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商品相場の下落について、2

2015年08月19日 | 商品相場

  前回私は「そもそも物価は一国だけの経済・金融環境でどうにでもできるという発想自体が間違っている」と申し上げました。そして物価が下がり経済成長率がマイナスだと日銀は困り果てています。

  では、日銀は困っているけど、庶民は喜んでいてもいいのでしょうか。

  いいとも!

   私は、そもそも物価を上げればデフレ不況を克服して、成長軌道に乗ることができるというイージーな議論を信用していませんので、アベクロコンビのやり口を常に批判ばかりしてきました。

  異次元緩和を批判する第一の理由は、物価上昇が成長軌道へつながるという道筋が見えないからです。政府日銀も、物価上昇が不況を克服するという理屈をクリアーな形で示してくれたことはありません。しっぽを捉まえて振れば、犬が言うことを聞くに違いないと言う程度の希望的観測に過ぎないのです。物価が上昇したところで、生産性が向上したり、産業競争力がついたり、人口が増えることは絶対にない。大きな勘違いです。

  一般庶民は景況感がいくら良い方向に変化したと言われても、ない袖は振れない。袖がある人は振れるが、限られています。それが証拠に物価が実際に上昇するたびに、成長の腰は折られています。今回発表の4-6月期GDPしかり、昨年の消費税値上げ後のGDPしかり。多くの庶民は収入増などほとんどない中で物価が上昇すれば、その分どこかで節約しないと辻つまが合いません。要は買う量を減らすだけなのです。

  逆に、このところのガソリンの値下がりに象徴される一部物価の値下がりについては、庶民は大手を振るって喜びましょう。困ることなど一つもありません。ガソリンで節約できた分は、他に回すことができます。もっと大きな視野でみれば、国際商品価格全般の下落は大歓迎すべしとなります。円がドルに対して5割下がっても、資源などの国際商品相場全体が下がれば、いくらかは取り戻せます。

  そもそも国際商品相場下落ごときで世界恐慌は来ません。1930年代の大不況も2008年のリーマンショックも、物価が下落したために大不況が来たのではなく、大不況が来た結果、その後物価が長期に渡って下落したのです。日本のバブル後も同じです。

  異次元緩和を批判する理由の二つ目は、こちらのほうが大事なのですが、異次元緩和の後遺症がとてつもなく大きいことが予想されるからです。Owlsさんから16日にコメントがありました。内容はエコノミスト森田京平氏の日銀出口戦略の解説で、日銀に出口は本当にあるのかを検証し、非常に困難であることを解説したものです。日銀の保有国債はすでに3月末で270兆円となり、全発行残高の4分の1を超えています。出口の時期が来たからといって、それを売却などできるわけもない。そんなことをしたら金利が跳ね上がり、政府は国債発行ができなくなります。ギリシャの二の舞になります。

   最近税収が増えて赤字国債発行量が若干減ったと政府も言っていますし、報道もされています。それは事実なのですが、相変わらずそんなものは大本営発表であることを、このブログをお読みの方はお忘れなく。このブログは数字がすべてです。国債発行は単年度の赤字を補てんする赤字国債分だけではありません。その何倍もの借換債の発行があるのです。それがどれほどかと申しますと、約3倍です。金額で示しますと今年度の赤字国債発行予定は37兆円ですが、国債の総発行額はなんと170兆円です。要は赤字国債の3倍もの借換債が発行されるのです。そして借換債は赤字国債発行が少しでも継続される限りどんどん大きくなります。従って、金利上昇の威力は増すばかりなのです。

   これも数字で検証してみましょう。1%の国債金利上昇が赤字国債分だけに与える影響は37兆円の1%ですから3,700億円とさほど大きくないのですが、影響は総発行額に及ぶのでその額は年間1.7兆円にもなります。そしてこの影響は単年度だけではなく、10年債なら10年、30年債なら30年間に渡って続くことになる。1.7兆円の30年分は51兆円にものぼります。それは自分達の世代だけでは処理しきれず、孫子の代に負の遺産をたっぷりと残すのです。


   元に戻りますと、インフレが成長軌道につながるという道筋さえ描けていないのに、日銀は目標とはとても言えない目標に向かってしゃにむに国債を買い続け、株やREITも買い続ける。その結果は出口を失う事が見えているにも関わらず批判には目もくれない。その上物価が上昇するたびに庶民は苦しむ。その結果成長率はマイナスとなって政府日銀に跳ね返る。そして政府日銀は成長率鈍化を糊塗するために、また無駄で悪影響の大きい緩和策を積み重ねる。なんという悪循環!

   この政府日銀を止める手立てはないのでしょうか。安倍政権支持率の大幅低下は政治的には歯止めになっても、経済的には全くなりません。依然として多くの投資家、企業、金融機関、大企業従業員などの恩恵享受組はイケイケですので、歯止めには決してなりません。株価暴落があればどうか。これもたぶん逆効果でしょう。株価暴落に対して政府日銀は中国政府同様、きっとさらなる異次元超々緩和で応えるに違いありません。昨日、経済再生担当大臣の甘利明氏はマイナス成長率に対し「産業界にはもっともっと賃上げをしてもらわなくてはいけない」と堂々の社会主義政権ぶりを発揮したコメントを出しています。そしてGDPが1期マイナスになったからと言って、エコノミスト連中はすぐに追加緩和はいつか、というような話を始めるくらいです。追加緩和=アベノミクスの失敗ということすら理解できない、あるいは絶対理解しようとはしない、それがアベノミクスの提灯持ち連中の行動原理です。

   我々庶民は物価下落をひたすらお祈りし、将来の国家破綻に備えてドル買いで自己防衛する以外なさそうです。

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商品相場の下落について

2015年08月17日 | 商品相場

  ある友人から、「原油価格がこんなにも低くなっているけど、世界経済は大丈夫なの?」という質問が寄せられました。原油価格だけでなく、商品相場は全体的にかなりの下げを演じています。そして原因としては中国経済の減速が言われています。 

  今回はその質問への回答がテーマですが、本日は日本の4-6月期のGDPが発表されました。結果はマイナスの1.6%で大方の予想通りです。何故そんなひどい数字になっているのか。それはひとえに消費の低迷によります。これまで多くのニュースでは賃金の上昇と株価上昇により消費者のマインドがよくなり、百貨店で高額商品が飛ぶように売れ、中国人の爆買いも衰えを知らないといっていました。しかしそれらがほんの一部の現象にすぎないことが明らかになりました。日本経済の実態は、円安と消費税の値上げで苦しむ庶民が自己防衛に走っている姿が真の姿であることが浮き彫りになったのです。このことをまず念頭にいれてください。

  さて今日のテーマに戻ります。以前私はこのブログで、世界経済を見るに当たっては、株式相場・債券相場・為替相場の他に商品相場を見ておくべきだと申し上げました。商品相場には様々な指標があるので何を見たらよいか判断に困ると思いますが、私は日経新聞の月曜版にインデックスを含めてまとめて掲載されているので、それが見やすいですよと示唆しています。商品全般のインデックスを見ると、このところの下落ぶりの全体像が見て取れます。個別では主に原油・石油製品、鉄・銅・アルミなどの原材料、そして一見経済のスローダウンとは関係なさそうな食料品にまでに及んでいるのがわかります。

  ではこのところの原油価格の下落を始めとする商品価格の下落で、日本を始めとする先進国経済は深刻な打撃を受けるのでしょうか。私はそうは思いません。これまで原油価格の下落に際して申し上げていたとおり、打撃どころか商品相場の低迷は天の恵みです。本当に困っているのは誰か?

  日銀です。まあ、政府・日銀のコンビと言ってもいいかもしれません。このところ政治の分野ではやることなすことうまくいかず、支持率を順調に下げ続けている安倍政権ですが、株式・為替の市場と、政権に同調し計画経済化により回復している企業収益だけは政権に味方し続け、アベノミクス最後のよりどころになっています。経済全体は4-6月期もGDPがけっこう大幅なマイナス数字になったため、企業収益と全体の動きには大きなギャップが生じています。政府・日銀、そしてその提灯持ち連中が言い続けた「トリクルダウン」など起こっていません。トリクルダウンとは、例えば所得上位の人の所得が増えれば、自然に下位にも恩恵が回って来るはずというものです。

  ところが我々庶民はアベクロコンビにより始まった理不尽な物価高による不幸の連鎖に苦しむ結果、自己防衛から消費を抑えてきました。それがGDPのマイナスにつながっているわけです。しかしこのところのガソリンなどの価格下落により、ちょっと一息つくことができています。この先も商品相場全般の低迷は、我々の味方をしてくれるものと思われます。ただし、昨年のように突然トチ狂ったクロちゃんが緩和策を打って大幅な円安にでも振れない限り。

  一方、困り切った日銀のクロちゃんですが、最近日銀内で秘策を練っています。自分達が目標としてきた物価の定義からエネルギー分を取り除いてしまおうという姑息なミエミエの秘策です(笑)。みなさんも今度ゴルフでOBに打ちこんだら、パートナーの見ている前でOB杭を動かしてセーフだったことにしてはいかがでしょう(爆)。物価からエネルギー価格を除くなどということは、統計そのものの意味を失わせる言語道断の行為です。日銀はすでにその数字をウォーミングアップなのか、発表し始めているのです。

  クロちゃんの「2年、2倍、2%」の約束は、「物価なんて言うものは資金供給さえ2倍にすれば簡単に達成できる」というどこぞの威勢のいいお兄さんのようなええかっこしーから出たものです。それが間違った以上は素直に認めたらいかがでしょう。あのお兄さんもすでに降参したのですから。

  そもそも物価は一国だけの経済・金融環境でどうにでもできるという発想自体が間違っています。世界経済がこれだけ連動し、中国がくしゃみをしただけで、日本はハナ風邪くらい引くかもしれないほどです。もともと金融緩和は日本のクロちゃんから始まったものではありません。日銀も前総裁の白川氏が緩和を相当推進していたし、アメリカのFRBも超緩和政策を取り続け、欧州中銀もそれに同調しています。そして中国しかり。これだけ世界の大どころがそろい踏みしても、上がらないものは上がらないのです。

つづく

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