ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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2013年からの資産運用 その11、 公的年金はどうなるか

2013年02月27日 | 2013年からの資産運用
今回からは年金のお話です。日本の年金システムはとても複雑なので、ごくごく簡単にしてお話をさしあげることにします。

年金の代表選手として、厚生年金・国民年金を取り上げます。

  そもそも日本の公的年金は、自分で積み立てた分を自分で取り崩すのではなく、現役世代が積み立てた分をリタイア世代が年金でもらう賦課方式という構造になっています。高齢化が進めば、当然そのシステムは成り立たなくなるので、システムの改定が時々行われ、支払い開始年齢を引き上げたりします。

 と書いたものの、なんかヘンなことを書いたな、と思っています。

 何故なら団塊の世代が生まれた以降の出生率低下を見れば、高齢化の進展など小中学生でも計算できるのに、オクニはそれを甘く見ていたことになるからです。それと、運用利回り計算をタヌキの皮算用でやっているのです。

「えっ、オクニは将来の支払いを約束してくれているんじゃないの」

  約束しているはずなのに、見込みが違ったってことで条件を悪くする改定をたびたびするんですよ。

「だって人口が減ったりするのは、わかってんでしょ」


  もちろんです。でもはっきり言って、見栄えがいいように出生率を甘めに見た計画を作っては改定する、というのを繰り返しています。

  それに人口ばかりじゃなくて、運用利回りの見通しもおお甘にして、「ごめん、計画通り儲からなかった」ってやるんです。

  その上に社会保険庁の職員がドロボウしたりするので、ますます計算が狂っています。そう言えば、ドロボウ職員は処罰を受け、全部返済したんでしょうかね?

「じゃ、今後年金制度は破綻するの?」

  いいえ、破綻はしません。支給開始年齢をどんどん上げて支給額も減らし、現役世代からの保険料をどんどん上げて行けば破綻はしません。しかし世代間の不公平さはとんでもないレベルにまで達し、支払い拒否が起こってもおかしくないレベルになるでしょう。

  国民年金はすでにそのレベルに達していて、現役世代の支払い率はたったの4割です。

「えっ、6割って聞いたけど?」

それはね、大本営の発表です。これにも役人がよくやるゴマカシがあるんです。払うべき人の数を分母としないで、払う能力のない人の数を除いた人数を分母としているので、2割も差が出るんです。

「へー、半分以上の人が払ってないんだ」

そうです。これじゃ国民年金がもつわけありませんよね。それで国民年金は維持不能ってことで、厚生年金にくっつけたのです。つまりサラリーマンが国民年金分も含めて支えなきゃならない、ってことになったのです。これが非常に大雑把に見た日本の年金システムです。

  私は年金の専門家ではありませんので、制度運営の細かいことまで見ているわけではありません。ただし、そうしたことを専門にしている大学の先生方の論文などを確認しながらみなさんになるべくわかりやすく実態を見てもらっています。

つづく
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2013年からの資産運用 その10、 年金保険はどうすべきか

2013年02月26日 | 2013年からの資産運用
ここまで年金保険について私の考えを述べてきました。

ある方から次のような質問を受けました。

「保険会社だって長期の国債を大量に買うことは大きなリスクになることをわかっているのではないか。なにの何故こんなにリスクを背負ってしまったのか?」 というものです。

私の答えは、「他に買える物がなくなったから」です。

保険会社は利回りを「予定利回り」 としてコミットし、それを実現すべく運用を行います。20年前の株式と不動産の暴落で大きな痛手を受け、それ以来株式や不動産での運用は相当慎重になっています。そしてその後高い利回りを求めて外債投資にかなりウェートを掛けましたが、それも円高で再び打撃を受けました。

  残るは日本国債を中心とする国内債券です。なかでも安全性と流動性の高い国債に集中し、高いイールドを得るために長期債をしこたま買い込みました。そしていつでもどこでも同じですが、業界ぐるみで同じことをするのです。

「人の行く、裏に道なし日本人」

(注)株の格言、「人の行く、裏に道あり山の花」をもじっています

 私に言わせれば、生保全体で資産の4割を国債に投資してしまうまで来てしまうのは「みんなで渡れば怖くない」という心理が働いているとしか思えません。しかし他の資産だったらまだしも、国が破綻に瀕したら、オクニには頼れなくなるのにね。
 ゆうちょが8割を国債にあてているので、それに較べりゃまだまし、ということもあるのかも。

 銀行では最大手の三菱UFJが長期債から短期債へ完全にシフトしたのですから、生保でも1社くらい「日本国債への投資はやめた」と静かに宣言すれば、そこに資金がある程度集まりそうな気がします。

次回からは、公的年金についてです。
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2013年からの資産運用 その9、 年金保険はどうすべきか

2013年02月25日 | 2013年からの資産運用
前回は、生保の運用の中身は長期の国債に極端に偏っている。資金の4割は国債に投資され、その平均年限が10年だとお伝えしました。そのため生保の存続はひとえに国債にかかっていることになります。

生保にオカネを預けるということは、国債リスク=生保の倒産リスク、そして円リスク、なんかリスクの塊のように思えますね。

 「外貨建て年金保険」というのが最近売れているそうですが、これならどうか?

  証券会社で米国債を買うと、証券の管理口座は分別され証券会社の倒産リスクは避けられます。しかし保険会社はそうはいきません。もちろん破綻後に残余財産が残れば多少の分け前にはあずかれますが・・・

  というように保険会社にオカネを預ける、つまり貯蓄性のある保険商品は、私の投資スタンダードからすれば最悪の選択です。保険会社は運用の4割を国債投資に回しています。普通の円建て貯蓄保険であれば、自分で国債を買えば同じこと。保険会社の儲け分得しますし、保険会社の倒産のリスクも回避できます。といっても、国債が破綻するのでは自分で買っても破綻は破綻ですが・・・

  外貨建て年金保険でも同じで、自分で外債を買えば保険会社の倒産リスクから解放され、保険会社の儲け分は自分で確保できます。もちろん、定期的に○万円を受け取り続ける、というような仕組みは自分では作れません。しかしリスクの回避に比べれば、それくらいの不便は我慢すべきです。

  米ドル建ての年金保険の裏の仕組みは、保険会社がみなさんから預かったオカネで米国債に投資しているだけ。豪ドルなら豪州国債への投資だし、ユーロ建てならドイツ国債などへの投資をしていて、年金の支払いに備えているのです。そうすることで保険会社は為替のリスクを回避し、金利収入を得て、儲けを確保してから余った分で加入者に年金を払うのです。

  ということで、年金保険とはいかにもそれらしいネーミングのためメリットがありそうですが、仕組みからして余計なリスクと保険会社の利益に貢献する商品なのです。

じゃ、保険部分は?

  年金保険は年金部分といざという時の保険部分に分けられます。もし保険部分に必要性を感じているなら、掛け捨て保険に加入すればよいのです。掛け捨ての場合支払った保険料は少ないので、保険会社が倒産したらあきらめがつきます。そして次回分からは他の保険会社にすれば済みます。外資系のほうがコスト構造からして保険料も割安になっているようですし、日系と違い年金保険を扱っていないので、日本国債暴落で倒産というリスクも比較的小さいと思われます。

  「なるほど、言われてみれば手数料払って保険会社のリスクまで取って、いいことないね」

  そうでしょう。個人の加入する年金保険とはしょせんそういう構造を持つものなのです。

じゃ、もう買ってしまった年金保険はどうしたらいいの?

  端的に言うと、解約をお薦めします。

  長期に渡る年金での受け取りより、解約で一時金を得るほうにメリットがあると思います。メリットとは

1.保険会社の倒産リスクから解放される
2.一時金を外貨に投資すれば円安リスクを回避できる
3.インフレリスクから解放される(通常インフレスライド条項はない)


  もちろん解約はタイミングによって得失が出ますので、みなさんの個々の契約状況により結論の出し方は異なります。しかし基本的に銀行より倒産のリスクの大きな生保に年金保険を頼るのは危険です。生保は銀行と違い、みんなが加入しているわけでもないし預金と違い毎日オカネを引きだしたりする決済機能もないので、いざという時にオクニは守ってくれないおそれがあります。

  そしてアベチャンの政策リスクは預金のところで示したリスクと同じで、円安とインフレのリスクにさらされることになります。


 まとめますと

1.保険会社は資産の4割を「長期国債」メインに投資し、オクニと心中するつもりだ(笑)
2.貯蓄性保険は保険会社のリスクをマルマル取るので、やめたほうがよい
3.特に年金保険は金額も大きく長期にわたり保険会社のリスクと付き合うことになるので、解約を検討すべし
4.アベチャンは円安、インフレを目指しているので、インフレスライド条項のない年金保険は最悪の選択
5.保険そのものはリスクの少ない掛け捨てにすればよい

保険会社さん、ごめんなさい ペコ
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2013年からの資産運用 その7、 年金保険はどうすべきか

2013年02月22日 | 2013年からの資産運用
 前回までのまとめです。

  アベチャンの政策がうまくいったとして、その結果は「円安とインフレ」をもたらしてくれます。

 すると「銀行が破綻しなくても、預金や現金で持っている円自体が対内的にも対外的にも価値を失う」というリスクをもたらしてくれます。

もちろんアベチャンの政策が失敗すると、最悪のケースは

1.円安インフレなのに賃金は上がらず、我々は窮乏化する
2.増発された国債で財政が破綻の淵に立たされ、国債の暴落、銀行破綻のリスクが生じる


 ということになります。私から見ると、アベチャンの強引な政策は、どちらにころんでも良い結果が出るとは思えないのです。


  さて今回からは、年金保険はどうしたらよいかのお話しに移ります。

  保険という商品は保険会社の倒産リスクを取ることになる商品だということをまず念頭に入れてください。

  90年代の終わりに、中小保険会社が倒産の嵐に見舞われ、返ってくるはずの保険が返ってこなかった経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。選ぶなら大手、ということですが、実際には倒産の嵐のあと合併の嵐がきて小さい保険会社はなくなりました。それでももちろんより大手にこしたことはありません。

  「ソルベンシーマージン」という言葉をお聞きになったことがあると思います。生保の安全性の指標です。銀行の自己資本と同様、高ければより安全です。「保険会社を選ぶ時にはこの数値をチェックしましょう」というのがちまたのファイナンシャル・プランナーの言葉ですが、私は

「年金保険はやめておきましょう」と申し上げます。

 それは置いておき、保険会社のリスクを具体的に考えて行きます。みなさんにとって気になるのは、貯蓄性の保険、しかも特に遠い将来に渡って受け取る年金保険の安全性でしょう。

  保険会社は将来の年金保険の支払いに備えるため、基本的には保険料収入を長期の債券や株式、不動産、外貨建債券・株式などで運用します。
  長期の支払いのために長期の商品で運用するのは基本中の基本です。でもバブル崩壊で不動産に懲り、株式では損失が出続けているので、彼らの運用はより安全な債券にシフトを強めています。ついでに言うなら外貨建て投資でも為替で損を出し続け、やっとここにきて一息ついているはずです。

 外債投資は私の提唱するように、単純に超長期で超安全な米国債だけ買い、償還まで持ちきれば円高なんかぜんぜん恐くないのに、切った張ったの債券ディーリングをしたり為替のヘッジをしたりはずしたりするので損失を出すのです。

  ここでもやはり年金保険の将来リスクは生保の国債保有の多さに行きつきます。生保全体の国債保有は約60兆円、経済誌の推定ですが償還までの平均年数は約10年です。ポートフォリオの中身が長期債ばかりのため、銀行よりはるかに価格リスクが大きいことになります。

 もし国債相場が下落すると銀行より激しく倒産の嵐がふたたび吹くことになります。

つづく
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ナッキ―さんのコメントへの返答

2013年02月20日 | 2013年からの資産運用
ナッキ―さんから16日にいただいたコメントへの返答です。

  私の著書を熟読していただき、本当にありがとうございます。

  ナッキ―さんのお話は、みなさんへの参考になると思いますので、コメントをこちらの本文でさせていただきます。

>ご本の趣旨やこのプログも、企業の財務責任者として、熟読吟味いたしまして、今後の対策を実施するうえで、十二分に活用させていただいています。今までのところ相当の成果が上がっており、将来のリスクに備えるための基礎固めができました。事業のキャッシュフローと相談して、今後も続けていきます

  私の著書ですが、内容は個人的に細々と私見を書いたものではありません。もちろん最初のドラフトはサイバー・サロンというバーチャルなサロンへの私の投稿が基礎になっています。

  その後出版するにあたっては、同窓の友人や投資銀行時代の金融プロの友人、某証券会社トップから某BOJ出身者まで、様々な方々のチェックとアドバイスを受けました。そして『債券投資の教科書』的なものを目指しました。

  ですので、ナッキ―さんのような企業の財務責任者の方に上記のようなコメントをいただけると、まさに著書の目指すものが実現できたかと、非常に喜んでいます。

  同様に、個人投資家の方から多くのご支持をいただき、大変嬉しく思っています。

  ナッキ―さんはブログにコメントをいただいた方では「財務責任者であると同時に個人投資家」の両面を持つ初めての方です。私の著書にある財務部長氏と同じですね(笑)


 さてまず企業で投資をされている投資対象ですが、企業防衛を第一に考えるなら、とてもよいポートフォリオだと思います。

  今後も相場に振り回されずに慎重な投資姿勢を続けてください。チャンスはたびたび巡ってきますので。

そして個人投資家としてのナッキ―さんへ

>個人としては、私は株式投資で成功してきたものですから、日本円のリスクを避けつつ運用の実を上げる目的で、個人の資産防衛については、米国企業を中心に英豪企業も交えた30数社のブルーチップやグローバル企業へ投資しています。

  株式投資で成功を収めているとは、たいしたものだと思います。
あげていらっしゃる銘柄を拝見すると、これまた日本の円のヘッジには素晴らしいポートフォリオになっているご様子ですね。

  印象としては、私が最も尊敬する投資家、ウォーレン・バフェット氏の戦略に近いものと思われます。企業財務を見ていらっしゃると、私が著書でこれでもかと強調していた「安定したキャッシュフロー」を得ることの重要性を本当に理解されている方だと思われます。ブルーチップはまさにキャッシュフローを生むキャッシュ・カウ(カネを生む牛) です。ですのでナッキ―さんに「株などやめなさい」などとは決して申し上げません(笑)。

  株式投資に自信のない読者の方がもしナッキ―さんを見習うなら、バフェットじいさんにおまかせしてバークシャ―・ハサウェイ株に投資することをお薦めします(笑) 

>日本がおかしくなったときには、こうした DIVIDEND ARISTOCRATとはいえ、株価にどう影響するか

  もちろん日本の財政問題の顕在化は規模からして、世界に激震をもたらすでしょう。その時に思いだすべきはバフェットじいさんがリーマンショックの最中に言った言葉です。

「この暴落の最中に、FRBと私が市場に流動性を供給しなかったら、いったい誰がするんだ!」と言い放って、08年のリーマン破綻以降、敢然と暴落に立ち向かったのはFRBとあのじいさんでした。

  アメリカをはじめとする世界企業の実力を信じるなら、同様な戦略が奏功するのではないでしょうか。

>せめて四半期ごとにいただく配当だけでも企業への再投資に回さずに、MMFないしタイミングを見て米豪ドル債にしようかしら、とも思ったり  

  私のお薦めは、株への再投資より激震の時に備えるMMFか、激震でむしろ値上がりする安全な債券です。債券はある程度まとまった金額が必要になるとおもわれますので、当面はMMFでしょうか。配当のドルをドルで保有していれば、投資の時の為替レートを気にする必要がありませんしね。

「株で得たオカネは、株でなくさないこと」が一番です!

今後の成功をお祈りします。

(注)「流動性を供給する」とは、FRBで言えば銀行に無限に現金を注入する現在のテーマのこと。バッフェットじいさんの場合、買い手のいなくなった相場にカネを入れ莫大な投資をすることを指します。
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