ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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オレ様独裁者たちのたそがれ、再掲

2020年08月28日 | ニュース・コメント

  安倍首相が辞任の意向を固めたというニュースが、本日8月28日2時ころに流れました。健康問題が直接の原因であることはまちがいありません。一国の首相として仕事を全うすることがかなわないとの判断なのでしょう。お気の毒であると思うと同時に、さぞ無念のことと思います。ただ一方で私はコロナへの対応ミスなどによる支持率の低下も辞任決断に影響を与えているように思えます。

 

  6月11日に私は「オレ様独裁者たちのたそがれ」という記事を書いています。その中で私はコロナ感染の拡がりが、トランプ、プーチン、安倍首相の支持率低下につながっているという指摘をしています。

  今回はその記事の再掲です。

再掲

   トランプの支持率対不支持率の差が節目の10ポイントを越えました。支持42%対不支持55%とその差約13ポイントと大きく拡がったのです。私が見ている統計はいつものとおりReal Clear Politicsというアメリカのサイトで、全米をカバーする世論調査と、その2週間分の平均値が算出されています。これはトランプの差別的発言に対する反対運動が、単に人種問題のデモにとどまらず、反トランプ運動に変質しつつあることを示しています。ついでに大統領選挙での支持率も、およそトランプ40対バイデン50とかなりバイデンがリードを拡げています。

 

  死亡した黒人フロイド氏に対するトランプ大統領のツイッター攻撃内容があまりにひどく、さすがに岩盤支持にひび割れが生じてきたようです。それに加えて警官によるデモ参加者への突き飛ばし行為に対しても、トランプが余計なことをツイートし、墓穴を掘っています。

  ひび割れは岩盤支持層だけでなく、共和党内にも生じています。ブッシュ・ジュニア大統領時代に国務長官だった保守党の重鎮コリン・パウエル氏「トランプは嘘ばかりつき、憲法をないがしろにし、国を混乱に陥れている」と最大限の非難声明を出しました。またトランプ政権の元国防長官であったマティス氏も、「トランプは私が出会った大統領で初めて国を分断しようとした大統領だ。大統領は国をまとめるのが仕事なのに」と語っています。

  本当はトランプ当選からずっと苦々しく思っていた共和党員が全米のデモに乗じ、遂に耐えかねて本音を語り始めたのでしょう。今後は現役の共和党議員にも同様の動きが拡がる可能性があると私は見ています。つまり大統領選と同時に行われる下院・上院の選挙でトランプ支持を表明すると落選の憂き目に遭うので、トランプ支持の意思表示をしなくなる。そこまで行くと、一気に雪崩を打つ可能性すらありそうです。

 

  人種差別反対の動きはデモ隊や政治家などにとどまらず、セレブの間でも起こっていて、自分のツイッターなどを真っ黒にする「ブラックアウト・チューズデー」運動が起こりました。最初はアメリカの音楽業界の大企業がこぞって参加したのですが、その動きに同調したハイテク業界や、個人では歌手、俳優、スポーツ選手などが参加しています。アメリカで活躍する日本人選手でも、八村塁、大谷翔平、大阪なおみ、錦織圭、ダルビッシュなども参加し、みずからのツイッターなどのアカウントを真っ黒にしました。

 

  私は前回の投稿で、オレ様独裁者に率いられている国であればあるほど経済優先のためコロナ感染者は多くなる傾向があると指摘しました。オレ様たちはみんな「コロナなんて恐くない。インフルエンザと同じだ。マスクなんかするもんか」と同じ強がりを言っていて、その結果感染者数はオレ様独裁者のいない国が収まりつつあるのに、いぜん拡大しています。感染者数世界一のアメリカに、遂にボルソナロのブラジルが追い付いてきました。そしてロシアも追随してきています。

 

  どのオレ様たちも高い支持率を誇っていたのですが、コロナに負けたのかここにきて異変が起きています。トランプと限らずどのオレ様も支持率を落としていて、反政府デモが渦巻くようになっているのです。ロシアのように言論封殺がひどい国でも、反プーチンデモが起こっています。もちろんその矛先はコロナ制圧の失敗だけではなく、プーチンを終身皇帝ともいえる大統領にしようとするインチキな憲法改正にも向けられています。反ボルソナロのデモは最大都市サンパウロを中心に行われ、市長が大統領に反旗を翻し、市民がそれを支持しています。自分の地位安定のために経済を優先するボルソナロの姿勢に対し、命の危険を感じている市民が立ち上がっています。

 

 「オレ様独裁者たちが跋扈し始めた世界をコロナが変えた!」と言える日が近づいているのかもしれません。  

 

  ひるがえって日本はどうか。コロナ感染者数が少ないにもかかわらず、感染対策や経済支援の遅れ、黒川問題などから安倍政権がやはり大きくつまずいています。世論調査の支持率はおおむね3割台に下がり、調査によっては3割を切るところまで出てきました。5月26日の時事通信ニュースを引用します。

「毎日新聞の23日の調査によると、支持率は前回から13ポイント急落して27%。朝日新聞の23、24両日の調査は29%で、第2次安倍政権発足以来最低を記録した。安倍首相は25日の記者会見で「日々の支持率に一喜一憂することなく、与えられた使命に全力を尽くしていきたい」と述べるにとどめた。
 自民党の閣僚経験者は「黒川氏問題が響いた。想定外だ」とため息を漏らす。10万円の一律給付をめぐる迷走などが相次ぎ、党内からは「政権運営の歯車が狂いだしたのではないか」(ベテラン)との声も出ている。」

 

  ついに世界のオレ様独裁者たちにたそがれが来たと見ておくべきでしょう。

 

  

 

 

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不動産投資の判断はどうするのか

2020年08月27日 | 不動産投資

 猛暑が続きますね。毎日雨の7月、毎日猛暑の8月。これが9月まで続いたら耐えがたいですね。その中でコロナは依然収まらず、毎日自粛しながら過ごす日々はいつまで続くのでしょうか。

  さて今回は時事問題から離れます。7月29日の不動産価格の下落に警鐘を鳴らした記事の最後で、私は以下のように申し上げました。

「こうした日本の不動産投資ですが、実は金利は80年代の大バブル時代に比べてはるかに低いにもかかわらず投資行動は慎重で、無茶な投資はしていません。理由はオフィスビルにしろホテルにしろ、投資決定にはDCF(収益還元法)による価格評価方法を使っているからです。その裏には最初に申し上げた不動産投資にREITが参入したことがDCF評価を一般化させたことに貢献していたのです。 DCFは大変重要な投資の概念ですので、別途説明いたします。」

そして京おんなさんから

>更新が待ち遠しいです。

というコメントをいただきながら、そのままになってしまいすみません。今回はその説明をトライします。

 

  その前に不動産価格の最新状況が出ましたので、お知らせします。地価LOOKリポートというみなさんあまり聞きなれないかもしれない統計の数値です。

8月23日の日経ニュースから部分的に引用

新型コロナウイルスによる経済活動の停滞が地価を押し下げ始めた。国土交通省が21日発表した4月から7月にかけての主要都市100地区の動向を見ると、下落した地区数は前回調査(1~3月)の9倍超に急増した。小売店や飲食店の集まる繁華街が外出自粛や訪日客急減の影響を受けている。地価の上昇局面は転機を迎えたようだ。

地価LOOKリポートで銀座4丁目交差点を中心とする銀座中央地区の地価は横ばいから下落に転じた(東京・銀座)。

地価の変調を浮き彫りにしたのは国交省の「地価LOOKリポート」だ。全国の主要都市を対象に、駅前の商業地や駅周辺の住宅地など100地区の3カ月間の地価変動率を年4回公表する。

下落した地区は前回4地区だったが、今回は9倍超の38地区と全体の4割近くに達した。上昇した地区は前回の73から1に激減した。下落地区の数が上昇地区を上回るのは12年4~7月以来、8年ぶり。横ばいの地区も23から61に急増した。

引用終わり

 

  やはり地価は都市を中心に急激な下落に転じていましたね。今後の価格推移も大いに懸念されます。以前は年に一度の公示地価などの統計を見ていましたが、最近は四半期ごとにこの地価LOOKリポートが公表され、便利になりました。

 

  ではDCF(収益還元法)による価格評価方法の説明です。厳密な説明をするには面倒な数式を使う必要がありますのでそれは避け、なるべく平易に概念の説明をします。

  そもそもDCF収益還元法とはすべての投資にかかわる評価方法で、実は大本は債券計算に使われていた方法です。それを株式価格の評価や不動産価格の評価に応用しているのです。その説明にはどうしても「割引現在価値」という考え方を説明しなければなりません。ちょっと面倒ですが、分かりやすくを目指します。

  商売をされている人は「手形割引」をご存じだと思います。例えばある商品を作るメーカーが商品を100万円で問屋に卸したとします。ふつう取引は現金決済ではなく、例えば3か月後決済の約束手形、あるいは小切手で払われます。しかしメーカーは次の製品の原材料を仕入れる必要から、すぐに現金が欲しい。そこで手形を銀行に持っていきますと銀行は3か月の金利分を差し引いて現金をくれます。その割引率が銀行にしてみれば儲け分の金利です。一方メーカーにとってはその分銀行からローンを借りたのと同じ金利を取られます。

  割引率は通常年率で表されますが、それが4%だとしましょう。すると、面倒なので単利で行くと、3か月分はその4分の1なので1%です。メーカーは銀行に手形を持っていくと100万円から1%相当の金額を差し引かれ99万円もらえます。銀行はそれを3か月後まで保有しその後問屋と決済すれば100万円もらえます。

 

  これは多くのみなさんが投資している米国債のゼロクーポン債投資と同じ原理です。その金利が4%だとすれば、3か月後満期のゼロクーポン債の価格は99万円で、3か月後に100万円で償還されます。3か月後に100万円になる年利4%のゼロクーポン債の「割引現在価値」は99万円だということです。

  では投資するか否かはどう判断されるのでしょうか。上の例を10年債とすれば、10年後の償還時に100万円もらえる利回り4%のゼロクーポン債の複利計算による割引現在価値は675,564円です。その投資判断をする際、67.5万が妥当か否かということではなく、年利4%は投資に値するか否かで判断しますよね。つまり割引委率とは、実はリターンの率なのです。

  手形割引のケースでは、年利4%の3か月分を銀行は得ます。それが銀行にとって投資のリターンです。そしてメーカーにとっては借入金利と同じで、金利というコストを払って現金化しています。

 

   ではその応用で、不動産に投資する場合のことを考えます。不動産価格の妥当性は、バブル時代は将来それを売ったらナンボになるということだけを考えていました。3年後に2倍になるかもしれないから買いだという具合です。ですので土地の価値を計算するのに、その土地の産み出す収益は度外視していたのです。

  しかし現在はそうではありません。例えばREITがあるオフィスビルに投資するか否かの判断は、利回りで判断します。たとえば100億円のビルに投資し、毎年賃貸料を4億円もらえれば単純計算で利回りが4%です。だったら投資しよう、でも2%ならやめておこうという具合に利回りで判断します。私たちの米国債投資と同じような判断をしています。つまり将来得られる収益を考え、価格の妥当性を判断する。だとすると土地のようにそのままでは収益を生まない投資対象はどう判断するか。それはその土地に例えばオフィスビルを建て、それを貸し出すと得られる収益を想定し、投資額全体に対するリターンを計算します。

  土地ころがしでナンボ儲かりそうなどというおバカな投資判断は昔話です。将来の収益を割引率で現在価値に還元することで妥当な価格を導き出すのが、収益還元法という投資判断です。ここまで、原理はぼんやりとでもおわかりいただけましたでしょうか。

  これは株式投資も同じです。市場価格がある上場株であればすでに価格があるので高いか安いかの判断がつきやすいのですが、非上場企業をM&Aで買う場合は価格をどう決めるのでしょうか。今はほとんどのケースで、その企業が将来産み出すリターンを割引率で割り引いて現在価値を計算します。この場合リターンとは厳密には会社の産み出す純利益ですが、営業利益を使ったりもします。上場株への投資でも、市場価格の妥当性を収益還元法で判断したりします。DCFを使って自分の計算した想定価格を市場価格が下回っていれば投資しようとなりますし、上回っているとやめておこうとなります。

  では割引率はどう決めるのでしょうか。割引率とはリターンの率ですが、なんパーセントだと決まっているものではありません。自分は4%あれば満足という人もいれば、いや5%は欲しいという人もいるでしょう。M&Aなどでは、株式市場での業界平均的リターンを参考にしながら決めたりしますし、目標リターンを決めて交渉するような場合もあります。

  割引率と価格は反比例します。例えば将来の収益を5%で割り引くと、4%で割り引いた価格より現在価値は安くなります。

  それをゼロクーポン債で考えますと、最後に100万円で償還される10年物債券の現在価値は、利回りが4%であればさきほど675,564円であると示しました。では5%だとどうか。答えは613,913円で、4%のケースより安くなります。

 

  この計算、単純な四則演算ではできません。もしそれを計算してみたい方は、以下のサイトに行くと、数字を入れるだけで簡単に計算してくれます。

https://keisan.casio.jp/exec/system/1248923562

 

  ここではいくつかの種類の計算が可能です。例えば100万円を投資して、複利で10年運用するといくらになるかは、このページの右端にある「関連ライブラリー」の欄で、「複利元利合計」に行って計算して下さい。逆に満期時に100万円になる利率4%の割引現在価値はいくらかを計算したい場合、同じ右の欄の「現在価値の計算」に行くと、計算してくれます。

 

  ここまでの話を要約しますと、

「現在の投資理論で使われる最も大事な価格計算のモデルはDCF=収益還元法である。」

そしてその方法はもともと債券計算で使われていた方法で、その他の投資にもそれが応用されるようになった、ということです。

  

  以上、DCFの説明でしたが、実に面倒で理解に時間がかかりますよね。

参考にしてみてください。

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日本国の格下げ注意報発令

2020年08月22日 | 大丈夫か日本財政

  4-6月期のGDPが年率マイナス27.8%という結果に終わったと今週政府から発表がありました。衝撃の数字です。エコノミストたちのコンセンサス予想が▲23%でしたから、それをさらに5%近く下回りましたが、株価はあまり反応しませんでした。理由はたぶん、次の期のコンセンサス見通しがプラス13%程度だからだと思われます。しかしこれは取らぬ狸の皮算用の可能性があります。

  同時期のGDPの数字を国際的に比較してみますと、アメリカは▲33%、EUが▲40%、イギリスが▲20%という、やはりとんでもない結果です。しかし日本の場合、昨年10月の消費増税により、19年10-12月期▲7.1%、翌1-3月期▲2.2%とマイナスが続いていたところでの▲28%ですから、他国とはだいぶ意味合いが違うのです。不況入りの定義は2期連続のマイナスですので、日本はすでに不況入りしていた上での▲28%です。それが大きく悪影響を及ぼすのが悪化の一途をたどっている日本財政です。

 

  3月に終わった19年度の財政の当初の歳出規模は103兆円で、税収見込みは63兆円でしたが、実際には歳入は58兆円に終わっています。コロナ前でも消費増税が税収増に結び付かず、むしろマイナスになっていたのです。ということは、今年度は経済規模が大きく縮小するため、税収はさらに減少し悲惨なことになりそうです。4-6月期のマイナス成長の最大要因は消費の低迷ですが、今後コロナの状況が劇的に好転することなど見込めないため消費の低迷は続き、それは消費税収をさらに落ち込ませます。企業も先行きの見通しが立たず、4-6月期の上場企業の純利益は▲15%とかなりのマイナスになっていて、それが今後法人税収入を落ち込ませます。一方の政府の支出もコロナ対策への支出がどこで終わるかも知れず、財政収支の見通しは立たない状態です。

  ではコロナ対策の全体規模を見ておきましょう。第2次補正予算成立後5月28日の第一生命研究所のレポートから引用します。

引用

  政府は5月 27 日に 2020 年度の第二次補正予算案を閣議決定。事業規模は 233.9 兆円と打ち出されて いるが、この数字には過去のコロナ対策予算や昨年 12 月の経済対策の一部、直接支出の伴わない 融資が計上されている点には注意が必要。今回の補正予算において、特別会計や地方歳出分も勘案した真水額は約 33.1 兆円。過去3度のコロナ対策と合わせた真水は計 61.6 兆円程度になる。

引用終わり

  いつもながら、謳い文句の事業規模234兆円に対し真水はわずか62兆円、何たる大本営発表でしょう。まあこうしたことは政府の常とう手段ですから、責めても意味はありません。しかしこの62兆円は当然赤字を積み上げることになります。19年の日本の名目GDPは557兆円ですから、今回の真水対策費だけでGDPの11%に相当します。

  財務省の発表している累積債務のGDP比率は昨年12月末で238%ですから、それに11%が加わると249%に達します。ちなみに同じ資料で同時点のアメリカの累積債務のGDP比は108%で、優等生のドイツはわずか56%でした。

  現状がこれだけ厳しく、財政の累積赤字がどれだけ積もっても、「日本財政はいままでが大丈夫だったので、これからも大丈夫」という論者が多いことは事実です。国内の議論はそうした根拠のない神学論争が通じても、世界はそうはいきません。あまりニュースにはならなかったのでみなさんにお知らせしますが、債券市場を見ているプロはもう一つ大事な観点を持っています。それは日本のソブリン格付けです。

 

  7月28日、格付け会社フィッチ・レーティングスは日本国債の格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更しました。フィッチ・レーティングスを知る人は多くないかもしれませんが、ムーディーズ、S&Pと並んで世界の3大格付け会社の一つとして投資家が信頼を置いている会社です。ネガティブへの見通し変更はダウングレードではありませんが、先行きは怪しくダウングレードの可能性ありというウォーニングです。

  では現在の日本国債の格付けを他国と比較してみましょう。3大格付け機関の格付けを並べてみます。

                                                                                           

     ムーディーズ   S&P     フィッチ      対GDP累積債務、財務省資料

日本     A2     A+    A(ネガティブ)       237%

アメリカ  Aaa              AA+             AAA(ネガティブ)            108%

イギリス       Aa2               AA               AA-(ネガティブ)              85%

ドイツ           Aaa             AAA              AAA                           56%

フランス        Aa2              AA                  AA                            99%

中国      A1      A+      A+                            N.A.

 

  フィッチによる発表に果たして債券相場が反応し、金利が上昇したかと申しますと、ほとんど無風でした。以前から申し上げているように、金利という日本経済のバロメータの一つである体温計は7年前日銀総裁に就任したクロちゃんにより破壊されてしまったので、意味をなさなくなりました。

  一方血圧計である株式相場は大きな上下動を繰り返しているのですが、これも日銀の介入によりメーターが下がり過ぎないようクロちゃんが相場操縦しているため、本来の役割を果たせていません。

  ウソにウソを積み重ねる安倍政権の体質は黒塗りの資料に現れるだけでなく、こうしたところにも表れているのを忘れないようにしましょう。

  ひと月前に私は「コロナ感染の抑制と経済の両立は無理」という記事を書きました。それ以来コロナは実に順調に感染者数を増やしています(笑)。中国はコロナの封じ込めにあっという間に成功していますが、その裏には圧倒的力を持ってした経済封鎖にありました。短時間で封じ込めることは大変な痛みを伴いますが、長期的には大きなプラスとして経済にはねかえるのです。

  政府はヤメロの大合唱にもめげずGo To キャンペーンを実行に移し、東京を除外したのですが地方における感染者の拡大にしっかりと貢献しています。感染者数が拡大する中では、みんなが安心できないのでキャンペーンの効果は限定的です。我々国民はみんながみんな政府に踊らされるほどバカじゃないことをしっかり証明しています。まずは感染者の抑え込みをする。それ以外に経済再生の道はないと思います。

  では政府は無策でよいのか?そんなことはありません。経済支援はやらざるをえず、財政赤字は増やさざるを得ない。矛盾するようですが、私が今回の投稿で言いたいのは、これまで、

『大きな累積債務という既往症をそのままに放置し続けた日本は、コロナで死期を早めようとしている』

ということです。

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フィルハーモニーで聴いた皇帝カラヤン

2020年08月12日 | クラシック音楽

  たまちさん、お待たせしました。

  ドイツ時代の夢のコンサート、その2。フィルハーモニーで聴いた皇帝カラヤンをお届けします。

 

  まずはたまちさんのコメント投稿にそって、私からの回答とコメントをさせていただきます。

 

>アウトバーンで600キロ、これって時速200キロほど出せば3時間ちょっとだったりするんですよね。

スピードは無制限だったので、可能は可能ですが、私の中古車では190㎞が限界でしたし、そのまま長時間のドライブをしたら、壊れます(笑)。直線の多いアウトバーンでも、180kmを超えると視野は狭くなり、手には汗、心臓が口から飛び出そうなくらい緊張します。

>当時のアウディってもしかして名車アウディ100でしょうか。

そうです。でも「名車」と言われていた、というのは初めて聞きました。70年代の日本ではドイツ車といえはベンツとBMW。アウディは知る人ぞ知る。ドイツではベンツはお迎え車ではなく、高給取りが乗って飛ばす車。BMWは中給取りが乗って飛ばす車。アウディは若者が中古を買って飛ばす車でした(笑)。そしてポルシェは、超金持ちの年配者で飛ばしたい人が乗る車でした。

>ドイツはまだ壁崩壊の前、フィルハーモニーは連合国管理下のベルリンでしたが、東ではなく西側ですね。

そうですね。東ドイツの真ん中の飛び地でしたね。

>カラヤンの黄金期として今も語り草になっていて、ベルリンの公共放送ラジオはいまも本当によく当時の演奏をオンエアーしています。

そうですか、いまでも聞けるのはいいですね。

  彼は超のつくオーディオマニアですから、ソニーの開発したPCM録音を最初に使い、いい音を後世に残すことに一生懸命だったので、我々は今でも楽しめるんですね。ちなみに彼の愛車はBMWの特別仕様「アルピナ」でした。きっとスピード狂間違いなし。それともう一台、愛機プライベートジェットで駆け回っていました。

>バンベルクもいいですね。重厚で朴訥なドイツ流の音を響かせる名門オケは、ベルリンフィルに負けない良さがあります。当時の指揮者はヨッフムでしょうか。

はい、オイゲン・ヨッフムでした。バンベルクをご存知の方は、かなりのマニアです。人口わずか7万人の小さな町ですが、バンベルク交響楽団がその名を轟かせる役割を果たしています。奇跡的に戦災を免れた古い町並みに大きな教会があります。年に一度着飾った人々がやってくるクリスマスの荘厳さは忘れ得ぬ体験です。その中で市民向けの無料コンサートが行われ、それに招待されるという幸運を得ました。コンサートホールとは全く違う響きを聞かせてくれる教会コンサートには、本当に心が揺さぶられました。

>ザルツブルク、聴衆の着飾りのほど、私も冬シーズンでしたが80年代の祝祭大劇場を経験しています。最低でも燕尾服、むしろ現地の人たちはチロリアンを取り込んだ民族服で着飾って音楽を楽しみに来ていたのにとても驚きました(背広姿では本当にいたたまれなくなります)。

そうでしたね、たまちさんのおかげでチロル風の民族衣装も思い出しました。あの地方の人々は晴れの日には民族衣装を着てチロリアンハットをかぶって出てきますね。

>夢のような70年代の音楽三昧の話、

 

 もう一つ、追加します。

  ドイツに赴任した時、ザルツブルグと並んでどうしても聴きに行きたかったのが、ベルリンフィルのホームであるベルリンのフィルハーモニーでカラヤンを聴くことでした。名前がちょっと紛らわしいのでみなさんに説明しますが、いわゆる管弦楽団のベルリンフィルはドイツではベルリーナー・フィルハーモニカーと言います。そしてコンサートホールは、ベルリーナー・フィルハーモニーなのです。

  そのホールはかなり変わっていて5角形です。客席は真ん中の舞台を5角形で囲むすり鉢型です。ということは、楽団の裏にも客席があります。77年当時もカラヤンが指揮する定期公演のコンサート・チケットはプラチナ・チケットで、手に入れるのは至難の業でした。

  それを手に入れてくれたのは当時のJALのベルリン駐在員のNさんでした。実はJALは楽団や楽器輸送では世界に名の知れたエアラインで、楽器専用のコンテナを独自に開発して評判を得ていました。ベルリンフィルがカラヤンと日本で公演をするとなると、窓口は地元のNさんでした。このNさんは、誰もが驚くクラシックマニアで、日本の家の居間の床がレコードの重さで抜け落ちたという逸話の持ち主です。

  ベルリンに来る日本の音楽家は誰もがNさんの世話になるので、ちょっとした顔役。ベルリンフィルの指揮をした指揮者で言えば、岩城宏之氏や小澤征爾氏です。Nさんがコンサート前日に私を連れて行ってくれたのは当時のベルリンで唯一の日本食を食べさせるレストラン、「京都」でした。彼が言うには、「今日は小沢さんがベルリンに来ているから、きっとここに来るよ」。食べ始めて間もなく、彼の予言どおり小沢征爾氏がぶらりと入ってきて、いきなり我々の席にジョイン。

  彼らは「よー、元気だった?」と言う調子で杯を酌み交わし始めました。Nさんは私をフランクフルトの支店からベルリンフィルを聴きに来た若い社員ですと紹介してくれました。私は「成城学園出身で、小沢さんの後輩です」といっただけ。小澤氏は私同様中高だけ成城学園にいました。その縁で毎年学園の大ホールで、生徒を前にリハーサル練習をしてくれました。驚いたのは彼のオシャレでした。休憩時間が何度かあったのですが、そのたびに彼は着替えをして出てくるのです。女の子達はそのたびにキャーキャ言っていました。

  その後の二人の会話はとにかくクロウトの音楽談義で、とてもついていけるようなシロモノではありませんでした。ただその中でよく覚えているのはNさんが言った、「小沢さんが振る時のベルリンフィルはコントラバスを8本のフル編成でくるけど、ちょっと落ちる人だと6本がいいところですよ。ベルリンフィルなのに満席にならないしね」というような調子です。当時フィルハーモニーを満席にできるのはカラヤンと小沢だけで、ベームでも空席が出る、と言われていました。

 

  さて、コンサートではカラヤンが出てくるとホールの空気が一変し、ピーンと張りつめました。楽団員の顔が硬直し赤くなっている様子までわかるほどです。しかしカラヤン自身は他の指揮者と全く違い、指揮の最中に体や頭を大きくは動かさず、派手で大げさな動作は全くありませんでした。私の座席はほぼ正面の20列目くらい。オーケストラ全体の音を把握するにはほどよいポジションです。しかし私は休憩の後に冒険をしてみたくなりました。舞台の裏側の席から、指揮を執るカラヤンの顔を見てみたかったのです。休憩の前に1席だけ空いているのを見つけてあそこに行こうと心に決め、休憩時間に実際に席を移ってしまったのです。うまい具合に誰も来ず、そのまま座り続けることができました。

  顔を見に行って驚いたのはカラヤンの表情で、彼は最初の音出しをすると、あとはほとんど目を開かなかったのです。普通指揮者は指揮棒とともに目配せや身振り手振り指示しながらオーケストラをまとめ上げますが、腕や体を大きく動かすことはなく、驚いたことに8割方目をつぶったまま指揮をしていたのです。もちろんその裏には日常的に厳しい練習があり、本番はオーケストラに任せられるという彼の自信を表すものなのかもしれません。

  Nさんのお話では、ベルリンフィルの団員は団員であることに非常に誇りを持っていて、特に指揮者がカラヤンの時の緊張感と集中力は並々ならないものがある。逆にカラヤンでないと若干なめてかかるのだとも言っていました。それがきっと本番での会場の緊張感にも表れるのでしょう。

 

  私はカラヤン好きで、多くのCDを持っているのですが、彼のどこが好きかと申しますと、「音楽の完璧な美さ」です。音楽そのものは比較的オーソドックスで、エキセントリックだったり目立つ山場を作ったりするところはありません。しかし完璧さを備えた美しさを持っているのです。世界の多くの人が彼の音楽の美しさを認めた証拠があります。それはカラヤンの指揮した交響曲の「アダージョ」だけを集めたCDの大ヒットです。

  彼は自分の作り上げる演奏の美しさに酔うようなところがあり、演奏中に何度か涙を流していたというエピソードが残っています。交響曲のいくつかの楽章の中のでは、とりわけアダージョ部分に特徴があります。彼の死後多くの楽曲の録音からアダージョ部分だけを寄せ集めたベストアルバムが作られ、それが世界的ヒットになったのです。CDをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。アダージョとはイタリア語で「くつろぐ」、音楽用語では「ゆっくりと弾け」です。カラヤンの神髄は美しく静かなアダージョにあるように思えます。

 

  ポピュラー・ミュージックであれば、100万枚売ったとか200万枚だとか、中には1,000万枚の大ヒットが出ることがありますが、彼の「アダージョ」のアルバムはクラシックにもかかわらず累計5,000万枚と言われています。最初は1枚のアダージョが発売されたのですが、そのヒットに気をよくしたレコード会社が、バージョンを変えて1、2、3、・・・ ベストと続々と出し続け、遂に5,000万枚にまで達してしまったのです。クラシックで5,000万枚は空前絶後でしょう。それこそが、世界が認めた彼の音楽の美しさの証明だと私には思えるのです。ちなみに彼のアルバム総数は900、総販売枚数は1億枚と言われています。

  アダージョのCDのジャケットはカラヤンファンなら喜ぶに違いない、彼のベスト・ポートレートで、静かなアダージョにふさわしい品格を備えた横顔が写っています。アダージョが気になった方は1枚買い求めて聴いてみてください。すでに中古ばかりなので、とても安く買えますよ。カラヤンの音楽の美しさに、コロナなんかきっと忘れることができます。

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個人相談の感想を書かれた、相談体験者さんへ

2020年08月10日 | 個人相談の内容と感想

  ご自身の感想をコメント欄へ投稿いただき、ありがとうございました。ハンドルネームがとても長いため、失礼ながら勝手にSさんとさせていただきます。8月3日にいただいていたのですが、時間がたってしまったことお詫びいたします。

  ではまず投稿内容をそのまま本文で引用させていただきます。

引用

面談の体験談を記載します。
林先生を始め投資の書籍等はそれなりに読んでいましたが、「投資」は複雑でリスクが伴う行為のため、自分での勉強には限界があると思い(自分の思い込みが危険だと思い)、実際に専門家に相談しようと思ったのがきっかけです。私は35歳ですが、投資は早いうちから考え、実行するのが肝要だと思っているので、このタイミングで受けることにしました。
面談に進む前に事前に、現在の自分の資産や将来の収支のシミュレーションをした紙を林先生に提出します。この過程がとても大事だと思いました。特に将来(定年後含む)の収支を実際に計算したことは今まではなく、今後の自分の資産を客観的に知ることができました。定年してからいくらお金が必要なのか・・・・知りたくない気もしますが、今から向き合った方が良いと思います。
その後、6月下旬にリアルで面談をしました。なお、新型コロナの影響でオンラインでの面談もご提案いただきましたが、緊急事態宣言の影響で当時は感染者数も減っていたため(今はまた増えていますが)、リアルとしました。面談は、事前にこちらからの質問を出していたので、そちらに沿って進みました。実際にお話しをすることで、自分ひとりで勉強していた時の「ちょっとした勘違い」に気づくことができました。投資は気軽にできますが、専門分野だと思いますので、第三者の目が必要だと痛感しました。また、今後の大きな投資方針を確認できたことが大きかったです。3万円は私にとって安くない金額でしたが、結果には満足しています。

引用終わり

  Sさんは35歳と言う年齢にもかかわらず、投資に関して様々な勉強をされていたので、それがまず最初の驚きです。私に個人相談をされた方の中でもっとも若い方でした。

 Sさんの相談のきっかけは、

>「投資」は複雑でリスクが伴う行為のため、自分での勉強には限界があると思い(自分の思い込みが危険だと思い)、実際に専門家に相談しようと思ったのがきっかけです。

  たしかにそうですね。様々な本などで勉強しても、すぐにすべてを理解できるとは限りません。ご自分でわからない点を著者に聞くわけにもいきません。

  私は決まっていた著書の出版が、編集者との意見の相違により流れてしまったためにブログを書き始めたのですが、すぐに別の出版社が決まったため、ブログでは出版と言う印刷物のフォローアップをしようと目的を変更しました。印刷物は一方通行ですし、改訂版が出せるとは限りません。内容に疑問を感じた方が問い合わせできるほうが親切だと思った次第です。

  ではSさんの感想に関してです。

>私は35歳ですが、投資は早いうちから考え、実行するのが肝要だと思っているので、このタイミングで受けることにしました。

 若いうちにご自分の将来を考えることの大切さに気付かれて相談をされましたね。とてもよいことだと思います。特に人生が長くなればなるほど、若い時からの準備がものを言います。

  みなさんは2016年に出版された「LIFE SHIFT」、副題「100年時代の人生戦略」という本をご存知でしょうか。うちの家内が読んでいたものを私も読んでみました。ロンドン・ビジネススクールの2人の教授が書いている本で、これまでの人生70年くらいから100年にもなったことで、いったいどんな準備をすべきか、長い人生のプランニングをこうすべしと、読者の年齢別にヒントをくれる本です。

  これまでであれば、人生のステージは3つでした。教育、仕事、引退です。それが100年時代には根本的に異なってくる。どうしたら100年の人生を有意義に過ごせるか。内容中経済的な部分はむしろ少な目で、おカネに換算できない大事な資産こそ大切だということを説いています。みなさんにもおすすめできる本です。東洋経済から出ていて、大部だし1,800円とちょっと高いですが、読む価値はあります。

  私はその本に自分のブログのタイトルである「ストレスフリーの資産運用」の趣旨と重なる部分を見出しました。私の「個人相談」の大事なポイントは、単なる資産運用に絞ったものではなく、どうしたら安心できる一生を送れるか。そのためには何を把握しておくべきかに重点を置いています。

  相談内容について、Sさんはこう書かれています。

>面談に進む前に事前に、現在の自分の資産や将来の収支のシミュレーションをした紙を林先生に提出します。この過程がとても大事だと思いました。特に将来(定年後含む)の収支を実際に計算したことは今まではなく、今後の自分の資産を客観的に知ることができました。定年してからいくらお金が必要なのか・・・・知りたくない気もしますが、今から向き合った方が良いと思います。

  「個人相談」は直接面談する2時間ほどの相談だけではありません。その前にメールで何度もやり取りを行います。特にこの将来の収支のシミュレーションの大切さをSさんはよく理解してくださいました。それが将来の安心感につながることを学ばれたのだと思います。人生100年時代と言われますが、みなさんはそれに対する準備ができていますでしょうか。Sさんは相談され、その結果に満足したとのこと、私もその言葉により安心いたしました。

  Sさん、あらためて感想の投稿、ありがとうございました。

  資産がないから相談してもしょうがないではなく、若い方であればあるほど「将来はご自分次第でいくらでも変えられます。」ので、どうぞ思い切って相談してみてください。

  個人相談のプロモーションでした。

 

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