ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

ゴーン・ウィズ・ザ・ウインド、風と共に去りぬ

2018年11月23日 | ニュース・コメント

  日産の事件は次第に日仏間の政治問題化し、今回の問題の本質から外れつつあるように感じます。またクーデターではないかという意見や、特捜との司法取引を中心に据えた解説も多くなりつつあります。もちろんそうした視点も重要ではあると思うのですが、もう一つ大事な観点から見る必要もあると私は感じています。

  最近の多発する企業不祥事のキーワードは私の見るところ司法取引などではなく、「ホイッスルブロワー」の存在だと思っています。ゴーンはホイッスルによって吹き飛ばされたのです。ホイッスルブロワーとは、企業の内部告発者を指します。企業の不祥事を知った社員が、外にむかってホイッスルを吹いて知らせるという意味の英語です。

  このところ今回の日産をはじめ、企業不祥事が続々とあばかれています。この数年で特に目立った大企業の不祥事を挙げますと、

企業の不祥事・事件リスト(ウィキペディアからの引用)

  • 2018年 KYB- 免震装置データ改竄
  •      スルガ銀行- 不正融資
  •      スバル- データ書き換え
  • 2017年 神戸製鋼- 長期に渡る品質検査データ改竄
  • 2016年 スズキ - 燃費詐称
  •      三菱自動車 - カタログ燃費の詐称及び不正計測発覚
  • 2015年 東芝 - 長期に及ぶ不適切会計
  •      東洋ゴム – 免振パネル、防振ゴムなど試験データ偽装
  •      タカタ - エアバッグ不具合

  特に人の安全にかかわるようなものが多く、みなさんも記憶に残っているものがほとんどだと思います。「一体どうしたんだ日本の製造業」と言いたくなるほどのひどさで、いずれも内部告発以外にバレることのない事象です。

  しかし一つ一つの事件の内容をよく調べてみると、表面化は最近ですが、ほとんどが古くから日常的に行われていたもので、決して最近の問題ではないことがわかります。日本企業にはどうも不祥事を起こしがちな体質のDNAが組み込まれているようにすら思えます。

  では何故最近それらが表面化したのでしょうか。一番の理由は2006年に施行された「公益通報者保護法」により通報者が保護を受けることができるようになったからです。

  保護の内容をやはりウィキペディアから引用しますと、内部告発者に対する解雇減給その他不利益な取り扱いを無効としたものである。この法律により公益通報者が保護される」とあります。

  しかし2006年の施行からかなり時間を経てやっと最近告発が増えてきたのはなぜでしょう。これも私の推定ですが、依然としてムラ社会体質の濃い日本企業の中では告発は非常に困難を伴うもので、多くの告発者は法律では守られていても、企業内では村八分になり孤立を深め、辞めざるを得なくなる。その中での告発はとても難しいのです。それでも勇気ある人々の行動は徐々に理解を得るようになり、臭いものにフタをせず、表面化させて企業体質を変えることが企業の存続には必要だという理解が深まったのでしょう。

  最近の投資ファンドには「ESG投資」を標榜するファンドが増えています。ESGとは、E=Environment=環境、S=Social社会、G=Governance統治の略で、その3つを大事にする企業に重点投資をします。我々の年金を運用する超巨大投資家である年金運用機構GPIFすらそれを大事にする旨を投資方針に掲げました。

  こうなるとムラ社会型の企業でもESG、中でもガバナンスやコンプライアンスを意識せざるをえません。もっと進んだ会社はそれを企業戦略の一つに利用しています。実は私がいた英国系の投資会社では内部告発は積極的にすべしと奨励していました。特に事業部門ではシステム開発の仕事が多かったのですが、システムエンジニアたちがおさぼりを決め込みいい加減なシステムを納入してしまうと、のちのち大問題に発展し会社は大損害を受けます。それを防止するための対策としてかなり以前から内部告発を奨励していました。もちろんそれは過去に痛い目に遭ったからです。

  日産問題も政府を巻き込んだり、経営陣の確執などばかりに気を取られるのではなく、各企業は「不正」という身近な問題に対する警鐘として捉え、今後の経営に役立てるべきだと思います。

  ガンバレ日本の製造業!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

激変の兆し by ウッドワード

2018年11月20日 | ニュース・コメント

  初めに一言日産に触れます。日産問題はカルロス・ゴーンの悪事を暴く構図ですが、私に言わせれば日産も同罪です。何故なら彼に給与を払ったのは日産で、世界の各地に家を買ったのも日産。両方で100億円も出していたのを知らんとは言わせません。もちろん日産の罪状報告に書いてある有価証券報告書への記載もゴーンではなく財務部がやっています。それを10年もそのまま放置した責任を株主は会社に問うべきです。いくら彼に権力が集中しようが、企業としてのコンプライアンスやガバナンスは全く別問題です。しかし、毎年毎年数十億円単位の収入を得ながら、なんというセコイ男でしょう。あきれてものが言えません。

 

  さてアメリカです。メディア対トランプ、勝者はメディアでした。めでたしめでたし。

  今回の勝利者はCNNだけでなく、全米のメディアでした。というのも訴え出たCNNに、ほぼすべての大手メディアが結束して賛同の意を表したからです。特に驚いたのはトランプ支持を掲げてはばからないFOXニュースもCNNに支持を表明したのです。「FOXニュースよ、お前もか」とトランプは嘆いたに違いありません。

  地裁の仮処分はCNNの勝と出ましたが、それに対するトランプの捨て台詞は「もう記者会見なんかやるもんか(怒)」でした(笑)。さらにホワイトハウスは記者会見のやり方に新たにルールを打ち出しました。記者の質問を一人一つにするという制限で、実質的にはもっとひどい言論の自由への挑戦です。

  一方、18日の日経朝刊に著名なジャーナリストであるボブ・ウッドワード氏へのインタビュー記事が掲載されていました。今回はそれに関してコメントします。

  ウッドワード氏はホワイトハウスの現状を書いた本、原題“FEAR”、邦題「恐怖の男」の著者で、ニクソンを辞任に追い込んだ男としても有名です。日経のインタビューはもちろんトランプ政権についてですが、目を引いた内容を簡単にお知らせしますと、

・トランプの権力行手段は本の題名になった「恐怖」だ

一般報道ではトランプ政治の手法は「ディール」だと言っていますが、私はこのウッドワード氏の「恐怖」という言葉のほうがトランプのやり口の本質を突いていると思います。これまで彼がディールで突き付けたのは実は恐怖でした。例えば対北朝鮮では「いままで誰も見たことのないような火の海にしてやる」だったし、現在進行中のボリビア難民に対しては、「もし投石したら、銃弾を浴びせてやる」と脅しています。対中国も脅し文句で相手を痛めつけ交渉のテーブルに引きずり出されました。

  こうしたやり口は私から見るとISの支配方法と重なって見えます。まず首切り処刑を見せつけて人々に恐怖心を起こさせ、絶対服従を誓わせる。世界はこの男の「恐怖」に頼るやり口に屈してはいけないと思います。

ホワイトハウスはカジノと化した

トランプの政策判断はなんの根拠もないカジノでの賭けをやっているのと同然のことばかりだというのです。

例えば対中貿易のことをウッドワード氏は「貿易赤字で米国がお金を失うというのは明らかな間違いだ。安く品質の良いものが買えれば、他の消費にお金を回せる。それでも制裁に突き進む。貿易戦争は経済学博士の中国に幼稚園児が挑んでいる構図だ」と述べています。全くその通りです。マティス国防長官がトランプを「小学生並みの頭しかない」と言っているのと同じです。ちなみに国防長官も「いなくなるリスト」の筆頭です。

・激変への前兆あり。人々は現在と未来に不安を抱き始めた。経済は好調だが企業や富裕層の減税と言う「甘いもので子供が元気づく」たぐいだ。

このボブ・ウッドワードの言葉は中間選挙の結果も受けたもので、それも含め激変の前兆を見ています。

一方、株式相場などの様子を見ていると、私は「経済は好調だ」と言っていられなくなるのではないかと思っています。それも一番の原因は天に唾するトランプの保護主義が、自分の顔に落ちてきているからで、自業自得です。中国のスローダウンが世界経済の現在と来年のテーマとなっています。

  さらに最近のアメリカ経済にはあきらかに変調の兆しがあります。象徴的には原油価格と株式相場です。原油価格は中東イランを巡る地政学的リスクにもかかわらず、代表的指標のWTIは10月初めのピーク76ドルが昨日は56ドルと26%も急落。経済のスローダウンを予想しています。株式はダウ平均は10月のピークから7%ほどの下落ですが、アップルの株価がアイフォンの売れ行き不振により10月初めのピーク232ドルから20%も急落し昨日11月19日は186ドルになりました。それにつられて半導体などIT産業全般が売り込まれ、半導体代表銘柄のエヌビデアはなんと半値に下落しています。また製造業の先行きを占う指標に黄色信号がともっています。ISM製造業景況指数が8月に61.3でピークを打ち、9月59.8、10月57.7と落ち始めています。

  逆に強い雇用に裏付けされた消費者動向は依然として堅調で、消費者信頼感指数は9月に18年ぶりの高い値を記録しました。そして11月23日、感謝祭後の金曜日は、小売店が黒字になることでその名がつけられているブラックフライデーですが、それをスタートに年末商戦は好調が予想されています。消費者関連は景気に対して遅行指標、製造業関連や株式・商品相場は先行指標であることに注意しましょう。

  ウッドワード氏の警鐘は財政問題には直接触れていませんが、「激変の前兆あり」の中に財政問題が含まれると私は見ています。減税の甘いアメ玉に飛びついていると、必ず痛い目に遭います。経済が絶好調なのに実は今年の税収は減っているからです。トランプ減税策の目論見は、「減税による消費や投資の刺激は税収に対してプラスで跳ね返る」でしたが、これまでは全く逆になっています。その上経済全体が変調をきたすと、財政問題が大きく浮上してくるでしょう。

  そしてもう一つの懸念は世界貿易の動向です。特に世界貿易の6割を占める国々の集まりであるAPECでは共同声明が出せない異常事態が起こりましたが、一番の話題は保護主義対自由貿易の争いでした。自由の国アメリカが保護主義を主張し、不自由の国中国が自由貿易を主張するという倒錯の世界が出現しました。カジノと化したホワイトハウスに振り回される世界経済には不安の影が落ち始めました。

コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中間選挙総括 2

2018年11月14日 | トランプのアメリカ

 アメリカの中間選挙が終わったとたん、ドナルドダック・トランプがメディアに吠え、噛みつきました。独裁者の定義でたびたび申し上げている言論統制を地で行っています。それに対しCNNが大統領による記者証の取り上げは報道の自由の侵害だとして、大統領とサンダース報道官らを地裁に提訴しました。どう決着するかみものです。

  一方、ドナルド・ダック劇場が始まるというのに、「そして誰もいなくなった」劇場も続いています。先週の選挙後すぐにセッションズ司法長官を更迭し、すでに次にはケリー大統領首席補佐官を更迭すると報道され、さらに夫人のメラニアが国家安全保障副補佐官と衝突し、更迭しろと言っているとも報道されています。CNNなどはそれを「ロイヤルファミリーによる前代未聞の異常事態だ」と言っています。

  すでにトランプはほとんどの閣僚・補佐官を一度は首にしていて、ケリーは2人目の首席補佐官ですので、誰もいなくなったは2周目に突入するようです。

 

  さて、前回私は選挙後のコメントとして、「世論調査は正しかった」と指摘しました。中間選挙はいまだ僅差の選挙区があって最終結果が出ていないのですが、注目すべき選挙総括が意外な人から出てきましたので、それを紹介します。

  その人とは、日本のテレビではお笑い系タレントとして大活躍している「パックン」こと、パトリック・ハーラン氏です。さすがハーバード大卒だけあって、最近は真面目なニュース番組のコメンテーターを私が知る限り2つ務めています。

  今回はそのうちの一つ、テレビ東京の朝のニュース、モーニングサテライトでのコメントです。中間選挙中にアメリカを取材して回り、今週はその総括をしていました。彼は民主党支持者なので、それを頭に入れてお読みください。

  彼の総括のポイントは主に3つ、

1. 上院は共和党が勝ったとされているが、実はそうでもない

  その理由は、上院選挙の得票率は民主党が共和党を8ポイントも上回っている。そして共和党対民主党の獲得票数は1,300万票も民主党が上回った。

  上院議席数の負けは、州により1票の格差があまりにもひどいためで、それは選挙制度の欠陥である。最大の格差は人口の少ないワイオミング州と人口の多いカリフォルニア州で、なんと1票の格差は60倍もあるが、共和党がワイオミングで勝っても、カリフォルニアで60倍の票数で勝った民主党と同じ1議席を得ることができた。

2.下院選挙では、選挙民をデモグラフィー別に見た場合、白人男性以外のすべてのカテゴリーで民主党が勝っている

  女性・黒人・ヒスパニック・LGBTなどのすべてのカテゴリーで民主党の得票率が勝った。大統領選とは違い、こうした人々が立ち上がり、いつもの中間選挙と違い投票率向上につながった。

3. 次の大統領選挙に向けて大事なヒントは州知事選の結果で得られるが、民主党有利を示している

  州知事選は大統領選と同じように州別の戦いが結果に反映する。このため大事なスイング州、つまり民主と共和で支持が行ったり来たりする州が大事になるが、そうした州で今回は民主党のほうが多く勝っている。たとえば、イリノイ・ミシガン・ウィスコンシン・カンザスなど、ラストベルトも含む州だ。

  従って、「統計的に冷静に見ると、上下両院とも得票数で上回る民主党に軍配が上がり、それが次の大統領選挙を占うヒントになる」

  以上、パックンの選挙結果分析は統計数字をきちんと把握した実に説得力のある分析でした。

 

  ここからは別の側面から、私のコメントを入れることにします。今回の選挙で見えた今後の世界を見る上で重要ポイントは、

1.「分断」の世界同時多発的発生

  今回の選挙は「アメリカの分断を煽った」と言われ、その張本人が大統領であることをメディアは指摘しています。分断くらいならいつでもどこでもあるのですが、私はそれがアメリカだけでなく、世界同時多発的に広がっていることがより深刻な問題だと思うのです。ドイツしかり、イギリスしかり、イタリアしかり。これについては、また別途書きたいと思っています。

2. 反メディア行動が及ぼす負の影響

  大統領がトランプになってもう一つの大きな変化は、トランプの反メディア行動だと思っています。

  反メディア行動とは単に既存のメディアをフェイクニュースだと非難したり、CNNの記者を出入り禁止にしたりするだけでなく、「メディアのスキップ現象」を起こし、それが負の影響を起こしていることです。

  一般的にネット社会は中間業者をスキップします。例えば旅行業界では旅行者が直接航空会社やホテル・旅館に直接アクセスして予約を取るため、昔ながらの旅行代理店がスキップされ商売が成り立たなくなっています。

  トランプは世界の指導者に先駆けてツイッターを駆使し、支持者だけでなく全世界に直接呼びかけをしています。日本では彼のツイートをフォローする人はメディア関連を除けば非常に少数でしょうが、世界は違います。英語を理解する人は誰でも彼の機関銃のようなツイートを毎日・毎時フォローすることができます。それが1.で述べた分断の世界的拡散に大きく貢献していると思うのです。

  中間業者の存在は、実は情報に対するスクリーニングですので、ウソや単なるウワサをかなりの程度排除できるのですが、トランプのツイッター発言はメディアによるスクリーニングを受けないため、半分以上がウソであっても盲目的支持者はすべてを信じます。

  例えば2・3日前の演説でトランプは、日本が自動車の輸入で不正を働いていると非難しました。「日本はアメリカ車の輸入を制限し、高い関税を掛けている」と言いましたが、日本はアメリカ車の輸入制限もしていないし、関税もかけていません。売れないのはあの反地球的サイズの車など、日本では「無用の長物」だからです。

  これをメディアが報道するときには、「この大統領発言は間違っている」と注釈が付くでしょうが、直接ツイッターで放言すれば誰も阻止できないし、そのさらなる拡散も防げません。あとでいくらウソだとメディアが指摘したところで支持者はそれを見ようともしないのです。

  こうしたメディアを排除したトランプの放言は今後も続くでしょうし、受け手のリテラシーが上がらない限り、「分断」という大きな負の影響を世界にもたらします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

でかした、トランプ!

2018年11月07日 | トランプのアメリカ
アメリカの中間選挙が終わりました。早速ですが、林のコメントをお届けします。
 

アメリカ中間選挙の結果について、マスコミの選挙前コンセンサスは、

・上院は改選議席数の少ない共和党の勝利が確実視される

・下院は民主党有利だったが、終盤ではトランプ大統領のなりふり構わぬ応援で共和党が追い上げ、予断を許さない

  という予想でした。そして結果はみなさんご存知のように上院は共和党が多数派を維持、下院は民主党が多数派を奪還しています。

  こうした結果が出ましたが、私の最初のコメントはタイトルにもありますように、

「でかしたトランプ」です。その理由は、これまでの歴史では大統領の1期目の中間選挙では与党が敗北して当たり前で、にもかかわらず上院で共和党が多数派を維持したからです。下院では負け結果は55分ですから、どちらの勝利とは言えませんが、私なりに今回の選挙を総括してみます。

1.    世論調査は正しかった

大統領選挙で「世論調査はあてにならない」というレッテルが貼られましたが、それを覆しています。国会選挙はウィナー・テイク・オールの大統領選のシステムとは違います。大統領選では300万票も多く得たクリントンが負け、少数票しか得られなかったトランプが勝ちました。特に下院議員の選挙は大統領の支持率や政党支持率が、当選者数により反映されます。

ABCによる出口調査での大統領支持率は41%。不支持率は55%でした。そして「アメリカは正しい方向に向かっているかの質問に対する回答では、正しい方向だ41%、正しくないが56%でした。選挙結果もそのとおりです。

2.    トランプはよくやったが、オバマもよくやった

トランプのことはすでに記した通りで、中間選挙での勝利はレアケースです。一方、トランプの攻勢に対してすでに現職を退いて2年を経た元大統領のオバマ氏の応援はそれなりに影響力を持ったと思います。

3.    キーワードはやはり「女性」だった

私は選挙の始まるよりだいぶ以前に、今回の選挙を左右するキーワードは「女性」だと申し上げていましたが、候補者にも当選者にも女性の台頭がとても目立ちました。あれだけトランプにバカにされていた女性が、やっと目覚めたということですが、遅い!大統領選で何故目覚めなかったのか、逆に糾弾しておきます。そのことはヒスパニックをはじめとする非白人の有権者たちも同じです。


  さて、この結果を受けて、今後の世界はどうなるのか。これからのことをもっともよく言い当てているのは、下院民主党ナンバー1の院内総務ナンシー・ペロシ氏の次の言葉です。

「明日、アメリカの新しい1日が始まる!」

そのとおりでしょう。上下両院を押さえていた大統領にとって、自由にならない下院を抱えるのは、あってはならない世界です。もちろん下院では弾劾手続きが開始されるでしょうし、財政問題を無視した減税2など、国会を通らなくなります。

  大統領が絶大な権力を握っているのは事実です。特にトランプがカードを切りまくった大統領令でできる範囲のことは。しかし、政策にとって大事なのは予算の裏付けですが、予算は国会が握っていて、下院はことごとくトランプの切り札を破り捨てるでしょう。また予算だけでなく、アメリカは議員立法の国ですから、大統領は法律を作れません。

  ということで、明日からのアメリカのことを私なりに一言で言うと、

「トランプは破壊できても、何も作れない」。国境の壁もだし、新たな国際的合意事項も国会承認なくして批准なしなのです。そしていよいよレームダックの始まりだ、とも言っておきましょう。

  これぞまさしく「ドナルド・ダックのはじまりはじまりー」です(笑)。

  ゴメンなさい、ディズニー・ファンのみなさん。

 

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

芸術の秋を満喫

2018年11月02日 | アートエッセイ

  芸術の秋、友あり遠方より来る、また楽しからずや。

   名古屋と新潟に住む大学時代の友人2人が芸術の秋を楽しみに東京に来ました。初日に訪れた展覧会は生誕100年東山魁夷展。なかでも見どころは現物をそのままのしつらえで見ることのできる「唐招提寺御影堂の障壁画」でした。展覧会が始まって2日目だったのですが木曜日とあって比較的スムーズに入場でき、会場内も広いためかゆったりと見ることができました。

   東山魁夷は私がもっとも好きな日本画家の一人で、家には障壁画の習作のうちの1点を魁夷自身がリトグラフにしたものがリビングに飾ってあります。私の宝物です。障壁画は唐招提寺の依頼を受けた魁夷が10年の歳月をかけて制作したもので、中国から渡来し仏教を伝えた鑑真和上の功績をたたえるため、日本最古の肖像彫刻である鑑真和上像を納めてある御影堂のふすまに描かれています。鑑真和上のふるさと中国の墨絵による風景と、渡来の途中に難破し視力を失い、遂に目にすることができなかった日本の海と山の風景を、東山魁夷独特の緑色がかった青色を用いて描いています。ウィキペディアのふすま絵の説明を引用します。


御影堂の南側は東の「宸殿の間」に波と岩を描いた『濤声』16面、西の「上段の間」に日本の山と雲を描いた『山雲』10面(床の間、床脇、天袋含む)を描く。これらは彩色画で、日本の海と山の風景を表し、1975年に完成したものである。御影堂の北側は、鑑真像の厨子がある「松の間」に『揚州薫風』26面、西の「桜の間」に『黄山暁雲』8面、東の「梅の間」に『桂林月宵』8面、これらは水墨画で、鑑真の故郷揚州を含む中国の風景を表し、1980年に完成したものである。厨子内壁には『瑞光』(1981作)を描く」

   なんと約70枚ものふすま絵を魁夷はたった一人で描いています。完成して間もなくNHKが、構想作りからはじまり風景スケッチの様子や習作、そして本番のふすま絵の製作過程を2時間あまりの長編ドキュメンタリーにまとめて放映をしたのを見て、いたく感心したのを覚えています。

   私と障壁画の実物との最初の出会いは1977年、パリのプチパレで開催された唐招提寺展が最初でした。その当時私はJALのフランクフルトに単身赴任していて、パリ支店の先輩から連絡があり、「すごいものが日本からくるよ。日本でも見られない鑑真和上の像と、それが収められている御影堂の障壁画のすべてだ。是非見においで。」とのこと。いてもたってもいられず、エールフランスに頼んでスタンバイのただ券を手に入れ、飛んで行きました。たしか1974年に日本に来たフランスの至宝「モナ・リザ」のお返しとしてフランスに行ったものだと記憶しています。

   こうしたことが刺激になり、私は80年前後、あるデパートで開催された唐招提寺障壁画展覧会で展示即売されていた魁夷のリトグラフ、『濤声』の習作を購入しました。20歳代の終わりころ、安月給の身なのにボーナスを注ぎ込んでしまいました。その時の展覧会も今回の展覧会も、いずれも御影堂の各部屋を、畳や柱もそのまま会場にしつらえ、実際の御影堂を体験させてくれますが、鑑真和上の像は運送が非常に困難なため、今回を含めほとんど見ることができません。今回は御影堂大修理のため5年ほど唐招提寺での拝観を停止し、その間にふすま絵のみ国立新美術館で見ることができます。展覧会ではうちのリビングルームにあるリトグラフの青色とふすま絵の色が、40年経った今も全く同じであることを確認することができました。ご興味のある方はこの機会に是非ご覧ください。展覧会は東山魁夷の代表作の数十点とともに、12月3日まで国立新美術館で開催されています。

 

  友人との芸術の秋めぐりはそれから4日間続きました。魁夷展と同じ美術館で開催されていたナビ派のピエール・ボナール展を見て、さらにサントリー美術館での醍醐寺展、箱根に旅行して私の好きな岡田美術館を遠来の友人たちに紹介。さらに東京芸大の澤学長に案内いただいた新装オープンした芸大アートプラザを訪れ、最後にはもう一つのハイライト、「フェルメール展」を上野の森美術館で見学しました。

 

  このフェルメール展もお勧めです。なにせ世界でわずか35点しか確認されていないオランダ・デルフトの画家フェルメールの絵画のうち9点を一度に見ることができるのです。たった1点でも来日すると大変な騒ぎになるほどの絵画ですが、世界の主要美術館の協力で9点が一堂に会しました。長蛇の列を避けるため、日時を指定した完全予約制なのですが、会期が来年の2月3日までと長期にわたるため、まだ十分に空きがあるようです。我々が行ったのは日曜日にも関わらず、指定された時間に行き、30分ほど待ったものの退出時間の制限はないため、ゆっくりと見ることができました。

   これまでにもブルーの着物をまとった「真珠の耳飾りの女」などが来日していますが、今回は「牛乳を注ぐ女」、「ワイングラス」、「手紙を書く女」など、「光の魔術師」と呼ばれるフェルメールの作品を9点も見ることができます。女たちのまとう絹の着物の襞の示す質感は、1600年代に描かれてから400年近くを経ても全くあせることがないのが驚きです。

   これだけのヘビーな展覧会、美術館を4日間も見続けるのはとてもエネルギーを要します。でも芸術好きな友人たちと尽きることない芸術談義をしながら過ごせたのは、この上ない幸せでした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする