ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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初歩の投資教室 22 アメリカの401K

2012年10月24日 | 初歩の投資教室


  10月23日の記事に、彷徨さんから以下のコメントが付きました。このテーマは、私としても興味がつきない大きなテーマなのです。みなさんも興味があることと思いますので、なるべく簡潔に私の回答を試みます。でも私が大好きなテーマのため、当然長くなります(笑)

<彷徨さんのコメント>
アメリカ人の友人の401Kの運用パフォーマンスが、日本の401Kよりよいのは何故なのでしょうか、アメリカ経済には失われた10年どころか、リーマンショックから2年程度で抜け出し、経済は順調な軌道に戻りつつあるのは何故なのでしょうか、疑問は尽きないところでです。
日本のバブル崩壊は間接金融下で起きたので、銀行の不良債権処理に10年も20年もかかったのに対し、 アメリカのそれは直接金融下で起きたので、サブプライム商品を主に買った欧州の銀行が被害を受けただけで、アメリカの銀行は安泰だった。だから、アメリカ 経済の景気回復も早く、株式市場も債券市場も戻りが早いということでしょうか。



回答です。

401Kのパフォーマンスがよいことの根本的理由は、彷徨さんも示唆されているようにアメリカと日本のバブルの違いによるところが大きいと思いますので、まずバブルについて見て行きましょう。


<アメリカのバブルの大きさ推定> アメリカのGDP、現在約 1,200兆円

  日本のバブルがすべての資産という資産に起こったのに対し、アメリカのバブルはサブプライムローンによる低所得者向け住宅と一般住宅の一部にすぎなかった。オフィス、リゾート、高級住宅などにはバブルはなかった。株式もバブルというほどではなかった。相場はすでに9割方回復し、ほとんど無傷にちかい。

  数字で把握すると、サブプライムローンの総額は大きく見積もっても150兆円程度。全部が不良資産となったわけではありませんが、ほとんどだとしましょう。
そのうち証券化され海外に売却されたものは約半分。欧州や日本の金融機関、機関投資家などが購入。ということはアメリカへのインパクトはわずか75兆円名目GDPとの比率ではGDPが1,200兆円なのでわずか6.25%です。ということは、実はカスリキズ。

<日本のバブルの大きさ推定>  日本のGDP、今も20年前も変わらず500兆円

  日本のバブルは住宅・商業ビル・リゾートなどほとんどすべての土地に発生。土地の時価総額はピークの90年で2,400兆円が、03年に半分くらいの1,200兆円、現在1,000兆円。そのうち銀行などで不良資産化した額は推定で100兆円程度といわれているが、それより大きい可能性大。しかもバブルの過程で外人は買っていないので不良資産を抱えたのは日本人のみ。

  国内のみならず日本人は海外の不動産に巨額の投資を行った。NYマンハッタンのビル、ロスやサンフランのビルなど、軒並み日本資本が買いまくった。きちんとした統計はないが10兆円単位の投資を行い、ほぼ撤退。売却時の損失は投資額の3分の1程度と言われる。海外リゾートには個人まで参入。

  ゴルフ会員権バブル時だけでおよそ5兆円の投資があり、価値はほぼゼロに。

  日本株式ピークで時価総額600兆円、92年に300兆円、03年240兆円が底で、現在260兆円程度。

バブル崩壊のインパクトとしては、土地(1,400兆円)と株(300兆円)の時価総額合計だけで1,700兆円とするとGDP対比では340%にもなる。回復は絶対に不可能。

  もっと額を絞り込んで、アメリカと同様のベースにすると、銀行・ノンバンク・住専(思い出すでしょう)などの融資の不良資産となったものだけの推定だと、不動産・株式で250兆円程度。

  これをGDPベースに引き直すと、日本の不良資産はGDPの50%程度。アメリカはわずか6.25%です。

これでインパクトの大きさがよく理解できると思います。

彷徨さんの質問

>アメリカ経済には失われた10年どころか、リーマンショックから2年程度で抜 出し、経済は順調な軌道に戻りつつあるのは何故なのでしょうか

日本の不良資産は低めに見てもGDP対比でアメリカのほぼ10倍なのです。アメリカ全治2年、日本全治20年、これが質問への回答、そして数字的裏付けです。

  日本のマスコミ、エコノミスト、果ては経済学者でもこうした数字をきちんと把握している人はほとんどいません。数字も調べずに『100年に一度の大恐慌』の文字に踊らされる。つまり日本人は数字オンチ、アメリカ人は数字大好き、この差が学習能力の差となって、日本人は何度でも間違いを繰り返すのです。

  現在学習能力のなさが端的に表れているのが財政のバブルです。1%を下回る金利が永遠に続くがごとく錯覚し、崩壊に向かってひた走るのが今の日本です。

彷徨さん、こんなところでまずは納得いただけますでしょうか。

もう1点、お答えします。質問は

>日本のバブル崩壊は間接金融下で起きたので、銀行の不良債権処理に10年も20年もかかったのに対し、 アメリカのそれは直接金融下で起きたので、サブプライム商品を主に買った欧州の銀行が被害を受けただけで、アメリカの銀行は安泰だった。だから、アメリカ 経済の景気回復も早く、株式市場も債券市場も戻りが早いということでしょうか。

  日本のバブルの原因ですが、実はバブル期に間接金融から直接金融へ移ったことによる部分が大きいのです。エクイティ・ファイナンス=ワラント債=増資⇒財テク、これが80年代後半に事業法人、金融法人を問わず盛んになりましたよね。自分でファイナンスして特金・ファントラで自分の株価を買って吊り上げ、株価が上がるとまたファイナンスして株、不動産も買い、ゴルフ会員権も買う、というのが横行しました。完全にネズミ講です。

(注)特金・ファントラとは企業向けのファンド・トラストなどで、実はかなりの部分が自社株買いに使われた。

  そしてこの流行には中小企業も乗り、個人も乗って、一億総不動産屋とか、投資家とか言われました。

  もちろん彷徨さんがご指摘のように、間接金融もバブルの一翼を担いました。日本の間接金融は土地の担保を裏付けになっています。しかし土地担保が実は無限連鎖のネズミ講であることを自覚しなかった金融機関が、永遠の地価上昇を信じ、貸し込みを続けバブルを大きくしました。まあ、アメリカでもホーム・エクイティ・ローンで、特に低所得者は同じ様なことをしましたが・・・。

  アメリカの銀行は全く安泰ではありませんでした。このホーム・エクイティ・ローンは銀行が出しましたし、サブプライムの証券化商品に投資を行いましたので。しかしアメリカの銀行は、収益力が日本の銀行とは桁違いです。過去の蓄積に加え、毎年数兆円単位で利益を出しているため、わずか2年で政府の支援をすべて返済し終えました。

  さて、今回は彷徨さんの疑問から、401Kのパフォーマンスの違いの根本原因を追及してみました。次回はそこまでさかのぼらず、もう少し表面的に見たパフォーマンスの違いがどこにあるのか見てみましょう。

つづく
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初歩の投資教室 17  何で損するの?

2012年10月08日 | 初歩の投資教室
  ここまで、分散投資をすることで果たして安全性やパフォーマンスは向上するのか、というテーマで様々な例をみてきました。すくなくとも代表的な分散投資の例では、個人投資家のみならず、プロにまかせても成果があまり上がっていないようだ、ということがわかりました。

「じゃ、いったい個人投資家はどうしたらいいの?」

  それに回答するため、何故損をするか原因をしっかりと突きとめたいと思います。今後同じ様な間違いをおこさないためのヒントを見つけていきましょう。

  損した読者の方の大半は自分が何故損失を出したか、原因はわかっていますよね。でもタイトルは初歩の投資教室ですので、ベテランの方はちょっと我慢してください。

損失の原因を簡単に並べれば、

1. 国内投資では日本経済が低迷し、株価が低迷しているから・・・バブル崩壊後20年を経ても日経平均は下げ続けています
2. 外貨建て投資では、円高が進行したから・・・バブル崩壊後でみても90年初の146円が00年初102円、10年初83円、12年10月現在78円程度
3. リスクの超高い商品に手を出すから・・・新興国ものやジャンクボンド(ハイイールド債券)などプロでも火傷を負った

これが直接の原因でしょう。しかしもう一つ大事なことがあります。それは

4.証券会社が1.2.3.を薦めるから

  これまで証券会社のアドバイスに従って投資をしたために大きな損失を出した方々の実例も見てきました。その方々の損失は代表的には株と外貨建て投信でした。

いったい、証券会社のどこがいけなかったのか?



  一般的にアドバイザーを選ぶという時に、一番大事なことはなんでしょうか?

「適切なアドバイスができるアドバイザーを選ぶんじゃないの?」

  いいえ、違います。それは当然ですが、それ以前に考える必要があるのは、「依頼者とアドバイザーの利害が反していないか」です。

  アドバイザーとして証券会社を選ぶ場合、証券会社と顧客の利害関係は、必ずしも一致していません。何故なら証券会社の一番の関心事は、顧客から手数料をどれだけ取れるかの1点で、投資で顧客が儲かるかは一番の関心事ではありません。一方顧客は儲かるかどうかが最大の関心事で、証券会社にはなるべく手数料を多く取られたくないのです。

  あたりまえですが、このように証券会社の利害と、顧客の利害は一致しないのです。顧客の損失に対して責任をとることはいっさいありません。もちろん証券会社に言わせれば、

「顧客に損失を与えれば逃げられるので、長期的利害は一致している」

と言うでしょう。しかしこれは表看板の言葉です。

  世界にはアドバイザーかつ運用者が顧客と同じ利害をもつケースもあります。ヘッジファンドの多くがそれです。ヘッジファンドの経営者は、自己資金もそのファンドに入れて顧客の資金とともに運用しますので、損得はすべて一致します。そうしたことを定款で確約しているファンドが数多く存在するのです。それだと利害関係を心配する必要はなくなります。そのかわり「儲けた時に2割は成功報酬でもらうよ」となっています。逆に損したらアドバイザーの収入はないこともあるので、必死で運用します。利害関係の一致・不一致は、こうした違いをもたらすのです。

つづく
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初歩の投資教室 16  分散投資の評価

2012年10月05日 | 初歩の投資教室

  さてここまで様々なポートフォリオを組んだ分散投資の例と実績を見てきました。

ポートフォリオの例としては
・証券会社のサイトにあった、年齢別・リスク別のお薦めポートフォリオ
・山崎元氏の退職金のアロケーション
・公的年金GPIFの例
・野村マイストーリーB
・日興GW7つの卵


ポートフォリオを組んだ実績としては以下のような数値でした。
・公的年金GPIF・・・10年間で年率平均1.3%
・野村マイストーリーB・・・年率ではほとんどゼロに近いプラス
・日興GW7つの卵・・・年率2%プラス


  もともとのテーマは、「分散投資に意味はあるか否か」でした。

  この3つとも実は年によって大きくマイナス実績の年があり、それも全期間の半分近い年でマイナスを食らっているのです。私にはそんな分散は意味がない、としか思えません。特にリーマンショック後は、大きなマイナスになっています。

  だったら、日本国債でも買って寝て暮らせば、マイナスなど心配せずに償還までのプラスのリターンが確定しているのですから。

(注)債券の毎年のパフォーマンスは、厳密には毎年時価評価をすることになっています。しかし償還まで保有すれば、時価評価は関係ありません。

  
  そのほかに、投信などのパフォーマンスを厳密に計る場合、「ベンチマークとの比較」という方法を用います。

  例えば株式投信だと、日経平均やトピックスに比べてどうか、という比較です。しかしベンチマークとの比較だと、その投信のリターンがマイナス20%としても、トピックスがマイナス25%だと、「ベンチマークを5%も上回った」と勝利宣言が行われるのです。

  冗談じゃありませんよね。2割も負けたら大負けです。どうかみなさん、どうしても投信がいいという方も、このいかにも証券会社らしい言い訳で騙されたりしないように注意してください。

  比較方法はリスクフリー・レートとの比較という形でもなされます。投資を行っている国の国債の金利レートをリスクフリー・レートと言い、それと比較します。日本なら日本国債で、だいたいが10年物のレートを使います。BISという世界の銀行を規制している機関も日本国債はリスクなしと一応認定していますので、この際リスクフリーは国債と認定してみましょう。

  GPIFの実績を検証するのに、この10年間を比較してみましょう。10年前の日本国債10年物の金利はちょうど1%くらいです。20年物だと2%くらいでした。「国債に投資をしてなにもせずに放っておいてもそれだけのリターンがあるのだから、リスクを取るのであれば当然それにプラスしたリターンがあるべきだ」というのがリスクフリーとの比較です。私はこちらの方法が妥当だと思っています。

  その比較では、GPIFはリスクフリー・レートを0.3%ほど上回っていた、となります。また日興の7つの卵は、1%ほど上回っていた、となります。野村はマイナス1%だった、ということです。

  大きなリスクを取るのですから、プラスとなったGPIFにしろ日興にしろ、その程度では「リスクフリーとほとんど一緒だった」というのが妥当な評価でしょう。

  私のザックリとした感じでは、リスクフリーに対するスプレッドがプラス5%なら上出来3%ならまあまあ、それ以下は不出来というところです。


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初歩の投資教室 16  分散投資の実績例

2012年10月03日 | 初歩の投資教室
  
  前回は超安全なポートフォリオを組んだ例で実績値のある公的年金(GPIF)の運用成績を見てみました。安全資産は7割程度、通貨では8割方を円建て資産、2割を外貨に投資し、10年間のパフォーマンスは年率1.3%程度でした。

  今回は、さらに世界的に分散投資をしている代表的な投資信託の2つの例で実績を見てみましょう。

  一つは野村アセット・マネージメントの「マイストーリー分配型Bコース」、もう一つは日興投信の「GW7つの卵」です。
  二つを取り上げた理由は、純資産規模が1千億円以上とかなり大きく、人気がある(あった)ことと、5年以上のトラック・レコードがあり、世界的な分散が十分にされていることによります。

① 野村マイストーリー分配型Bコース
  純資産;2800億円
  設定;05年5月
  配分%; 株:債券=25:75   内外比率=16:78

 (国内株16%、外国株8%)(国内債券ほとんどなし、外国債券70%、現金5%) 
  設定来の騰落(配当を再投資に回したベース);プラス1.7%
    設定後2年あまりでプラス35%くらいまで高騰しましたが、リーマンショックではマイナス20%となり、現在は設定時とどうレベルです。

② 日興アセット・マネージメントGW7つの卵
  純資産;1,100億円
  設定;03年2月
  配分;株;債券=63:37   内外比率=50:50

 (国内株26%、外国株36%)(国内債券24、外国債券12%) 
設定来騰落(配当を再投資に回したベース);21.7% 年率約プラス2%
    設定後4年で約2倍になりましたが、リーマンショックでほぼ元に戻り、その後2割ほど上昇し、現在にいたっています。
(注)両者ともその他の資産や現金の配分があるため、合計は100になりません。

  両者の違いは、野村は保守的で債券がメイン、日興は株式に積極的に挑戦している部分でしょう。日興の場合変動率が非常に激しいので、タイミングを間違うと大きな損失につながりますが、よければ大きなゲインも得られました。

  このように世界的に分散投資を行っているファンドは、野村・日興の他にフィデリティやゴールドマン・サックスなど様々なファンドがありますが、実績的にはいずれもこの両者の間か、より悪い実績を残しているものが多いようです。
  
  日興とGPIFを比べるとどうでしょう。株式比率や内外比率は大きく違い、日興はアグレッシブ、GPIFは保守的ですが、結果は年率で言うと日興の2%、GPIFの1.3%とたった0.7%の差です。

  この結果をご覧になって、みなさんの感想はいかがでしょうか。
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初歩の投資教室 14  ポートフォリオに意味はあるか

2012年10月01日 | 初歩の投資教室

  リスクを分散してパフォーマンスを長期であげるためにポートフォリオを組んだはずが、年金の例ではどうもそうはなっていません。もう少し具体的にみなさんもご記憶に新しいリーマンショックの時のことを考えてみましょう。

あのショック時に売られたのは、

・日本株、先進国株、新興国株・・・要するに株は全部

・REIT(会社型不動産投信)・・・不動産

・格付けの低い社債、新興国債券・・・債券のうちでもリスクが高いもの

・証券化された債券・・・モーゲージ債などで格付けが高いものも含めて

・原油をはじめとする商品全般

では、買われたのは

・米国債、日本国債、ドイツ国債・・・信用力の極めて高い債券、国際機関を含む

・ゴールド



  こうしてみますと、超の付く安全資産以外はことごとく売られたことに気が付きます。

  何故そうなるかの大きな原因の一つは金融市場のグローバル化です。

  グローバル化の進展以前(およそ20世紀中)だと、各国の経済はけっこうマチマチな動きになっていて、景気循環も完全にはシンクロしていませんでした。ところが世界経済のリンケージが深まり、情報が均一化し、金融市場の自由化によりマネーの動きも自由になると、世界の金融市場の連携が深まり、市場の動きがシンクロしてくるのです。

  要は実体経済が好調なところには実物投資のカネが集まり、金融市場も活発となり投資マネーも世界中から集まる。不調なところにカネは集まらない。こうした集中は当然バブルを作りやすくし、崩壊したときも度合いがはげしくなります。

  このマネーの集中化傾向は今後ますます強まりこそすれ衰えることなないでしょう。

  とすれば、一般的ポートフォリオが本当にリスク分散になるのか、極めて懐疑的にならざるをえません。


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