ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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チャンス到来、米国債は買いだ

2022年12月23日 | 米国債への投資

  コメント欄でお知らせしましたが、今の為替レートと金利レベルで、米国債は買いか否か、私の考えをお知らせします。

  もちろん答えは「チャンス到来、買いだ」です。

 

 ドル円レートは現在132.7円ですが、シミュレーションのため丸い数字にして133円としましょう。米国債の年限別イールドは、以下のとおりです。

2年 4.27%

5年 3.81%

10年 3.69%

20年  3.91%

30年  3.73%

参照;https://www.bloomberg.com/markets/rates-bonds/government-bonds/us

  通常であれば2年から長い年限に順次高くなるのが順イールドですが、現在は1年以下が一番高く、2年、5年、10年と低くなる逆イールドです。しかし20年に向かってまた高くなって30年はまた低くなる変則的カーブを描いています。

  これまで10年物を目安に「チャンス到来」とみなさんにお知らせしてきました。著書を書いたのが2011年で、その時の10年債イールドは3.12%でした。その後は低下を続けましたが、13年にいちど3%に乗せたタイミングで「チャンス到来」とお知らせし、その後低下。再び3%に乗った18年に再度「チャンス到来」と投稿していますので、今回は3回目です。もちろん先ごろは4%に乗っていましたので、その時に投資をされた方は多くいらしたと思います。

 

  ただその時には円が安くなっていたため、以下のようにブレークイーブンを計算してお示ししました。10月21日の記事、「150円でも米国債は買いだ」を部分引用します。

引用

米国債1,000ドルを1ドル150円で買うと15万円です。すると(当時の金利4%の複利計算で)10年後に元本はほぼ1,500ドルになります。投資時点の円額は15万円でしたから、以下のような割り算をするとブレークイーブンを計算できます。

150,000円÷1,500ドル=100円

  戻ってくる1,500ドルが15万円と等価になるのはドル円が100円のときです。つまり円レートが100円を切らなければ、損をすることはありません。

引用終わり

  これに現在の数字を当てはめてみましょう。金利レベルは10年物を3.7%とし、為替は133円とします。3.7%の複利で1,000ドルを10年運用すると1,440ドル程度になります。

当初の投資金額は円建てだと

1,000ドル X 133円 =133,000円

ブレークイーブンの計算は、以下のようになります。

償還時 133,000円÷1,440ドル=92.36円

ドル円レートが100円を切り92円台でも損しません。ということはドル円が150円だった時の金利4%をかなり下回った3.7%でも、ブレークイーブンは92円台まで下がったのです。

10年後、もしドル円が現在と同じ133円だと、

1,440ドル X 133円 = 19万円 にもなります。1.44倍です。

  この10年で3%台は3回目のチャンスで、しかも前回2回のレベルをかなり上回っています。なのでチャンスです。

  では、10年物ではなくよりイールドの高い短期の債券はどうか。

例えば2年債は4.27%です。金利はかなり高いですが、投資金額133,000円に対しドル額は1,000ドルが複利で2年後に1,088ドルですので、ブレークイーブンは、

 133,000円 ÷ 1,088ドル = 122円  と、かなり高いレベルです。

  10年という長い期間と2年という短期の比較では、圧倒的に長期が有利かつ安全だということになります。長期投資の大切さを実感できる数字ですね。

  それと短期では償還時に再投資する場合、金利レベルがどうなっているかという問題が残ります。

  そのほか私のフェースブック上の相談窓口で直接相談を受けている方々からよくいただく質問は、「FRBは政策金利を来年以降まだ上げることが確定的ですが、長期金利の見通しはどうか」というものです。

金利や為替の将来見通しを的確に予想することは難しいのですが、今回に限ってみると以下のことは言えると思っています。

「来年の景気がスローダウンするのはかなり確実で、よほど早くボトムを打たない限り、来年中に長期債利回りが反転上昇し今回の高値を更新するのはむずかしいのではないでしょうか。」

以上、「米国債は今買い時だ」、でした。

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黒田君への手紙、速達便にて

2022年12月21日 | 日本の金融政策

  黒田君、5円も円高に振れて嬉しいですか?「為替市場の大きな変動は好ましくない」とさんざん言っていたのはあなたですよ、忘れましたか?

  そして何が何でも物価を上昇させたいと言っていたのに、なんで円高を助長し物価を低下させる金利上昇を選択したんでしょう。説明がありませんね。いや、できないのでしょうね、お気の毒に。あなたのやっていることはマスク君並みに支離滅裂ですね。

  半年前に今回のような金利政策の変更はしないと明言していましたよね。首相は解散についてはウソをついてもよいと言われますが、いつから日銀総裁も金融政策についてウソをついてもよいことになったのでしょうか?

  あなたのおかげで指標銘柄である10年物国債の取引がたびたび成立しないため困っている市場関係者が多いのに、それを意に介しませんでしたよね。債券を笑う者は債券に泣くことになりますよ。今回は遂に市場の反乱に負けましたね。でも、これで済むと思ったら大間違いですよ。オレ様はオールマイティーだと思っている中央銀行総裁など、世界であなただけです。他のみなさんは市場を無理やり捻じ曲げるのではなく、市場との良好なコミュニケーションこそすべてだとして、懸命に対話を続けています。あなたの根拠なきツッパリが日銀の信頼を失うことになるのが、どうして理解できないのでしょう?

 

  もう一つ、大事なコミュニケーションの欠如がありましたね。それは大事な大事な政府とのすり合わせです。今回の変更は2013年の政府と日銀の政策連携の一大変更です。政府関係者は「今回事前に変更の話は一切なかった」と言っていました。何故そんなひどいことをするんでしょう。為替の介入じゃあるまいし、サプライズが効果をもたらすことはありません。ひたすら独走に対する反発と、政府日銀の連携を壊した負の実績が残るだけだけです。

  来年の3月に交代する後任の総裁は利上げせざるを得なくなりますが、その痛みを少しでも和らげるため、あなたが多少の痛みを受け持ったのでしょうか。ならば「今回の変更は超緩和政策の変更などではない」などとウソブクのを止めたらどうでしょう。市場関係者の誰もがあなたの苦しい言い訳を冷ややかな目で見ています。

 

  その昔、日本は毎日の大本営発表により国民は騙され続け、道を大きく間違えました。今回の発表は、まさにウソで固めた大本営発表そのものでしたね。しかし言論統制の効いていた戦中とは違い、「王様あんたは裸だ」とおおっぴらに言うことができます。マスクは自分に批判的な報道関係者をツイッターから追放という形で言論封殺を行いましたが、日本では封殺はできません。昨日の政策変更の記者会見で記者たちは自由に発言し、あなたの過去の言動と正反対の政策変更を責めました。それに対しあなたはミエミエのウソをつきながら、実際にはしどろもどろでしたね。

  2年ですべてを解決して見せるという大ミエはどこにいったのでしょう。あなたはその後も政策の失敗を重ね10年もねばり、日本財政を借金まみれにしました。あなたの目論見と違い、破綻へのマグニチュードは大きくなるばかりです。

 

  アメリカのFRBを長く率いたグリーンスパン氏は退任直後「回顧録」を書き、マエストロとまで呼ばれた指揮ぶりを自画自賛しました。ところがその直後に起こったリーマンショックで彼の名声は一転。すると数百ページの回顧録に対して数十ページの追補を発行し、「ごめんなさい、私の政策の大失敗が招いた金融危機です」と謝罪しました。

 

あなたは正々堂々、回顧録を書けますか?

楽しみにしていますよ!

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ワールドカップ、感動をありがとう

2022年12月19日 | ニュース・コメント

  決勝戦、興奮しましたね。

  ほとんどのコメンテーターの感想は、「サッカーは本当にシナリオのない劇だ」というものでした。アルゼンチンが2-0とした時には、これで決まったかと思いましたが、フランスがあっという間に2-2に追いつき延長戦になるというシナリオなど、誰にとっても思いもよらぬ展開でした。

  しかし私に言わせてもらえれば、今回のワールドカップとその決勝戦は「メッシのための、メッシによる、メッシの決勝戦だというシナリオどおりだった」という感想です。

  前の晩からうちでは「エムバぺには次がある、次の次もある。なので今回はメッシに勝たせてあげたいよね。」という話をしていました。予想などではなく、ただの願望として。

  メッシに加えて決勝戦でほめたたえられるべきは、主審でしょう。表彰式でも表彰されていましたが、本当に的確で素晴らしくフェアーだったし、判定しずらい細かい所でも文句の付けようがない見事な審判でした。

  さらに加えるなら、開催国カタールの準備です。あの暑い国でよくぞ冷房を効かせるなどというエネルギーの無駄使いをしてまで、選手も観客も熱中症で運ばれることもなく、無事に開催してくれました。もちろんSDGやLGBTQの観点、突貫工事で死傷者を多数だすなど、多くの問題がありました。FIFAの開催国決定については大いに責められるべきだし、賄賂問題も含め限りなく黒に近いグレーな大会でした。

  カタールは数年前の世界陸上では、暑さの中競歩選手の多くが倒れると言う大失敗をしていましたが、今回は無理やりですが克服しました。しかしもうこれ以上、暑すぎる国での開催はやめてほしいですね。

  ワールドカップの一か月、まずはサムライジャパンの大活躍で盛り上がり、後半は世界の一流選手たちの技にしびれ、普段サッカーはニュースでしか見ない私も心から楽しむことができました。

  日本チームは若いし、海外で活躍している選手が多いため、今後ますます楽しみになりますね。

 

  別件です。

前回の投稿の中で私が書いた文章に、ある知り合いの方から「ディベートとは何か?」という質問がありましたので、参考までに以下回答させていただきます。

  大学のESS(English Speaking Society)で行われるディベートとは、2人から5人程度のチームに分かれて、英語でチーム戦を行います。決められた時間内に2チームが論戦を戦わし、審判が勝敗を決めるコンテストです。審判はネイティブスピーカーで専門的知識のある方がボランティアで務めます。

  慶応の場合まず学内で争い、その後東京地区で大学リーグ戦があり、トップチームは全国大会まで進みます。

  例えば「日米安保は廃棄すべきだ」というタイトルの場合、タイトルに対して賛成側と反対側に分れ言い負かした方が勝ち。そして採点は論理を組み立てる力、英語力、最後は説得力を含む総合力で争います。私の知識欲や思考力は4年間に渡るディベーターとしての経験で大いに鍛えられたと思っています。

  しかし年をとったいまでも理屈っぽいのが全く抜けず、「相変わらずウルセーやっちゃ」と言われています(笑)

 

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ウクライナ戦争の止め方

2022年12月16日 | ロシアのウクライナ侵攻

本日の日経新聞朝刊の記事です。

見出し;ロシアとウクライナ戦争の止め方・・・「朝鮮戦争の休戦が参考に」

  by;チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター   ギデオン・ラックマン

 

フォーリン・アフェアーズは、ウィキペディアを引用しますと、『アメリカの外交問題評議会が発行する外交・国際政治専門の隔月発行政治雑誌。1922年9月15日創刊。外交・国際政治関係の雑誌第二次世界大戦後に発表され、来たるべき冷戦を分析したジョージ・F・ケナンの『X論文』(題名:「ソ連の対外行動の源泉」)や、冷戦終結後の文明間の対立を予測したサミュエル・P・ハンティントンの「文明の衝突」など、その時代を代表する外交・国際政治や国際経済に関する論文が発表される場となった。』

 

  私は学生時代ESS(英語会)に入部して、何年もの間ディベートに明け暮れていました。ディベートのタイトルが例えば「日米安保条約は廃止すべきだ」というような政治的問題になると、この雑誌から参考となる論文を見つけては、むさぼるように読んでいました。外交問題を正面から扱う専門誌としては、世界一流の雑誌で、今回の内容はそのチーフ・コメンテーターの執筆によるもので、一読に値すると判断し、みなさんにも見ていただこうと思い投稿しました。 

 以下は、日経新聞と提携しているFINANCIAL TIMESの記事の引用です。

引用

一部の保守派の人にとっては外交政策の危機といえば「ミュンヘン」(編集注、ナチスドイツとの戦いを含む戦争)を意味するし、一部の左派の人はいかなる戦争も「ベトナム」(戦う意味のない戦争)と化す恐れがあるとみている。

だが、ロシアとウクライナの戦争の2年目突入が避けられそうにない今、あまり耳慣れない言葉が聞かれるようになった。「朝鮮」だ。

なぜ朝鮮戦争が比較に出てくるかと言えば、同戦争はいまだに正式には終結していないからだ。1953年に休戦協定が結ばれ、正式な平和条約が締結されないまま戦いが幕を閉じた。以来、何十年も停戦状態が続いており、戦争は実質的に凍結されている。

休戦にすればウクライナ戦争の実質的な終結につながるかもしれないという期待は3つの認識からくる。第1はロシアもウクライナも完全な勝利を収めることは難しい。第2に両国の政治的立場があまりにかけ離れており、和平合意が成立するとは考えにくい。第3にどちらもこの戦争による犠牲があまりに深刻なため、休戦は魅力的に映る可能性がある。

 

確かにロシアはいまだに「(ウクライナに)勝利した」という言葉を使っている。プーチン大統領は21年間に及んだ大北方戦争でスウェーデンをねじ伏せたピョートル大帝に自らをなぞらえることを好む。

だがプーチン氏はウクライナ侵攻で既に失敗したというのが現実だ。ロシア軍はウクライナの首都キーウ(キエフ)、北東部ハリコフ、南部ヘルソンからの撤退を余儀なくされてきた。

プーチン氏が9月に発令した部分動員令は何千人ものロシア人男性の国外脱出を招いたうえ、戦いの形勢を逆転させることもできなかった。ロシア軍は既に約10万人にも上る死傷者を出しており、過酷な塹壕(ざんごう)戦で今も兵士が多く命を落としている。

しかし、プーチン氏は自らが自国にもたらした犠牲の大きさも、ロシアがウクライナでどれほどの戦争犯罪を重ねているかも認めようとはしない。このことが和平に向けた交渉を阻む大きな障害となっている。

それでもロシアがこの戦争に敗北したと認めることなく、軍事戦術上の調整として戦いから徐々に手を引くことは可能だろう。ロシアが2月の侵攻開始直後から支配下に置いてきた南部の要衝ヘルソンから11月、撤退したのはまさしくそれにあたる。プーチン氏はこの決定からは距離を置き、軍司令官らとショイグ国防相が発表した。

最近出版された「指令 朝鮮からウクライナに至る軍事行動の政治学(仮訳、原題はCommand: The Politics of Military Operations from Korea to Ukraine)」を著した英国際政治学者ローレンス・フリードマン氏は「撤収に向けて(両国の)軍部と軍部が交渉する」ことで休戦が成立する可能性はあると考えている。

同氏は、朝鮮戦争とウクライナ戦争には重要な違いが複数あると強調しつつも、朝鮮半島の休戦は完全な和平合意に至らなくても「軍を引き離すことで戦闘停止」を実現できる可能性を示すものだと指摘する。

プーチン氏は領土をどれだけ奪い、それが政治的にいかにプラスになったかを主張できない限り戦争終結の宣言はできないだろう。だが、表向きは軍事的な助言に応えるという形をとる、あるいは善意を示すふりをして、戦闘停止を受け入れることはできるかもしれない。

しかし、ウクライナ側が休戦を受け入れなければならない理由などあるだろうか。道徳的にも政治的にも、国家を存続させるためにも戦闘を続けるべきだと考える強い根拠がある。

現在、戦況はウクライナに有利に展開している。ゼレンスキー大統領は、2014年にロシアに併合されたクリミアを含め、占領された地域は文字通りすべて奪還すると公言している。

プーチン氏による数々の残虐行為を踏まえれば、多くのウクライナ市民にとって、改革もされないロシアと何らかの「正常な」関係を築くなど到底考えられないように思える。休戦などしたら、ロシアがその間に再軍備を進め、再びウクライナを攻撃しかねないという現実的な懸念もある。

ただ、声を大にしては言いくいが、朝鮮戦争の長期にわたる休戦協定はウクライナにとってもプラスに思える可能性はある。ロシア側と同様にウクライナ側も日々、膨大な数の犠牲者を出しているからだ。

ロシアがウクライナの戦意をくじこうと、インフラに狙いを定めて攻撃する戦術は極めて残忍だが効果的だ。ウクライナはこうした攻撃にも対処していかなければならない。水や電力の供給を途絶されたら、冬の寒さを耐え忍ぶのは極めて困難になるうえ、ウクライナから国外に避難した何百万人もの人々にとっても故郷に戻ることが難しくなる。

それどころか、国外に避難する市民の数はさらに拡大している。数カ月と考えていた避難生活が数年に及べば、ウクライナに戻る可能性が低くなり、家族にとっても社会にとっても大きな打撃となる。

一部のウクライナ市民は公の場では口にしないが、退役軍人だけでなく住民にもロシアに忠誠を誓っている人が多いクリミアを取り戻すには、さらに過酷な戦闘が避けられないことを認識している。

したがって、ウクライナ側も最終的な政治目的を断念せずに戦いを凍結したいと考える動機はある。その場合、大きな障害となるのはロシアの意図をまったく信用できないことだ。

だが、ウクライナを支援する西側同盟諸国もプーチン氏率いるロシアへの幻想はもはや捨て去っているため、ウクライナが停戦後、単独で未来に向き合うことはない。むしろ軍事支援と安全保障を得て、ロシアが攻撃をためらうてごわい「ヤマアラシ」となりそうだ。

停戦が実現すればウクライナは味方する各国からの支援を得られ、国家の再建も可能になる。韓国は朝鮮戦争で壊滅的打撃を受けたが、今は先進国となり繁栄している。

対照的にプーチン氏が権力を依然として握り、ウクライナで犯した罪を償おうとしないロシアを待つのは、国際的孤立の継続と貧困が拡大する未来だ。その現実が広く認識されたとき、長く待ち望まれてきたロシアの政治的な再建がようやく始まるかもしれない。

引用終わり

 

 冬を迎えて非常に厳しい状況に置かれているウクライナの人々の命を救い、両国の軍人の命も無駄にしないようにするには、以上の提案は現実的かつ合意可能性を持つ提案に思えます。

  私はこれまでプーチンの一方的侵略を100%否定し、何があってもプーチンを許してはならないと主張してきました。その考えを一歩も譲ることはありません。しかし解決策がないまま人々をこれ以上苦しめないために、「休戦」は空論ではない、とても現実的な選択だと思います。

 

 

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日本経営合理化協会での講演、その3 貯蓄から米国債へ

2022年12月06日 | 日本の金融政策

  ありがとう、サムライ・ジャパン。

  ドイツとスペインを破るとは、事前予想をはるかに上回る大活躍でしたね。目標のベスト8には惜しくも届きませんでしたが、10日間にわたり日本中を沸かせてくれました。選手たちと監督に感謝です。

 

  さて講演内容の3回目として取り上げるのは、日本における投資がいかに偏ったギャンブル性の高いものであるかについてです。

  岸田政権は「新しい資本主義」という大上段に構えた目標を掲げて登場しましたが、いまのところ目新しいものはなく、従来からのバラマキ型経済政策とNISAの期限を伸ばすのがせいぜいのようです。

 投資をされている方の多くはNISA口座を使われていることと思いますが、NISAには罠が仕掛けてあるってご存知ですか。超安全な投資のみを推奨している私に言わせていただければ導入当初のNISAとは、

「リスクの高い株だけに投資させ、年に120万円は必ず使わせ、5年間売らせない」

 となります。

  解説しますと、 

・対象はハイリスクの株・REIT・投信のみで、安全な債券はNISAの対象外

・買ったら最後、売りづらい。売ったらその分非課税枠がなくなるので、売るという行為をさせないようになっている

・1年120万円の非課税枠は翌年以降に持ちこせないので、「必ず毎年使い切れ」と言わんばかりに年に120万円を投資させようとしている

 

 例えばA株をNISAの口座で買い、半年で倍になったので売った。この場合キャピタルゲインに課税はされませんが、5年間の非課税枠は4年半を余して消滅します。なので、値上がりしても簡単には売りづらいのです。

 また、リーマンショック時やコロナショック時のように株価がどんどん下落している最中でも、年末までに買わないとその年の枠はなくなります。目をつぶってでも早く買え、それがNISAです。

  岸田政権はこの図式を多少変えようとしていますが、基本的にリスクの高い株式投資のみである主要件は変更されません。債券は全く無視されています。

 

  みなさんは世界の金融資産の半部以上は債券であることをご存知ですか。

  22年5月時点での統計ですが、世界の債券残高が120兆ドル、株式時価総額は 100兆ドルです。つまり6対4で債券の方が総額は大きいのです。総額がこうなっているということは、投資家サイドからみれば、世界の投資家は平均で6割を債券に投資していることになります。

 

  日本では円建て債券そのものの利回りが低すぎて投資に値しませんし、NISAが債券の存在すら認めていませんから、投資家の大半も債券は投資対象としていません。リスクの少ない超安全資産として投資対象を米国債にまで拡げている方は、私の唱える米国債投資を知りそれを実行されている方だけかもしれません。

 

  この偏りの一番の原因は日銀・黒田総裁による国債金利の抑圧です。「異次元の緩和」という愚かな政策を10年も続けたことにより、債券は一般の投資家から見限られるだけでなく、機関投資家の大半も見限っています。それが証拠に債券市場の一番の指標銘柄である10年物国債の取引が全くない日が10日に一度くらいはあるのです。

  為替市場でもし「今日はドル円の取引がないため、レートの提示はできません」といったらパニックになります。債券投資の世界ではそれに匹敵する異常事態が日常茶飯事で起こっています。

 

  この一番の被害者は実は我々なのです。何故か。我々だれもが頼る年金の運用に悪影響が出ているからです。そもそも債券金利がまともにリターンをもたらせば、年金資産は大半が日本国債をメインとする債券に投資され、変動の激しい株式などで大勝負などしません。金利収入をコンスタントに得て、年金支払いを行うことができるからです。世界の大半の年金も、債券投資に重きを置くので、金融市場の半分以上が債券なのです。

  それを数字で確認してみましょう。日本の年金資金を運用しているGPIF(年金運用管理独立法人)の投資にはガイドラインが定められていて、それを守った運用をしています。以下の構成比がガイドラインです。

                                                                                                                         

         国内債券 国内株式 外国債券 外国株式

2013年6月まで   67%   11%   8%   9%

かつて国内債券は3分の2を占め大事な年金はリスクを抑えた運用をしていました。

  しかし黒田氏が就任した21013年4月以降、安倍政権と一緒になり国策として徐々に債券を減らし、その分株式投資を増やし、現在以下のように構成比を変化させました。3分の2だった債券はわずか4分の1となったのです。

         国内債券 国内株式 外国債券 外国株式

2020年4月以降   25%   25%   25%  25%   

 

  GPIFだけでなく日本の機関投資家や一般投資家も同様で、債券投資は脇に押しやられました。その上「新しい資本主義」というわけのわからない政策の下、ひたすら株式投資だけを推進する政府によって税制までもがゆがめられ、バクチとも言える株式投資に誘導されているのです。

 

 米国債投資を知らない方には、ご愁傷様としか言いようがありません。しかし実は株式投資への誘導は新しいことではなく、2003年から「貯蓄から投資へ」という政策を標榜し始めたころから推奨されていました。

 

  ところが「笛吹けども踊らず」。国民は政府に騙されてバクチにのめり込むこともなく、2,000兆円も金融資産を貯めこみ、そのうち株式投資はわずか10%、投信が4.5%とリスクを抑え、現預金が54%、保険が27%と安全資産が大半を占めています。今後岸田政権がいくら旗を振ろうが、国民の安全志向が変わるわけもない。

  しかし金利というリターンを全く生み出さない現預金にいつまでオカネを置き続けるのでしょう。これまではインフレがなかったため現預金は目減りすることがありませんでしたが、現在のように3%のインフレ率が続いたりすると、我々の資産は目減りが続くことになります。

  ここまでをまとめます。

  安全な債券投資を失った日本人は、現預金だけで目減りを我慢するか、株式投資というギャンブルに走るかしかなく、年金までもがその波に飲み込まれている。それが日本といういびつな国の異常な実態であることをみなさんもしっかりと自覚しましょう。

 

  家計の金融資産2,000兆円にたった1%でも金利が付けば、国民は毎年もれなく20兆円もの分配がもらえます。一人当たり毎年16万円にもなります。

  逆に3%のインフレとは、実質的に一人当たり48万円の損失になっているということです。その計算は、先ほどの1%の3倍を失うので、

 16万円X3=48万円

ちなみにアメリカ国債なら、これ以上もらえます。

「貯蓄から米国債へ」、それが私の合言葉です(笑)。

 

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