ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカ国債の安全性

2024年05月19日 | アメリカ国債の安全性

 コメント欄にいただいた「機関投資家の端くれさん」のご質問に、同じくコメント欄で回答を差し上げましたが、別の方からももう少し説明が欲しいとの要望をいただきましたので、今回は本文にアップすることにしました。

 ご指摘が比較的短期の財政事情によるものでしたので、私からはみなさんの投資期間を考え、長期的視野に立つべきだという観点から以下の説明を差し上げました。数値の説明はアメリカ単独より、日本との比較で比べないと分かりづらいので、日本との比較をしています。

再掲
1. GDP対比での債務比率
30年前の日本は40%程度でそれが現在は252%とその間に6倍になっています。アメリカは同じく40%でしたが、現在は122%で約3倍です。

 何故GDPとの対比が重要かといいますと、GDPの大きさは税収に直結するからです。法人税も個人の所得税・消費税もGDPが増えることが返済力の増加に直結します。

2. 今後の成長力について潜在成長力は日本の0.5%程度に対してアメリカは1.8%程度と推定されているため、将来の債務返済能力も大きな差が出る。人口の減少している日本と増加しているアメリカの差は拡大する一方となる。かつ技術革新力も大きな差がある。

3. 安全性指標として、食糧とエネルギーの自給できるアメリカに対し、日本は両者とも自給できない。また防衛力の差は言うまでもない。

4. 格付け会社の見立て
彼らは1の債務比率や返済能力、2の潜在成長力などを総合して今後を見通しています。
アメリカ AA+
日本   A+
G7で日本より低いのはBBBのイタリアのみ。

 ということで、将来を展望すると日米の差は拡大の一方だと言えます。
大統領がトランプになるかバイデンになるかによる差についてはどっちもどっちで、両者とも有権者にいい顔をしたいので、大きな差はないように思えます。
以上が私の考え方です。

  コメント欄では以上の説明をしています。さらに以下の補足をします。

 

 今後を見通すにあたって重要なのは、なんと言っても経済成長の力です。日本が不動産投資と株式投資でバブルに酔いしれそれが破綻したのち、90年代前半からアメリカではIT時代が幕開けし、その恩恵を世界中が享受するほどになりました。

 もちろん株式相場に限るとアメリカもITバブルが起り、それが2001年にはいったん崩壊したのですが、ITの技術力はむしろその後のほうが著しく発展しています。そのため株価も収益力を伴って上昇しました。

 この傾向は今後AIの開発によりさらに加速されることが見込まれます。かたや日本はAI向け半導体の製造分野だけは健闘していますが、残念ながら最先端のAIソフトとその利用の競争からは取り残されています。

 これをみていると私はかつて半導体というハードで世界をリードしながら、ソフトの分野では何も生み出せなかった頃を思い出し、「またか」と思ってしまうのです。

 

 日米差はもちろん株式相場の比較でも表れています。

4月18日に4万ドルを超えたアメリカの株価に関して、本日5月19日の日経新聞は大きく取り上げています。

見出し;革新・代謝が4万ドルの源泉

小見出し;NY株、15年で6倍超上昇

     時価総額、世界の半分

 

 15年間と言うのはリーマンショック後に付けたダウの安値6,547ドルから現在までの期間です。では現在の株価が割高であるか否かを、株価収益率で見てみましょう。株価収益率とは、1株当たりの収益と株価の比較です。NY株価の現在の倍率は21倍。日本のバブルのピーク時は60倍でした。その株価が正当化されるには、日本のバブルのケースでは60年もかかり、アメリカ株では21年かかるという単純計算もできます。

 アメリカ株の長期的平均PER倍率は17倍前後。20倍以上になると割高、15倍以下は割安の目途と言われます。それによると若干割高感はありますが、日本株のバブル時代とは比べものになりません。

 しかし個別株で見るといわゆるマグニフィセント7銘柄はすべて20倍以上。特にテスラの80倍、エヌビディアやマイクロソフトの35倍はかなり割高と言える水準ですが、投資家はいずれ収益力が追い付いてくるとみているのでしょう。

 私はテスラについては、疑問を感じています。EVでは中国のBYDなどが技術力で追い付いてきているし、最近はアメリカ市場でもハイブリッド車が見直されてきているからです。PER80倍を正当化する技術の発展が今後見込めるとは思えないのです。

 

 日米の政府債務の話から、経済成長力の話に展開してしまいましたが、債務の返済力はしょせん経済成長によるということをみなさんも心に留めておいてください。

 

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おっちょこちょいのななしさんの疑問「米国債一辺倒で大丈夫か」への回答

2023年04月20日 | アメリカ国債の安全性

今回のななしさんからの素朴なそして正直な疑問は、私のような専門知識を持つ人間が一番思いつかない疑問です。それをぶつけていただくのはたいへんありがたいので、大歓迎です。

>林様ブログが始まって私の記憶では10数年以上。

そうですね。ブログは2011年あの大震災の直後からの開始です。理由はすでに書きましたが、大手出版社の愚かな編集長が、「アメリカなんてリスクがいっぱで危険だ。その部分を削除しろ」と言ったのに対して反発し、「出版はしない」と啖呵を切って、その代わりにブログを始めました。

ではまず米国債についての疑問から。

>ななしは「卵を一つの籠に盛るな」のことわざは林様お薦めの米国債トレジャリーゼロ運用に関しては例外と考えてました。

もちろん例外です。理由を説明します。

「卵を一つの籠に盛るな」という相場の格言は、そのとおりだと思います。ただしこれはそもそも「危ない株式投資への格言」です。一つの銘柄に集中すると、それがこけると全資産を失うので、分散しろということですね。

では米国債はどうか?

私は常々「米国債は世界で一番安全な金融資産だ」、そして「世界のプロの誰もが認めるリスクフリー資産だ」とも言い続けてきました。それに対する反論は最初の著書の出版以来、一度も誰からも聞いたことがありません。反論のしようがないからです。いや待て、あの編集長を除く!

アメリカ発の世界的大暴落、08年の金融危機の時でさえも、世界で唯一買われた金融資産は米国債でした。

よく考えてみましょう。

世界で一番安全な資産の他に分散投資するということは、理論的にはそれより危険な資産に投資するということになります。分散自体が「リスクを取る」ことになってしまい、一つの籠の理論と矛盾します。

つまり米国債だけは「一つの籠に盛るな」の例外なのです。

むしろ逆に、「株などの金融資産に投資するなら、一緒に米国債にも分散投資して、安全を確保しろ」ということです。

 

ななしさん、次の疑問。

>その頃はデジタル通貨なんて聞いたことも無かったけど、近頃ではIMFが国際CBDCを発表した話や、基軸通貨である米国債離れが地味に進んでる話がネットから耳に入り・・
数年前は「暗号資産?ビットコイン?ふーん」ってな感じでしたが今回ばかりは・・

これまでのように米ドルは基軸通貨であり続けられる?っておっちょこちょいな不安も出てきました。

中央銀行によるデジタル通貨CBDCについてですが、私はビットコインが出てきたころそれらをまとめて「単なるバクチのサイコロの一つだ」とバカにして、「もし中央銀行がデジタル通貨を発行したら、とてもかなわないだろう」とも言っていました。

 

それが今後本格的に導入されると、どうなるか?

各国通貨建てのデジタル通貨により利便性は高まり、紙の貨幣や金属コインは、少しずつ流通量が減るかもしれません。そしてもちろん仮想通貨の盟主であるビットコインは価値を減らすに違いない。1デジタルドル=1ドルであれば、価値がドルでは上下しなくなるからです。

しかしその導入で円やドルの通貨価値自体は影響を受けませんよね。

円に信頼を置いている人は円貨を保有すればよいし、ドルに信頼を置いている人もしかり。それが現金であろうが預金であろうがデジタルであろうが関係ないと思います。

そしてデジタル通貨により「基軸通貨」であるドルが影響されるとも思いません。全く別の議論です。デジタルドルができれば利便性は高まるし、トレース可能なためマネーローンダリングもできなくなります。

ではドル以外の通貨で基軸通貨になりえる通貨があるでしょうか。中国は一時それを目指しましたが、最近はそんなだいそれたことを広言しなくなりました。ユーロも発足当初は基軸通貨の可能性を指摘するむきもありましたが、やはりしぼんでいます。

逆に中南米などで自国通貨を信用しない人々は、自国政府が台湾と国交を断絶し、中国へなびいてしまっても、国民が資産逃避する先は中国の元ではなく100%米ドルです。元など保有したところで突然中国政府が「元は中国以外では使わせない」と言えばそれまで。専制国家の通貨など、問題外です。

 

もう一つ議論を追加します。それは「もし米国債が本当にデフォルトする、あるいはしそうだ、という状況になると、世界の金融市場はどうなるでしょう」、という議論です。

まずは米国債自体の暴落もあるでしょうが、次の瞬間世界中の株やその他債券の超大暴落が起ります。日本でも銀行や生保は米国債の大口投資家ですから、その銀行・生保の株式は大暴落します。それに日本政府・財務省は米国債の世界最大の投資家ですから、日本国債も一蓮托生です。そして円も暴落を始めます。円の暴落はイコールドルの暴騰です。一緒に暴落などできません(笑)。

その超大暴落の最中に何が起るか。まずはゴールドが買われ、そして逆説的ですが、結局は米国債への逃避でしょう。

しかし米国債のデフォルトの原因は、政争以外にはたしてあるでしょうか。私はその他のメカニズムは思い当たりません。

政争が原因の場合何度か書きましたが、ボクシングで言う「スリップダウン」で、それはノーカウントです。米国債の暴落が始まれば、政争はすぐ吹き飛んで、合意に達するに違いない。何故ならアメリカ議会の政治家はみな資産家であり、金融市場が崩壊すると自分自身が困るからです。すぐに何事もなかったようになるに違いないのです。

ということで、ななしさんの疑問に回答したつもりですが、いかがでしょうか。

コメント (4)
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アメリカの財政赤字問題

2021年02月08日 | アメリカ国債の安全性

  アメリカでも日本でもコロナ対策として大規模な財政支出が予定されています。いまだに最終化はされていないのですが、財政問題を考える上では多めに見ておく方が安全です。例えばアメリカのバイデン政権の打ち出している1.9兆ドル、およそ200兆円を3年間で支出する案ですが、2月3日に下院で採決の結果承認されました。それに対して共和党は約3分の1の60兆円で対案を示しています。

  バイデン案が上院に送られた場合、可否同数となる可能性がありますが、カマラ・ハリス副大統領兼上院議長の1票が効き、バイデン案可決の可能性が強まりました。そのためNYの株式相場は再び最高値圏に押し上げられています。

 

  200兆円にものぼる支出のためには当然政府の債務が大きく増えることになります。それが果たしてアメリカの財政にどの程度のインパクトを与えるのかを見ていきましょう。

  政府債務の規模を計る指標でもっとも重要なのは、その国のGDPに対してどのくらいの比率になるかです。何故GDPと比較するのでしょう。それは返済能力を推し量るためです。GDPの中で最も多きい比率を持つのは個人消費です。アメリカではGDP全体の約7割を占めます。消費をすれば国あるいは地方自治体に消費税が入ります。それが債務の返済原資になるので大事なのですが、もちろんそればかりでなく個人の所得税や法人税などもおよそGDPに比例して政府に入ってくるので、GDPの大きさ、そして将来を見据えるとGDP成長率が重要になってくるのです。

 

  アメリカは日本ほどでないにしろすでに巨額の政府債務を抱えています。そこに200兆円が加わると、どれほどのインパクトになるのかを数字で見てみましょう。まず単純にアメリカのGDPは2020年に20兆8070億ドルですが、100円換算で2081兆円とします。それと3年間の対策費200兆円を比べれば約10%相当です。

  公平を期すためにIMFの公表数値を採用します。以下の数値は200兆円を織り込んで、IMFが今年1月にアップデートした債務比率の推定値です。アメリカ以外も参考のため付けます。日本は第3次補正予算も込みにしています。その総額は73兆円と言われていますが、実際に政府の支出は半分程度と、いつものとおり話半分です(笑)。

 

債務の対GDP比率推定値

アメリカ     128%

日本       258%

欧州        98%

世界全体平均    98%

 

  この数字を見るとアメリカの巨大追加予算など、日本に比べれば実はたいしたことがないように見えます。欧州はEUの盟主であるドイツが財政赤字を徹底的に嫌うため、他の国々が債務を累積させていても、平均値は低めに抑えられています。発展途上国が多い世界全体の平均も低めですが、それは借金する力がないことの反映でもあります。途上国は通貨が弱い国が多く、自国通貨建ての借入は高い金利を払わざるを得ず、ドルなどでの借り入れは返済に窮する可能性が強いので、どちらにしろ抑制的にならざるを得ません。

  結局経常黒字国であり国内に行き場を失った資金が溢れる日本と、経常赤字ですが基軸通貨ドルを有するアメリカの2か国が、返済に窮する可能性が低いためいい気になって借り入れを増やしているという図式になっています。

 

  ではこの先を考えるとどちらがより安全か。もちろん返済の源であるGDP成長力の高いアメリカがより安全であることは間違いありません。

  では返済能力の源であるGDP成長力もついでに見ておきましょう。直近10年間の成長率と、異常な年であった昨年と、今年の予想を3つ並べてみます。20年、21年はいずれもIMFの発表値です。                                            

         19年までの10年間   20年   21年

アメリカGDP     +34%      ▲3.4%  +5.1%

日本GDP         +5%         ▲5.1%  +3.1%

                                                  

  アメリカがこの10年で34%成長したのに対して、日本はたったの5%と、ほとんど成長していません。情けない限りですが、これが現実です。先ほども申し上げましたが、GDPは税収の源ですので、成長率が高まらないと対GDP債務比率は低下しませんので、返済に窮する確率は高くなります。格付会社などの評価は成長力を大きな要素と見ています。

 

  さて最後に、アメリカの今後を定性的に外観します。バイデン政権は新財務長官にFRB議長を経験したイエレン氏を任命しました。最後までトランプのいいなりであったムニューチン前長官とは大違いで、金融の世界のすべてを知り尽くしている人材です。現FRB議長のパウエル氏はトランプの指名ではありますが、トランプの言いなりにはならなかった気骨ある人物で、2人ともお互いの手の内も理解している信頼のおける人材です。そのコンビは世界の有力エコノミスト達を安心させています。FRBは今後も米国債の長期国債の買い入れを続けると同時に、短期金利をゼロ近辺に継続的に誘導すると思われます。先日申しあげたとおり、FRBの金利引き上げは23年までなしと想定されていますが、私はそこまで長く続けるとは思っていません。最近の10年物金利は1.1%を超えていますが、それを無理に下げることはしていません。

 

   さてここまでアメリカの財政事情を日本と比較しながら、見てきました。GDP対比で見た日本の債務の異常さ、また国債の返済能力の裏付けとなるGDP成長率の大きな差を見てきました。どちら場安全かは、一目瞭然です。 

   次回は日本についてもう少し深く見ることにします。

 

 

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アメリカの安全性について

2019年02月01日 | アメリカ国債の安全性

 珍しいことが起こりました。スキーから帰ってきてブログをチェックしたところ、26日にアップしたはずのこの記事がアップされていないことに気づきました。「しばしお待ちを」と言ったまま、2月になってしまい、申しわけありません。では早速。


  ブログ読者のお二人からアメリカ国債の安全性に関して、同じ様な質問がありました。他の方々も関心が高いと思われますので、本文にて回答させていただきます。

  まず山男さんからいただいた質問です。回答はすでにコメント欄にアップしましたが、追加の質問もありましたので追加質問への回答を含めここで再度アップすることにします。

 最初の質問と私の回答です。

 >アメリカの債務残高に関わらず、フライ・トゥ・クオリティは続くのでしょうか?

他に逃げ込むアセットはありませんので、続きます。それともどこかに代替候補はありますでしょうか。

>次に、FRBは日銀と違い規律ある金融政策運営を行うと思いますので、日本とは事情は異なると思います。しかし、アメリカの財政赤字増大によってドルの信認が下がって、長期的にはドル安基調になることは考えられないでしょうか?
(その前に円の暴落のほうこそ起こりそうですが)

全世界の国々のリザーブ・カレンシーとして、他に信認のある大きなサイズの通貨は見当たりません。

アメリカ財政の累積赤字がGDP比で日本以上になって、かつ日本以下の成長しかしない老大国になったあかつきには、そういうことが言われるようなるかもしれませんね。しかもFRBが日銀以上のおバカな政策を長期に渡って実行すれば、という条件も付きます。考えずらいことです。

>最後に、直近では30年ものの利回りが3%を超えていますが、先生はその理由は何だとお考えでしょうか?

えっ?

ご質問の真意を測りかねますが、金利レベルは需給の一致したところだから、ということしか言えません。

  これに対して山男さんは私が何か特別なわけを知っているのではないかと思い、たずねたとのことですが、私はそれ以上の理由はないと思いますし、流動性の高い米国債が多くの人が知らない理由で動くことなどないと思っています。

  そして山男さんから以下の追加質問がありました。

 >先生は、アメリカが力を失う、言い換えれば米国債が圧倒的な信頼を失うことが将来に起こり得るのであれば、それはどのような原因や事情のためとお考えになるでしょうか?

  トランプが8年大統領をやってアメリカの政治経済をめちゃめちゃにしても、復元力があるので大丈夫です。すでに下院を失ったトランプはドナルドダックですしね(笑)。私が先日記事で書いたように、「トランプ恐怖支配の終焉」の一つの証拠が昨日起こりました。トランプがメキシコの壁問題で議会民主党に一時休戦を申し出たのです。これまですべて押し切ってきたトランプは、民主党の軍門に下るなど考えられないことでしたが、それが起こりました。それは別としても、予見しうる将来で、トランプ以上の悪いインパクトをアメリカに与える事象は私には見えません。

  それでもあるとしたら中国でしょう。最近中国はハイテクを含む様々な分野で台頭していますが、それがアメリカ全体の競争力を脅かすまでに至るのは容易なことではありません。自由主義諸国は中国に屈することを「よし」としませんので、中国のテクノロジーやITインフラが世界を席巻するとは思えないのです。対ファーウェーが一つの例です。

 

  では次に日本丸さんからの質問と回答です。

 >本日124日付けの日経新聞に中国、ロシア、トルコの米国債売りの記事が出ておりました。

  はい、ですが若干問題のある記事です。米国債市場は世界でもっとも大きなアセットで、流動性も世界で一番です。「流動性」はなかなか一般の方には理解しづらいのですが、株式、為替、商品などを含めすべてのアセットの取引で最も大切な概念です。為替市場も流動性が高いので、みなさんが1万ドルのドル買いを入れても市場がピクリともしないように、米国債は1千億円程度の売買ではあまり価格は動きません。1兆円相当の売買でもあっと言う間にスムーズに消化します。

  記事では「中国の保有が5か月連続で減った。直近ピークの178月からの減少幅は5%になる」とありました。まずこの記事にごまかされないようにしましょう。5%減らすのに1年半もかかっているのに、5か月で5%減ったような書きっぷりですよね。驚くには値せずです。

 >各国が米国債を売っておりますが金利低下傾向という事は、それを上回る買いがあると理解しております。

  これはちょっと注意して見る必要があります。日経記事での各国の米国債売りは10月までの5か月のことです。アメリカ財務省の統計は時間にかなりずれがあります。この間に金利はおだやかですが上昇していますので、全く影響なしとはいえません。低下したのはその後のことで時間のずれにご注意ください。それでも、その後は日本丸さんがおっしゃるように、「それを上回る買い」が入ったのは事実でしょう。しかしその買いは中国の売りを吸収する性質のものではなく、単に株式相場の暴落に促されたいわばミニ・フライト・ツー・クオリティと考えた方が妥当です。そしてロシアやトルコの売りなどは、規模からも大きな影響は与えません。

  日経記事は「中国、ロシア、トルコ」の3国は政治的動機で米国債を売っていると書いていますが、実はアメリカの制裁に対する反撃などではなく、いずれの国も最近自国通貨安に悩んで介入をしているに違いないと私は思っています。米国債を売ったドルで自国通貨を買い支えているのです。特にロシアとトルコは通貨安で苦しんでいます。

  中国はかつてSDRに人民元を組み入れることに成功し、世界の主要決済通貨に入ることを目指しましたが、依然として中国関連以外の貿易決済などで人民元が使われる気配はありません。政治状況で動く通貨などSDRに組み入れること自体ナンセンスだと私は思っています。

 ※SDRとはIMFがドルなどの主要準備通貨を補う目的で創り出したいわば仮想通貨で、ドル・ユーロ・ポンド・円が一定の比率で組み入れられています。2016年に人民元が追加されました。

 >米国の金融緩和縮小や各国の米国債売りにより今年の米国債金利上昇というシナリオはあり得ますでしょうか。

「ありえるか」と聞かれれば、「ありえる」でしょうと回答します。

  山男さんへの回答にもなりますが、各国が自分で保有する米国債を売る時に、価格にインパクトを与え暴落するような下手な売り方はしません。誰が売っているかわからにように工夫して静かに売りますから、新聞が書きたてるようなおバカな売り方などしないのです。

  そして海外勢売りより緩和縮小のほうがよりインパクトはあると思いますが、金利を動かす要因は多数ありますのでこれだけでは不足です。先ほどの回答にあるフライト・ツー・クオリティもあれば、私が常に言うように、「物価と雇用」による売買も主な要因です。

 >米国、中国、日本の不動産市況の悪化も伝えられてきており、いつ金融緩和の副作用としてのバブルが弾けるのか、その時に米国債の金利がどうなるのか気になる次第です。

  日本の90年代の不動産バブル崩壊ほどの壊滅的状況にはならないと思います。理由はまともな投資家は不動産価格の適正相場をある程度心得ているし、サブプライムの反省はまだ残っているからです。もっとも一部の中国人の爆買いの反動は出るでしょう、現在のオーストラリアの不動産の価格低下のように。


>現在は年利2.42.6%程度のUSD1年定期預金で待機しつつ長期の米国債金利の上昇に応じて米国債購入していきたいと考えております。

 わるくない方法だと思います。でも定期預金は引き出しに制約がありますよね。予定した金利がもらえないというような。それを覚悟のうえでなら、問題はないでしょう。金利は少し低いですがドルのMRFという手もあります。変動で現在年利1.8%程度ですがペナルティはありません。

  以上が私の回答です。ご納得いただけますでしょうか。

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