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横綱白鳳に異議あり!

2019年11月27日 | エッセイ

    みなさんは相撲を見るほうですか。

   相撲ファン、それも白鳳ファンの方は多いことが想像されますのでこれまで控えていたのですが、今回千秋楽での白鳳の相撲に我慢できず発言することにしました。

   私は相撲好きの家内につられて中継を見るくらいの、大相撲ファンとまでは言えない見物人です。しかし近年の相撲でかねがね気になっていることがあります。それは特定の力士の相撲に対する姿勢です。

  見ていて最もいやなのは、相手が土俵を割って土俵下に倒れ掛かっているのに、さらに念押しで突き飛ばすことです。かなり前、それが一番ひどかった「朝青龍に異議あり」と書いたことが一度だけあります。その時は、私は「溺れた犬を棒でたたく」というたとえを使いました。

   白鳳はそこまでひどくはないのですが、横綱として余裕を見せる意味でも、すでに相手が土俵を割ったら落ちないように支えるのがマナーだと思うのです。その点、遠藤はそれをよく実行しています。しかし白鳳はそこまでやらなくても、ということを時々やってくれます。もちろん土俵際でもつれた場合、自分すら支えられないケースではどうしようもないでしょう。しかし余裕があれば、支えるのがマナーでしょう。

   それとは別に、今場所中もう一つ気になる所作がありました。土俵の真ん中で倒れた相手をガッツポーズまがいで叩いたのです。ガッツポーズをしたらちょうど当たったのかもしれませんが、私には「どうだ!」と叩いたとしか見えない、実に後味の悪い所作でした。

   本題です。終わったばかりの九州場所千秋楽の相手は、押し相撲の大関貴景勝でした。白鳳は貴景勝をハメたのです。どうやったか。

   時間になって行司が「手をついて」というと、貴景勝は基本通り、そしていつもどおり両手を付いて相手との間合いを測りました。白鳳はそれをじらしにじらして「待った」を掛けました。そして仕切り直し。

   次も貴景勝は同じ動作で両手を付いて白鳳の態勢が整うのを待ちます。普通なら待たせた白鳳は、じっくりと腰を落とし自分が手をついたのを合図に両者が立ちますが、白鳳はそこでとんでもないことをしました。腰を落とす間もなく目にもとまらぬ速さで手を付くかつかないかで立って、遅れた貴景勝の両まわしを十分な形で取ったのです。貴景勝は上手もひけずに土俵際に追い詰められました。結果は押し出しで白鳳の勝ち。

   あの立ち合いの速さはまるで西部劇の決闘シーンでした。西部劇では、普通はお互い拳銃をホルダーから抜いて撃つのですが、それを省略しホルダーに入ったままで銃口だけ上向きにして引き金を引き相手を撃つ、あのやり口です。

  白鳳がそのとんでもない速さで立った時、私はつい「汚い!」と叫びました。家内もそうね、と答えました。そして勝負がついたあと、なにより我が意を得たりと思ったのは、解説していた舞の海の次の言葉です。「貴景勝はハメられましたね。最初の仕切りで待ったをかけられ、次の仕切りでゆっくりと手をついたところを見計らって白鳳が素早く立った。はじめから伏線があってハメられていますね」と言ったことです。

   もちろん貴景勝はそれに対して「待った」をかけることができます。しかしまじめすぎるほどまじめな彼は、一度待ったによる仕切り直しがあったせいか、そのまま立ってしまい不利な体勢になってしまいました。

   解説の舞の海はかねてから白鳳が毎回見せる張り手と肘での突き上げを、「あれはやり過ぎだと思います」と言っていました。私も常々そう思っています。解説者としては、かなり思い切った発言ですが、今回ははっきりと「ハメられましたね」とまで言っていました。相当頭にきているのでしょう。

   私は無責任な傍観者ですから家内相手に、「誰か白鳳に張り手を喰らわせないかな。あれだけひどくやられまくっても、相手が横綱だと遠慮しているんだろうね」と何度も言っています。15番の取り組みでほぼ毎回立ち合いで相手の顔面を張って立つ、いくらなんでもやりすぎでしょう。相手もみすみすそれを受けて立ち、不利な体勢になってしまう。いくら強く叩いても違反行為とはならないのですが、あの大きな手で張られるのはパンチに相当します。

   張られたほうが張り返すということは、横綱相手でなければ時々あることで、結構両者がエキサイトして数発ボクシングのようになったりしますが、見ていて気分はよくありません。しかし白鳳に張り手を食らわせた力士は見たことがありません。それをいいことに白鳳はやりたい放題なのです。

   必ず張り手で相手を翻弄し、ときおり溺れた犬を棒で叩き、勝てばガッツポーズをする。そんなことまでしなくとも実力があるのに、今回はそれに加えてフェイントをかまして相手をハメる。その汚さに私はあきれています。

   白鳳の所作などを含め以上のことはすべて相撲の上では合法で、違反行為ではありません。しかし相撲協会は時々合法であっても異議を唱えて指摘をしたり、厳重注意をしたりします。かつて朝青龍のガッツポーズに対して「ダメ」出しをしました。実質一人横綱を続ける大事な存在であっても、そろそろ目に余る白鳳の所作、張り手、肘打ちに近いカチあげには厳重注意をしてほしいものです。

   千秋楽の結びの一番は、以下のサイトで見ることができます。お時間のある方はどうぞ。結びの一番のシーンは13分ほど経過したところです。

 https://www.youtube.com/watch?v=HapQG9CxGoc

 以上、ときどき出てくる林の「意義あり」、でした(笑)。

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日本の金融政策の危うさ その3.地銀の救済

2019年11月24日 | 日本の金融政策

 本日の日経朝刊2ページ目の見出しは、「地方債、迫るマイナス金利」というものです。これは決して喜ばしい現象でないことは、先日トヨタが金利ゼロで社債を発行したと書いたときにも申し上げました。異次元緩和の異常な歪みが発生させている不健全な事態です。発行体がただで資金調達できるということは、裏を返せば我々を含む投資家側のおカネが価値を持たなくなったも同然の出来事です。

 

  さて、前回の記事の最後に私は次のようなことを書いていました。

 

>地銀連合の大構想がうまくいくか、注目していきましょう。

 しかーし、私はこの動きに実は一つの懸念を持っています。

 

  ソフトバンクから独立したSBI主導の地銀救済と、その後に続くであろう地銀連合の大構想はSBIの慈善動機からではありません。短期的にはSBIは地銀の持つ顧客基盤に対して様々な金融商品を提供する機会を得ることになります。彼らは自前で組成した投資信託を中心とした商品を提供し、販売以降の運営フィーを継続的に得ることが可能になる。一方地銀は投信商品であれば販売時に手数料を得ることができます。

  これまで金融機関は預金を集めそれを貸し付けることで収入の大半を得ていました。従来、預金金利と貸出金利の差はかなりなもので、およそ2-3パーセントは確保できていました。ところが異次元緩和以降その差である利益の源泉は小さくなり続け、特にこの1年程度でいいますと地銀の平均でわずか0.2%くらいに縮小しています。前回の記事では福島銀行の場合、総資金の利ザヤがわずか0.09%とお伝えしました。これでは当然たちゆかなくなります。

  そこでどの銀行もいわゆるフィー・ビジネスに走ることになります。フィー・ビジネスとは、例えば投信を売ったり保険を売って得るフィーに頼ることです。それは金融機関の側からみれば合理的行動ですが、預金者側はどうでしょう。

  いままで銀行は預金を預かって金利をくれる存在だったのが、突然預金者に電話をかけてきて、「投信を買いませんか。保険はいかがでしょう」というセールスを仕掛けてくるいわば迷惑な存在になりつつあります。

  2011年に前著では私はこういう格言を書きました。

 「証券会社の得は投資家の損」

  それが今回は、

「銀行の得は預金者の損」となります。

   すでに都銀ではこの数年、預金者に対して様々な金融商品を能動的にぶつけることをしてきました。みなさんも自宅の電話に銀行もしくは銀行から請け負って商売をしている販売子会社から電話がかかってきた経験をお持ちだと思います。昔はそんなことは皆無でした。

  たとえ金利が付かかなくても、損だけはしないのが銀行預金でしたが、今後はそうした銀行推奨の商品を買うと、得することもありますが、大損することもあります。株式投信はその代表選手です。それだけではなく、地銀の預金者にはほとんど無縁であった外貨建ての預金やジャンクボンドの外国投信など、危険度の高い商品をどしどし薦めてくるでしょう。地銀の顧客はリスクにさらされることになります。こういっては失礼ながら、はっきり指摘しておきます。地銀や信金信組の顧客層は都銀の顧客層に比べて投資経験などないナイーブな方が多いと思いますので、しっかりと注意していただきたいと思います。


   そのいい例は最近大問題になった簡保の詐欺的商法です。昔はお国がやっていた郵便局を黙って信用する顧客に、5年間で18万件も詐欺に及んだのは、顧客層のナイーブさにつけこんだ結果です。保険の新規契約に対するボーナスを得ようと、郵便局員が顧客に解約と契約を繰り返したり、2重契約をさせたりと、やりたい放題の実態が明るみに出ました。

   SBIが地銀の顧客にアクセスするということは、悪く言えば羊の群れの中に狼を放つようなものです。投資の“と”の字、リスクの“リ”の字も知らない人々に何を売りつけるのでしょうか。大いなる懸念を抱きます。

   こうしてみると、北尾氏の考える金融大変革というのは地銀などの金融機関を巻き込むだけの変革ではなく、これまで波風を全く知らない一般の預金者も巻き込み、リスクテイクへと舵を切ることになる側面を持つのです。

   北尾氏のように日本の金融界に危機感を抱き、地銀だ保険だ証券だなどの狭い商圏から脱することを考えることは、業界にとって悪いことではありませんが、しかし一方で一般の預金者にとっては必ずしも喜ばしいことにはなりません。

  提供する商品は投信だけではありません。地方に行くと依然として普及率の低いクレジットカードのビジネスがあります。クレジットカードは、キャッシュの安易な代替手段となるため、預金の額を越えて使ってしまう消費者ローンの世界へと預金者を導きます。サラ金から借りるのは抵抗がありますが、銀行の薦めるカードローンだと借り入れをするハードルはグンと低くなります。

   さらにある程度の資産家には相続税対策としてアパート経営を促したり、資産家でなくとも不動産への投資を促し、それも自己資金がほとんどなくとも物件担保でローンを付けることで金利を得ようとします。それがシェアーハウス「かぼちゃの馬車」につながりました。

   一昨日のニュースによると、シェアーハウスかぼちゃの馬車への投資で大きな借金をしょってしまった人に対して、担保物件の放棄により借金を棒引きすることにする方向だそうです。これはほとんど騙されたようにして投資した人々にとってはグッドニュースです。きっと騙したスルガ銀行の発想ではなく、テコ入れを始めたノジマの思い切った発想なのでしょう。

 つづく

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日本の金融政策の危うさ その2.地銀の救済

2019年11月13日 | 日本の金融政策

  前回は日本の金融機関は政府日銀の金融政策により追い詰められ、システミックリスクの懸念があるところにまで至っていると申し上げました。巨大金融機関といえども新卒採用を大幅に減少させざるを得ないところにそれが現れていると説明しました。今回は地銀についてです。

   前回の記事の中で倒産しかかったスルガ銀行を、異業種の家電量販店ノジマが救済することになったとお伝えしました。おととい11月11日のニュースでは、やはり地銀の福島銀行に対し、証券会社であったSBIホールディングスが救済に入ったことが伝わりました。そのニュースでは、福島銀行の総資金利ザヤがなんと0.09%しかないとのこと。総資金利ザヤとは製造業などで言えば売上総利益、つまり売上から原材料費だけを引いた残りで、そこから人件費、管理費や減価償却費を差し引くことになります。0.09%しかなければ、営業利益段階で当然赤字になります。日銀の異次元緩和に加えて地方経済の疲弊や今後のキャッシュレス化の進展などを考えれば、地銀に将来性はほとんどないとまで言える厳しい状況です。

   SBIホールディングスは、もともとソフトバンクグループが野村証券にいた北尾吉孝氏をスカウトして作った投資会社で、名前のIはソフトバンクInvestmentのIでしたが、買収などで証券会社に衣替えし、ソフトバンクから独立。さらに金融関係のあらゆる業務を取り込み総合金融企業になっています。

   創業者というべき北尾吉孝氏は、私が大変評価する日本で数少ない本物のバンカーです。バンカーという言葉、日本では銀行家と訳され、銀行業を専門とするニュアンスが強いのですが、欧米では銀行業に加え証券業や投資事業を含む広い意味合いを持つ言葉です。北尾氏は実は「論語を知る論語読み」で、幼いころから論語を読んでいたそうです。彼はとても多くの著書を著わしていますが、金融業に関するものよりも論語や哲学的なことを扱う本のほうが多く、それも学者並みの立派な見識を有しているため、啓発本としても評価に値します。

  北尾氏の名前を知ったのは、私がソロモンで債券の引き受けをやっていた90年代の半ばで、まだ野村證券で経営企画室長をされていた時だと思います。彼は企業が社債を発行する際に銀行、それもいわゆるメインバンクが介入し、発行体から大きな手数料を得られる仕組みである「社債管理会社」の不要論を唱えました。管理会社である銀行は実質的にたいした役割を果たしていなかったにもかかわらず、それによりショバ代を得ていたからです。

  企業が社債発行により資金を調達すれば、その分銀行からの借り入れを減らすことになります。そこにイチャモンを付けていわばショバ代を取る。その悪習を排除することを当時の大蔵省にかけあって認めさせ、発行体企業からは喝さいを浴びました。

  それまで日本企業の社債は電電公社の電話債券や電力会社の電力債がほとんどでしたが、多くの一般企業が社債の発行市場から直接資金調達することに大きな道筋を付けたと言える出来事でした。株式発行につぐ直接金融のはじまりです。

  銀行は名目上の社債管理料という収入を絶たれ、さぞかし北尾氏を恨んだことでしょう。今は社債発行にあたり、メインバンクといえども元利払いの手続き代理人に過ぎなくなりました。

   北尾氏は野村でソフトバンクの株式公開を手伝った縁で孫正義氏に気に入られてソフトバンクに入社。CFOに就任し、多くの買収資金の調達を手助けしました。しかしボーダフォンの買収は過大な投資であるとして気に入らなかったようで、それをきっかけに、たもとを分かったと言われています。

   本題に戻ります。そもそもSBIによる福島銀行への支援は、北尾氏の壮大なる計画に基づいています。壮大なる計画とは、低収益にあえぐ日本の地銀を一つ一つグループに取り込み、巨大連合を作るという構想です。実はスルガ銀行にも触手を伸ばしていましたが、不調に終わったようです。しかし島根銀行はすでにSBI傘下に入りました。こうした壮大な地銀救済構想は、いかにも官民再生ファンドが手掛けるにふさわしい再生事業のように思われますが、官民再生ファンドによる事業再生はことごとく失敗ばかりで、そのうち税金で尻拭いせざるを得なくなりそうなため、いまでは委縮する一方となっています。

 

  私は地銀連合構想を見てすぐに、日本のゴルフ場を救済し再生したアコーディアやPGMの例を思い浮かべました。先日も触れましたが、赤字経営にあえいでいたゴルフ場を救済し、いまやそれぞれ130コースを傘下に持つ巨大グループを形成し、大成功しています。私が会員になっているゴルフ場も今般無事PGMによる再生を会員が承認し、来年にはPGM傘下で再生されることになりました。めでたしめでたし(笑)。

  今後果たして地銀連合の大構想がうまくいくか、注目していきましょう。

   しかーし、私はこの動きに実は一つの懸念を持っています。それは次回以降で。

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日本の金融政策の危うさ

2019年11月04日 | 日本の金融政策

  今回の話題は日本の金融機関の危機的状況をみなさんにお知らせする金融関係の話題です。

   人手不足に悩む日本ですが、金融業界では異変が起こっています。それは新卒採用の市場においてです。これまで大量採用を続け、特に新卒市場で圧倒的人気を集めてきた金融業界で、驚きの数字が記録されています。日経新聞調べの金融機関別の内定者数の前年比を並べます。

 ・三菱UFJ銀行         ▲45%

・みずほフィナンシャルグループ ▲21%

・野村証券           ▲45%

・大和証券グループ       ▲29%

   産業界全体が内定者数で大きく減ることはないなかで、金融界だけは別世界です。09年の金融危機の時と同様なレベルに低下しています。このような大幅な減少は危機的状況を反映していると見るべきです。新卒市場では抜群の人気を誇る大手金融機関ですから、採用する気になればいくらでもできるはず。採用しようとしない原因はひとえに将来の収益力の悪化見通しにあります。もちろん原因は日銀が誇る異次元緩和です。

   異次元緩和の旗を降ろさない日銀のクロちゃんによるマイナス金利の嵐は、都銀だけでなく地銀・信金信組を問わず全金融機関を襲っています。銀行はみなさんからの預金をローンで貸し出したり、株式や債券の市場で運用したりして利益を得るのが収益の柱です。金利が低下すると銀行の調達金利も低下するので、一方的に悪いことではなさそうな気がします。しかし一方でローンなどの運用金利も低下しているため、利ザヤは大幅に縮小しています。かねてからその運用対象のメインは日本国債でした。しかしその金利がマイナスになっていますので、買うことができません。

   反対に日本政府は長期物国債の代表格である10年物をマイナス金利で発行することができます。買ったら損をする国債をいったい誰が買うのか。もちろん日銀です。国債の日銀引き受けは日銀の健全性を阻害するとして日銀法で禁止されていますが、政府と日銀はそれを無視しています。手続き上は間に市中銀行や証券会社を入れて、違法認定を逃れています。金融機関は政府から買った国債をすぐ日銀に売却するといういわば出来レースで、雀の涙ほどの利益を頂戴して実質的違法行為の片棒を担いでいるのです。政府は借金をすればするほど得をするのですから、借金に歯止めなどかかりません。

   ところが最近はゼロ金利、あるいはマイナス金利の債券などを、銀行をはじめとする民間金融機関が自身の意思で買って保有する状況が出現しているのです。損してもかまわないと思っている日銀ならまだしも、民間銀行などが何故そんなまねをするのでしょう。

   10月12日付の日経新聞の一面では、トヨタがゼロ金利で3年物の社債を発行したというニュースが流れていました。投資家は銀行です。いくら潰れそうもないトヨタとは言え、一応3年間の倒産リスクを取っているのに、ビタ一文もらえない債券を何故銀行は買うのでしょう。

   もっとひどい例を挙げます。企業は短期資金、例えば3か月物の資金をCP、コマーシャル・ペーパーで調達するのですが、その金利はなんとマイナスのものがあるのです。その買い手は民間銀行です。9月26日付日経ニュースを引用します。

「キリンホールディングスや王子ホールディングスなどがマイナス0.01~0.0001%で資金を調達した。市場関係者によると、CPの発行残高に占めるマイナス金利の割合は3~4割に達する。銀行融資からCPへの調達シフトも一部起きているもようで、日銀のマイナス金利政策が企業の資金調達に変化をもたらしている。」

  資金調達側の企業は得をしますが、それを引き受ける側は損をします。なのに何故? 解説します。

   理由はもちろん日銀による強引な緩和政策です。そもそも日銀による異次元緩和は市中に資金をジャブジャブに供給すれば、物価が上昇し景気も上向くハズということでスタートしました。しかし日銀が銀行保有の国債を買いまくって、いくら資金を市中に放出しようとしても、銀行には資金ニーズがない。つまり企業の資金調達ニーズが薄いので、売って得た資金は貸し出せず、日銀の当座預金口座に積み上がってしまうばかりなのです。よく言われる「ブタ積み」です。日銀はそれをむりやり銀行に押し戻すために、当座預金にマイナス金利を導入しました。当座預金はもともと金利ゼロなのですが、マイナス金利のため預けておくだけで損をする政策を導入したのです。すると銀行の資金は行き場を失います。そのため例えばマイナス0.1%の日銀に預けて損をするより、マイナス0.01%のCPで運用したほうが損失は10分の1で済む、という理由からおかしな運用をするのです。いずれにしろ損失には違いありません。

 

  それがいやな金融機関は例えばスルガ銀行のように「かぼちゃの家への投資」というシェアーハウスへの危うい投資を個人に紹介し、それにローンを付けるという詐欺まがいのローンを積み上げました。しかしローンを組んで投資した個人は目論見通りの成果を上げられず返済に窮し、挙句の果てに貸しまくったスルガ銀行自身が実質的に倒産の憂き目にあっています。今年になってそれが表面化しました。10月末にそのスルガ銀行を家電量販店のノジマが傘下に入れるというニュースが流れました。ついに家電量販店が地方銀行を買収するところまできました。

   その状況になっても日銀の政策に変化はありません。日銀のクロちゃんは記者会見のたびに「打つ手はいくらでもある。必要なら躊躇なく手を打つ」と言い続けていますが、実際には打つ手などありません。金利による政策がダメなら株式の購入だということで大量の株式を買い、その額はすでに30兆円に達しています。国内最大の投資家である我々の年金資金を運用する機関GPIFの保有高が37兆円程度なので、このままでいくといずれは日銀が抜く可能性が出てきています。

  日銀は株式を買えば買うほど株式下落に際しリスクは大きくなります。一方でマイナス金利を深堀すればするほどおかしな金融がまかりとおる。そんな状態が続くと、最後には日銀も銀行も軒並みおかしくなりかねない。このように日本の金融システムは、全体がマヒするいわゆるシステミックリスクを抱えている状況であることを、みなさんも認識しておくべきなのです。

 

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