ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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買ってはいけない、投資商品  その1つづき

2011年05月19日 | 資産運用 

さて、Nグローバル・ハイ・イールド債券投信(バスケット通貨選択型)の投資対象は、実は全部ドル建て債券であることがわかりました。それは当然といえば当然なのです。実は債券の世界は非常に通貨限定的で、かつ厳密な市場秩序により成立しているのです。

 市場秩序とは発行体の種類で言うと上から国際機関・政府・企業などとなります。最上級の国際機関は世界銀行(World Bank)や、欧州復興開発銀行(European Bank for Reconstruction and Development)、アジア開銀(Asian development Bank)などの国際機関です。これらの発行体も流動性の高いドル建債券は多く発行しています。

 発行体の格付けで言えば最上級のAAAからジャンクに至るまでの序列です。発行にあたり選択される通貨のほとんどはドル建で、ユーロ建がそれに続きますが、円建ては隅っこでニッチな存在でしかありません。何故かと言えば、債券の投資家は「流動性」に欠ける通貨を選好しないからです。今でこそブラジルのレアルやインドのルピーは注目されていますが、一端国際市場が荒れ始めると、取引がなくなる事態に陥ります。このブログの初めのほうで触れたように、投資とは「流動性」(売りたいときに売れるか)がすべてなのです。従って、ブラジルの発行体であろうが、インドの発行体であろうが、債券の発行通貨は実は投資家が買ってくれるドルがほとんどなのです。

 では、資金調達をする発行体は必要な通貨をどうして手に入れるのでしょうか。例えばロシアの企業がルーブルを調達するのにロシアでは有力な投資家がいない。そこでユーロ市場に打って出ます。この場合のユーロ市場は「通貨のユーロ」ではなく、ユーロ・ダラーなどに使われる「市場のユーロ」の意味です。

 投資家ニーズからまずドル債を発行し、通貨スワップという通貨交換手法によりルーブルを手に入れます。それを繋ぐのが国際的に業務を展開している銀行もしくは投資銀行です。そうした国際業務を展開したいがために巨大銀行はBISの基準、コアの自己資本比率8%から10%を常に保つ努力をしています。発行・利払い・償還のすべてをスワップ契約し、ルーブルとドルの交換を何年・何十年にもわたり継続実行するのです。

 「スワップ」という手法こそが現代ファイナンスの根幹をなす最重要手法です。鉄が「産業のコメ」ならスワップは「金融のコメ」です。これを説明すると一冊の本になってしまうため、ここでは省略します。ただ、債券の発行通貨はほとんどがドル建て、つまり信用力と流動性のあるハードカレンシーと呼ばれるドルであること、それをスワップすることで発行体は必要通貨を手に入れることをご記憶ください。

 このNグローバル・ハイ・イールド債券投信(バスケット通貨選択型)の実際の投資対象はドル債のみで11年8月現在1,003銘柄になっているそうです。そこまで拡げる理由は発行体リスクが高いため、分散投資をしているとの説明でした。1,000銘柄といえば、ドル建てのジャンクボンドを少しずつほとんど全部買えば達成可能で、その中に勝つための投資判断があるとは全く思えません。債券ファンド運用シロウトの私でも簡単にできることです。分散という理屈はあのサブプライムの手法と同じで、一つの発行体リスクは高いが、多数になればリスクは低くなるハズという論理で、ついこの間サブプライムで破綻しました。その教訓はどこへいったのでしょうか。
つづく
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