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不動産投資の判断はどうするのか

2020年08月27日 | 不動産投資

 猛暑が続きますね。毎日雨の7月、毎日猛暑の8月。これが9月まで続いたら耐えがたいですね。その中でコロナは依然収まらず、毎日自粛しながら過ごす日々はいつまで続くのでしょうか。

  さて今回は時事問題から離れます。7月29日の不動産価格の下落に警鐘を鳴らした記事の最後で、私は以下のように申し上げました。

「こうした日本の不動産投資ですが、実は金利は80年代の大バブル時代に比べてはるかに低いにもかかわらず投資行動は慎重で、無茶な投資はしていません。理由はオフィスビルにしろホテルにしろ、投資決定にはDCF(収益還元法)による価格評価方法を使っているからです。その裏には最初に申し上げた不動産投資にREITが参入したことがDCF評価を一般化させたことに貢献していたのです。 DCFは大変重要な投資の概念ですので、別途説明いたします。」

そして京おんなさんから

>更新が待ち遠しいです。

というコメントをいただきながら、そのままになってしまいすみません。今回はその説明をトライします。

 

  その前に不動産価格の最新状況が出ましたので、お知らせします。地価LOOKリポートというみなさんあまり聞きなれないかもしれない統計の数値です。

8月23日の日経ニュースから部分的に引用

新型コロナウイルスによる経済活動の停滞が地価を押し下げ始めた。国土交通省が21日発表した4月から7月にかけての主要都市100地区の動向を見ると、下落した地区数は前回調査(1~3月)の9倍超に急増した。小売店や飲食店の集まる繁華街が外出自粛や訪日客急減の影響を受けている。地価の上昇局面は転機を迎えたようだ。

地価LOOKリポートで銀座4丁目交差点を中心とする銀座中央地区の地価は横ばいから下落に転じた(東京・銀座)。

地価の変調を浮き彫りにしたのは国交省の「地価LOOKリポート」だ。全国の主要都市を対象に、駅前の商業地や駅周辺の住宅地など100地区の3カ月間の地価変動率を年4回公表する。

下落した地区は前回4地区だったが、今回は9倍超の38地区と全体の4割近くに達した。上昇した地区は前回の73から1に激減した。下落地区の数が上昇地区を上回るのは12年4~7月以来、8年ぶり。横ばいの地区も23から61に急増した。

引用終わり

 

  やはり地価は都市を中心に急激な下落に転じていましたね。今後の価格推移も大いに懸念されます。以前は年に一度の公示地価などの統計を見ていましたが、最近は四半期ごとにこの地価LOOKリポートが公表され、便利になりました。

 

  ではDCF(収益還元法)による価格評価方法の説明です。厳密な説明をするには面倒な数式を使う必要がありますのでそれは避け、なるべく平易に概念の説明をします。

  そもそもDCF収益還元法とはすべての投資にかかわる評価方法で、実は大本は債券計算に使われていた方法です。それを株式価格の評価や不動産価格の評価に応用しているのです。その説明にはどうしても「割引現在価値」という考え方を説明しなければなりません。ちょっと面倒ですが、分かりやすくを目指します。

  商売をされている人は「手形割引」をご存じだと思います。例えばある商品を作るメーカーが商品を100万円で問屋に卸したとします。ふつう取引は現金決済ではなく、例えば3か月後決済の約束手形、あるいは小切手で払われます。しかしメーカーは次の製品の原材料を仕入れる必要から、すぐに現金が欲しい。そこで手形を銀行に持っていきますと銀行は3か月の金利分を差し引いて現金をくれます。その割引率が銀行にしてみれば儲け分の金利です。一方メーカーにとってはその分銀行からローンを借りたのと同じ金利を取られます。

  割引率は通常年率で表されますが、それが4%だとしましょう。すると、面倒なので単利で行くと、3か月分はその4分の1なので1%です。メーカーは銀行に手形を持っていくと100万円から1%相当の金額を差し引かれ99万円もらえます。銀行はそれを3か月後まで保有しその後問屋と決済すれば100万円もらえます。

 

  これは多くのみなさんが投資している米国債のゼロクーポン債投資と同じ原理です。その金利が4%だとすれば、3か月後満期のゼロクーポン債の価格は99万円で、3か月後に100万円で償還されます。3か月後に100万円になる年利4%のゼロクーポン債の「割引現在価値」は99万円だということです。

  では投資するか否かはどう判断されるのでしょうか。上の例を10年債とすれば、10年後の償還時に100万円もらえる利回り4%のゼロクーポン債の複利計算による割引現在価値は675,564円です。その投資判断をする際、67.5万が妥当か否かということではなく、年利4%は投資に値するか否かで判断しますよね。つまり割引委率とは、実はリターンの率なのです。

  手形割引のケースでは、年利4%の3か月分を銀行は得ます。それが銀行にとって投資のリターンです。そしてメーカーにとっては借入金利と同じで、金利というコストを払って現金化しています。

 

   ではその応用で、不動産に投資する場合のことを考えます。不動産価格の妥当性は、バブル時代は将来それを売ったらナンボになるということだけを考えていました。3年後に2倍になるかもしれないから買いだという具合です。ですので土地の価値を計算するのに、その土地の産み出す収益は度外視していたのです。

  しかし現在はそうではありません。例えばREITがあるオフィスビルに投資するか否かの判断は、利回りで判断します。たとえば100億円のビルに投資し、毎年賃貸料を4億円もらえれば単純計算で利回りが4%です。だったら投資しよう、でも2%ならやめておこうという具合に利回りで判断します。私たちの米国債投資と同じような判断をしています。つまり将来得られる収益を考え、価格の妥当性を判断する。だとすると土地のようにそのままでは収益を生まない投資対象はどう判断するか。それはその土地に例えばオフィスビルを建て、それを貸し出すと得られる収益を想定し、投資額全体に対するリターンを計算します。

  土地ころがしでナンボ儲かりそうなどというおバカな投資判断は昔話です。将来の収益を割引率で現在価値に還元することで妥当な価格を導き出すのが、収益還元法という投資判断です。ここまで、原理はぼんやりとでもおわかりいただけましたでしょうか。

  これは株式投資も同じです。市場価格がある上場株であればすでに価格があるので高いか安いかの判断がつきやすいのですが、非上場企業をM&Aで買う場合は価格をどう決めるのでしょうか。今はほとんどのケースで、その企業が将来産み出すリターンを割引率で割り引いて現在価値を計算します。この場合リターンとは厳密には会社の産み出す純利益ですが、営業利益を使ったりもします。上場株への投資でも、市場価格の妥当性を収益還元法で判断したりします。DCFを使って自分の計算した想定価格を市場価格が下回っていれば投資しようとなりますし、上回っているとやめておこうとなります。

  では割引率はどう決めるのでしょうか。割引率とはリターンの率ですが、なんパーセントだと決まっているものではありません。自分は4%あれば満足という人もいれば、いや5%は欲しいという人もいるでしょう。M&Aなどでは、株式市場での業界平均的リターンを参考にしながら決めたりしますし、目標リターンを決めて交渉するような場合もあります。

  割引率と価格は反比例します。例えば将来の収益を5%で割り引くと、4%で割り引いた価格より現在価値は安くなります。

  それをゼロクーポン債で考えますと、最後に100万円で償還される10年物債券の現在価値は、利回りが4%であればさきほど675,564円であると示しました。では5%だとどうか。答えは613,913円で、4%のケースより安くなります。

 

  この計算、単純な四則演算ではできません。もしそれを計算してみたい方は、以下のサイトに行くと、数字を入れるだけで簡単に計算してくれます。

https://keisan.casio.jp/exec/system/1248923562

 

  ここではいくつかの種類の計算が可能です。例えば100万円を投資して、複利で10年運用するといくらになるかは、このページの右端にある「関連ライブラリー」の欄で、「複利元利合計」に行って計算して下さい。逆に満期時に100万円になる利率4%の割引現在価値はいくらかを計算したい場合、同じ右の欄の「現在価値の計算」に行くと、計算してくれます。

 

  ここまでの話を要約しますと、

「現在の投資理論で使われる最も大事な価格計算のモデルはDCF=収益還元法である。」

そしてその方法はもともと債券計算で使われていた方法で、その他の投資にもそれが応用されるようになった、ということです。

  

  以上、DCFの説明でしたが、実に面倒で理解に時間がかかりますよね。

参考にしてみてください。

コメント (1)
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不動産バブル崩壊の再現

2020年07月29日 | 不動産投資

  あれだけ動かなかったドル円レートが、一時NYで104円台に入りましたね。ドル転のチャンスを待っている方、少しずつ買い下がるチャンスかもしれません。

 

  今回は私がコロナ禍で懸念している日本の不動産投資についてです。

  80年代に我が世の春を謳歌した不動産投資でしたが、バブルは大きく膨らみ90年代早々見事に破裂。株式市場の崩壊とともに後遺症が十数年に及ぶ日本経済の低迷を招く最大の要因になりました。しかし08年の金融危機後にはバブルの後遺症もほぼ癒され、12年末の安倍政権によるアベノミクス宣言と日銀の異次元の金融緩和により、不動産市場はふたたび復活し、現状は行き過ぎてバブルの様相を呈していると思います。といってもそれは全国レベルの話ではなく、東京などの大都市とその周辺、そして地方の中核都市での話です。

  その裏では2000年代初頭から始まったREITという不動産投資の新たな動きが投資の後押しをしています。REITは不動産投資信託として小口の投資を可能にし、一般投資家を広く募ることを可能とした投資システムです。現物の不動産は資産の中で最も流動性に欠け、私が忌み嫌う資産の代表格ですが、REITは小口だし上場されていて流動性が十分にあります。アメリカでは70年代からある商品で、もし日本でも早くからREITがあったら、あの猛烈なバブルはなかったかもしれません。その理由は、REITによる不動産の評価方法が、世界標準であるDCF(収益還元法)だからです。

 

  今回のコロナ危機は、アベノミクスによる不動産バブルを崩壊させるインパクトを持っていると私は見ています。なぜならこの10年あまりの不動産投資が、限られたセクターに集中し、価格を押し上げているからです。集中先は第一にオフィスビル第二にホテル第三に都心の高層マンションの3つです。ひとつずつ見ていきましょう。もう一つ、物流センターの建設ラッシュは、心配なレベルまでに達していないとみています。

 

  まず第一にオフィスビルから。コロナ感染の最も有効な予防策はリモートワークです。それがすでに都心オフィススペースの縮減をもたらしています。企業によってはオフィスをすべて返却し、今後永遠にリモートワークをすると宣言するところまで現れています。そこまでいかずとも例えば富士通は8万5千人の社員を抱えていますが、今後3年間でオフィスを半減させる目標を立てました。NTTも原則5割を在宅勤務とし、日立製作所でも全社員の7割を目標に週の半分は在宅勤務を継続します。こうした動きは大企業に限らず、むしろ渋谷などにオフィスを構える新興IT系ベンチャー企業に幅広く浸透しつつあります。小規模な非製造業の企業にとって、人件費を除けば最大の固定費はオフィスの賃貸料です。それが削減できれば企業の存続可能性をがぜん高めることができます。

  一方供給サイドでは新築のオフィスビルが今後もどんどん竣工する見込みで、都内に限っても1万平米以上のオフィスビル・プロジェクトが2百数十も進行中だそうです。需給ともに懸念される状態です。

  私はゴルフに行くとき、時々首都高でレインボーブリッジを渡るのですが、最近の東京の夜景は本当に綺麗です。昔NYにいた時にブルックリンサイドからみたマンハッタンの摩天楼の夜景に見とれましたが、東京もそれに負けないほど高層ビルと高層マンションが密集していて、それに東京タワーのライトアップが花を添えてくれるまでになっています。

  今回のバブルの頂点を象徴するものとして森ビルとJTによる「神谷町プロジェクト」が進行中で、規模もさることながら、日本で最も高いビルも建ち上がる予定です。こうした多くの新規プロジェクトは、コロナで減退しているオフィスビル市場に水をかけ、賃料を下に引っ張ることになります。

  もっとも新築のビルは埋めることができます。同じ賃料なら新築ビルにの競争力は古いビルに比べて圧倒的に強いからですが、その分古いビルは借り手を失うか、賃料を下げざるを得ない。それが玉突き状態で波及します。もちろん新築ビルも実際には見込んだ賃料を得ることができず、収支は悪化せざるを得ません。

 

  そして第二のホテルですが、海外観光客の99.9%の減少と国内旅行客や出張客の減少が稼働率を大きく減少させると同時に客室単価も低下させ、その掛け算である売上高は壊滅的な状況です。その様子を5月21日の日経ニュースから引用します。

 

引用

ホテル専門の英調査会社STRが発表した4月の日本国内ホテルの稼働率は14.1%となり、3月に続いて過去最低を更新した。平均客室単価も前年同月に比べ47.5%下落した。新型コロナウイルスのまん延で宿泊業の収益環境の悪化が一段と鮮明になった。

都市別にみると東京の客室単価は1万2829円で前年同月比41.9%下落。大阪は9295円で同40.9%下がった。稼働率はビジネス客の減少も影響し東京が11%、大阪が10.3%となるなど落ち込みが目立った。

引用終わり

 上の数字をまとめて単純化しますと、稼働率が8割以上減少してわずか2割弱に。そして販売単価が4割減なので収入は従来の1割強しかなくなった、ということになります。その上ホテル業界の最大の悩みは、ここに至るまでの数年と今後数年の新設ホテルによる供給激増です。それもラグジュアリーなホテルの建設ラッシュばかりではありません。他人事ながら心配なのはホテル業界でも日本最大、10万室の客室数を誇るまでに急成長したアパホテルです。いまでも毎日のように新ホテルのオープンを宣伝し続けています。APAだけは例外などということは決してありません。

 

  そして第三に都心の高層マンションです。すでに家計の防衛本能が新築住宅への需要を冷え込ませています。それと同時に、リモートワークの普及は過密都市からの逃避をもたらしつつあります。その様子をまずは時事通信6月18日のニュースから。

「不動産経済研究所が6月18日発表した5月の首都圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉各県)の新築マンション発売戸数は前年同月比82.2%減の393戸だった。4月の686戸を下回り、単月の戸数として過去最少を更新した。」

それが6月には若干回復し、以下のようになっています。

「6月のマンション市場動向調査によると、首都圏の新築マンション発売戸数は前年同月比31.7%減の1543戸と10カ月連続で減少した。契約戸数は1129戸で、消費者が購入した割合を示す月間契約率は同7.3ポイント上昇の73.2%だった。

  その結果、2020年上半期(1~6月)の首都圏(東京都、神奈川、埼玉、千葉各県)の新築マンション発売戸数は前年同期比44.2%減の7497戸だった。上半期としては1973年の調査開始以来、最少となった。」

 

  こうしてオフィスビル、ホテル、新築マンションなどの数字をみると、すでに不動産バブルの崩壊が始まっているという見方に納得がいくと思います。そしてコロナが去れば戻るという期待は持たないほうがよいと思います。何故ならバブってしまったということは、あるべき水準をはるかに超えているということですから、超えた分まで戻ることはありません。

  この3つの不動産セクターはいずれも建設業界にとっては最大の顧客です。ということは、すそ野の広い建設業界も不動産の不振により大きな悪影響を受け、今後は産業界の中でも大いに足を引っ張る側にまわることでしょう。ということは、鉄骨やコンクリート、ガラスなどの建設資材メーカーも影響を受けます。

 

  こうした日本の不動産投資ですが、実は金利は80年代の大バブル時代に比べてはるかに低いにもかかわらず投資行動は慎重で、無茶な投資はしていません。理由はオフィスビルにしろホテルにしろ、投資決定にはDCF(収益還元法)による価格評価方法を使っているからです。その裏には最初に申し上げた不動産投資にREITが参入したことがDCF評価を一般化させたことに貢献していたのです。

 

DCFは大変重要な投資の概念ですので、別途説明いたします。

 

つづく

 

コメント (6)
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