ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカ国債のデフォルトリスク

2011年07月29日 | 資産運用 

今朝の日経の朝刊の一面は、「米債務問題、世界が緊張、保証料率最高に」というニュースがトップ記事でした。このブログをご覧いただいている「なないしさん」はじめ多くの方は、私の言っている内容と全く正反対のトーンでので、「林は大丈夫か?」と思われたと思います。

日経をはじめとする日本のメディア、一部の海外メディアの取り上げ方は、間違っています。何故か?

理由は、「お金が本当になくてデフォルトするギリシャとは違い、共和党と大統領の政治闘争に過ぎないからです。」

日経などの記事にはそうしたトーンは全くありません。

じゃ何故格付機関は何故「格下げするぞ」と言っているのか?

「格付機関の役割は、そうした政治的リスクや地勢的リスクも包含しているから」、というのが回答です。彼らは議会の予算審議のやりかたに至るまで、検討対象にして見ているのです。お金があっても、スリップダウンでも、格付けには影響するのです。

私の言っている内容は、
「今回もしデフォルトしても、それは単なるフリップ・ダウンだ」という趣旨です。そのトーンで書かれたり言われているニュースはほとんどありません。ほんの一部の専門家はは、私と同じトーンの方がいらっしゃいますが、少数派です。

昨日、私のお示しした数値は25日付でしたので、それをアップデートします。

28日の数値との比較です。

CDS(保証料率)米国債  5年 57 → 62
米国債金利        10年 3.03 → 2.94


日経の記事は、CDSがピクリとしたのだけを取り上げ、国債が買われて金利が低下しているのは都合が悪いので無視しています。

以上です。

では明日から2週間、夏休みでNYに行ってきますので、ブログはしばらくお休みさせていただきます。NYの近郊のコネチカットに住む友人宅にお邪魔します。元インベストメントバンカーの彼は、ヘッジファンドの聖地コネチカットでヘッジファンドを運営しています。面白い話が聞けたら、みなさんにもご披露しますね。

では
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アメリカ国債のデフォルト

2011年07月28日 | 資産運用 
ななしさんからいただいた質問、心配な方も多いとおもわれますので、コメントではなく、この記事で回答させていただきます。


アメリカ国債のデフォルト・リスク

政治的混迷を極めるアメリカの国債はデフォルトするでしょうか?

もちろんしません。アメリカの国会と大統領はチキンゲームをしています。2台の車が正面衝突に向け、どこまでハンドルを切らずにばく進できるかを競っているのです。

為替や株式市場の参加者はシロウトを含めて多種多様ですので、アメリカ株は下がり、円は買われるというような動きになっています。

では肝心の米国債自体の金利はどうなっているでしょうか?債券市場は、プロが大半を占める市場です。7月に入ってからそれぞれの週初めの米国債の金利の推移を示しますと、
7月1週目;3.16  2週目;2.94 3週目;2.94  25日;3.03
通常の範囲内の上下動です。つまり米国債は議会の動きで売られてはいません。

アメリカ国債がデフォルトに向かっているか否かの判断をする一番の指標は、すでに説明をしたCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場の動きです。スプレッドが大幅に拡大すると、これはヤバイとなります。この市場はプロ同士が相対で行うスワップ取引によりますので、シロウトの雑音は一切入ってきません。7月に入ってからそれぞれの週初めの米国債のCDSスプレッドの推移を示しますと、

7月1週目;49  2週目;49 3週目;56  25日;57

第2週目から3週目にかけてピクリとはしましたが、その後は変化ありません。ちなみに同時期の日本のスプレッドはどうだったか?

1週目;89  2週目;91 3週目;91  25日;88

ほとんど変化していません。日本のCDSスプレッドが大幅に拡がったのは、震災の直後でした。3月15日にはその前が80前後だったものが116を記録しています。これは明らかにリスクを大きく反映した動きと言えます。それに比べるとアメリカは動いていません。

 このことから、「米国債はデフォルトしません」と言えるわけではないのですが、この数値の意味していることは、ボクシングに例えれば「たとえ瞬間的にデフォルトが起こったとしても、それはスリップ・ダウンで、テクニカルにもノックダウンには至らない」。つまり瞬間的にデフォルトしたとしても、それは最後の判定には影響を及ぼさないただのスリップ・ダウンとみなされるだけなので、世界が混乱に陥るようなことには決してならない、というのがプロの見方だということです。

以上が私のアメリカ国債の発行上限をめぐる動きに関するコメントです。

回答になりましたでしょうか?
 

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金投資について、その2

2011年07月27日 | 資産運用 

前回は、金投資のうたい文句について検証を始めました。最初のうたい文句は、

金は長期投資に向いている、といことが本当かの検証でした。

結論は数字が示すように、「金はリスクフリー債券にも勝てない、長期投資にはおよそ向かない短期の投機対象だ」、ということをお話ししました。

  次のうたい文句のインフレヘッジについて、検証してみましょう。

Q:インフレヘッジにはなるの?

A:なります。でも日本がハイパーインフレに見舞われるとき、金でなくとも、いわゆるハードカレンシーの外貨建債券であれば同じ機能を果たします。債券なら金の卵を生み続けます。つまりインフレにならなくてもしっかりとリターンがあります。いつくるかわからないインフレに長期戦で挑むなら、金は失格です。債券にはかないません。

Q:ハードカレンシーって?

A:為替管理を受けずに自由に取引可能な、円・ドル・ポンド・ユーロ・スイスフランなどです。

次のうたい文句は安全性です。

Q:じゃ、金の安全性は?

A:資産としての安全性は一番高いかもしれませんね。絶対にデフォルトはしませんし。

Q:金の価格は上がってるって聞くけど……。

A:それは世界中がカネ余りだからです。商品ファンド、金投資ファンドなどが闊歩しています。でもファンドはいずれ売ります。買い持ちを続けるなんてことはありえません。ここから先の金投資はババ抜きゲームですから、最後のババをつかまされないことです。どんなに安全であろうが、金の決定的な欠陥は、値下がりリスクがあることです。

 
  それでも目先ではなく、金相場を10年レンジで見た長期のトレンドは強さが続くと私は思っています。その大きな理由は、以下の新しい需要の存在です。

1 金ETF(Exchange Traded Fund)の人気化
これは投資信託の一種で、金価格に連動して値動きするように作られています。金ETFを運用する側は、ETF需要に見合った現物を金の現物市場で買い付けますので、ETF市場が拡大する分、金に対する需要も拡大していきます。もちろん価格が下がればETF投資は縮小しますので、これにより絶対的ベース需要が大きくなったとは言えません。むしろ相場の振幅を増幅させる要因が増えたと見るべきでしょう。

2 中国人の所得上昇による金需要
世界中の投資対象という投資対象は、ことごとく中国人需要の対象となり、金も買われています。日本の不動産ですらだいぶおこぼれを頂戴していますが、そうした無差別の投資は、日本のバブルを教訓にすべきで、「いつか来た道」だと思われます。戦線の無差別拡大は、いつしかしっぺ返しがくるものです。

3 インド人という金大好き需要がいずれ爆発すること
人口では中国に負けない上、所得レベルはこれから上昇が見込まれます。インド人の金に対する嗜好の強さは中国人もビックリのレベルです。

  こうしたことから、長期的には金は買われる方向だとは思いますが、みなさんが投資をするなら、大きなリスクを取ってもよい、というおカネだけにしておくべきでしょう。そして、賢い投資家は今の上昇相場はやり過ごします。

  リタイアされた方は、「安定したキャッシュフロー」を何よりも大切にすべきだと思います。毎年のキャッシュフローがあれば、それを消費に使ってこそ老後を豊かに過ごすことができます。金を退蔵して値上がりしても、そのまま死んだら意味はありません。インフレヘッジは金でなくとも、金利を生むハードカレンシーなら可能です。

  現役世代の方も、金は複利運用ができませんので、長期の投資対象に向いていません。長期では複利運用ができる債券が圧倒的強さを持つのは、実績が示していますし、フィクストインカムは今後も確実にリターンをもたらします。

  以上がフィクストインカムの世界から見た金投資についてでした。少しは新たな視点をみなさんに提供できましたでしょうか。

  私なら「果報は寝て待て」、ババ抜きゲームには参加せず、ストレスフリーで寝ながらにしてキャッシュフローをいただきます(笑)。

■まとめ■
金は金の卵を産まない(笑)
リタイアした方に、キャッシュフローを得られない金投資は向かない
現役のビジネスマンの方にも、卵が卵を生まない金投資は向かない
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金投資について、その1

2011年07月25日 | 資産運用 

2010年の後半以来、金価格が市場最高値圏内で推移しています。

みなさんは、商品相場への投資勧誘を受けたことがありますか?昔は赤いダイアと呼ばれたあずき、そしてダイズやその他の農産物、金・銀・銅などの鉱物への投資を勧める電話がよくかかったものです。そうした胡散臭さを持つ業者はほとんどが淘汰され、単純でリスキーな商品相場への投資を勧める電話は少なくなりました。最近はむしろ証券会社などが、おお手を振るって商品投資ファンドを勧めたりします。金利が低く、国債の乱発が不安感をかもし出すようになると、そうした実物資産投資への勧誘は一段と説得力を持つように見えます。このところの金相場の上昇がそれに拍車をかけ、「純金積み立てコツコツ」や「時代は実物資産へ」というたぐいの投資の勧誘文句が力を持つように感じられます。

では、債券の専門家から見ると、商品投資はどのように映るか、私の意見をお伝えしたいと思います。

金投資のうたい文句は、

1 長期投資に向いている
2 インフレヘッジになる
3 超安全資産である
というようなことです。

まず、本当に長期投資に向いているか、ちょっと実績を見てみましょう。
30年間の投資結果をここまでみなさんと勉強してきたリスクフリーの米国債と比べてみます。いずれもドル建てです(金投資はドル建てです)。
1980年年初に投資を100で開始した場合、2010年年末時点、つまり30年間でいくらになったか?

 米国債   100  → 2,347
 金 100  →  250

このところの金価格の上昇を加味して1,600ドルとしても、金は285にしかなっていません。

  30年間のパフォーマンスでリスクフリーの米国債は23倍、リスク大アリの金は2.5倍でした。両者ともドル建てですから為替変動は両者に均等に効きますので、円建てにしても結果は同じような動きになります。ピリオド。

でもいいのですが、それじゃあまりに可哀想なので、一応フィクストインカムの専門家らしいコメントをしてみます。

  なぜ金は長期投資では債券にこんなにも無残に負けるのでしょうか。理由は、

「金は金の卵を生まない」
からです。

  金をはじめとする商品投資の最大の欠陥は、金利や配当というコンスタントなキャッシュフローをまったく生まないことにあります。米国債の30年間の投資のパフォーマンスがこれほどいいのは、債券は金利を生み、その金利が金利を生むからです(複利の場合)。100で投資したものが100で償還されるのが債券です。それが30年後に2347にもなったということは、そのうちの2247は100の元本が生んだ毎年の金利が積み重なり、金利が金利を生んで積み重なって膨れ上がったからなのです。

 もっとも短期では結果は違ってきます。5年間で見てみますと、2005年年初に投資を100で開始した場合に、2010年年末でどうなったかというと、

 米国債   100  →  120
 金 100  →  328

金の勝ちです。ということは、実は「金は短期の変動幅が大きい投機の対象」とみておいたほうがよいのです。つまりストレスフリーの資産運用には最もむかない投機対象なのです。

  Q:インフレヘッジにはなるの?

次回はそれに回答します。
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不動産投資 その8  REITについて 

2011年07月24日 | 資産運用 

不動産投資のまとめです。

ここまでフィックストインカムの専門家からみると不動産投資がどうみえるかについて書いてきました。まとめますと、

1. 不動産への直接投資は、資産の流動性をなくすので、するべきでない

2. REITは投資対象としてのハードルをしっかりとクリアーしたすぐれものである
(キャッシュフローを得られ、流動性が高い、日本の場合利益相反はあるが)

3. 現状での利回りは国債に較べ十分にスプレッドを得られる

4. しかし日本の成長性に疑問があるため、J―REITは長期的には楽観できない

5. リタイアした方には、利回り変動、価格変動のリスクがあるためお勧めできない

6. 現役の方で勝負する気があるなら、勉強がてら投資してみる価値はある

7. 米国REITは為替のリスクはあるが、利回りは日本のREITより高く、大災害特約がついている


そして、すぐれもののREITの投資判断も、基本は債券投資理論の延長で、「収益還元法」=「割引現在価値法」を使っています。それを使わないとどうなるかのよい例が日本のバブルです。

  土地コロガシなどという単なるギャンブルを投資と勘違いしたのは不動産屋だけではありませんでした。80年代のバブル時代、銀行・証券・保険・ファイナンス会社・事業法人・個人までが不動産投資、それも収益を無視した土地投資にまでのめりこみました。投資対象を評価するのに、ファイナンスの基本中の基本である「割引現在価値」を使った評価をしていれば、あれほどまでにひどいバブルにはなっていなかったでしょう。

  「割引現在価値法」、シロウトの方にそれを理解しろというのは無理がありますが、プロである金融機関が投資の基礎を学ばずに投資をするというのがこれまでの日本の投資の実態です。株式投資も全く同じです。最近でこそ企業買収にこうした方法が適用されるようになり、買収価格が天井知らずで上昇するようなことは少なくなりました。どうやら少しは世界標準の投資法が浸透しつつあるのかもしれません。

  さて、次回からは「金への投資」をフィクストインカムの専門家が見るとどう見えるのかをお伝えしていきたいと思います。
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