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原子力発電に未来はあるか

2016年10月29日 | ニュース・コメント

  政治問題を扱わない方針のブログではありますが、今日はあえて原発問題を取り上げます。

  原発問題ではありませんが、昨日の国連総会の1つの委員会で核兵器禁止条約締結を目指す決議案が123票の賛成多数で採択されました。日本はなんと反対に回っています。世界の核兵器廃絶のリーダーたるべき日本が、禁止条約に反対するとはとてもショックだし、それに対する日本政府の釈明は、私には意味不明でした。核武装論者を国防大臣に据え、安全保障に関する違憲立法を強行した安倍政権の本性が再び見えたように思えます。

  一方で国内では、原発の再稼働問題が毎日のように報道されています。私が講演会を予定しているサイバーサロンでもそのことが議論されていています。その議論の一環で、一昨日熊本大学名誉教授の入口紀夫さんが、原子力発電に関する総括的な解説を投稿されました。

  原発について私はなんとなく、「しばらくなしでもやっていけたのだから、この先も再稼働させない方が安心できそうだ」と思っています。それ以上深く考えたことはありません。しかしこの入口先生の解説は、しっかりとした数字の裏付けがあって、数字ヲタクの私にはとても説得力のある解説でしたので、みなさんにも見ていただこうと思い、許可を得て全文をそのまま掲載させていただきます。

 

引用

現在世界には430基の原子炉があります(うち地震多発地帯には60基でうち54基が日本)。

わが国の「原子力基本法」(1955年)は、原子力を「利用することを推進すること」と原子力を「みだりに利用しないように規制すること」の二つが柱となっています。したがって、わが国の原子力発電は、これを「推進」すると「反対」するとにかかわらず、無機質に「規制」しながら「推進」されます。アメリカには104基の原発がありますが、アメリカはすでに脱原発に入っていて1995年から新たな原発建設はありません。2012年2月に「アメリカで34年ぶりに新規建設が認められた」との報道が日本でありましたが、アメリカでは米原子力規制委員会がその半年後に認可を見直して停止しました(日本では報道されません)。

フランスも脱原発に入っており、2002年から新たな原発建設はありません(1基はとん挫)。欧米で建設進行中の原発はフランスのアレバがフィンランドで建設している1基だけです。

それも当初1兆円の予算が、コアキャッチャー(万一メルトダウンしたときに核燃料を地下で受け止めて冷やす「皿」)をつけ、航空機の衝突防止用の「よろい」をつけました。複数の非常用電源をテロから防禦する手立てはなく、すでに3兆円を超えており、稼働は不透明です。

ドイツは2011年に55TWh(*100万kW原子力発電x6.3基相当)の電力を輸出して、50TWh(*同5.7基相当)の電力を輸入しました。フランスとの国境に近い地域では「フランスの原発電力を輸入している」と日本では報道されましたが、2013年には「自然エネルギー」によって原発20基分をまかなうようになり、輸出電力は70TWh(同8基相当)に増加し、輸入電力は40TWh(同4.6基相当)に減少し、フランスから原発電力を輸入する理由はなくなりました(日本では報道されません)。

わが国の発電総単価は、1キロワット時あたり水力3.98円、火力9.90円、原子力10.68円(地元交付金を含みますが、廃棄物費用・廃炉費用・事故終息費用を含みません(立命館大学・大島堅一教授)。

ウラン資源の確認埋蔵量は50京キロカロリーです。原油の確認埋蔵量は150京キロカロリー、太陽光は「毎年」1,300京キロカロリーです。なので、ウランは枯渇しつつある「限定資源」です。

原発1基は100万kWを発電しますが、実は300万kWの出力があって、残り200万kWはタービンを海水で冷却して廃棄されます(1秒間に70トンの海水を7℃上げる)。日本の国土の約6割は森林ですね。日本が緑豊かであるのは、雨がたくさん降るからですが、約38万平方キロの国土に1年間に約6,500億トンの雨が降ります。うち約2,500億トンは地下水となり、約4,000億トンは河川を流れます。日本の54基の原子炉から出る7℃高い海水は約1,000億トンです。原発は二酸化炭素を排出しませんが、自然エネルギーに比較すると「地球温暖化」を推進して近海の生態系を変えます。

福島第一原発の地下を掘り、コンクリートを流し込み、全体を石棺でおおって注水を停止し、チェルノブイリのレベルに追いつくには、少なくとも「120兆円」が必要です。将来、石棺は老朽化していくでしょうが、それでも溶け落ちたデブリを取り出す技術はありません。老朽化した石棺の底でデブリは地下水など「水」に触れるとそれが中性子減速材となって再臨界を繰り返す「寿命100万年の放射性活火山」となると私は考えています。

正常な原発でも、それを廃炉にして更地にするには、廃炉先進国のイギリスの例では「90年以上」かかる見通しです。原発は通常1基あたり広島原爆約7,500発分の放射能をかかえて稼働させますが、燃料棒をすべて取り出しても原子炉自体が広島原爆数発分の放射能で汚染されていて、それをどう削り取るか、削り取った廃棄物をどう処分するかが将来100年間見通せないからです。

中国には原発が稼働中13基、建設中29基 計画中10基ありますが、現在の中国製の原発は最新のコアキャッチャーなどの安全基準を満たしており、それに比べると日本の原発は世界的にも「格段劣った規制基準」でつくられています。日本には「原子力基本法」に基づいて「規制基準」はありますが、「安全基準」はありません。

日本には広島原爆100万発分の「放射能廃棄物」があります。海洋投棄は「ロンドン条約」に違反します。また、日本は国土の10倍以上の排他的経済水域(そこで採れた資源はとってよい)をもつ海洋大国ですが、海洋汚染防止義務に違反すると「国連海洋条約」でこれを失う恐れがあります。氷床投棄は「南極条約」に違反します。宇宙投棄は技術的に困難です。政府は、ガラス固体化させて地下1,000メートルに埋める方針ですが、引き受ける自治体がありません。

日本学術会議は2012年㋈11日に「地下に埋めてはならない」と答申しました。

私には、原子炉は廃炉もできず、技術的に劣った停止中の原子炉と共に暮らす暗い将来しか見えて来ません。このような暗い将来を目指すために我われ日本人は努力して頑張って来たのだと思いたくはありませんが、「原子力発電に未来はない」が私の結論です。

引用終わり

 

  先生の解説により、報道されていない事実関係を含め、ずいぶん勉強になりました。そして私の頭はずいぶんクリアーになったと思います。さまざまな異論、反論はあるとは思いますが、上の解説を読むと原発が地震大国日本にふさわしいエネルギー源とはとても思えません。

  「原子力発電に未来はあるか」

  どうみても未来はないように思えます。

 ウィキペディアに載っている入口名誉教授の略歴を参考のため掲載いたします。

「日本の工学者。熊本大学名誉教授、東京工業大学大学院理工学研究科特任教授、熊本大学大学院社会文化科学研究科客員教授、放送大学客員教授を務める。専門は生命体画像工学。工学博士(東京大学)。」

以上

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大統領選挙の戦後処理

2016年10月26日 | アメリカアップデート

  私がNYに住んでいたのは80年代後半で、87年の大統領選挙を現地で経験しました。選挙は共和党の父ブッシュと民主党のデュカキス候補の戦いでした。うちの二人の子供たちは当時11歳と8歳でしたが、小学校で「お前はどっち支持だ」というのがあいさつがわりだったそうで、教室でも先生が大統領選挙を日常的に話題にし、生徒間でも議論させていたそうです。

    今回の選挙の争点の一つであるトランプの女性問題を、いったい小学校、中学校、そして高校などで先生がどう取り上げているのか、とても心配だし興味があります。テレビで毎日、毎時この問題が取り上げられているため、学校でも避けて通ることはできないと思われます。さぞかし困っていることでしょう。

  さて、CNNはすでにポスト選挙の問題を取り上げ始め、上の子供たちの問題などを真剣に議論しています。一国の大統領候補が放送禁止用語を連発している様子が何百回と放映され、それを常識ある著名人などが非難しても彼は意に介しません。相変わらず「9人の女はすべてウソつきだ。選挙後に訴えてやる」。「アメリカのメディアはすべて偏向し、オレ様を降ろそうとしている。こいつらも訴えてやる」と息巻いています。そして挙句の果てに「オレが勝ったら選挙は公正。負けたらインチキだ」

  このあまりのひどさにニューヨークタイムズは遂に、彼がこれまでにツイッターで行った他人などへの侮辱的発言を見開き2ページで全部掲載しました。なんとその数は6,000件に上っています。

  そして「トランプ・パレス」などと名の付いたコンドミニアムに住む人たちが、名前を外せという運動を始めました。これも戦後処理の一つになるでしょう。


   では、今回の選挙後の大事だと思われる後遺症問題を私なりにいくつか取り上げてみます。

後遺症に関する主な点は以下の3つです。

1. アメリカの分断をどう修復していくか

2. トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

3. 共和党は党の分断をどう修復するか

  それぞれに対してもう少し解説します。

1.アメリカ国内の分断をどう修復していくか

これと同様の問題はすでにドゥテルテ問題で取り上げていますが、アメリカでもポピュリズムが今後も最大の政治課題として継続します。今回トランプは「反既存政治」という打ち出しで支持を勝ち取っています。この問題は選挙で負けて終わりではないため、今後政策的な対応をする必要があるでしょう。トランプがあれだけ支持された理由は、数年前のウォールストリート占拠運動から表面化し始めた格差問題で、対処は簡単ではありません。

2.トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

CNNでは、イラク戦争後の帰還兵士のPTSD、心的外傷後ストレス障害問題にも似た症状が、トランプ支持者やこのニュースを毎日浴びさせられていた子供たちにも表れるとして、精神科医とセラピストをスタジオに呼び、今後の治療について議論を開始しています。この期に及んでもなおトランプの遊説で熱狂的に沸き返っている人々の敗戦後のケアーを真剣に議論しているのです。

そして、より個人的問題としてはトランプを支持して先頭に立っていた、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーや、元NY市長のルドルフ・ジュリアーニなども同じです。ジュリアーニはNY市の犯罪撲滅に貢献し、9・11の時の市長で、冷静な対処が称賛されました。しかし今回の選挙では一貫してトランプを支持しています。2か月ほど前にCNNのキャスターとの1時間に及ぶ1対1の対談で、驚くほどCNN非難を行い、キャスターがそのあまりの非道ぶりに遂に本気で怒ってしまったことがありました。テレビ放映中であるにも関わらず、彼の話ぶりはトランプどころかドゥテルテもびっくりするほどのひどい言葉の連発でした。元市長ともあろうものが、いったいどうしたというのでしょうか。

ジュリアーニのように、著名人でトランプに篭絡され選挙後もマインドコントロールの解けない人たちは、選挙後はきっと社会的に葬り去られるでしょう。しかし、アメリカ国民の何割かがトランプ後遺症に悩むとしたら大問題です。

3.共和党は党の分断をどう修復するのか

共和党は修復不能に近いところまで深々と分断され、民主党もクリントンとサンダースで同じ問題に直面していました。もっとも民主党の場合、サンダースはプライマリー選挙敗北後にクリントン支持に回ったため、表面上分裂はしていません。しかし共和党はそうはいきません。政策論争での対立であればある意味しかたないのですが、トランプを支持する支持しないは、その人の人間性が問われる事柄です。党分裂の危機を今後どう克服するかが見ものです。

   大統領選挙といつも同時進行で、上院・下院の入れ替え選挙も行われます。上院は3分の1、下院は任期2年のため全員の改選です。共和党は現在上下両院で過半数を占めていますが、トランプの悪影響のため、特に下院で多数が怪しくなっています。

以上、すでに始まっている戦後処理についてでした。

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講演会の内容 地政学上のリスク

2016年10月23日 | 地政学上のリスク

  私は11月中旬に講演会を予定していていることをお伝えしました。今回はその中で述べる内容について、みなさんに簡単にその一端をお知らせしたいと思います。

   講演会のタイトルは「日本のゆくえ」ですが、講演内容はこれまでいつも経済・金融・財政に偏っていましたが、今回は若干範囲を広げ、地政学上のリスクも見据えて、「日本のゆくえ」を見ることにしました。

   理由はBREIXTやトランプの台頭などに見られるように、純粋に経済的問題ではない問題が、経済問題に大きな影響をもたらすことが多くなっているからです。

   BREXITにしてもトランプ現象にしても、よく言われるように根っこには共通点があります。それは経済格差の拡大からくる反グローバリズム、反移民、反ウォールストリートなどが国民のナショナリズムを煽り既存の政権基盤を揺るがすという点です。こうしたナショナリズムはいわゆるポピュリズムと結びつき、それが大きな影響力を持ってしまうと、これまでの秩序が大きく崩れるおそれがあります。そうしたことを懸念して、以下のようなストーリー建てで講演会を行います。

タイトル;日本のゆくえ

1.国際秩序の変化

・アメリカの覇権に対するロシアと中国の挑戦

特に台頭著しい中国への対処が最重要で、国際法を守らないと宣言する大国が出現した。

 ・中東の混乱がもたらした欧州の弱体化

経済的にはメリットが多く成功するかに見えた統合欧州が、中東からの移民問題で国内が割れ、それが統合欧州にも亀裂を入れ、崩壊の危機に発展する恐れさえ出てきた。

 ・今後の地政学上のリスクはどこにあるか

日本周辺の独裁政権の暴発。北朝鮮、中国。さらにナショナリズムを煽るポピュリズム政治が新たなリスク。フィリピンの例では、東アジアの安定がドゥテルテ大統領の中国接近によりくつがえる恐れまででてきた。

 

2. 国際秩序の変化が日本へどう影響するか

・地政学上のリスクは日本経済に甚大な影響をもたらすか

中国の進出が東シナ海、南シナ海にとどまらず太平洋に拡大すると、日本が防衛すべき領海・経済水域が広大になり、防衛費が上昇。石油輸送路だけでもホルムズ海峡とマラッカ海峡だけでは済まなくなる。北朝鮮の暴発に対してもより強固な備えをする必要が出てきた

 ・国際秩序への貢献で日本は間違ってはいけない

 上記の国際的環境を踏まえ、議論は少し飛びますが、

3.アベノミクス検証

・日銀の自己検証

・検証のないアベノミクス

・大丈夫か日本

  財政、年金、保険は

 4.我々は何にどう備えたらいいのか

 国際秩序の激変リスクに備える手段も、やはり個人資産の分散。といっても、やはり円からドルへのシフト

 

  今回は一方的に講演をするというより、参加者のみなさんと多くの時間をディスカッションに当てることにしています。そのためサマリーを作ることもしていませんので、それをここで披露することができません。


   この講演会のテーマの一つである「国際秩序の変化」に当たることで注目され日本に影響が出そうなのが、今度日本を訪問するフィリピンのドゥテルテ大統領です。私の忌み嫌う無責任なポピュリズムの旗手として、世界のメディアではトランプと並び注目されています。

   なにせフィリピンが折角勝ち取ったハーグの仲裁裁判所の完全勝訴判決を自分勝手な取引材料にしようとしているのですから。

   この判決に関して、まず7月のニューズウィークの名前入り記事を引用します。書いているのはけっこう名の売れている小原凡児という東京財団の研究員の方で、中国で防衛駐在官を経験した方です。

タイトルは、「仲裁裁判所の判断が中国を追い詰める」

『仲裁裁判所は、中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について、「法的な根拠はない」として、全面的に否定した。フィリピンの主張をほぼ全面的に認めたのだ。そして、この「判断」という言葉には、法的拘束力を持つニュアンスの言葉が使用されている。中国とフィリピンは、この「判断」に「従わなければならない」のである。従わなくても罰則規定はないが、国際社会の中で「無法者」のレッテルを貼られることになる。』

   私も7月までは、お説ごもっともと思っていたのですが、ドゥテルテはすでにトンデモないことを中国に向かって言い放っています。

「もしオレの出身地ミンダナオに鉄道を敷いてくれたら、判決を無視してやってもいい」。

   中国を追い詰めるどころか、それをエサに地元に利益誘導するぞと世界に宣言しているのです。このことはあまり報道されていませんが、フィナンシャル・タイムズはドゥテルテを非難する社説で書いていました。

   反対に、この言葉は覚えている方もいらっしゃると思います。大統領になりたてのころ彼が南沙諸島に関して言っていた「中国の難癖に耳を貸す必要はない。オレが奴らの島に直接出向いてフィリピンの国旗を立ててやる」

   本来であればこの判決こそ国際的な海洋秩序を取り戻すものです。それを期待していた日本を初めとする周辺国やアメリカにとっては、彼の変身は全くの想定外です。

   そして今回の中国訪問ではさらに世界が驚愕するほどの発言がありました。

「アメリカとの決別宣言」です。一昨日北京でのスピーチで、「経済的にも軍事的にもアメリカとは決別だ」と宣言しています。

  すでに彼が国内で法律を無視し、超法規と称し麻薬犯罪人を3千人も処刑しているのは世界の誰もが知ることです。大統領自身が無法者となってリンチを行い、それを警察が支援しているので、彼を殺人犯として逮捕できる警察はいないし、国民はますます支持を強めています。

  その人権無視ぶりを非難したオバマ大統領を「売春婦の息子」だとか、「地獄に堕ちろ」とののしっていて、挙句の果てにアメリカとの長年の同盟関係を無視し「米比軍の合同訓練はもうしない」とも言っています。アメリカがフィリピンに制裁を加えたとしても「武器は中国とロシアがくれるって」と言ってはばかりません。

   そして今回のアメリカとの決別宣言です。

   彼の場合は国民の支持が8割を超えていて、トンデモ発言をすればするほど支持率は上がるという典型的ポピュリズム政治の様相になっています。こうした事態は半年前までは誰も想定していませんでした。

   この人間の一番の問題はトランプと同じで、支離滅裂なことです。典型的サイコパシーと言えるでしょう。従って今週日本に来たらきたで、また正反対のことを平然と言い放つ可能性もあります。

  トランプのことを書いていた時に私は一連の大衆扇動・独裁政治の代表として、ロシアのプーチン、トルコのエルドアン、ドゥテルテ、金正恩、習近平、そして過去の人ではありますが、カダフィ、カストロ、チャベスなどの名前を挙げました。

   こうした連中の悪夢のような政治が、少なくともアメリカでは出現しなくなったことに安心しています。しかし、彼らの言動が世界の安全、政治、そして経済にも甚大な影響を及ぼす可能性があるため、今後もしっかりフォローするつもりです。

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アメリカ大統領選挙 3度目のTV討論会

2016年10月20日 | アメリカアップデート

   第3回目で最終回のTV討論が先ほど終わりました。

   今回の結果報道で最大のポイントは2つ。本質的政策論とは全く関係のない部分でトランプの本質がバレたことでした。

  まずは討論中にトランプがクリントンに向かって言った言葉、「nasty woman」です。

   この言葉の意味を英辞郎のHPで見ると、

『意地悪な人[行為]、悪巧み、卑劣な人、不愉快な人、嫌なやつ、汚い手を使う人』

   最大限の、ののしり言葉です。生放送でなければ、ピーーとなるくらいです。

   全米というより全世界が注目している討論会では相手に対し絶対に使うべきでない言葉なのですが、トランプは面と向かって言ってしまいました。日本のメディアは事の重大さを認識していないらしく、トップ扱いにはしていませんが、これでトランプは何ポイントが失うほどの重大な失態です。彼はフィリピンのドゥアルテとはなかなかいい勝負をしています(笑)。

   二つ目。それと同じ衝撃度を持ってアメリカの報道が取り上げたのは、質問者が「あなたは選挙結果を受け入れるか」と聞かれて、トランプが「その時にならないと答えられない」と言ったことでした。

   それだけだと大したことではなさそうに聞こえるのですが、現場で報道していたアメリカのメディアすべての解説者が「受け入れると言わないとは、なんたることか」と驚いていました。アメリカがよって立つ、「自由・公正な選挙による民主主義を否定することになるから」です。

  彼はすでに2か月ほど前、劣勢に立たされたときから、「大統領選挙は不正操作される」と断言していました。今回クリントンはこれをとらえてすかさず強烈なパンチを見舞いました。

  「トランプは自分が不利になったり負けたりすると、すぐ人のせいにしたり裏工作があったという」。共和党内でのプライマリー選挙中にも、ある州で別の候補が勝つと「不正工作が行あった」と繰り返し主張したことなどの証拠をいくつかあげ、「こうした人間を大統領にしてはいけない」と結びました。

  「自分は絶対に正しい、悪いのはすべて他人だ」という、トランプが典型的サイコパシーであることを、クリントンは的確に示しました。

   その結果、CNN恒例の「どちらが勝ったか」調査では、52対39とクリントンの勝利でした。このポイント差は決定的差ではありません。しかし今回のディベートは、トランプにとり劣勢挽回の最後のチャンスでしたが、かえって差が開き、挽回どころか彼に大統領の資質がないことのダメ押しになりました。

  ついでにもう一つダメを押します。AFPからの引用です。

【10月19日 AFP】アイルランドのブックメーカー(政府公認の賭元業者)、パディー・パワーは18日、米大統領選では民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官の勝利が「確実」として、同氏に賭けていた人々に対して計80万ポンド(約1億200万円)を払い戻したことを明らかにした。

 大統領選まで3週間を切る中、共和党候補ドナルド・トランプ氏の勝利に賭ける人が極端に少なくなったことが原因。

 パディー・パワーによると、トランプ氏の女性に対するわいせつな発言や性的暴行疑惑が明らかになった後、過去1週間でヒラリー氏に賭ける人が急増。「最近の賭けの傾向はヒラリー氏に一方的な様相を呈していて、賭けを行う人々はその傾向が100%正しいとみているようだ」と語った。

 パディー・パワーは、2012年の米大統領選でも、選挙日の2日前にバラク・オバマ氏の勝利に賭けていた人々に計70万ドル(約7300万円)を払い戻している。(c)AFP

   これにてどうやら無事に大統領選挙は終わりました。

  私は最初のころ、「今回の選挙は、良識派が勝つか、非良識派が勝つかの戦いだ」と申し上げました。共和党の重鎮もさすがに良識派はトランプ支持を撤回しました。私はアメリカは良識派がまだ多数の国であることに安心しました。

   今回の選挙やBREXITから得られる教訓は、ポピュリズムの怖さです。アメリカだけでなく世界の多くの国で自国優先のナショナリズムがポピュリズムと結びつき、とんでもない力が渦巻きはじめています。それが世界を非常に危険なところに追い込みつつあるように感じます。

   私は11月中旬に「日本のゆくえ」と題する講演会でそうしたリスクについて述べることにしています。それが各国の経済にも跳ね返る危険性があるからです。講演会はサイバーサロンというプライベートなサロンの主催で、どなたでも参加できるものではないため、次回は講演会の趣旨を簡単にみなさんにご披露させていただきます。


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原油価格の回復をどう見るか

2016年10月14日 | ニュース・コメント

  大統領選挙の見通しが立ったので、政治から経済に目を移します。

  このところの世界の様々な市場の動きで注目すべきは原油価格の動向です。9月末のOPECの減産合意を受けて、原油価格は40ドル台後半から50ドル台に乗せました。OPECの盟主サウジが遂に自国の財政ひっ迫と、他のOPEC諸国の疲弊に対処せざるを得なくなりました。減産合意は8年ぶりとのことです。

   そしてその後プーチンがロシアもOPECの減産に協調すると表明したことで、市場には安心感が広がっています。

   実は原油をめぐる大方の懸念はことごとく外れています。ちょっとこの2年ほどを振り返ります。

  原油価格は14年に100ドル付近から半値の50ドル台まで大暴落しています。その時エコノミストたちがこぞって逆オイルショックによる恐慌がくるかもしれないと騒ぎ立てました。

   それに対し14年の年末に私は以下のようにコメントしました。

 引用

1.原油価格下落のメリット享受国はアメリカ、ヨーロッパ、日本、中国などの経済大国をはじめ産油国を除く全世界

2.原油価格下落の最大の被害者は産油国であって、その経済規模は消費国に比べはるかに小さい。つまり中東・ロシア・ベネズエラ・ナイジェリアなど

3.経済問題以外では、最悪状態にある国際紛争解決に神風となる。常に世界の火種でありイスラム国まで出現した中東や、このところの火種の一つロシアの力を削ぐ神風が吹くのは、民主的な自由主義諸国にとって大きなプラス

  2度のオイルショックを思い起こせば、今回はその逆なので心配などいりません。オイルショックが世界経済を不況に追い込んだように、逆オイルショックは世界を不況から救ってくれます。単純な事実関係を複雑に考える必要はありません。

引用終わり

   そしてその傍証としてウォールストリートの記事を引用しました。それには石油価格が60ドル台で1年推移した時に、各国のGDPはどれくらいプラス・マイナスの影響を受けるか、シミュレーション結果が示されていました。その数字は以下のとおりでした。

引用

GDPにプラスのインパクトがある国

韓国2.4%  インド1.8  日本1.2  ドイツ0.8  中国0.8  アメリカ0.5
同  マイナスのインパクトがある国

クウェート18.1 % サウジ15.8  イラク10.2  ナイジェリア5.4  ロシア4.7


引用終わり

   原油価格は上記シミュレーションの60ドルよりもさらに下落し、16年は9月まで平均でも50ドルを割り込んで推移していましたが、世界経済は恐慌になどなっていません。


   そしてもう一つ言われていたことは、16年春頃、原油価格がさらに20ドル台まで暴落した時、「アメリカのシェール産業が壊滅し、シェール企業が発行した巨額のジャンクボンドが金融危機を引き起こす」でした。

   それに対して私は3月22日と27日のブログで、「そんなことは全くない。ジャンクの投資家はギャンブラー達だから。ギャンブラーが負けたところで、どうってことない」と申し上げました。

  私はアメリカの会社更生法をノースウエスト航空の例を示して説明し、こうも言っています。アメリカのシェール関連企業は、サウジなどがいくら価格を低下させて倒産させたとしても、そんなものは仮の倒産でしかなく、価格が上昇すればすぐに戻って生産を始める。そしてそれが繰り返されるたびにテクノロジーの進化により、より強靭になって帰って来る可能性が強い」。

   その結果はどうだったでしょう。価格戦争に負けたのは攻め上ったはずの盟主サウジとOPECでした。そしてついでにOPECに追随したロシアです。

   ちょっと残念なのは、もっとサウジが頑張っていれば、中東とロシアという地政学上の2大リスクがより小さくなっていたかもしれないし、ISISも石油に資金調達を頼れなくなり、弱体化します。

   というようなことを言うと、サウジの混乱はリスクを増すことになる、と反論されそうです。確かにサウジが中東で睨みを効かせることで安定が保たれている部分はあるし、原油価格の一層の下落は中東全体の不安定さを増すことになるかもしれません。それでも長期で見れば、ロシアや中東が経済力を落とすことは、その分自由主義経済圏に経済力がシフトすることなので、決して悪いことではないのです。

   一応ニュースでは、「約60社のシェール企業が倒産し、その負債総額は2兆円あまりだ」ということになっています。しかし倒産即破綻でないことは申し上げた通りで、その証拠にアメリカの原油生産量はピークの940万バレルから約1割程度しか落ちていません。

  一方、このところ株価の動きは原油価格の動向と方向を一致させ、原油が下がると株価も下がり、原油が上がると株価も上がっています。それを見て株やさんちのエコノミスト達が一喜一憂するので、あたかも原油価格の上昇が好ましいものだと思い込んでいる人が多い。それに加えて物価下落の真犯人は原油価格の下落だとする中央銀行の論調に乗せられていますが、それらの議論は根本的に間違っています。理由は以下の2つです。株やさんちのエコノミスト達に答えてもらいましょう。

 1.中東諸国、ISIS、ロシアが大復活し、羽振りを効かせることは好ましいですか?

2.ガソリンなどエネルギー価格の上昇に所得が吸い取られ、他の需要が減ってしまうのが好ましいですか?

    このブログの読者の方には、世の中の大方のエコノミストなどの言うことうのみにせず、問題の本質をしっかりと理解してこの先を見通していただきたいのです。

    では原油とともに大事なシェールからの生産されるLNGの価格を見てみましょう。LNG価格は今年2月の百万Btuあたり1.7ドル台のボトムから現在は3.3ド台へなんと2倍ちかく上昇しています。世界の石油やLNGの需給は、新興国経済のスローダウンにより緩んでいるというのが一般の見方ですが、中国やインドなど新興国の大どころは成長がマイナスになっているわけではなく、先進諸国よりはるかに高いプラス成長を維持しています。従って需要面での懸念は大きくありません。調子が本当に悪いのはバブルに踊ってそれが破裂しつつあるシンガポールと、他でもない石油生産国くらいです。

    もちろんここから一気に原油価格が上昇を続けることはないでしょう。ですがOPECとロシアはアメリカのシェール産業の軍門に下り、思うがままの価格操作などできません。高くなればすぐシェール軍団が大増産する図式に今後も変わりはないでしょう。

    世界を混乱に陥れる地政学上のリスクの根源たちはこの先も苦しい展開が予想され、そのことは先進国・新興国を問わず石油消費国経済と世界の安全にとってはたいへん好ましいのです。

以上

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