ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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ボーイング777のエンジン火災

2021年02月25日 | ニュース・コメント

  アメリカでずいぶんと際どい航空機事故が起きましたね。ボーイング777に搭載されているP&W、プラット・アンド・ホイットニー社製造のエンジンが破損して火災を起こしている動画は、実に衝撃的でした。

  ボーイング社はこのところ多くの欠陥による事故を起こしています。一番ひどかったのは18年、19年に起きた新型機737MAX型機2機の墜落で、コンピュータプログラム上の欠陥でした。それ以前にも新型機787ドリームライナーの構造上の欠陥でデリバリーが遅れたり、同機のリチウムイオンバッテリーの発火事故があり、世界中の同型機の運航停止という非常事態になりました。今回の事故でも、もちろん同型機で同じエンジンを搭載している機材は運航停止になっています。

 

  しかし私は今回の動画を見てとても大きな疑問を抱きました。それは何故エンジンが停止せず燃え続けたのかです。航空機の専門家ではない私ですが、航空会社社員であった者の常識として、エンジンには自動もしくはマニュアル消火機能が備わっていることを知っています。何故それが機能しなかったことがとても不思議なのです。いまのところそれに関する専門家の意見や報道もまだ見ていません。

  そもそもエンジン火災はあり得るため、何重にも安全装置がついています。まず異常な高温を検知すると警報が鳴り、パイロットは燃料ポンプから燃料の供給を絞り、さらに火災が収まらなければ燃料供給を完全にストップします。さらにジェットエンジンに必要な圧縮空気の供給を止め、最後には消火剤の散布をします。しかしあのエンジン火災の動画や部品がボロボロ落下しているのを見ると、どの安全装置も働いていないように思えるのです。燃料が止まっても吸気が止まってもエンジンは停止し、消火剤で火が消える可能性は高いはずです。

  今回の事故の原因はエンジンの吸気口にある扇風機の羽のようなブレードが破損し、それがエンジン内に入り込んでエンジンを破損させたようで、それ自体は時々起こる事故です。そんなこと時々起こるかって?起こります。それは今回言われているブレードの劣化だけではなく、バードストライクがあるからです。離着陸時に低空で飛ぶと、鳥を巻き込みブレードが壊れることは時々起こりますが、それらは上に述べた安全装置でエンジン停止をさせ、大事には至りません。

 

  今回の事故は私が見るととてもラッキーな事故だと思われるフシがあります。それは壊れた部品が機体の後方に飛んでも、自分の機体を傷めることがなかった点です。たとえば家の庭先に落ちたカウリングとよばれる巨大なエンジンカバーがもし垂直尾翼や水平尾翼に当たって破損すると、機体を制御することができなくなり、飛行場に戻れなくなりますし、一気に失速し墜落の恐れもあるからです。カウリングは大きくてもジュラルミンでとても軽いため、スピードを出していると簡単に下には落下しません。後方に飛ぶはずです。その他の小さな部品もばらばらと飛んでいましたが、どれもが機体をいためてはいなかったようです。

  そしてもう一つは、飛行機の翼に積まれている燃料がエンジン火災により引火しなかったことです。燃料パイプを伝って火がタンクに達すれば、大爆発が起こりますが、それがなかったのもとてもラッキーでした。

 

  今回の事故がラッキーだとしても、エンジンの製造をしているプラット・アンド・ホイットニーと機体を製造したボーイングの責任はとても重く、今後業績が落ち込むのは避けられないでしょう。

 

  旅客である我々は予約の際に機材はどこ製かまでは聞けても、その機材のエンジンはどこ製かまでは回答してもらえない可能性が高いと思います。それでなくともコロナ禍にあって、JALとANAが厳しい状況にある中、両社とも10数機の機材が使用できなくなっています。もっとも今は需要が枯渇している時期のため、フライトを間引くにはちょうどよい言い訳になるかもしれません。

 

  世界の旅客機のほとんどはボーイングとエアバスのたった2社で作られ、エンジンの供給メーカーもP&W、GE、ロールスロイスの3社しかありません。選択肢が狭くなると、こうした機体の欠陥などが大きな障害になることが懸念されます。早く事故原因の究明が行われ、安全の確保に努めてほしいと思います。

 

以上、元航空会社社員のつぶやきでした。

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日本で消費が高まらない理由

2021年02月22日 | 大丈夫か日本財政

  ここまで私はアメリカと日本を比較しながら、日本政府の巨額の債務がGDP対比では258%とアメリカの128%の2倍以上に膨らんでいることを示しました。政府債務の返済は経済活動による企業や消費をする個人の税金でまかなわれるため経済成長が必要なのですが、この10年間の累計成長率はアメリカの34%に対して日本はたったの5%と7分の1しかないことをお知らせしました。しかも今後の成長率を推し量る潜在成長率は、アメリカは1.7%~2.0%、日本は0%~0.5%と、この先も成長率の差は開く一方であることがわかります。

  

  ところが現在の日本では消費者は消費を手控え、企業は需要が少ないので設備投資を手控えるという悪循環に陥っています。そして最後に私が書いたのは、「何故消費需要が高まらないのか」という問いかけです。今回からはそれに答えを出していこうと思います。

 

  このところ金融市場の話題の中心は、日経平均株価が30年ほど前の3万円台に戻ったということです。買いの主体は海外投資家なので、はしゃぐと痛い目に遭うという警鐘だけは鳴らしておきます。ではその3万円のレベルに戻るまで、いったい政府は何をし、民間の企業や我々消費者はどうしていたのでしょう。

 

  そもそもバブルを作り出したのは、一億総不動産屋と言われた不動産投資と株式投資でした。特に土地のない日本で不動産は絶対に値下がりしないという神話を誰もが信じ、政府もそれに乗じて86年に「民活法」を成立させ、ウォーターフロントや地方でのリゾート開発などを主導、「臨海副都心計画」はまさにその象徴でした。団塊の世代もバブルに浮かれて郊外に借金で家を建て、ゴルフ会員権を買いまくり、株式投資も行っていました。企業も不動産や保有株式を担保に銀行からこれでもかと融資を受け、「財テク」と称する株式投資や不動産投資に走り、ゴルフ場やホテルを作り、地の果てに至るまで不動産を買いまくりました。不動産投資は海外にまで及び、ニューヨークやロスアンジェルスの一等地のトロフィー・ビルまで買いまくるというありさまで、世界の顰蹙を買っていました。買った不動産や株式を担保にしてさらに借り入れを行う行為は、今の言い方で言えば最も危険な「レバレッジ投資」そのものです。

  しかし過ぎたるは及ばざるがごとし。永遠の値上がりなどありえず、すべては一場の夢と消えたのです。

 

  そのころの市場関係者の間では、「株式相場の崩壊はソロモン・ブラザーズのせいだ」という話が、まことしやかに流布されていました。ソロモン一社が空売りで日本の株式相場を崩壊させたというのです。もしそれが本当であれば、ソロモンは今度は一社で株を買いまくって相場を上げ、その後売りに転じでまた儲ける。それができるなら実に簡単で、いくらでも儲けることができますが、日本の株式市場は一社で相場を動かせるほど小さくはありません。そしてソロモンなどの投資銀行は裁定取引はしてもそんな単純なカラウリをバクチのように行うほど愚かではありません。

 

  90年代のバブル崩壊以降政府がやったことは公共事業による経済のテコ入れでした。そのきっかけの一つは90年の日米構造協議でアメリカに公約した430兆円にのぼる公共投資です。一般会計の歳出規模が70兆円台の時代に10年で430兆円の公共投資を行うというのですから、とてつもない規模だったことがわかります。そのおかげもあって90年代は一貫して公共事業の拡大路線を突っ走り、クマしか通らない道路でも作って作って作りまくる。それで民間事業者がうるおえば設備投資をして人を雇い、その人々が消費をして好循環が生まれるハズという考え方を採用しました。ちなみにその当時の税収は60兆円程度しかありませんでしたから、当然国の借金が膨れ上がりました。

 

  当時の経済学には「乗数効果」という伝家の宝刀があり、それを理論的裏付けとして政府はかざしたのです。私が学生時代に学んだケインズ経済学の柱の一つです。1を投資すればそれが呼び水となりいずれは1.5になり、さらに波及して累積し何倍かになって返ってくるという理論でした。要するに政府の支出は単なる呼び水で、それが大きな水の流れを呼び込むという経済理論です。特にバブル崩壊後の内閣は、先ほど述べたように公共事業を大幅に増やし乗数効果を狙いました。しかし実際には財政によるバラマキは、公共事業に使われても呼び水として次の設備投資にはつながらず、多くが企業の借金返済に回ってしまいました。バブル崩壊で痛んだバランスシートを繕うために使われたのです。そのため企業は労働者の賃金を上昇させることもなく、賃金上昇が消費に回り好循環を生むことなどなく、結局国が借金を増やしただけに終わりました。

 

  株式投資や不動産投資が儲かると踏んだ企業は目いっぱい借金をして株や不動産を買いまくったのですから、公共事業で得たカネが借金の返済にしか行かないのはしごく当然です。乗数効果はものの見事に空振りに終わりました。それ以来、この乗数効果なる理論を振りかざす経済学者はいなくなってしまい、ケインズ理論も主流の座を明け渡しました。

 

  90年代のバブル崩壊とともに資産価値の大暴落を体験した企業も消費者も考え方を180度転換し、自己防衛に走りました。政府の無駄使いはいずれ自分たちが尻拭いをしなければならない。政府は財政破綻に追い込まれたら増税に走り、年金支払いを渋るに違いない。なので今は自分たちが必死に貯蓄しておかないとヤバイという考え方です。

  結局そうした自己防衛は現在まで継続していると私は見ています。「もうそろそろ政府も借金を払い終えるだろうから、そしたらみんなで晴れ晴れとして消費に励もう」などと、とてもじゃないが思えない。政府が使えば使うほど賢い国民は身構えてしまう。その結果が貯まりに貯まった家計の金融資産1,900兆円(※)なのです。

※日銀の資金循環統計によると、2020年9月末の家計の金融資産残高は1,901兆円。

  

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日本の財政赤字問題

2021年02月16日 | 大丈夫か日本財政

  株式相場がすごいことになってきましたね。株式投資をされている方へは、ご同慶の至りです。年末年始には各方面から今年の相場予想が出されていましたが、どなたも大外れ。それでも良い方への外れなので、不問に付されることでしょう。さて持続性はあるのか、私の見方は次の機会にお知らせします。

 

  今回はコロナ危機への対処による巨額の政府支出は大丈夫なのかの話の続きです。まずアメリカを中心とした前回のおさらいをしておきます。日米とも政府のコロナ対策による財政赤字が巨額になっていて、計画通り実施されるとアメリカの累積債務はGDPの128%になりますが、日本はその倍の258%にもなってしまうと指摘しました。コロナ対策は実行せざるを得ないので、私はそれを批判するつもりはありません。ただその結果、従来からの巨額の累積債務にさらに債務が積み上がってしまうという絶望的な数字をお示ししました。

  そうした債務の返済は経済の成長により税収が上がり返済原資を確保することになるので、「成長なくして返済なし」との指摘もしました。そしてこの10年間の経済成長がアメリカは34%、日本はたった5%しかなかった。アベノミクスとバズーカクロちゃんのやりたい放題の緩和にしてこの結果でした。日本の累積債務の絶対額は政府発表で1,125兆円です。日本人の総人口は少しずつ減り続けて現在1億2,300万人です。割り算すると一人当たり915万円にもなります。新しく生まれてきた赤ちゃんは、小さな肩にいきなり9百万円の借金を背負って生まれてくるので、本当にかわいそうですね。

 

  返済するための税収は基本的には経済の大きさと成長に依存します。例えば人々が消費をすれば消費税が国に入ります。ではいったい日本の将来の成長力がとの程度あるのかをアメリカと比較しながら見てみましょう。今後の成長率を予想するうえで大事なのはその国の経済が持つ潜在成長力です。

 

  潜在成長力とは労働力人口、生産性、資本の3要素がどう伸びるかに依存しています。アベノミクス3本の矢の一番重要な矢であったはずの成長戦略は、特に生産性向上がポイントでしたが不発に終わりました。潜在成長力の値は推計方法によって多少の幅があり、数字としてこれだという決定打はありません。そこで、よく引用されるOECDや日銀の推計を参考にします。今回のコロナ禍で不確定要素が増えたため推計のやり直しをする必要がありますが、従来から言われているおよその値をお知らせしますと、アメリカは1.7%~2.0%。日本は0%~0.5%です。

 

  日米の差は労働人口の伸び率がプラスであるアメリカとマイナスである日本の差がまずあり、その上生産性にも大きな格差があるため、今後日本がアメリカに接近あるいは逆転する可能性はほぼありません。水を掛けるようですが、例えば少子化対策をいくら実行したところで、うまくいったとして生産人口に寄与するのは20年~30年後。生産性の格差にしても、コロナ下で日本がデジタル化で世界に大きく後れを取っていることが白日の下に晒され、生産性上昇の必須条件の欠如が明らかになりました。

 

  特に保健所と病院などのコミュニケーションをファックスでやり取りしているという前時代的業務プロセスにはあきれましたね。保健所がパンクするわけです。今年9月にデジタル庁ができるとしても、政府・自治体のデジタル化の大きな遅れは2・3年で取り戻せるほど甘くはありません。役人のマインドの変化と技能向上だけでそれくらいかかります。とにかく今頃ハンコが必要か否かの議論をしているのですから(笑)。

 

  民間企業でのデジタル化は大企業では相当進んでいますが、中小企業ではまだまだです。一般消費者も実は大切な要素で、金融機関や飲食業、販売業でのデジタル化は消費者が追い付いてくるかに依存します。団塊の世代の我々の間でも、いまだにガラケイ依存率は2割近くありますし、そうした方々はパソコンも使用していない方が多いのです。

  というわけで、今後の経済成長率については日米を比較すると悲観的にならざるをえません。それを無理やり引き上げようとするのが政府日銀の強引な政策です。まず日銀の検証をしておきましょう。

 

  中央銀行が経済を引き上げるためにできることは第一に金利の引き下げです。これはすでにゼロ金利政策を導入しているので、これ以上はできません。マイナス金利という奇策もありますが、副作用が大きいため実行できないでいます。厳密には13年に黒田総裁の就任後、政策金利はゼロとされ、16年にはマイナス0.1%にはなっていますが、ほぼゼロ近辺です。

  この最重要な政策が限界に達していることは、次の景気後退局面では空手で立ち向かわなければならないことになるので、要注意です。

  それ以外に現在も必死に黒田氏が続けているのが量的緩和で、市中の日本国債や株式の購入によりカネをばらまく政策です。その額はすでに570兆円に達し、日本のGDP539兆円を超えています。それほど市中から債券や株式を吸い上げているのに、我々国民は日銀から一銭ももらっていません(笑)。ではいったいそのお金はどこに消えたのでしょう。

 

  日銀が買っている国債は、もともと発行済みで機関投資家保有が保有していた国債でしたが、それらはほぼ買い上げられてしまったため、今は政府が毎年巨額の財政赤字を埋めるために発行する赤字国債と、過去に発行された国債を償還するために発行される借換国債を買っているのです。もっとも国債の直接引き受けは法律で禁じられているため、いったんは市中銀行などが形の上で引き受け、それを買うという姑息な手段で違法ではないとしています。といっても金融関係者は誰もが実質違法行為であると認識していますし、国際的にも違法だというのが常識です。

 

  ではそもそも何故政府発行の国債を中央銀行が直接買うのがいけないかと申しますと、政府の支出に歯止めが利かなくなり、戦後のように大インフレを起こす可能性があるからです。世界を見回すと、国債発行など面倒なので、中央銀行が札を刷って政府に渡し、それを政府がそれを使うという簡単な方法が取られます。そこまでいくとジンバブエやベネズエラ、アルゼンチンなどひどいインフレに見舞われます。戦後の日本やドイツも同じような状況でした。

 

 現在の日本に戻ります。じゃ、金融機関は発行された国債を買うオカネはどうしているのか。それはありあまる我々の預金です。それを使って買いますが、買った国債を売って得たオカネをどうしているか。日銀にある自分の当座預金に置いてあるだけです。それを「ブタ積み」と言います。なので、日銀はオカネをバラまいたつもりでも、自分に跳ね返るだけで、我々には回ってきません。日銀の金庫はブタだらけです(笑)。ちなみに当座預金は現在なんと486兆円もあります。本来であれば銀行がその資金を企業に貸出し、企業は設備投資をして人を雇い市中におカネが回るはずなのですが、消費者による需要が高まらないため企業は投資を控え雇用も控えます。そのため資金需要につながりません。

 

  では何故消費需要が高まらないのか。それは消費者の自己防衛本能です。それについては次回に。

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アメリカの財政赤字問題

2021年02月08日 | アメリカ国債の安全性

  アメリカでも日本でもコロナ対策として大規模な財政支出が予定されています。いまだに最終化はされていないのですが、財政問題を考える上では多めに見ておく方が安全です。例えばアメリカのバイデン政権の打ち出している1.9兆ドル、およそ200兆円を3年間で支出する案ですが、2月3日に下院で採決の結果承認されました。それに対して共和党は約3分の1の60兆円で対案を示しています。

  バイデン案が上院に送られた場合、可否同数となる可能性がありますが、カマラ・ハリス副大統領兼上院議長の1票が効き、バイデン案可決の可能性が強まりました。そのためNYの株式相場は再び最高値圏に押し上げられています。

 

  200兆円にものぼる支出のためには当然政府の債務が大きく増えることになります。それが果たしてアメリカの財政にどの程度のインパクトを与えるのかを見ていきましょう。

  政府債務の規模を計る指標でもっとも重要なのは、その国のGDPに対してどのくらいの比率になるかです。何故GDPと比較するのでしょう。それは返済能力を推し量るためです。GDPの中で最も多きい比率を持つのは個人消費です。アメリカではGDP全体の約7割を占めます。消費をすれば国あるいは地方自治体に消費税が入ります。それが債務の返済原資になるので大事なのですが、もちろんそればかりでなく個人の所得税や法人税などもおよそGDPに比例して政府に入ってくるので、GDPの大きさ、そして将来を見据えるとGDP成長率が重要になってくるのです。

 

  アメリカは日本ほどでないにしろすでに巨額の政府債務を抱えています。そこに200兆円が加わると、どれほどのインパクトになるのかを数字で見てみましょう。まず単純にアメリカのGDPは2020年に20兆8070億ドルですが、100円換算で2081兆円とします。それと3年間の対策費200兆円を比べれば約10%相当です。

  公平を期すためにIMFの公表数値を採用します。以下の数値は200兆円を織り込んで、IMFが今年1月にアップデートした債務比率の推定値です。アメリカ以外も参考のため付けます。日本は第3次補正予算も込みにしています。その総額は73兆円と言われていますが、実際に政府の支出は半分程度と、いつものとおり話半分です(笑)。

 

債務の対GDP比率推定値

アメリカ     128%

日本       258%

欧州        98%

世界全体平均    98%

 

  この数字を見るとアメリカの巨大追加予算など、日本に比べれば実はたいしたことがないように見えます。欧州はEUの盟主であるドイツが財政赤字を徹底的に嫌うため、他の国々が債務を累積させていても、平均値は低めに抑えられています。発展途上国が多い世界全体の平均も低めですが、それは借金する力がないことの反映でもあります。途上国は通貨が弱い国が多く、自国通貨建ての借入は高い金利を払わざるを得ず、ドルなどでの借り入れは返済に窮する可能性が強いので、どちらにしろ抑制的にならざるを得ません。

  結局経常黒字国であり国内に行き場を失った資金が溢れる日本と、経常赤字ですが基軸通貨ドルを有するアメリカの2か国が、返済に窮する可能性が低いためいい気になって借り入れを増やしているという図式になっています。

 

  ではこの先を考えるとどちらがより安全か。もちろん返済の源であるGDP成長力の高いアメリカがより安全であることは間違いありません。

  では返済能力の源であるGDP成長力もついでに見ておきましょう。直近10年間の成長率と、異常な年であった昨年と、今年の予想を3つ並べてみます。20年、21年はいずれもIMFの発表値です。                                            

         19年までの10年間   20年   21年

アメリカGDP     +34%      ▲3.4%  +5.1%

日本GDP         +5%         ▲5.1%  +3.1%

                                                  

  アメリカがこの10年で34%成長したのに対して、日本はたったの5%と、ほとんど成長していません。情けない限りですが、これが現実です。先ほども申し上げましたが、GDPは税収の源ですので、成長率が高まらないと対GDP債務比率は低下しませんので、返済に窮する確率は高くなります。格付会社などの評価は成長力を大きな要素と見ています。

 

  さて最後に、アメリカの今後を定性的に外観します。バイデン政権は新財務長官にFRB議長を経験したイエレン氏を任命しました。最後までトランプのいいなりであったムニューチン前長官とは大違いで、金融の世界のすべてを知り尽くしている人材です。現FRB議長のパウエル氏はトランプの指名ではありますが、トランプの言いなりにはならなかった気骨ある人物で、2人ともお互いの手の内も理解している信頼のおける人材です。そのコンビは世界の有力エコノミスト達を安心させています。FRBは今後も米国債の長期国債の買い入れを続けると同時に、短期金利をゼロ近辺に継続的に誘導すると思われます。先日申しあげたとおり、FRBの金利引き上げは23年までなしと想定されていますが、私はそこまで長く続けるとは思っていません。最近の10年物金利は1.1%を超えていますが、それを無理に下げることはしていません。

 

   さてここまでアメリカの財政事情を日本と比較しながら、見てきました。GDP対比で見た日本の債務の異常さ、また国債の返済能力の裏付けとなるGDP成長率の大きな差を見てきました。どちら場安全かは、一目瞭然です。 

   次回は日本についてもう少し深く見ることにします。

 

 

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ロビンフッダーよ、図に乗るなかれ

2021年02月02日 | 株式市場

  前回アメリカの株式市場で巻き起こっているロビンフッダーの動きについて書きましたが、追加で一言。

  今回の成功に味をしめ、彼らが新たなターゲットとして銀相場に目を付けたというニュースが流れ、銀相場と銀鉱山株が上昇しています。私は、彼らは今回は失敗すると見ています。その理由は、彼らは資産運用で最も重要な要素である「流動性」を無視しているからです。ゲームストップ株を上昇させた要因は彼らの力だけでなく、小規模企業株の流動性の低さにあります。   

  もともと株数の少ない、つまり流動性のない銘柄に大量の買いをいれれば暴騰するのは当たり前。空売りをしていたヘッジファンドも、プロにあるまじきポジションの取り方をしていました。空売りは大型株を対象にしないと痛い目に遭う。相場師の常識です。例えば株数の多いアップル株ではそう簡単に価格を持ち上げることなどできませんし、売り崩すこともできません。

  銀は金ほどではありませんが、流動性は十分です。現物も先物もオプションも十二分に流動性を持つため、簡単に大幅値上がりを作り出すことなどできません。

 

  かつてそれで大失敗したのが南部アーカンソーの石油王ハント兄弟です。79年に世界中の銀を買い占めると宣言して先物買いに走り、確かに価格は一時5倍と急騰したのですが、出てくるは出てくるは、いくら買っても出てくる売り物に買いが追い付かず、価格は暴落。遂に追証を払いきれずに敗退。大損害だけが残るという結果に終わっています。

  その時には本当かどうか知りませんが、家庭にある銀食器を溶かしてインゴットにして売却したというエピソードまでありましたとさ(笑)。

 

  流動性の大切さとハント兄弟のエピソードを知っているはずのプロの投資家は、きっと冷ややかにロビンフッダーを眺め、天井での空売りチャンスを見極めているに違いないのです。

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