ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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彷徨さんへの回答 アメリカのリスクと分散投資について

2013年11月29日 | 2013年からの資産運用
 彷徨さんの質問をお借りして、現状で私がアメリカのリスクをどう見ているか、簡単にレビューします。

>今回もそうですが、手っ取り早い効果を期待して金融頼みの経済運営が行われるようになった結果、世界中がカジノ経済化してしまい、バブル崩壊とともに信用秩序の維持を大義名分にそのツケを各国とも国民に負わせることが日常化している現状が一方にあると思います。

 そのとおりですね。各国の中央銀行が金貸しになってバクチを奨励していますね。実体経済に対する資金供給のつもりが、いつも金融市場への過剰供給につながっています。中央銀行はルーレットを破綻寸前にストップさせられると自信を持っているか、あるいは自信を持っていないのに自信があるように見せています。我々はそうした過剰な資金供給のツケが回って来る時に備えて、自己防衛に励むのみです。

 一方で、民間側も政府や中央銀行にオネダリするクセがついています。そのオネダリが度を超えているのに、それに応えすぎて収拾の目途がないのが日本。成長余力があるため、収拾ができると思っているのがアメリカ。目途がないのに自信を誇示しているのが欧州ですね。

>そこで金融立国の先頭を走っている米国国債が本当に今後もストレスフリーの投資対象であり続けられるのか、シェールガス革命後をも展望して、分散投資の必要性と合わせ、林さんのお考えをお聞きできれば大変幸いです。

 私はアメリカが金融立国だとは思っていません。金融立国はシンガポールや英国におまかせましょう。そうでない理由とアメリカの今後について私の見通しをお示しします。とても楽観的です。

・シェールガスはエネルギー生産をアメリカに戻しただけでなく、製造業全体を戻す原動力になっている

・人口が年に300万人も増加するので住宅需要はコンスタントに増加し、サブプライムの後遺症もすぐいやされた。再度住宅にバブルが生じても、いずれは吸収できる

・IT、医療、航空宇宙などの先端産業はすべてアメリカがリードし、優位はゆるがない

・それを目指す優秀で若い世界の頭脳はアメリカを目指して集中する

・資金とノウハウに長けたベンチャーキャピタルはアメリカにしかなく、集中した頭脳を伸ばす役割を果たしている

・アメリカと周辺に地政学的リスクはほとんどない


ということで、アメリカの優位は将来に向けてますます高まるだろうと思っています。

 米国債以外の分散投資についてですが、著書では以下の3つを書いていました。それはあまり変化していません。

・株式はバークシャー・ハサウェイだけ

・リスクを取ってもよい方は米国REIT


これらはアメリカリスクの分散にはなりません。米ドル以外では
・AAAの豪ドル債

オーストラリアの財政状況は先進国では群を抜いて優等生。それでもリスクを感じたら、世界銀行などのスーパーソブリン発行の豪ドル債を選ぶ、としていました。

 今年になって豪ドル債とREITに警鐘をならしました。豪ドル債は金利レベルが低下しているので、これからの投資は見合わせ、これまでの投資分は継続。REITも同様で、高値に警鐘を鳴らし、今後の投資は見合わせ、でした。

 となると残念ながら安心できるストレスフリーの投資対象は私には見当たらないのです。金は単なるバクチだと私は思っています。何故なら価格が容易に半分、3分の1になる可能性があるからです。それでもよいのならどうぞ、としか申し上げられません。

 最後にたびたび申し上げていますが、私は日本が大好きな日本人です。アメリカ好きでこうしたことを述べているのではありません。逆に嫌米感情も持っていません。経済を好き嫌いで判断しないのです。日本でも海外でも、嫌米感情が判断を歪めていると思っています。

以上、参考になりましたでしょうか。
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彷徨さんへの回答

2013年11月29日 | 2013年からの資産運用
彷徨さん、いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。

そして鋭い突っ込みも!

では、27日にいただいた彷徨さんのコメントへの回答です。

>世界にはどれだけのマネーが存在し、そのうち実体経済に見合った額はいくらであって、いわゆるホットマネーといわれる余剰資金がいくらあって、それらがグローバル化の進展に合わせどのような動きをしているのか分かれば、ある程度デフレ脱却の方向性が見えてくるように思うのですが

 この彷徨さんの提案ですが、私もかつて投資銀行にいた時に同じ様な発想にたち、大づかみでも世界のオカネの量がわかると様々な予測を立てやすくなるのではないかと思い、試行錯誤を試みました。

その結果自分なりに得たことは、

「オカネの量をいくら計っても、動きは全く予想できない。無駄な抵抗はヤメロ!」でした(笑)、すみません。


 例えば80年代の日本のバブル時代と90年代のバブル崩壊後を考えてみてください。バブル時代は

・企業の財務担当で財テクをしないやつはバカだ
・1億総不動産屋と化し、企業も個人も多大な借金をして不動産を買いまくり、銀行は融資しまくった
・買った土地を担保に入れて次の物件を買い、いくらでも借金は可能だった
・個人による株式やゴルフ会員権の投資にすら、一流銀行が貸し込んだ
・日銀がいくら金融を引き締めても、オカネは出てきた


 ところがバブルが崩壊すると

・財テクの後始末で、本業が黒字でも倒産が続出、財テクは死語になった
・個人も株式から遠ざかり、いまだに売り続けている
・銀行は担保があっても実需でない投資には貸さなくなった
・日銀がゼロ金利にしても、投資マネーは出てこなくなった


というように、日本一国を見てもオカネの量にさほど変化がなくても、マインドの変化がオカネの動きを活発にしたり停止させたりしてしまうのです。

 オカネは絶対量と回転数で計りますが、回転数は予測不可能なのです。

 世界でもサブプライム崩壊前はヘッジファンドにどんどんオカネは集まり、崩壊後は潮が引いてしまう。それがまた最近は集まり始め、いずれどこかでバブルが崩壊すれば、また引っ込んでしまう。

 世界を巡るオカネの量がスピードを変化させながら膨張と収縮を繰り返すので、静的分析は意味をなしません。だからと言って、動態分析はもっと困難なのです。

 私も試みた「無駄な抵抗」ですが、どうやらやめたほうがよさそうなのです(笑)
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アベノミクス一周年をどう評価するか その4

2013年11月27日 | 2013年からの資産運用
 ちょっと間が空いてしまいました。仕事で忙しいこともあったのですが、今回の説明が少し難しい領域に入ってしまうため、どうするかの試行錯誤をしていたのです。でも、大事なことはしっかりと解説しておこうと思い、なるべく易しくを心がけて、解説することにしました。

 さて、ここまでアベノミクスの最重要目標である「デフレの克服」の進展具合を検証するために、まず物価の上昇についてみてきました。政府・日銀の目標であるコンスタントな2%の物価上昇を前年比で達成し続けるのは結構大変だということをお示ししました。現在のように円安だけに頼るコストプッシュ・インフレでは毎年毎年2割の円安が必要になってしまい、現実的ではありません。前年比プラスのノルマを毎年達成し続けるには、需要が供給を上回ることで物価が上昇するデマンドプルが必要なのです。

 今回は経済全体の指標であるGDPを見てみます。新政権になって以降すぐの1-3月期は参考程度にして、特に今年の4-6月期以降の対前期比年率の数字をしっかり見てみます。

 まずGDP統計を見るのに「前年比率」ではなく、何故「前期比年率」の数字を使うかの説明をしておきます。直近の経済活動が活発かどうかを見るには、前期比がすぐれているからです。

 前年比だと、例えばある1期が消費税の駆け込み需要で大きくGDPが伸びたとします。すると、その後3期のGDPが前期比ではゼロ成長が続いて低迷していても、前年比ではずっとプラスが続いてしまう傾向になり、低迷ぶりが覆い隠されてしまうからです。いわゆる「下駄を履いた数字」が並んでしまうのです。

 日本の経済統計は、以前は単月でも四半期でも前年比だけを見てきました。しかしアメリカは昔から前期比の伸び率が1年続くとどれだけ伸びるのかという「前期比年率」を使ってきました。直近の景況感をよりよく反映する数値だからです。アメリカでは企業収益も四半期ごとに発表し、経営者もそれを気にした短期志向の経営をしていると言われています。株式アナリストもそればかりを気にするからです。同じ様な見方がGDP統計の見方にも影響し、前期比年率が一般化したのかもしれません。今では日本もアメリカの後追いをしています。どっちが先だったのか、詳しくは知りませんが。


 では今年の日本のGDPの前期比年率の数字を見てみましょう。数値はすべて前期比年率(%)です。
           GDP        公的資本形成     GDP
         実質  名目     実質 名目     デフレータ 
1月-3月    4.1   2.2        10   12       ▲1.1
4月-6月    3.8    3.7       20   24       ▲0.5
7月-9月     1.9    1.6       26    27      ▲0.3


 今年に入って3期を並べると、前政権の影響が大きい1-3月期から、アベチャンの影響が大きくなった4-6月期、さらに直近の7-9月期とだんだんスローダウンしています。これは実質成長も、みなさんの実感により近い名目成長も同様です。どうです、意外でしょう。

 もっと大事なことは、GDPの中身です。実は最大項目の個人消費はこの間あまり伸びていなくて、公的資本形成つまり公共投資が群を抜いた伸び率になっています。この数字、少数点を忘れたのではありません。小数点以下を省略したのです。

 なんで年率2割を超える公共投資をしているのか。それは4―6月期のGDPで消費税値上げを決めると宣言していたので、GDP数値を底上げするためでした。専門家から見れば、一目瞭然のお化粧数値なのです。

 なんだかむかしむかし日経センターでエコノミストの卵だった時のことが頭をもたげて、ちょっと深入りし過ぎたかもしれませんね。

つづく
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アベノミクス一周年をどう評価するか その3

2013年11月21日 | 2013年からの資産運用
 前回まで株式相場と為替相場によるアベノミクス効果をみてきました。今回からアベノミクスの本丸である「デフレの克服」に迫って行きましょう。

 デフレの克服の意味は、様々な議論をされていますが、ここでは単純に消費者物価上昇率GDP成長率で見てみます。まず消費者物価の上昇率です。

物価の指標は通常2つの指標が用意されています。

・総合指数
・食料とエネルギーを除くコア指数

 
 何故2つの指数があるかといいますと、食料とエネルギーの価格は天候や相場変動などで毎月の振れが大きいので、それ以外のコアと呼ばれる指数も見ておく必要があるからです。物価統計はまだ9月分までです。

              6月  7月  8月  9月
総合指数前年比   0.2   0.7  0.9  1.1
コア指数前年比  ▲0.2 ▲0.1 ▲0.1  0.0


総合指数は今年の6月に久々に前年比でプラスのレンジになり、それがどうやら定着したようです。コア指数はそれに遅れて9月にやっとゼロまで回復しています。

 9月の総合指数が1.1%のプラス
になっていますが、アベチャンは単純に喜んではいけません。そのプラス分は何によってもたらされたのか分析をしてみると、実は要因の9割が円安による輸入価格の上昇なのです。つまり円安によるコストプッシュです。

 食料とエネルギーは多くを輸入に頼りますがコア指数では除かれているため、依然としてプラスになっていないのです。みなさんもきっと日常の食料品や電気料金値上がりを実感されていると思いますが、ひとえに円安が原因なのです。

 アベノミクスの目指す本来のデフレ克服とは、国内の需要が盛り上がって物価が上昇するというもので、単に円高によるコストプッシュではありません。

 では今後の見通しはどうか。輸入物価は今後も円安が継続しそうなので上昇は間違いなし、と思ったら大間違いです。何故か?

 ここんとことても大事です。あとでテストに出ますよ(笑)。

 輸入物価に対して円安が効力を発揮するのは、あくまで前年比での円安が必要です。このまま100円が続いても、それでは輸入物価も上昇率はそのうちゼロになってしまいます。

 円レートは今年の3月に95円を突破し、5月の連休明けには100円を突破しました。ということは今後たとえ100円が継続しても、来年5月には円安効果は対前年比でゼロになってしまうのです。前年比で2割を超える円安レベルが1%の物価上昇を支えているのですから、同じ様に来年の5月に1%を維持するには円レートは120円になっていないといけません。ハードルはかなり高いのです。

 アベチャンの目標であるコンスタントな2%の物価上昇につなげるには、果てしない円安が必要と言うことになり、それは現実的ではありません。

 もちろん輸入に頼る食料・エネルギーだけでなく、コア部分の物価も多少は上昇するでしょうから、120円でないと1%の物価上昇すら保てない、ということはないでしょう。でもそれには消費者の需要が相当増加して、今の供給力を上回ること必要なのです。

つづく
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アベノミクス1周年をどう評価するか その2

2013年11月18日 | 2013年からの資産運用

 前回は1年間のアベノミクスの通信簿として株価と為替の動きをみてみました。株価は68%の上昇、為替は25%の円安となっていて、両方ともにアベノミクスの1年を大いに評価していると言えるでしょう。 

 ただし株は誰が買って誰が売っているかを見ますと、外人の大きな買い越しと日本の個人や年金などがその分を売り越しているのが見てとれました。アベノミクスは外人のほうが大きく評価しているというのが1回目のお話しでした。


 しかし株価の評価をアベノミクス礼賛でだけで終えることはできません。この1年の株価の動きの大イベント何だったのかを分析するとそれだけでは済まないことがわかります。

 株式相場の最も大きなイベントは、バーナンキ発言に驚いた株価の反応でした。アベチャン指数の株価を振り返りますと、昨年11月対比で5月22日までに80%も上昇していたのが、1か月も経たないうちに前年対比44%のレベルまで低下しました。半分近くを失ったことになります。その原因はバーナンキ発言でした。ということは、実は急上昇相場を支えていた大きな要因はアベノミクスばかりではなく、日銀の異次元緩和を含む世界的な金融の超緩和政策であることが見てとれるのです。

その要素を含めてまとめますと、日本株を買っていたのは外人だった。そして外人のオカネは超緩和策が供給していた。つまり株価は超緩和政策に支えられてもいたとも言えます。このため緩和縮小のニュースに驚いて日本株を売ったが、その後超緩和継続がバーナンキからイエレン氏への交代で確認されるとふたたび力強い上昇に転じたのです。

 一方為替相場はどうだったか。1年で25%の円安です。実需で見ますと日本の貿易収支は赤字が定着し、経常収支の黒字もかなり縮小していて、この1年の経常黒字は5兆円弱になっています。しかし依然として円にはプラス(円高)の要素を保っている状態です。

 その上に1年で13兆円にも上る外人買いが円高要因となっています。にもかかわらず、めげずに円安傾向を続けました。ということは、経常収支や資本移動などの実需に基づく円高要素をはるかにしのぐ投機的な円売りが進んでいるということです。

 前回の最後に述べた株と為替のカップリングの「何故」を見ておきます。私はそれぞれの相場が独立した要素で偶然一緒に動いているだけではなく、意図的なカップリング取引も大いにあると見ています。それがないと軌を一にする両方の相場の説明をすることはできません。つまりカップリングの背景には、外人は株買いと円売りを並行して仕掛けている可能性が強いということです。

 このことはどちらか一方の相場に逆流が生じると、他方の相場も同調する可能性が大いにあることを示しています。これが、今後の相場を見るための注意点です。これはなんとなく当たり前の話の様ですが、数字を追っていくとある程度の裏付けが取れるのです。

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