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今年の10大地政学上リスク

2023年01月07日 | 地政学上のリスク

  今回は前回の続きです。前回は22年のリスクをレビューしましたが、今回はアメリカの地政学上のリスクの調査会社「ユーラシア・グループ」が1月3日に発表した「ことしの10大リスク」を少し掘り下げます。

  まず初めに10項目と簡単なサマリーを並べ、そののち私が最重要と思われる2つの項目を、私なりに分析してみます。以下の10項目はNHKニュースの引用です。

1.「ならず者国家ロシア」
ロシアは世界で最も危険な「ならず者国家」になり、世界全体に深刻な安全保障上の脅威をもたらす。

2.「権力が最大化された習近平国家主席」
去年、開催された共産党大会で習主席は建国の父とされる毛沢東以来の権力を掌握。

 3.「テクノロジーの進歩による社会混乱」
AI=人工知能の技術的進歩は社会の信頼を損ない、ビジネスや市場を混乱させる。ポピュリストなどは政治的利益のためAIを武器化し、陰謀論や「フェイクニュース」を広める。

4.「インフレの衝撃波」
世界的な景気後退の主な要因となり、社会的不満と世界各地での政治的不安定にもつながる。

5.「追い込まれたイラン」
政権に抗議するデモが相次いでいる。政権崩壊の可能性は低いが、過去40年間のどの時点よりも高くなっている。

6.「エネルギー危機」
エネルギー価格の上昇は消費者と政府に負担をかける。

7.「阻害される世界の発展」
新型コロナウイルスの流行、ウクライナ侵攻、世界的なインフレなどが続き経済的、安全保障的、政治的な利益がさらに失われる。

8.「アメリカの分断」
アメリカは世界の先進国の中で最も政治的に偏向し、機能不全に陥っている国の1つで政治的暴力のリスクが続いている。

9.「デジタルネイティブ世代の台頭」
1990年代半ばから2010年代初めに生まれた若者を指す「Z世代」がアメリカやヨーロッパなどで新しい政治勢力になる。

10.「水不足」
水不足が世界的かつ体系的な課題となる。しかし、各国政府はこれを一時的な危機としてしか扱っていない。

 

  順序は重要なもの順になっていますので、それも含めてこれら10大リスクを頭に入れておきましょう。では10項目の中から私が最も重要と判断したロシアと中国に関して、私なりの分析を加えることにします。

  昨年はロシアのウクライナ侵攻の序列は5番目でしたが、今年はトップです。しかもプーチンとロシア国家をROGUE=ならず者呼ばわりし、最大限の非難の言葉を浴びせています。私ももちろん大賛成です。発表内容は太字です。


1.「ならず者国家ロシア」

屈辱を受けたロシアは、グローバルプレーヤーから世界で最も危険なならず者国家へ変貌し、ヨーロッパ、米国、そして世界全体にとって深刻な安全保障上の脅威となるだろう。ウクライナに侵攻し、電撃的勝利を約束してから約 1 年。もうロシアには戦争に勝つための軍事的選択肢が残っていない。ウクライナの都市や重要なインフラへの攻撃は続くだろうが、地上の軍事バランスに影響を与えることはないだろう。しかし実際に核を使用する可能性は低い。

   この最後の「実際に核を使用する可能性は低い」という予測は安心材料ですね。そして最近アメリカはロシア軍を叩く兵器ハイマースや、ミサイルを迎撃するパトリオットを供与し、フランスやドイツも地上での強力な戦闘用車両の提供を始めました。これらによりウクライナ軍は従来より強力になりつつあります。

さらに周辺国ではスウェーデンとノルウェーのNATO参加もあり、プーチンが主張しているNATOによる侵略どころか、逆に彼こそがNATOを呼び込む最大の立役者になっています。私からはならず者の上に、「愚かなる」ならず者という称号をプーチンに授与してあげます(笑)。

 

2.「権力が最大化された習近平国家主席」
中国の習近平国家主席(共産党総書記)は2022年10月の第20回党大会で、毛沢東以来の比類なき存在となった。共産党の政治局常務委員を忠実な部下で固め、国家主義、民族主義の政策課題を事実上自由に追求することができる。しかし、彼を制約するチェック・アンド・バランスがほとんどなく、異議を唱えられることもないため、大きな誤りを犯す可能性も一気に大きくなった。

 

 最近の習近平は連続して大失敗を犯し続けていますね。私は以前から「コロナを笑う者はコロナに泣く」と繰り返し言ってきましたが、習近平はまさにそのドツボにはまっています。感染の再拡大中に「中国はコロナを征服した。ゼロコロナ政策は解除だ」と宣言しました。3月5日に行われる全人代を意識して成功を誇示するスローガンでしょう。

 おかげで感染は拡大どころか大爆発。ふたたび病院にコロナ患者があふれ、霊柩車が火葬場にあふれました。それをごまかすために感染者数の発表をやめるという姑息な手段を繰り出し、効果の薄い自国製ワクチンのみに頼ると言う愚かな選択をしています。聞く耳を持たない典型的独裁者病に罹っています。

 しかしもっとうがった見方もできます。それはコロナを3月の全人代までに克服するための究極的手段、『赤信号、みんなで感染すれば恐くない』政策かもしれません。

 つまり今の中国は効かないワクチンによるコロナ退治より、荒療治による強制的免疫獲得のほうが早いという判断をくだしたのかもしれません。まあ世界の人々のためにそれが果たしてワークするか否か、どんどん感染実験をしてもらいましょう(笑)。

 

  もっともたとえそれがワークしても、先日私が「オレ様独裁者たちのたそがれ」の中で指摘したとおり、不動産市場の崩壊が中国人民と政府をむしばむため、「白色革命」の激化防止にはならないだろうというのが、私の勝手な見立てです。その結果、やぶれかぶれの台湾進攻が起らないといいのですが・・・。

 それに関しては、ロシアのウクライナ侵攻を民主主義国家グループがしっかりと叩くことを見せつけることが最大の防御になるでしょう。そうすればさすがに習近平も愚かな冒険はしないものと思われます。

 

以上、私の2大リスク見通しでした。

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ホルムズ海峡波高し

2019年07月14日 | 地政学上のリスク

  日本とノルウェイのタンカーへの攻撃に続き、ホルムズ海峡を通過しようとしていたイギリスのタンカーにイランの革命防衛隊が接近し、それをイギリス海軍が阻止したというニュースが先週流れました。そして日本はアメリカから「ホルムズ海峡を防衛するのに日本も力を貸せ」と言われています。まずイギリスに関してイギリスメディアの報道を見てみます。7月11日BBCの日本語版を引用します。

 

英国防省は11日、ペルシャ湾を航行中のイギリスの石油タンカーをイランのボートが妨害しようとしたと発表した。ボートはイギリス海軍の護衛艦によって退去させられたという。国防省によると、英護衛艦「モントローズ」は石油タンカー「ブリティッシュ・ヘリテージ」とイランのボート3隻の間に割って入り、音声で警告を発した。同省報道官は、イランの動きは「国際法に反する」としている。イランは先週、英領ジブラルタル付近で自国の石油タンカーを拿捕(だほ)されており、その報復をするつもりだと警告していた。

米メディアは米政府高官筋の話として、石油タンカーがペルシャ湾からホルムズ海峡に入ろうとしたところ、イランの革命防衛隊(IRGC)に所属するボートが近付いたと報じた。」

 

  ホルムズ海峡、かなり波が高くなっています。しかしまず第一に指摘しておきたいのは、そもそもホルムズ海峡の波を高くしたのは誰か。もちろんトランプです。イランを巡る6各国協定から一方的に離脱し、経済的制裁を加えイランを窮地に追い込んだのは放火魔トランプ自身です。それまでおとなしくしていたイランに向かって火を投げ込みました。それでも欧州各国が協定に留まっているのは、そもそもトランプがイランに難癖をつけている理由がさだかではないからです。もっともイギリスだけはいち早くアメリカに部分的に同調しました。

   一方、私はこのところのイランの行動も実に愚かだと思っています。最近になって核合意を逸脱するようなウラン濃縮を実行し、そのレベルをさらに引き上げる宣言をしています。これはあきらかにイランの過剰反応で、トランプにさらなる制裁の理由を自ら差し出してしまっているようなものだからです。これでは欧州各国も協定に留まりイランを支持し続けられなくなります。

   その一方でトランプは日本や中国などにホルムズ海峡防衛の要求を突き付けています。7月9日付ウォールストリートジャーナルの日本語版を引用します。

 「先月イランとの間の緊張が高まった際、ドナルド・トランプ米大統領は次のような衝撃的な発言を行った。「米国はイラン領海とホルムズ海峡を通過するタンカーの航路を防衛する責務を負う必要はない」。同航路の防衛は、米国が過去40年間担ってきた主要な責務の一つだ。代わりにトランプ氏は、米国よりずっと多くの原油をペルシャ湾岸諸国からの供給に依存している中国と日本が、自国向けタンカーを防衛すべきだと主張」」

   タンカーを拿捕されかかったイギリスは、中東政策においてアメリカと常に歩調を合わせる政策をとっています。実際に海軍を常時派遣し防衛に当たっています。日本では憲法を盾に「現憲法下では無理だ」という言い訳が多く聞かれます。しかしアメリカなど他国にとっては、「日本憲法など知ったことか、ダメなら憲法を改正するか、得意の解釈変更をすればいい」という反応が多いのも事実です。

  私自身は日本の生命線であるホルムズ海峡の防衛に関して、トランプの言うことはもっともなことで、憲法を盾に避けること自体、緊急事態の下では意味のないことになりつつあると見ています。3年前に集団的自衛権の行使問題で日本中が揺れに揺れましたが、今回は目の前でアメリカから「俺たちは引くぞ」と言われているのに、のらりくらりと逃げ回る暇はありません。

 

  では現行の憲法とこれまでの憲法解釈により、日本の自衛隊が何をどこまでできるかを見ておきましょう。6月22日の時事通信の報道を参考にまとめてみました。

   まず検討すべき課題は、ホルムズ海峡の防衛をするにあたり、個別対応するのか有志連合への参加かです。

  先般日本のタンカーが攻撃され被害を受けました。このケースでは、犯人はイランだとは特定できていません。しかし今後イランと米の軍事的緊張をあおるような船舶へのテロや攻撃がさらに続発し、攻撃主体が不明なまま日本向けのタンカーも被害が相次ぎ、航行に重大な支障が出ることも考えられます。そうなると各国個別で対応するのか多国籍の有志連合を組み、護送船団方式にするのか国際的に議論されることになり、日本も決断が求められます。

  現在ホルムズ海峡を通過するペルシャ湾からオマーン湾に至るシーレーンは、中東を管轄する米中央軍傘下の第5艦隊を軸に米軍や湾岸諸国などで構成する多国籍軍が警戒しています。日本の自衛艦は参加していません。それに対してアメリカはトランプやポンペイオ国務長官をはじめ制服組も日本などのただ乗りに対するけん制の発言を行っています。

時事通信は以下のニュースを引用しています。

 「米軍事専門誌「ディフェンス・ニュース」(電子版)によると、米軍制服組ナンバー2のセルバ統合参謀本部副議長も「われわれはホルムズ海峡の航行の自由と石油の移動を確保する国際的責任を果たしてきたが、それは米国だけの問題という意味ではない」と、「ただ乗り」にくぎを刺している。また日本の防衛省関係者は「情勢が悪化した場合のシーレーン防衛は、米側が利益を享受する同盟国に応分の負担を求めてくる可能性がある」と話す。」


 では日本はどう対応することが可能なのでしょうか。今の日本政府の持ち札を日本テレビの土曜朝の「ウェークアップ・プラス」は、以下のとおりだと整理していました。

1.     海賊対処法;対象は海賊のみのためそれ以外は適用不可

2.      自衛隊法;海上警備行動・・・自国の船舶のみ対処可能

3.      安全保障関連法;緊急事態の定義により以下の3とおり

    ①   重要影響事態  ② 国際平和共同事態  ③ 存立危機事態

 

  ホルムズ海峡でもし日本の船舶が攻撃を受けた場合、一見すると2や3の項目に当てはめて対処することが可能に思えます。しかし番組に出ていた元防衛大臣の森本敏氏は、今回日本の自衛隊が有志連合に参加するのであれば、「新たな特別措置法を作って参加すべきだ」という見解を述べていました。要は一般論の延長ではなく、場所や事態を限ることで国民のコンセンサスを得て対処すべきだというのです。

   私自身もその意見には賛成で、独自に自衛隊派遣で対処することは難しいので有志連合に参加するが、それには特措法が現実的対処方法だと思います。憲法や安保法の解釈問題でぐずぐずしている暇はありません。

  それと同時に日本がやらなくてはいけないことがあります。それは、国連などの国際機関への働きかけで、まずはトランプの蛮行を糺す。その上で有志連合という言わば勝手な小グループでの対処だけではなく、すでにある国連を活用すべきです。

  もっとも現実的にはトランプのお友達のアベちゃんはトランプを糺すことなどできないし、国連でのコンセンサスは時間がかかるので、当面は有志連合でつなぐ以外ないと思います。

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独裁者というはやり病

2018年03月27日 | 地政学上のリスク

  今世界ではやり始めた危険な病気に「独裁者」という流行病があります。昨年私はすでにはやり始めていた独裁者を以下のように定義しました。

・言論統制を行う

・任期を延長する

・反対者を力で制圧する

・国家主義を標榜する

そして該当者には次のような政治家を上げました。最近のニュースを交えアップデートしておきます。

習近平;3月の全人代で永久独裁の権利を憲法上で確保し、『中華民族の偉大な復興』『中国の夢を実現すると宣言。

プーチン;大統領から首相を経てまた大統領なり、3選禁止という憲法の精神を捻じ曲げ、永久独裁の方法を確立した。世界はロシアを敵視ていると国民に信じ込ませ、対決色を強めることで支持を取り付ける。今回の選挙では選管を自在にたぐり映像に残るほどの明らかな選挙違反を繰り返した。反対者を毒殺するのはKGB長官時代から継続する彼独自の独裁的手法。当選後は「栄光ある大ロシアを再び実現する」と主張。

安倍;党総裁の3選禁止を延伸。目に見えない形で言論を弾圧し、国境なき記者団による言論の自由度ランキングで在任中に日本を11位から72位におとしめた。内閣法制局を使って憲法解釈を捻じ曲げ、三権分立を踏みにじるなど、国家主義的路線にまい進する。

金正恩;すべての条件を有する独裁者の見本。国民の弾圧は言うに及ばず、自分の保身のためなら少しでも怪しい者は親類縁者でも処刑することをいとわない。恐怖政治を国全体を統治する根本原理にしている。

エルドアン;トルコを欧州型民主主義への道からイスラム型独裁国家へと、見事に変貌させ、反対者を数万人も拘束し、かつ政権に批判的メディアをすべて閉鎖し、言論を弾圧。

トランプ;オレ様型人間の常として、気に入らない部下をつぎつぎ首にして独裁色を強め、報道はフェイクニュースと決めつけ、自分に都合の悪い客観情報は顧みない典型的独裁者の色彩を強めている。さらに海外への圧力を強めることが選挙民の支持率向上につながると信じ、対外的強硬策を実行しようとする。標語は「Make America Great Again」から「Keep America Great」に。

エジプト、インド、フィリピン、ポーランドにも同様に危険な芽が出てきています。

  こうした独裁者が共通して主張する困った問題は、自国の版図が最大だった時代を再現すると言う公約です。独裁者たちはそうした過去の栄光の時代を追い求めるため、危険極まりないのです。各国がそんなことを言い出したら、とんでもないことになります。幸いアメリカには大アメリカ帝国時代はありませが、極端な例を挙げると、例えばイタリアはローマ帝国時代の版図だとか、ロシアはソヴィエト時代の版図、トルコはオスマントルコ帝国時代の版図、イギリスは大英帝国の版図などと言い出したら、収拾がつかなくなること必定です。

  日本の場合、まだ「大東亜共栄圏をもう一度」までいっていないのが救いですが、最近の月刊誌の宣伝で記事のタイトルを見ていると、極めて危うい言動が幅を利かせるようになってきています。Voice、Hanada、Wedge、Willなど、いつの間にか右寄で国家主義を標榜する、アルファベットネームの月刊誌が多くなっています。みなさんは気付かれていますか?要注意ですよ。一方で左翼系の雑誌はほぼ死に絶えたようです。何故日本でこんなことになっているのか、私は深く観察したことがないのでわかりません。でも今後どうしたらこうした危険な右傾化と独裁主義志向を防げるか、真剣に考える時が来ていると思われます。念のため繰り返しますが、私自身は右寄りでも左寄りでもなく、リベラルな中道だと思っています。

  では何故独裁者という病が流行するのでしょうか。大きな原因は、世界的に国家間のグループ化があり、それが国家主権の一部を制限するため一般国民に受けないからだと思われます。EUやASEAN、自由貿易協定であるTPPなどにもそうした傾向があって、反対する人が多いからでしょう。さらにNATOなどの軍事協定も含まれるかもしれません。一国が地球上に存在する限り、孤立無援でよいはずがなく、相互依存こそ繁栄と安全への道ですが、そのために拠出金もあれば義務的な割り当てもあります。たとえばEUは難民受け入れという強制割り当てへの反発から分裂の危機に立たされています。

  それを打ち破るということを標ぼうするのが、国家主義に凝り固まった独裁者たちです。例えばトランプはTPPやパリ協定を目の敵にすることで支持を取り付け、北朝鮮をめぐる6か国協定を無視し、イランの核合意も破棄同然です。プーチンも同様にNATOを目の敵にし、旧CISを中心にロシア帝国を築こうとしています。

  独裁者たちは敵を作ることで国民の支持を得ようとするため、今後国家間の対立が先鋭化するように思えます。でも私はあまり悲観的に見ていません。というのは、彼らは一方で暴言を吐きながら、本気で戦争をするはずもなく、ブラフをかまして世界を混乱に陥れながらも微妙なパランスを取ろうとしているからです。たとえ金正恩でも、さすがに戦争で得るものはないことだけは理解しています。しかし周辺国はいい迷惑です。

すいぶんと乱暴な世界観と展望を書きましたが、今の世界を見るには、こうした自分なりの整理をしておく必要があると思い、書いてみました。はたしてみなさんから賛同が得られるか、自信はありませんが。

以上、「独裁というはやり病」についてでした。

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地政学上のリスク 4 講演会内容;アメリカのリスク

2016年11月15日 | 地政学上のリスク

  週末に講演会は終えたのですが討論時間が足りず、いまだにメールで質問が多く寄せられています。主催者の方からは、タイミングのよさも手伝い多くの好ましい反響があったとの連絡をいただきました。

  出席者の方々からの質問への対応でブログがお留守になってしまいました。読者のみなさんには大変失礼しました。

  ブログのコメント欄にも私からのお願いに応え、多くのコメントをいただきましたこと、感謝いたします。すべてのコメントに対応はできませんが、今後私なりに重要だと思われるコメントにしっかりと対応させていただくつもりです。

 

  講演会の予定概要と内容の一部はすでにみなさんにお伝えしていましたが、実際には2時間の講演・質疑応答と、その後の2時間の懇親会でも議論はアメリカ大統領選挙の結果と今後の見通しの話題で沸騰していました。それだけ参加者の方の関心が大きかったのだと思います。

   講演内容で多くの方が関心を示されたのは、主に以下の3点です。

1. 人間の尊厳や、普遍的な価値を否定する大統領出が出てきたことは、アメリカ人の心を引き裂き、心の基盤を壊してしまった

2. ポピュリスト指導者という地政学上のリスクが、アメリカにまで生じた

3.アメリカは株高・金利高・ドル高が進んだが、果たして今後経済や財政に大きな問題が生じないだろうか

という点です。このことはブログのコメント欄にも同様なコメントをいただきました。読者のみなさんも一番懸念されている点だと思いますので、今後しっかりと回答するつもりです。

  ただ、一言だけ先に申し上げますと、

   「その懸念は単なる杞憂です」


  ではまず1.について私が講演したことを記します。

  選挙後アメリカの小・中・高校では白人の生徒が黒人やヒスパニックのマイノリティに対して罵詈雑言を浴びせ暴力を振るうなど、分断が実際に始まってしまいました。子供たちの中には、怖くて学校に行けなくなった子が大勢います。

  トランプの個々の政策は重要ではあっても、彼のリップサービス・ハッタリ・ウソ・意図的忘却により正反対に動いたりしますので、いま議論してもあまり意味はないと私は思っています。

  例えば日本や韓国に対して、「核武装すればいい」との発言も、すでに「そんなことを言った覚えはない」と前言を翻しています。メキシコ国境の万里の長城についても、「一部はフェンスでもいい」とか、不法移民1,200万人を追放すると言っていたのに、「2・300万人の犯罪者は追放だ」と後退。いちいちコメントするのもばかばかしいありさまです。

  しかし「人間の尊厳や普遍的価値の否定」は子供たちやデモ参加者やツイッターでのヘイトスピーチで戦闘が開始されてしまいました。絶対に開けてはいけないパンドラの箱をトランプは開けてしまったのです。

  日本の会社員は私を含めアメリカへの赴任が決まると、「駐在員の心得」教育を受けます。私の場合は80年代後半でしたがすでにその時の内容は、人種差別、宗教差別、女性差別禁止にとどまらず、パワハラ・セクハラを絶対にしてはいけないということが含まれていました。そのことで警察に捕まったり、訴訟を受けても会社は社員を守れない。秘書を雇うインタビューで住所を聞いてはいけない。人種、貧富の差や宗教などが推定できるためです。秘書の雇用後は住所を登録するのでもちろん問題ありません。そして駐在中も毎年会社のアメリカ人担当者から同じ教育を受け続けました。

  アメリカという国は、そうしたことを日々継続することで成り立っている国です。学校では毎朝アメリカ国旗に向かって「誓いの言葉」を全員で唱和し、スポーツイベントでも国家を斉唱します。

  心の中で差別的信条を持っていても、口には出さないのが不文律だし普遍的価値の維持には絶対必要です。気の毒なのはこれまで隠れトランプだったのに、トランプが勝ったことでカミングアウトしてしまった白人でしょう。庭にトランプ支持のプラカードを新たに掲げたりしています。トランプが4年後にどうなっているでしょう。その人たちは大いに後悔するかもしれません。

  普遍的価値の一つである人種差別撤廃はリンカーンによる奴隷解放の時から始まり、60年代に荒れ狂った公民権運動を経て築きあげました。それをトランプは正面切って破壊したのです。本日のニュースでは、日系人に対して「日本へ帰れ」という落書きが学校にあると報道されていました。決して他人事ではありません。

  日本の報道はすでに大統領府の人事や閣僚人事、そして政策内容に移ってしまい、反トランプデモ以外のそうした報道がほとんどありません。しかし政策と同じウェイトで重要なのは、アメリカにおける人心の分断です。

  安倍首相はトランプ当選後の「オメデトウ」コメントでそれに関して一言も言及していません。しかしフランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相はオメデトウとともにはっきりと人間の尊厳を否定するトランプに対し、「苦言」を呈しています。

  当のトランプは大統領選挙後、13日に初めてCBSによる60分に及ぶインタビューに応じました。その関連部分をニュースサイトから引用します。

引用

トランプ氏は、13日のインタビューで「支持者のマイノリティーに対する暴言・暴力を聞いて非常に嫌悪感を感じる」と話していました。

そして、「私が見た限りは1つか2つのSNSで見た...それはごく一部だと思う」と、SNSで情報を知ったことを述べていました。

インタビュアー「あなたはその人(暴言を吐く人)に何か言いたいですか?」

トランプ氏「それを聞いてとても悲しいね。もし私が言って役に立つならカメラに向かってこう言いたい『止めなさい』と」

引用終わり

   トランプには自分がその暴言を吐き続けたことが原因だとか、それがパンドラの箱を開けてしまったことの自覚がありません。そんなのは一部だと自分を慰めています。

  こうした彼のヘイトスピーチは就任以前からアメリカを分断し、一般人にまでヘイトスピーチを蔓延させています。そして私が見たCNNのニュース内容にみなさん驚いていました。それは、黒人二人が逆切れして白人のトランプ支持者一人に殴る蹴るの乱暴を働いている投稿映像が流れていた、ということです。

   その映像はまるで公民権運動時代の白黒映像を見ているようでした。国内がさらなる混乱に至らないことを私は心の底から祈ります。選挙後の反トランプ運動を見て私が思うのは、彼をいまさら認めないと言っても遅すぎる、それが民主主義というものだ、ということです。

   しかし講演会でさらに申し上げたのは、「今後学校内暴力の問題に対処するには、トランプを反面教師にする以外ない。つまり生徒に、『あの大統領のようにだけは絶対になるな』」と指導すべきだ、ということでした。

   このことは日本企業の教育担当にも言っておきます。駐在員には「絶対にトランプのような言動をしてはいけない。日本、そして世界の恥だ」と教育すべきです。

   

   最後に現在のNY市場に一言コメントを付けます。私はこのままNYで株高、金利高、ドル高が一方的に昂進するとは思っていません。今の株高などは、日本株を含め、どう変節するかもわからないトランプノミクスのいいとこ取りにすぎないと思っています。それに関しては3つ目の項目で詳しく述べることにします。

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地政学上のリスク 3  大統領選挙結果

2016年11月10日 | 地政学上のリスク

  みなさん、たくさんのコメント、ありがとうございます。今後もトランプ勝利のことでは、みなさんからのご意見をうかがいたいので、大歓迎です。

  トランプの勝利は私にとってもちろん大衝撃でした。

  実は昨日、大学のクラス会ゴルフで一日ゴルフ場にいたのですが、この歳になるとクラス会同窓会の飲み会やゴルフなどがとても多くなります。でも大学のクラス会ゴルフはちょっと珍しいかもしれませんね。同期会、同じクラブやゼミのゴルフもあるので、春と秋のシーズンはゴルフの回数が多くなります。

  きのうは開票が始まる時間の朝スタートして、午前のラウンドが終わりランチのためクラブハウスに戻ると、開票が半分ほど進んでいてトランプがリード。「えっ?」とは思いながらもカリフォルニアやフロリダなどの大所の結果が出ていなかったので、期待をこめて午後のラウンドに出発。快晴だったのですが風が強くて午後はスコアを崩して終了。ハウスに戻るとテレビでトランプ勝利の結果を放映中でした。

   大ショック!

  それがいつわらざる心境です。BREXITよりも直接影響があるので、より大ショックでした。トランプ自身、「オレの勝利はBREXIT プラス、プラス、プラスだ」と言っていたのを思い出しました。

   その後日本株とドルの暴落を見て、株や為替で勝負している人たちはさぞ大変だろうと思いました。

 

   さて、一昨日のこのブログのタイトルは「地政学上のリスク2、ポピュリスト独裁者たち」でした。今週末の私の講演会の内容もそれに沿ったものですので、紹介させていただいています。

   今日の記事もその一環で、講演会当日に配布する簡単なレジメをそのまま掲載します。私は講演会では内容の項目だけを掲げ、そのペーパーをどうぞメモ用紙に使ってくださいという程度のものを用意します。

   以下は今週初めに主催者の方に送付した原稿です。


タイトル「日本のゆくえ」

1.大統領選挙から何を学ぶか=地政学上のリスクが世界経済に影を落とす

・世界同時多発ポリュリズム   

・ドゥテルテ、エルドアン、プーチンなどの独裁的ポピュリスト台頭

・欧州での反EU右派台頭   

フランス=極右ルペン、ドイツ=ドイツのための選択肢、オーストリア=自由党、ポーランド=法と正義

 

2.ポピュリストや極右台頭の原因

・海外からの脅威

 イスラム系移民・難民、テロリスト流入、輸出攻勢、

・国内要因

 経済格差の拡大が生む閉塞感、ホーム・グロウン・テロ

・反グローバリズム・反移民政策

 自国優先ポピュリズム、トランプ現象、BREXITなど欧州の反移民

  ⇒EUTPPなど統合や貿易自由化への反発、自国優先主義

 アメリカの反移民はもともと存在した問題だが、欧州での反難民が重なり、不満のはけ口になった。大統領選後もこうしたトランプ現象継続か。


 3.国際秩序の変化

・アメリカの覇権に対するロシアと中国の挑戦、特に中国の台頭は脅威

・中東の混乱がもたらした欧州連合の弱体化

・新たな地政学上のリスク

 中国国内のイスラム系民族問題・・・新疆ウィグル自治区

・ロシアを巡る旧ソ連邦中央アジア

 

4.地政学上のリスク、日本への影響

・中東に加え、アフリカリスク(駆けつけ警護)

・中国の太平洋進出、一対一路政策・AIIB、北朝鮮支援

・海外から見た日本のリスク・・・安倍政権の右傾化

対抗措置として防衛力強化や国際秩序への貢献で日本は間違ってはいけない

 

5.個人は何にどう備えたらいいのか

・超緩和政策の破たん→財政破たん

・円リスクのヘッジ

以上


  選挙結果を見た主催者の方から、「内容は変更される可能性があると思いますが、いかがでしょう」と問い合わせが入っていました。しかし私は、「いえ、変更は全く必要ありません。でも1つだけ加えるとしたら以下の1行を加えてください。」と回答。それは項目1の

>ドゥテルテ、エルドアン、プーチンなどの独裁的ポピュリスト台頭

の下に、「ポピュリズムの大本命トランプも参加」

  それだけの変更をもって土曜日の講演会に臨みます。

  それにしてもNYの株価上昇とドル高、そしてみなさん待望の米国債金利2%は驚き第2弾ですね。欧州株がすでにその予兆を示し、日本株の先物も切り返してはいました。そしてなんといってもそれらに先行してドル円があっという間に戻していました。トランプショックで、

   「安全な日本円が買われたが、危険になったので売られた」(笑)

  今日はここまでです。

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