ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日本財政について、コメントへの回答です

2013年12月18日 | 2013年からの資産運用
Owlsさん、山ちゃん、FSXさん

 コメントをいただき、ありがとうございます。みなさんのやりとりを拝見しています。みなさんのおっしゃっていることにはそれぞれ共感できます。

 私の日本財政のデフォルトの見方はちょっとだけ違う見方かもしれません。山ちゃんからの以下のコメントに回答する形で私の考えをお示しします。

>では、名著「国家は破綻する」には、どれくらいの無理な数値が出ると、破綻に至ると例示しているのでしょうか。どういう根拠で、破綻が目前だ と判断されておられるのでしょうか。

 この著書では過去の数百年の例を並べていますが、これくらいからは危険だという基準は書いてありません。実例の数値だけです。

 例えば過去のデフォルトケースでこの30年程度で見ると、98年に相次いだのですがロシアの場合は歳入に対する債務の比率が5倍、パキスタンの場合は6倍。これらが最高レベルです。日本は今20倍もありますが、デフォルトしていません。
 同じく債務のGDP対比では、債務がGDPの1倍を超えているケースは上記を含めてほとんどなく、それ以前でデフォルトしています。ギリシャも1倍程度でした。

60年以上前の戦中の日本が今世紀ではほとんど唯一の例外で、2.5倍程度です。日本は今すでに2倍に達しています。

 ということで、数値で基準を作るのは個別事情が異なるので、無理なのです。


 デフォルトは国内債務のデフォルトもありますが、ほとんどは対外債務です。何故なら国内債務の場合、現在の日本のように中銀が国債を買ってしまえばデフォルトはしないからです。そのかわり、インフレという痛みがやってきます。著者の認定では年利率20%を超えたら、デフォルトと同じだとしています。

 日本も多分そうした状況になり、「デフォルトではない」と強弁するのでしょう。その時に痛みは国民の上にのしかかります。

 著者は日本版に寄せたまえがきで、日本の長期に渡る経済の低迷を、「特殊なケースだ」と書いています。きっとデフォルトしないのも、特殊なケースだと思っているのでしょう。

 しかし同じ前書きで一般論として「今度だけは大丈夫などあり得ない」。またそれは「無知と傲慢以外の何物でもない」とも書いています。

私は日本はまさにこれらに該当すると思っています。

以上、回答になりましたでしょうか。

 私は本日の夕刻から年末まで旅行に出かけますので、しばらくブログはお休みさせていただきます。今回はウェストコーストです。世界で一番元気なシリコンバレーを見てくるつもりです。

ではみなさん、よいお年をおむかえください。


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日本の財政は大丈夫か

2013年12月16日 | 2013年からの資産運用
 アメリカの財政に続き、日本の財政問題をアップデートしておきます。

 昨日、「来年度、日本国債の年間発行額が180兆円程度に」というニュースが流れていました。この額は実に年間の国家予算全体の2倍近い規模に達しています。

 来年度の予算を決める時期になりました。この時期になると政府はマイドマイド「新規国債発行額は前年度並みに抑える」と大本営発表を行います。額で言いますと43兆円です。しかし上記の日経新聞のニュースでは年間発行額はその4.5倍の180兆円だと、珍しく発行総額をニュースにしています。今年度が約170兆円ですから、来年度はそれよりも10兆円も多い金額を発行するのです。

 なんでそんなに差があるのかと申しますと、このブログでたびたび問題にしているように、政府の言う「新規発行」とは赤字をさらに増やす部分だけで、実際の発行額ではないからです。過去に借りた国債の償還が来ると、政府には返すオカネがないので借り換えのため償還分も新規発行するのです。それを大本営は黙っていて「新規発行は前年度並みの43兆円」と言うのです。

 180兆円をそのまま市中で売り出すととても消化しきれないので、クロちゃんの日銀がせっせと市中から既発国債を買い上げて消化不良を起こさないようにしています。これは先進国ではどこの国でも禁止している国債の中央銀行引受なのですが、ちょっとだけ市中を経由することでクロちゃんは日銀引受ではないと強弁しています。

 私が一番恐れているのは、そうした日銀批判すら最近はみんながしなくなっているということです。アベノマジックに見事にひっかかっているのが見てとれるのです。

 日銀による国債の爆食は、もう一つの重大な懸念を呼び起こします。それは「金利変動」という最も大事な経済の体温変化を感じることができなくなってしまうことです。株価変動も体調管理には大事な指標ですが、それは血圧の変動に似ていて、カッとなって上がったり、シュンとなって下がったりしますので、本当のトレンドを計りづらいのです。それに較べると金利変動は市場参加者がプロのみであることから、より冷静な動きをして、経済の底流を捉え易いのです。体温計なしに健康をチェックすることはできません。

 発行額180兆円の意味を考えましょう。クロちゃんの目論見どおりインフレが2%に達したとします。すると本来であれば金利が上昇して警告を発します。普通は金利も2%程度は上昇しますので、年間の金利負担は3.6兆円くらい増えます。計算は

新規発行180兆円 X 2% = 3.6兆円

 現在の年間税収は50兆円くらいで、それを3%の消費増税により7兆円余り増やす予定ですが、金利が2%上昇すればその半分は消し飛ぶ勘定になります。

 ところが、クロちゃんはそうした健全な動きを抑え込んでしまうため、日本経済は自分で体調管理機能を失っているも同然なのです。

 その帰結は?

 ある日突然・・・国債価格の暴落となる恐れが強くなります。

じゃ、アメリカはどうなの?

 アメリカの国債発行残高は日本よりもう少しあるのですが、経済規模が日本の3倍強ありますので、国債残高のGDP対比では日本の3分の1程度です。そしてFRBによる国債買い入れは日銀と同じ額程度なので、単純に計算すれば悪影響も3分の1程度ということになります。金利を抑え込む力も3分の1程度だということです。そしてすでにFRBによるテ―パリング、つまり緩和スピードを落とすことが本格的に議論されるほど健康状態が回復しつつあるので、心配はいりません。

 まとめますと、

・日本の年間国債発行額は実は年間国家予算の2倍にも達している

・消費増税など、金利上昇で飛んでしまいかねない

・クロちゃんは体温計を壊したので、日本は突然死する恐れあり


以上
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アメリカ議会の財政合意をどう見るか

2013年12月14日 | ニュース・コメント

12月10日に米議会の超党派により今後の財政に一定の合意が成立したニュースが流れましたが、米国債にかかわることでもあり、その内容をちょっと解説しておきます。

合意内容は
・今後2年は予算規模を年に約1兆ドル(103兆円)とする
・歳出の強制削減を2年で約600億ドル緩和する
・年金の掛け金の引き上げなどで財源を確保する
・社会保障制度や税制の抜本改革は見送り


報道各社の解釈は

日経新聞;これによって政府機関が閉鎖される事態は回避できる

ブルームバーグ;債務上限の引き上げは含まれておらず、2月以降に政府機関が再び閉鎖される可能性がある

フィッチレーティングス8格付け会社);政治的な瀬戸際のせめぎ合いが政府閉鎖や債務上限危機に再びつながるリスクを弱めることも示唆している


 とまあ、実は合意の解釈は結構マチマチなのです。

 こうした報道では10月の政府機関の閉鎖が国民の反発を招いたので、民主・共和両党が先手を打ったことになっています。それは正しいようですが、アメリカのアナリストなどの精緻な解釈では、「閉鎖の可能性はなくはない」ということのようです。

 投資家にとってより重要なのは政府機関の閉鎖うんぬんより、米国債のテクニカル・デフォルトがあるのかないのかです。それについては「債務上限の引き上げは合意されていない」ということを頭に入れておいてください。

 現在の小康状態はあくまで暫定合意によるもので、来年の2月7日には債務上限をヒットすることになりそうな状態にかわりはありません。

 ただしアメリカの世論も世界の世論もこのバカバカしい駆け引きにはうんざりしていて、アメリカ議会に「いいかげんにしろ」というプレッシャーは強まっています。

 私自身は「テクニカル・デフォルトなんかあったってどうってことない」とみなさんにお伝えしていますが、そのスタンスはかわりません。

 そこで林提案をお示しします。

「世界のインベストメント・コミュニティはテクニカル・デフォルト無視を宣言しろ」というものです。

 インベストメント・コミュニティという言葉、アメリカでは一般的に使われるのですが、投資に関わるすべての関係者を指します。機関投資家、証券会社、ファンドマネージャー、格付け会社、ISDA(国際スワップ・デリバティブ協会)などすべてですが、その中でも業界団体を持つ人達が横断的に「テクニカル・デフォルトはデフォルトに該当せず」と宣言してしまうのです。

 議会が争う時には「政府機関の閉鎖」と「国債のデフォルト」を人質にしますが、今回の合意により政府機関の閉鎖が遠のいたのは確かなので、もう一つのデフォルトもないと宣言しておけば人質がいなくなり、議会のドタバタだけがクローズアップされ、長い議論はしずらくなります。

 このブログの発信力程度ではとてもまともに取り上げてもらいないでしょうが・・・(笑)
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アベノミクス一周年をどう評価するか その6 3本の矢はどこに向かっているか

2013年12月09日 | 2013年からの資産運用
 ここまでアベノミクス1年の評価を書いてきました。おさらいしますと、

1.株価は68%の上昇、為替レートは25%の円安とアベノミクスを高く評価し思惑通りの推移となっている

2.最大のテーマ『デフレの克服』の評価を「インフレ率」と「経済成長率」で見てみると
・インフレ率は9月になりやっとプラス1%になったがその要因の9割がたは円安によるコストプッシュだ
・成長率は財政支出が支えているが、期を追うごとに低下している。一番大事な消費は賃金上昇がない中で物価が上昇するため、数量が抑え込まれている

 まとめますと、

 ・市場はアベノミクスを評価し、報道も大いに評価しているが、経済指標は市場とは逆に向いていて、評価はしていない

 ・一部の富裕層を除けばわれわれ国民は物価上昇による不幸の連鎖の中にいる

ということになります。そして来年を見通すと、どこの見通しも消費増税のネガティブ・インパクトから成長率の低下を見込んでいる、というのが前回まででした。

 では今回はアベノミクス3本の矢、財政政策、金融政策、成長戦略を簡単にレビューしましょう。

1.財政政策・・・評価××

使い古された伝家の宝刀財政支出は、相変わらずナンダカンダと理由を付けてはフル出動しています。4―6月期のGPD成長率のお化粧に使われ、消費増税の激変緩和にも使われる予定です。この政策は必ずあとでツケが回って来ます。これまで何百兆円使っても成長には結びつかず、むしろ中毒患者を増やすのみでしたが、今回もまた同じ轍を踏んでいます。TPPの行方次第でさらに中毒患者は増加予定です(笑)。いや本当に自由化すれば、中毒患者は減る可能性もあることも付け加えておきましょう。
 
2. 金融政策・・・評価×

クロちゃんが異次元緩和を唱えてから日銀は懸命に資金供給をしたのですが、初めから申し上げているとおり、そのお金はほとんどが日銀の当座預金にブタ積みされています。その額を3月末と10月末で比較しますと、日銀は国債を買って52兆円もマネタリー・ベースを増やしたが、そのうち47兆円がブタ積みさたという結果です。
 マネタリー・ベース +52兆円
 当座預金      +47兆円

世の中への資金供給は国債を売った銀行が、そのオカネを貸出すことによって行われるのですが、企業貸出は全く増えていません。クロちゃん唯一の貢献は、世界の緩和潮流に遅れずについて行き、上げ潮ムードを煽っていることでしょう。しかしこれは後になって爆発のマグニチュードを大きくすることにつながります。

3.成長戦略・・・ここまでは×ですが、もう少しゆくえを見てあげましょう
政府が集める有識者メンバーはいつも同じようなメンバーなので、デフレに陥って以来あいも変わらず毎年同じ作文を作り続けています。今回、唯一の新メンバーで期待の星であった楽天の三木谷社長は、岩盤規制を壊すつもりのない政府に嫌気がさして辞めてしまいました。

 とまあ、私から見れば3本の矢はいずれも従来の延長線上をまっしぐらに飛んでいるだけなのです。

 アベノミクス全体をとおせば相変わらず私の評価は厳しいものです。よいムードを作ったのは評価しますが、数字は逆を行っているものが多いからです。

 みなさんも一般の報道だけを見て道を誤らないことです。
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アベノミクス一周年をどう評価するか その5 民間消費支出は何故伸びないか

2013年12月05日 | 2013年からの資産運用
 前回はこの1年で2割の円安にもかかわらず輸出が伸びていない、ということを指摘しました。そしてその原因は海外経済の停滞などより、日本企業の海外シフトにあると分析しました。

 今回はGDPのなかで最大の構成比を占める民間最終消費支出についてです。アベノミクスの目論見その2がそのとおりに行っているかを見てみます。
目論見とは

②株高の資産効果で消費が伸びる

 では今一度今年のGDP成長率を構成項目とともに見ておきます。

        GDP     民間消費   公的資本形成    輸出
1月-3月    4.1       0.8         10          3.9
4月-6月    3.8        0.6         20          2.9
7月-9月     1.9        0.1         26          0.6


 アベノミクスが功を奏し始めた第2四半期の4―6月期に3.8%だった成長率は、第3四半期には1.9%にダウンしています。民間消費も同時期に0.6% から0.1%へダウン。ちまたで報道されている「高額商品が売れている」とか、安売り店でも「ちょっと高めの商品が売れ筋だ」とか言っている報道と実態は大きく異なり、第3四半期はほとんど伸びがなくなっているのです。

 しかもこの時期は来年4月からの消費税導入が決まり、その前に買っておこうとする駆け込みが徐々に始まった時期でもあります。

何故こんなことになっているのか?

一つは報道されているのは都市部の目立つデパートや高級ブランド店の動きのみで、いなかのスーパーなどの動きは無視されている。それに対してGDP統計は全国ベースだという差からでしょう。

二つ目は、これが一番大切なのですが、エネルギーや食料品の値上がりが、他の消費支出を抑え込んでいるからだと思います。賃金・年金などの収入が上がっていない中、買わざるを得ないエネルギーや食糧が値上がりすれば、当然他の消費は抑えざるを得ないのです。

 このことは来年の4月以降、もっと重要になって経済全体にのしかかります。物価上昇が賃上げに先行している状態が継続する中で、消費増税がさらにのしかかるからです。

簡単なシミュレーションをします。

消費増税3%が物価全体を2%押し上げると推定されています。賃上げ・年金上げがなければ、その2%の増税分は何らかの消費をセーブしないといけません。消費はGDPの60%を占めるので、GDPは増税により1.2%低くなります。計算は

2% X 0.6 = 1.2%

 この単純なシミュレーションは、民間のエコノミストや政府などが出す今後のGDP見通しにすでに反映されつつあります。どの見通しも今年の成長率はだいたい2%台、それに対して来年の成長率はだいたい1%台になっています。

 だからといって私が消費増税に反対しているわけではありません。今後も黙って消費増税に堪えないと、あっという間に財政破綻が来てしまうからです。それに対して本日政府が5.5兆円の経済対策を打つと報道されています。毎度毎度の今回限りの経済対策です(笑)

 そして来年度が始まる頃までにもし株価が下落しようものなら、オネダリ君達の大合唱が始まり、日銀のクロちゃんも打つ手がないのに手を打たざるをえなくなるでしょう。

つづく
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