政治問題を扱わない方針のブログではありますが、今日はあえて原発問題を取り上げます。
原発問題ではありませんが、昨日の国連総会の1つの委員会で核兵器禁止条約締結を目指す決議案が123票の賛成多数で採択されました。日本はなんと反対に回っています。世界の核兵器廃絶のリーダーたるべき日本が、禁止条約に反対するとはとてもショックだし、それに対する日本政府の釈明は、私には意味不明でした。核武装論者を国防大臣に据え、安全保障に関する違憲立法を強行した安倍政権の本性が再び見えたように思えます。
一方で国内では、原発の再稼働問題が毎日のように報道されています。私が講演会を予定しているサイバーサロンでもそのことが議論されていています。その議論の一環で、一昨日熊本大学名誉教授の入口紀夫さんが、原子力発電に関する総括的な解説を投稿されました。
原発について私はなんとなく、「しばらくなしでもやっていけたのだから、この先も再稼働させない方が安心できそうだ」と思っています。それ以上深く考えたことはありません。しかしこの入口先生の解説は、しっかりとした数字の裏付けがあって、数字ヲタクの私にはとても説得力のある解説でしたので、みなさんにも見ていただこうと思い、許可を得て全文をそのまま掲載させていただきます。
引用
現在世界には430基の原子炉があります(うち地震多発地帯には60基でうち54基が日本)。
わが国の「原子力基本法」(1955年)は、原子力を「利用することを推進すること」と原子力を「みだりに利用しないように規制すること」の二つが柱となっています。したがって、わが国の原子力発電は、これを「推進」すると「反対」するとにかかわらず、無機質に「規制」しながら「推進」されます。アメリカには104基の原発がありますが、アメリカはすでに脱原発に入っていて1995年から新たな原発建設はありません。2012年2月に「アメリカで34年ぶりに新規建設が認められた」との報道が日本でありましたが、アメリカでは米原子力規制委員会がその半年後に認可を見直して停止しました(日本では報道されません)。
フランスも脱原発に入っており、2002年から新たな原発建設はありません(1基はとん挫)。欧米で建設進行中の原発はフランスのアレバがフィンランドで建設している1基だけです。
それも当初1兆円の予算が、コアキャッチャー(万一メルトダウンしたときに核燃料を地下で受け止めて冷やす「皿」)をつけ、航空機の衝突防止用の「よろい」をつけました。複数の非常用電源をテロから防禦する手立てはなく、すでに3兆円を超えており、稼働は不透明です。
ドイツは2011年に55TWh(*100万kW原子力発電x6.3基相当)の電力を輸出して、50TWh(*同5.7基相当)の電力を輸入しました。フランスとの国境に近い地域では「フランスの原発電力を輸入している」と日本では報道されましたが、2013年には「自然エネルギー」によって原発20基分をまかなうようになり、輸出電力は70TWh(同8基相当)に増加し、輸入電力は40TWh(同4.6基相当)に減少し、フランスから原発電力を輸入する理由はなくなりました(日本では報道されません)。
わが国の発電総単価は、1キロワット時あたり水力3.98円、火力9.90円、原子力10.68円(地元交付金を含みますが、廃棄物費用・廃炉費用・事故終息費用を含みません(立命館大学・大島堅一教授)。
ウラン資源の確認埋蔵量は50京キロカロリーです。原油の確認埋蔵量は150京キロカロリー、太陽光は「毎年」1,300京キロカロリーです。なので、ウランは枯渇しつつある「限定資源」です。
原発1基は100万kWを発電しますが、実は300万kWの出力があって、残り200万kWはタービンを海水で冷却して廃棄されます(1秒間に70トンの海水を7℃上げる)。日本の国土の約6割は森林ですね。日本が緑豊かであるのは、雨がたくさん降るからですが、約38万平方キロの国土に1年間に約6,500億トンの雨が降ります。うち約2,500億トンは地下水となり、約4,000億トンは河川を流れます。日本の54基の原子炉から出る7℃高い海水は約1,000億トンです。原発は二酸化炭素を排出しませんが、自然エネルギーに比較すると「地球温暖化」を推進して近海の生態系を変えます。
福島第一原発の地下を掘り、コンクリートを流し込み、全体を石棺でおおって注水を停止し、チェルノブイリのレベルに追いつくには、少なくとも「120兆円」が必要です。将来、石棺は老朽化していくでしょうが、それでも溶け落ちたデブリを取り出す技術はありません。老朽化した石棺の底でデブリは地下水など「水」に触れるとそれが中性子減速材となって再臨界を繰り返す「寿命100万年の放射性活火山」となると私は考えています。
正常な原発でも、それを廃炉にして更地にするには、廃炉先進国のイギリスの例では「90年以上」かかる見通しです。原発は通常1基あたり広島原爆約7,500発分の放射能をかかえて稼働させますが、燃料棒をすべて取り出しても原子炉自体が広島原爆数発分の放射能で汚染されていて、それをどう削り取るか、削り取った廃棄物をどう処分するかが将来100年間見通せないからです。
中国には原発が稼働中13基、建設中29基 計画中10基ありますが、現在の中国製の原発は最新のコアキャッチャーなどの安全基準を満たしており、それに比べると日本の原発は世界的にも「格段劣った規制基準」でつくられています。日本には「原子力基本法」に基づいて「規制基準」はありますが、「安全基準」はありません。
日本には広島原爆100万発分の「放射能廃棄物」があります。海洋投棄は「ロンドン条約」に違反します。また、日本は国土の10倍以上の排他的経済水域(そこで採れた資源はとってよい)をもつ海洋大国ですが、海洋汚染防止義務に違反すると「国連海洋条約」でこれを失う恐れがあります。氷床投棄は「南極条約」に違反します。宇宙投棄は技術的に困難です。政府は、ガラス固体化させて地下1,000メートルに埋める方針ですが、引き受ける自治体がありません。
日本学術会議は2012年㋈11日に「地下に埋めてはならない」と答申しました。
私には、原子炉は廃炉もできず、技術的に劣った停止中の原子炉と共に暮らす暗い将来しか見えて来ません。このような暗い将来を目指すために我われ日本人は努力して頑張って来たのだと思いたくはありませんが、「原子力発電に未来はない」が私の結論です。
引用終わり
先生の解説により、報道されていない事実関係を含め、ずいぶん勉強になりました。そして私の頭はずいぶんクリアーになったと思います。さまざまな異論、反論はあるとは思いますが、上の解説を読むと原発が地震大国日本にふさわしいエネルギー源とはとても思えません。
「原子力発電に未来はあるか」
どうみても未来はないように思えます。
ウィキペディアに載っている入口名誉教授の略歴を参考のため掲載いたします。
「日本の工学者。熊本大学名誉教授、東京工業大学大学院理工学研究科特任教授、熊本大学大学院社会文化科学研究科客員教授、放送大学客員教授を務める。専門は生命体画像工学。工学博士(東京大学)。」
以上