ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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為替130円の今からでも米国債に投資すべきか

2022年04月20日 | 米国債への投資

  円安の勢いが止まりませんね。ドルへの転換を考えている方は、気が気ではないと思います。同時に米国債の金利上昇も止まりません。すでにドルを保有していて投資機会を探っている方であれば、そろそろ買い場と考えてもよいころです。

  では、ドルを保有していなくて円からの米国債投資を考えている方はどうするべきか、ちょっとした計算をしてヒントを差し上げたいと思います。

 

  米国債への投資チャンスについて、私が過去に「チャンス到来」と投稿したタイミングを簡単に振り返ります。18年には4月と10月の2回ありました。

  18年の4月に私はトランプ批判の投稿の副題で「米国債投資のチャンス到来」と書きました。その当時の10年物国債の金利と為替レートは以下のとおりでした。

 

10年物国債金利 2.8%  ドル円レート 108.7円

 

  そしてさらに同年10月に私は「米国債買いましたか」という問いかけをみなさんにしました。その時の数値は、

 

10年物国債金利 3.23% ドル円レート 113円

 

  その間に金利は上昇しましたが、ドル円レートも上昇してしまいました。両者を金利と為替レートの両にらみで比較しましょう。すると金利差は0.43%の上昇、為替差は4円程度の円安で、実は両者の収益性はほぼ同じです。4月に投資すると金利では0.43%不利ですが、為替では4円有利です。

  金利差0.4%を単純に10年累積させると4%になり、為替レート差が4円(およそ4%)なので、プラスマイナスで最終的にはほぼ同じ収益になるからです。

 

  為替と金利の関係は、原理的には米国債金利が上がるとドル高になりますので、4月から10月にかけ、およそこの原理に従って金利と為替は動いたことになります。

 

  では18年に3%台の金利で買いそびれた方は、現時点でどうすべきかです。

現在の金利と為替レートは、

10年物国債金利 2.9%  ドル円レート 129円程度です。

 

  金利はひところの1%台に比べてだいぶ上昇し3%に接近しましたが、為替レートはかなりドル高になってしまいました。

  そもそも米国債への投資を考える方の多くは、日本の行く末に大きな不安を抱いている方だと思われます。そういう方にとって現金で円を保有していること自体、大いにリスクを感じていることと思います。であれば、ドル円レートがいくらであろうがドルに転換して安心感を得るべきではないでしょうか。しかも金利の付かない円と違い、幸いドルは金利が付きます。

  日本に感じるリスクは今日明日のリスクではなく、長期のリスクです。例えば現時点のドル円レートを130円だと仮定します。それを10年物の米国債に1万ドル投資することを考えます。円貨では130万円の投資です。金利も切りのいい3%と仮定すると10年後に複利では、13,439ドルになります。

10年後為替レートが130円のままだと償還額は、

13,439ドル X 130円 = 1,747,070円 になり、にっこりと笑えることになります。

 

  一方、為替が10年後までに大きく円高に動いて、130円が100円になってしまったとしても、円換算では1,343,900円になっているので、大雑把には損得なしと考えられます。逆にもしさらなる円安に動いたら、ニッコリではなく密かに大笑いしましょう。

 

  そこで最初の設問、「いま円から米国債への投資を考えている方はどうすべきか」にもどりますと、「いまからでも遅くはない」というのが私のアドバイスになります。金利が3%くらいあるとドル円が100円になってしまったとしても損はないからです。

 

  しかも最も大切なことは、リスクの大きな円を捨て安心この上ないドルを保有しているという「安心感は確実に得ることができる」からです。

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ロシア国民が侵略の真実を知る日

2022年04月13日 | ロシアのウクライナ侵攻

   本論の前に、あわれな駐日ロシア大使の言い訳をみなさんは聞かれましたか。

 週末にTBSの報道特集で、金平キャスターが日本駐在のロシア大使へのインタビューを行い、それが放映されました。TBSのサイトからちょっとだけ引用します。

引用

金平茂紀キャスター
「ガルージン大使、率直にお聞きしますけども(ブチャで)虐殺があったことは認めますか?」

ガルージン駐日ロシア大使
「認めないです。そもそも第二次世界大戦後、最も残虐な虐殺、軍事犯罪、戦争犯罪を起こしているのはゼレンスキー政権です。ロシアに泥を塗るために意図的に挑発的な事件をでっち上げたのはウクライナ側です」

引用終わり

  この「認めるか認めないか」のインタビューが延々30分も続き、彼は一貫してゼレンスキーこそが戦争犯罪を起こしていると言い続けました。その上自分たちが用意した「ブチャの真実」と称するフェイク動画を見せて、金平キャスターを本気で説得にかかったのです。

  彼は日本にいて世界の報道をすべて見ているでしょう。あわれな大使はそれでも堂々とウソをつき続けました。プーチンが去った時、金平氏に是非またこの大使にインタビューしてもらいたいものです。

   

 さて本論の「ロシア国民が侵略の真実を知る日」です。

  この紛争が終わった後もロシアは「食料とエネルギーを自給でき、世界有数の核戦力保有国であるため、新たな冷戦にも耐えられる」と言われています。しかし実際にはウクライナ紛争が始まった時に私が「小国ロシアの皇帝プーチン」と揶揄したように、ロシア経済の大きさは10位の韓国の次、11位です。そして今年のロシアは20%ほどGDPが低下する見通しのため、14位のスペインと15位のメキシコの間に入り、ますます小国になります。アメリカのわずか18分の1のサイズです。その上インフレが高進しハイパーインフレになりつつあります。

  ロシア国民はハイパーインフレに耐えられるでしょうか。ウクライナに侵攻したプーチンを一時的に支持したとしても、インフレが国民を貧しくし苦しめれば、プーチンに反旗を翻す可能性は大いにあるだろうと思っています。歴史上インフレのために転覆された政府は数知れずあります。

 

  西側各国はロシアからの資源輸入を絞りつつあり、資源産業の稼働率は下がり始めるでしょう。今のところ資源価格が上昇しているためロシアの資源関連企業も耐えてはいますが、いつまで耐えられるかは疑問です。そしてロシアに進出している西側の企業は製造業・サービス業を問わず、どんどん操業を停止、あるいは撤退を決めています。その結果資源産業と西側企業から失業者が大量に出始めています。

  それらは政権側が隠そうとしても隠せません。政権の収入の3分の1は資源産業からの収入です。その減収は国民に対する福祉予算の減額につながります。その上イギリスの調査機関によれば一日3兆円とも試算されている戦費がのしかかっています。すでに40日以上ですから120兆円。話半分としても60兆円で、これはロシアの国家予算35兆円の2倍弱です。国家財政もいつまで持つのか、かなり怪しいのです。ロシア国債はすでにデフォルト同然ですから、国債を発行して海外資金に頼ることもできません。

 

  戦争中は前回の投稿で書いたように1000万件を超えるプロパガンダ発信で国民を騙せても、戦争後にはウクライナ人を虐殺した軍人が帰還します。すでに軍人の間ではこうした言葉がやりとりされています。

  「訓練だと思っていたら戦争だった」「多くの兵士が戦いで死亡し、明日は我が身だと思った」。もっと悲痛なのは母親との交信で、「ママ、ウクライナ人は僕たちを歓迎すると聞かされていたけど、誰も歓迎なんかしてくれなかったよ」というような言葉です。しかもすでにロシア側の戦死者が1万人を超えたという推定があり、また脱走兵が多数出ていて、彼らが自身の残虐な戦闘行為を嘆くインタビューも放映されました。また西側報道ですが、兵士が自分達の足を撃ち合ってわざと怪我をして戦線から離脱する者も出ていると報道されています。

  こうした兵士が20万人近くロシアに帰還し、近親者や友人に民間人を虐殺した真実を語るに違いない。どの国の兵士も同じですが、彼らも戦闘を終えて帰国すると虐殺したり拷問したりしたことがトラウマとなり、ひどいPTSDに悩まされ続けるに違いなく、自殺者も多数出ることになるでしょう。

  PTSDとは、「心的外傷後ストレス障害」と訳され、死の危険に直面した後、その体験の記憶が自分の意志とは関係なくフラッシュバックのように思い出されたり、悪夢に見たりすることが続き、不安や緊張が高まったり、辛さのあまり現実感がなくなったりする症状です。アメリカのベトナム帰還兵、ロシアのアフガニスタン帰還兵でも見られました。

  ロシア国民もそこに至ればプーチンの言っていたことがプロパガンダに過ぎず、自分達は完全に騙されていたことに気づくに違いない。

  まとめましょう。今後ロシアとプーチンを苦しめるのは、

  • 資源輸出の減少と西側企業撤退による失業者の増大
  • 巨額の軍事費と資金調達難から財政の危機的状況
  • 大量の帰還兵の語る恐怖の真実の流布

 

  それらはプーチンや政府がいくらプロパガンダを叫んでも消し去ることはできません。やがてプーチンに対する国民の憎しみは増し、私が願ってやまない日が来るかもしれません。

  それはプーチンがハチの巣にされるか、棺桶のような箱の中に隠れているところを捕まる日です。プロパガンダでは覆いきれない真実の力が、いつの日かプーチンを追い詰めるに違いないと私は思っています。いや、心の底から願っています。

 

  最後に先日私が取り上げたユバール・ノア・ハラリ氏「プーチンは負けた」の中から部分引用します。

『ロシアの戦車が1台破壊され、ロシア兵が1人倒されるごとに、ウクライナの人々は勇気づけられ、抵抗する意欲が高まる。そして、ウクライナ人が1人殺害されるたびに、侵略者に対する彼らの憎しみが増す。憎しみほど醜い感情はない。だが、虐げられている国々にとって、憎しみは秘宝のようなものだ。心の奥底にしまい込まれたこの宝は、何世代にもわたって抵抗の火を燃やし続けることができる。』 

 

  さらに彼が述べた次の言葉がいよいよ本当になりつつあります。

 

『プーチンは子供の頃、レニングラード(現サンクトペテルブルク)包囲戦におけるドイツ人の残虐行為とロシア人の勇敢さについての物語をたっぷり聞かされながら育った。今や彼はそれに類する物語を生み出しているが、その中で自らをヒトラー役に配しているわけだ。』

 

ウクライナは「ナチ」だとロシア国民にウソを言い続けるプーチンよ、「お前こそヒトラーの再来だ!」

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ロシア内の真実を知ろう (SNSテレグラムとレバダセンターの世論調査)

2022年04月10日 | ロシアのウクライナ侵攻

  皇帝プーチンによる「ロシアは大国」であるという幻想から、小国ウクライナを踏みつぶそうとしていますが、戦況は彼の思うようには進んでいません。先週非常に驚いたニュースは、ロシアのあのウソばかり言い続けている報道官ペスコフがイギリステレビのインタビューで、「ロシア軍は多大な損失を被った。我々にとって大いなる悲劇だ」と述べたことです。ロシアが自軍の苦戦を認めるのは珍しいのですが、内容的には3月25日にロシア国防省が発表した死者1351人が根拠だとして、「これはかなりの数だ」と説明したのです。

  もっともウクライナ軍参謀本部は今月8日の発表で1万9千人のロシア兵を殺害したと主張しているため、その差は14倍もあります。ロシア軍が残した破壊された戦車や装甲車の数からみてもロシア側の発表はもちろん信用などできません。オランダの分析機関によれば、公開された情報によると開戦から一月弱で撃破されたロシア陸軍の戦車の総数が109両であると発表。それからの経過時間を考慮すると170両くらいであると推定できます。全世界がキーウ近郊の街ブチャやボロディアンカなどの惨状を検証した結果、ジェノサイドであると非難しています。日本政府も本日、追加の制裁措置を発表しました。

 

  さて、ロシア国民はネット経由で海外主要SNSサイトの大半にアクセスできず、ロシア政府発のフェイクニュースまみれのため、国民の大半はプーチンの策略にはまっていると言われています。4月8日の日経新聞朝刊の1面トップも、ロシア国内では1,000万超のSNS偽情報を政府側が拡散させ、世論を操作していると報じられていました。

  またそうした操作によりプーチンの支持率が3月末に83%という高率を達成させているというのが一般的とらえ方です。今回の投稿では、実はロシアにも自由に使えるSNSが存在し、自由にアクセスできるし、世論調査機関は中立で以外にもかなり正確であることをみなさんにお知らせしておきます。ロシアのSNS詳細情報はちょっと長いですがそのまま引用しますので、じっくりとお読みください。これを知らないとフェイクと真実のはざまでさ迷うことになります。

  現在唯一ロシアからもアクセス可能なSNSサイトの名は「テレグラム」です。3月26日付日経電子版のニュースを引用します。長文です。

引用

ロシアのウクライナ侵攻を受け、ロシア発の対話アプリ「テレグラム」の存在感が増している。ロシア政府がフェイスブックなど多くのSNS(交流サイト)を遮断する中、貴重な情報源になっている。創業者はプーチン政権との対立も辞さない姿勢を示すが、政権側も活用しており遮断は免れている。ロシアやウクライナだけでなく西側メディアも情報を発信する主戦場となっている。

また、テレグラムはほかの対話アプリに比べて、熱心な利用者が多いことも分かった。利用者が同アプリ上で一日に費やす携帯データ使用量の平均は101メガビットと、フェイスブックの子会社ワッツアップの使用量26メガビットを大きく上回った。

ウクライナでもテレグラムの利用は増えている。侵攻前から同国内で最も使われている対話アプリだったが、侵攻後にさらにダウンロード件数が増えた。米ネット調査会社data.aiによると、スマホ向けのダウンロード数は2月27日~3月5日までの1週間で24万2000件と、前の週の2倍を超えた。ゼレンスキー大統領は国内外に向けたメッセージ発信を、テレグラムを中心にして行っている。

情報統制を強めるプーチン政権は、メタが運営するフェイスブックやインスタグラム、米ツイッターなどに対してロシア国内からの接続を遮断した。だが、テレグラムはこうした対象から外れ、ロシア在住者に西側の情報を届ける数少ない手段となっている。ニューヨーク・タイムズ(NYT)とワシントン・ポストの米有力紙2紙は3月中旬、テレグラムでの情報発信に乗り出し、ウクライナとロシアの読者を対象に一部のニュースを無料で提供している。開設から約2週間でNYTのフォロワー数は4万5000人を超えた。

外交政策研究所フェローのクリント・ワッツ氏は、「ロシア語とウクライナ語の世界では、テレグラムが情報戦の主戦場となっている」と説明する。ロシア側がプロパガンダを広める場である一方で、ウクライナ側が対抗メッセージを流す場でもあるからだ。ロシアのプロパガンダ問題に詳しいイアン・ガーナー氏は、「若者がニュースを得る主媒体となっているため、プーチン政権は(不都合な情報があっても)テレグラムを閉鎖することはできない」と語る。

プーチン政権とテレグラムの関係は複雑だ。テレグラムは2013年にロシア人のパーヴェル・ドゥーロフ氏が兄ニコライ氏と立ち上げた。先立つ06年にはロシア版フェイスブックといえる交流サイト(SNS)「フコンタクテ」を創業し、パーヴェル氏は「ロシア版マーク・ザッカーバーグ」と呼ばれることもある。だが、反政権運動の情報削除を拒否したことなどからプーチン政権との対立が強まり、14年にフコンタクテの経営権を全面的に手放し国外に拠点を移した。

テレグラムはアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに拠点を置く。米メディアは従業員は30人程度と報じている。14年は、ロシアがウクライナ南部のクリミアを併合した年でもある。パーヴェル氏がウクライナの反ロ運動メンバーに関するフコンタクテ上の情報提供を拒んだことがさらに締め付けを強めるきっかけになったとされる。今回のウクライナ侵攻を受けてパーヴェル氏は3月7日、ツイッターに「9年前、ロシア政府からウクライナ人の個人情報を守った。そして、企業と家を失った。だが、(必要とあれば)ちゅうちょなくまた同じことをする」と書き込んだ。

テレグラムは、通信内容を暗号化して送るため匿名性が高く、コンテンツに規制をかけない姿勢で知られる。だが、こうした匿名性と自由を重んじる姿勢は、憎悪や暴力を助長したり、テロ組織のやりとりに使われたりする危険性があると指摘されてきた。日本経済新聞はテレグラム経由でこうした課題に対する会社の方針についてコメントを要請したが、返信はなかった。

引用終わり

 

  どうですか。驚きの情報ですよね。このテレグラム(Telegram)ですが、実際に私が日本からアクセスしてみました。するとどうでしょう、最初に出てきたのはウクライナのゼレンスキー大統領のアカウントでした。彼が「これはジェノサイドだ」と言ったブチャの市街地の写真で、道路に横たわる遺体が写っていました。ロシアがよくこれを許しているな、というのが私の感想です。

 

  このSNSはロシア、ウクライナだけでなく世界の誰もが閲覧利用可能です。ロシアでもスマホを持っていさえすれば誰もがアクセスできるため、若者中心にこれでウクライナの情報も仕入れることができます。それでもプーチン大統領の支持率は落ちるどころか上昇し、遂に83%に達しています。この世論調査は政府によるものかと思いきやそうではなく、むしろ政府とは一線を画した民間会社による調査です。その会社は民間の独立系世論調査機関「レバダセンター」で、政府のヤラセではありません。

 

  それでもプーチンは83%の支持を得ている原因は、調査対象がテレグラムを見ることのできる若者よりも大多数を占める老人や農民が多いからでしょう。もちろんレバダセンターは政府に批判的プロ集団で、海外の機関もその中立性を認めていますから、調査対象を偏らせないようランダムに選定していると推察できます。

  NKHの「BS世界のニュース」では、そのレバダセンターのトップにインタビューしたニュースが流れていました。その内容をNHKのサイトで見つけましたので、それを引用します。これまた長いですが、センターの所長が「プーチン自身の真実」を忌憚なく述べています。4月7日付です。

引用

プーチン大統領 なぜ高支持率? 独立系世論調査機関幹部が分析

2022年4月7日 5時52分

ロシアにある独立系の世論調査機関「レバダセンター」で長く所長を務め、ロシア社会について独自の分析を続ける社会学者としても知られるレフ・グドゥコフ氏(75)がモスクワ市内でNHKのインタビューに応じました。

国営メディアで意図すり込み”

この中でグドゥコフ氏は軍事侵攻から1か月がたった先月下旬「レバダセンター」が行った世論調査でロシアのプーチン大統領の支持率が83%と、およそ4年ぶりに80%を超えた背景について「支持する人の多くは高齢者や地方に住む人たちなどで、彼らの唯一の情報源となっているのが政権のプロパガンダを伝える国営放送だ」と述べ、多くの人が国営メディアで伝えられることが事実だと政権の意図をすり込まれているためだと指摘しました。

 

「非ナチ化」で軍事侵攻を正当化

そのうえで「国民は戦争を望まず恐れていた。だからウクライナの『非ナチ化』ということばを作る必要性が出てきた。実際、ナチズムやファシズムということばを使って相手を批判するやり方はロシア社会をまとめるうえで効果的だ。こうした表現や、うそを並べ立てた大衆の扇動がプーチン氏の政策を支持させるために不可欠だとみているのだろう」と述べ、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権を一方的にナチス・ドイツになぞらえ「非ナチ化」の必要性を繰り返し強調するのは、国民向けに軍事侵攻を正当化するためだと分析しました。

 

プロパガンダと情報統制の結果…

グドゥコフ氏によりますと、ウクライナで2013年、ロシア寄りの政権への市民の抗議活動が起きる前はEU=ヨーロッパ連合の加盟を目指すウクライナに対して「ロシアは干渉すべきでない」という意見が75%に上ったのに対して「武力も含めて断固阻止すべき」という回答は22%だったということです。しかし「『アメリカが主導する形でウクライナの東部や南部でロシア系住民の安全が脅かされている』というプロパガンダが語られると状況は一変した」と述べ、プーチン政権によるプロパガンダと情報統制の結果、政権が「特別な軍事作戦」と称するウクライナ侵攻を事実上受け入れる世論が形成されたと指摘しました。

 

プーチン大統領の考えの原点「怖いからこそ尊敬される国家だ…」

またプーチン大統領のこうした考えの原点についてグドゥコフ氏は「ロシアのファシズムだ」と表現し「強制力や権力の集中に依存し特殊機関の職員を社会の要職に配置することで経済や教育、宗教まで管理を強化しようとしている」と分析しました。

そしてプーチン大統領が旧ソビエトの情報機関KGB=国家保安委員会の出身であることを強調したうえで「軍の司令部などと手を組みおそれられる強力な国家を夢みている。怖いからこそ尊敬される国家だ。『恐怖による支配』こそが国家を形成すると信じていて『核兵器を保持している』ことが世界から尊敬される理由になると考えている」と指摘しました。

 

「プーチン大統領は明らかに目が曇ってしまっている」

そのうえで「彼の最大の過ちは第2次世界大戦以降の国際関係の構造全体に実際に危機をもたらしたことだ」と批判し「プーチン大統領はウクライナへの憎しみと異常なまでの執着によって明らかに目が曇ってしまっている」と述べ、今後さらに攻撃を続けていくことに懸念を示していました。

 

解説;「レバダセンター」とは

「レバダセンター」は2003年、リベラルな社会学者のユーリ・レバダ氏が設立しました。レバダ氏はソビエト時代末期に発足した政府系の世論調査機関で活動していましたが、志を同じくする同僚とともに独立してレバダセンターを立ち上げ、政府から財政支援などを受けることなく独自の世論調査や分析を続けています。

日本や欧米の政府や団体とも協力して調査を行っていて、2006年にレバダ氏が死去したあとは社会学者のレフ・グドゥコフ氏が所長を引き継ぎました。ロシアの政治経済や社会問題などを幅広く扱い、10年ほど前からは研究報告の中で「ロシアは腐敗した権威主義的な国になりつつある」といった政権批判も展開するようになりました。

レバダセンターは2016年、国外から資金を得て「政治活動」に関わっているなどとして、プーチン政権によっていわゆる「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され厳格な収支報告を求められているほか、発表資料に「外国の代理人」であることを明示するよう義務づけられるなど圧力を受けています。

これに対してレバダセンターは政権に批判的な姿勢を変えることなく世論調査や分析を続けていてグドゥコフ氏自身、去年5月に所長を退任したあとも研究部長として国内の社会問題を鋭く分析しリベラルな論客として活動しています。

引用終わり

 

  どうですかみなさん、テレグラムレバダセンター。このようなプーチン政権と一線を画す独立系のSNSと世論調査機関がいまだに存在しているのです。その存在も知らずにロシア政府発の情報はすべて政府のヤラセだと言い切る報道やロシア通には注意しましょう。

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アメリカの強さ

2022年04月04日 | 米国債への投資

ウクライナでは本当に悲惨な状況が続いていて、心が痛みます。

前々回の投稿の最後に私は以下のように書きました。

>今回のウクライナ紛争で私が感じかつ確信したことは、長期の視点で見たアメリカの強さです。

遅くなりましたが、今回はアメリカの強さについてです。

ウクライナ紛争に直接関与はしないと宣言したアメリカに対して一般的に言われるのは、「国力が弱体化したため、世界の警察官をやめた」というような言葉です。警察官をやめたのはそのとおりですね。しかしアメリカの国力は弱体化したのでしょうか。

私は逆に「海外に直接介入をしないアメリカは国力を温存できるので、今後も強い経済力を保てる」と思います。

アメリカの強さの源泉は「経済力と成長の持続性」です。その上今回の戦争で誰もが改めて思い知らされた点は「エネルギーと食料の自給、そして戦力の大切さ」でした。

ということはアメリカとは、「世界一の経済力を持ち、成長が持続し、エネルギー、食糧を自給でき、世界一の戦力を保有する」。これらすべてを揃えているのはアメリカだけです。

 

中国はどうか。いくらGDPがアメリカに追い付いてきたと言っても、それはしょせん人口の多さによるもので、一人当たりの国民所得をみれば小国にすぎない中身がスカスカな大国です。

一人当たりGDPランキングをIMFの公表数値から見てみましょう。20年のドル換算値です。代表国だけ取り上げます。

1位 ルクセンブルグ 116千ドル

5位 アメリカ     63千ドル

17位 ドイツ     46千ドル

24位 日本      40千ドル

64位 中国        10.5千ドル

66位 ロシア     10.1千ドル

120位 ウクライナ    3.7千ドル

これが数字で見た世界の現実です。中国の一人当たり国民所得はアメリカの6分の1にすぎず、同じレベルにあるロシアは、今後ルーブルの減価と輸出の減少によるGDPの低下でこの半分近くの貧乏国になりそうです。

 

アメリカから見れば中国やロシアなどものの数ではないのです。中国はいずれGDPでアメリカを抜くと試算されていますが、一時的にアメリカを逆転しても、その後は高齢化と人口減少により転落し、アメリカが再逆転するという超長期の試算がなされています。もちろん一人当たりでは中国はものの数ではありません。

 

わが日本はどうか。すでに成長力を失っていますが、今後さらに高齢化が進展して人口は減少し、愚かなアベノミクスを転換することができないまま崩れ去るに違いない。このところ円安が進行してきました。これまで「有事の円買い」などという根拠の疑わしい論調もありましたが、それはすでに影を潜めています。

今回の円安の最大の原因は、日米の金利差と言われています。アメリカはインフレに対処するために金利を引き上げることができる国であり、日本は金利を抑えるしかない国だからです。ドルレートが125円前後になった3月、アメリカではFRBによる利上げが行われ、日本では日銀が無制限の買いオペにより金利を上昇させない正反対の措置を取りました。正反対の措置を取れば、円安は当たり前です。しかもその数日前に黒田総裁は会見で「円安は日本にとってよいことだ」とまで言っていました。インフレへの対処ができる国とできない国の差は歴然です。

ここでちょっと私が著書で書いたことを繰り返します。「金利とはコストと見られがちですが、投資家にとってはリターンだ」ということです。

金利上昇は投資家に高いリターンをもたらすことができます。私の著書が出た2011年当時、世界の株式時価総額と債券の発行残高を見ると、債券が株式の2倍もありました。しかし現在は債券も当時に比べ増大していますが、株式の価格が大きく上昇したため、市場の大きさは同じくらいのサイズになっています。金利上昇は今後債券投資にも大きなリターンをもたらすことになります。

 

日本は成長しないため株式の時価総額はさほど伸びず、国債発行だけが増大する債券による借金大国になっています。しかしその債券への投資ではほとんどリターンは得られません。しかも最大の国債投資家は政府と一体になった日銀ですから、国が金利を払って投資家へ回すはずのリターンを自分がもらってしまいます。なんというイビツな国でしょうか。

アベノミクスというドーピングで何とか経済規模は保っていますが、インフレと円安に対抗するために利上げという手段は持ち得ません。

2023年に黒田総裁が退任する予定ですが、後任の総裁が就任しても、超緩和政策は転換できません。方針転換すると言った途端株式は暴落します。利上げに転じれば金利上昇もその株価下落に寄与しますし、日銀が買いだめした株式も放出される可能性があるからです。日銀は50兆円強を保有する最大の株主です。

 

そして今後資源価格の高止まりが続くと経常赤字が定着し、それでも政策転換のできないことを見越した円安が進行するでしょう。

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