嫌われ者トランプがまた人々が嫌がる政策を発表しました。それはアメリカに生息する絶滅危惧種の動植物を保護する地域指定を緩和する、つまり地域指定を狭め、保護をはずすとしたのです。日経ニュースを引用します。
「トランプ米政権は12日、野生の動植物を保護する規制を緩和すると発表した。絶滅危惧種の指定にあたって迅速に対象を入れ替えられるようにするほか、経済的な影響も考慮に入れて判断するようにする。生息地域で資源開発を進めやすくなる効果があるとみられるが、環境保護団体は反発している。」
要は経済を優先するということで、環境保護を経済の邪魔物とするトランプ政策の一環です。パリ協定からの離脱や石炭産業の復活政策は世界から非難を受けましたが、こうしたあまり目立たない面でも世界の動植物、ひいては人間への悪影響もかまわない。まさに彼の製造業寄り、そして不動産屋としての悪人ぶりをいかんなく発揮している政策です。
さて、アメリカの長期金利が異常ともいえるほど低下し、短期金利と逆転して、おとといはNYダウが800ドルの暴落になりました。株の暴落を単に逆イールドの出現によるテクニカルな原因だとするような解説が見られます。逆イールドは景気後退のシグナルと言うわけです。しかし今回の暴落はそのシグナルだけが原因ではないと思います。このシリーズで私が述べているように株価も景気もすでにピークアウトしつつあるのが真の原因で、相場が高所恐怖症になっているのです。なのでちょっとしたインパクトが強調され暴落につながりやすくなっているのでしょう。
この半年くらいの相場と解説を見ていると本末転倒の解説に相場が影響されることが多くなっていました。どういうことか。例えば景況指数の悪化が報告されたとします。すると株価が上昇することが多かったのです。そのとき市場寄りの御用エコノミストたちはこう解説します。
「今回の指標悪化により利下げのペースが早まる可能性があると見て、相場は上昇するだろう」
実体経済の指標が悪いと利下げ期待で相場煽り、無理やり相場を支える。それを当然視するように相場は動く。私に言わせればそうした実態の悪さまでよい材料視するような動きはいずれ破綻を招く。悪材料もいい材料にしてしまうようなおかしな論理が横行する時は、崩壊は近いというシグナルだと見ておくべきなのです。
一方債券市場では昨日のNYで10年物米国債のイールドは一瞬1.4%台に達し、1.5%台で終わりました。このところの金利低下は尋常ではありません。実は動かないようで動くのが米国債金利です。この3年の上下動をピークとボトムだけ拾ってみますと、
16年7月 1.37%
16年12月 2.59%
17年9月 2.05%
17年12月 2.57%
18年11月 3.24%
19年8月 1.53%
半年で0.5%から1.2%くらい当たり前に動いています。特に昨年11月の3%台 から現在の1.53%に至る動きは、まさに国債価格の暴騰ともいえるほど大きな値動きです。債券の金利と価格は反比例しますので、金利低下とは価格の上昇です。今回の価格暴騰の背景にあるのは世界の株式相場の動揺で、その大きな原因はまさにトランプリスクの一つ米中貿易摩擦であり、さらに言えばここまで蓄積されたトランポノリスクのせいなのです。
私は当然ながらこのレベルでの米国債投資はお勧めしません。むしろ同時進行しているドル安を利用してドルの仕込みをするべき時だと思います。そして将来の金利高を待つ。もしその間もドルを遊ばせていることが無駄だと思われる方は、短期債への投資をお勧めします。2・3年の範囲であれば償還前に金利が上昇した場合の価格下落もたいしたことはありません。
またこのところトランプの陰であまり話題になっていない欧州が、次第に世界の足を引っ張るようになってきていることには注意が必要です。一つは昨日発表されたドイツのGDP成長率がわずか0.1%ですがマイナス領域に入りました。ドイツは健全な財政政策の下、経済は順調に推移していたのですが、若干ですが陰りが見えています。そしてジワリと効いてくるのが合意なき離脱に近づくイギリスです。BREXITの危険性を察知した海外企業はイギリスを脱出しつつあり、それが静かに加速しています。
それに加えて中国のスローダウンが見込まれると、世界経済全体の成長率見通しが悪化することは間違いありません。
しかし米国債に投資をしている、あるいは投資を考えているみなさんにとって大切なことは、世界がトランプリスクによる株安で動揺する中、震源地であるはずのアメリカに向かって「質への逃避、FLGITH TO QUALITY」が起こっているという事実です。これは前回の世界的金融危機の時にも見られたことで、「世界に激震が走ると頼りになる投資先は米国債だけだ」としてカネが集まるということなのです。
では今後不況を防ぐ切り札はあるのか。普通の政策手段は金利引き下げと財政出動です。しかし残念ながらアメリカは金利の引き下げ以外ありません。普通であれば経済が好況にあり失業率が歴史的に低いときには財政出動などしませんが、トランポノミクスは就任2年半で好況下でも財政を拡張し続けるという愚を犯していますので、いざとなったらこの手が有効に使えないのです。しかも、もし日本を含めて世界全体が本格的スローダウンとなった際、最も大事な主要国の協力体制が取れないことは大きなリスクです。
来週は世界の中央銀行総裁や大手金融機関のCEOなどが一堂に会するジャクソンホール会議がワイオミング州で開かれます。きっと世界経済への大いなる懸念が表明され、トランプ政策が非難されるでしょう。共同で対処していこうとはならないのがトランプ以降の世界の金融政策です。
次回は現状のアベノリスクについて解説します。