ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

2013年からの資産運用 その2

2013年01月31日 | 2013年からの資産運用

  安倍政権は来年度予算案を発表しました。この際ですから、国の財政状態をざっくりと確認しておきましょう。

来年度は歳出規模92.6兆円に対して、国債の発行額は170.5兆円です。

  えっ、42.8兆円じゃないの?

  いいえ、それは新規に積み上がる額だけで、発行額は借換債などが128兆円と膨大にあるので実際には170.5兆円なんですよ。

  過去に積もった借金は期限がくれば返済しなければなりません。、その分を全く省略して「赤字国債発行は42.8兆円に抑えた。税収の43兆円より少ない」などと大見栄切っているんです。

  年間収入である税収はわずか43兆円くらいなので、年間収入の4倍も新たに借金をしないとこの国は即デフォルトです。

  170兆円を毎週均等に発行したとして、3.3兆円になります。実際には70回くらいに分けて発行します。

じゃ、いったい過去の借金っていくらあるの?

  国債の残高だけで13年3月末には740兆円くらいあります。地方分の200兆円と合わせると国全体では940兆円くらいですが、その他の債務を入れると1,000兆円あります。みなさんが頭に入れておくべき数字は、この累計の債務残高と、毎年の国債発行額は170兆円にもなるという事実です。

  それと当初予算と実績の差もおさえておきましょう。12年度も11年度も当初予算の国債発行額は170兆円くらいでした。しかし実績はいずれも180兆円に膨らんで終わっています。来年度もきっとそうなる確率は大きいと思います。


  もう一つだけ日本の財政を考える上で重要な言葉を説明します。それは「プライマリーバランス」という言葉です。財政の長期展望とは、このプライマリーバランスをいつ取れるようになるかの議論です。
  これは単年度で国の収支がバランスした状態、つまり歳入と歳出のバランスが取れ、これ以上は借金が累増しなくなる状態を指します。しかしこれは間違いです。

  えっ、バランスって、赤字が解消した状態じゃないの?

違うんですよ。政府はプライマリーバランスを○○年度までに回復すると言っていますが(今新政権でで見通しはまだたっていません)、プライマリーバランスは利払い分などの国債にかかる費用を除いてあるんです。他の国のように借金が大きくなければそれでもいいのですが、日本の場合はGDPの2倍を超えています。それだけ大きいと、実は利払い費が莫大なんです。

  2013年度予算には国債費として22兆円が計上されています。税収が43兆円しかないのに、国債の利払いと国債発行残高60分の1を強制償還する費用で22兆円もかかるんです。収入の半分は、歳出に使う前に消えているのが実態です。

  利払いだけをとると22兆円の国債費のうち10兆円くらいです。金利だけでも税収の4分の1が消える。それを無視してプライマリーバランスが取れたなどと言っても意味はありません。何故なら債務はさらに積み上がるのですから。

  累積債務がここまで大きくなければ、プライマリーバランスに意味はあるでしょうが、日本はバランスとは名ばかりだということを覚えておいてください。

  新年度を迎えるにあたって予算の中身をちょっと見てみました。資産運用を考える時、先の見通しは重要です。アベチャンの新政策によって日本経済や金融市場がどう変化していくか、見通をつけるのはなかなか難しいのですが、財政状況の見通しはかなり確実に見通せます。

おさらいです。みなさんが頭にいれておくべきことは、

1. 来年度の当初予算で国債発行は170兆円

2. 国の累積債務は1,000兆円

3. 国債費(22兆円)で税収(43兆円)の半分が消える


  新政権になって金融市場の動向が多少変わったところで、財政状況の悪化は進む一方です。
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2013年からの資産運用 その1

2013年01月29日 | 2013年からの資産運用

2013年からの資産防衛

  新シリーズのタイトルは、「2013年からの資産防衛」ということにしました。昨年末、新政権になって経済政策と金融市場に大きな変化がありました。そうした新しい環境の下で資産防衛を考え直してみよう、というのがこのタイトルの意味するところです。

  私が「証券会社が売りたがらない米国債を買え」というタイトルの本を11年8月に上梓してから1年半が経過しました。出版寸前に米国債が格付会社からダウングレードされデフォルトするかもしれないという危機に立たされました。すでに最終稿が出ていたのですが出版社のダイヤモンド社と相談し、1ページを追加。その中で「米国債はデフォルトなどしない。たとえ一瞬デフォルトしても、それはスリップダウンで米国債の価値には何の影響もない」と書きました。その見方が正しかったことは米国債相場がデフォルト騒ぎの中でピクリともしなかったことで裏付けられました。

  その著書をお読みいただいたり、その後の講演活動などにより、米国債を実際に購入された方が大変多くいらしたようです。そうした勇気ある方々(笑)のパフォーマンスは現在いったいどうなっているでしょうか。簡単におさらいしてみます。

  著書の内容に投資のシミュレーションがあります。当時の円ドルレートは1ドルが81円、10年債の金利は3.12% 、30年債の金利は4.37%でした。いま振り返ると、偶然ながらいいレベルだったんですね。

  現時点の円ドルレートが91円としますと為替で12%ほど円安に動き、米国債自体は金利が低下、つまり価格は上昇しました。先週末でその10年債の価格は110%程度になっていますので、為替と合わせて23%程度の利益を得ていることになります。そして30年債だと価格が23%も上昇していますので、為替との合計で38%も利益が出ていることになります。

  もちろんこうした中間での評価は、償還まで持ちきる投資法では、さしたる価値はないかもしれませんが、米国債という対象を選んだ方には大いなる朗報だと思います。

  出版当時は米国債への投資など、ほとんどの方にとってはリスクばかりが大きく、およそリターンの少ないものに映っていたことと思います。その背景には永遠に続くかもしれない円高の影があったのだと思います。

  そのころ「1ドル50円時代を生きぬく」と題された本が出版され、多くのエコノミスト達は「アメリカにも日本と同じ失われた10年が来る」と叫んでいました。

  ではここまではどうだったでしょうか。1ドル50円などにはならなかったし、アメリカには失われた10年など来ませんでした。それどころかアメリカは製造業が復活を遂げ、資源大国の道を歩み始め、デフォルト騒ぎは政治ショウだということがやっと理解されたようです。

  一方日本はどうでしょうか。12年末の選挙の最中から円安・株高へと市場が大きく動き安堵の声が聞こえるとともに、株式市場では弱気の声はなくなり、強気一辺倒になりつつあります。久々の株式相場の活況は実は日本だけの現象ではなく、世界同時進行となっていて、リーマンショック、ユーロショックなどどこ吹く風という感があります。

  しかしこうした相場環境を手放しで喜ぶのは危険です。特に日本の場合、なんといってもファンダメンタルズに変化の兆しがないままに、期待先行で上げているからです。日本財政を冷静に見れば、ここにきて決定された補正予算や来年度予算によって政府債務はさらに増加の一途をたどることが確定しています。

  消費増税など実は焼け石に水で、財政のプライマリーバランスなど夢のまた夢になりつつあります。日本の政治家の中で財政にもっとも重要な責任を持つ財務大臣が頻繁にこう言っているのをみなさんはお聞きになっていると思います。

日本には1,500兆円もの使われていない金融資産がある。これを投資に有効活用すれば、日本の未来は明るいんですよ、みなさん!」

  この財務大臣は、その1,500兆円のうち眠っていると言われる預貯金のほとんどが金融機関を経由して国債に投資され、それがコンクリートに化けてしまい、金融機関に返すオカネなどないことをご存知ないようです。郵貯はみなさんの貯金の8割を国債購入に充て、みなさんの預金引き出しに応えることなどできません。眠った子は叩いても起きないのです。いや、もし起きて投資のために預金を引き出したら国債価格は暴落し、財政は即破綻に瀕してしまいます。日本の財務大臣はこんな簡単なことすら認識できていないことを、どうぞみなさんはしっかりと頭に入れて今後の資産運用を考えてください。

  今回私が「2013年からの資産防衛」というタイトルで新シリーズに取りかかろうと決意したのは、いよいよ日本財政の危機の足音が近づいてきたためです。そしてみなさんの日本財政への懸念に対し、今後どう資産防衛をしたらよいかの答えをお示しするためです。


  何度か申し上げていますが、私は日本が大好きな日本人です。日本には破綻などしてほしくないし、そんなことでストレスを溜めたくありません。でもこれまでの放漫財政で子供たちの世代にツケを回す政府には怒りを感じますし、そんな政府と心中するつもりは毛頭ありません。

  自分の資産は自分で防衛し、みなさんとともにいざという時に備えたいと思っています。そして証券会社のいいなりになってトンデモ商品に投資し、相場に一喜一憂しながら老後をストレスでいっぱいにしたくもありません。

  こうした資産防衛の考え方は、私の従来の方向性と全く軌を一にしていますので、これから書いていくことは今までの繰り返し部分があるかもしれません。ですがいままでの「おさらい」も兼ねるということでどうかご容赦ください。

  今後もこのブログはみなさんと一緒に作っていくつもりです。みなさんからの忌憚のないご意見、どんな初歩的なご質問も大歓迎いたします。
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今後のブログについて

2013年01月24日 | お知らせ

  今後のテーマについて、予告では「債券投資の基礎」をテーマにするともうしあげていました。しかし、何人かの方から「基礎より具体策を」とのリクエストをいただきました。

  そうした方々は、アベチャンの大胆な政策変更で大いに不安を感じていらっしゃるようです。そこでいろいろ考えてみたのですが、いったん「初歩の投資教室」を終えて「基礎より具体策」へ方向変換することにしました。

  今後はタイムリーに新政権の政策実施状況や金融市場の反応をみながら、新政権下で「個人の資産防衛」はどうするかをメインテーマにこのブログを進めて行くことにします。みなさんの忌憚のないコメントや質問はいつでも歓迎しますので、どうぞご遠慮なく。

第1回目は今後の方向性の確認です。

  さて、安倍政権は「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略」を3本の矢と称して、円高・デフレを克服し日本経済を成長軌道に乗せるとしています。

  私には3本の矢がうまくいくとは思えません。もちろんうまくいってほしいのですが、そう簡単にいくとは思えないのです。そして、なによりその政策による反動を心配しているのです。

  その理由はここまでの約2カ月間、当ブログの「ニュース・コメント」で何度か説明してきました。簡単に整理しますと、

1. 大胆な金融政策
日銀の尻を叩いたりタッグを組んだところで、これまでの緩和策がワークしなかったのに、いくら気合いを入れ直しても同じこと。金融政策の具体策とは、財政のツケの尻拭いでしかない。日銀が大胆になればなるほど、将来の日銀の信頼を大きく損ねることになる。

2. 機動的な財政政策
機動的とは、昔ながらの公共事業バラマキに戻ることを言い替えただけ。公共事業をやればやるほど日本の古い産業構造を温存することになる。そして、結果的には財政破綻を早めるだけ。

3. 成長戦略
これに反対する人はいません。オカネをかけずにできることはどんどん推し進めるべきです。しかしお国がまずやるべきことは、民間の邪魔をしないこと。TPPに参加表明すらできずに鎖国政策で邪魔をすることはやめるべきです。

  
  では、私の見通しが間違っていたらどうなるのでしょう。つまりこれらの政策が適度にうまくいき、デフレを克服してインフレと円安が実現したらどうなるのでしょうか。

1. デフレがインフレに転換 ⇒ 金利が上昇 ⇒ 財政破綻

2. 円安への転換 ⇒ 預貯金の外貨シフト ⇒ 財政破綻



そうした流れに対して、個人はどう備えたらよいのか、それが今後のテーマです。

予定としては

1. 個人資産の見直しをしよう
2. 預金はどうする
3. 年金はどうする
4. 保険はどうする
5. 不動産はどうする
6. その他の金融資産はどうする


こうしたことをテーマに、みなさんと一緒に考えて行きましょう。


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日銀の白川さんへ、送る言葉

2013年01月18日 | お知らせ
 

  2008年4月、時の自民党と野党民主党の妥協により誕生した白川総裁。ご本人はきっと総裁になることなど、夢想だにしなかったのではないでしょうか。

  ご本人は中央銀行の総裁の役割を、国際的スタンダードに照らして忠実に果たしているつもりが、政権が替わったとたんに無能・邪魔者呼ばわりされ、石をもって追いたてられることに。なんともお気の毒です。

  この方の仕事の流儀は、お顔に現われたスタイルそのままのようです。中央銀行について語らせれば当代一流の論客ですが、自信のなさそうなお顔が仕事ぶりもにじみ出てしまう。もっとご自分に自信をもったらいかがでしょう。オソイカ・・・
  
  これから新政権がやろうとしている日銀法の改革は、中央銀行の独立性をなくす、つまり存在を否定するような内容です。日銀の政策内容に気にくわない点があったら、議論をし、変えさせたらいい。現在の状況がそれに当たります。もっとも人事権を盾にしたやり口は、穏当ではないと思います。

  アベチャンがやろうとしている新政策や日銀法改正に対して、昨日IMFのラガルドオバサンは、「中央銀行の独立性を損なうことになる」と真っ向否定。政権による円安のあからさまな誘導には、「為替に介入すべきでない」と言及しました。

  白川さん、世界は広い。国内の雑音ばかりに惑わされる必要はありません。見ている人はちゃんとあなたのことを見ていますよ。

  私がもしあなたなら100歩譲って緩和政策には協力しても、日銀法の改悪には「絶対反対!」を正々堂々と唱え、歴史に名を留める道を選ぶでしょう。これは今からでもできます。いつの日か、正しさが証明される日が来るのですから。

  そこで、退任のお言葉ですが「それでも地球は回っている」というのはいかがでしょう(笑)。
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成人の日

2013年01月15日 | ニュース・コメント

  きのうは大雪の中の成人の日でした。東京の世田谷でも、11階の家の窓から見えるのは一面の雪景色でした。

「成人になられた方、おめでとうございます」


と言いながら、我々団塊の世代は後ろめたさでいっぱいです。

  青春時代を古きよき高度成長時代に過ごし、会社の中で中堅社員として働いた30代にはバブルを謳歌しました。その反省もしないまま、バブル崩壊後は夢よもう一度とばかりに財政のバラマキを続ける政府を陰ながら支持し続け、挙句の果てには財政崩壊前にリタイアを迎えて60歳から年金をいただきはじめました。

  景気テコ入れのためバラ撒いた後に若干でも景気が上向いた時、本来であればすこしでもツケを返すべきでした。しかしバブル崩壊後は常に借金を積み上げ続け、一度として減ることなく、若い世代の上に重くのしかかっています。

 「本当に申し訳ございません」

これが私の偽らざる現在の気持ちです。



さて、ここへきてアベチャンは昔ながらのスローガンを言いたてています。

バラマキの時の謳い文句はいつも

「緊急経済対策が必要」

そして財政再建の先延ばしに対しては、

「成長なくして再建なし」


今回も全く同じパターンが始まりました。

  「出世払い」と言う言葉があります。

借金をしてすぐに返せる見込みがない時、いずれ出世をして払えるようになったら払うというむなしいカラ手形です。この言葉、返すなんてことはさらさら考えていないから使う言葉です。

  「呼び水」という言葉があります。

ここでバラ撒けば、それが呼び水となって広範な投資を呼び覚まし、いずれは成長軌道に乗るハズ、という古き良き時代の経済理論に基づいた議論です。すでに20年間呼び水は砂漠に撒いた水で、いつも瞬間蒸発でした。投入した投資が次々と投資を呼び込む「乗数効果」という高度成長時代の経済理論に基づいた議論です。成熟した世界には当てはまらないのに、いまだにそれを信奉し言い続ける学者とそれに乗る政治家・官僚が多いのは、嘆かわしいことです。


  「円高・デフレの克服こそ成長への道」がアベチャンの謳い文句です。

  円高がいずれ本格反転するのは私も言い続けていますし、ここまで行く前にみんなで円高をエンジョイしてカネを使ってしまえばよかったと言っていますので、円安を否定はしません。

  しかし「デフレの克服は成長への道」へ繋がるのでしょうか。逆に「不況がデフレを生む元凶」かもしれません。これは神学論争になってしまうので今は避けます。原因と結果が逆だと、成長にはつながらないかもしれません。

  確実に言えて否定できない事実は、「日本の物価水準は海外よりはるかに高い水準にある」という事実です。

  経済がグローバル化し、国際的物価水準に影響を受けるのに、そうした議論抜きでデフレの克服が呼び水というバラマキで達成できると言いたてるのは、これまた古い独善的経済理論の盲信です。

  TPP反対はデフレの克服を鎖国で達成しようとする企みなのかもしれませんね(笑)


団塊ジュニア世代の息子とアベチャンの話をすると、こうした反応が返ってきます。

①  賃金が低いままで物価を上げるなどトンデモナイ!
②  バラマキは過去のツケを返してからにしてくれ!
③  親に年金を払わなくて済む選択肢を与えろ!(自分の年金は自分で積み立てる)


お説ごもっとも。

反論の余地はございません。

キャイーン!
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