ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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世界に立ち遅れる日本のDX 

2021年03月27日 | ニュース・コメント

  緊急事態宣言が解かれ、聖火リレーも始まりましたね。今回の緊急事態宣言の解除について国民の声は「早すぎ」が多かったようです。世論調査を見てみます。3月13日の毎日新聞と社会調査研究所の調査結果は、以下のとおりでした。

 

「3月21日以降も延長すべきだ」との回答は57%に上った。「21日の期限をもって解除すべきだ」は22%、「ただちに解除すべきだ」は7%だった。

     同時期の他の調査でも、FNNと産経新聞は「21日に解除できないが73.5%と大きくリードしている」と報道していました。結局21日に解除はしたものの、その後の新規感染者数はどんどん増加していて、とても安心できる状態ではありません。

   その中でオリンピックも聖火リレーがスタートして、後戻りはできない状況になっています。無事オリンピックを迎えるにはワクチン接種を少なくとも人口の6~7割方済ませるべきでしょうが、とてもそこまでは至らないでしょう。アメリカはバイデン大統領のコミットメントである「就任100日までに1億人」が、今では「2億人」と豪語するまでに至っています。ワクチン担当の河野君、大丈夫でしょうか?

 

  ところでコロナ対策のため厚労省が鳴り物入りで昨年6月から運用を開始した感染者接触確認アプリのCOCOA、みなさんは登録されましたか。世界に範を示した台湾のコロナ対策を模したもので、日本では2,400万人が登録したということですが、その運用はお粗末そのものでした。

  そもそもこれは、スマホにみんながCOCOAというアプリを登録して、その中から感染者が出た場合、感染者の近くにいた可能性のある人に警告が来るという優れたシステムのはずでした。しかし運用が始まって8か月も経過した今年2月になって、「ごめんなさい。去年の9月以降システムが動いていませんでした」と、笑い話のようなお知らせが来たのです。それまで動いていないことを誰も気が付かなかったとは、なんというお粗末でしょう。しかし実は今の日本では同様なことがあちこちで起こっています。コロナ感染の混乱に拍車を掛けたのが、保健所業務がいまだにファックスで行っているという、これまた笑い話がありました。

  そしてマイナンバーカードを健康保険証として使用できるようにする件も同様です。3月25日のNHKニュースを引用します。

 引用

マイナンバーカードの健康保険証としての利用について先行して運用が始まった一部の医療機関で患者の情報が確認できないなどのトラブルが相次ぎ、今月末から予定されていた全国での本格運用が先送りされることになりました。厚生労働省は、遅くともことし10月までには、本格運用を始めたい考えです。

  しかし、先行して運用を始めた一部の医療機関で「保険資格の情報が登録されていない」と表示されたり、健康保険証に記載された情報と一致しなかったりして患者の情報が確認できないトラブルが相次いでいることが分かりました。このため厚生労働省は、今月末からの本格運用を先送りすることにしました。
引用終わり

  さらにデジタル化により防げるみっともない誤りが先週末に指摘されました。それは今国会に提出された70本の法律に20件あまりの間違いがみつかったというお粗末な事態です。あらゆる省庁にまたがりますが、作成は各省庁ですが、国会でもチェックが行われるため、官僚だけの問題ではありません。このお粗末な事態を見ると、日本は本当に文明国なのか、疑いを抱かざるを得ません。デジタル化を本格的に推し進めれば、当然簡単に防げるものがほとんどです。

   こうしたことは官庁だけでなく、民間でも同じようにトラブルが続いています。昨年10月1日に東京証券取引所で起きたトラブルでは、東証上場全銘柄の取引が終日停止されました。資本主義の文明国ではありえない事態でした。他にもみずほ銀行はたびたび大規模なシステム障害を起こしています。3月17日の日経新聞を引用します。

引用

みずほ銀行でシステム障害が相次いでいる。2週間で4回だ。過去に2度の大規模障害を引き起こし、それらを教訓に情報システムの全面再構築を断行。トラブルと決別したはずだった。にもかかわらずATM障害やハード障害などが連発している。

引用終わり

  こうしたお粗末なトラブルの原因は、役所や取引所、銀行などの運用当事者の責任だけではありません。そのシステムを作り運用しているほんの数社の巨大システム・プロバイダーの責任でもあります。あえて名前を上げれば上記の例の筆頭格は富士通、そしてNTTデータ、日本IBMなどです。彼らに共通しているのは、かつて巨大なメインフレーム・コンピュータのメーカーとして君臨し、それで動くシステムを作り、その運用を後々まで請け負うというビジネスモデルを有していたことです。使用者側の役所や企業も、自分たちの仕事内容やデータを彼らが熟知しているし、システム運用を独占的に長年任せきりにしていたため、実は世界の潮流に乗り遅れました。まあそれでも90年代まではそれでよかったのですが、2000年代になったとたんメインフレームの世界がサーバーによる分散処理の時代になっていたのにそれに出遅れ、さらに近年クラウドの世界に移った時にはじめて自分たちはまだガラパゴスで生きていることを知り、取り返しのつかない遅れとなってしまいました。その上今後はすべての分野でAI化が世界的に進展しつつあります。

 

  菅政権は経済成長の目玉に「デジタル・トランスフォーメーション=DX」を掲げていて、デジタル庁を今年の秋に新設する予定です。しかしこうしたトラブルが続いていては、

いったい日本のDXってなんなんだと思わざるをえません。日本経済の成長ドライブにするはずが、逆に足を引っ張る一方です。先進国とはとても思えないデジタルオンチぶりです。

  ではそもそもDXとは何か、Wikipediaを引用します。

引用

「デジタル・トランスフォーメーション(Digital transformation; DT or DX)とは、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念である。デジタルシフトも同様の意味である。2004スウェーデンウメオ大学教授、エリック・ストルターマンが提唱したとされる。ビジネス用語としては定義・解釈が多義的ではあるものの、おおむね「企業がテクノロジー(IT)を利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させる」という意味合いで用いられる。」

ただし、DXが及ぼすのは単なる「変革」ではなく、デジタル技術による破壊的な変革を意味する「デジタル・ディスラプション」。すなわち、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものだと解釈されています。

引用終わり

  特に日本のお役所は世界の一般的先進国から見たら、ガラパゴス島だけに生息している忘れ去られた生物としか見えません。官邸や官庁で大きなスキャンダルが起こるたびにそれを実感させられます。いつも出てくる言い訳が、「廃棄処分しました」だからです。プリントした紙の書類だけに頼り、ハンコが付いていなければ正式に認めない。しかし都合が悪くなるとすぐに廃棄処分する。彼らは実は証拠隠滅のためにDXを意図的に遅らせているとしか思えません。安倍政権時代のモリカケを巡る文科省しかり、その前の防衛省しかり、最近の総務省問題も同じです。紙しかないという言い訳で黒塗りにし、シュレッダーにかけ、「記憶にございません」の決まり文句を繰り返す。記録をデジタル化すればビルいっぱいの文書だってポケットに入れられるサイズに収まるので、文書規定で「保管期間3年」などと規定せず、すべて永久保存できるハズです。

  スキャンダルはそれだけにとどまりません。例えばかんぽ生命と日本郵政グループは、例の保険営業の詐欺事件で、今週新たに処分者を1,300人も出し、合計3,000人を処分しました。もし営業報告や契約書などがコンピューターで一元管理されていたら、加入、解約、再加入を繰り返す回転営業など簡単に洗い出し、ウォーニングを出し、一網打尽にできたはずです。

  この恐ろしいほどのデジタルオンチ、いったい誰が本気で改革するのでしょう。日本の経済成長停滞の大きな原因の一つが低生産性にあります。DXの推進はその打開のカギを握っています。そして今後のさらに大きな課題は、国防上のデジタル防衛戦を対等に戦えるかです。いま世界のならず者国家からやりたい放題にやられているハッキングを防衛し、安全を確保しなければ、おちおち眠れなくなります。

  親子三代、根っからの政治家、デジタル相の平井君、はたして官邸や省庁の厚い壁を崩せるのでしょうか。

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長谷川町子美術館と新しい長谷川町子記念館

2021年03月20日 | エッセイ

  私が住む世田谷区用賀の隣駅、桜新町はサザエさんの街です。地下鉄の駅を降りて商店街に出るとすぐにサザエさん一家の銅像があり、見たとたんにとても心が和みます。漫画家長谷川町子さんが作った美術館があり、駅から美術館までの商店街は「サザエさん通り」と呼ばれ、サザエさん、ワカメちゃん、タラちゃんなど家族の銅像がいくつも置かれています。駅前通りは八重桜の並木があって、もうすぐ満開の桜を見る人々でいっぱいになるでしょう。

   今日は家内が運動不足解消のため散歩に行きたいと言うので、まだ咲いていない桜のつぼみを見ながら、昨年新たに作られた長谷川町子記念館まで歩いていきました。用賀のうちからは30分ほどの道のりですが、国道246号線やその旧道を歩かず、さらに古い大山道(おおやまみち)などの裏道を歩いて行きました。大山道について世田谷区のHPを引用しますと、「大山道は、江戸の赤坂を起点として、青山、渋谷、三軒茶屋、用賀を経て、二子の渡しで多摩川を渡り、溝口、長津田、厚木、そして伊勢原(大山)へと至り、さらには秦野、松田を経て、矢倉沢関所に続く脇街道です。」とあります。

 

  大山は丹沢山系の山で、東京からは中高生の遠足のメッカです。江戸時代には山岳信仰で有名な山で、富士山と並び参詣者が多く、毎年20万人も参詣したと言われています。街道沿いには今でも古い石作りの道標がたくさん残っていますし、居酒屋では大山地鶏のヤキトリや大山豆腐が人気のローカル・メニューです。そして桜新町は隣の用賀や深沢と並び東京では珍しく碁盤の目状に整備された静かな住宅街が広がっています。

  その日はランチも桜新町の小さなイートインのお店でいただきました。名前はドイツ語で「ファインシュメッカ―さいとう」。意味は「グルメの店さいとう」です。ドイツ風の自家製ハムソーセージを販売しているお店です。我々がたのんだのはランチプレートで、ソーセージ2種類とザワークラウト、ハムにピクルス、そして丸いドイツ風パンがついていました。昼どきをちょっと外れていたためか空いていて、オーナーシェフとの会話がはずみました。会話のきっかけは、私が小さなパンにナイフを入れたとたんシェフが、「お客さん、ドイツにいましたね?」と話しかけてきたのです。「ナイフの入れ方がドイツ式だ」というのでびっくり。そんなことを言われたことはありませんでした。

「はい、駐在員でフランクフルトにいました」。

「日本人で小さなパンをそうやって切る人はいませんよ。普通はみなさん直接かじるか手でちぎります。水平に半分に切ったパンの間にハムやサラダを挟むんですよね」。

  たったそれだけの所作から私がドイツで暮らした経験を持っていることを指摘するとは驚きです。彼はキリンビールに就職し、会社からデュッセルドルフに派遣されていたそうです。その後ドイツのソーセージ類が好きになり、ついに製法を勉強して独立したとのこと。

 

  70年代当時一人暮らしだった私は田舎町のドイツ語学校に通い、あてがわれた宿舎のドイツ人家庭でドイツ式のパンの切り方を自然に身につけていたんでしょう。そのことを今回初めて気づかされました。学校はフランクフルトからミュンヘンに至るロマンチック街道のハイライトともいえる中世の街ローテンブルグの中にありました。そこにいたことを話すと彼は自分がローテンブルグを訪ねた印象を話しはじめ、あんな中世そのままの街が残っているなんて、奇跡としか思えないと言っていました。たしかにあの町は直径わずか1㎞もない城壁に囲まれた城塞都市で、昔の街並みがそのまま保存された稀有な街です。お互いにドイツの話で意気投合し、1時間を超える楽しいランチと会話ができました。

 

   さて本題です。長谷川町子美術館は以前からあり、町子と姉の鞠子の収集した美術品が展示されています。絵画を中心に陶磁器など800点余りの美術品が入れ替わり展示されます。特に絵画の趣味は私と似ていて、私の好きな藤田嗣治や岡鹿之助、そして加山又造などを所有しています。私はもちろんただ「見てるだけー」です(笑)。

  ところが美術館はその名に反して長谷川町子やサザエさんにちなんだ展示物はごくわずかしかありませんでした。名前に釣られてきた方は、きっとがっかりしたことでしょう。そこで昨年、長谷川町子の生誕100年を記念して、漫画家長谷川町子の作家活動を展示する記念館が新たに作られたのです、今回は主にそちらを見に行きました。

  記念館の場所は美術館と道をへだててすぐ隣。敷地も内部も美術館より少し広いと思います。私自身は漫画や劇画をほとんど見ない人ですが、サザエさんやイジワルばあさんなどは新聞やテレビで目にしていました。作家としての彼女の才能はとても素晴らしいと思います。わずか四コマの漫画に家族の悲喜こもごもを盛り込む技は見事というほかありません。私の子供時代である昭和の日常生活は漫画サザエさんにすべて盛り込まれ、記念館にはサザエさんに出てくる茶の間がそのまま再現されています。昔懐かしいちゃぶ台、食器棚、火鉢、柱時計からなべかまにいたるまで忠実に再現されていて、自分の子供時代を見ているようでした。

  一方展示は彼女の漫画家としてのデビュー前から始まり、デビューして売れっ子になるまでの経緯がわかるようにできていて、原画などもたくさん展示されています。なかでも4コマ漫画サザエさんの第一作の切り抜きもあり、見どころ満載です。サザエさんの連載が初めて取り上げられた福岡のフクニチ新聞からはじまり、全国紙朝日新聞に至るまでの歴史もたどってくれます。4コマ漫画としてなんと6,500回にものぼる作品がうまれたとのこと。驚く以外ありません。

 

  併設のカフェや図書館風の部屋では、これまでの出版物を自由に手に取って読むことができるので、好きな方にはたまらない記念館だと思います。特に大ファンでもない我々夫婦もカフェでの休憩時間を含め2時間近くのんびりと過ごし、自分の子供時代とサザエさんの世界を楽しむことができました。

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America is Back!

2021年03月14日 | バイデンのアメリカ

  バイデン政権が発足してあと数日で2か月になります。まだ発足早々ですが、この2か月をレビューしておきましょう。

  まず政権の支持率ですがいつものRealClear Politicsによれば、発足当初から平均で支持率およそ55%、不支持率およそ40%でその差が常に15ポイントほどあります。非常に安定的に推移しています。就任してから一度も50%を超えたことがないままに終わってしまったトランプ政権とは大違いです。ついでに言えば、大統領選でのトランプの得票率は、そもそもヒラリー・クリントンより2ポイントくらい低い得票率でした。

  昨年11月の大統領選挙の得票率はバイデン51.3%、トランプは46.7%で、その差4.6ポイントでした。選挙の時より政権発足後の方がバイデンの支持率はだいぶ上昇しています。もちろんあの議会占拠で死者まで出した騒乱も大いに影響しているのでしょう。就任早々バイデンは多くの政策を大統領令や議会の賛成決議で実施していますので、それらに評価を受けていると思われます。

 

政治スタイルはトランプの独りよがりのツイッター政治から、まっとうな政権運営へ回帰

いきなりツイッターで爆弾を投げつけ、閣僚や官僚たちがあわてて追いかけるというやり方から、バイデンは常に閣僚や官僚たちと合意形成をしながら進めるというまっとうな政治スタイルに戻しました。大統領と閣僚や官僚との関係は良好で誰一人やめてはいませんし、ホワイトハウスをトランプのようにファミリービジネスにしてもいません。「そして誰もいなくなった劇場」とは大違いです。

  

  ではこの2か月弱でバイデン政権は何を実施あるいは宣言したのか具体的に見てみましょう。まず最初に行ったのは、トランプ政権が発足直後「America First」でぶち壊した国際協調路線への復帰です。就任演説で強調した「America is back!」を文字通り実行しています。それらのうち主なものをあげてみます。

 

1.アメリカ第一主義から国際協調路線への復帰

・地球温暖化対策のパリ協定への復帰

・WHO脱退を取り消し、協調へ

・トランプ政権下で撤廃された様々な環境規制の再構築

・国連や世界の民主主義勢力と協調しその価値観を重視し、反独裁政権の姿勢を明確化

金正恩やプーチンなど、世界の独裁政権にすり寄ったトランプ路線を翻した。最近発表された対中国政策でウィグル族の人権を重視したことにもそれが現れている。対中戦略構築のため、日米豪印による「クアッド」と呼ばれる首脳会談を3月12日に主催し、自由主義陣営の結束を図った。

 

2.コロナ対策

科学を否定したおろかなトランプの正反対を行き、公約である「100日以内に1億人にワクチン接種」が予定以上の進展を見せ、37日で半数の5千万人に接種を終えた。バイデンは3月12日の演説で、「独立記念日の7月4日までには家族が集まってパーティーができるようにする」と目安を示した。ワクチン政策は民間人、軍人を含め元医師・看護師などの医療関係者を総動員し、接種場所も病院だけでなくヤンキースタジアムなど様々な施設内やショッピングセンター、薬局などに分散させている。それに加えてグーグルはCDC疾病センターと協力し、接種場所をグーグルマップ上に表示するサービスを開始。

一方政府職員らを対象に、政府の敷地内ではマスクとソーシャル・ディスタンスを100日間守ることが定められ、マスクをせずに感染したトランプと違い、国民に感染抑止の見本を示した。

 

3.経済対策

・200兆円の対コロナ経済対策予算、国会通過

トランプ政権下では企業対策、インフラ投資を重視したが、バイデン政権は低所得者の家計支援を重視し、半分の100兆円あまりを家計支援に。一人当たり1,400ドルの配布を今月中に終える予定。ばらまきではあるものの8万ドルを超える高い所得の世帯を除いた。

 

4.女性の権利と人権重視、人種差別撤廃

人種の平等と疲弊した地域をサポートする連邦イニシアチブを導入。 これは政府が統括する施設やプログラムにおいて人種差別を撤廃する取り組みで、全ての省庁に200日以内にアクション・プランを提出することを義務付けた。またトランプによるイスラム信者の入国禁止令も撤廃。昨日はアジア系住民への暴力などヘイトクライムを非難した。

  以上は新政権が発足2か月足らずで実施あるいは宣言した多様かつ広範な主な政策です。それらすべてを全国民が支持しているわけではありませんが、かなり順調な滑り出しを見せています。

 

  しかし就任演説で強調したもう一つの公約である「Unity」、国内の分断を終わらせ結束に向かわせるための方策としては、上記の政策は賛否が分かれるものが多く、決定打にはなっていません。

  アメリカでの一般的論調は、今後の最も大きな課題は分断の修復であると言われていますが、バイデンは少なくともトランプのように分断をひたすら煽ることで求心力を得ようとするわけではないため、かなり安心して見ていられます。今後上の5に記した政策の奏功が待たれます。分断の修復は国内でも国際関係でも同じですが、 

  アメリカが世界の地政学上のリスクの焦点ではなくなった

という事は確実に言えます。

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あれから10年ですね

2021年03月10日 | ニュース・コメント

  テレビをつけると東日本大震災の10年の回顧番組が多く、あの時のことが甦りますね。みなさんもあの当日のこと、そしてその後被害状況が明らかになり、毎日死亡者数が増えて行ったことなどよく覚えていらっしゃると思います。その後に続く原発事故はさらに衝撃的でした。

  私は地震のとき、家から3㎞ほど離れた大型小売店の2階にいました。最初の揺れの瞬間にこれは大きな地震だぞと思い、すぐに階段の方に向かって走り、手すりをつたいながら一階に下り、建物は新しいので倒壊はなくともガラスの破損が心配だったので建物から離れて安全を確保しました。ビルは低いビルだったためガラスの破損などもありませんでした。

   駐車場の車に戻りラジオで地震が東京とは数百キロも離れた東北地方の沖合が震源地であることを知りました。それにしては東京もいままでの一生で経験した地震でも最大級だったので、さぞ大きな地震だろう。そして沖合となれば津波も心配だと思いました。そしてすぐに丸の内の高層ビルで働いている家内が心配になり電話をしました。早かったせいか電話は通じ、「高層階でゆったりと大きな揺れが続いていて、気分が悪い。そして電車も止まっているだろうから車で迎えに来て欲しい」とのこと。車でいくのは避けるべきだとわかっていましたが、渋滞覚悟で水とスナックを用意して車で都心に向かいました。ついでに日比谷で働いている娘もピックアップしようと思い、連絡を試みましたが、無理でした。

  世田谷区の家から脇道だけを使って山手線の内側までは比較的容易にたどり着いたのですが、そこからは動きが止まり、相当な脇道でも渋滞していて、日比谷に到着したのは3時間後の夜7時くらい。電話が通じないため直接18階のオフィスまで階段で登りたどりついたのですが、娘は外出しましたとのこと。その頃にはショートメールだと通じるということがわかったので連絡すると、彼女は仲間と一緒に食べたり飲んだりして電車が動くのを待つとのこと。後で知ったのですが、それが結構正解だったそうです。

   日比谷から丸の内は歩いても10分くらいなのに、到着は8時くらいになりました。無事ビルの下で家内と会うことができたのですが、気分の悪さが続いていてすぐに車に乗るのは厳しいとのこと。もともとバスでも酔うたちなので、高層階にいて長周期振動で20分も揺られたため、かなり憔悴していました。しかも都心から郊外へ向かう道路の渋滞はとてもひどく、ほとんど動いていない状態でした。そこで覚悟を決め、飲食店を探し休むことにしました。東京駅の反対側、八重洲で深夜まで営業している焼鳥屋を見つけて、やっと休むことができました。10時ころまで食べて休み、意を決し渋滞にはまりに行きました。それでもなんとかその日のうちに家にはたどり着きました。往復7時間のドライブでした。

  その間情報はラジオだけでしたが、刻一刻と地震もさることながら津波の被害のひどさが伝わってきました。どこの街が全部流されたとか、津波は一度だけでなく何回も往復して襲い、範囲は千葉県沖から青森県あたりまでだという規模の大きさに驚かされました。

  家にたどり着いても気が高まっていて寝ようとも思えず、被害の様子を伝えるテレビを見続けました。テレビにはどんどん新たな動画が映し出されました。多くの人々が携帯やカメラで動画を撮っていて、それらが取り上げられるためでした。ニュースの取材陣だけでなく、現場にいたすべての人がレポーターになった最初の大災害だったかもしれません。そしてその日以降はすべての報道が大震災と大津波の被害に加えて原発の動向一色になりました。

 

  10年目となった今週もその時に撮られた動画がたくさんテレビで流されています。命を落とすかもしれないギリギリの場面にいながらもそれを記録しようとする普通の人々によって多くの貴重な記録が残されました。

  今後もそうした記録を大切に教訓として次世代に残し、大災害が起きても被害を最小限に食い止めることができることを祈ります。

 

  私はその時期が最初の出版と重なっていました。そしてある出版社とバトルを繰り広げていたのです。私のドラフトを読んだ大手の出版社の編集長が是非出版したいと言ってくれたので、喜び勇んでドラフトの文章を校正するミーティングを重ねていました。ところがあと1か月で最終稿に仕上がるという段階で、「林さん、アメリカっていう国は、あなたの書いているほど強い国でも安全な国でもないし、米国債だってデフォルトする可能性はある。それを加味して安全であるという部分を削除してくれ」と言い出したのです。

  私は「米国債を安全だから薦めています。米国が安全であるという説明部分を省くことなど絶対にできません」と反論しました。それでも相手の編集長は譲りません。すると、「あんたはね、初めて出版するシロウトなんだから、編集者の言う事はすべて聞き入れろ」と迫って来ました。さらに、「世間に名の知れた作家や評論家だって編集者の言う事はすべて飲むのが当たり前の世界だ」とまで言うのです。

  そうしたバトルを続けている真最中に大震災が起こりました。その後も私は編集長に負けずに突っ張ったため、その出版社での出版は取りやめになりました。それを拾ってくれたのがダイヤモンド社です。名もない元バンカーが書いた原稿を、全くのコールドコール、つまり誰も知り合いなどいないにも関わらず、メールで送りつけた原稿に目を通し、「これは面白い」と出版の意向を示してくれました。

 

  そして初顔合わせで先方が言ったのは、「編集部の部員みんなで読み合わせしたところ、だれもが米国債を買うぞ、と言い出した」ということでした。やはり経済金融に強い出版社だけあって、打てば響くという反応でした。

  それから出版までは実にトントン拍子でした。わずか4か月で本に仕上げてくれました。私を担当してくれた編集者の方が言ってくれたのは、「林さんの文章はプロの物書きよりも読みやすい。初めての方の文章は、ほとんどすべてのパラグラフで直しが入るものですが、それがほとんどありませんでした。」と言われ、とてもシロウト著者としてとても安心したのを思い出します。

 

  それから10年近くたち、つぎの本の出版をやはり別の大手の出版社が取り上げてくれることになったのですが、それがなんとコロナ禍と重なり、延期になってしまいました。

  私が出版しようとすると、世の中でろくなことが起こらないようですので、しばらく自粛します(笑)。

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米国債は買い時か?

2021年03月02日 | 米国債への投資

 アメリカの長期金利高騰が日米の株式相場を崩しましたね。その後若干巻き戻しているので、株式投資をされている方は、ほっと一息というところでしょう。

 

  この長期金利の高騰を見て私が抱いたことは、「アメリカは健全だな」ということです。金利が高騰すれば株式は暴落するのはある意味当然です。日本は日銀が金利という大事な警報装置である体温計を壊してしまったので、金融市場も経済もまっとうさを失ってしまいました。そして株式市場も日銀が日本最大の機関投資家として買一方のために相場は歪められ、血圧計としての役目が狂ってしまっています。

  そのことはさておき、米国債の10年物金利が先週1.6%まで一気に上昇したのは世界の株式投資家には衝撃的だったことでしょう。株式投資に対する超楽観論が支配していたのに水を掛ける形になりました。

 

  このところアメリカの景気が回復しつつあり物価が若干上昇。先行きの物価見通しを占う指標である期待インフレ率も上昇しているため、金利の上昇は当たり前と言えば当たり前なのです。しかし相場は投資家のポジションにより大きく振れることがあります。例のゲームストップ株は空売りポジションが溜まっていたため踏み上げ相場を作ってしまいました。金利も先物の空売りポジションが大きいとそうした急激な上昇はありえます。今回も1.6%に急上昇した過程では、オプション取引が貢献したと言われています。しかし米国債の先物市場とゲームストップ株には根本的な違いがあります。それはロビンフッドの記事で解説した「流動性の差」です。世界の投資対象証券の中でも米国債市場は先物も現物もオプションも、世界で一番流動性が高い投資対象のため、ストップ高が何日も続くなどということはあり得ません。その証拠に1.6%台を一瞬付けても、あっと言う間に1.4%台まで戻しています。

  では金利に関していただいている質問の回答に移ります。

  ブログのコメント欄、そして私と個人的に相談されている複数の方々から「今の金利レベルは買いでしょうか」というご質問をいただきました。なんの条件も考慮にいれずに最も単純な回答をさせていただくと、

 

「このレベルは買い時ではありません」となります。

 

  長い間1%を下回る時期が続いていたため、今日現在の1.4%台でも魅力的に見えてしまうのは事実です。しかし1.4 %ではコンスタントな金利を得るためのインカムゲイン投資としてはあまりに少ないリターンです。1千万円投資したとしても年間税込み14万円です。もちろんゼロクーポン債として長期の投資によるリターンを狙うにしても、この金利は低すぎると思います。

  本来であれば当然その方の全資産額、年齢、投資目的などを確認しながらアドバイスを差し上げるべきですが、それを確認するまでもなく「まだです」と回答します。

  ではどれくらいのレベルであればゴーサインを出せるのでしょうか。個人の資産構成など無視しても、2%台は最低限とみています。これまで私は時々「買いのゴーサイン」を出しましたが、その時はいずれも3%近辺でした。

  では3%台は実現するのでしょうか。コロナ禍という未曽有の事態が起きている中での到達は当分困難だと思われます。しかしその中でも感染度合いが薄れるにつれて経済が回復し、原油や銅価格など原材料価格の上昇から物価が上昇し始めています。そして感染拡大が昨年前半に収まった中国やオーストラリアなどに景気回復の芽が出てきています。そして大どころのアメリカもワクチン接種は順調に進み、それとは異なる要因で感染者数は下降線をたどっていますので、今後も景気は持続的回復を期待できそうです。

 

  米国債投資に当たっては金利に加えて考慮すべきはドル円為替です。米国金利の上昇につれてドル高に動きますので、円高局面ではドルを手当てするべきでしょう。今のレベルで申し上げますと、105円を切ったらドルへの打診買いを始め、100円に接近したら本格的に買いを入れ、100円を切るような局面では腰を入れて買う、というのが私の考えるお勧めの買い方です。

 

  では、今後長期的に見てアメリカの強さは続くのでしょうか。それに関しては、全く問題なしと回答させていただきます。今回の株式相場のけん引役はほぼアメリカ、それもハイテク産業の株高が全体の牽引役でした。先月のブログ記事でも私は日米を数字で比較しながらアメリカの相対的優位性を確認しました。それは人口増加とITを中心とした生産性の高さから「潜在成長力に揺るぎはない」ことの確認でした。そして今後4年間という中期展望でも、バイデン政権という常識を持った政権がアメリカを率いていくことの安心感です。アメリカファーストなどという自分勝手な振る舞いで世界の地政学上のリスクを増大させ、世界の自由貿易を否定するような振る舞いをしなくなったアメリカは予想可能な範囲内で行動します。

  一方、バイデン政権の200兆円にのぼる巨額の財政支出が下院で承認されたことに懸念を抱く方もいらっしゃると思います。それらを見込んでもGDPとの比較において日米の政府債務比率は2倍以上も開きがありますし、世界の機関投資家は米国債金利が上昇したらいつでも買いたいと待機しています。米国株式が高値をどんどん更新し続ければなおさら安全資産への乗り換え時期を探るようになります。

  一方、日本の経済と財政における不安定さは増すばかりです。それが当然日本の人々の不安感を醸成し、老いも若きもとてもじゃないが消費に力など入らない状況は続くと思われます。

 

  従って最初の質問に戻りますと、

 

「今の金利レベルは買いでしょうか」というご質問への回答は、

 

「このレベルは買い時ではありません」となります。

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