ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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金融センター,シティーの行く末

2016年07月19日 | イギリスのEU離脱 BRE

   今年の全英オープンゴルフは、実に見ごたえのある試合でした。おかげで海の日は寝不足でした。あれだけのビッグスコアで2日間死闘を繰り広げるのはめったにありませんね。優勝はスウェーデンの40歳ステンソン、2位はアメリカの49歳ミケルソン。リンクスの厳しいコンディションに打ち勝ったのはこの二人。若手の居並ぶ3位以下は11打も離されていました。

  テニスではしばらくイギリスの選手が勝てずにいたため、「ウィンブルドン現象」という言葉ができてしまいました。場所だけ貸して自分たちは蚊帳の外ということを言い表す言葉です。実はゴルフもアメリカ人が席巻していた時期があったのですが、最近はスコットランドや北アイルランドを含めイギリス人が勝つようになっています。

  ウィンブルドン現象の最たる分野がロンドンの金融街、シティーです。英国系金融機関で世界のトッププレーヤーがほとんどいなくなり、それでもシティーは世界の金融センターの地位を保っています。しかしBREXITで果たしてシティーの将来はどうなるか。

  最近はかなり悲観的なニュースが流れています。例えばロンドンのREITファンドが解約不能に陥ったとか、英系ファンドから400億ドルが流失したとか。それが果たしてシティーの衰退にまでつながるのかをみてみたいと思います。

キーワードは以下の4つです。

・ウィンブルドン現象

・シングル・パスポート

・国境なきユーロ市場

・資本調達市場

  最初の言葉はすでに説明しましたが、イギリス系のメジャープレーヤーがいなくなってもシティーの地位は全く揺らいでいません。

  次に2番目の「シングル・パスポート」を説明します。

  EU離脱の一番のデメリットはEUへのパスポートをすべての分野において失うことです。

  イギリスで得た銀行免許はEUのどこに行っても通用しますので、いちいち免許を国別に取り直す必要はありません。ちょうどEUパスポートの所持者であればEU内での移動には国境がなくなるのと同じです。それがEUメンバーの一大特権、「シングル・パスポート」です。

  世界の金融センターとして名をはせているのはロンドンのシティーとニューヨークが双璧でしょう。世界にはその他にもシンガポールや香港があり、最近は中東のアブダビなども頭角をあらわしていますが、2つの都市とは比べるべくもありません。

  では本当の意味で世界の金融の中心地はどこでしょうか。

  それはロンドンのシティーです。ニューヨークではありません。何故ロンドンのシティーが世界の中心なのでしょうか。それを解くカギは3番目のキーワード、「国境なきユーロ市場」です。

  私は米系の投資銀行ソロモンブラザーズで10年間仕事をしていました。仕事内容は資本市場部という部門で、日本企業、あるいは日本企業の海外金融子会社の発行する社債などの引き受けをすることでした。その主戦場はニューヨークではなく「国境なきユーロ市場」、場所は主にロンドンでした。

  ここで言うユーロ市場のユーロとは通貨ユーロの意味ではなく、欧州全体をぼんやりと指すユーロ市場という極めて自由度の高い「国境なき欧州の市場」を指します。

  ユーロダラーと言う言葉を聞いたことのある方は数多くいらっしゃると思います。実際には通貨はアメリカのドルなのですが、アメリカの国境を越えて、海外市場で自由に動き回るドルをユーロダラーと言います。それが円であればユーロ円と言われ、通貨がユーロだとユーロユーロになり、ちょっとへんですが、使われています。

  そうしたユーロダラーやユーロ円、ユーロユーロを運用する投資家をめがけて、社債発行の引き受けをするのが仕事でした。実際には発行された債券を買い取り、投資家に売って手数料を稼ぐのです。

  何故米系投資銀行がニューヨークでなく、ユーロ市場で活動するのか。

  理由はアメリカの厳しい規制を逃れるためです。発行された債券は株式同様、特定の取引所に上場されます。例えばロンドン証券取引所です。上場されない債券は投資家から買ってもらえません。取引所は上場の承認にあたり基準を設けています。ニューヨークだと数年の財務諸表を専門家がアメリカの会計基準であるUSGAAPのベースで作り直す手間が必要で、費用と時間が膨大にかかるのです。

  それに引き換えロンドンの取引所は、普段日本の会計基準に合わせて作られている財務諸表をただ単に英文に翻訳すればそれで許してくれるのです。そのため発行体にとって使い勝手は格段に上です。そのむかし日本国、正確には大日本帝国が高橋是清を送って日ロ戦争の戦費調達を行ったのも、他ならぬロンドンのシティーにおいてでした。それが次のキーワード、

  シティーは「世界の資本調達市場」なのです。

  ユーロ市場の自由度は投資家側にも大事です。アメリカだと債券保有者は国債、社債に限らず名義を当局に登録する必要があり(ベアラー・ボンド)、資産状況を捕捉され、源泉徴収を受けます。ユーロ市場では昔の日本株のように株券(債券も)を持っていれば名義を変更していなくても所有権を主張できるので、捕捉されづらく、名義変更手続きも不要となります(ベアラー・ボンド)。もっともこのような税制上の抜け道は塞がれつつあります。

  こうした資本調達手続きの簡素さは債券発行に限らず、株式発行でも銀行借り入れでも同じで、企業側も投資家側も、使い勝手が非常によいのです。そのため米系の投資銀行でも日本企業の証券の国際的な引き受けはシティーで行うことが多いのです。

  以上のことから投資家もおカネをユーロ市場に置いて運用するのです。オイルマネー、チャイナマネー、日本マネー、そしてアメリカの一部のマネーもいったんは「国境なきユーロ市場」に置いておき、そこから運用します。

  じゃ、もう一つの国際金融センター、ニューヨークは何なのか?

これは「巨大なローカル市場」です。アメリカ企業はユーロ市場という国際的な資金調達市場に頼らずとも、投資家のフトコロも深いアメリカ国内で調達が完結します。それが巨大なローカル市場、ニューヨークです。

  BREXITに伴い、ロンドン・シティーの代わりにフランクフルトやパリが名乗りを上げています。しかし今現在もそうであるように、それらの市場がユーロ市場の代表になることは非常に困難です。理由は、自由度が低いことの他、専門家が少ないことや英語だけでは通じないこと。そのことは金融機関も発行体である国家や企業、また買い手の投資家にも共通して言えることです。

  では本当にシティーが将来も世界の金融センターでいられるか否かについてです。

  私はBREXIT後も、シングル・パスポートさえ交渉で確保できれば、世界の金融センターでいられる可能性は十分にあると思っています。もちろん残留のほうがイギリスにとっては圧倒的に有利だと思うのですが、金融関係だけはシティーに優位性があるため、さほど悲観的ではありません。それについてもう少しだけ解説します。

  BREXITとは、EU内で人の移動や、貿易や投資などあらゆる活動でパスポートを失うということを意味します。企業は製造物の輸出販売許可をいちいち取り直し、それぞれの国と関税協定を結びなおし、銀行は支店や海外子会社の免許を取り直し、投資活動も許可を得なければできなくなる。

  今後の離脱交渉の一番のポイントは、27か国とすべての活動でいちいち交渉をしなくてはならないのか、あるいは一つのパスポートで済むよう、27か国全部が一括で認めてくれるのかが最重要になると思われます。

  BREXITに怒るEU側は域内のタガを締めなおすためにも、すべてに「ノー」と言う可能性があります。しかし市場の動揺を通じて各国経済を左右しかねない金融分野だけは、シングル・パスポートを認める可能性があると私は見ています。それがメイ新首相にとっても生命線となりそうです。

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イギリスのEU離脱問題 BREXIT 第3弾

2016年07月02日 | イギリスのEU離脱 BRE

  BREXITの衝撃波は、第一波がやっと去りつつあるようです。しかし離脱物語は同じようなストーリーが何度でも繰り返されそうですね。今後スコットランドの英連邦離脱や、欧州数か国のEU離脱などもありうるような波状攻撃のため、リーマンショックの時よりたちが悪いかもしれません。

  いまさら「国民投票をすべきではなかった」とか、離脱に投票した人が「投票をやり直したい」とか言っていますが、覆水盆に返らず。ポピュリストに乗せられた愚かな己を呪う以外にありません。

  ボリス・ジョンソンは離脱が決まって招集された国会に姿も見せることができませんでした。自分で掲げた公約を直後に撤回しなくてはならなかったため、蟄居したのでしょう。離脱派のファラージ独立党党首とジョンソンのキャンペーンバスに書いてあった「EUに週480億円も払っている」というのが、実は3分の1の160億円程度で、「国民医療サービスの財源にするぞ」と言っていたのを、即時撤回しています。

  「離脱派に騙された」と言っている人たちの後悔もこの点に集中しています。

   しかもジョンソンは保守党党首にも立候補しない。つまり離脱の尻拭いは残留派に任せるという選択をしたわけで、無責任極まりない。勝利した瞬間に「あれは間違いだった」という離脱派の首領が二人もいるイギリス、そしてなによりもそれをしっかりと検証し、批判していなかったイギリスの保守党とマスコミ。いったいこの国はどうしたんでしょう。イギリスは長期低迷の道に入るかもしれません。ご愁傷様です。

  私は先日この結果に喜んでいる人たちとしてまず、トランプ、プーチン、習近平、金正恩、エルドアンなどを掲げましたが、今一人、密かにほくそ笑んでいる人を忘れていました。ヒラリーです。今回のジョンソンを反面教師として、トランプを支持してきたアメリカ国民は己の愚かさに気づいたに違いありません。支持率が低下を始めています。

  私はイギリスの戦いは「知性派対反知性派の戦い」と定義しました。イギリスでは知性派が反知性派に数で負けました。この国は知性派の方が少なかったようです。一方、アメリカの戦いは「良識派と反良識派の戦いだ」と定義しました。良識派はもともと国民の多数を占めるに違いないので、トランプが勝つことは絶対にないと思っています。

  コメント欄にいただいた質問に、トランプの演説を引用して以下のように返答しました。

>万一、トランプが大統領になっても米ドルと米国債は
大丈夫でしょうか?

ダメでしょう(笑)
すでに「借金を踏み倒すのは、オレの得意技だ」といっていますからね(笑)

   でももちろんトランプの勝利などありえないので大丈夫です。

  彼はこれからムーンウォークを始め、公約・口約束をどんどん撤回していきます。するとなんのことはない、トランプはただの大ぼら吹きだということが明らかになります。どうりでジョンソンとキスしたわけです(笑)。

   気の毒なのは共和党です。トランプに打ちのめされ、分断され、EU騒ぎがおさまるとアメリカはふたたび銃規制問題です。全米ライフル協会のたかが400万票にこだわるがために、その他の国民を敵に回しています。大統領選挙と同時に行われる議会選挙でも、トランプの逆風に加え銃規制でも共和党は劣勢に立たされるでしょう。

   今一つ、新たなニュースが入ってきました。それはオーストリアの大統領選挙のやり直しです。

   私は先日の記事でオーストリアに関して取り上げました。

   それは、5月の大統領選挙で極右の候補と緑の党の候補が大接戦を演じ、穏健派の緑の党候補が勝利した。極右の候補はEUに懐疑的で、もちろん移民に大反対です。欧州の極右勢力はどこの国においても、本当に要注意のところまで到達している、という趣旨でした。

  ところが昨日、その選挙の開票方法に違法性があったとして、選挙がやり直しになるというニュースが入ってきたのです。7月1日のロイターを引用します。

引用

オーストリアの憲法裁判所は1日、大統領選挙の決選投票をやり直す必要があるとの判断を示した。僅差で敗れた極右政党「自由党」候補者ノルベルト・ホーファー氏が大統領に就く可能性が出てきた。

5月22日の決選投票では「緑の党」前党首のファン・デア・ベレン氏が1%ポイント未満の差でホーファー氏を破った。郵送票がデア・ベレン氏に有利に働いたが、一部で決められた時間より早く開票するなど郵送票の開票方法に問題があったとの指摘が出ていた。憲法裁は今回の判断について、選挙の規定を厳密に運用すると説明した。

引用終わり

  秋に再選挙とのことですが、「イギリスの離脱決定を経て、はたして極右が離脱を掲げて勝利するかが見ものだ」と言われています。イギリスの離脱は極右に有利に働くのか、あるいはイギリス人の慌てぶりと市場の混乱をみて穏健派=残留派が再び勝利するか見ものです。

  そしてこのオーストリアのニュースの最大のポイントは、5月の選挙が全く話題になっていませんでしたが、今回は小国と言えども世界が取り上げ、日本も取り上げ、またしても市場が震撼する恐れが出てきてしまったということです。

  今後は27か国もあるEU加盟国の選挙のたびに、市場は震撼しなくていけない。為替や株式投資をされている方には、お気の毒様と申し上げておきます。

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債券の世界から見たBREXIT

2016年06月26日 | イギリスのEU離脱 BRE

  離脱のインパクトが与えた金融市場の動揺の大きさに、離脱派さえも驚き、「ちょっとヤバったかも」と思っているようです。イギリスの若者はツイッターなどで、「もう一度投票をやり直してくれ」と言い、署名を集めデモまで始めています。25歳までの若者の残留への賛成は66%にも達しているという報道がありました。お気の毒にとしか言いようがありません。しかし再投票はないし、後戻りはできません。彼らはきっと無力感にとらわれるでしょう。

  日本の選挙でもきっとこの構図が当てはまるに違いないと私は思っています。若者に必要なのは増税延期ではなく、「消費増税」で、それこそが将来の安心感へわずかに残された細道ですが、すべての政党が「増税延期」で一致し、選挙の争点にすらならなくなってしまいました。きっと日本の若者は無力感でしらけ返っていることでしょう。

 

  さて、BREXITに対する私の見方、第2弾です。

  株式市場は実に単純明快です。先週の金曜日一日で失われた世界の株式価値はブルームバーグ調べで2,100億ドル、21兆円にものぼります。すべての市場で暴落した株式相場の解説は、その道のアナリストや報道におまかせします。

  私は債券の専門家ですから、このブログに集まるみなさんのために他では見ることができない、債券相場から見える今後の動向についてをお伝えします。米国在住債券初心者さんからいただいた、「新たな気付きを提供していただける本ブログ及びコメント欄はどの経済新聞やコラムよりも価値があると思っております。」との期待に応えたいと思います。

 

  まずBREXITが決定した6月24日金曜日の世界の債券相場を見てみましょう。繰り返しますが、債券というのは買われて価格が上昇すると、金利は低下します。逆に売られて価格が下落すると、金利が上昇します。そのことを念頭に各国の長期債の指標となる10年物国債の金利の動きを、前日との比較で見てみます。

   私は常々、「世界に大激震が走るとアメリカ国債は買われる」と言い続けてきました。そのアメリカ国債から、前日との金利差を数字で示します。数字の単位はbpという単位ですが、要は小数点以下の2桁で、-10とあれば、0.10%の金利低下で、その債券は買われたことを意味します。アメリカ国債はしっかりと買われました。

          

アメリカ国債10年物  1.56   -19  前日1.75%だったのが0.19%低下した

日本       -0.18 -3   

ドイツ       -0.05 -14

フランス       0.38 -7

 ここまでは買われて金利が低下した主要国。一方、売られたのは、

イタリア      1.55  +15

スペイン      1.62  +16

ギリシャ      8.31  +77

  アメリカ国債は激震に対していつものように大きく買われました。欧州では財政が健全な国は買われ、債務比率が大きく、信用格付けの低い国が売られています。そしてギリシャは危険水域に深々と入っています。

  「債券の金利はリスクの象徴でもある」と述べていたことが、まさしく金曜日に起りました。それが手に取るようにわかります。

  では当の英国国債(通称ギルトと言います)はどうだったか。

イギリス      1.08  -29

なんと主要国では最大の買われ方をしています。いったい何故か?

  この日、ムーディーズは「BREXITはイギリスの信用にネガティブな影響を与える」というコメントを発表しました。それにもかかわらず、買われたのです。コナンドラム?

  では現状のイギリスの格付けを、アメリカと比較して見てみましょう。

     S&P     Moody’s     Fitch

US        AA+     Aaa          AAA

UK        AAA     Aa1          AA+

(注)ムーディーズの小文字のaはS&Pなどの大文字のAと同じです。

  アメリカはS&PだけがダブルAプラスで、あとはトリプルAです。S&PによるアメリカのAA+は、何度か申し上げているように、財政収支の計算を彼らが大きく間違えて、社長の首が飛びましたが、それでも突っ張ったままでいるからです(笑)。イギリスはトリプルA一つ、ダブルA二つでアメリカより若干落ちるだけです。なお満点はドイツで、すべてトリプルAです。ちなみに日本はすべてシングルAと、危険水域に近づきつつあります。

   世界の株式市場はすべて暴落しましたが、債券市場は買われた国と売られた国がはっきり分かれました。これが債券市場の賢い一面です。ちょっとだけ迷いがあり、買われてはいるものの、価格上昇が小さかったのは日本とフランスです。

   ではイギリス国債が買われた理由は?

  市場アナリストの答えは「質への逃避」、英語ではFlight to Qualityだと言われています。長期的に見ればイギリス経済はEUからの離脱により低落傾向に入る可能性があるのに、本当に質への逃避でしょうか。

   私の見るところは全く異なります。何故ならアメリカ国債の-19に比較して-29と、すさまじい買われ方をしているからです。

   私は介入の匂いを感じています。欧州中銀と英国中銀は投票結果が出始めた金曜日の未明のうちに、金融市場を落ち着かせるため莫大なる資金供給を宣言していました。それが英国債を買う形で行われたのだと思います。日本と違い中央銀行が株式を買い支えることはできませんが、国債は買えるのです。特に緊急対応の場合は、こうした措置が取られるべきです。英国債を買い資金を供給するとともに金利を低下させ、金融市場を落ち着かせたのです。

   では、こうした一連の債券市場の動きから、さらに読み取る必要のある事象とは何か。

   それは、今後のEU各国の離脱の動きに対するけん制です。その象徴はギリシャで、

「もしお前たちが離脱の動きをしたら、数年前のように市場に撃たれ国債発行に行き詰まり、破たんだぞ」、そして

「イタリーとスペイン、あんたがたも同じだよ」、ということを示しているのです。

  これらの国に対しては株式市場よりずっと規模の大きな債券市場というとても怖い存在から、大きな警鐘が鳴らされました。

   じゃ、日本の国債は何故ちびっとだけ買われたのか。

   残念ながら日本は以前から申し上げているように、クロちゃんが体温計たる金利市場をぶち壊してしまったので、全く参考になりません。株式市場という血圧計は動きますが、体温計は動かぬまま突然死しかないのです。

   今後欧州各国で離脱の動きが出てきそうです。BREXITの直後に声明を出しているのはフランスとオランダの極右政党です。その他に、国ではなく地域ではありますが、スコットランドとスペインのカタルーニャです。果たして反知性派がちょっと複雑な債券市場を読み取れるか。それははなはだ疑問です。

 

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イギリスのEU離脱 BREXIT

2016年06月24日 | イギリスのEU離脱 BRE

   英国のEU離脱が決まりました。私の予想はハズレでした。

    私はこの戦いは失礼な言葉ながら「知性派対反知性派」の戦いだと位置づけました。人々の不満と不安を煽り代弁する反知性派の主張は、ワンフレーズで理解しやすくアピール力が強い。移民反対、EU分担金支払い反対、EUの独裁反対など、ワンフレーズのオンパレードです。

  それに対して知性派は、何故移民を受け入れなくてはならないか、何故分担金は支払わなくてはならないか、EUは決して独裁者ではないなどにつき、面倒な説明をしなくてはいけない。アピール度は全くないし、不満を持つ反知性派は、説明など聞こうともしないので、知性派は苦労するだろうと申し上げました。

   そして知性派は説得に失敗しました。英国の多くの錚々たる知識層、セレブリティー、IMFやOECDをはじめとする世界的機関のトップがこぞって残留をサポートしたにも関わらず。

   ブログの6月15日の記事をもとに、今後の心配事について記します。

引用

英国の離脱の影響について、エコノミストからいろいろな予測数値が出ています。もっとも悲観的数字を並べますと、

・日本のGDPを0.8%押し下げ

・ドル円は100円に下落

・日経平均は13,000円に下落

かなり衝撃的な数字が並んでいます。

引用終わり

  このうちドル円レートが一時的ではありますが、100円を割り込み、日経平均の終値は14,000円台に突入でした。

  しかしさらに私は自分の意見としてこう続けています。

引用

しかし私が考える、より本質的な悪影響は、そうしたある意味一過性の金融市場への影響ではなく、もっともっと深刻だと思っています。それがどこに出るのか、

一番は、戦後長期間かかって築いた欧州内の平和維持システム

二番は、同じく長期間かかって築いた経済の相互依存システム

こうした営々と築き上げたシステムに甚大なる悪影響を及ぼすと思われるのです。

引用終わり

  これらが現実になりそうなのは本当に危惧されます。現在日本時間で3時半ですが、すでにブラッセルのEU内ではイギリスの離脱をどうとらえるかの議論が始まっていて、対応に苦慮しているようです。


  一転して、この新たな現実に喜んでいるのは誰か。

  私はフェースブックに、「やめて、やめてーー」と題して、絶対に見たくない画像を掲げてあります。それはなんとドナルド・トランプと離脱派の旗手ボリス・ジョンソンがキスを交わしているおぞましい絵で、AFP通信が報道したものです。

こわいものみたさの方は、こちら→

http://www.afpbb.com/articles/photo-slide/3088208?pno=1#/1

  喜んでいるのはトランプだけではありません。5月11日の「もしトランプが大統領になったら」の記事で掲げた自己中心の独裁的政権のリーダーたちです。

  ロシア大統領プーチン、トルコ大統領エルドアン、習近平、金正恩。ついでにシリアのアサド大統領やその対抗勢力であるはずのISISも上げておきましょう。欧州を分断したがっていて、米英連合を分断したがっている独裁者たちです。きっと祝杯をあげているにちがいありません。

  そして欧州内の極右派のリーダー達です。フランスやイタリア、そしてデンマークでも離脱を論点にする国民投票の機運が高まりかねません。現在のリーダーが今後どうその機運を鎮めていけるかが問われます。

  いま日本時間の午後4時ですが、すでに始まった欧州の株式は軒並み8-9%暴落しています。私が見ているCNNのレポーターは、欧州株式を「Crashing」と表現しています。もちろん為替でもポンドが暴落し、連れてユーロも暴落。為替の暴落には上昇する相手が必要ですが、ドルと円が買われている2大通貨です。注意すべきは、ドルは欧州通貨に対しては暴騰しているということです。

  午後4時20分、ロンドン・ダウニング街10番地のドアが開き、キャメロン首相の敗北ステートメントが始まりました。彼はこの敗北により次の党大会で辞任することを伝えました。自分が首相として6年の間に英国経済が目覚ましく回復したこと。そして2年前の選挙で国民投票を約束し大勝利を挙げたことを述べています。しかし今回の敗北で潔さを示しました。

  後継の有力候補はトランプとキスした(笑)、ボリス・ジョンソンの可能性が高いと言われています。

  とりあえず、本日はここまでです。

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イギリスのEU離脱問題 BREXIT

2016年06月15日 | イギリスのEU離脱 BRE

  私は今後の世界を震撼させる可能性のある脅威は、以下の3つだと見ています。

1.    英国のEU離脱=BREXITからEU崩壊

2.    中国の政治経済メルトダウン

3.    日本の財政バブル崩壊

   先日、トランプに勝ち目はあるかの解説を書いていますが、その最後に「トランプは勝てないのでアメリカが震源地になることはなく、BREXITのほうがよほど大きなリスクだ」と書きました。やはりこの問題は世界的に大きな問題になっています。

   英国の離脱の影響について、エコノミストからいろいろな予測数値が出ています。もっとも悲観的数字を並べますと、

・日本のGDPを0.8%押し下げ

・ドル円は100円に下落

・日経平均は13,000円に下落

かなり衝撃的な数字が並んでいます。

  しかし私が考える本質的な悪影響は、そうしたある意味一過性の金融市場への影響ではなく、もっともっと深刻だと思っています。それがどこに出るのか、

一番は、戦後長期間かかって築いた欧州内の平和維持システム

二番は、同じく長期間かかって築いた経済の相互依存システム

こうした営々と築き上げたシステムに甚大なる悪影響を及ぼすと思われるのです。

  EUからの離脱問題は一昨年ギリシャでも起こりました。その時の私のコメントは、すでに国民投票でチプラス首相への支持が上回っていた時点でも、「離脱など絶対にできっこない」というものでした。理由は、「国民は通貨ユーロから離れられないし、政府はEUの支援なくして国家運営ができないから」です。

  それに比べると英国の離脱問題は、簡単に離脱などできっこないと断言できません。何故なら英国は通貨ユーロを使っていないし、EUの支援なくしても国家運営ができるからです。

  みなさんは英国の前に前哨戦があったことはご存知でしょうか。EUの小国、オーストリアにおいてです。5月の大統領選挙で極右の候補と緑の党の候補が大接戦を演じ、なんとわずか1,000票の差で穏健派の緑の党候補が勝利したのです。極右の候補はEUに懐疑的で、もちろん移民に大反対です。欧州の極右勢力はどこの国においても、本当に要注意のところまで到達しています。

  では英国の国民投票のブレークポイントは何か。

  私は5月にアメリカ大統領の戦いは、「良識派対非良識派」の戦いで、トランプは勝てないと申し上げました。英国の場合はどうか。失礼の段はお許しいただきストレートに言えば、「知性派対反知性派」の戦いだと思っています。

  もちろんこれは、「ラフに言えば残留派には知性的な人が多く、離脱派には知性的でない人がより多くいる」という程度の話で、知識人でも離脱派は大勢いますし、逆も真なりです。

  オーストリアの公共放送ORFの以下の分析を参考にしてみましょう。『主要10都市のうち9都市で穏健派が優勢だったが、農村部では極右派が圧勝した。特に肉体労働者の9割近くが極右派を支持した。一方で、大卒その他の高等教育経験者は穏健派の支持が多かった』。こうした図式が英国でも当てはまるように思えます。

  アメリカ大統領選挙で両者の識別に使った良識派対非良識派とは似ていますが異なります。何故なら英国で離脱派を主導する人たちの言動の中に、トランプの主張のような暴言はないからです。トランプは「メキシコ国境に万里の長城を作って、カネはメキシコに払わせる」とか、宗教差別や男女差別のような暴言を吐き続けています。

  英国の離脱派には若干トランプに似てポピュリズムの旗手と見られているボリス・ジョンソンがいます。元ロンドン市長で現在は保守党の議員ですが、次期保守党党首最有力候補です。離脱のメリットを叫び続けますが、トランプほどの暴言は吐いていません。

  残留派は思わぬほど苦戦しています。その理由は、離脱派の主張が「反移民」とか「EU分担金はNO」とか、とても分かりやすいワンフレーズであるのに、残留派の言い分は長たらしい説明にならざるを得ないからです。

  反移民は何故いけないか、分担金は何故必要かなどは、かなりの長文で説明する以外、簡単には説明しきれないためアピール力に欠け苦戦を強いられているのです。

  さらに「EUは英国の独立を奪い、非民主主義的である」というような単純な主張に対し、そうでないことを即答することは極めて難しいのです。

  ではその長たらしい説明を理解しようとする知性派と、分かりやすいワンフレーズにしか反応しない反知性派の戦い、勝負はどうつくのでしょうか。

  私の見通しを率直に申し上げますと、最後は残留派の勝利に終わると見ています。以下その理由を説明します。

  長たらしい説明は避け、簡単にいきます。

・反移民に対してはキャメロン首相がEUから移民の人数を漸減させる合意を得ていること

・経済的メリットとデメリットは、個別の分野の積み上げを総合的に計算すると明らかに残留に軍配があがること

・離脱派が勢いを増すごとにポンドとロンドン株式市場がひどく下落していること。特にロンドンは欧州の金融拠点であるため、金融機関の株価下落がきつい

・EUが英国の独立を奪い、非民主主義的だという点に関しては、EUが見せたこれまでの譲歩が一方的にEUの独裁ではないとの根拠になっているが、これは数字では明らかにできないため、白黒はつけがたいと思われます。

  これらの理由により、最終的には残留に軍配が上がると思っています。


  では最後に国際政治と地政学上のリスクの専門家で、私の尊敬するイアン・ブレマー氏に聞いてみましょう。彼は先週、英国の国民投票に以下のようにコメントを付けています。

『離脱派はポリュリズムに傾斜し、現状への不満や不安を利用した扇動に走っている。英国が離脱したら大きな打撃をヨーロッパだけでなく世界の経済や政治に及ぼす。移民問題や、貧富の格差、そして不安が英国民を内向きにさせている。離脱派はEUに政治的なメリットを見出していないし、ユーロという通貨にも懐疑的である。もともと英国に欧州への忠誠心はないため、EUに残るメリットは経済メリットのみである。

しかしそれらとてもは狭い了見だ。もっと根本問題に目を向ける必要がある。最後は残留派が勝つと思われるが、たとえ勝ったとしても僅差だと政治的混乱は解消しない。55対45くらいで決まれば、かなり落ち着くだろう。』

彼の分析はいつも鋭く、毎年年初に「今年の世界の十大リスク」を発表しますが、注目に値する予測です。

  ということで、最後は私の見方をイアン・ブレマー氏に補強してもらいました。来週、23日には結論が出ますが、しっかりと注目していきましょう。

以上です。

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