先週末の5月のアメリカの雇用統計は衝撃の数字でしたね。新規雇用者増加数は4月の16万人から3.8万人へと激減しました。大手化学メーカーの大規模ストの影響や、4.7%に至った失業率により募集しても集まらなくなったとかいろいろ理由はあるようです。その衝撃はドル円レートに現れ、106円台に突入しました。アメリカの利上げはどうなるのか、本格スローダウンはあるのか、そうした見通しについては今後書いていくことにします。
今回は講演会の報告です。講演会は私が本を書くきっかけを作っていただいたサイバーサロンというネット上のプライベートなサロンのメンバーを対象に、主催者の方がセットしてくださいました。会場の限度いっぱいの45名の方に参加いただき、2時間の講演とその後2時間の懇親会という長丁場でした。その模様が主催者の方からサロン参加者へメールで発信されておりますので、そのまま引用させていただきます。
引用
講演会では多様で活発な論議が交わされ、一方的な「レクチャー形式」より、はるかに充実した内容でした。これも、講師林さんのアイディアとテーマに関する深い分析と洞察、聴講者、皆様の強いご興味が相乗した結果で、全員で日本の現状・将来に関する理解をより深めることが出来たのではないかと思っています。また懇親の立食パーティでも、林さんを囲んでのグループ談義や、多彩な顔ぶれの方々との和やかな交流を楽しませていただきました。
引用終わり
休憩時間を含めますと4時間半にわたり話しっぱなしだったため、さすがに最後は声がかれるほどでしたが、みなさんの熱心さに時間を忘れるほどでした。一方的でない対話形式が好評を得たこと、嬉しく思います。
今回参加されたみなさんは70歳以上の方が半数ほどとかなり年齢層は高いのですが、若い方では30歳代後半から40歳代の方も見受けられました。多くの方が印象に残ったと言われたポイントをかいつまんで述べます。
1.「現在の日本のGDPのうち8%相当は、財政赤字という上げ底だ」
毎年60兆円しか収入がないのに100兆円も使っている。その赤字40兆円、つまり500兆円のGDPの8%は無理やりかさ上げされたもので、「日本の実力GDPは8%分を差し引いた460兆円しかない」という指摘です。
この事実を数字できちんと示した批判が見当たらないのは何故でしょう。このブログでの講演会内容の記事でも同じ指摘を強調しました。もう赤字は当たり前で、GDP8%のかさ上げだなどと指摘する方がおかしい、と言われるくらい、ひどい世の中になっています。これはとても恐ろしいことです。
それに関連する次の指摘も印象に残ったと言われました。
2.ドイツは日本同様少子高齢化の国でありながら財政は黒字を保持し、立派に経済運営を行っている
ドイツはそもそも日本と同じように中膨れな人口ピラミッド構成で少子高齢化に悩む国ですが、日本ほど経済運営に悩んでいません。東ドイツというとんでもないお荷物を90年代初頭に背負ったにもかかわらず、国の累積債務もGDPの7割台しかなく、単年度財政は現在黒字です。インフレに対する国民の厳しい監視の目が働き、日本のように赤字垂れ流しを許すことはないのです。
3.ギリシャ同様になれば、年金給与は4割カット
日本が今後赤字続きでギリシャのようになったときのことを考えると、とんでもないことが待ち受けます。ギリシャは公務員人件費や人員数、そして年金をはじめ様々な支出を約20%程度削減させられつつあります。日本はもし赤字分を削減しなければならないとなると、40%もの削減をすることになります。弛緩しきったこの国の国民が耐えられる限度をはるかに超えることになるでしょう。
4.金利の支払いだけで10兆円以上、歳入の2割近いのに、それを除いたプライマリーバランスが取れるとか取れないとかの議論はナンセンス
借金超大国日本の場合は、金利分も勘定に入れないと意味がないのです。累積債務は金利分だけで、あっという間に大幅増加するからです。
講演後のことですが、一昨日、日本の格付け会社R&Iが増税延期を理由に日本国債の見通しを「ネガティブ」に変更しました。海外の格付け会社は警告を発しましたが、見通しの下方修正まで行っていません。珍しく日本の格付け会社が先行しています。もっともR&Iは日本をAAAよりわずかに1段階低いだけのAA+にしていますので、元が高すぎたとも言えます。
さらに大きな日本国債にかかわるニュースは今朝の朝刊です。三菱UFJ銀行が日本国債のプライマリー・ディーラー資格を返上したというニュースです。実に大変なニュースですが、これも後ほど解説します。
さて質疑応答の時間では、主に以下のようなコメントや、質問がありました。
・日本にも良い部分がたくさんある。例えば日本人の持つ素晴らしい資質。よいものをきちんと作り、世界に誇れるサービスを提供している
・普通の人がおかしいと感じるマイナス金利はやはりおかしいのだと確信が持てた
・消費税は増税すべきで、それにより成長が阻害されるというのは悲観過ぎる
・元大蔵官僚の高橋なにがしという立派な方が、「日本の借金が1,000兆円と言うのは嘘で、売れる資産が650兆円もあり純負債は350兆円だ」と言っている。林さんは間違っている
と、もろに反論されました(笑)。私からは、「国の資産のほとんどは売れない。売れるのは元国営で上場されていたり予定されている企業の株くらいだ」という回答を差し上げましたが、「権威」ある高橋氏の議論を信じていて納得されませんでした。ところが助っ人現る!
なんと財務省主催、国の資産査定の委員会に出席されたと言う方がいらしたのです。その方がおっしゃるには、「財務省の役人ですら国道や港湾施設、国有林などを始めほとんどの資産は計上しているだけで売れないと言っていた」と言うのです。これには私も会場のみなさんも驚きました。私からもさらに、「国が売り食いに入った時点で、ほとんどの資産は暴落するので、計算が成り立たなくなる。ギリシャなどでも破たんに瀕したときの国有財産には全く買い手がつかなかった」という話を追加し、やっと納得されたようです。
また以下の質疑応答もありました。
質問;財政の破たんとはどういう経路を経るのか
回答;巨額の累積赤字で国民の信頼が本格的に揺らぐと、円の信頼も揺らぐ。日銀の国債買い取りに不信感が拡がれば銀行システム全体に不安を感じ、預金の流失が始まり、円から外貨への逃避も起こる可能性がある。円安が悪性のインフレを招き、国債の買い手が日銀以外になくなり、財政が成り立たなくなる。
そして、講演会後の懇親会で特に比較的若い世代の方からは、
・政府と日銀の対応は、信用できないし、アベノミクスも間違っている
・若年層が不安を募らせるのは全くそのとおりで、私を含め年金がもらえるなどと計算している楽観的な若者はいない
・将来、累積債務が自分たちに降りかかってくるので、国に頼らず自分でできる防衛をする以外ない
・無理な成長より、身の丈に合わせることが大事だということが理解できた
・前回の講演会を聞いてから自己防衛として円からドルへのシフトを少しづつ行っている。米国債の金利が上昇したら買いたい
およそこのようなやりとりがありました。特に若い方々が飲み食いはそっちのけで、私を取り囲み持論を含め実に熱心に談義されていたのが印象に残りました。若い世代は政府には頼らず、自分たちのことは自分たちで面倒をみる気概を持っているようです。
長くなりましたが、以上が講演会の様子です。
次回からはアメリカ経済の今後の見通しを含め、日米の金融情勢を中心に議論をしていきたいと思っています。