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大丈夫か日本財政17年版 その17 日銀保有の国債はどうなる 13

2017年08月31日 | 大丈夫か日本財政

  今日の夜はサッカーのオーストラリア戦ですね。

  ガンバレ、サムライ・ジャパン!

  私は先週末、所属しているゴルフ場のクラブ選手権で予選を通過し、次の日曜日から決勝トーナメントです。シニアの通過は16人中4人でした。といっても通過はいつもギリギリ16人目あたりのため、一回戦では一番成績のよかったプレーヤーと当たり、オッズで言えば10対1程度(笑い)。しかも今回の相手は若手のアスリートゴルファーで、クラブで一番の飛ばし屋さんです。体格も180㎝を超え、飛距離は300ヤードくらいとプロ並み、いやプロ以上。体も飛距離も3まわりくらい違う私がどう戦うのでしょう。そんなことは考えず、マッチプレーを楽しんできまーす!


  この2日間は北朝鮮とハリケーン・ハービーで地政学上のリスクが満開です。有事の円買いについて揶揄する記事を書いたばかりでしたが、ミサイルが日本上空を通過するという危険な状況になったので、為替相場はセオリー通り(笑)円高に大きく振れました。28日までの109円台がミサイルを打ちあげた29日には108円そこそこまで一気に円高に飛びましたが、翌30日には109円台に戻し、その後今日は110円台へ。きっと「アメリカがハリケーンに見舞われリスクが高まったので、セオリーどおりドルが買われた」(笑)のでしょう。

 

  さて、本題に戻ります。まとめに入って私が指摘した日本の金融財政のリスクシナリオの要点は以下のとおりでした。

1.異次元緩和政策の不成功から日銀が信頼を喪失

2.出口のない異次元緩和の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

3.国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

4.日銀の信頼喪失と財政再建赤信号により、日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性がある

 

  こうしたことが起こる確率が高いか低いかは、国内外の経済や金融市場の環境なども重要な役割を果たします。そこで大事な点をしっかりと見ておきましょう。

  まず世界の主要国の金融政策です。アメリカとEUにおいては、超緩和政策からの出口を模索する政策議論の段階を経て、具体的実行段階に移りつつあります。アメリカはいよいよFRBの資産圧縮がスケジュール化されそうです。将来それが進行し日米金利差がひらいていく段階では円安に振れやすくなり、為替の注目度が高まります。

  欧州でも量的緩和策のテーパリング、つまり欧州中銀ECBによる国債買い入れの減少が検討されています。今回のジャクソンホールでも、日本の周回遅れは嫌がおうにも目立ち、黒田総裁の強気一辺倒の立ち位置に陰りが見えています。欧米のメディアはイエレン氏とドラギ氏に注目していました。黒田総裁は講演者リストには入っていませんでしたが、議論には参加できたはずです。しかしメディアの注目度はほぼゼロで、3人並んだ写真が出た程度でした。

  今後アメリカと欧州が次のステップへと進んで行くと、出口の見えない日本の財政・金融リスクへの対応が国際金融関係者の間では議論の的になるでしょう。

  次に主要国の実体経済と金融相場を見てみます。アメリカの前期のGDP成長率は昨日上方修正され3%に乗りました。それでもこのところのアメリカの経済指標は一方的な好況局面の継続を示唆しているわけではなく、強弱が入り交じるようになっています。金融危機以来、ほとんど休むことなく好調さを維持してきましたので、そろそろ変調をきたす可能性があると思われます。FRBはそうしたことに神経を研ぎ澄まし、景気判断を慎重にした上で、資産縮小を進めるでしょう。しかし株価はそうした強弱入り交じる指標を無視するように堅調で、株価収益率PERはS&P500銘柄で18倍近辺と高止まりしており、景気の変調で下げに転じる可能性があります。アメリカ株の下げは、間違いなく世界の株価に伝播しますので、要注意です。

  一方アメリカの長期金利は、インフレの兆しがなく北朝鮮など地政学上のリスクにも影響を受け、すでに低下していますが、もしこの先アメリカ経済がスローダウンするようなことがあると一段の下げも予想されます。それに呼応してドル円レートもドル安傾向になる可能性はありますが、ドル円相場の変動はアメリカの事情だけでなく、あくまで日米の相対的問題が主な要因ですので、日本側の事情も見る必要があります。それはのちほど。

 

  欧州経済はけん引役であるドイツが堅調を維持していて、IMFがEU全体の来年の成長率見通しを若干上方修正しました。それはひとえに域内・域外の貿易の好調さが裏付けとなっています。そのためジャクソンホールではマリオ・ドラギECB総裁がトランプの保護主義への反対を講演の主題に据え、自由貿易の重要性を強調しました。しかし輸出が好調であるが故にこのところユーロ高となり、輸出に頼る国には逆風となりつつあります。

  海外の一番大きな不確定要素はもちろんトランプです。彼の法人減税をはじめとする経済政策への期待はとっくに剥げ落ちているため、リスクはむしろ支持率回復のため対外的強硬手段に出るリスクです。すでに前言をひるがえしてアフガニスタンへ軍隊を増強するし、北朝鮮の金正恩とのチキンレースも続くでしょう。自身の立場がさらに危うくなれば、北朝鮮に対してより強い姿勢を示し、ロシアや中国とも事を構えるポーズをとる可能性もあります。彼の周辺は強硬派がすっかりいなくなったのでハッタリに終わる可能性が大ですが、それでも破れかぶれの軍事行動に打って出ないよう、お祈りだけはしておきましょう。

 

  欧州ではイギリスのブレグジットの失敗が暗い影を落とすことになるでしょう。しかしイギリスの失敗はEU全体の勝利とも言えます。金融センターのイギリスから欧州へのシフトや製造業拠点のシフトなどは、EU全体に恩恵をもたらしそうです。今後もイギリスやトランプが唱える保護主義が勝利をつかむことなど、ありえません。メイ首相がこの時期にあえて日本を訪問したのは、自国と欧州での四面楚歌からちょっとだけ息をつける日本を選んでだのではないでしょうか。

  中国では秋の共産党大会に向けてすべての事が進行しています。発表される成長率は政治色が強く反映され、目標を上回るように数字が調整されている可能性があり、信頼性には欠けます。しかし実態経済はひところより改善され、元安の進行には歯止めがかかっています。共産党大会では習近平の続投のみならず、その次の大会で定年が来るはずの習近平の任期延長が決められる気配です。暗黙の定年ルールを変更し、3期にわたる長期政権を可能にしようとしています。私が独裁者認定条件の一つに挙げた「任期の延長」を、絵に描いたように実行しそうです。

  しかし大会後は習近平の絶対権力の強大さが、逆に国内の自由化運動を刺激するかもしれません。国民の平均所得が1万ドルを超えてくると、衣食足りて自由化運動に目覚める人たちが多くなるでしょう。そして今後日本を上回るほどの高齢化が進むのが中国です。日本ではバブル崩壊とともに労働力人口のピークを迎え変調をきたしました。まさに日本のような道を歩む可能性があり、その時には一党独裁に対する人民の不満が爆発しかねません。

  次回は日本です。

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アメリカ政府の閉鎖、そしてデフォルトはあるか?

2017年08月26日 | トランプのアメリカ

  トランプは閉鎖するぞ、デフォルトさせるぞと吠えていますが、そんなことはありません。

  今回は、アメリカの財政年度末にお決まりの綱渡りサーカスが始まりましたので、それに対するコメントです。

  アメリカの財政を巡る問題を整理しておくため、争いの様子を8月23日のロイターから引用します。

引用

トランプ氏が22日夜、アリゾナ州フェニックスの支持者集会で「政府を閉鎖しなければならないとしても、壁建設の財源は勝ち取る」と気勢を上げたことを受け、23日の米国株は下落した。今会計年度が終わる9月末以降の何らかの予算措置を議会と大統領が承認しなければ、連邦政府機関は閉鎖に追い込まれる恐れが出てくる。

同時に与党・共和党が20兆ドルの連邦債務上限を引き上げる計画を打ち出さないと、デフォルトのリスクが生じる。ムニューシン財務長官は、9月29日には政府の支払い能力が枯渇するとの見通しを表明。トランプ氏は選挙中、米国がデフォルトに陥っても大した問題にはならないと何度も強調した。

引用終わり

  10月に新年度入りする政府の財布は、9月29日をタイムリミットに枯渇するぞと財務長官が懸念を表明。にもかかわらずトランプは議会民主党、共和党を相手に綱渡りサーカスを楽しんでいます。

  今回のサーカスでは、フィッチレーティングスがダウングレードの警告を発しました。フィッチはムーディーズ、S&Pに次ぐ、第3の大手格付け会社です。

  フィッチレーティングスの日本語版HPから警告を引用します。

債務上限がいわゆる「Xデー」の前に適時に引き上げられなかった場合、フィッチは米国のソブリン格付の見直しを行い、格付にマイナスの影響が及ぶ可能性がある。フィッチは以前に、債務上限が引き上げられなかった場合に、債務返済を他の義務に優先させることは(法的、技術的に実行可能な場合)、「AAA」の格付に相応しくない可能性がある、と述べている。 

  なんだかへんてこりんな訳なので、きわめてわかりづらいのですが、英語の文章から判断すると最後の文章で彼らが言いたいことは、「国債の返済義務と政府の他の支払義務を天秤にかけるような国は、AAAにふさわしくない」ということです。

  トランプは債務踏み倒し実績を積んでいる倒産王ですから、選挙中は国も自分とおなじように債務を踏み倒せばいいと本気で思っているふしがあり、先日もそれを言っていました。

  それに対し財務長官ムニューチンはゴールドマン出身ですから、デフォルトの意味をよく理解しています。トランプがこれ以上議会と事を構えてほしくないと思っているに違いありません。メキシコの壁のために政府機関を閉鎖するなど、正気の沙汰ではないと思っているでしょう。

  ムニューチンはイエール大学の出身ですが、先ごろ同窓生たち300人がまとまって、「おまえ、いい加減にトランプの下から離れろ」という警告の共同声明を出しています。しかし彼は女優出身のトロフィーワイフとおててをつないでトランプのように出張を楽しみ、その時ワイフが自分のブランド品を自慢して投稿したためネットで炎上。ワイフの経費を返済するというヘマをやっています。

  ところが一昨日24日、トランプは味方であるはずの共和党の重鎮で院内総務のマコネル氏と下院議長のライアン氏を非難してしまい、事を一層複雑にしてしまいました。そろそろ大統領の支離滅裂ぶりに共和党内もまとまって反旗を翻すかもしれないという見方が出るほどになっています。

このニュース、NHKのオンラインニュースを引用します。

引用

アメリカのトランプ大統領は、ツイッターで、議会での法案の取り扱いをめぐって、与党・共和党の上下両院のトップ2人を非難しました。議会は来月再開しますが、双方の関係悪化が審議に影響を与えることも予想されます。

トランプ大統領は、24日、ツイッターで、政府が国債などを発行し借金できる上限を引き上げる法案の取り扱いをめぐって、与党・共和党の上院トップのマコネル院内総務とライアン下院議長を非難する投稿を行いました。
投稿では、この法案を可決するため、多くの支持を得ている別の法案と合わせて審議するよう2人に求めたにもかかわらず、応じなかったとして、法案可決が困難になっていると批判しています。
さらに、トランプ大統領は、マコネル氏が、医療保険制度いわゆるオバマケアの見直しに失敗したと投稿し「それは決して起きるべきではなかった」と不満をあらわにしました。

引用終わり

  「トランプが上手なのは、敵を作ることだけだ」、私のトランプ評です。

  トランプはツイッターで他人や他国を振り回すのが得意で、自分でそれに陶酔しています。ところがトランプ政権自体が彼のツイッターに振り回され、カラ回りばかりしていて、何一つ公約を果たせていません。

  ということは、実は自分で自分を振り回しているのですが、サイコパス故それには気が付きません。

  公約を果たすには、閣僚だけでなく政策を法制化し、議会を説得する優秀な官僚が必要ですが、相変わらず重要な政治任用のポストは9割がカラのままです。日本政府の各省の重要官僚ポストの9割に誰も座っていなかったらどうなるでしょう。あのおバカな法務大臣の後ろに誰もいないことを想像してみてください。国会が吉本になります(爆笑)。

  以前私が指摘した通り、政治任用を受けるような優秀な人たちは誰一人としてこの男と心中などしません。この男に仕えて一生を棒に振るより、ちょっと待てばいいだけですから。もし政治任用に応える人が出てきたら、彼は優秀でない売名目的のヤカラにちがいありません。

  ではこのままでアメリカ国債は本当に大丈夫なのでしょうか。

  それは全く心配いりません。

  トランプが北朝鮮に本気で戦争をしかけないように、トランプ含め米国債をデフォルトさせてもよいと本気で考えている人はいません。オバマ政権下で共和党が演じてきたサーカス同様、トランプもサーカスを演じているに過ぎないのです。

  「それでももしデフォルトしたらどうなるの?」

  この疑問には、著書で私はこう答えています。

  「デフォルトは本当にカネがなくてデフォルトするのではなく政争の結果で、ボクシングで言えばスリップダウンだ」。

  つまり今回も心配はいらないということです。

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大丈夫か日本財政17年版 その16 日銀保有の国債はどうなる 12

2017年08月21日 | 大丈夫か日本財政

  大丈夫か日本財政の17年シリーズがまとめに入りました。前回のまとめ2をおさらいします。ポイントは、何故日銀による国債の爆買いを許し、今日まで至ってしまったかの原因追求でした。それは、

1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した

2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった

3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている

 

  日銀による国債の爆買いを私は自己増殖バブルと呼んでいます。バブルは自己増殖型のバブルが一番怖いのです。どういうことか。

  グリーンスパンの指摘したアメリカの「債券バブル」について異論を述べた中で、債券のバブルはアメリカなどではなく、日本にこそあると主張しました。

  だいぶ以前ですが、そもそも「バブルとは自己増殖作用を伴うものが一番危険だ」という説明をしたことがあります。その時に使った例はもちろん日本のバブル時代の例ですが、

1.バブルに踊った人たちは不動産を買いまくって価格を上げ、それを担保にしてもっと借り入れ、さらに不動産を買うということを繰り返し、巨大不動産バブルを形成した

2.企業は自己株式を「特金・ファントラ」を作って買い、価格を上昇させ新株発行をして資金を得、さらに「特金・ファントラ」を組んで自己株式を買い進むということを繰り返し、巨大株式バブルを形成した

 

  これを現在の日本の財政金融政策に当てはめれば、

  「累積赤字を積み上げる政府に対し、政府と一体の日銀が国債買いでファイナンスを付け、低金利にし、それをよいことに政府はさらに国債発行をし、巨大国債バブルを形成している」

  これも見事なまでの自己増殖メカニズムによるバブル形成です。こうした自己増殖のメカニズムは永久に続くことはなく、いずれはピークを迎えるし、危険を察知された瞬間から崩壊が始まります。

  では危険のシグナルはどこに出るのか。

  私は日銀の信用力低下に出ると思っています。では、それを察知するのは誰か。まずはヘッジファンドなどで虎視眈々と日本国債売りを狙っている連中です。内外のヘッジファンドでもイベントドリブン型のヘッジファンドのマネジャーは、崩壊のカギを握る可能性があります。イベントドリブンとは、財政破綻や戦争勃発などのイベントを相場変動の材料に使って儲ける人たちです。

  そして翼賛会に属さないエコノミストなどです。海外のエコノミストなども日本の株やさんちのエコノミストとは違い、客観的に判断できるため警鐘を鳴らしやすい。内外ともに株価崩壊を恐れる株屋さんたちは一番ダメです。大政翼賛会に最後まで留まるでしょう。そして今はアベノミクスを支持しているIMFなども、奏功しないとなれば警鐘を鳴らす側になる可能性があります。

  また格付け会社も早期警戒警報を発令するでしょう。すでにシングルA格になっている日本国債は、トリプルBに下がったとたん、非常に多くの投資家を失います。トリプルB格は名目上投資適格の範疇に入る格付けですが、投資家から買ってもらうためには、かなりの上乗せ金利が必要になります。

  今でも全税収の3分の1が、国民の福祉ではなく利払いなどの「国債費」に使われていますから、金利の上昇により国債費が増えると、本来の財政支出に使えるお金が不足します。するとますます多くの新規国債を発行しなくてはならなくなり、これぞ悪循環そのものになるのです。それがさらなる格下げにつながります。

  そのころには日本国債の破綻に保険を掛けるCDS=クレジット・デフォルト・スワップの保険料が跳ね上がり、保険を売っていた金融機関が破たんに追い込まれる可能性がでます。それを政府が救えるか?自分がすでに追い込まれている政府に救済は無理です。救えないと金融機関の連鎖破たんで、収拾がつかなくなる可能性も出ます。それもこれも、日銀による無理やりの救済となるでしょう。

  そうなると日銀は出口どころではなく、ますます国債を買いまくり、政府が新規発行する国債もすべて飲み込まざるをえません。円の信用は地に落ち、暴落します。

  ある方から「日銀の信用力の崩壊とは何か?」という根本的な質問を受けました。質問をもっと率直に言えば、「信用力崩壊なんて、本当にあるのか」という疑問です。

  あります。簡単な例で説明します。

  大赤字を垂れ流し債務超過に陥っている超巨大会社を、たった一つの地方銀行が支援していたら、銀行も当然おかしくなります。それが銀行の信用崩壊につながるのは理解できると思います。国とのサイズ比較から言えば、日銀は信用金庫くらいかもしれません。

  日本株式会社をまともに支援しているのは、いまや日本銀行だけです。都銀・地銀・ゆうちょ・生損保、いずれも国債を資産から降ろしてしまい、支える側ではなくなっています。

  破綻しない派の人たちはそれを見ても、「巨大な日本国は会社でないので大丈夫だ、日本銀行はおかしくなんかならない」と言っているのです。だったらいつも言うように、

  「税金なんか徴収しなきゃいい!」(笑)

  おカネがなくなると国は会社と同じで何もできなくなります。行政機能はストップし、役人に報酬を払えません。アメリカ政府はしょっちゅうそれで綱渡りをしています。

なお次のアメリカ・サーカスの綱渡りショーは、来月開催です(笑)。

 

  こうしたことは、実はまとめその1で指摘した以下の、⑤につながっていきます。それは、

   異次元緩和政策の信頼性喪失

   出口のない日銀政策の後始末問題がアベノミクス不信へも波及

①     国債先物市場で売りが優勢となり、悪い金利上昇が生じる

②     日銀の信頼喪失と財政再建赤信号から日本からの資本逃避が起こり、円の暴落を招く可能性が大きくなる

   それがいつごろに起こるかを的確に予想するのはとても難しいのですが、次回は当たるも八卦で、それに挑戦します。

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トランプはいつ辞めるか

2017年08月19日 | トランプのアメリカ

  二の丸であるバノンの辞任で、本丸にいるトランプと家族を囲むやぐらで崩れ落ちていないのは、一つもなくなりました。完全なる四面楚歌です。

  トランプ劇場の「そして誰もいなくなった」は、アガサ・クリスティーのシナリオどおり順調に進んでいるようです。いよいよ最後の一人がどう殺されるか、あるいは自殺するかのみとなりました。

 「もうすぐ辞めるよ、どんなに遅くても年内だ」と予想しているのがトニー・シュワルツです。と言っても、彼をご存知の方はあまりいらっしゃらないと思います。1987年にトランプは自画自賛の自叙伝「アート・オブ・ザ・ディール」を書いたのですが、そのゴースト・ライターがシュワルツです。とても面白い本で、私は同じ年にNYに赴任したのですが、ベストセラーになっていたこの本を手に入れ、隅々まで読みトランプという男に感心した覚えがあります。

  シュワルツはもともとニューヨーク・ポストの記者からスタートし、ジャーナリストを続けながら様々なビジネス書などを書いています。80年代に1年半にわたりトランプの取材を続け、幼少時代から不動産の帝王と言われるようになるまでを自叙伝の形にまとめました。トランプの真実を最もよく知る男です。

  その彼が選挙キャンペー中から一貫して言っていたのは、「この男を大統領にしてはいかん、絶対にだめだ。彼はウソツキの誇大妄想狂で、大統領の器などではない。」という言葉でした。トランプの本質を知り尽くしているが故の言葉でしょう。

  その彼が「トランプはもう近々に辞める、どんなに遅くとも今年いっぱいだ」という予想をツイッターとCNNのインタビューで表明しました。白人至上主義者の事件直後のことです。

  彼が予想する辞任のタイミングは、「ロシア疑惑の結果が出る前。辞めた上で勝利宣言をする」と言っています。ウォーターゲート事件で辞任したニクソンと同じようなタイミングで辞任する道をたどる、というシナリオです。ただしニクソンと違うのは敗北宣言をして辞めるのではなく、勝利宣言をして辞めるというのがトランプを知る男の予想です。何の勝利宣言なのか、そこまではインタビューでも言っていませんでした。

  彼は「トランプはすでに政権を実質的に失った」とも言っています。「政策を何も実行できないのに、混乱ばかり巻き起こし、大統領とは言えない」。トランプを支持していた経済界の有力者はことごとくトランプを見捨て、共和党内からも離反者が続出し、政権内部も秩序を取り戻すことができなかったからです。

 

  トランプは重要な側近であるはずの首席補佐官のプリーバスを先月首にし、その後任には海兵隊出身のジョン・ケリーを据えました。ケリーはホワイトハウス内の秩序を取り戻すために、「大統領とのコミュニケーションは家族であれ閣僚であれ、すべてオレ様経由しか許さん。外部とのコミュニケーションもすべてオレを通せ」と宣言。軍隊出身者らしく指揮命令系統をはっきりしたおかげで、最近は娘婿クシュナーや娘のイヴァンカもおとなしくなっています。

  私の見方は、この命令がトランプの最側近であるバノンには一番効果的だった。つまり大統領と直接話ができないなら、首席戦略官でいる意味はないと彼は思ったのでしょう。バノンは辞任を迫られ、わりとスムーズに受け入れたに違いありません。

  ケリーにより指揮命令系統をはっきりとさせたハズのホワイトハウスですが、実際には秩序は以前よりひどくなりました。その原因はもちろんツイッターで発信を続けるトランプ自身の言動です。

  この一週間、白人至上主義グループへの対処をめぐってホワイトハウスの説明は支離滅裂。混乱させているのは首席補佐官ケリーを経由しないで好き勝手な言動を繰り返すトランプです。こうなると軍人出身のケリー、いつまで首席補佐官にとどまることやら。

  しかし白人至上主義に対するトランプの言動に、もっとも驚きの反応を示したのは4軍の司令官たちです。アメリカは3軍に海兵隊を入れて4軍と言うのがならわしです。司令官はそれぞれが、反旗を翻したとも言える声明を出し、「チーフ・コマンダー」のトランプを批判するに至りました。軍人が上官を批判したら、終わりは近い。

  それともこの4軍の司令官たちをまとめて首にしますかトランプちゃん(笑)。

  脳科学者中野信子氏の予想を覚えていらっしゃいますか。文芸春秋に「トランプはサイコパスだ」という記事を寄稿した今を時めく脳科学者です。彼女はトランプの最後をやはり「辞任」と書いていました。トランプの目的は「勝利」、つまり大統領になることで、国をどうこうする政策など持っていないので、辞任は早いかも、という予想でした。

  今後トランプを巡る話題の中心は、なにをどうしたではなく、「いつやめるか」になるでしょう。

 

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大丈夫か日本財政17年版 その15 日銀保有の国債はどうなる 11

2017年08月16日 | 大丈夫か日本財政

  チキンレースはトランプの勝ち!

  先にハンドルを切って正面衝突を回避したのは金正恩でした。

  本当に戦えば勝ち目がないことを、さすがの金正恩もわかっていますね。この動きに最も貢献したのはトランプを抑えに回っている国務長官のティラーソンと国防長官のマティスでした。彼らは対北朝鮮政策に関して、ウォールストリートに共同で寄稿文を寄せ、北朝鮮にトランプの言葉より穏やかな呼びかけをしています。それがかなり効いたに違いありません。

  一方、トランプ劇場で上演中の「そして誰もいなくなった」の劇はどんどん進行しています。白人至上主義者の集会で起きた暴力事件へのトランプのコメントが大きな波紋を呼びました。ホワイトハウスは直後に釈明をしたのですが、その後のトランプの余計な釈明が、現在さらなる批判を巻き起こしています。

  その結果、大統領への諮問機関として設けられた製造業委員会で企業トップなどのメンバーが辞任して去っていきました。メルク、インテル、アンダーアーマーという錚々たるトップ企業のCEOたちです。そして米国製造業連盟のスコット・ポール会長と、米国労働総同盟産別会議のリチャード・トラムカ会長も辞任。

  それ以前にパリ協定離脱ではテスラのイーロン・マスクやディズニーのアイガーら、恐いもの知らずは辞任していました。そうでないCEOはトランプに逆らうと逆襲されるリスクを感じ、おとなしくしていましたが、今後はトランプのインナーサークルに残ること自体が企業を危機に落とし入れるという危機感を抱いたのでしょう。

  「そして誰もいなくなった」劇は、議会内でも進行中です。私が以前から指摘しているように、来年選挙を迎える与党共和党の議員たちもトランプに危機感を感じているハズです。再選への心配からトランプ離反へと舵を切るに違いありません。アメリカの議員は下院議員全員が2年任期、上院は6年任期で3分の1ずつが2年ごとに選挙の洗礼を受けます。すでにトランプ支持からの離脱を密かに目指す議員たちが多くなっているにちがいありません。


   ではシリーズの「まとめ、その2」です。

  8月5日の「まとめ、その1」で説明したことを振り返りながら、さらに説明を加えて将来を予想します。

  私が従来述べていた家計貯蓄による財政ファイナンスの限界説は、団塊の世代がリタイアしても貯蓄志向が一向に衰えないため、論拠を失いつつあります。しかし家計の主体である日本人は、いとも簡単にパニックを起こすので、今後も要注意だとお伝えしました。

  一方、日銀の国債爆買いにより、市中金融機関が国債保有を通じて有していた財政リスクのほとんどが、日銀に転嫁されています。従来こうした日銀による国家財政ファイナンスは一国の経済・財政運営にとって踏み込んではいけない禁じ手でした。それがいつのまにか当たり前の世界になってしまっています。今は大多数のエコノミストも当たり前の政策として、いちいち非難する人はいません。まっとうなエコノミストは逆に肩身の狭い思いをしています。

  何故そんなことになってしまったのか。

  理由は08年に表面化したアメリカ発の金融危機です。日本ではリーマンショックと呼ばれますが、欧米ではその言葉は聞かれず、金融危機と呼ばれます。それが欧州にも波及し、欧米の巨大金融機関がことごとく危機に瀕しました。各国の政府と中央銀行は一体となって精一杯の危機対応を行いました。まずは金融機関に対し直接貸し出しで資金を供給し、預金者の取り付けを抑え込み、その後は各国ごとに国債購入を通じて市場に潤沢な資金を供給し続けました。

  その時、日本はどうだったか。日本の金融機関で危機に瀕したところなど一行たりともありませんでした。みなさんも預金を降ろしには行かなかったはずです。日銀は欧米ほどの危機対応は必要なかったのです。

  ところが08年からの金融危機が収まった後、日本では13年になってアベノミクスが本格導入され、遅まきながら大緩和策で欧米を追いかけました。その時までにアメリカのFRBも欧州の中央銀行であるECBも景気テコ入れのため巨額の国債買いをしていたので、中央銀行の大緩和策で景気にテコ入れをすることが当たり前になっていました。そのため金融危機のかけらもなかった日本でも、日銀が国債を爆買いすることが、当たり前ととらえられたのです。これが日本の間違いの始まりです。

  アベノミクス導入時は景気も株価も低迷していたため、ほとんどのエコノミスト達は3本の矢による2年限定のデフレ克服政策を絶賛し、政官財による大政翼賛会が形成されました。いったんこうなってしまうと、たとえ2年という目標をミスしても誰も非難せず、さらなる戦線拡大を擁護し続けました。兵站を考えずに戦線を拡大した日本軍の誤りを、まさに踏襲しています。

  私は後になれば必ずこうした反省が行われると思っています。

もう一度ここまでをまとめますと、

1.欧米における金融危機への中央銀行の対応が、国債の爆買いを正当化した

2.日本は危機ではなかったのに「デフレ克服」を目標に日銀が国債を爆買いしたが、それを表立って非難する有力者がいなかった

3. 市中に国債が枯渇しはじめても日銀は爆買いをやめず、事実上政府が発行する国債を直接買い付けするまでに至っている

  日銀はいまでも一応、政府発行の国債を直接買い付けしていません。形の上ではいったん銀行が引き受け、それを日銀がプレミアムを付けて買い取るという形態ですが、実質的には直接引き受けをしています。

  ではここに至っても、何故日銀は直接引き受けをしないのか。

  銀行に儲けを多少なりとも残すということもありますが、本当のところは日銀も「財政ファイナンスは禁じ手」であると、罪悪感を感じているからです。そうでなければ直接引き受ければいいのですが、そうはしません。そうしないのは、日銀による財政ファイナンスは無限の借金地獄への道だと、日銀自体がわかっているからです。

つづく

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