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反田恭平を聴きに行ったつもりでした

2019年05月13日 | 音楽の楽しみ

 

  きのう日曜日の午後、サントリーホールで若手ピアニスト反田恭平のコンサートを聴いてきました。彼のことはすでに何度か書いていますが、簡単にプロファイルをお知らせします。現在24歳でポーランドのワルシャワ音楽院で勉強中ですが、昨年は日本全国でコンサートツアーを行っていて、今チケットが一番取りにくいピアニストと言われています。うちも夫婦で彼が10代の頃からオッカケをしています。

音楽に全くかかわりのない一般家庭で育ち、自分ではマンガ「のだめカンタービレ」で勉強したと称しているユニークなピアニストです。高校生の時、最年少で日本音楽コンクールに優勝。モスクワ音楽院に最高点で入学という素晴らしいデビューですが、現在ワルシャワ音楽院に在籍しているということは、多分2020年のショパンコンクールに出場するのではないかと期待されます。

   彼のすごさをまじまじと感じたのは、昨年の3日間連続のコンサートでした。ドイツの夕べ、フランスの夕べ、ロシアの夕べと、それぞれの国を代表する大作曲家のピアノ曲数十曲を3日間連続で弾くという離れ業コンサートを成功させました。その時に使ったピアノが往年のロシアの名ピアニスト、ホロヴィッツの愛用していた古いピアノで、タカギクラビーア社から提供されていたのも印象に残りました。

 

  昨日のコンサートは日本フィルハーモニーとの共演で、ロシア人の指揮者アレクサンドル・ラザロフによる指揮、プログラムはチャイコフスキーのピアノコンチェルトの他に、バイオリニストに神尾真由子を招いたチャイコフスキーのバイオリンコンチェルト、そして同じくチャイコフスキーのバレエ組曲、白鳥の湖など3曲、という豪華な組み合わせでした。

 

  ピアニストもバイオリニストも文句なしの演奏をしてくれ大満足だったのですが、実は最も驚いたのは指揮者ラザロフの指揮ぶりでした。彼は舞台のそでから式台まで小走りで登場したかと思うと、聴衆に向かい深々と一礼。ここまでは型通りなのですが、折った体を真っすぐに戻しながら半回転してオーケストラに向き、その時には指揮棒と手を高々と上げ、いきなり振り下ろして最初の音を出してしまったのです。

 

  普通であれば指揮棒を振り上げる前にオーケストラを見渡し、準備が整ったのを確認してから指揮棒を上げ始め、おもむろに音出しをするのですが、その準備動作は全くなし。陸上短距離のスターターが、「よーい」という言う前にピストルを「ドン」と鳴らしたようなものです。聴衆はあっけにとられていますが、指揮者もオーケストラも何事もなかったように演奏が始まっていました。楽団員はそのタイミングに慣れているのでしょう。

 

  そうした驚くべき指揮ぶりは、曲の途中でも発揮されます。とてもノリのいい指揮者のため、狭い指揮台をフルに使うのですが、時々体を翻し、「どうだ、いい演奏だろう」と、聴衆に向かって満面の笑みで指揮棒を振ったりします。

  そして極めつけの驚きはピアノコンチェルトのフィナーレで起こりました。反田恭平のあまりにも素晴らしいフィナーレのテクニックに聴衆も指揮者も酔いしれているのですが、最後の大きな音が鳴っている最中に彼は我々に向かって体を向け、なんと聴衆の誰よりも早く一人で大きな拍手を始めたのです。

  もちろんその拍手はピアニストへの称賛なのですが、「ちょっと待ってよ。それは我々聴衆が最初にするもんでしょ。指揮者じゃないよ」と私は思わず口に出してしまいました。横にいた家内と友人の二人も顔を見合わせビックリした表情でした。

  驚きのパフォーマンスはまだまだ続きがあります。指揮者と独奏者はソデに引き上げ当然何度も呼び戻されますが、ラザロフはソデに戻るときも舞台へ戻る時も聴衆に向かって、「オーイ、拍手が足りないよ。もっともっとだ」と両手でみんなを煽り、自分も拍手をするのです。煽られた我々はそのたびに笑いながら一段と大きな拍手を返しました。ちょうどサッカーでゴールした選手が、サポーターを煽って称賛を受けようとするのと同じ動作を何度も繰り返していました。

 

  二つのコンチェルトが終わり、最後の組曲が終わった時に、また驚きのパフォーマンスがありました。よく指揮者は演奏が終わった後、コンサートマスターと握手をしたり、出来栄えがよかった演奏者を立たせて称賛の拍手をしたりしますが、彼はなんとフルートの女性奏者とトランペットの男性奏者のところまで楽団員をかき分けて自身が出向き、手を取ってそのまま指揮台まで連れて行き二人を指揮台に立たせて、万雷の拍手を聴衆に要求したのです。楽団員が指揮台に上がったのを見たのは私もさすがに初めてです。

 

  この指揮者のパフォーマンスは見ていて実に小気味よく軽妙で、全く嫌味がありません。曲の途中で聴衆に向かったまま指揮をしたり、手を挙げて煽ったり、演奏が終了してからも我々は最後の最後まで楽しむことができました。

 

  Viva LAZAREV!

 そして反田君、あんたはすごい!

コメント (2)
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