ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

今年一年、ありがとうございました

2014年12月30日 | お知らせ
  今年最後の記事です。

  この一年もまた多くの方に「ストレスフリーの資産運用」ブログをお読みいただき、誠にありがとうございます。

  おかげ様で100万アクセスという私にとっては金字塔ともいうべき数字を達成できました。

  今年は小炎上もありました。議論が本質部分で行われていればそれもまたよしと思っています。コメント欄は私のブログの中では記事と同じくらい重要な位置を占めています。みなさんと私の対話、そしてみなさん同士の対話がこのブログの面白さを作ってくれていると信じています。

  私は投資銀行時代も投資事業会社時代も個人投資家向けの仕事はしたことがなく、個人的にも株や為替への投資はしません。ですので、どこの売買手数料が安いというような最新情報を持ち合わせません。むしろみなさんから寄せていただく情報が頼りです。それで逆に私自身が勉強をさせていただいています。みなさんにも感謝いたします。

  私のブログに対する思いは決してアクセス数の増加ではありません。アフィリエイト広告を取るわけではなし、有料ブログで収入を得るわけでもありません。自分のポジショントークでもありません。アメリカ国債でポジショントークのできる人はアメリカ政府だけでしょうね(笑)。

  著書でもブログでも私の思いは一貫して「投資で不幸になる人がいなくなるようにしたい」という義侠心です。なーんちゃって、かっこいい言葉ですが、ほんとにそれだけなのはブログの読者のみなさんにもご理解いただけると思っています。

  私自身はブログを書くのはこのブログが初めてですので、ブログの管理にも慣れていないまま開始しました。いまだに様々な技を駆使しながら書くということもできずに、たんたんと文字を連ねています。きっと図表などを組み入れればもっとわかり易くなるかもしれませんので、追々そうしたことも勉強し組み入れるつもりです。

  しかし世の中にあまたあるシロウトの投資ブログやプロのサイトなどを見ると、図表が多くなればなるほど複雑さを増し読みづらくなり、何が言いたいのかわからなくなるように感じます。また経済や金融市場の動きを見るに当たってフォローすべき指標や市場は無限にありますが、それらを多く取り入れれば入れるほど、一番大事な本質部分を見失うように思われます。多くのプロやエコノミストはそうした複雑系の罠に囚われているように私には見えるのです。そしてこれは自分への警鐘でもあります。

  今後も「単純明快さ」を旨にブログの執筆を続けますので、どうかよろしくお願いいたします。

  今年の年末年始は旅行にでかけず、ほとんどを自宅で過ごすつもりです。コメント欄への投稿は私も続けますし、みなさんもどうぞご自由にお使いください。

  ではみなさん、よいお年を!

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アメリカの金利見通しについて、あとがき

2014年12月28日 | 2014年の資産運用
 金利の世界的低下傾向に関して、最近は歴史的視点からの指摘が多くなってきています。ご存知の方があまり多くないかもしれませんので、ちょっと紹介します。

  一つの象徴的本があります。「資本主義の終焉と歴史の危機」というたいそうなタイトルの本です。著者は水野和夫氏で、八千代証券から三菱証券等のエコノミスト、今は日本大学の教授です。この本は新書ですがダイヤモンド社の選んだ今年のベスト経済書に選ばれ、20万部も売れています。テーマはタイトル通り、資本主義が終焉に向かっていることを歴史的に検証している本です。

  その中で金利の歴史を数百年さかのぼりながら、現在の超低金利は資本の生みだす利潤の低迷を表していて、それが資本主義は終焉に向かっていることを象徴していると著者は主張されています。将来は資本主義以外の道を行かないと破綻は近い、特に総本山のアメリカが資本主義の終わりに近づき、それを様々な糊塗策で繕っている、という内容です。

  金利の世界的低下はそのとおりで、戦後徐々に上昇してきた長期金利が1980年あたりに跳ね上がってピークを作り、その後は今に至るまで長期の低下トレンドに入った。いまだにそれが終わっていないように見えます。下記サイトは英語ですが、30年物国債金利の1980年からのチャートをみることができます。
http://finance.yahoo.com/echarts?s=^TYX+Interactive

  ではそれが資本主義の終焉につながるのか。他人の書いたものを批判するのは私の趣味には合わないのですがあえてコメントします。この本の内容は全般的に突っ込みどころ満載で、これがベスト経済書ですかと大きな疑問を感じました。

   まず著者は資本主義の行き詰まりはアメリカがベトナム戦争に負けたところから始まったというのです。そして、そもそも資本主義の成長の本質は物理的に地域を拡大するからで、それができなくなったら終わりだと主張しています。ということは、まずベトナム戦争自体がアメリカの帝国主義的侵略戦争だと言うことになりますね。大学時代にクラブの友人が「べ平連」(ベトナムに平和を、市民連合)に参加していたのを思い出しました。もちろん私はこの方の学生時代のことは全く知りません。今のベトナムの発展は資本主義世界にすり寄ってきたことによると思いますが、世界経済には貢献していないのでしょうか。アメリカは中国に侵略していませんが、大きな市場になっています。

  この方は歴史書に出てくる植民地拡大による帝国主義を現代のアメリカ資本主義に当てはめているのです。地域拡大が行き詰まったので資本の利潤率は低迷し、資本主義は終焉するのだそうです。もちろんそういう方ですから、アメリカ的グローバリズムこそ悪の元凶だという、よくある感情論があちこちに出てきます。

  私は「グローバリズム」という言葉を聞いたとたんに、「この人大丈夫か?」と思ってしまいます。理由は、グローバリズムなどというイズム、主義はないからです。グローバリゼーションはありますが、グローバリズムは別物です。グローバリゼーションは歴史の自然な流れであって、「イズム・主義」などではありません。それに反感を持つ人たちにとってグローバリゼーションとグローバリズムの区別はなく、一律に否定すべき宗教的主義なのです。そうした人達はだいたいが鎖国主義ですから、もちろんこの本の著者も含めTPPなどとんでもない、ということになります。

  来年からは時々書評もこのブログに書いてみようと思っています。対象は例えば今大評判のトマ・ピケティ著「21世紀の資本」などです。この本、8千円もするので買うのも躊躇します。大部のため正月にでもと思い本屋で手に取っては見たのですが、基本的論理構成がおかしいところがあるため、買うまでもないかと今は思っています。その理由はまたの機会に述べます。


  金利の話から逸れました。金利の長期低下傾向を資本主義の終焉と捉える主張が多くなっていますが、それは違うと私は思っているというお話です。もちろんその世界的低迷は事実ですが、それには構造的な理由があるからです。要は資本が供給過剰になって金利が低下しているということです。だからといって資本主義が行き詰まったということではありません。供給過剰ということは資本が力を失っているということですから、安い資本を使い倒せば労働者は労働分配率を上げることができるかもしれません。99%側にとってそれは朗報で、それこそマルクスが泣いて喜ぶ「万国の労働者よ、バンザーイ」ではありませんか(笑)。ダブついて安くなった石油を我々がエンジョイするのと同じことで、金利低下・物価低下は庶民の味方です。住宅ローンを安く組め、クレジットをどんどん使え、サラ金すら成り立たなくなる世界が到来しています。

  ということで、私は金利低下は少なくとも資本主義の終焉などとは無縁だと思います。では金利の上昇はありうるのか。長期のトレンドは別ですが、循環的に見れば大いにありえます。この長期トレンドのテーマは別の機会に。


  話は変わりますが、前回の記事の内容でわかりづらいところがあるのではないかという指摘をいただきました。それは物価と金利の関係です。「物価が上がると何故金利が上がるか、わからない方がいるかもしれない」という指摘です。そこでちょっと解説します。

  物価の上昇は物に対する需要が供給より多いことから生じます。物価上昇は国民にとってはとても不都合で窮乏化の原因です。今のロシアやかつての途上国全般がそうでした。それを抑えるには中央銀行が金利を上げて企業活動を抑え、景気を悪くすることで物価上昇を抑える。それが経済原則に則ったやり方です。ロシアも最近政策金利を10%から17%にしています。ロシアの場合、利上げの理由の一つは通貨防衛ですが、それも通貨下落は輸入インフレとなり国民生活に跳ね返るからで、物価鎮静を目指しています。もちろんその間に不景気になるので、プーチンも「2年は耐えろ」と言っています。ジンバブエのように物価が年率1兆%だったら不況のほうがはるかにマシでしょう。

  以上、物価と金利の簡単な説明でした。


  今年もあと数日になりました。来年に向けて私は当ブログのテーマを少し拡げることと、整理の仕方に工夫を加え読みやすくしていきたいと思っています。それほど大きな変更ではありませんよ、念のため。

  今後のブログに関するご意見ご要望は大歓迎ですので、是非みなさまからコメント欄に気軽にご意見をお寄せ下さい。

よろしくおねがいいたします。

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アメリカの金利見通しについて、その6最終回

2014年12月26日 | 2014年の資産運用
  アメリカの金利見通しに関する議論も最終回を迎えました。

  まず前回のおさらいからです。金利を左右する要素を上げて、その中で大事な点を「大きな」という形容詞で強調しました。再掲しますと、

① FRBの米国債買いがストップ(36兆円、金利には大きなプラス

② 来年なかばにFRBの政策金利上げ開始(金利には大きなプラス

③ 海外投資家のうち産油国からの買いが減少する可能性があり売りに回ることもありうる(ロシア保有分12兆円、OPECなどの保有分31兆円、金利にはプラス)

④ 連邦予算の赤字削減による国債新規供給の減少(10兆円、金利にはマイナス)

⑤ 雇用の順調な増加(金利には大きなプラス

⑥ 物価の落ち着き(金利には大きなマイナス

⑦ 世界の中央銀行の政策、日本は緩和継続か増強、中国は緩和、欧州も緩和策増強見込み(おしなべて金利にはマイナス)

そしてまとめとしては「何と言ってもFRBの政策スタンスと雇用そして物価」と述べました。


   では、上記のおおまかな要素を踏まえて来年の長期金利のレベル感をさぐります。

FRBの利上げを年の中ごろと想定して、私の10年物金利の予想レベルは15年中は上が3%前後です。

  今年の予想は、量的緩和終了が不確定だった中で3.5%だったのと比べると、すでに量的緩和策が終了し、利上げがかなりの確度で開始されそうなのに、ずいぶん慎重です。一番の理由は⑥の物価の落ち着きで、それがFRBの政策スタンスにも影響すると思われるからです。

  世界経済はいまアメリカ頼りになっています。来年を概観します。

・ 欧州は底は打っても大きな回復は望めない。むしろさらなる減速リスクから一段の緩和策(国債買い取りなど)がいつ実行されるかに焦点が移っている

・ 中国も間違いなく成長ペースが鈍り、むしろ不動産価格の下落スピードが増すと大きくスローダウンするリスクがあるため、人民銀行が金利引き下げを繰り返す可能性がある

・ 資源国はこれまで述べてきたように産油国であるロシア、中東、中南米、そして石油以外の資源国である南米、オーストラリアなども回復が見込めない

・ 日本は14年が年間通してもマイナス成長となるのはほぼ確定。物価上昇率も毎月低下が継続し、本日発表の11月実績は消費税分を除くとコア指数で前年比がわずか+0.7%まで低下。来年3月に2%には絶対にならない。15年の夏には成長戦略などカラ念仏だということがバレて政策手段が尽きる。もっともバズーカクロちゃんだけは国債ネタが尽きると株を買いまくる暴挙に出て国際的非難を浴び、格下げの主犯となる。財政問題を抱えることから大きな財政出動はできずに、結果として成長率はゼロ近辺に終わる可能性が大きい。
 
  物価を上げて成長を促すはずが、ここまで物価は0.7%しか上がらず成長率はマイナスで「アベノミクスとはなんだったのか」となっている


  要するに15年は頑張るアメリカの足を世界の大どころがみんなで引っ張る図式です。そして上記の見通しには天変地異を始め、国際紛争など様々な外部リスクは加味していません。何故加味しないかの理由は、それらが起こる確率は上昇する一方ですが予測が不可能であること、私が投資を推奨している投資対象が悪材料に反応しやすい株式などではなく、世界が真っ暗になればなるほど光を放つ米国債だからで、世界のリスクなど計算に入れる必要がない投資対象だからです。

  アメリカの金利に戻ります。アメリカだけに頼る世界経済では資源価格を筆頭に一般物価も大きな上昇は望めません。アメリカの物価上昇を抑えているもう一方の国内要因は賃上げの低さです。失業率は大きく改善し、7-9月期のアメリカのGDP成長率はなんと改定値が5%に乗りました。しかしいくら経済が順調だとしても、物価見通しに過熱感が出ないと利上げは急ぐ必要がありません。たとえ6月に利上げが開始されても、その時点で半年後・1年後にかなりの物価上昇が見込まれないと、連続してどんどん上昇させる必要はないのです。政策スタンスがその程度だと、長期金利も簡単には上昇しないと思われるので、私の結論は3%前後がせいぜいだろうと見込んでいるのです。

  
  このところ中央銀行の役割が大きく誤解されています。どこの中央銀行もインフレを煽る役割ばかりが期待されていて、本来の役割である「物価の番人」、つまり物価上昇リスクを早目に抑え込むという最も大事な役割が忘れ去られています。それほど物価が落ち着いているということです。しかし長期ではそうした安易な物価扇動策は裏目にでる可能性は非常に大きいのです。

  以上がアメリカ金利に関する私の見方と、世界の中央銀行への警鐘です。

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アメリカの金利見通しについて、その5

2014年12月22日 | 2014年の資産運用
   「リーマンショックのない単なる原油の暴落など全くこわくない」というのが前回のまとめの言葉でした。しかしその前の回では、

   「金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろう」とも言っています。

  正反対のことを言っているようですが、実際には矛盾しているわけではなく、世界経済にとっては「リーマンショックのない単なる原油の暴落など全くこわくない」。しかしアメリカの金利にとっては物価がとても大きな要素だと言っているのです。もちろん両者は連動している部分がありますので原油の暴落の行方もアメリカの金利にとっては大きな要素の一つです。

  では私が原油価格の動向をどうみているかです。このお題はもちろん私の力量にはとてもそぐわない大きな問題ですので、参考程度に聞いておいてください。

  そもそも10月の商品相場下落の記事で指摘していたように「商品相場は世界経済の動向を先取りする鏡」という側面を持っています。そして商品相場は基本的かつ長期的には実需による需給で決まります。私には50ドル台に沈んだ相場は行きすぎているように思えます。OPECもさすがにあせっているでしょう。ましてやリーマンショック後の40ドル台はもちろん行きすぎです。世界経済はそこまで沈んでなんかいません。

  最近は商品相場に賭けるファンドが影響力を持ってきたため、相場を動かす力は無視できません。それが今の相場を形成しているように思えます。しかしファンドは所詮振幅を増大させる要素であって、長期では中立です。株式ファンドとはちょっと違う側面を持っています。というのは、株式ファンドは短期売買を繰り返すタイプもあれば長期で現物を保有するタイプもあるからです。商品ファンドは現物の保有コストが大きすぎるため、ほぼすべてが先物取引で短期決済をします。つまり買ったものは売るし、カラ売ったものは買い戻すのです。長くても3か月とか6か月がタームになります。動かなくなると手仕舞いするのがファンドです。

  では今の原油相場のうち実需部分がどれほどで、ファンドやヘッジなどの仮需部分がどれほどか、それはわかりませんしどこまで下げるかもわかりません。先物での建玉は統計が出ているものも一部にはありますが、個別契約でのヘッジなどの統計はないのです。例えばシェールオイルの開発事業者は、大きな賭け事をしている博打うちばかりではありません。彼らも開発コストと販売価格が見合うようにするため、先渡し契約やオプション契約で販売価格をヘッジしています。とても難解なので深くは立ち入りませんが、20日のブルンバーグの大手開発事業者に関する記事では、「15年度の生産量の85%は一定の販売価格帯(上値と下値が限定されるので襟を意味するカラー戦略と呼ばれます)で契約済のため大きな影響はなく、価格の暴落は長くは続かないという見通しも持っている」というものでした。

  日本の新聞報道などで言われるシェールオイルの開発コストが平均65ドルくらいだから、それを下回れば事業者の発行するハイイールド債のデフォルトが多発する可能性があるというような記事は、しっかりと開発事業者のヘッジ手段まで読みこんだものとは思えません。ですので割引いて考える必要があるのです。


  もう一度基本に立ち返れば、「原油価格下落は消費国経済には大きなメリットで大不況の防波堤だ」とみておいて間違いはないということです。ただし、物価の上昇には足かせになります。それは日本もアメリカも同じです。

  では、金利見通しのまとめに入ります。これまで申し上げてきたことをおさらいします。

米国債の需給要因に大きな影響を及ぼす要因と金額を付けられるものは付けますと、

① FRBの買いがストップ(36兆円、金利には大きなプラス)

② 来年なかばにFRBの政策金利上げ開始(金利には大きなプラス)

③ 海外投資家のうち産油国からの買いが減少する可能性があり売りに回ることありうる(ロシア保有分12兆円、OPECなどの保有分31兆円、金利にはプラス)

④ 連邦予算の赤字削減による国債新規供給の減少(10兆円、金利にはマイナス)

⑤ 雇用の順調な増加(金利には大きなプラス)

⑥ 物価の落ち着き(金利には大きなマイナス)

⑦ 世界の中央銀行の政策、日本は緩和継続か増強、中国緩和、欧州緩和策増強見込み(おしなべて金利にはマイナス)


 とても大雑把ですが、上記のような要素が上げられます。それぞれの要因の中で特に私が大きいと思っている要素には「大きな」という形容詞を付けました。それは何と言ってもFRBの政策スタンスと雇用そして物価です。

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アメリカの金利見通しについて、その4

2014年12月18日 | 2014年の資産運用
  このブログの100万アクセス達成に、多くの方から暖かい言葉をいただきました。誠にありがとうございます。それを励みに今後もしっかりと続けて行きたいと思います。 

  為替市場ではドル円レートは私が不安視していた124円の安値まで到達せず、一息ついています。ドル転を考えていた方にはチャンスですね。為替ではほっと一息でもそれが株安につながるので、アベチャン・クロチャンはきがきじゃないでしょう。

  さて前回の記事では原油価格の下落インパクトについて私のコメントを書きました。そのまとめをおさらいしますと、

1.原油価格下落の最大の被害者は産油国であって、消費国ではない。つまり中東・ロシア・ベネズエラ・ナイジェリアなど

2.原油価格下落の最大のメリット享受国はアメリカ、EU、日本、中国の経済大国をはじめ産油国を除く全世界

3.経済問題以外で最悪の紛争解決に神風が吹いてきた。世界の火種である中東、ロシアの力を削ぐ神風が吹き、民主的諸国の力が増大するのは日本・アメリカ・EUを始め自由諸国にとって最高のプレゼント


  そしてみなさんに商品相場の先見性について述べていた中、10月20日の記事ではこんなまとめを私は書いていました。

引用します。

・世界経済がスローダウンしてきているがその兆候は国際商品価格の低下が先取りしていた
・エネルギー価格の低下は、世界経済にとって大きなメリットである
・アメリカのシェール革命はオイルより天然ガスが先行していて、原油価格低下はメリットのほうが大きい
・原油価格低下は石油生産国発の地政学的リスクを抑える効果を持つ


ということで、世界経済のスローダウンは心配されますが、先行する国際商品価格の低下はそれを緩和する力を持っていることを頭に置いておいてください。

引用終わり

  実は同じようなことを述べていますが、この時の原油価格は80ドルちょっとでした。現在は50ドル台の半ばまで下げています。80ドル台と50ドル台ではかなりの差があります。50ドル台はアメリカのシェールオイルの平均的コストを割り込んでいるとみられるため、心配される方もいらっしゃるかもしれません。そして先行きの原油価格についてはリーマンショック後の安値である40ドル台を予想している向きもあります。それでも本当に世界経済は心配ないのでしょうか。

  それについて私の説明を追加しておきます。一言で言えば、「たとえ40ドル台になっても大きな心配はいらない」です。

  理由を説明します。

  最近世界経済を震撼させたのはリーマンショックです。それをおさらいしながら解説します。そもそもリーマンショックとは何だったのでしょうか。リーマンの破綻というキーワードは象徴的に使われているだけで、もともとはサブプライムローンを証券化した投資商品のバブルがはじけ、それに乗っかていたアメリカ経済のバブルが崩れ落ち、ヨーロッパの不動産バブルも崩壊。投資商品を買っていたアメリカと世界の投資家が甚大な被害を受け実体経済もそれに引きずられたのが、リーマンショックです。

  今回の原油価格の暴落がリーマンショックと同じ様な轍を踏む可能性はないのでしょうか。

  リーマンショック時の原油価格は、サブプライムローン問題が表面化した07年から逆に徐々に上昇がスタートして、リーマンが破綻した08年9月の寸前まで実は大バブルを形成しました。07年のはじめに40ドル台でスタートした価格はわずか1年半後の08年夏に140ドルを超えたのです。「株式よさようなら、商品よこんにちは」と言っていたあの伝説のトレーダージム・ロジャースが泣いて喜んだ暴騰でした。それがショック後わずか半年で100ドルも暴落し、また40ドル台に舞い戻ったのです。

  世界経済は原油価格の100ドルの暴落で落ち込んだのではなく、もっともっと大きなサブプライム問題があったから大きく落ち込んだのです。それこそが私が「たとえ40ドル台になっても心配はいらない」と言っている根拠です。今の世界はサブプライムに匹敵するような大バブルなど抱えていません。

  数字で見てみましょう。例えばロシア経済の崩壊など、世界から見れば小さな問題です。その経済規模はもともとイタリアとかブラジル並みの2兆ドル程度で、今回のルーブルの崩壊で為替が半分になったとして換算をすれば1.3兆ドルの韓国より小さくなった、という程度のことなのです。ちなみにアメリカは17兆ドルとロシアの8倍以上です。

  その他の産油国は規模から言えばロシアの比ではなく、全部合わせてもロシア一国に満たないという程度の規模なのです。

  この原油価格の暴落が10兆ドル規模の中国経済の破綻を引き起こしたなどとなれば話は別ですが、中国は原油価格の暴落でメリットを受ける側です。アメリカしかりヨーロッパしかり日本も同じメリットを受ける側にいます。ですので、

  「リーマンショックのない単なる原油の暴落など全くこわくない」のです。

  原油価格があまりにも大きく動くので、金利の話からずれてしまったようですが、実はこうした資源価格下落の影響はインフレ率の低下を通じて金利に影響を及ぼしますので、しっかりと見ておく必要があります。私が「金利上昇の最大のリスクになるのはこの物価だろう」と言っていることの核心部分でもあります。

  12月のFOMCの結果が今朝発表されました。大きな変化はありませんでしたが、次回こそその解説を含め今後の物価と金利の話をしたいと思います。

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