ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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トランプ劇場の一週間

2017年07月29日 | トランプのアメリカ

  連日なんとも目ざましい首切り戦果を上げているトランプちゃん、先週遂にあの報道官スパイサーを首にし、今週はプリーバス首席補佐官を首にしました。

  スパイサーはCNNやNYタイムズに食ってかかり、気に入らない報道各社を記者会見場に出入り禁止にした札付きの報道官です。このところはトランプちゃんとうまくいっていないため、あまり顔を見せませんでした。かわりに毎日こわもての女性報道官が出ていると思っていたら、あっさり辞めてしまいました。

  理由は先週ホワイトハウスの広報部長に就任したスカラムッチが気に食わないからとのこと。しかしあの苦虫をかみつぶした顔のスパイサーがいなくなったと思ったら、新報道官はもっととんでもないカミツキガメだったとは、なかなかの演出ですね、トランプちゃん(笑)。


  では、トランプ劇場の今週一週間を振り返ります。以下は金曜日のCNNニュースを要約しています。

月曜日;司法長官セッションズに対してツイッターで、「あいつは何でオレ様を擁護しようとしないのか。オレ様を擁護しないとわかっていたら、司法長官になんかしなかった」と怒りまくった。といってもこれはこのところロシア問題が深みにはまったままなので、毎日同じ八つ当たりをしています。司法の独立という民主主義の基本原理も知らない、かわいい大統領トランプちゃんです。

その後全米ボーイスカウトジャンボリー(年次集会)に出席し、スピーチはひんしゅくものでした。彼は「ボーイスカウトの前で政治の話なんかする奴は地獄へ行け」、と放送禁止用語を使いながら、自分のスピーチは他人への攻撃と自己弁護の政治一色だった。そのためボーイスカウト連盟の主催者は3日後、「ジャンボリーに政治論争を持ち込み、申し訳ない。大統領からスピーチで非難された人々に謝罪する」とわざわざ大統領府になり代わって謝罪。おやまあ、お気の毒に。

火曜日;ふたたび司法長官を名指しで「なんでヒラリーの犯罪をもっとあばかないのか」と不満をぶちまけた。はたして司法長官が「もう辞めた」というのが先か、トランプが「首だ」というのが先か、どっちが早いでしょう。

水曜日「アメリカ軍から、性転換をした者を締め出す」という決定を下した。この差別政策には民主党ばかりでなく、与党共和党からも重鎮を含め多くの反対の声が上がっている。

木曜日;カミツキガメ新広報官はインタビューでプリーバス首席補佐官を「妄想障がい者」と罵倒し、さっそく本性を現した。さらに「ホワイトハウスで情報をリークするやつはすべて首にする」と宣言。その後首席補佐官プリーバス氏はトランプちゃんに辞表を提出した。

さらにレックス・ティラーソン国務長官解任のうわさが出て、本人はインタビューで否定したが、すでに名前のレックスをもじってREXITという用語も用意されている。

ティラーソンは、極めつけの過激派首席戦略官バノンと喧嘩しているとうわさされ、どっちが辞めるかになっている。そしてもう一人、国家安全保障補佐官のマクマスターがホワイトハウス内で孤立し、解任のうわさが出た。

魔の金曜日;ついにオバマケアを廃止する代替案が否決された。何もできないトランプちゃんに決定的ハードパンチが浴びせられ、彼のいら立ちは頂点に達し、やぶれかぶれで首席補佐官プリーバスを辞めさせた。首席補佐官とは日本で言えば官房長官。安倍首相が支持率低下で官房長官をなぶり、辞めさせたに匹敵する。

そしてCNNはこう結んでいます。

「就任以来最悪の一週間が終わった。事実は小説より奇なり」  

  まったくもってその通りの一週間でした。

 

  政権の今後について付け加えます。

  共和党の議会指導部がとても重要な決定をしています。それはあれだけトランプが言っていた「国境調整税」を見送るという決定です。国境調整税は法人税率の低い国からの輸入に税を上乗せし、10年で110兆円も稼ごうという政策で、それをもってしてトランプ大型減税の財源にするはずだった政策です。これがつぶれたとなると、法人減税も個人減税も大型減税はほとんどが宙に浮き、トランプの公約はほぼ壊滅。さらにオバマケア代替案が成立せず、いよいよ八方ふさがりになってきました。

  では来週もまたアガサ・クリスティー原作、「そして誰もいなくなった」上演中のトランプ劇場を楽しみにしましょう(笑)。

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大丈夫か日本財政17年版 その13 日銀保有の国債はどうなる 9

2017年07月25日 | 大丈夫か日本財政

  トランプを支えていたあの報道官が政権を去りました。報道陣を親トランプと反トランプに分けて、反トランプのCNNやNYタイムズなどを記者会見場から締め出すなど、前代未聞の言論統制を行ったりしたスパイサーです。しかし安心してはいけません。もっとひどいのに代わっただけですので。

  トランプは司法長官に対しても「オレ様のために働いていない」と不満をぶちまけ、いずれ彼も嫌気が指すに違いありません。トランプの非難は「ロシア疑惑の捜査に関与しないなら司法長官に起用しなかった」とまで言う激しい非難で、セッションズ氏の辞任も時間の問題でしょう。

  そして誰もいなくなった、ではなく、最後に残ったのは大統領職をファミリービジネスと勘違いしているあの家族だけとなった、でしょう。

  もっとも、まともな人間でないトランプと、よくぞ家族は一緒にいられるものだというのが、私の感想です。一度ホワイトハウスに住みたかったのかな。

  一方日本での加計問題、私もきっとみなさんも思っているように、疑惑の払しょくなどできるはずもない。しかし、しどろもどろで逃げ一方の答弁は、支持率の劇的下落をもたらすでしょう。

  さて日銀問題です。

  日銀は四半期ごとに「経済・物価情勢の展望」というレポートを公表します。大本営発表的な内容ではありますが、金融政策の将来展望が書かれています。物価に関する重要部分を、7月20日の日経オンラインから引用します。

引用

日銀は20日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で17年度の物価見通しを1.1%(従来は1.4%)、18年度を1.5%(同1.7%)、19年度を1.8%(同、消費増税の影響を除く、1.9%)に引き下げた。人手不足は続いているが正社員の賃金が伸び悩んでいて、物価の伸びは緩慢なままだ。物価見通しの下方修正に伴い、「18年度ごろ」としていた「2%程度」の物価安定目標の達成時期は「19年度ごろ」に見直した。日銀の物価目標先送りは15年春以降、6回目だ。

引用終わり

  私はこうした先延ばしのたびに次のように揶揄してきました。

「物価の2%達成は、いつも今から2年後だ(笑)」

  今回また2年先に目標を持って行きました。しかし今回の2年後先延ばしは、笑い事ではなくなっています。理由の一つは前回の記事で取り上げた「国債買い入れの限界」が今年後半から18年前半にも来る可能性があるからです。その計算には、金融機関はある程度の国債を取引の担保に利用するため保有し続ける、ということが加味されています。しかし担保ニーズを加味せず、すべてを売ってしまう想定でも、16年末から2.8年後という計算が示されました。つまり80兆円を買い続ければ、完全枯渇も19年の後半にはやってくるということです。そうなったらどうする。日本の株式を毎年80兆円買い続けますか?

  笑い事ではない理由のもう一つは、黒田総裁の任期が18年3月に到来することです。これまでの盤石な安倍政権下であれば、首相の「続投」の一言で済むかもしれませんが、今後はそうはいきません。黒田氏にとって最悪のシナリオは、自分がやめずに頑張ったところで、最大の庇護者である安倍首相がいなくなってしまうことです。衆院選挙は遅くとも18年末にはあり、このシナリオはなきにしもあらずです。

  もう一つの最悪シナリオは、日本の財政再建が現政権の思惑どおりに進まず、高らかに掲げた国際公約を反故にすることが見込まれることです。13年のサンクトペテルブルクG20 の場で、「2020年までにPB(プライマリー・バランス)を黒字化する」と世界に向けてコミットしているのが、財政再建の国際公約です。それが崩れると、国際社会や市場は黙っていません。国債購入の限界とともに、一気に世界で注目を集めることになります。

  PBの黒字化というと聞こえはいいのですが、騙されてはいけません。PBが黒字化したところで、財政赤字はまだ垂れ流しだし、累積債務は積もる一方だからです。国債の金利は毎年絶対に払わなくてはいけないのですが、プライマリー・バランスの均衡とは「金利支払い分などを除く」なのです。

  日本のように借金がGDPの240%もある国は、金利支払いが膨大です。今年度予算ではその額なんと23兆円(一部償却も含みます)。この額は全歳出額の4分の1を占めています。それはなかったことにして歳出と歳入が均衡したと言って喜ぶのがプライマリー・バランスの均衡です。

  さらに逆サイドの歳入から見ると、もっと悲惨です。国の税収は約63兆で、そこから黙って3分の1以上の36%も国債費でなくなってしまうのが今の日本の財政の実態です。

  そんなナンセンスなことを何故「プライマリー・バランス」と、あたかも均衡したように謳いあげるのでしょう。理由は簡単。歳入の3分の1以上も金利を払う国など想定外だったからです。プライマリー・バランスがとれれば、GDP対比での借金は増えないはずという素朴な想定が国際基準にはあるため、こんな事態に陥っているのです。

  金利はGDP成長率とほぼほぼ同じようなレベルのため、GDPが成長して税収が増えれば、金利が上がっても利払いはできるし、債務のGDP比率は増えないという理屈なのです。金利上昇時には、成長率も高いハズ。成長すればGDPが増えるので、借金比率は高まらないハズ、というのがプライマリー・バランス論の基礎にある考えです。

  しかし日本の財政の実態は、プレイマリーバランスが取れたところで膨大な金利支払いにより借金の対GDP比率は増えてしまう事態に陥っているのです。国際常識などはるかに上回る超異常事態なのです。この簡単な計算と数字、みなさん是非覚えておいてください。知ったかぶりにもってこいの数字ですので(笑)。

  安倍内閣は人気取りを優先し、消費税値上げを2度も先送りしています。次回は19年10月に10%への増税が予定されていますが、誰が首相になろうが先延ばしは間違いなし。日本と言う国で内閣の人気を保つには、消費税値上げはご法度なのです。こればかりは、われわれ国民は「愚民」だということを認めざるを得ません。

  先週末あるテレビ番組で、3%の消費税を始めて導入した竹下首相の最悪の支持率はわずか3%で、「消費税率並み」だったという笑い話を政治評論家がしていました。

  こうして振り返れば累積債務問題も、政治家とともに国民が招いた愚策の結果なのです。

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大丈夫か日本財政17年版 その12 日銀保有の国債はどうなる 8

2017年07月18日 | 大丈夫か日本財政

  安倍政権の支持率低下に歯止めがかからなくなっています。3割という水準を割り込んできた世論調査が2つ目になりました。

  来週あたりに2度目の閉会中審査がありますが、安倍首相の回答は「加計などといったことは一切ない」に決まっています。それにより国民が納得すると思ったら大間違い。

  そして自民党の竹下国対委員長の提案する与党対野党の質問時間の割り当てを5:5にする、という慣例破りが批判にさらされています。慣例では2:8です。それで時間稼ぎをするという、あまりにもミエミエの国会対策こそが、自民党の信認を低下させているということを、竹下氏はまだわかっていない。

  ついでに言えば、「内閣改造は基本構造に手を付けない」、つまり菅氏や麻生氏を温存する方向で、それがまた国民の支持が離れる原因であることをわかっていない。

  どうやら自民党もかわゆいトランプちゃん並みのレベルに堕ちてきたようです。すでに国民は「他に代わりがないから」などという理由で自民党を支持することはなくなったんですよ、アベチャン!

  あー、また言っちゃいました(笑)。


  では、本題に戻ります。前回の記事で国債買い入れの限界が近づき、意外にも「17年後半から18年前半に限界が到来する」との推定を、三井住友信託銀行の調査報告を引用して説明しました。世の中の関心が政治問題に集中している間に、異次元緩和政策の根本部分が限界に近付いています。

  では国債買い入れが限界に近付き、日銀の資産拡大によるマネーの供給拡大ができなくなると、いったいどうなるのでしょう。

  その兆候は、銀行のディーリング部門の収益などにすでに表れています。市場に国債がなくなりつつあるため取引が細ったり、最近では全く取引できなかったりしています。

  今週号のダイヤモンド誌にエコノミストの加藤出氏が機関投資家の取引高の減少がどれほどひどいか数字で示していますので、その部分を引用します。黒田総裁就任の前と現在を比較しています。

「2012年の平均に対する17年5月までの1年間の平均売買高は、都銀で86%の減少、農林系で73%減少、生損保で69%減少。多くの投資家は日銀によって歪められた債券相場に嫌気がさして、取引を最小限にとどめている」。

  加藤氏は嫌気がさしてと書いていますが、それ以上にトレーディングのタマがなくなったというのが、より大きな原因でしょう。

  債券はそもそも市場にみんなが集まって売買をするのではなく、証券会社や銀行が相対で仲介取引や売買取引を行います。それが細れば、証券銀行のディーリング部門が収益機会を失います。

  7月16日(日)の日経新聞には「ディーラー 失職の危機」というタイトルの記事が載っていました。内容をかいつまんで紹介しますと、

「国債取引高が近年毎年1割ずつ減少。6月には長期金利の指標である新発10年物国債の価格が初めて7営業日連続で変化しなかった。日銀と市場関係者の懇親会では、「こんな状態ではもう商売をやっていけない」という陳情が出た。金融機関同士の貸し借りをする金利先物市場では取引開始以来初めて出来高ゼロの日が出現した。」

  とまあ、ディーラーの失職もやむなしという状態になっているのです。

  債券の取引は、なきゃないで構わないというものではありません。私が以前から言っているように「金利は経済の体温計」なのに、クロちゃんが体温計を壊してしまったため、突然死の恐れがあるのです。つまり人間なら風邪の兆候を体温計で見出せるのに、それがないために重症の肺炎になって初めて気づくことになるのです。

  こうした異次元緩和による直接的デメリットは、金融機関の債券部門に影響するだけではありません。そもそもマイナス金利導入もあって金利が異常に低下していると、われわれの将来の年金や貯蓄に対しても、おおきなデメリットが生じます。金利低下=年金の利回り低下、あるいは貯蓄に対するリターンがないも同然になります。

  「貯蓄から投資へ」と政府はこの数年大キャンペーンを張りましたが、動いた人は実にわずかでした。その証拠に株式の個人持ち株比率は低下する一方だし、家計の貯蓄額がひたすら増加しています。

  異次元緩和のデメリットは株式市場でもその兆候が出ています。日銀の定期的な一方的買い入れにより、価格変動という大事なインディケーターがなくなりつつあります。私に言わせれば、「株式相場は血圧計」で、それを失ったため突然脳溢血に見舞われる恐れがあるのです。

  日本の株式相場は、クロダプットが働いています。クロダプットとは、株式に投資をして下落が始まりそうになっても、日銀が拾ってくれるという意味です。それに頼ればリスクは少ないという甘えの構造になっているのです。それは株価のかさ上げにもなり、市場をゆがめています。

  そもそも日銀の目的である物価上昇に対して、ETFやREITの買いが効くのでしょうか。クロちゃんはゴタクを並べますが、クリアーな説明を聞いたことはありません。私は全く関係ないと思っています。「体温計を壊したのだから、少なくとも血圧計は壊さないでくれ」と言いたいのです。

  債券市場・株式市場、ともに規制や統制を嫌う海外投資家が日本から離れる恐れがあります。今の株式市場は海外投資家により支えられているため、見離されると取り返しがつかなくなります。

ここまでまずは以下のデメリットを指摘しました。

1.    金融機関が収益低下にみまわれている

2.    我々の年金や貯蓄も収益性が低下し、頼りにならなくなっている

3.    金利と言う大事な体温計や、株式相場という血圧計もゆがめられている

この3つを指摘しました。そして前回までにお伝えしたのは、

4.    日銀の信認低下が円売り、国債売りにつながる

  以上のことを解説しました。

  次回は財政も日銀の国債爆買いに慣れて甘えの構造が蔓延し、安倍政権の信認低下とともに、いよいよ危機的な状況になりかねないことをお伝えします。

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大丈夫か日本財政17年版 その11 日銀保有の国債はどうなる 7

2017年07月15日 | 大丈夫か日本財政

  前回の記事の番号が前々回と同じになっていましたので、今回で正しい番号にもどしました。よく間違えますね。新規投稿の時に、自動的に前のタイトルが表示されるためです、と言い訳をしておきます。すみません(笑)。

  安倍内閣の支持率が3割を切ったというニュースが流れています。時事通信による世論調査で支持が29.9%、不支持が48.6%となり、危険水域に達しています。閉会中の予算委員会で安倍首相みずからが参考人になるというのですが、きっと彼の回答は、「私は一切指示などしていない」でしょう。それがわかりきっているのに何故首相を参考人として呼ぶのか。

   自民党はそれをもってこの問題に決着をつけたいから。野党は疑惑が深まったということをアピールしたいから呼ぶのでしょう。果たして終わりは来るのでしょうか。


   その間に本日もう一つ大事なニュースが流れていたので、私はそちらに反応しました。それは自民党の税制調査会の最高顧問である野田毅氏が遂に、「日銀自身も思考停止状態に近い」と発言したことです。野田氏は税調の会長だけでなく、経済企画庁長官も務めた党内きっての経済通で、一方「反アベノミクス勉強会」の発起人でもあります。

  支持率がかなり危険水域に近づいた安倍内閣と、自民党内からも懸念の声が上がり始めた日銀、いよいよアベノミクスが終盤に近付いたようです。これまでは株価が上昇し、実体経済がそこそこ悪くないことで内閣支持率が高く保たれ、日銀への風当たりも強くならずにいたのですが、今後はそうはいきません。

  

  世界を見回すと、超緩和策からの出口議論はアメリカだけでなく、欧州でも具体的に始まっています。そのため欧州の金利が少し上昇し、通貨ユーロも対ドル・対円で上昇しています。いよいよ取り残されるのは日本だけという色彩が強くなってきました。

  アメリカではFRBイエレン議長の議会証言を始め、有力理事などが今後の金融政策に関して数多く発言しています。それらの多くが利上げと資産圧縮の同時並行的実施ではなく、次回はどちらかと言えば資産圧縮を選択すべきとのトーンで一致しているようです。物価と賃金の上昇がさほど強くないため、2つの政策が重ならないようにするための工夫でしょう。

  では何故片方だけでも実行しようとするのか。理由は「平常時への復帰」を急ぎたいためです。もっと突っ込んでいえば、私は以下のような可能性を考慮してのことではないかと勝手に想像しています。

  「利下げするための利上げが必要だから」です。

  将来景気がスローダウンする場合を想定し、刺激策を用意しなければならない。その時にまたぞろ量的緩和という策を使うより、金利を下げる方が理解を得やすく、FRBも即決できる。次の手段と目される資産圧縮は利上げではないのですが、FRBの資産圧縮により市場に米国債が多く出回ることで、市場金利を上昇させる圧力になります。それが将来の景気後退時のテコ入れ策の布石になるのです。

 

  さて日本に戻ります。今回のテーマは、80兆円にものぼる市場からの国債吸い上げがいつまで継続可能なのかについてです。

  この重要なテーマに、三井住友信託銀行が挑み、調査月報を作成していますので、それを紹介します。数字計算が並びますが、比較的単純な計算ですので、フォローしてみてください。調査月報の日付は17年1月号ですが、作成は16年末に行われているものと思われます。

・日銀のマネー供給=日銀資産積み上げ目標は年間80兆円

・日銀保有国債の毎年の償還額見込みは40兆円。(80兆円買い入れても、40兆円は償還される)

・償還見込みにもかかわらず80兆円のマネー供給を継続するのに必要な買い入れ額は、

  40+80=120兆円  120兆円買い入れないと、40兆円償還されるので、資産を80兆円増加させられないということです。

・120兆円の買い入れのうち政府の新規国債発行を全額買い入れるとするとその額は37兆円。17年度政府予算上の新規発行額は37兆円です。

・必要買い入れ額120兆円から新規発行引き受け分37兆円を引くと、市場からの買い入れ必要額は

  120-37=83兆円

  つまり市場(市中金融機関)から買い入れる必要があるのは毎年83兆円となる計算です。

  16年3月末で232兆円ある金融機関の国債残高を、全額買うのに要する期間は、

  232兆円 ÷ 83兆円 = 2.8年

  つまり、2.8年経てば、もう市中金融機関に国債はなくなるということです。

  現在はこのレポートにある16年3月末からすでに1年3か月ほど経過しているので、残された時間はあと1.5年程度だ、ということになります。

  しかし三井住友信託銀行は、「市中銀行は国債を担保に取引を行う必要があり、現実には手元に相当な額の国債を残す必要がある。実際に限界が来るのは17年後半から18年前半くらいだ」という時期を示しています。

  ということは、なんとすでに限界域に近づいているのです。

  ここからは私の推定ですが、同様な試算はもちろん日銀もしているはずで、だからこそ、やれ「イールドカーブ・コントロール」だとか、「マイナス金利」だとかの導入を計り、市場の関心を「買い入れの限界」から逸らせようとしているのでしょう。

  そして出口戦略について聞かれるとクロちゃんが答えるのはいつも決まって、「そんなことは先の話で、2%を達成してからだ」とはぐらかします。しかし、限界はそんな先の話ではなく、2%達成より早いことは計算からしてあきらかです。

  ここまでをまとめますと、金融機関の保有する国債の総量から推定すると、買い入れの限界は17年後半から18年前半に訪れることになる。

  つまり異次元緩和の最重要政策であるおカネの供給は、すぐにでも限界が来てしまうのです。

  ではいったい、国債買い入れの限界が近づくとその後どのようなことが待ち受けているのか。それを推定してこのリシーズのまとめにしたいと思います。

 

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大丈夫か日本財政17年版 その9 日銀保有の国債はどうなる 5

2017年07月09日 | 大丈夫か日本財政

  「誤解を招きかねないので、撤回いたします」

という政治家によるおかしな言い訳。わたしのように大きな違和感を感じる方は、ほとんどいらっしゃらないようですね。私はこういうことに敏感に反応してしまうため、時々「余計なストレス」を感じることがあります。あまりこのブログで自分のストレス解消をしないように努めることにします(反省)。

 

  国債の問題に戻ります。

  7月3日の記事でブルームバーグの記事を引用しました。内容は、

「日銀が明らかにした単年度の償却額に対し、ブルームバーグの試算では、償還までに必要な将来の償却額は9兆7200億円になる。」というものでした。これは日銀が国債を買うときに、償還金額を上回る価格で買った損失確定分の合計です。会計上は日銀の純資産を上回る金額のため、すでに実質債務超過状態です。

   その記事の最後に私はこう書いていました。

「この損失が一気に表面化しない工夫がルール化されています。それが、保有国債の償還までの均等償却ルールです。」

  これがどういうことか、私の住むマンションの修繕積立金の運用の会計処理で同じことがなされていますので、例にとり簡単に説明します。

  72戸のマンションの修繕積立金は億の単位で積みあがりますので、運用をしない手はありません。ただし元本が保証されない物には絶対に手を出してはいけません。ですので、著書やブログの趣旨に反するようですが、ドル建ての米国債はダメです。また積立金を使用する時期がおおむね決まっているので、定期預金や債券での運用は満期を修繕時期に合わせ、価格変動リスクを回避しています。

  私が理事長だった9年ほど前の08年に運用を開始して、18年の大規模修繕時に償還を迎える日本国債に投資しました。投資の決定はマンションに住む金融関係者がアドバイザーになり、決めています。実はインベストメントバンク関係者がなんと4人もいたのです。その後の積立金投資もそれに習っています。その時に買うことができた国債はいまよりかなり利回りの高い国債で、オーバーパーの105で買いましたが、利率は1.8%もありました。おかげでかなりの金額の金利収入があります。

  105というのは償還価格の100を5%上回る価格であることを意味します。10年間1.8%の金利をエンジョイし、10年後に一気にオーバーパー分の5%を償却すると、大きな損失を計上することになります。そこでマンションのような場合、見込まれる5%の損失分を償還までの10年で毎年均等に償却することにしています。いわゆる保守的な会計処理をしていることになります。単純計算で0.5%分を毎年損失計上しているのです。すると、実質の利回りは1.8%-0.5%=1.3%になります。

   これと同じことを日銀も高値づかみの国債に対して行うことが会計上義務付けられています。実際には1本の国債毎にオーバーパー分を償還までに均等償却するのです。そうすることで、単年度で一気に償却し大きな損失計上することを避けています。

  しかし、実際には10兆円の損失は確定していますので、その分資本勘定が毀損しているも同然です。つまり今現在でもそれを勘案すると、ほぼ債務超過です。しかも私のマンションの基金と違って、満期までの金利がマイナスのものを買っている分は収入もありませんので最悪です。去年のマイナス金利導入後は、かなりの短期国債はマイナス金利です。

  では、日銀が債務超過に陥るとどうなるか。

  私がすでに書いていることは、日銀が信用を失い、円が信用を失って暴落するおそれがある、ということです。このブログの読者のみなさんは先日来コメント欄で賑わいを見せたように、Xデーに向けた準備を着々と進められています。しかし一般的にはみなさんよりも準備の遅い方々が数多いため、一気に資本逃避行動に出る危険性があります。しかもすでに保有率1割になる海外投資家は、その前、あるいは同時並行的に国債売却というリスク回避行動に出て、国債と円の暴落に拍車を掛ける可能性があります。

  今現在、実質債務超過でもそうした事態になっていないのは、一応ルール上債務超過ではないという安心感と、償却ができる利益を上げていることが理由でしょう。そしてなんといっても、このような日銀の状況を心配する人が、圧倒的に少数だからでしょう。

 

  次はもう一つ、大事なことを見ておきましょう。それは日銀の異次元緩和、なかでも国債の爆買いはいつまで続けられるかという点です。

  日銀は2013年4月、黒田バズーカによりマネタリーベースを毎年60-70兆円増加させると言ってスタート。その中で国債は毎年約50兆円程度買うという勘定でした。その効果が表れず、14年10月に80兆円に増額。爆買いにより国債の金利がマイナス圏に突入。それでも効果がないとして16年2月に国債の爆買いにプラスして、当座預金の増加分にマイナス金利を導入しました。

  マイナス金利は資金運用をしなければならない銀行などの金融機関にとっては重い負担となるため不評を買い、16年9月に日銀は「イールドカーブ・コントロール」なるきわどいワザを編み出し、批判をかわそうとしました。その間も国債は買い続けましたが、国の発行済国債の残存量には限りがありますので、いずれは異次元緩和も限界にぶち当たります。

  ではいったい、いつごろ限界が来るのか。次回はその試算をある金融機関が行っていますので、それを見てみましょう。

 

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