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「香港に三権分立はない」by林鄭月香

2020年09月05日 | 中国の恐ろしさ

    9月1日の林鄭月香港政府行政長官の発言にはおどろきましたね。その内容はタイトルにある香港には三権分立はないというもので、行政府がすべてに勝るというのです。時事通信から引用します。

引用

香港の林鄭月娥行政長官は1日の記者会見で「香港に三権分立はない」と述べた。香港の学校教科書から三権分立に関する説明が削除されたことを受け見解を示した形だが、政府トップの行政長官が明確に三権分立を否定する発言を行うのは異例だ。

  林;この発言、矛盾していますよね。それまで教科書に説明があったということは、三権分立はないのではなく、「勝手になくした」が正確でしょう。記事はさらに次のように続きます。

林鄭長官は「香港では行政、立法、司法機関が相互に協力しバランスを取るが、この三つの機関は最終的には行政長官を通じて中国政府に責任を負う」と説明。三権はあくまで中国政府が承認したものであり、香港の体制は「行政主導のシステム」との認識を示した。

引用終わり

  私は今年の初めから、何度か香港について書いてきました。それは97年の香港返還時点で国際的に公約された「一国二制度」がどんどん踏みにじられているからです。中でもこの数年の中国による香港への圧政はひどいものがあります。今年の1月17日の記事で私はNHKのBS番組、「証言ドキュメント/天安門事件30年」を取り上げ、その中で最後に以下のとおり書いていました。

「中国という国、そして共産党のひどさを見くびってはいけない。その実態をみなさんにもお知らせしたいと思い、わざわざ30年も前の天安門事件のドキュメンタリーに触れたのです。デモの続く過程で香港は観光客を失い、アジアの金融センターとしての地位も失ってしまいそうです。それだけでなく、この状態が続くと中国共産党は香港全体を収容所にしかねない。ウィグルやチベットをみれば、それが決して杞憂ではないと思うのです。」

  こう年初に書いたことがどんどん顕在化しています。極めつけが冒頭にあげた林鄭月娥行政長官の発言「香港に三権分立はない」です。世界に向かって反旗を翻し、香港は収容所になったことを宣言したようなものです。

  昨年香港は犯罪者あるいは容疑者を中国に送還する条例のことで半年近くデモで荒れました。それは取り下げられていますが、「香港国家安全維持法」を8月に成立させ、中国を批判する人たちを軒並み逮捕。例えばりんご日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英氏や学生時代から日本語を話す女性リーダーの一人として有名だった周庭さんも一時収監されています。彼らは保釈中ですが、終身刑になる可能性があります。本当に気の毒です。

  さらに本来9月6日に予定されていた香港の立法会議員選挙を1年先延ばしにしてしまいました。そこにきてあの林鄭月娥行政長官のとんでも発言です。彼女はさぞ終身皇帝習近平の覚えめでたき人物なのでしょう。彼女の恐いものなしには恐れ入ります。虎の威を借る狐とは彼女のことを言うのでしょう。

  香港はいうまでもなくアジアの金融の中心地でした。私も投資銀行にいた90年代にはアジア開銀の主催する年に一度の大イベントが香港で開催された時に何度か出席しました。しかしその香港が97年に返還されてしまうと、投資銀行の同僚や友人を含む相当数のバンカーが香港から脱出しました。彼らが戻ったという話は聞きません。

   中国の恐ろしさをちょっと回顧しておきましょう。中華人民共和は1949年に共産党により誕生しましたが、生まれて直後からとんでもない侵略者でした。1年後の50年にまず侵略されたのはチベットです。あのダライ・ラマが平和に統治する仏教国のチベットを人民解放軍が侵略し、51年には制圧してしまいました。中国の侵略前まで人口のほとんどがチベット人でしたが、現在はなんとチベット人600万人に対して中国人750万人と、人口移動により完全制圧されています。そうしたチベットの惨状は、日本にあるダライ・ラマ法王日本代表部事務所のHPに行くと詳細が見られます。

https://www.tibethouse.jp/about/information/situation/

  次のターゲットは間違いなく台湾でしょう。

  ちょうど現在チェコの代表団90人が台湾を訪れていますが、小国チェコが世界に向かって反中国色を鮮明にした勇気を私は称賛したいと思います。チェコの片割れであるスロバキアの大統領もすぐさまそれを支持しています。

  一方中国の王毅外相は訪問先のドイツで「チェコは一線を越えた、高い代償を払わせる」と恫喝しています。果たしてこの勝負どうなるか、今後も注目しましょう。

 

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中国国内に変化の兆し

2020年02月20日 | 中国の恐ろしさ

  コロナウィルスの大流行で混乱する中国国内ですが、さすがに異変が起こっています。昨年12月の段階で最初にウィルスの存在を指摘した李分亮医師を懲戒処分としました。その処分や初期の政府による隠ぺい工作を大っぴらに指弾したり、指導部の体質を非難するネット上の書き込みなどが拡がっているのです。共産党による一党独裁に輪をかける習近平という終身独裁者による言論統制が、一時的にせよ国民の非難の的になり、世界の知るところにまで達するのは大きな変化と言えます。はたしてそのうねりは今後中国を変えていくことにつながるのか、それを見通してみたいと思います。

  一方、中国国内で一貫して言論統制を非難してきた元弁護士で市民ジャーナリストの一人、陳秋実氏が姿を消しました。彼は香港の反中デモが激しかった最中も、現場を取材し多くの情報をもたらしました。彼やその他のジャーナリストの行方不明や言論弾圧の様子を2月8日にブルームバーグが報じていますので、まずそれを見てみましょう

引用

中国人市民ジャーナリストの陳秋実氏と方斌氏は、新型コロナウイルス流行の震源地である武漢から現地がどれほどひどいありさまかを、スマートフォンで撮影した動画を使って世界に発信してきた。動画の多くはツイッターに投稿され、ユーチューブにも転載されている。

  このうち1人が行方不明となっている。陳氏は20時間以上、連絡が取れない状態だ。(林の注;彼は病気ではないのに当局により隔離されていることが確認されている。)

病院で遺体を撮影し当局に短時間拘束されたことがある方氏も7日、音信が途絶えたが、同日夕刻になって動画を投稿した。方氏を連行するため防護服を着た人々がアパートに押し入ってきた衝撃的な映像を同氏が撮影した際には、同氏の解放を当局に求める多数のコメントが集まった。

これらの投稿が米企業のプラットフォームで広がっているのは、偶然ではない。中国当局はインターネット上の取り締まりを強化しており、5日には微博(ウェイボ)やテンセントの微信(ウィーチャット)、バイトダンス(字節跳動)の抖音(ドウイン)など、中国最大級のソーシャルメディア・プラットフォームは厳重に制限すると発表した。すでに当局は多数のソーシャルメディアアカウントを凍結し、新型ウイルス流行を早くから警告した医師の死去を巡り当局に向けられる怒りの声を抑え込もうと躍起だ。

こうした中で、ウィルス感染の拡大状況に関する情報を求める中国の市民はツイッターに向かっている。ツイッターは中国で公式には禁止されているが、多くの人は当局のブロックをかいくぐり仮想プライベートネットワーク(VPN)経由でアクセスしている。

ヒューマン・ライツ・ウオッチの中国担当上級研究員マヤ・ワン氏は「ウェイボやウィーチャットと比べ、ツイッター上の活動ははるかに活発だ」と指摘。ツイッターは情報収集や、多くの人々が自らのひどい経験を記録する最後のとりでとなりつつある。

微信・ウィーチャットでは今週から、ウイルス流行に関する問題をチャットしたグループの参加者がアカウントを凍結され、ウィーチャットに登録した連絡先や電子マネーにアクセスできなくなった。

引用終わり

 

  こうした言論弾圧に対する反対運動は、共産党と習近平には最大の脅威ととらえられていますが、ツイッターへのアクセスまでが制限されると、真実はますます闇の中に葬り去られる危険があります。

  では一体この先中国はどうなるのでしょう。共産党独裁は続くのか、徐々に崩壊していくのか。私の大胆な予想を申し上げます。「習近平の時代に体制崩壊はない」、というのが私の見立てです。理由を紐解いていきます。

  まず大きな目で見てみましょう。世界を俯瞰する時、いわゆる民主主義勢力の代表選手がアメリカで、それを欧州や日本がサポートし、その他の地域の民主主義勢力が追随するというのが従来の構造でした。ところが最近はまず盟主であるアメリカがトランプの登場で一気にその動きに背を向けてしまいました。そして一時民主化の嵐が吹きまくったアラブも東欧諸国も、かつて東欧の盟主であったロシアも全員がそっぽを向いています。アメリカは香港問題でも一国二制度をしっかりとサポートする様子を見せていません。発展途上国でも民主化を推進していた国々が経済的に行き詰ると独裁者に席を譲るようなっています。

  かつてBRICSとしてもてはやされたブラジル、ロシア、インドなどがいずれも独裁方向へ舵を切りつつあり、経済的発展が民主化を要求するという従来の図式が完全に崩れ、逆向きに作用するようになってしまいました。

  では中国の国内事情はどうか。時間はさかのぼりますが、香港デモの問題でみなさんに紹介したNHKBSのドキュメンタリー番組「激動の世界を行く」では、その問題を取り上げたことがあります。その時の報道キャスターも香港の時と同じ鎌倉千秋キャスターでした。半年以上前になると思いますので、細かな記憶はないのですが、もっとも記憶に残っているのは、今の共産党独裁政権をどう思っているかについて、彼女が何人かにインタビューした答えです。それらは以下のようなものでした。

 

「もちろん独裁はいやだ。でも反抗はできない。やっても無駄だし、捕まるだけ損なのでしない」というあきらめの回答でした。

 

  多くの若者がこう考えているのが中国の実態なのでしょう。天安門の直接の記憶がない若者でもその事実は知っているし、天安門事件の海外報道がテレビで映り始めるとすぐブラックアウトするので、民主化運動とはヤバイ問題だということはよくわかっています。そしてインターネット経由の情報もほぼ完全にコントロールされていて、天安門を暗号めいた言葉で伝えようという試みも、ことごとくキャッチされ削除されています。それが日常化していることがあきらめの原因です。きっと今回の新型ウィルス問題を最初に指摘した医師が死に、武漢の実態報道を試みたジャーナリストが行方不明になることなどを見ていれば、誰もが口をつぐむでしょう。

  新型ウィルス問題も香港問題も習近平の強権でいずれ黙らされるに違いありません。

  こうしたネットの検閲も一昔前は人海戦術で行われていました。だいぶ以前に私は記事で、「第五の権力 グーグルには見えている未来」という本の紹介をしました。その本の中で中国内部のネット情報のコントロールがどのように行われているかが書かれていました。私の記憶では検閲を数十万人が人海戦術で常時行っていて、少しでも反政府的情報があれば即座に削除していると書いてありました。しかし今はきっとAIによる検閲が行われていて、もっと簡単かつ即時、そして有効な形で削除が行われていることでしょう。すべての反対運動は天安門に集まる前に潰されます。

ウィグル族は100万人程度が拘束されていると言われていますが、漢民族であれば数千万人でも拘束し収容してしまうのが中国共産党です。

 

  ですので、「習近平の時代に体制崩壊はない」のです。

 

  では中国や香港の若者はどうしたらよいのか。今できる唯一の道は海外への逃避です。最近の中国は若者が海外留学することを認めているし、海外旅行もひどく制限的だった過去から比べかなり自由化されています。もちろん海外旅行者が帰ってこない場合、家族や一族郎党への嫌がらせ、仕返しはあるでしょう。

  最近のニュースですが、香港では海外脱出のためのビザに申請に必要な「無犯罪証明書」の発行数が前年対比で2倍になっているそうです。かつて香港返還時に見られた香港脱出がふたたび起こっているのです。

 

  さてここまでNHKBSのドキュメンタリー番組の情報を中心に、天安門事件の真相からはじまり、香港の区議会選挙、台湾の総統選挙などについて書いてきました。中国共産党の独裁のひどさは、漏れ伝わるより現地取材によるほうが、よほどひどい実態を映し出すものだと思いました。

  残念ですが、中国国内の変化の兆しは摘み取られる運命にありそうです。

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中国の恐ろしさ

2020年02月10日 | 中国の恐ろしさ

   新型コロナウィルスの拡散が止まりません。専門家の意見はけっこう割れていますね。インフルエンザを例にとり「感染者数や死亡者数は大したことない」という意見と、「まだわからないウィルスのため、用心はおこたりなく」という意見です。

  我々はどちらの意見を信ずるべきでしょう。こんな場合私は当然安全性の高い選択肢を選びます。「君子危うきに近寄らず」。手洗いを励行し人混みは避け、やむおえない場合はマスクをする。と書くと神経質そうですが、実はそうでもなく、適当にずぼらで手抜きです(笑)。

  今回の中国の対応ですが、初期対応はいつもの「隠ぺい」でした。それどころかもっとひどい「情報のもみ消しでした」。その証拠に最初に危険性を指摘した中国の医師を、「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」と警告し、もうしませんの誓約書を書かせました。今月のBBCニュースを引用します。

引用

中国・湖北省武漢から発生した新型コロナウィルスをめぐり、アウトブレイク(大流行)の可能性についていち早く警鐘を鳴らしていた医師が、7日未明に死亡した。入院先の病院が公表した。医師は先月、新型ウイルスに感染し治療を受けていた。

李医師は昨年12月、2003年の世界的エピデミック(伝染病)を引き起こしたSARSに似た、とあるウィルスによる7つの症例に気が付いた。

12月30日、李医師はチャットグループに入っている同僚の複数医師に対し、アウトブレイクが起きていると警告するメッセージを送信。防護服を着用して感染を防ぐようアドバイスした。しかしその後、警察から「虚偽の発言」をやめるよう指示された。それから4日後、中国公安省の職員が李医師を訪ね、書簡に署名するよう求めた。その書簡は、李医師を「社会の秩序を著しく乱す」「虚偽の発言をした」として告発する内容だった。

引用終わり

  こうした強引なもみ消し工作がなければ、ここまでひどい拡散は防げたかもしれません。

  そしてもうひとつ指摘しなくてはならないことは、WHO世界保健機構の中国寄り政策です。WHOは1月30日に緊急事態を世界に宣言しましたが、その1週間前の緊急ミーティングでは宣言を見送り、その間に感染者数は10倍になってしまいました。その後もWHOの事務局長は、中国はよくやっていると繰り返しています。

  現在のWHOの事務局長テドロス氏はエチオピア出身ですが、エチオピアは一帯一路を掲げる中国に篭絡された国になっています。それが今回の対策の遅れを招いた可能性があります。

  私は昨年5月にファーウェイの危険性を指摘した投稿で、エチオピアの首都に置かれているOAUアフリカ統一機構のシステムから、機密情報が中国本土に流れていて、そのシステムがファーウェイ製品だということを書いています。ファーウェイの危険性を明らかにした証拠です。中国によるアフリカ篭絡の実態は次の18年11月のAFP通信の記事をご覧ください。

引用

中国の投資先の1位はナイジェリアで492億ドル(約5兆5500億円)、2位がアンゴラの245億ドル(約2兆7600億円)、3位がエチオピアで236億ドル(約2兆6600億円)だった。事業別では、道路、鉄道、橋などの交通インフラとエネルギー関連がそれぞれ全体の3分の1を占め、鉱業がそれに続いた。

 中国の投資は現在、アフリカの債務全体の約5分の1を占めており、国際通貨基金(IMF)などは、アフリカ諸国の返済能力に懸念を示している。

引用終わり

  これがエチオピアが中国に対しモノが言えなくなった理由です。

  では返済できないとどうなるか。そのよい例がスリランカです。スリランカはやはり一帯一路に組み込まれ、甘い言葉に乗せられて投資を受け入れたのですが、予定通りの返済ができず、そのカタに港湾施設を乗っ取られてしまいました。18年5月の産経ニュースを引用します。

引用

スリランカ国営企業と中国国有企業は昨年7月、スリランカ側が中国側に港の管理会社の株式の70%を99年間譲渡することで合意した。11億2千万ドル(約1240億円)の取引の合意文書に調印し港は先月、中国側に渡っていた。

 そもそも、港は親中派のラジャパクサ前政権時代に着工されたが、約13億ドルとされる建設費の大半は中国からの融資だ。しかし、最高6.3%にも上る高金利は財政が苦しいスリランカにとって「悪夢」とされ、リースの形で中国に引き渡されることとなった。

引用終わり

  一帯一路によるインフラ整備はまことに結構なのですが、甘い罠はアジアからアフリカの途上国全体に広がり、高金利で搾り取られただけでなく工事中は技術者派遣の名のもとに非熟練労働者もしっかり輸出し、甘い汁を吸っています。もともと返済能力のないインフラへの投資は、最後は中国に乗っ取られる運命にあります。

  この結果、中国の国土は実質植民地を加えて拡大の一途をたどっています。我々はWHOも中国に篭絡され汚染されていることを念頭に置き、今後は新型コロナウィルスに対し、早め早めの対策を取るべきだと思います。

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