離脱のインパクトが与えた金融市場の動揺の大きさに、離脱派さえも驚き、「ちょっとヤバったかも」と思っているようです。イギリスの若者はツイッターなどで、「もう一度投票をやり直してくれ」と言い、署名を集めデモまで始めています。25歳までの若者の残留への賛成は66%にも達しているという報道がありました。お気の毒にとしか言いようがありません。しかし再投票はないし、後戻りはできません。彼らはきっと無力感にとらわれるでしょう。
日本の選挙でもきっとこの構図が当てはまるに違いないと私は思っています。若者に必要なのは増税延期ではなく、「消費増税」で、それこそが将来の安心感へわずかに残された細道ですが、すべての政党が「増税延期」で一致し、選挙の争点にすらならなくなってしまいました。きっと日本の若者は無力感でしらけ返っていることでしょう。
さて、BREXITに対する私の見方、第2弾です。
株式市場は実に単純明快です。先週の金曜日一日で失われた世界の株式価値はブルームバーグ調べで2,100億ドル、21兆円にものぼります。すべての市場で暴落した株式相場の解説は、その道のアナリストや報道におまかせします。
私は債券の専門家ですから、このブログに集まるみなさんのために他では見ることができない、債券相場から見える今後の動向についてをお伝えします。米国在住債券初心者さんからいただいた、「新たな気付きを提供していただける本ブログ及びコメント欄はどの経済新聞やコラムよりも価値があると思っております。」との期待に応えたいと思います。
まずBREXITが決定した6月24日金曜日の世界の債券相場を見てみましょう。繰り返しますが、債券というのは買われて価格が上昇すると、金利は低下します。逆に売られて価格が下落すると、金利が上昇します。そのことを念頭に各国の長期債の指標となる10年物国債の金利の動きを、前日との比較で見てみます。
私は常々、「世界に大激震が走るとアメリカ国債は買われる」と言い続けてきました。そのアメリカ国債から、前日との金利差を数字で示します。数字の単位はbpという単位ですが、要は小数点以下の2桁で、-10とあれば、0.10%の金利低下で、その債券は買われたことを意味します。アメリカ国債はしっかりと買われました。
アメリカ国債10年物 1.56 -19 前日1.75%だったのが0.19%低下した
日本 -0.18 -3
ドイツ -0.05 -14
フランス 0.38 -7
ここまでは買われて金利が低下した主要国。一方、売られたのは、
イタリア 1.55 +15
スペイン 1.62 +16
ギリシャ 8.31 +77
アメリカ国債は激震に対していつものように大きく買われました。欧州では財政が健全な国は買われ、債務比率が大きく、信用格付けの低い国が売られています。そしてギリシャは危険水域に深々と入っています。
「債券の金利はリスクの象徴でもある」と述べていたことが、まさしく金曜日に起りました。それが手に取るようにわかります。
では当の英国国債(通称ギルトと言います)はどうだったか。
イギリス 1.08 -29
なんと主要国では最大の買われ方をしています。いったい何故か?
この日、ムーディーズは「BREXITはイギリスの信用にネガティブな影響を与える」というコメントを発表しました。それにもかかわらず、買われたのです。コナンドラム?
では現状のイギリスの格付けを、アメリカと比較して見てみましょう。
S&P Moody’s Fitch
US AA+ Aaa AAA
UK AAA Aa1 AA+
(注)ムーディーズの小文字のaはS&Pなどの大文字のAと同じです。
アメリカはS&PだけがダブルAプラスで、あとはトリプルAです。S&PによるアメリカのAA+は、何度か申し上げているように、財政収支の計算を彼らが大きく間違えて、社長の首が飛びましたが、それでも突っ張ったままでいるからです(笑)。イギリスはトリプルA一つ、ダブルA二つでアメリカより若干落ちるだけです。なお満点はドイツで、すべてトリプルAです。ちなみに日本はすべてシングルAと、危険水域に近づきつつあります。
世界の株式市場はすべて暴落しましたが、債券市場は買われた国と売られた国がはっきり分かれました。これが債券市場の賢い一面です。ちょっとだけ迷いがあり、買われてはいるものの、価格上昇が小さかったのは日本とフランスです。
ではイギリス国債が買われた理由は?
市場アナリストの答えは「質への逃避」、英語ではFlight to Qualityだと言われています。長期的に見ればイギリス経済はEUからの離脱により低落傾向に入る可能性があるのに、本当に質への逃避でしょうか。
私の見るところは全く異なります。何故ならアメリカ国債の-19に比較して-29と、すさまじい買われ方をしているからです。
私は介入の匂いを感じています。欧州中銀と英国中銀は投票結果が出始めた金曜日の未明のうちに、金融市場を落ち着かせるため莫大なる資金供給を宣言していました。それが英国債を買う形で行われたのだと思います。日本と違い中央銀行が株式を買い支えることはできませんが、国債は買えるのです。特に緊急対応の場合は、こうした措置が取られるべきです。英国債を買い資金を供給するとともに金利を低下させ、金融市場を落ち着かせたのです。
では、こうした一連の債券市場の動きから、さらに読み取る必要のある事象とは何か。
それは、今後のEU各国の離脱の動きに対するけん制です。その象徴はギリシャで、
「もしお前たちが離脱の動きをしたら、数年前のように市場に撃たれ国債発行に行き詰まり、破たんだぞ」、そして
「イタリーとスペイン、あんたがたも同じだよ」、ということを示しているのです。
これらの国に対しては株式市場よりずっと規模の大きな債券市場というとても怖い存在から、大きな警鐘が鳴らされました。
じゃ、日本の国債は何故ちびっとだけ買われたのか。
残念ながら日本は以前から申し上げているように、クロちゃんが体温計たる金利市場をぶち壊してしまったので、全く参考になりません。株式市場という血圧計は動きますが、体温計は動かぬまま突然死しかないのです。
今後欧州各国で離脱の動きが出てきそうです。BREXITの直後に声明を出しているのはフランスとオランダの極右政党です。その他に、国ではなく地域ではありますが、スコットランドとスペインのカタルーニャです。果たして反知性派がちょっと複雑な債券市場を読み取れるか。それははなはだ疑問です。