ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカの金融市場について その12 最終回

2015年12月30日 | アメリカの金融市場

  みなさん、今年もたくさんのアクセスと様々な質問や議論をありがとうございました。昨年12月15日にこのブログもやっと100万アクセスを達成しました。それまでに4年弱かかっています。それが1年後の現在、すでに163万アクセスに達しました。みなさんのおかげで驚くほどのアクセス数です。

  「毎日林さんのブログを楽しみにしています」と多くの方から言っていただきました。そう言っていただくことがなによりの励みです。私自身、このブログを書き、みなさんと議論をすることがこの上ない楽しみです。来年もこれまで同様にブログを続けますので、みなさんよろしくお願いいたします。

 

  さて、今回の「アメリカの金融市場について」シリーズの最終回です。前半が今年の回顧、後半は来年の経済予測になっていました。世の中には経済予測を専門にしている人たちがたくさんいますが、普通の方にとって彼らがいったいどうやって予測の数字をつくっているかは、全くのブラック・ボックスだと思います。そこでそのやり方の一端に触れていただこうと、統計学の基礎に少し踏み込んでみました。

  基本的やり方は、経済指標の実績数値を統計的手法で解析し、それを元にモデルを作る。そのモデルを利用して将来の予測を作って行くということでした。言いたかったことは、「予測作業は決してエンピツをころがしているわけではない」ということです(笑)。

  とても面倒な統計学とともに、数字の見方を少しでも勉強できるよう工夫してみたつもりです。「そんなことに興味はないよ、結果だけ教えてくれ」という方には若干寄り道が過ぎたかもしれません。でも少数の方でけっこうですが、「このブログは勉強にもなるぞ」と思っていただけたら、私としてはとても嬉しいのです。

  みなさんはきっと様々なブログやサイトを見ていらっしゃると思いますが、それらを見るに当たって「真贋」の見分がつくようになれば、きっとこの先で道を大きく間違うことが少なくなると思うからです。

  では、シリーズのまとめです。

  まず今年のアメリカの金融市場を振り返りました。アメリカ以外の市場と数字を比較してみると、「意外にも年初と年末であまり変化のない年だった」ことが分かりました。そして途中にあった中国株式の暴落をきっかけとした大きな変動も実は「行ってこい」で、「鳥の羽音に驚いた」けど、よく見たら大したことはなかった、と申し上げました。

※「行ってこい」は相場の用語で、上がったものがすぐに下がったり、逆に下がったものがすぐに上がって元に戻ることをさします。

  その後は「来年の金利と為替」について、私の見方を紹介しました。そして実は世界経済をはじめとする来年の環境の見通しは、昨年の同じ時期に申し上げた今年の環境見通しととてもよく似ているということを指摘し、これは何人かの読者の方にも賛同をいただきました。

  そして金利に影響を及ぼす一番大事な要素は「物価と雇用」で、アメリカの雇用は絶好調が続くものの、物価は原油の暴落もあり、金利にはマイナスに作用している。しかし、原油の下落は消費国にとっては大きなメリットで、悲観するような要素ではない。悲観的に見ているのは株式アナリストをはじめとする、市場関係者だと指摘しました。

  昨年の環境とちがうのはFRBの利上げです。すでに最初の利上げが実行され、今後も利上げが継続されると思われます。ただし、「政策金利の利上げは、長期金利にそのまま連動するものではない」とも指摘しました。この点は要注意です。

  そしてみなさんが一番気にされている金利レベルについては、年の後半に3%程度を見ていることをお伝えしました。何度かの政策金利の利上げは、やはり長期金利にも影響を及ぼすからです。

  一方ドル円レートについては、エコノミストの見方が珍しく大きく割れています。レートに強い影響を及ぼすファンダメンタルズに関して、私がもっとも重要だと考えているのは、アメリカの「双子の赤字の解消」だとお伝えしました。経常赤字が大きく縮小し、財政赤字も順調に縮小しています。レベル感としてはやはり利上げに呼応して、130円前後を見ています。

  残された話題は「地政学的リスク」です。こればかりは予測は困難ですし、それこそブラックスワンが到来するか否かです。しかし世界にはその専門家がいます。私が尊敬する地政学的リスクの専門家でユーラシアグループを率いるイアン・ブレマー氏です。

※ブラックスワン、黒い白鳥が来るとは「ありえないことが起こる」という意味で使われる言葉です。

  彼は日経新聞に1か月に1度くらいの頻度でコラムを執筆していますが、それとは別に「来年のリスク見通し」が12月22日の日経新聞紙上に掲載されました。日興アセットマネジメント主催のセミナーのサマリーです。長文ですのでそれを私なりに要約し、掲載します。

 

第1.中国のさらなる台頭

① アメリカ中心の自由主義経済陣営と中国の国家資本主義が並立するハイブリッド経済時代に変化

② 中国主導のAIIBなどで、アメリカと欧州間に亀裂。英国の加入表明をきっかけに欧州各国が雪崩を打って加入

第2.欧州各国政治の弱体化

  ① 難民受入れを巡る右派の台頭により、政権が弱体化。受入れ派欧州と拒否派欧州に分断されるリスク

  ② ギリシャ危機を平定したまではよかったが、中東危機に対処不能のリスク

第3.その他世界

  ① 中東などの産油国経済ではサウジすら国家経済破綻のリスクあり

  ② イラク、シリア、リビア、イエメン、アフガニスタンに加え国家運営に失敗する国が増加するリスク

   以上が彼の指摘するリスク概要ですが、日本を含むアジアについてはあまり心配がないとしています。この見通し、さすがにブレマー氏だと思わせる示唆に富んだ指摘だと思います。これらのリスクが世界経済にどう影響を及ぼすか、地政学的リスクの世界的権威であるブレマー氏の指摘として、十分心しておきたいと思います。

  以上で今回のシリーズを終了とさせていただきます。

みなさん、どうぞよいお年をお迎えください。

なお、今年の年末年始、私は家で過ごしますので、ブログにはアクセスを継続するつもりです。

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「遅すぎた投資家さん」改め、「救われた投資さん」へ

2015年12月28日 | ストレスフリー

  救われた投資家さんを歓迎したのは今年の2月26日でした。そして「今からでも遅くはないですよ」というアドバイスにしっかりフォローされ、実行されたんですね。

   そしてD証券での口座開設のお話で、「米国債を売りたがらない」はずの支店の方が、熱心に対応してくれたことを紹介いただきました。

今回のコメントは、私が提唱している「ストレスフリーの資産運用」の趣旨をまさしく体現されているため、それをまず本文にてそのまま掲載させていただきます。

 タイトルは,

「ストレスフリーで安穏としております 」です。

2015-12-21 13:44:43

引用

林様 ブログ愛読の皆様 ご無沙汰しております。

私は資産の大部分をドル転と米国債購入完了でストレスフリーの安穏とした生活を送っていたため、仕事に邁進することが出来ました。

為替動向や金利動向はドル転時や米国債購入時には非常に気になっておりましたが、最近は自分年金の積み増しの為、仕事に集中して出来た成果物であるお金を米 ドルMMFにし、今後の金利動向を見ながらじっくりと米国債を自分年金の各年毎にどのように積み増みしようかという楽しみに変わりました。

それは自分年金の必要金額から一歩前進し、趣味や旅行等の上積みであったり、平均寿命の80才までの米国債購入計画であるからです。

1ドル120円のドル転、金利2%前後でもゼロクーポン債購入で生活基盤を盤石に出来た確信しております。

今後は金利の良いもの購入することを目標とします。林様のブログに辿りついてからもうすぐ1年になりますが、金利の安い時に購入した米国債は金利上昇による 既発債価格の下落でも1年という時間経過による償還までの残存年数による価格の変化で全ての償還年で現状でもプラスの評価です。
 
正にストレスフリーの真髄です。
ありがとうございました。

引用終わり

 

私にとっては、救われた投資家さんのこうした言葉が、何よりの励みになります。

   ブログの読者のみなさんの中には、為替や金利動向を見極めて投資タイミングを計っていらっしゃる方も多いと思いますが、救われた投資家さんのように一気に投資を実行されるという方がいらっしゃることも、心に留めていただきたいと思います。もちろん、一気ではなくとも、ある程度の割合を分散しながらということもありだと思います。

  年末にあたり「この一年の思い」を、「こんちくしょう」も含め(笑)コメント欄にぶつけていただくことも、歓迎いたします。

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アメリカの金融市場について その11 ドル円レート見通し

2015年12月26日 | アメリカの金融市場

  クリスマスも終わり、今年もあとわずかになりました。報道でも今年を振り返る特集番組が多いですね。「アメリカの金融市場について」のシリーズも最後のテーマの「ドル円レート見通し」のまとめまできました。

  私が為替見通しで最初に申し上げたのは、来年の見通しはエコノミスト間でもかなり割れていて、ドル高派対ドル安派の比率がおよそ2:1となっているということでした。しかもお互いの主張はかなり確固たるものです。ドル高派では135円程度まで見ている人がいる一方、ドル安派では110円程度まで見ている人がいるというほど大きく割れています。変わらずとみている人が少ないのも今年の特徴です。

  その背景には、日米のファンダメンタルズに対する見方の差があります。ファンダメンタルズという言葉も、あらてめてみなさんに勉強していただきました。アメリカ経済強しとみる側はドル高、アメリカ経済はスローダウンすると見る側はドル安を見込んでいます。

  では為替を見通す上で私が大事だとしてあげた点をおさらいするとともに、若干の補足をします。

1.アメリカの利上げによる日米金利差拡大

  FRBは来年4回程度の利上げを示唆しているのに対し、日米のエコノミストは2-3回とみている人が多いようです。利上げによる日米の政策金利(翌日物)の差は1%から1.5%程度に拡がり、それが短期金利(3年物くらいまで)に波及すると、これまで世界に拡散していたドル資金の国内回帰を促し、低金利にあえぐ日本や欧州から資金を引き寄せることになります。

  一方日銀はFRB利上げ直後の政策決定会合で、補完的と言われる緩和策を提示しました。しかしその内容が逆にミソをつけ、市場は大幅な株安で反応しました。私自身は、日銀はこれといった決定打を有していないため、この先黒田マジックは効かなくなるとみています。その後の会見などで黒田総裁は相変わらず「できることはなんでもやる」と同じことを吠え続けていますが、私を含めいわゆる提灯持ちでないエコノミストは、「もうできることなどない」と冷静に見ており、奇手が出ても市場は暴落で答える可能性が大きいとみています。

2.日米のファンダメンタルズ較差

  ファンダメンタルズと言われる様々な経済活動を総括したものがGDPで、その日米の先行きが為替動向に影響します。成長率較差はドル高を促す方向に拡大する一方で、この先も縮小は難しい状況です。特にインフレ率を反映させた名目GDPでは4%近い差があります。

  そしてアメリカのファンダメンタルズ改善の象徴として私は「双子の赤字が明白に解消に向かっている」ことを説明しました。この解消に向けたトレンドは今後も進行すると思われます。

  双子のうちの一つは「財政赤字」です。GDP比率で見るとアメリカの財政赤字は09年の13.7%の赤字から3%へ、10%もの改善を示しました。一方日本も改善はしているのですが、同時期に8.9%から6.6%へのわずかな改善に留まっています。

  そして累積債務のGDP比は直近で両者とも増加し続け、日本の財務省資料によると、15年末でアメリカの110%に対し、日本は234%と2倍の開きがあります。なお、この財務省発表数字ですが、これは決していわゆる大本営発表ではなく、警鐘を鳴らすためむしろ正直な数字を出すので、信用がおけます。

  双子のうちのもう一つは「経常収支」です。06年と14年を比較すると、アメリカの経常赤字のGDP比率は▲5.8%から▲2.3%へと良い方向に半減し、日本の黒字幅は逆に4.0%から0.5%と悪化してしまいました。

  上記の双子の赤字の数字を私は単なる絶対値の数字ではなく、GDP比率で示しています。その理由を説明しますと、同じ赤字の数字が続いていたとしても、経済が成長していれば問題は解消に向かうし、逆に日本のように成長するどころか名目成長率が縮小したりすると、問題が大きくなってしまうからです。こうした数字のアヤは、慣れた人間でないと見極めにくいのですが、みなさんも是非少しずつでもお勉強してみてください。

  今回示した過去の数字について、もう一言。何故しつこくこうした双子の赤字の数字を振り返るのかと言いますと、みなさんに長いスパンでの両国の国力の差をしっかりと認識していただきたいからです。私の経済の見方は常にこうした数年単位でものを見ています。これまでも繰り返し申し上げてきましたが、長いトレンドを頭に描いた上で数字をみると、目先の数字に振り回されないようになるからです。

  ところが日常で目にする経済指標は、やれ先月の雇用はとか、先月の物価はとか、月単位や四半期、せいぜい前年比という程度のスパンです。それは株価に振り回される株屋さん達の見ている数字で、そうした短期の数字に惑わされると本当の先行きが見えてきません。

  私が債券投資にあたって物を見る見方は、数年、数十年の単位です。その重要さをわかっていただきたいために、繰り返しているのです。

  さて、私は来年円安を見込んでいることをお伝えしました。それは1年先だけをみているのではなく、長いスパンの脈絡から見ているのです。そして初めにお伝えしましたが、レベル感としては130円程度です。その実現時期はとても特定まではできませんが、アメリカの緩やかな利上げペースに見合った程度とみています。つまり後半だろうと考えています。ただし、FRBの利上げ前に私が「政策金利上げ、即、長期金利上昇ではない」とお伝えし、実際の動きもそうなっていることを是非忘れずに頭にとめておいてください。

  と言いながらも、為替の予想なんてしょせん当たるも八卦であることもお忘れなく(笑)。

  では次回は「アメリカの金融市場」シリーズの最終回として、全体をまとめることにします。

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高橋洋一「俗論を撃つ」を撃つ!

2015年12月24日 | 日本経済コメント

目から鱗さんからのご質問への返答です。

   お久しぶりです。私のブログお読みいただき、ありがとうございます。どうお返事したものかを考えいて、返事が遅くなりました。来年はまた「この国は大丈夫か」のシリーズを書こうと思っていましたので、そこまで先送りすることも考えました。しかしダイヤモンドオンラインの記事の賞味期限が切れないうちに、返事を差し上げることにしました。

    初めに申し上げますが、私は個人を攻撃するのは性に合わないのでしたくないのですが、今回はダイヤモンドオンラインのシリーズ「高橋洋一の俗論を撃つ」を撃つ必要性を感じました。理由は以下のとおりです。

   私もダイヤモンドオンラインのこの記事を読んでみました。記事の最後にダイヤモンド社からアンケート形式の質問があり、高橋氏の説に賛否を投票することになっています。賛否を送信すると、投票結果が出てきて、賛成;60%、反対;25%と賛成が圧倒的でした。ダイヤモンド誌というクオリティ誌の読者ともあろう方々が簡単に騙されているので、目から鱗さんへの回答とともに、ダイヤモンドオンラインの読者のみなさんに目覚めてもらおうと思ったのです。

 では、本論です。私が全く理解できないのは、目から鱗さんが引用されていた次の文章です。

>直近の日銀の営業毎旬報告を見ると、資産としての国債326兆円、負債としての日銀券94兆円、当座預金239兆円となっている。ここもアバウトに国債300兆円、日銀券300兆円とみれば、政府と日銀の連結B/Sでの純債務は200兆円程になり、・・・

 みなさん、なんか素晴らしいマジックのように感じませんか。

 まず基本的に連結とはどういうことか、おさらいします。

  国は市場から1,000兆円の借金をしています。日銀も国債を買うために、市中銀行から239兆円の借金(当座預金)をしています。その国と日銀をどう足し上げようが、お互いに市場と市中銀行からの借金を帳消しにすることなどできません。みなさんここまでは納得できますよね。

 彼は当座預金を借金と考えていないので、こんなマジックができると錯覚しているのです。

   さらにわかりやすくするために、同じ論理で郵貯を考えてみましょう。郵貯が皆さんからの借金=預金で120兆円を調達し、国債を120兆円買っているのはご存知だと思います。国と郵貯を連結します。すると国の借金120兆円は消えるでしょうか。郵貯は預金者に120兆円を返済しないといけないし、国は1,000兆円を返済しないといけない。120兆円が消えることなどありえません。郵貯は預金者の預金を必ず返済しないと、みなさんが取り付け騒ぎを起こします。

   彼は日銀が郵貯同様、借金で買っていることを無視しているのです。日銀が国債を買うための借金である当座預金は誰のものか。市中銀行のもの、その先では「我々預金者のもの」です。

 別の角度からも見てみましょう。

   日銀は上場している株式会社ですから債務超過など許されず、貸借対照表は当然純資産が上回る会社です。しかし純資産は3.8兆円、自己資本比率はわずか8%。破たん寸前の東芝と同じ程度の比率です。一方、国は彼の言うとおり、純資産はマイナスで、債務超過500兆円です。ではこの両者を単純に足します。

 国の債務超過▲500兆―日銀の純資産4兆=債務超過▲496兆

   両者の純資産を足し算できたとしてもなお、496兆円の債務超過が残ります。それが何故200兆に減るのでしょうか???

   1000歩譲って200兆円の債務超過になったとしても、何故500兆円の債務超過が200兆円に減ると大丈夫なのでしょうか。

 そう言うのを、「500歩200歩というのでしょう(笑)」。

  もっとも私が彼だったら、「では2回目のマジックをして、あと200兆円を消して見せまーす」と言います。(爆笑)

  ちなみに国や日銀の貸借対照表は財務省と日銀のサイトにいけば、上の数字が書いてあります。高橋氏と私は全く同じサイトの同じ数字を見ています。

 ここまでが、私の反論その1。

ここからはその2です。

  彼は上記の計算の前提としてこう述べています。

>現預金19兆円、有価証券129兆円、貸付金138兆円、出資66兆円、計352兆円が比較的換金可能な金融資産である。

    現金以外の有価証券や貸付金、出資金が換金可能と言っていますが、これも間違いです。もちろん有価証券の中にすでに上場されている日本郵政関連会社や、上場不可能ではない公営企業など一部換金可能な証券はありますが、その他のほとんどが上場の見込みなどない、政府系の怪しげな企業・団体で、その株式やそこへの貸付金など危なくて誰も引き受けてなどくれません。そうした企業の中身を調べれば債務超過だったりします。黒字化の見込みのない事業だから、国が引き受けているのです。

  この論理も破たんしていると考えれば、352兆円の換金可能だと言う金融資産も実は売れるのが52兆円くらいと仮定すると、国の債務超過は先の500兆円にあと300兆円プラスした800兆円になります。

    実は彼は少し前まで、国の保有する有形固定資産178兆円も換金可能だと言っていました。私が「国が返済に困って国有不動産の売却を始めるようなときには、日本全体の不動産も暴落していて、その中で誰が収益力のない国有地など買うもんか」と言ったのが聞こえたらしくて(笑)、今回は引っ込めたようですね。

   このブログの読者の方はみなさん賢いかたなので、彼の議論を一つ一つ吟味すれば、いかに高橋洋一氏の論理が破たんしているか、すぐに理解できるとおもいます。

 ダイヤモンドの読者諸氏へ

 目を覚まし、お勉強しなさい!

 その時は、ダイヤモンド社刊、「証券会社が売りたがらない米国債を買え」から読み、「ストレスフリーの資産運用」も読みましょうね(爆)

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アメリカの金融市場について その10 ドル円レート見通し

2015年12月23日 | アメリカの金融市場

   今回はファンダメンタルズのお話です。今後の長期トレンドを見通す上でも非常に大事なポイントですので、少々長いですがしっかりとお読みいただきたいと思います。

  ファンダメンタルズと一言でいいますが、その中身を今一度しっかりつかんでおきましょう。ネットで検索した中で、簡潔でよくまとまっているファンダメンタルズの定義がSMBC日興のサイトにありましたので、それを引用します。分析にも言及しています。

引用

ファンダメンタルズとは、国や企業などの経済状態などを表す指標のことで、「経済の基礎的条件」と訳されます。国や地域の場合、経済成長率、物価上昇率、財政収支などがこれに当たり、企業の場合は、売上高や利益といった業績や資産、負債などの財務状況が挙げられます。ファンダメンタルズをもとに株価や為替の値動きを予測することをファンダメンタルズ分析といいます。

引用終わり

  以上が定義ですが、定義にある基礎的条件のすべてをここで分析するのは煩雑ですし、私ひとりではとても無理です。先日のブログの記事で、OECDによる日米のGDP成長率比較をお目にかけました。GDPは多くの経済活動の総括と言えます。そこでまずはそれを再度見ておき、その中から私が今後のドル円レートにとって大事なヒントとなる「トレンド変化」をみなさんに示したいと思います。

  OECDの予想値は、以下のような数値でした。終わりつつある15年、来年16年の予想値と、比較のため14年実績もつけています。

実質GDP   14年  15年推計  16年見通し  (前年比%)

日本     ▲0.1   0.6    1.0

アメリカ     2.4   2.5    2.4

日米のファンダメンタルズには実質GDP成長率で常に1-2%程度の差があることを頭に入れておきましょう。そして差はインフレ率を加味した名目GDPでは3%以上の差に拡大してしまいます。

 では次にGDPと大いに関係し、私が重要だと思っているトレンド変化について見ていきます。

  みなさん、「双子の赤字」という言葉をご存知でしょうか。長い間アメリカはこの言葉に悩んできました。その一つは財政赤字、いま一つは貿易赤字です。ところがこの言葉、最近はあまり聞かなくなりました。それが私の考える大きなトレンドの変化です。

  アメリカの財政状況はリーマンショックから一早く立ち直り、単年度の赤字幅はかなり改善しています。リーマン直後の最悪期から3年ごとの数字で見てみます。数字は日米の「財政赤字の対GDP比率」です。日本の財務省のHPからの引用ですが、アメリカは予算教書が早めに出されるため、※印をつけた15年の数字のみアメリカの予算教書から引用しています。アメリカの財政赤字は09年の13.7%の赤字から3%へ、10%もの改善を示しました。

        09年   12年  15年

アメリカ    13.7%  9.3%  2.9%(※)

日本      8.9%   8.3%  6.6%

  これじゃ、赤字国債発行が激減し、金利も上がらないわけですよね。こんなに改善しているのに、年中行事の「財政の崖」議論を仕掛ける共和党にはあきれます。

  一方の日本は12年にアベノミクスが始動し、一応税収が上向きに転じたため赤字比率が減少しはじめました。来年度予算も若干ですが改善の見込みです。しかし先のGDP成長率とともに「デフレから脱却した」という大本営発表ほど目覚ましい改善ではありません。


  次は国際収支上の赤字問題です。さきほど双子のうちの一人は「貿易赤字」だと書いていますが、実際にはアメリカはサービス収支と海外投資のリターンである一次所得収支が大きくプラスですので、それらを合計した経常収支を比較する必要があります。

経常収支(赤字)=貿易収支(赤字)+サービス収支(黒字)+所得収支(黒字)

サービス収支の黒字は、意外かもしれませんがこの数年で大きく増加しています。これに貢献しているのは知的財産の使用料収入、金融サービス、そして旅行収入です。アメリカの経常収支の改善がシェール・オイル増産のためだけと思ったら大間違いで、これらは3点は市況に左右されない強固な黒字なのです。

  数字はやはり対GDP比率で、アメリカの経常収支赤字がピークを付けた06年と直近の14年、そしてその中間の10年の数字です。

        06年   10年    14年

アメリカ   ▲5.8%  ▲3.0%  ▲2.3%

日本     4.0%    4.0%    0.5%

日米差    9.8%   7.0%   2.8%

  アメリカの経常赤字比率は06年と14年では半減以下になっています。それに対して日本の経常黒字比率は激減し、14年はやっと黒字を保った程度まで低下してしまいました。

  面白いので日米の差を計算してみたところ、06年の約10%の差が昨年では約3%になっています。アメリカはマイナス、日本はプラスなので、差とは両者の数字だけの単純合計です。

  この比率の先行きですが、今年15年は原油価格の低下から日本は3%程度に改善し、アメリカは14年と同程度という見通しですが、アメリカのサービス収支と所得収支の黒字はしっかりと増加しつつあります。

  こうして見てくると、アメリカは長く苦しんだ双子の赤字状態から、リーマンショックを経て、ほぼ抜け出るところまで目覚ましく改善していることがわかります。ということは、アメリカ経済は「大きな経済ショックがあるとその後に自己改造によりファンダメンタルな経済力を増して帰ってくる」ということなのです。それが金融の大緩和状態からいち早くアメリカが抜け出て、利上げをするまでに至った最大の理由だと私は考えています。

  次回は為替に関してまとめ、アメリカの金融市場シリーズを終了するつもりです。

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