ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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人の行く裏に道あり花の山

2023年12月27日 | 株式市場

 人生で最も肝に銘ずべき格言の一つは、「人の行く、裏に道あり花の山」だと私は思っています。実はこの格言は相場の格言として有名ですが、私自身の人生を振り返るとおよそこの格言に沿って人生を歩んできたように思えます。まあ、単に天邪鬼であるとも言えますが(笑)。

 このところ投資の世界では、年初から始まる「新NISA」に引きずり込もうと、各金融機関が必死で騒いでいます。

 

「世の中に蚊ほど五月蠅きものはなし、NISA、NISAと夜も寝られず」

 

と言っていいほどです。すべての証券・銀行が何としても口座を獲得しようと、攻勢をかけています。

 23年の株式相場は大いににぎわい、年間2割高で終わりそうです。こうなると強気筋は今33,000円台の日経平均は来年末までに39,815円の89年高値を破るのは当然だ、と言い始めています。そしてその材料に使われているのがNISAです。

 

 12月24日の日経新聞によれば、

「2024年1月に始まる新NISA(少額投資非課税制度)で、毎月定額で投資信託を購入する積み立て設定の事前予約額が少なくとも2000億円規模にのぼることが分かった。申し込み金額の上位には米国をはじめ海外資産で運用する投信が並ぶ。成長を求めて個人マネーが海外に向かう構図が鮮明だ。SBI証券、楽天証券、マネックス証券、松井証券、auカブコム証券のネット証券大手5社に20日までに聞き取った」とのこと。

 ネット証券だけでこの額であれば、いわゆる大手証券を入れると全体では2倍は固いところかもしれませんね。もちろん大手証券であればあるほど単純に旧NISAからの乗り換えが多いので、新規の口座開設だけではないとおもいますが。

 

 日本政府はNISAで日本株への投資拡大を目論んでいますが、予約内容はそのとおりではなく、海外株の投信に偏っています。この傾向は新NISA開始だからということではなく、この数年の一般的傾向です。投資動向を見ると数年から10年単位での実績でも圧倒的にアメリカ株が優勢で、ドル高がさらにサポート材料になっています。

 その投資対象はGAFAMの5社だけではなく、それにAI銘柄として業績を上げているエヌビディアとテスラを加えた7銘柄、最近名付けられた「マグニフィセント7」が本命となり値上がりが突出しています。

 

 日本株もアメリカ株も好調を続けていてそこに新規参入があり、さらなる高値が見込めるとなれば、そこでこそ役に立つのは「人の行く、裏に道あり花の山」です。

 どうしても新NISAで投資をしたいというのであれば、この「ハヤリ物」による相場がひと山超え暴落が始まってから、ニッコリ笑って「人の行く、裏に道あり花の山」とつぶやきながら投資を開始しすべし、それが株をやらない私のお勧めです。

 

 この格言、実は千利休の教えの上の句で、下の句も入れると、「人の行く裏に道あり花の山、いずれをいくも散らぬ間に行け」です。

 ではみなさん、良いお年を!

この一年、お付き合いいただき、ありがとうございました。

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株式暴落はアナリスト・ショックだ !

2022年09月14日 | 株式市場

  アメリカのCPIのショックがアメリカ株はもとより、世界中の株価を大きく押し下げています。この暴落を報道各社は「CPIショック」と見出しを付けていますが、私はそうは思いません。

  正しくは、「アナリスト・ショック」です。いったいどういう意味か。

  NYダウは1,700ドル近く暴落しましたが、その前4日間は上げ続けていました。買いの根拠はアナリストによる8月の「CPI上昇率が8.0%で、それくらいであればFRBも1%の利上げというような強硬策には出ないだろうという見通し」だったからです。

  それがたった0.3パーセント・ポイント上振れただけで1,700ドルの暴落とは。アナリストの見通しを妄信した投資家が愚かだったからでしょう。勝手に低めの見通しを出し、それに勝手に乗っかっただけのことです。

  証券系のアナリストは、いつだって買いシグナルを出したがるものだという単純な事実を無視するからこういうことになるのです。

  

  アナリストがどの程度の実力を備えているか、次の例を見ればすぐにわかることです。今回のドルのラリーが始まる前、ドル円相場の解説をするアナリストがいつも言っていた言葉をみなさん覚えていますか。円が高くなるといつもこういっていました。

「リスクオフとなり、比較的安全通貨とみなされている円が買われた」です。

  解説します。株式相場を言い表す「リスクオフだとかリスクオン」だとかの言い方は比較的最近になって言われている言葉で、要は「強気相場、弱気相場」をちょっとかっこよく言っただけの言葉です。相場の解説にあたって何の根拠も示すことができないときのアナリストの苦し紛れの解説言葉に過ぎません。つまり円高に振れたとき、為替のアナリストは根拠を示すことができない場合、「リスクオフだから円が買われた」といっていたのです。

みなさんは私が常にそれを批判して、「円のどこが比較的安全なんだ」とわめいていたのも覚えていらっしゃるかもしれません(笑)。

 

  それが最近はどうなっているか。

「リスクオフとなり、比較的安全通貨とみなされているドルが買われた」。

と真逆の解説がされるようになっています。昨日のように株価が暴落する=リスクオフとなり、円ではなくドルが買われたというのです。

 

  こんな正反対の解説を恥も外聞もなくするのは、さすがに数十年相場を見てきた私もみたことも聞いたこともありません。なんといういい加減な連中なのでしょう。しかも前説をくつがえしたことを誰一人として言い訳や反省するでもなく、マスコミもアナリストに盲従しています。

  このいい加減な連中が出した8.0%という見通しを信じて買いに走った投資家さん、お気の毒様でした。

  以上、「株式暴落はアナリスト・ショックだ」でした(笑)。

  おまけ、

 米国債に再び買いサインが出ています!

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ロビンフッダーよ、図に乗るなかれ

2021年02月02日 | 株式市場

  前回アメリカの株式市場で巻き起こっているロビンフッダーの動きについて書きましたが、追加で一言。

  今回の成功に味をしめ、彼らが新たなターゲットとして銀相場に目を付けたというニュースが流れ、銀相場と銀鉱山株が上昇しています。私は、彼らは今回は失敗すると見ています。その理由は、彼らは資産運用で最も重要な要素である「流動性」を無視しているからです。ゲームストップ株を上昇させた要因は彼らの力だけでなく、小規模企業株の流動性の低さにあります。   

  もともと株数の少ない、つまり流動性のない銘柄に大量の買いをいれれば暴騰するのは当たり前。空売りをしていたヘッジファンドも、プロにあるまじきポジションの取り方をしていました。空売りは大型株を対象にしないと痛い目に遭う。相場師の常識です。例えば株数の多いアップル株ではそう簡単に価格を持ち上げることなどできませんし、売り崩すこともできません。

  銀は金ほどではありませんが、流動性は十分です。現物も先物もオプションも十二分に流動性を持つため、簡単に大幅値上がりを作り出すことなどできません。

 

  かつてそれで大失敗したのが南部アーカンソーの石油王ハント兄弟です。79年に世界中の銀を買い占めると宣言して先物買いに走り、確かに価格は一時5倍と急騰したのですが、出てくるは出てくるは、いくら買っても出てくる売り物に買いが追い付かず、価格は暴落。遂に追証を払いきれずに敗退。大損害だけが残るという結果に終わっています。

  その時には本当かどうか知りませんが、家庭にある銀食器を溶かしてインゴットにして売却したというエピソードまでありましたとさ(笑)。

 

  流動性の大切さとハント兄弟のエピソードを知っているはずのプロの投資家は、きっと冷ややかにロビンフッダーを眺め、天井での空売りチャンスを見極めているに違いないのです。

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ロビンフッドは義賊か

2021年02月01日 | 株式市場

  アメリカの株が乱高下を始めています。

  その最大の原因は、もちろん通常の価値評価をはるかに上回る株価の上昇による高値警戒感です。特に先導役となっているテスラ株はPER株価収益率でいうと200倍というレベルで、2000年のITバブルを超えるところまで買われています。その他のGAFAMも高いPERまで買われていて、警戒警報が鳴らされています。

  しかしこの一週間は別の要素が出てきて相場を振り回していました。それがタイトルにある「ロビンフッド」の存在です。といっても、もちろん森に住むかの有名な義賊のロビンフッドではなく、その名を借りている株式の無料取引アプリです。会社の発表によればそのアプリの個人によるダウンロード数は19年12月にすでに1,000万を超えています。それがこの1年、コロナ禍の中でさらに300万人が参加したとニュースになっていました。取引手数料が無料であるばかりでなく、取引金額も1ドルから可能と、初心者にとって非常にハードルが低いのが特徴で、面白半分での株取引が可能となって、ミレニアル世代の若者が多く参加していると言われています。もちろんコロナによる外出制限も大いに貢献しているのでしょう。

  参加者の大多数は金融資産が少ないただの個人なのですが、それが1,000万人という塊になることで巨大な力を発揮しています。ではそこに参加しているロビンフッダーがどれほど相場を動かしたのか。動きが際立ったゲームストップという企業の株価を見てみます。

  ゲームストップ社はすでに廃れつつあるビデオゲームを店頭で販売する会社で株価は長く低迷し、そのうち廃業するだろうといわれていた企業ですが、その株価が暴騰したのです。長い間株価は1ケタ台と倒産領域にいました。それが今年どうなったか、株価の推移を追います。(ドル)

1月4日  26日  27日09:30 10:00 11:30 16:00  29日16:00

$17.25  43      352   469   132  197     325

  年初の17ドルあたりから何故か株価が高くなり、それをめがけて空売り専門ファンドが空売りのポジションを積み上げ始めました。その後26日の43ドルに至る過程で個人も買いと売りの取引を増加させ、特に空売りのポジションが多きく積み上がったのです。

  そこで登場したのが無料アプリ、ロビンフッドを利用する多くの個人投資家、ロビンフッダーです。彼らはSNSのReddit内にある株式情報フォーラムであるWallStreetBetsを利用して、「空売り勢を締め上げろ」と狼煙をあげました。それが27日になって株価の暴騰を呼びました。最高値は483ドルにもなっていますので、年初以来では28倍。前日比でも3.3倍と瞬間的に暴騰しています。

  では、「空売り勢を締め上げろ」とはどういうことか。英語ではshort squeezeと言います。簡単化して説明します。空売り勢は株を持っていないのですが、高値だと見れば株式そものを所有者から借りて市場で売却し、あとで安くなった同じ株式を市場で買い戻して返却するという形で利ザヤを稼ぎます。高低差が利ザヤです。

  ところが思惑に反して空売りした価格より株価が上昇してしまうと、それ以上高くならないうちに必死に買い戻そうとします。その瞬間はロビンフッダ―も買い、空売り勢も買うので価格が一挙に跳ね上がる状態になるのです。空売り勢は藁をも掴む状態で買いに走るのため、ロビンフッダー達はニッコリ笑って買った株式を売ってあげるのです。日本の株式用語では「踏み上げ」と言います。もちろん逆に売り場を失って高値を掴んだままのロビンフッダーもあらわれます。

  こうした株式市場での攻防は、実は日常的に起こっているのですが、今回の例はあまりにも激しい動きだったのと、以下の別の要素で大きなニュースになっています。それは、正義の味方ロビンフッダ―対悪徳巨大ヘッジファンドという構図になったことです。

  アメリカでは去年一年で主に株式を保有する億万長者たちが1年で資産を3割も増やしたことが大きなニュースになり、その中でもヘッジファンド長者が妬まれる構図があります。悪いことをしているわけではないのですが、妬みが悪意になり、今回は「やっつけろ」となりました。数年前に「ウォールストリートを占拠せよ」という運動が大々的に起こりましたが、それに似た動きともとれます。その時は若者に支持を受けた社会主義者を標榜する大統領候補バーニー・サンダースがヒラリー・クリントンを脅かしました。

  先ほどのゲームストップ株がロビンフッド達の締め上げによって極端な高値になっていた時、ロビンフッドの運営者が取引に自主的制限をかけ、一転して下落に転じました。そうした制限などによる一部の株価の乱高下はアメリカ株式市場全体にも悪影響を及ぼすまでになっています。理由はこれまで株価上昇を支えていたヘッジファンドからの資金流失懸念です。最初に申し上げたように、もともと現在の株価は高値警戒圏にあるため、ちょっとした悪材料に反応しやすくなっています。

  ヘッジファンドは株価上昇の主役の一人であると同時に、下げ局面でも主役になります。下げにより投資家がヘッジファンドから資金を引き上げると、ファンドは株式の売却により返済原資の確保に走る。すべてが逆転をはじめるのです。

もう一つの視点は、SEC証券取引委員会による査察です。今回使われたSNSでの「空売り勢を締め上げろ」が証券取引法の相場操縦に当たるか否か、またロビンフッド運営者による取引の制限が違法にならないかなどの調査が始まりました。市場を扇動するのは日本でもアメリカでも違法行為になる可能性がありますし、取引の制限も同様です。

  一方で取引制限を個人の権利の侵害だとして、大統領の予備選で候補となったオカシオコルテスなど一部の議員が騒いだこともニュース種のひとつになっています。彼女はバーニー・サンダース寄りの考えを持っています。

  以上、ロビンフッダーとヘッジファンドの攻防に端を発した株式相場の乱高下の解説でした。

(注)ロビンフッドが何故手数料なしで株式取引のアプリを運営できるかといいますと、一つは一部の有料投資家からの収入で、そうした投資家には著名アナリストなどの株価分析資料が提供されます。しかし一番の収益源は、株式取引には当然デポジットが必要で、そのデポジットの運用益が入ります。それと先ほどの説明では簡略化して株の売りと買いとしましたが、実際にはかなりのオプション取引が行われます。そのオプション取引での儲けも収益源になります。

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日米株式市場回顧録

2020年11月25日 | 株式市場

  ニューヨークのダウ平均株価が3万ドルを超えましたね。米国株に投資をされている方も多いと思います。ご同慶の至りです。

  アメリカ人の多くは長期の積立投資で税控除が受けられる401K制度で株式投資をしています。金融資産に占める株式や投信の割合は、日本の13%に対してアメリカは45%。反対に現預金は日本の54%に対してアメリカはわずか14%です。

  従ってアメリカ人にとって株高は消費や住宅投資にプラスに働くため、それが将来の企業収益を改善し、さらに株高を支える材料になります。しかし株価が反転すると、逆に負の連鎖になりますので要注意です。

 

  株価が割高か否かの判断材料となるPER(株価収益率)はアメリカですでに30倍に近いレベルに到達しています。従来企業収益に対する株価の倍率は15倍程度が妥当、20倍を超えると行き過ぎと言われていました。その水準をすでに大きく超えるところまで株は買われています。日本でも倍率は25倍に達しています。

  それを作り出しているのが各国中央銀行による超緩和策ですが、このところのコロナ禍もあって引き締めの気配は一向にありません。

  では緩和策が続く限り株高はどこまでも高進するのでしょうか。私はそうは見ていません。学生時代から50年以上相場を見ている人間ですから、単純に考え、高くなり過ぎた相場はそれなりに下落すると思っています。

  日本の株価もアメリカに引きずられるように高くなりました。最近は、「20数年ぶりの高値」という言葉を毎日のように聞くようになりました。日経平均株価で89年末のピーク38,915円と比較すると、現在の26,500円は7割のレベルにまで回復しました。ちなみにバブル崩壊後のどん底は2009年の7,600円くらいでした。そこからは3.5倍になっています。

  日米の株価を比較すると、この30年間で株式相場は歴然と差がつきました。NYダウは90年年初の2,770ドルが現在3万ドルへ約11倍も値上がりしています。

 

  そしてもう一つの株式市場の見方で見ると、実はもっと違った景色を見ることができます。それは市場規模全体を表す「時価総額」の指標です。一社の株式数に株価を掛けると会社の時価総額が計算できますが、すべての銘柄の時価総額の合計が市場全体の時価総額です。

  今年10月末の日本全体の株式時価総額は624兆円です。バブルの頂点での時価総額は611兆円でしたから、実はバブルの頂点を若干ですがすでに超えているのです。

  先ほど示したように日経平均株価はまだピークの7割ですのでずいぶん景色は違います。この理由は、上場株式の銘柄は89年末のピーク時から大きく入れ替わっていますし、銘柄数が非常に多くなっていることによります。このため時価総額は大きくなったのです。ちなみに東証1部の1990年の銘柄数は1,190。現在は2,173と約2倍になっています。

 

  一方アメリカにはNY市場だけでなく、ナスダック市場という大きな市場があり、存在感を強めています。数字で比較しますと、NY市場の時価総額21兆ドルに対して、ナスダックは16兆ドルもあり、76%に相当します。日本のナスダックに相当するジャスダックやマザーズ市場は東証に比較するとわずか5%しかありませんので、端数のような存在です。

  円貨で換算するとNY市場の時価総額は2,200兆円、ナスダックは1,680兆円と巨大で、日本全体は624兆円に過ぎません。寂しい限りです。

  特にナスダックに上場されている企業でGAFAMという巨大銘柄群の時価総額を並べてみますと、

 Google;124兆円

 Amazon; 162兆円

 Facebook; 82兆円

    Apple; 204兆円

 Micro Soft;168兆円

  たった5銘柄で合計740兆円と、日本全体624兆円を超えてしまいました。ちなみに日本で最大のトヨタの時価総額は21兆円です。

  つまりアメリカの株式市場は株価の上昇もさることながら、ハイテク新興株の著しい成長に支えられていることがわかります。経済の好循環を作り出す、アメリカの経済力の源泉がここにあります。

 

  では果たしてこの日米の株価の上昇はどこまで続くのか、楽しみに見ていきましょう。私の見方は、最初に「PERという指標で見て買われ過ぎ」と申し上げました。「超長期の視点から、妥当なPERにいずれは収れんする時がくるだろう」と思っています。

 

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