ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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証券会社が破たんしたら、私の米国債はどうなる?

2017年06月30日 | 米国債への投資

  定年退職さんの疑問とPuffinさんの懸念への回答です。

  定年退職さんへのコメント欄で私は「記事と我々の米国債投資は、全く関係がない」と申し上げていました。そして日銀の件が一段落したら回答します、としていたのですが、その前にPuffinさんのご指摘の点とともにずいぶんと勘違いをされている方が多いようですので、今回説明をさせていただきます。

  何人かの方々の間で日銀問題への不安から資産の海外逃避という話題に発展しています。このブログは脱税指南でもない限り(笑)、そうした議論は大いに歓迎します。特にPuffinさんのように様々な試行錯誤をされている方の経験談は、多くの読者の方の参考にもなると思いますので、大歓迎です。

  仙台の読者さん、ご指摘をいただき、ありがとうございます。税務申告は大変な作業ですね。

 

  さて今回の記事では読者の方が不安を感じている2つの問題に、私なりの説明をさせていただくことにしました。

1つ目はファンドマネージャーの言う米国債バブル崩壊

2つ目は日本の証券会社経由の米国債投資の安全性問題

 

  まず定年退職さんが引用されていた債券ファンドマネージャーに関するブルームバーグの記事への勘違いから、説明をします。

>ハッセンスタブ氏は2015年から一貫して米国債に弱気
投資は「薄氷の上を歩いているようなもの」、安全資産でなくなる
フランクリン・テンプルトンで債券を担当する花形マネジャーのマイケル・ハッセンスタブ氏は米国債が世界最大級のバブルのただ中にあると指摘し、米国債に安全を求めている投資家は利回り上昇で大幅な損失に見舞われるだろうと警告した。

こうした記事を書いている記者にも知識不足の感がありますが、「安全資産でなくなる」というのは全くの間違った表現で、正しくは単に「価格下落の恐れがある」です。

  ファンドマネージャーは私がよく言う「株やさんちの・・・」と同じで、売らんがため、または自分の投資にちょうちんを点けさせるためのニュースを意図的に流します。それをポジショントークと言います。彼のポジションは債券のショート・ポジション、つまり空売りポジションと思えるコメントです。バブルだと言っているのは、アメリカ政府が日本政府のように借金まみれだとうことではありません。ただ米国債が高く買われすぎて、金利が低すぎるという指摘です。ですので彼は、それが暴落すれば大儲けできるポジションを取っているのでしょう。

 

  そもそも私が提唱しているストレスフリーの米国債投資「償還までの持ち切り投資」です。それは十分にご理解いただいていると思います。途中の価格の上下など、全く関係がありません。

  それに対して債券ファンドの投資法は、市場価格の上下動をとらえたバクチです。四半期毎に評価を受けるファンドは、価格が上昇しようが下落しようが、あらゆる手段を尽くしてパフォーマンスを上げなければなりません。その人たちにとって債券を保有しているとき、金利の急上昇による価格の暴落は最大の惨事です。彼が言っているのはそのことです。米国債のデフォルトリスクが上昇して安全性が損なわれると言う警鐘ではありません。それをブルームバーグの記者が勘違いしているのです。

  我々が買った債券の償還までの利回りは、買った時点で確定しているので、保有の途中や最後で金利が急上昇していようが急低下しようが、影響はゼロです。彼の言うような暴落が起こったら「ヤッター、チャンスだ!」と言って米国債をみんなで爆買いしましょう(爆)。

  これが「全く関係がない」と私が言っていることの説明です。

  定年退職さん、ご理解いただけましたでしょうか。「債券型投信」のことは私の著書の240ページからも説明がありますので、それも参考にしてください。

 

  次はPuffinさんからのコメントです。米国債の名義は証券会社などのため、所有権は主張できない。だから危険を感じるという部分です。

  名義と投資資産の安全性はもちろん全く関係がありません。日本で証券会社を通じて様々な投資をされている方は、ご自分の投資した証券が証券会社のふところにあるのではなく、それとは全く別に、いわゆる「分別管理」されていることをご存知ですよね。証券会社の破綻には影響を受けません。それは株であろうが債券であろうが変わりません。同じことが海外株にも海外債券にも言えます。証券会社のリスクとは完全に切り離されています。

Puffinさんの文を引用します。

>日本の証券会社で外国株式を購入しても、その所有者は証券会社になっており、個人投資家は資金提供者に過ぎず、配当を証券会社が受け取ったものを投資家に渡すだけで、名義や議決権は証券会社のものだと。
あまりにびっくりしたので、口座を持っている店頭・ネット証券会社に次々と同じ質問をしたら、すべて同じ答えでした。

もちろんそのとおりです。債券も同じです。しかし次の文章、

>つまり、何か大きな金融恐慌が生じて証券会社が傾いた時には、「道連れ」ということになります。

いいえ、そうはなりません。

理由は先ほど申し上げたとおり分別管理されているからで、山一證券などに預けられていた金融資産はすべて引き継いだ別の証券会社の管理になりました。山一の破たん処理の材料になったりしていません。

  分別管理は証券投資管理の基本中の基本です。

  投信なども、販売窓口の証券会社や運用会社が倒産したり詐欺行為を働いたりしても大丈夫なように、別途信託され管理されています。そうすることで、設立が簡単な投資顧問会社などが詐欺行為の温床にならないよう、システムが確立しています。

  ご心配であればみなさんが米国債を買っている証券会社に、「おたくが破産したらどうなるの?」と聞いてみてください。Puffinさんの質問は書かれていらっしゃるように、「名義は誰なの」という質問ですので、回答はもちろん「証券会社です」と答えがかえってきます。

  以上、どうも多くのみなさんが勘違いされているようなので、解説しました。

 

  では日本の財政が傾いて、政府が個人資産の凍結や召し上げをしたらどうなるか。

  個人資産のしばしの凍結はまだしも、資産の召し上げはない、と私は見ています。日本と言う国の自殺行為になるからです。そんな国に住み続けたいと思いますか?

  そもそも、日本の実体経済、つまり日々経済活動を続けている日本企業全体は全く問題がありません。また個人も実に堅実に生活していて、借金まみれではありません。ひたすら大問題を抱えているのは政府・日銀だけです。財政は実質破たん状態ですし、国が直接かかわる年金・福祉・医療などは大問題を抱えています。

  その政府が自分の失態をすべて国民にかぶせるなどという暴挙はできない。第二次大戦後の混乱期ですら、そんなことはしなかったと私は理解しています。それが私の見通す資産召し上げはない理由です。

  もし資産の召し上げなどしたら非常に影響が大きく、日本の健全なる実体経済までがとてつもない悪影響を受けるので、実行される確率はほとんどありません。日本の金融システム全体が凍結状態となり、企業も個人も即刻身動きできなくなります。

  それより自然発生的、あるいは意図的に起こる円安・インフレによる解決のほうがはるかに影響度は小さいため、意図するかしないかわかりませんが、そちらの方向へ向かうと思います。

  このあたりのことは、また別途私の考えをじっくり述べる機会を設けましょう。

  にもかかわらず、何人の方かが書いていらしたように、海外に資産を移したり、移住を検討されるのを私は反対まではしません。どうも怪しい、住みにくいと感じている日本に住み続ける必要はないでしょう。

  昨日も好天の中、知人のニュースキャスターの先輩とゴルフに行き、帰りにとても安くておいしいお寿司屋さんで、たらふく寿司を食べました。日本大すきな私は、日本に住み続けます(笑)。

 今回は以上です

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大丈夫か日本財政17年版 その8 日銀保有の国債はどうなる 4

2017年06月28日 | 大丈夫か日本財政

  藤井聡太君の快挙、試合のたびに興奮します。日本中の誰もが次の試合を楽しみにしているので、是非続けてほしいです。でも負けた棋士はちょっとかわいそうです。明らかにハンディを背負っているように思えるからです。藤井君は対局に臨むたびに大勢の報道陣に囲まれフラッシュをたかれることに慣れていますが、対局者のほとんどは初めての経験のはず。

  次回は7月2日の日曜日に佐々木勇気棋士との対決ですが、佐々木棋士は藤井君の今回の対局の開始時に報道陣とともに対局室にいて、彼の入室から初手までしっかり見ている様子をカメラがとらえていました。雰囲気にのまれないための予行演習でしょうか。いい心がけですね。二人の勝負、楽しみにしましょう。ちなみに、私が最後に将棋を指したのは、小学生でした(笑)。


  本日6月28日の日経新聞朝刊に、「銀行の国債保有 最低に」という見出しで、金融機関の窮状が書かれていました。簡単に要約しますと、

「銀行や農協などの保有国債額は202兆円で、前年比マイナス17%。全体に占める保有割合は18%と5年前の半分になった。それに対して日銀は17%増の427兆円、占める割合は39%に達した。銀行は国債売却による収益に頼っているが、やがて限界が来る。」

  一方、私が同じニュースでもう一つ注目したのは、海外投資家の保有比率です。異次元緩和前に8%だったものが、11%になっているというのです。金額的にも3月末で116兆円に達しています。10%を超えてくると、さすがにいっせいに売られるとかなりの激震になり、要注意です。

  さて、前回からは異次元緩和の出口戦略の問題に入りました。日銀にはたして出口はあるのか。まず、いよいよ出口を出ようとしているアメリカのケースを見てみましょう。出口を出るには、当座預金に溜まった超過準備の解消が最大の難関になります。

  アメリカの場合、超過準備の解消とは全額の解消ではなく、とりあえずは半分程度の解消だという目標を設定しています。そしてそこまでには少なくとも5年はかかるだろうと計算されています。その間に同時並行的に必要となるであろう利上げは、FRBが超過準備に対して付けている金利水準を段階的に引き上げることで行います。

  実際にFRBは出口の準備として利上げをすでに3回行っていますが、それは付利の水準の引き上げで行いました。そして今後も行われると予想されています。この秋、あるいは年末には利上げとともに資産圧縮の開始を目指しています。圧縮のやり方は、債券を単純に売ると金利を跳ね上げる恐れがあるので、売却はしません。債券が満期を迎えた時、償還金をもらっても再投資しないという方法を取り、インパクトをやわらげるのです。これまでは償還金を受けるとその分を再投資して、緩和の量的規模を維持してきました。それを今後は再投資せず、満期になった分資産規模を縮小するというやり方を採ります。それを「満期落ち」とも呼びます。

  その5年ほどの間に生じる可能性のある問題があります。それは、付利のレベルが保有債券の金利を上回る、つまり「逆ザヤが生じる」ことです。アメリカの場合、FBRの保有債券の金利は3%台と言われますが、それを支えるファイナンスのコスト、つまり当座預金への付利のレベルがそれを超えると、収入より支出が大きくなるため損失が生じる、ということです。1回につき0.25%とすると、まだ7・8回は大丈夫。利上げ回数がさほど多くなければ、大きな影響は出ないでしょう。

  FRBはこうした検討をしていることを議事録などですでに何年にもわたり開示してきました。そのため実際の満期落ちが始まっても、市場に与える影響は大きなものにはならず、織り込み済みという形になると思われます。

  それだけ前広に開示する理由は、例のバーナンキショックです。13年の5月に起きたもので、その当時のFRB議長のバーナンキが、「緩和策の終了にむけて徐々に資産買い入れ額を圧縮するぞ」と言っただけですが、日本を含め世界中の株式などが大暴落しました。それがいわゆるテーパリングの開始宣言で、バーナンキショックと呼ばれました。

  テーパリングはそれまでの緩和策を逆転して引き締めるというものではありません。緩和のペースを落とす、つまり債券買い入れ額を徐々に減らすだけなのです。しかし緩和慣れして弛緩しきった市場には大ショックが走りました。

  その経験を踏まえ、イエレンのFRBは資産縮小に向けた議論の開始段階からどんどん開示して、市場にショックが起こらないよう工夫を重ねているのです。このところもイエレンはじめ各理事は、講演会のたびに資産縮小の話をし、市場に牽制球を投げ続けています。

  方や日銀は「出口を議論するのは時期尚早」と繰り返し、市場関係者の多くが「説明責任を果たしていない」と指摘し続けています。日銀の考え方は、出口議論は緩和策が成功したあかつきに開始するものだという、いかにも大本営らしい考え方です。南方の戦線では玉砕につぐ玉砕なのに、原爆を落とされるまで絶対に負けを認めずにいたあの大本営を思い起こさせます。

  何故FRBのように途中で出口の議論をしないか。はっきり言ってしまえば、それ自体異次元緩和策の失敗を認めたことになると日銀は思っているからです。私の言う日銀の失敗とは、物価2%の約束の達成ができないばかりでなく、日銀財務状況の悪化が信用の崩壊に進み始めることを指します。

  国の財政状態が最悪のレベルにあるため、政府は日銀を支援できません。これまで日銀が国債の爆買いで政府を一貫して支援してきたのですから、反対に政府が財務状況の悪化した日銀を支援することなど絶対にできないのは明らかです。

  それでも無理して政府が日銀を支援するため救済国債を発行して日銀に引き受けさせ、そのカネで日銀を救うなんていうおバカなことが起こらないことを祈ります(笑)。どこぞの「日本国は破綻しない」論者が言いそうなことではありますが(爆)。

  私はこの閉塞状況を脱する唯一の道は、原爆が落ちる前に一刻も早く黒田総裁に責任を取らせてご退場いただき、負けを認めて出口議論をすることだと思っています。もちろん今の政府にできっこありません。政府も一緒に負けを認めなくてはならないからです。

  本来、中央銀行は政府から独立し、政府の赤字をファイナンスするなどもってのほかという立場を取るべきです。しかし今の政府日銀は全く一体となって、敗戦に向けまっしぐらに進んでいます。それでも黒田総裁は国債の4割を買っておきながら今の状態は「日銀による財政ファイナンスではない」という大本営発表を繰り返しています。

  ついでに言うなら、安倍政権の本質的ヤバさは、三権分立を無視しているところにあると私は見ています。一つ一つの政策がうんぬんなどではありません。そんなものは枝葉末節です。安保法制の議論の中で、正々堂々と内閣が憲法の解釈を勝手に変更しました。三権分立を真っ向から無視したのです。高い支持率を背景にした、とても近代国家とは思えない暴挙です。

  日銀は本来であれば四権分立というべき独立性が保証されている主体であるにもかかわらず、今は政府と一心同体になっています。「戦時非常体制」という名のもとに憲法や法律を無視した大本営のやり口と同じです。

  そのうち本当に財政問題がヤバくなったあかつきには、「初めから何故もっと真剣に日銀の独立性を確保しておかなかったのか」、とみんなが言い出すにちがいありません。みなさん、ここんとこ、よーく覚えておいてください。

  政府はここに至っても財政赤字問題を棚上げにし、2020年でバランスさせるという目標を実質的に放棄し、日銀は出口論議を避けています。

  次回はさらに深刻な償却損問題です。国債を償還価格の100を超える価格で買い入れ続けたので、償還時には必ず損が出ます。それによって将来見込まれるのが、償却損問題です。

  何故より深刻なのか。

  それは「確定している損失」だからです。

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大丈夫か日本財政17年版 その7 日銀保有の国債はどうなる 3

2017年06月25日 | 大丈夫か日本財政

  日本の債券取引の指標である10年債の金利が、先週末まで7営業日全く動かなかったというニュースが流れました。取引量が極端に細っているために起きている現象です。日銀が浮動玉をほとんど吸い上げ、金融機関が長期保有を決め込んでいたはずの国債まで吸い上げ尽してしまったからです。

  株式相場で言えば日経平均株価が7日間動いていないのと同じくらいの重大事です。それは流動性の枯渇そのものです。日本の投資家が一番欠如しているのが、この流動性に対する重要性の認識です。

  私は著書でもこのブログでも、『資産運用にとって一番大切なことは、一に流動性、二に流動性、三にも流動性だ』と申し上げてきました。それがソロモンブラザーズに入社した最初に受けた教育で、当時の会長が言った言葉です。

  一般的に日本では債券のことはニュースとしてほとんど扱われませんので、こうした価格変動がないという事実を知らない方も多いと思います。扱わない理由は、マスコミ側が資本主義の基本がわかっていないためです。投資=株式=資本としか見ていない。わかっていないというもう一つの証拠は「自己資本比率が高いことはよいことだ」という間違った認識からきています。債券=借金。借金は少ない方がよい。このことが間違った認識だという説明はまた別途差し上げます。

  もう一つ日経新聞が取り上げた最近の日本市場の異常な点は、日銀の株買いです。6月24日土曜日の日経夕刊トップは「日銀、株、買い一辺倒」というタイトルで、異常さを指摘しています。簡単にサマリーします。

「異次元緩和の一環で上場投信ETFの買い入れ金額を、16年7月から年6兆円に拡大してから1年近くがたち、推定残高17兆円。上場している企業のうち833社で、日銀は上位10位以内の安定大株主になった。保有割合は多いものから、アドバンテスト16.6%、ファーストリテーリング15.0%、太陽誘電14.1%・・・。」

  株式は価格さえ上がればだれも文句を言わないため、こうした異常事態を強く非難する人はあまりいません。記事では一応、「株価が上昇しているうちはよいが、下落に転じたらどうするのか。そして債券は償還期限が来るが株には償還がなく、出口は見えない」という指摘はしています。

  売れないものを抱えるというリスクを、リスクを取ってはいけないはずの日銀が最大限抱え込む。その異常さをみなさんはしっかりと頭に入れておいてください。物価に対して効果がないにも関わらずそれを継続する日銀に、いずれはトガメが来ます。

  普段我々が多く目にする金融に関するコメントは、株屋さんちのストラテジストやエコノミストのコメントが多いため、真っ向からの批判はあまり目にしません。彼らはひたすら株価が上向くニュースを流し続けるため、目が曇っています。

  

  さて、今回は日銀の出口戦略です。なるべく簡単に説明しますが、どうしてもわかりづらい付利問題に触れざるをえません。

  大規模な資産買い入れの対価として短期金融市場には巨額の余剰資金が供給されています。日銀がたとえ長期債を買っても、売り手の銀行は日銀の当座預金に預けるので、それは短期資金になります。しかも実際にはその大部分が「超過準備金」として預けられたままになっています。そのことはアメリカでも同じだということを前回説明しました。

  この巨額の超過準備がある程度解消しないと、市場には資金不足は生じません。資金不足が生じないということは、市場で短期金融取引は成立しづらいので、市場金利が付かないというような状況になってしまいます。それが長期金利でも起きていて、先ほどニュースになったと書いた、長期の指標銘柄まで値が動かない、というところに至っています。

  短期市場は銀行が資金調達をする市場。長期市場は銀行にとって資金運用をする、つまり例えば国債に投資をする市場という違いがあります。銀行の基本行動は短期調達・長期運用で利ザヤを稼ぐことです。

  理論的には、買い入れた国債を市場で売却できれば、あり余る資金を市場から吸収できます。すると超過準備も自然に解消できることになります。ところが日本の場合、長期金利が上昇してしまうのは自殺行為ですから、絶対にできません。

  では、出口戦略論議をすでに終えて、いつ実際に開始するかという段階に達しているアメリカの場合はどうか。もしFRBが景気回復による金利上昇局面で債券を売却すれば、安値での売却となり、巨額の売却損を計上しなければならなくなります。評価損ではなく、実現損になってしまいます。そこでFRBが編み出したのは債券の満期到来を待って、保有債券を徐々に減らしていく方策です。

つづく

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大丈夫か日本財政17年版 その6 日銀保有の国債はどうなる 2

2017年06月21日 | 大丈夫か日本財政

 「総理大臣の私が先頭になり、ドリルの刃となってあらゆる岩盤規制を打ち破る決意であります」

  

  えっ、まるで他人が作ってきた規制を打ち破るようなことを言っている。それが一昨日の安倍首相の記者会見を聞いた私の率直な印象です。

   戦後一貫して自らの既得権を守ろうとして規制を作れと言ってきたのは業界団体で、それに乗って規制を作ったのが自民党政権。しかも農業を含め、ありとあらゆる業界団体から選挙のたびに票とカネをもらい、業界出身議員まで数多く誕生させてきたのは自民党です。今回あたかも官僚組織が規制を作って守っているように言うのは間違っています。法律を作ったのは国会であり自民党で、官僚はしょせんそのルールのもとで運用しているにすぎな。

   このところ首相になった人は、判で押したように「岩盤規制をぶち壊す」と言っていますが、それこそ自分がマッチで火をつけたのに、それをオレ様が消してやると、えらそうに言っている自作自演のマッチポンプです。

   前回の記事で私は安倍政権に関して、「果たしてこれで本当に逃げ切れたか否かは、支持率の変化と都知事選の結果次第となりそうです。」と申し上げました。週明けに発表された報道各社の内閣支持率調査は、アベチャンの支持率急落を示しています。ちょっと並べてみましょう。

 

       支持率%   下落幅、ポイント

 読売      49%      ▲12

朝日       41%      ▲ 6

サンケイ・共同  45%      ▲ 7

日経       49%      ▲ 7

 

   支持率は並み5割を割り込み、もっとも急落した読売の調査では12ポイント。「私の改憲案は読売を読め」と言ったのにね(笑)。不支持率は各社とも上昇し、支持率に接近しています。さすがに慌てたアベチャン、一昨日の会見では珍しく自分のおごりと尊大さを認め、謝罪をしました。

  昨年の集団的自衛権という違憲立法を強引に成立させたときも同様に急落していましたが、その後は回復しています。今回もこの結果をもって内閣の崩壊が一気に始まるとは思えません。あのとんでもない法務大臣を切って捨てるくらいでも、ある程度の歯止めにはなるでしょう。しかし安倍政権の本質が次第に明らかになるにつけ、回復スピードはあがらないと思われます。一方でこの急落を見てほくそ笑んでいるのは小池都知事です。都議会選挙がアベチャンに対する次のパンチになりそうです。

   我々が首相の会見で最も注目すべき点は、言ったことではなく、言わなかったことにあります。つまり、日本の最大の問題である財政再建について、一言も言及しなかったことこそ、注目点です。

   会見は反省から始まり日本再生議論におよび、今後の政策運営方針を示しました。しかしそこで財政再建問題には全く触れず、私が知る限りマスコミも私のような指摘を一社もしていないと思われます。

   このブログは、いつも日本のアキレス腱は財政問題であると認識しています。多くの読者の方の不安・関心はその点にあるため、今後もしっかりとフォローしていきたいと思っています。

  

  さて本題に戻ります。財政問題に直結する日銀問題です。日銀の資金供給の方法に関してみなさんからの多くの疑問・質問、そして違和感を持ったとの感想をいただき、それに回答をしてきました。

   今回の議論を通じて私が改めて認識したことは、日銀は簡単におカネを刷って世の中にばら撒くことができるという誤解をされている方が多いということでした。コメント欄での質疑応答を通じて、それが簡単にはいかないことだけは、かなりの方に理解していただけたのではないかと思っています。

   日銀の総資産が500兆円を超えたというニュースが流れています。このままではいずれ日銀の異次元の緩和策は立ち行かなくなり、日本国の信用が崩壊する時が来ます。その経路に関して以前は、

 ①   財政の垂れ流しによって長期金利が上昇し、日本国債の価値が毀損。国債を大量保有する金融機関が信用を無くし資金逃避が起こる

②   それと連動するか、あるいは競争力の減退や原油価格の高騰など別の要因で円安になり、海外への資金逃避が起こり、財政がたちゆかなる

③   日本人の高齢化とともに家計の金融資産が減少を始め、財政に資金を供給できなくなる

  こうした可能性があると説明してきました。

 

  ところが日銀の異次元の緩和が2年では奏功せず4年も継続し、国債のありかが金融機関から日銀に移動してしまったため、金利上昇のリスクをひとえに日銀がしょってしまう事態に至っています。①の可能性は日銀のリスクとなりました。すると今一つ、別のリスクが生じます。それは保有国債をファンナンスするための当座預金にかかわる問題で、当座預金への付利の問題です。ちょっと面倒ですが、説明を試みます。めんどうだと思われる方は、ここから先しばらくは読み飛ばしてください。

   日銀の当座預金にカネを預けている金融機関は、当座預金にもかかわらず金利を得ています。金融機関は預金の引き出しに備え、強制的に日銀に預金を積まされますが、それが法定準備金で金額的には10兆円あまり。これには金利はつきません。従来資金不足気味であった金融機関は、金利のつかない当座預金に法定準備金以上の預金は置きませんでした。そして不足分は日銀から融資を受けるのですが、それがそもそも「信用創造」の大元なのです。ところが現在は企業の資金需要が少ないため、銀行は日銀から借りるどころか国債を売ったおカネが余っているため、当座預金にそのままブタ積みしています。ブタ積み理由は、金利が稼げるからです。

   異次元の緩和以降、持って行きようのないおカネを金利の付く当座預金に預けているのはむしろ当然の行動です。法定準備金を超える当座預金に現在は日銀から0.1%の金利を付けています。この金利は08年の11月から導入され、当初はすぐにやめるはずが、今日にいたるまでそのまま維持されています。当座預金が3百数十兆円にも達していると、利払いもばかにできません。300兆円としても、0.1%は3千億円にもなります。一方日銀は保有する国債から得られる金利でカバーしています。

 

  またちょっと難しい話になりましたが、出口では大事なポイントになります。このところ専門家の話題の中心は日銀の出口戦略です。出口では日銀が当座預金に付ける金利、「付利」とよばれますが、それが大きな問題となります。それを次回はなるべく簡単に説明します。そのことが信用崩壊のもう一つの理由になりかねません。

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トランプ包囲網をつくろう

2017年06月15日 | トランプのアメリカ

  2017年は「地政学上のリスクが世界を翻弄する」との予想通り、世界の政治状況が目まぐるしく動いています。

   まず、日本。本日参議院で中間報告方式なる禁じ手を使い、世紀の悪法を成立させた安倍政権ですが、これにてまんまと加計学園問題の追及をかわしました。

  しかし果たしてこれで本当に逃げ切れたか否かは、支持率の変化と都知事選の結果次第となりそうです。私には加計学園問題も、テロ等準備罪可決の強引な手法も、小池新党には追い風になると見えます。そしてそれら禁じ手のオンパレードは世界の右派独裁政権に共通する強引なやりくちです。

   トランプの台頭以来、私は以下の人物を同列に並べ批判をしてきました。

   トランプ、プーチン、習近平、金正恩、エルドアン、そして安倍です。

   これにルペンが加わらなくて、本当によかったと思います。どうやら世界の右傾化、反グローバル化の動きには一定の歯止めがかかったと思われます。

  それどころかフランスのマクロン新大統領は、できたての新党にもかかわらず国民議会の議席の7割を勝ち取る見込みという離れ業をやってのけました。フランス政治のダイナミックさには本当に驚かされます。メルケルは仲間を得てほっとしながら、ほくそ笑んでいることでしょう。

   一方、イギリスではわけのわからない解散総選挙に打って出たメイ首相が大負けを喫し、求心力を失いつつあります。ドイツ・フランスにとってイギリスの退潮は欧州におけるヘゲモニー争いの競争相手が一人いなくなったという歴史的な大変化を意味しています。ここでもほくそ笑んだのはメルケルでしょう。

   これで秋のドイツ選挙も安泰が予想され、欧州の将来地図がほぼ固まりました。EUではグローバル化推進勢力が一丸となることに成功し、反グローバル化を掲げ失敗した英国を叩くことで、EU内の謀反の動きへの強い牽制にもなります。謀反の動きとは、移民の受け入れ割り当てを拒否しているポーランド、チェコ、ハンガリーなどに見られる動きを指します。

   そして「ドイツとフランスのEU」は、反グローバル化を掲げるトランプの前にも大きく立ちはだかることになります。どこぞのアベチャンとは違い、メルケル・マクロンはシッポを振ったりしません。

   そのトランプですが、国内での包囲網がだいぶ狭まってきています。最近ツイッターで「オレ様を包囲している敵を蹴散らす」と宣言しましたが、トランプはそうした宣言をすること自体、包囲されていることを認めたことになるという理屈がわかっていません。相変わらずのかわいいトランプちゃんであります(笑)。

 

  彼が認めた包囲網とは何か。探っていきます。

   今週トランプ政権は誕生以来初めて全閣僚を集めたというニュースが流れました。初の全員集合とはそれ自体驚きですが、いまだに各省内の重要ポストの人集めに苦労し、毎日トランプ発言の火消しに追われている取り巻きと閣僚は、寝る暇もないのでしょう。

  その初の全閣僚会議の冒頭の20分ほどがテレビで放映され、マスコミから「コメディーだった」と揶揄されました。理由の一つ目は、冒頭でトランプが「歴史上最高の大統領だ」と、何も実績がないことを棚に上げ自画自賛したこと。二つ目は、全閣僚に「これまでのオレ様の仕事ぶりはどうか」と尋ね、一人一人全員に応えさせるという演出で、誰もが例外なくトランプをナマで大絶賛したことです。

   NYタイムズは閣僚全員の歯の浮くような発言をきちんと並べ、誰がもっともトランプをヨイショしたか、ご丁寧にランキングまで付けました(笑)。その中で優勝に輝いたのは言うまでもなく副大統領のペンスで、彼の発言は「アメリカ国民への約束を守る大統領のために副大統領として働けることは、私の人生の中で最も光栄なことだ」とのこと。まあ、副大統領としては当たり前の言葉のようですが、これを20数名全員にもれなく言わせてご満悦だったというのが、マスコミの言うコメディー・トランプ劇場です。

 

  このトランプによる賛辞強制の様子を見た脳科学者中野信子氏は、「まるで北朝鮮の金正恩が、喜び組に言わせているような光景だった」とコメント。さすが文芸春秋に「トランプはサイコパスだ」という投稿をした学者の的を射るコメントでした。

 

  さて、「トランプ包囲網」についてです。

   その筆頭はマスコミです。彼はマスコミに攻撃されるたびに反撃していますが、マスコミはゴマンといて彼は孤軍奮闘なので、寝る暇もありません。マスコミ側は彼から材料が毎日更新(笑)されるため、突っ込みネタには事欠きません。メジャーなマスコミではFOXニュース以外はトランプの所業をほじくり返し、包囲網を徐々に詰めてきています。

   2番目の包囲網はロシア疑惑を追及する特別検察官とFBIです。最新のニュースでは、特別検察官がトランプ自身を捜査の対象に入れたという報道がありました。

   これに関してBBC日本語版速報を引用します。「2016年米大統領選への介入をめぐるロシア疑惑について、米紙ワシントン・ポストは14日、ロバート・ミュラー特別検察官がドナルド・トランプ大統領を司法妨害の疑いで捜査していると報道した。特別検察官は当初、ロシア側の動きに注目していたものの、それが大統領の司法妨害に注目するようになったのはトランプ氏自身の行動が原因で、ロシア疑惑捜査の大きな転換点だと同紙は書いている。

  これについてはトランプ政権が特別検察官を解任するか否かが新たな焦点になっていますが、コミー長官の解任で大きな批判を受けている中、はたして政権がそうした禁じ手を繰り出せるかが見ものです。もっとも右派独裁政権はやりかねません。

   3番目の包囲網は議会民主党の200人からトランプ自身への集団提訴です。日経新聞を引用します。

  「トランプ米大統領が就任後もホテル経営などの事業を通じて外国政府や企業から利益を得ているのは憲法違反だとして、野党民主党の上下両院議員約200人が14日、集団提訴した。現職米大統領に対する議員団による訴訟としては最大規模。トランプ氏のビジネスと大統領職との利益相反問題を巡っては、市民団体や自治体も提訴。今回の訴訟で党派対立が先鋭化するのは必至で、税制改革を含む重要法案が停滞する可能性がある。米大統領選干渉などを巡る疑惑「ロシアゲート」対応で批判を浴びる政権にとって、一層の重荷となりそうだ。」

  弾劾裁判になれば数ではかなわない民主党ですが、憲法違反と判決が出れば共和党員を巻き込むことができるとの思惑があるのでしょう。

  そして日本ではあまり報道されていませんが、草の根の反トランプ運動がアメリカで大きな勢力になりつつあります。私に言わせれば「なにをいまさら」という気がしないでもないのですが、やらないよりやったほうがいい。

  ついでに言えば世界も反トランプで立ち上がるべきです。一時世界ではやった「チャイナフリー運動」に似せて、「トランプフリー運動」を世界中で展開するのも面白いかもしれません。チャイナフリーとは、中国製品のボイコット運動で、環境に汚染をまき散らす中国由来の製品をことごとくボイコットするという運動です。同様に、トランプにかかわる商品・サービスの不買、環境に大きな負荷をかけるアメリカ製品の不買。逆にアメリカ製品でも経営トップが反トランプを公言しているアップル、グーグル、テスラなどを積極的に支持するのも運動の一環として採用してもいいかもしれません。

  FBRの利上げと今後については、またの機会に。

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