今回は前回の続きです。前回は22年のリスクをレビューしましたが、今回はアメリカの地政学上のリスクの調査会社「ユーラシア・グループ」が1月3日に発表した「ことしの10大リスク」を少し掘り下げます。
まず初めに10項目と簡単なサマリーを並べ、そののち私が最重要と思われる2つの項目を、私なりに分析してみます。以下の10項目はNHKニュースの引用です。
1.「ならず者国家ロシア」
ロシアは世界で最も危険な「ならず者国家」になり、世界全体に深刻な安全保障上の脅威をもたらす。
2.「権力が最大化された習近平国家主席」
去年、開催された共産党大会で習主席は建国の父とされる毛沢東以来の権力を掌握。
3.「テクノロジーの進歩による社会混乱」
AI=人工知能の技術的進歩は社会の信頼を損ない、ビジネスや市場を混乱させる。ポピュリストなどは政治的利益のためAIを武器化し、陰謀論や「フェイクニュース」を広める。
4.「インフレの衝撃波」
世界的な景気後退の主な要因となり、社会的不満と世界各地での政治的不安定にもつながる。
5.「追い込まれたイラン」
政権に抗議するデモが相次いでいる。政権崩壊の可能性は低いが、過去40年間のどの時点よりも高くなっている。
6.「エネルギー危機」
エネルギー価格の上昇は消費者と政府に負担をかける。
7.「阻害される世界の発展」
新型コロナウイルスの流行、ウクライナ侵攻、世界的なインフレなどが続き経済的、安全保障的、政治的な利益がさらに失われる。
8.「アメリカの分断」
アメリカは世界の先進国の中で最も政治的に偏向し、機能不全に陥っている国の1つで政治的暴力のリスクが続いている。
9.「デジタルネイティブ世代の台頭」
1990年代半ばから2010年代初めに生まれた若者を指す「Z世代」がアメリカやヨーロッパなどで新しい政治勢力になる。
10.「水不足」
水不足が世界的かつ体系的な課題となる。しかし、各国政府はこれを一時的な危機としてしか扱っていない。
順序は重要なもの順になっていますので、それも含めてこれら10大リスクを頭に入れておきましょう。では10項目の中から私が最も重要と判断したロシアと中国に関して、私なりの分析を加えることにします。
昨年はロシアのウクライナ侵攻の序列は5番目でしたが、今年はトップです。しかもプーチンとロシア国家をROGUE=ならず者呼ばわりし、最大限の非難の言葉を浴びせています。私ももちろん大賛成です。発表内容は太字です。
1.「ならず者国家ロシア」
屈辱を受けたロシアは、グローバルプレーヤーから世界で最も危険なならず者国家へ変貌し、ヨーロッパ、米国、そして世界全体にとって深刻な安全保障上の脅威となるだろう。ウクライナに侵攻し、電撃的勝利を約束してから約 1 年。もうロシアには戦争に勝つための軍事的選択肢が残っていない。ウクライナの都市や重要なインフラへの攻撃は続くだろうが、地上の軍事バランスに影響を与えることはないだろう。しかし実際に核を使用する可能性は低い。
この最後の「実際に核を使用する可能性は低い」という予測は安心材料ですね。そして最近アメリカはロシア軍を叩く兵器ハイマースや、ミサイルを迎撃するパトリオットを供与し、フランスやドイツも地上での強力な戦闘用車両の提供を始めました。これらによりウクライナ軍は従来より強力になりつつあります。
さらに周辺国ではスウェーデンとノルウェーのNATO参加もあり、プーチンが主張しているNATOによる侵略どころか、逆に彼こそがNATOを呼び込む最大の立役者になっています。私からはならず者の上に、「愚かなる」ならず者という称号をプーチンに授与してあげます(笑)。
2.「権力が最大化された習近平国家主席」
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は2022年10月の第20回党大会で、毛沢東以来の比類なき存在となった。共産党の政治局常務委員を忠実な部下で固め、国家主義、民族主義の政策課題を事実上自由に追求することができる。しかし、彼を制約するチェック・アンド・バランスがほとんどなく、異議を唱えられることもないため、大きな誤りを犯す可能性も一気に大きくなった。
最近の習近平は連続して大失敗を犯し続けていますね。私は以前から「コロナを笑う者はコロナに泣く」と繰り返し言ってきましたが、習近平はまさにそのドツボにはまっています。感染の再拡大中に「中国はコロナを征服した。ゼロコロナ政策は解除だ」と宣言しました。3月5日に行われる全人代を意識して成功を誇示するスローガンでしょう。
おかげで感染は拡大どころか大爆発。ふたたび病院にコロナ患者があふれ、霊柩車が火葬場にあふれました。それをごまかすために感染者数の発表をやめるという姑息な手段を繰り出し、効果の薄い自国製ワクチンのみに頼ると言う愚かな選択をしています。聞く耳を持たない典型的独裁者病に罹っています。
しかしもっとうがった見方もできます。それはコロナを3月の全人代までに克服するための究極的手段、『赤信号、みんなで感染すれば恐くない』政策かもしれません。
つまり今の中国は効かないワクチンによるコロナ退治より、荒療治による強制的免疫獲得のほうが早いという判断をくだしたのかもしれません。まあ世界の人々のためにそれが果たしてワークするか否か、どんどん感染実験をしてもらいましょう(笑)。
もっともたとえそれがワークしても、先日私が「オレ様独裁者たちのたそがれ」の中で指摘したとおり、不動産市場の崩壊が中国人民と政府をむしばむため、「白色革命」の激化防止にはならないだろうというのが、私の勝手な見立てです。その結果、やぶれかぶれの台湾進攻が起らないといいのですが・・・。
それに関しては、ロシアのウクライナ侵攻を民主主義国家グループがしっかりと叩くことを見せつけることが最大の防御になるでしょう。そうすればさすがに習近平も愚かな冒険はしないものと思われます。
以上、私の2大リスク見通しでした。