日産の事件は次第に日仏間の政治問題化し、今回の問題の本質から外れつつあるように感じます。またクーデターではないかという意見や、特捜との司法取引を中心に据えた解説も多くなりつつあります。もちろんそうした視点も重要ではあると思うのですが、もう一つ大事な観点から見る必要もあると私は感じています。
最近の多発する企業不祥事のキーワードは私の見るところ司法取引などではなく、「ホイッスルブロワー」の存在だと思っています。ゴーンはホイッスルによって吹き飛ばされたのです。ホイッスルブロワーとは、企業の内部告発者を指します。企業の不祥事を知った社員が、外にむかってホイッスルを吹いて知らせるという意味の英語です。
このところ今回の日産をはじめ、企業不祥事が続々とあばかれています。この数年で特に目立った大企業の不祥事を挙げますと、
企業の不祥事・事件リスト(ウィキペディアからの引用)
- 2018年 KYB- 免震装置データ改竄
- スルガ銀行- 不正融資
- スバル- データ書き換え
- 2017年 神戸製鋼- 長期に渡る品質検査データ改竄
- 2016年 スズキ - 燃費詐称
- 三菱自動車 - カタログ燃費の詐称及び不正計測発覚
- 2015年 東芝 - 長期に及ぶ不適切会計
- 東洋ゴム – 免振パネル、防振ゴムなど試験データ偽装
- タカタ - エアバッグ不具合
特に人の安全にかかわるようなものが多く、みなさんも記憶に残っているものがほとんどだと思います。「一体どうしたんだ日本の製造業」と言いたくなるほどのひどさで、いずれも内部告発以外にバレることのない事象です。
しかし一つ一つの事件の内容をよく調べてみると、表面化は最近ですが、ほとんどが古くから日常的に行われていたもので、決して最近の問題ではないことがわかります。日本企業にはどうも不祥事を起こしがちな体質のDNAが組み込まれているようにすら思えます。
では何故最近それらが表面化したのでしょうか。一番の理由は2006年に施行された「公益通報者保護法」により通報者が保護を受けることができるようになったからです。
保護の内容をやはりウィキペディアから引用しますと、「内部告発者に対する解雇や減給その他不利益な取り扱いを無効としたものである。この法律により公益通報者が保護される」とあります。
しかし2006年の施行からかなり時間を経てやっと最近告発が増えてきたのはなぜでしょう。これも私の推定ですが、依然としてムラ社会体質の濃い日本企業の中では告発は非常に困難を伴うもので、多くの告発者は法律では守られていても、企業内では村八分になり孤立を深め、辞めざるを得なくなる。その中での告発はとても難しいのです。それでも勇気ある人々の行動は徐々に理解を得るようになり、臭いものにフタをせず、表面化させて企業体質を変えることが企業の存続には必要だという理解が深まったのでしょう。
最近の投資ファンドには「ESG投資」を標榜するファンドが増えています。ESGとは、E=Environment=環境、S=Social社会、G=Governance統治の略で、その3つを大事にする企業に重点投資をします。我々の年金を運用する超巨大投資家である年金運用機構GPIFすらそれを大事にする旨を投資方針に掲げました。
こうなるとムラ社会型の企業でもESG、中でもガバナンスやコンプライアンスを意識せざるをえません。もっと進んだ会社はそれを企業戦略の一つに利用しています。実は私がいた英国系の投資会社では内部告発は積極的にすべしと奨励していました。特に事業部門ではシステム開発の仕事が多かったのですが、システムエンジニアたちがおさぼりを決め込みいい加減なシステムを納入してしまうと、のちのち大問題に発展し会社は大損害を受けます。それを防止するための対策としてかなり以前から内部告発を奨励していました。もちろんそれは過去に痛い目に遭ったからです。
日産問題も政府を巻き込んだり、経営陣の確執などばかりに気を取られるのではなく、各企業は「不正」という身近な問題に対する警鐘として捉え、今後の経営に役立てるべきだと思います。
ガンバレ日本の製造業!