異変が起こっています。昨年12月の段階で最初にウィルスの存在を指摘した李分亮医師を懲戒処分としました。その処分や初期の政府による隠ぺい工作を大っぴらに指弾したり、指導部の体質を非難するネット上の書き込みなどが拡がっているのです。共産党による一党独裁に輪をかける習近平という終身独裁者による言論統制が、一時的にせよ国民の非難の的になり、世界の知るところにまで達するのは大きな変化と言えます。はたしてそのうねりは今後中国を変えていくことにつながるのか、それを見通してみたいと思います。

  一方、中国国内で一貫して言論統制を非難してきた元弁護士で市民ジャーナリストの一人、陳秋実氏が姿を消しました。彼は香港の反中デモが激しかった最中も、現場を取材し多くの情報をもたらしました。彼やその他のジャーナリストの行方不明や言論弾圧の様子を2月8日にブルームバーグが報じていますので、まずそれを見てみましょう

引用

中国人市民ジャーナリストの陳秋実氏と方斌氏は、新型コロナウイルス流行の震源地である武漢から現地がどれほどひどいありさまかを、スマートフォンで撮影した動画を使って世界に発信してきた。動画の多くはツイッターに投稿され、ユーチューブにも転載されている。

  このうち1人が行方不明となっている。陳氏は20時間以上、連絡が取れない状態だ。(林の注;彼は病気ではないのに当局により隔離されていることが確認されている。)

病院で遺体を撮影し当局に短時間拘束されたことがある方氏も7日、音信が途絶えたが、同日夕刻になって動画を投稿した。方氏を連行するため防護服を着た人々がアパートに押し入ってきた衝撃的な映像を同氏が撮影した際には、同氏の解放を当局に求める多数のコメントが集まった。

これらの投稿が米企業のプラットフォームで広がっているのは、偶然ではない。中国当局はインターネット上の取り締まりを強化しており、5日には微博(ウェイボ)やテンセントの微信(ウィーチャット)、バイトダンス(字節跳動)の抖音(ドウイン)など、中国最大級のソーシャルメディア・プラットフォームは厳重に制限すると発表した。すでに当局は多数のソーシャルメディアアカウントを凍結し、新型ウイルス流行を早くから警告した医師の死去を巡り当局に向けられる怒りの声を抑え込もうと躍起だ。

こうした中で、ウィルス感染の拡大状況に関する情報を求める中国の市民はツイッターに向かっている。ツイッターは中国で公式には禁止されているが、多くの人は当局のブロックをかいくぐり仮想プライベートネットワーク(VPN)経由でアクセスしている。

ヒューマン・ライツ・ウオッチの中国担当上級研究員マヤ・ワン氏は「ウェイボやウィーチャットと比べ、ツイッター上の活動ははるかに活発だ」と指摘。ツイッターは情報収集や、多くの人々が自らのひどい経験を記録する最後のとりでとなりつつある。

微信・ウィーチャットでは今週から、ウイルス流行に関する問題をチャットしたグループの参加者がアカウントを凍結され、ウィーチャットに登録した連絡先や電子マネーにアクセスできなくなった。

引用終わり

 

  こうした言論弾圧に対する反対運動は、共産党と習近平には最大の脅威ととらえられていますが、ツイッターへのアクセスまでが制限されると、真実はますます闇の中に葬り去られる危険があります。

  では一体この先中国はどうなるのでしょう。共産党独裁は続くのか、徐々に崩壊していくのか。私の大胆な予想を申し上げます。「習近平の時代に体制崩壊はない」、というのが私の見立てです。理由を紐解いていきます。

  まず大きな目で見てみましょう。世界を俯瞰する時、いわゆる民主主義勢力の代表選手がアメリカで、それを欧州や日本がサポートし、その他の地域の民主主義勢力が追随するというのが従来の構造でした。ところが最近はまず盟主であるアメリカがトランプの登場で一気にその動きに背を向けてしまいました。そして一時民主化の嵐が吹きまくったアラブも東欧諸国も、かつて東欧の盟主であったロシアも全員がそっぽを向いています。アメリカは香港問題でも一国二制度をしっかりとサポートする様子を見せていません。発展途上国でも民主化を推進していた国々が経済的に行き詰ると独裁者に席を譲るようなっています。

  かつてBRICSとしてもてはやされたブラジル、ロシア、インドなどがいずれも独裁方向へ舵を切りつつあり、経済的発展が民主化を要求するという従来の図式が完全に崩れ、逆向きに作用するようになってしまいました。

  では中国の国内事情はどうか。時間はさかのぼりますが、香港デモの問題でみなさんに紹介したNHKBSのドキュメンタリー番組「激動の世界を行く」では、その問題を取り上げたことがあります。その時の報道キャスターも香港の時と同じ鎌倉千秋キャスターでした。半年以上前になると思いますので、細かな記憶はないのですが、もっとも記憶に残っているのは、今の共産党独裁政権をどう思っているかについて、彼女が何人かにインタビューした答えです。それらは以下のようなものでした。

 

「もちろん独裁はいやだ。でも反抗はできない。やっても無駄だし、捕まるだけ損なのでしない」というあきらめの回答でした。

 

  多くの若者がこう考えているのが中国の実態なのでしょう。天安門の直接の記憶がない若者でもその事実は知っているし、天安門事件の海外報道がテレビで映り始めるとすぐブラックアウトするので、民主化運動とはヤバイ問題だということはよくわかっています。そしてインターネット経由の情報もほぼ完全にコントロールされていて、天安門を暗号めいた言葉で伝えようという試みも、ことごとくキャッチされ削除されています。それが日常化していることがあきらめの原因です。きっと今回の新型ウィルス問題を最初に指摘した医師が死に、武漢の実態報道を試みたジャーナリストが行方不明になることなどを見ていれば、誰もが口をつぐむでしょう。

  新型ウィルス問題も香港問題も習近平の強権でいずれ黙らされるに違いありません。

  こうしたネットの検閲も一昔前は人海戦術で行われていました。だいぶ以前に私は記事で、「第五の権力 グーグルには見えている未来」という本の紹介をしました。その本の中で中国内部のネット情報のコントロールがどのように行われているかが書かれていました。私の記憶では検閲を数十万人が人海戦術で常時行っていて、少しでも反政府的情報があれば即座に削除していると書いてありました。しかし今はきっとAIによる検閲が行われていて、もっと簡単かつ即時、そして有効な形で削除が行われていることでしょう。すべての反対運動は天安門に集まる前に潰されます。

ウィグル族は100万人程度が拘束されていると言われていますが、漢民族であれば数千万人でも拘束し収容してしまうのが中国共産党です。

 

  ですので、「習近平の時代に体制崩壊はない」のです。

 

  では中国や香港の若者はどうしたらよいのか。今できる唯一の道は海外への逃避です。最近の中国は若者が海外留学することを認めているし、海外旅行もひどく制限的だった過去から比べかなり自由化されています。もちろん海外旅行者が帰ってこない場合、家族や一族郎党への嫌がらせ、仕返しはあるでしょう。

  最近のニュースですが、香港では海外脱出のためのビザに申請に必要な「無犯罪証明書」の発行数が前年対比で2倍になっているそうです。かつて香港返還時に見られた香港脱出がふたたび起こっているのです。

 

  さてここまでNHKBSのドキュメンタリー番組の情報を中心に、天安門事件の真相からはじまり、香港の区議会選挙、台湾の総統選挙などについて書いてきました。中国共産党の独裁のひどさは、漏れ伝わるより現地取材によるほうが、よほどひどい実態を映し出すものだと思いました。

  残念ですが、中国国内の変化の兆しは摘み取られる運命にありそうです。

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中国のおそろしさ2

2020年02月13日 | 中国問題

  前回の記事で私は中国おそろしさを「一帯一路」に名を借りた領土拡張戦略としてとらえました。もともと南沙諸島の一方的領有などあからさまな領土拡張もあればこうしたインフラ支援を装った密かな侵略もあります。

  今回は私の感じている最も恐ろしい中国について解説したいと思います。それは技術革新力です。5Gで世界の通信インフラを席巻しつつあるファーウェイが象徴しています。ファーウェイはアメリカでは徹底的に排除されていますが、その他の国では受け入れられていています。代表的には最近受け入れを表明したイギリスですが、ロシアや北欧、その他のEU諸国でもほとんどの国が受け入れを表明もしくは検討しています。世界で表立って排除しているのはアメリカ、日本、オーストラリアくらいなのです。技術的にすぐれていてコストが安ければ競争力があるのは当然です。日経によるとファーウェイの基地局の世界シェアーは34%、同じ中国のZTEが18%を占め、両者が半分以上のシェアーを占めています。その他はサムスン21%、エリクソン15%、ノキア9%。これがファーウェイを検討中の国々が加わるとシェアーは1社で5割を超える可能性があり、世界のデファクト・スタンダードになる可能性は大きいのです。

  それが何故脅威なのか。昨日2月12日のウォールストリートジャーナルによれば、「米当局者によると、中国の華為技術(ファーウェイ)が法執行当局による使用を前提にした「バックドア」を利用し、世界中の携帯電話ネットワークにひそかにアクセスすることが可能になっているという。米政府は友好国に対し、同社製の機器をネットワーク上で使用しないよう呼びかけている。」

   これはアメリカ政府の一方的宣言ではありますが、通信機器によりこうしたことが可能になるという警鐘で、エチオピアではそれが実行されていました。

 

  さらに他の先端技術では中国の優位がより鮮明になってきました。ちょうど昨日2月12日の日経朝刊は1面トップで先端10分野での国別特許出願数を取り上げています。先端技術とは以下のような技術ですが10分野の内なんと9分野ですでに中国がトップなのです。 

・AI  

・量子コンピューター  

・再生医療  

・自動運転  

・ブロックチェーン  

・サイバーセキュリティ  

・仮想現実 

・ドローン  

・伝導性高分子 

・リチウムイオン電池

 

  おいおい、先端技術ほぼ全部じゃないか。

そうなんですよ。ちなみに2位はアメリカが7分野、日本が2分野となっていて、後塵を拝しています。同じ統計の2005年版ではアメリカと日本が1位2位の大半を占めていましたので、様変わりなのです。特許出願数は今後の先端技術製品シェアーの先取りと言ってよいでしょう。

  中国による技術革新は何故問題なのか。今後それらの技術は当然軍事用に応用され、中国共産党による国内支配に加えて世界支配の礎になるからです。特に恐ろしいのはAIや情報通信などの分野です。昨年5月に私はブログで「国家情報法」のニュースを引用しましたが、再度掲載しますので、とくとご覧ください。

17年6月の日経新聞ニュースです。

 引用

中国で28日、国家の安全強化のため、国内外の「情報工作活動」に法的根拠を与える「国家情報法」が施行された。国家主権の維持や領土保全などのため、国内外の組織や個人などを対象に情報収集を強める狙いとみられる。効率的な国家情報体制の整備を目的に掲げ「いかなる組織及び個人も、国の情報活動に協力する義務を有する」(第7条)と明記する。

習近平指導部は反スパイ法やインターネット安全法などを次々に制定し、「法治」の名の下で統制を強めている。だが、権限や法律の文言などがあいまいで、中国国内外の人権団体などから懸念の声が出ている。国家情報法は工作員に条件付きで「立ち入り制限区域や場所」に入ることなどを認めたほか、組織や市民にも「必要な協力」を義務付けた。

引用終わり

 

  これに従えば、例えばファーウェイが設置する世界中の通信設備を通過する情報を、「今日からすべて国に提供しろ」と言えば、ファーウェイは従わざるをえません。義務なのですから。

  みなさんもよくニュースで見ると思いますが、政府自身も国内に監視カメラを設置。その台数は昨年の2月のブルームバーグのニュースですでに2億台に達しているとのこと。そのネットワークは「天網」と呼ばれ、すでに稼働中です。画像はAIによって解析され、すべての個人の行動はくまなく見張られています。その能力は例えば渋谷のスクランブル交差点を1度にわたる1千人を数十台で写し出せば、瞬時にすべての個人を識別できます。こいつは国家転覆を企んでいると個人を特定すれば行動のすべてを四六時中監視しているので、スクランブル交差点の真ん中で逮捕することすら可能です。その個人の通信内容もすべて通信インフラによって把握されているため、瞬時に証拠を突き付けられて逮捕され投獄される体制が整っているのです。それらは天網が単なるネットワークではなく、AIにより高度な解析能力を持っているからです。

 

  そうした「特定」をもし人海戦術でやろうとすると百万人単位の人海戦術になりますが、AIなら人手はかからず24時間稼働可能です。

   先にリストされた10の先端分野すべてで中国がリードする世界になれば、どれほど恐ろしいことになるのか、私には見当もつきません。しかし実際にその世界が時々刻々と近づき始めていることを我々は認識すべきなのです。

 

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中国の恐ろしさ

2020年02月10日 | 中国の恐ろしさ

   新型コロナウィルスの拡散が止まりません。専門家の意見はけっこう割れていますね。インフルエンザを例にとり「感染者数や死亡者数は大したことない」という意見と、「まだわからないウィルスのため、用心はおこたりなく」という意見です。

  我々はどちらの意見を信ずるべきでしょう。こんな場合私は当然安全性の高い選択肢を選びます。「君子危うきに近寄らず」。手洗いを励行し人混みは避け、やむおえない場合はマスクをする。と書くと神経質そうですが、実はそうでもなく、適当にずぼらで手抜きです(笑)。

  今回の中国の対応ですが、初期対応はいつもの「隠ぺい」でした。それどころかもっとひどい「情報のもみ消しでした」。その証拠に最初に危険性を指摘した中国の医師を、「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」と警告し、もうしませんの誓約書を書かせました。今月のBBCニュースを引用します。

引用

中国・湖北省武漢から発生した新型コロナウィルスをめぐり、アウトブレイク(大流行)の可能性についていち早く警鐘を鳴らしていた医師が、7日未明に死亡した。入院先の病院が公表した。医師は先月、新型ウイルスに感染し治療を受けていた。

李医師は昨年12月、2003年の世界的エピデミック(伝染病)を引き起こしたSARSに似た、とあるウィルスによる7つの症例に気が付いた。

12月30日、李医師はチャットグループに入っている同僚の複数医師に対し、アウトブレイクが起きていると警告するメッセージを送信。防護服を着用して感染を防ぐようアドバイスした。しかしその後、警察から「虚偽の発言」をやめるよう指示された。それから4日後、中国公安省の職員が李医師を訪ね、書簡に署名するよう求めた。その書簡は、李医師を「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」として告発する内容だった。

引用終わり

  こうした強引なもみ消し工作がなければ、ここまでひどい拡散は防げたかもしれません。

  そしてもうひとつ指摘しなくてはならないことは、WHO世界保健機構の中国寄り政策です。WHOは1月30日に緊急事態を世界に宣言しましたが、その1週間前の緊急ミーティングでは宣言を見送り、その間に感染者数は10倍になってしまいました。その後もWHOの事務局長は、中国はよくやっていると繰り返しています。

  現在のWHOの事務局長テドロス氏はエチオピア出身ですが、エチオピアは一帯一路を掲げる中国に篭絡された国になっています。それが今回の対策の遅れを招いた可能性があります。

  私は昨年5月にファーウェイの危険性を指摘した投稿で、エチオピアの首都に置かれているOAUアフリカ統一機構のシステムから、機密情報が中国本土に流れていて、そのシステムがファーウェイ製品だということを書いています。ファーウェイの危険性を明らかにした証拠です。中国によるアフリカ篭絡の実態は次の18年11月のAFP通信の記事をご覧ください。

引用

中国の投資先の1位はナイジェリアで492億ドル(約5兆5500億円)、2位がアンゴラの245億ドル(約2兆7600億円)、3位がエチオピアで236億ドル(約2兆6600億円)だった。事業別では、道路、鉄道、橋などの交通インフラとエネルギー関連がそれぞれ全体の3分の1を占め、鉱業がそれに続いた。

 中国の投資は現在、アフリカの債務全体の約5分の1を占めており、国際通貨基金(IMF)などは、アフリカ諸国の返済能力に懸念を示している。

引用終わり

  これがエチオピアが中国に対しモノが言えなくなった理由です。

  では返済できないとどうなるか。そのよい例がスリランカです。スリランカはやはり一帯一路に組み込まれ、甘い言葉に乗せられて投資を受け入れたのですが、予定通りの返済ができず、そのカタに港湾施設を乗っ取られてしまいました。18年5月の産経ニュースを引用します。

引用

スリランカ国営企業と中国国有企業は昨年7月、スリランカ側が中国側に港の管理会社の株式の70%を99年間譲渡することで合意した。11億2千万ドル(約1240億円)の取引の合意文書に調印し港は先月、中国側に渡っていた。

 そもそも、港は親中派のラジャパクサ前政権時代に着工されたが、約13億ドルとされる建設費の大半は中国からの融資だ。しかし、最高6.3%にも上る高金利は財政が苦しいスリランカにとって「悪夢」とされ、リースの形で中国に引き渡されることとなった。

引用終わり

  一帯一路によるインフラ整備はまことに結構なのですが、甘い罠はアジアからアフリカの途上国全体に広がり、高金利で搾り取られただけでなく工事中は技術者派遣の名のもとに非熟練労働者もしっかり輸出し、甘い汁を吸っています。もともと返済能力のないインフラへの投資は、最後は中国に乗っ取られる運命にあります。

  この結果、中国の国土は実質植民地を加えて拡大の一途をたどっています。我々はWHOも中国に篭絡され汚染されていることを念頭に置き、今後は新型コロナウィルスに対し、早め早めの対策を取るべきだと思います。

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ぽんきちさんのマンション建て替えに向けての投資について

2020年02月06日 | 米国債を利用した運用、応用編

  ぽんきちさんからコメント欄にご質問をいただいた件への回答です。驚くほど大きな投資金額ですので、安全第一のアドバイスになっています。

  ぽんきちさんの状況説明は2つのコメントになっていますが、読みやすいように一つにまとめさせていただきました。

ぽんきちさんの質問と状況説明

【質問】
・マンションの建替時期を諸般の事情により、2037年から2031年に前倒しすることにしました。11年後の建築単価、消費税率など変数が多いですが、投資額(税込、撤去費用を含む)は、5億から5.5億。自己資金は3億から3.5億と見込んでいます。
・今後投資する米国債の償還期限も、それに合わせて早める必要がございます。
・ブレークイーブンポイントは、ざっと計算すると、95円前後。
・これまでは、円から直接米国債を購入していましたが、108円前半ぐらいのレベルからドルを定期的に購入し、その後米国債の金利が上昇したタイミングで、ドルを米国債に変えようと考えています。
・以前よりもブレークイーブンポイントがあがった為、米国債投資の割合を下げ、その分他の投資を考えましたが良い案がないため、『バッターボックスに立たない』戦略
でいこうと考えています。
・先生のご意見をいただければ、幸いです。

 

  いただいた以上の情報をもとにコメントを差し上げます。

  自宅以外の不動産投資について私はあまり賛成しません。特に最近のアパート経営などは行き過ぎの警戒警報が出ていると思っています。しかしぽんきちさんのケースは別です。相続を受けた不動産が収益資産であればキャッシュフローをエンジョイし、当然その後の相続もスムーズに行うべきだと思います。

  ぽんきちさんは以前から熱心に勉強されていましたね。ドルの為替レートと金利レベルをもとにブレークイーブンの為替レートも計算されていて、とてもしっかりとされていると思います。

  さて、2031年といいますと、今から11年後です。そこに合わせた投資をお考えとのことですが、108円くらいからドルを定期的に購入し、金利が上昇したタイミングで償還を31年に合わせて米国債に投資とのこと。

 

  では大事なアドバイスを差し上げます。最も重要なアドバイスは、

  「償還を一時期にするのは危険だ」

ということです。「そんなこと言われても資金ニーズがそこにあるからしたかない」という反応が返ってきそうですが、どうぞゆっくりと以下のアドバイスを確認してみてください。危険の理由をたとえで解説するなら、「31年時点のドル為替投機に近い」からです。

  31年に資金需要が必ずある、そして絶対に円に換金するという場合、その資金を投資対象資産の一時売却でまかなうことは危険です。ぽんきちさんの投資対象が仮に一般投資家のように株式だとしましょう。相場がその時どうなるかわからないので、きっと株式投資ならしませんよね。

  たまたまぽんきちさんの投資対象が米国債と言う安全資産に限定されていて、償還日に償還金額が確定しているから、相対的安全資産と考え投資をされようとしています。でも為替変動のリスクは大きいため投資期間中常にブレークイーブンポイントを意識せざるを得ないと思います。もし31年が接近してきた時点で為替レートがブレークイーブンを下回ってきたらどうでしょう。気が気じゃなくて夜も寝られないかもしれませんよ。

  少なくともこのブログのテーマであり私の主張である「ストレスフリーの資産運用からは程遠い投資だ」ということになります。

  それでもバッターボックスに立った以上、何回かスイングはしたい、ファールでもしょうがない、というのであればそれを止めることまではしません。その場合のアイデアは後ほど。金利が低いとはいえブレークイーブンポイントは100円を切っているのですから。ちなみにみなさんのためにその計算を示します。単純化のため投資期間は10年とします。

  現在の10年債金利は1.6%程度で、このレベルで10年債に投資すると、ブレークイーブンの為替レートは単利で計算すると以下のようになります。

1.6% X 10 年=16%・・・100円に対して累計16円の金利を得られる

 そこでブレークイーブンは、

108円-16円=92円・・・ここまで円高になっても金利分で相殺されるから、ブレークイーブンだ、ということです。

     これに累積金利16円の源泉分を考慮すると3円程度引かれるので、16円引く3円は13円。

       103円-13円=95円

  ブレークイーブンはぽんきちさんの書かれている95円程度になります。特に複利の運用が可能なゼロクーポン債ですと10年でも単利とは違いが出ますので、厳密には証券会社の外債投資のサイトにある計算結果を参照してください。円の金利がゼロと仮定すれば、為替レートが95円以下にならない場合にはという限定付きですが、米国債投資に一応勝機はあります。

 

<大胆なアドバイス>

  では、ストレスを感じながらもボールを打ちたいということであれば、以下のような手もあります。大胆な提案ですので、頭の体操用に見てください。

  前提条件は資金のほとんどをローンでまかなうのが可能なことです。

  かつローンの金利が少なくともドルの長期金利より低いことがよりベターな条件です。この場合、長期とは31年償還の11年ではなく、超長期の30年物、つまり償還は2050年を想定しましょう。

  さきほどのブレークイーブンポイントの単純計算を30年物でやってみると、

108円―(2.1% X 30年)=108円―63円=45円

  累計金利が63円分にもなるのでブレークイーブンは45円になり、世界はかなり変わって見えますよね。これは長期であるため掛け算が30倍になることと、そもそもの超長期金利が高いことによります。

  2031年の建て替え資金ニーズにかかわらず超長期物に投資をするのです。そしてたまたま31年に為替レートや債券相場がかなり有利、つまり途中の売却で相当な利益が出る、あるいは損はしないのであれば売却してローンを早期返済します。もしその時点でたまたまのラッキーがなければローンをそのまま継続します。そして将来の大きなキャピタルゲインを狙いましょう。ドルの元本はこんなに金利が低い2.1%でも1.9倍程度になります。なにより30年の間に日本財政の破綻やインフレが来た時には保険の役割が果たせることになります。

 

  ぽんきちさんとしては上記のアドバイスを元に、どの程度までローンを借りられるか、どの程度までの長期債投資をするか、またローンと自己資金の割合や売却タイミングなどはご自分の将来設計に沿って考え、結論を出していただきたいと思います。できればみなさんの参考のために、およその方針が決まったら教えてください。

  以上が私からのアドバイスです。さらにご質問があれば遠慮なくどうぞ。

 

  これに近いアドバイスやシミュレーションについては、次回の著書でも書いてありますので、みなさんも参考にしてみてください。自分年金の作り方に特に多くのページを割いています。

 

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