全国のコロナ感染者数は増加一方でしたが、緊急事態宣言あたりをピークに、横ばいないしは若干の低下傾向に入ったようです。やはり感染防止には人の移動・経済活動の抑制が必要だということでしょう。飲食業界はかなり悲惨な状況ですが、旅行業界も同じように深刻です。
JALとANA、コロナに打たれる両社はいったい大丈夫なのでしょうか。もちろん大丈夫なんかではありません。私は古巣のJALがとても心配なので、どのていど深刻なのかをANAと比較しながら見てみたいと思います。
先週号の週刊ダイヤモンドの特集は「航空・鉄道 最終シナリオ」という恐ろしいタイトルです。2回目の緊急事態宣言を受けて果たして旅客運送業界各社はどうなるのかを特集しています。その中でも特に大きな影響を受けている航空業界を取り上げてみます。厳しい現実を突きつけられています。
旅行業界全体では、国内旅行と海外旅行を比べると比較のしようがないくらい海外旅行が大きなダメージを受けています。一つには水際対策としての移動制限が入国に厳しい制限を課しているからですが、それと同時にこの数年政府が「観光立国」の旗を振って振興策を講じ大成功していた海外からの旅行者がほぼゼロになったからです。山を高く作り過ぎたのでそこから滑り落ちているのです。
公式な出入国統計を見ますと2014年、訪日客数は1,340万人でしたが、コロナ前の2019年にはそれが3,190万人とわずか5年間で2.4倍にもなっていました。大成功といえます。それが20年には11月までですが、405万人と前年比85%も減少しています。一方日本からの出国者数は80%減です。両者とも1-3月期はコロナによる減少幅がさほど多くないので、それを勘案すると4月以降日本でのコロナ感染発生以降では訪日客は90%減、日本人の出国者は98%減ほどです。なんとも壊滅的な数字です。この2つの数字に8ポイントの差があるのは、日本は海外より相対的には安全であると外国人も日本人も思っているからでしょう。
一方国内旅行者数の数字は 官公庁から発表されていますが、まだ9月末までの数字ですが、トラベルボイスの11月19日発表ニュースを引用します。
「日本人国内延べ旅行者数(速報)は、20年7-9月期に49.4%減の8574万人。4-6月期の77.4%減から減少率は改善した。このうち宿泊旅行が同51.4%減の4620万人、日帰り旅行が同46.8%減の3953万人。」
10-12月期はまだ発表されていませんが、この半減トレンドが継続していると思われます。そのうちの航空旅客数は統計が見当たらないので、ダイヤモンド誌に出ている20年9月までの国内線航空旅客数のグラフを参考にします。それで推定してみますと、一昨年19年9月一か月の旅客数は930万人程度でしたが、20年9月はそれが320万人程度と約3分の1になっています。JALとANAも同じような影響を受けていると思われます。
ではJALとANAの決算数値はどうなっているかを見てみます。これは19年度上半期の4-9月期と20年の4-9月期の比較ができます。売り上げは前年比7割減。損失額は21年3月までの年間予想ですが、JAL2千数百億、ANA5千億円の損失と壊滅的数字です。
JAL ANA
19年4-9月期 売上 7,489億円 1兆560億円
20年4-9月期 売上 1,948億円 2,918億円
前年同期比 ▲74% ▲72%
21年3月期予想純損益 ▲2,400~2,700億円 ▲5,100億円
航空産業は典型的装置産業で、稼働率の低下がそのまま利益の減少につながります。航空機材や飛行場の設備と人件費などが固定費。燃油費や空港使用料などが主な変動費です。
では旅客数の減少に比例して便数を減らせるかといいますと、なかなかそうはいきません。その最大の理由は公共交通機関であるということです。離島などの便が典型で、一日の便数が多ければ多少の減便は可能ですが、全くなくすことはできません。
ダイヤモンド誌はこのままの赤字が継続すると、いつキャッシュ不足、つまり倒産することになるかの計算をしています。両社ともすでに増資や借入れなどで目一杯資金調達をしていますので、それがいつまで持つか、手元の現預金と毎月の現金流失額を比較します。
毎月の現金流出額はJAL283億円、ANA428億円で、持久力はJAL12か月、ANA11か月と計算されています。前提条件は政府からの資金支援はなし、コロナ対策の雇用調整助成金は活用するという前提です。要は両社ともあと1年の命と計算されています。ではそれに対抗策は果たしてあるのでしょうか。これまでも人員削減や経費削減などで打てる手は最大限に打っているため、決定打は残されていないと思われます。
先週NHKはANAの現場社員の奮闘ぶりをテレビで特集していました。例えば収支を改善するため毎日便数の減便調整をしたり、客室乗員が全く違う社外の仕事、例えば果実や野菜の収穫に派遣されたり、まだ使用に耐える古い機材を売却したりする様子を取材していました。しかし毎月428億円の資金流失に対してはいずれの対策も焼け石に水です。航空会社の経営に本社で携わっていた私ですが、この状況への対処策はとても思い浮かびません。
ダイヤモンド誌は最後の一手としてJALとANAの合併という案を検討しています。いまや海外のエアラインはたとえフラッグ・キャリア―であっても合併は当たり前に行われています。例を上げますと、AFとKLM、BAとIB、LHとOS、DLとNWなど。また隣の韓国では大韓航空とアジアナという国内合併もありました。しかし私は日本の2社は自ら合併はしないだろうと思います。現状での両社を足しあげても、マイナス足すマイナスはマイナスですし、大きなコストカットは両社ともすでにやっています。そして外部からの合併圧力に屈することもないと思います。狭い日本ですが航空需要自体は十分にあり、2社の他にLCCが数社も並び立つほどです。
今後1年程度を乗り切れば、国内でメジャーキャリアーが1社となってしまうより、2社の方が我々旅客の側にも大きなメリットがあるのは目に見えています。
では余命1年の宣告を受けた2社の将来はどうなるか。ひとえにコロナの収束にかかっていると思います。ワクチン接種のスピードとの戦いです。しかしたとえ1年後にある程度の需要が戻ったとしても、19年のピーク時の旅客数に早期に戻ることはなかなか見込めないと思います。それでも出血さえ止まれば、自力で存続することはできるでしょう。そしてダイヤモンド誌の計算は同じレベルの出血が1年続く前提ですが、ワクチン接種が徐々に進めば旅行需要も徐々に戻るため、半年もすれば出血レベルの低下が見込まれます。
そうしたことを期待して、JALとANA両社のガンバリを期待したいと思います。