9月1日の林鄭月香港政府行政長官の発言にはおどろきましたね。その内容はタイトルにある香港には三権分立はないというもので、行政府がすべてに勝るというのです。時事通信から引用します。
引用
香港の林鄭月娥行政長官は1日の記者会見で「香港に三権分立はない」と述べた。香港の学校教科書から三権分立に関する説明が削除されたことを受け見解を示した形だが、政府トップの行政長官が明確に三権分立を否定する発言を行うのは異例だ。
林;この発言、矛盾していますよね。それまで教科書に説明があったということは、三権分立はないのではなく、「勝手になくした」が正確でしょう。記事はさらに次のように続きます。
林鄭長官は「香港では行政、立法、司法機関が相互に協力しバランスを取るが、この三つの機関は最終的には行政長官を通じて中国政府に責任を負う」と説明。三権はあくまで中国政府が承認したものであり、香港の体制は「行政主導のシステム」との認識を示した。
引用終わり
私は今年の初めから、何度か香港について書いてきました。それは97年の香港返還時点で国際的に公約された「一国二制度」がどんどん踏みにじられているからです。中でもこの数年の中国による香港への圧政はひどいものがあります。今年の1月17日の記事で私はNHKのBS番組、「証言ドキュメント/天安門事件30年」を取り上げ、その中で最後に以下のとおり書いていました。
「中国という国、そして共産党のひどさを見くびってはいけない。その実態をみなさんにもお知らせしたいと思い、わざわざ30年も前の天安門事件のドキュメンタリーに触れたのです。デモの続く過程で香港は観光客を失い、アジアの金融センターとしての地位も失ってしまいそうです。それだけでなく、この状態が続くと中国共産党は香港全体を収容所にしかねない。ウィグルやチベットをみれば、それが決して杞憂ではないと思うのです。」
こう年初に書いたことがどんどん顕在化しています。極めつけが冒頭にあげた林鄭月娥行政長官の発言「香港に三権分立はない」です。世界に向かって反旗を翻し、香港は収容所になったことを宣言したようなものです。
昨年香港は犯罪者あるいは容疑者を中国に送還する条例のことで半年近くデモで荒れました。それは取り下げられていますが、「香港国家安全維持法」を8月に成立させ、中国を批判する人たちを軒並み逮捕。例えばりんご日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英氏や学生時代から日本語を話す女性リーダーの一人として有名だった周庭さんも一時収監されています。彼らは保釈中ですが、終身刑になる可能性があります。本当に気の毒です。
さらに本来9月6日に予定されていた香港の立法会議員選挙を1年先延ばしにしてしまいました。そこにきてあの林鄭月娥行政長官のとんでも発言です。彼女はさぞ終身皇帝習近平の覚えめでたき人物なのでしょう。彼女の恐いものなしには恐れ入ります。虎の威を借る狐とは彼女のことを言うのでしょう。
香港はいうまでもなくアジアの金融の中心地でした。私も投資銀行にいた90年代にはアジア開銀の主催する年に一度の大イベントが香港で開催された時に何度か出席しました。しかしその香港が97年に返還されてしまうと、投資銀行の同僚や友人を含む相当数のバンカーが香港から脱出しました。彼らが戻ったという話は聞きません。
中国の恐ろしさをちょっと回顧しておきましょう。中華人民共和は1949年に共産党により誕生しましたが、生まれて直後からとんでもない侵略者でした。1年後の50年にまず侵略されたのはチベットです。あのダライ・ラマが平和に統治する仏教国のチベットを人民解放軍が侵略し、51年には制圧してしまいました。中国の侵略前まで人口のほとんどがチベット人でしたが、現在はなんとチベット人600万人に対して中国人750万人と、人口移動により完全制圧されています。そうしたチベットの惨状は、日本にあるダライ・ラマ法王日本代表部事務所のHPに行くと詳細が見られます。
https://www.tibethouse.jp/about/information/situation/
次のターゲットは間違いなく台湾でしょう。
ちょうど現在チェコの代表団90人が台湾を訪れていますが、小国チェコが世界に向かって反中国色を鮮明にした勇気を私は称賛したいと思います。チェコの片割れであるスロバキアの大統領もすぐさまそれを支持しています。
一方中国の王毅外相は訪問先のドイツで「チェコは一線を越えた、高い代償を払わせる」と恫喝しています。果たしてこの勝負どうなるか、今後も注目しましょう。