このシリーズは何度か中断してしまいましたので、簡単にその1から4までをレビューをしておきます。
その1 モノ言う株主
日本の報道では「モノ言う株主」という言葉がたびたび使われ一般化しているが、この言葉は「日本と言うガラパゴス列島ではふつう株主はモノを言わないのだ」ということを表している。しかし今やモノ言う株主こそ、資本主義を救う救世主になる。
その2 超巨大化する世界のファンド
現代の資本市場を席巻するファンドはとてつもなく巨大化していて、世界最大のファンドは1社で1,000兆円を運用し、日本の全株式市場の時価総額750兆円をはるかにしのいでいる。
その3 世界の機関投資家のアドバイザー ①
ファンドを含む世界の機関投資家に大きな影響を与えるアドバイザーがいて、アドバイザーは世界の将来を真剣に見通して的確なアドバイスを行う能力を有し、ファンドは議決権行使で彼らのアドバイスにおおむね従っている。
その4 世界の機関投資家のアドバイザー ②
世界で最も有力なアドバイザーはISSで、大きなシェアーを持っているため、甚大な影響力を有する。
その5は世界の資本市場のキーワード、ESG投資です。
現在、日本でも世界でも最も重要視されているのは異常気象への対処です。人類が利便性・効率性を追求した結果、人類だけでなくあらゆる動植物、美しい自然を破壊し尽し、いずれは死滅しかねません。どの国でも政府、自治体、企業、そして国連を始めとする国際機関も、歴史上初めて一つの目的に向かってベクトルを合わせています。
それは個人にもおよび、だれもが参加しているプラスチックゴミの削減や、あらゆる企業がCO2削減を目標に掲げるところにまで至っています。カーボンニュートラルやゼロ・エミッションも同じ意味を持っています。
その目標に向かうにあたって、重要なキーワードがあります。それがESGで、三つの言葉の筆頭にEが掲げられています。これは投資の世界でも同じで、ESGというキーワードが投資のあり方を変えるほどのインパクトを持つに至りました。
「ESG」のEとはEnvironment環境、SとはSocial (responsibility)社会的責任、GとはGovernance企業統治です。ESGというキーワードが今や世界の一大潮流になりつつあります。
企業が持続的に成長するためにはESGへの取り組みが重要との認識が急速に広まっていて、その取り組みの甘い企業への投資は行わないという事になりつつあり、それに逆らう企業は今後投資対象から外され、淘汰される可能性すらあると思われます。今回はESG投資とは何かを深堀します。
ESG投資を一言で言えば、「環境・社会・企業統治に十分な配慮をし、責任を持つ企業を選別して行なう投資」のことです。何故そうした企業を投資対象として取り上げるのか。その理由はESG評価の高い企業は事業の社会的意義、成長の持続性など優れた特性を持つ企業だからで、今後の成長余力が高いと見られています。社員の採用面で注目され、商売相手として選ばれ、融資も受けやすく、それゆえ投資対象として選ばれるのです。
ではそのESG投資の規模感をつかんでおきましょう。朝日新聞ニュースの7月19日版を引用します。
引用
日米欧などの普及団体でつくる「世界持続可能投資連合」(GSIA)が7月19日発表した2020年のESG投資額は35兆3千億ドル(約3880兆円)で、18年の前回調査から15%増えた。
GSIAの調査は2年に1度、年金基金や資産運用会社などを対象にESG投資額を調べるもので、今回が5回目。特に米国は年金基金などが積極的に投資を増やし、前回から42%増の17兆810億ドル(約1880兆円)となった。
引用終わり
世界の株式市場の時価総額が現在約1京円ですので、この投資額が株式メインとすれば全体の約4割になります。株式投資を語る上でESGは避けて通れないし、世界の主な機関投資家はESGをしっかりと意識していない企業には投資を行わないようになりつつあります。
では何故それほどまでESGを意識するようになったのか。先ほども指摘しましたが、最大の理由は地球温暖化に対する危機感です。災害列島日本に暮らす我々も、年を追うごとにひどくなる気温上昇やそれが原因で激甚化する台風や大雨・洪水に悩まされています。アメリカや欧州ではそれらに加えて山火事の大規模化があり、アフリカや中央アジアでは降雨量の減少による砂漠化、南の島々では水面上昇による国土全体の水没が迫っています。
このため政治の世界でも日本の菅政権は「2050年までにカーボンニュートラルを実現」するという宣言を出し、世界の潮流もカーボンニュートラルやゼロ・エミッションに向かった政策を打ち出さないと国民の支持を得られなくなっています。特にかなり以前からみどりの党のあるドイツや、環境問題に関心の高いフランスなどは国民の意識も非常に高く、自動車メーカーも100%の電動化を急ぐようになっています。
実際EUはガソリンエンジンばかりでなく、ガソリンと電動の両方を有するハイブリッドすら許さない方向に動き出しました。
時事通信の7月16日版を引用します。
欧州連合(EU)欧州委員会が14日、2035年に域内でのガソリン車など内燃エンジン乗用車の新車販売を実質的に禁じる方針を打ち出した。50年の温室効果ガス排出「実質ゼロ」実現に向け、電気自動車(EV)シフトを加速させる。ハイブリッド車(HV)も禁止対象となり、HVを得意とする日本メーカーは欧州戦略の見直しを迫られそうだ。
引用終わり
こうなると当然投資家もその政策に沿った方向を目指す企業へ投資せざるを得ず、これまでのように企業価値を利益や成長力だけで計ることが許されなくなっているのです。
では日本の国内投資家の投資行動はどうなっているか見てみましょう。日本株の投資をリードする海外投資家はESG重視ですから、当然同じ方向に向かわざるを得ません。それを目に見える形にしているのは、ESG投資を標榜する投資信託の存在です。国内のESGを標榜するファンドは現在すでに168本、約3兆円に達しています。それでも全体への貢献度はまだまだ低く、世界の趨勢には大きく後れを取っています。