ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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さあ、どうする政府日銀

2023年08月17日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

 円安と米国債の金利高が止まりませんね。米国債投資チャンスを狙っている方にはチャンスが継続していますが、円安は物価高の副作用を伴います。特にガソリンの値上がりは家計を直撃しますし、車を持たない方でも運賃がジワジワと値上がりするので、間接的に生活費に影響するようになりそうです。

 

 今回の話題に入ります。私が属しているネット上のサイバーサロンを主催されている方から「7月末に日銀の行った政策変更について、説明してほしい」と要望を受けました。すでに2週間すこし経過していますが、この超難解な政策変更に関して、なるべく簡単な説明を試みます。この内容をおよそでも理解できると、今後の日本が抱える大きな問題が見えてきます。

 そもそも日銀の今回の政策変更を一口で言うなら、「YCC(イールド・カーブ・コントロール)政策の一環で行っている主に10年物長期金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」ということです。

 と言われても、呪文を唱えられたとしか思えませんよね。YCC自体、世界でも日銀だけが行っている特異かつ異常な政策です。長期金利を一定以下に抑える政策ですがその副作用が大きくなったので、平たく言えば「市場の圧力に屈し、実質的に長期金利の利上げを行った」ということです。「10年物金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」という説明は人を煙に巻く「霞ヶ関文学」の類です。実際には金利は下げには向かわず上昇しかしないので、「上限を切り上げた」にすぎません。

 

 YCCという特異な政策は、もちろん大きな副作用を伴います。副作用とは、金利という重要な指標が、指標としての役に立たなくなってしまったということです。毎日変動する株価をあらわす代表的指標である日経平均株価が日銀によりむりやり抑え込まれれたり、「今日は取引が成立しなかった」としたらどうでしょう。「そんなバカな」ですよね。それと同じことを債券市場で実行しているのです。

 

 それもこれもすべては黒田氏が13年に始めたデフレ克服のための異次元緩和の悪影響です。2年という期間限定だったから異常な資金供給政策を認めたのですが、10年を経過したいまでも効果がないまま継続しています。というよりその間に政策はより強化され、国債だけでなく株式まで買いまくり、長期金利のコントロールまで始めてしまった。それでも人々のデフレマインドを変えることはできませんでした。このところのインフレと賃金上昇は、あくまでロシアのウクライナ侵略により始まった世界的インフレの影響によるもので、10年近くたって政策の効果がやっと出たなどというものではありません。それは日銀も認めています。インフレはすでに3%に達し、賃上げも同様に3%程度に達しているのに、日銀はまだ定着はしていないと言っています。つまり日本経済が活性化したためなんかでは決してないのです。

 YCCの副作用をもう少し説明します。市場規模では株式全体の時価総額800兆円より大規模な1,000兆円の債券市場がその機能を失っているということは、実はとんでもないことなのです。この数年で長期金利の指標である最も大事な10年物国債の取引が一日中「成立せず」という日が何日もあり、金融市場が機能しなくなっていました。金融市場で最も大事な「流動性の枯渇」を日銀自身が作り出しているのです。一般の方は債券市場の重要性を認識できないため、大ごととは思えないと思います。しかし資本市場の関係者にとっては商売を奪われ、企業は金利の参考指標を失って社債発行を適切な金利でできないため資金調達がままならず、銀行・生保・郵貯などの債券投資家は収益機会を失いました。

 

 もちろん我々の家計にとっても異次元緩和は大きなインパクトを与えました。大事な金利収入を失ったのです。家計の金融資産2千兆円のうち預貯金にある1千兆円は金利をほとんどもらえません。預金金利がたった1%でもあれば、家計は年に10兆円も得られるはず。1千万円預金すれば金利だけで年に10万円ももらえます。

 銀行は収益を得るためにシロウトの小金持ちの方に向け、詐欺的投資商品を売りつけるまでに至りました。仕組債に投資したら元金が半年で8割失われたという事例まであったことをみなさんにもおしらせしました。銀行は庶民の味方であるはずが、犯罪者集団に成り下がった。それも、これも異次元緩和のおかげです。

 

 さらに政府は低金利をよいことに国債をいい気になって増発し、累積赤字はGDPの260%にまで達してしまった。黒田氏による異次元緩和が始まって以来、日銀の買った国債の総量570兆円は、その間に国が発行した国債の総量とほぼ同じです。日銀は法律で国のファイナンスを行ってはいけないのに、法を迂回して犯罪を行っています。

 

 570兆円を巻き戻すことなど不可能で、どこかの時点で債券バブルは崩壊し、金利は猛烈に上昇し、企業は資金調達ができなくなり、我々はローンで家を買うことなどできなくなります。

 

 いつもそうであるように、日銀は自分の政策には間違いなど絶対にないということを標榜しつづけるため、「この変更は、金融政策の正常化への一歩ではない。利上げではなく金利の許容変動幅を拡大しただけだ」と言い張っています。もちろんこの変動幅拡大という苦しい言い訳を市場関係者の誰もが、「単なる利上げだ」と思っています。何故なら金利は低下などせず、上にしか行かないので、「上下の幅を拡大」という苦しい言い訳など誰も信じないからです。

 日銀の目指す正常化とは、まずは短期の政策金利を現在のマイナスレベルからプラスの世界に戻すことを指します。ちなみにアメリカもかつてゼロ金利政策を実施しましたが、今は政策金利を5%以上にして、正常化しました。ヨーロッパなども同様です。

 

 世界の孤児となった日銀がいったいいつまでこの愚かな政策を続けるのか。結局ポイント・オブ・ノーリターンを超えたため、巻き戻したくとも戻せません。金利が激烈な上昇を始めたら株式は暴落し、不動産も暴落、債券投資家は巨額の損失を出すことになります。それが我々には関係ないと思ったら大間違い。すべての銀行や郵貯、そして生保も大きな損失を出し、我々の銀行通帳や保険証書は紙切れ同然になる可能性すらあります。国内市場は抑え込めても、国際的に取引される為替取引を完璧に抑え込むことなどできないからです。

 昨年円安が高進した時に、財務省がドル売り介入をして一応成功しました。きっと財務省も日銀同様、オールマイティー幻想を抱く人たちの塊ですから、今後もそれを繰り返すでしょう。しかし無限の介入などできっこない。外為会計で保有しているドルが尽きれば運の尽き。きっとアメリカ政府との通貨スワップ協定を結んだりして引き延ばしにかかるでしょうが、それとていつかは反対取引を行う必要があります。

 

 日銀の植田総裁は、「今後1年から1年半をかけて異次元緩和のレビューを行う予定」と明言しました。なんで1年も1年半もかかるのか?私がすでにここで総括してあげたのに(笑)。きっとこれからそのレビュー内容を小出しにしては市場の反応を見て、「霞ヶ関文学」を仕上げていくのでしょう。

 そのようなことをいくらやっても、我々はすでに政府日銀を信用していないため、

 異次元緩和を続ければ続けるほど不安が募り、預貯金を取り崩して投資したり消費したりなんかしません。東京財団による最近の世論調査では「財政赤字に不安を感じる」という人が70%を占め、問題ないという人はわずか10%でした。

 太平洋戦争に突き進んだ軍部は負けを決して認めず、大本営発表で撤退は「転戦」、敗戦を「終戦」と言い換えていました。私には政府日銀の失敗を認めない姿勢は、戦時中の軍部とダブって見えてしまうのです。

   さあ、どうする政府日銀?

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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その6 日本経済④

2015年05月30日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  今週に入っても、円安が止まりませんね。不幸の連鎖に一段と拍車がかかりそうで心配です。

   前回の記事「私は騙されない」をおさらいしますと、一般の人々の毎日の生活実感はGDPが上昇したと喜べるようなものでは決してなく、特に所得の低い人は物価上昇から「将来の暮らし向きは悪くなり、物価は今後さらに上昇する」ことを見込んでいるというものでした。

   先週、4月の消費者物価統計が発表されました。生鮮食料品を除く総合でプラスの0.3%。3月までは消費税値上げ分の約2%のゲタを履いていましたので、3月の数字は2.3%の上昇でした。消費増税は3%でしたが、物価全体は消費税がない物もあるため影響度合いは2%と計算され、それがゲタと表現されます。4月はそのゲタがほぼなくなり消費税の影響はわずか0.3%が残っているだけですが、それを引くと上昇率は0.0%、つまり前年比で丁度ゼロとなっています。

   物価上昇率という統計の数字には大きな罠が仕掛けられています。「上昇率がゼロになった」というのを喜んではいけません。ゼロとは前年比だけで、2年前と比べるとプラス2%です。ということは、この2年収入が増えていない人にとって4月の物価上昇はゼロではなく、2%なのです。来年の今頃、仮に前年比で物価が2%を達成したとします。収入が依然として増えない人にとって物価上昇率は累積の4%なのです。日本ではベースアップのある大企業に勤める人はとうてい過半数に達していません。年金生活者はベースダウンをくらっています。ベースアップのない多くの人にとって物価上昇率はアベクロ・コンビのスタートから累積で効き続けるのです。

   統計というマジックに十分慣れていないと、こうした本当の現状把握や分析ができません。私の様な数字ヲタクは少数派ですから、世の大多数のマスコミの記事を書くオニイチャン・オネエチャン達の記事にごまかされず、いや、もとい。オニイチャン・オネエチャン達は自分がごまかしていることすら自覚なく、「アリノーママニー」書いているのだということをみなさんには知っておいて欲しいのです。

   さてここまで日本の現状把握を、GDP・物価統計と一般人の生活実感のズレから解説してきました。何故このズレの把握が大事かといいますと、このズレは不幸の連鎖であって、こうしたことがじわりと家計を蝕み、日本経済が体力を喪失していくからです。私はそれに警鐘を鳴らしたいのです。

   日本もいずれは個人消費がGDPの3分の2を超えアメリカの様に7割に近付きます。その時には高齢化の進展から年金受給者が増大し、収入が伸びる要素はほとんどなくなります。その中で医療費・介護費などのサービス消費が膨張し、人手不足から介護費も増大、その上一般物価も順調に2%を達成したりすれば、年金世代や中小企業の方々がその他の消費に回せるオカネは底を突きます。

   GDPを増やすのは簡単です。多くの労働者を雇い重機を使って巨大な穴を掘り、それをまた多くの労働者と重機を使って埋め戻せば増やすことができます。もっと極端に言えば、戦争をして設備を破壊し、復興のため設備投資をすればそれでもGDPは増えます。しかしそれは決して国民みんなの幸せにはつながりません。老齢化が進展して医療費・介護費が増大することは良い意味でのサービス消費の増大などでは決してなく、一国の経済全体の将来を考えると、不幸の穴を掘ってそれを埋め戻すに等しいと私には見えるのです。それでもGDP上はサービス消費が増大し、経済は成長したとなるのです。

   巨大な塊となっている団塊の世代は年金受取側、かつ預貯金取り崩し側に回りました。一部のリッチな人達は消費を楽しむでしょうが、大多数の人はそうはいきません。物価上昇、医療費・介護費の増大に苦しみ、その他の消費を減らし、預貯金を取り崩します。このことは日本にとって確実に起こる未来であって、バクチ打ちのアベクロ・コンビの大芝居で逆転などできません。

   日銀の思惑は4月の物価統計発表にて完全にハズレですが、とても怖いのはクロちゃんがそれをもっていきなりバズーカ3号を発射することです。市場の見方は、「日銀は『秋になったら物価は上向く』と言っているがそうならないとバズーカ3号を発射する」というものです。その市場の読みを欺きサプライズを演出するためには、もう空砲でしかないことが分かっていても暴発したようなタイミングで発射する以外にありません。しかも既に国債が市場では底をつきかけ、株を買い上げる以外にロクな弾がありません。このところの株の連騰にも常に日銀の影がちらついています。株屋さんに言わせると引け近くで株価が安いと必ず日銀の買いが入るのだそうです。株高に沸く証券業界の思う壺に日銀がはまり、一般投資家もはまれば、行く先は見えています。

 

  さて、ここまで日本の現状の危うさを私なりに分析してきました。この後は欧州に進むつもりですが、その前にブログの読者の方から米国債でどう自分年金を作るかについていくつかの質問をいただいていましたので、それに回答してから欧州に進むことにします。

  

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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その5 日本経済③

2015年05月27日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

サブタイトル;一般人の暮らし向き、私は騙されない!

  円が7年ぶりの安値をつけていますね。今回は「不気味なほど静かな金融市場と・・・」というタイトルで解説を始めましたが、ひととおり書き終わらないうちに為替が動き始めてしまいました。「不気味なほど静かだった・・・」に要訂正ですね(笑)

  もちろん今回のシリーズの私の意図は「中央銀行による異常な緩和に支えられた市場も経済も、このままハッピーな状態が続くわけはない」ということで書き始めています。そして何が均衡を破ることになるのか、相場か実態経済か、予想をしてみようと思っていました。このまま円がどんどん安値を昂進し続けると、予想の必要がなくなってしまいますね(笑)。それにもめげずに私のストーリーを続けます。

  前回は物価の中で一番実感しやすい食料品、それも朝食用品に限った価格を、私の買い物カゴの中身からみなさんにお示ししましたが、それに賛同するご意見をいただきました。値上がり率は2年で消費税込約3割という恐ろしい数字になっていました。

 

  ではこうしたことが全国の消費者にはどのようなインパクトを与え消費行動に影響をしているのでしょうか。今回は「生活実感」という数字にしにくい難物を数字で捉えることにします。

   「消費動向調査」という調査があります。政府中枢の内閣府が公式に発表している調査報告です。この統計はじっくりと見る人が少なく報道もあまりされない調査で、むしろ内閣府も報道機関も意図的に無視しているとしか思えないほど可哀想な扱いを受けています。何故か?

   もちろんアベチャンにとって「不都合な真実」に満ち溢れているからです。

 以下ではまず私が尊敬するエコノミストの一人である東短リサーチ代表の加藤出氏の先週のコラムからこの統計に絡んだ記事の概要を引用します。

 引用

  黒田日銀総裁のバズーカ1号が発射される前と現在では、消費者が将来を見る見方が大きく変化し、特に所得階層の違いでその意識の差が鮮明になっている。それをバズーカ発射前の13年4月と直近15年3月の調査結果を比較し見てみる。

 1.      将来の暮らし向き ・・・ 「良くなる」と思う人の数から「悪くなる」と思う人の数を引いて差を%で表したもの。

(林の注)数字がプラスなら将来良くなると思っている人が多く、マイナスはその逆。マイナス幅が大きいほど将来を悲観的に見ている人が多いことになります

年収     950~1200万   550万~750万   300万未満

13年4月    マイナス12.6%  マイナス17.5%  マイナス34.5%

15年3月    マイナス17.0%  マイナス28.7%  マイナス48.3%

悪化度       4.4p       11.2p               13.8p

 

  13年と15年を比較すると、年収にかかわらず将来の暮らし向きが良くなると思っている人より悪くなると思っている人の方が多くなっていて、すべての階層でマイナスの結果が出ています。年収が多い人より少ない人のほうがより悪くなると思っている人が多いことが、悪化度の欄を見ると明らかです。つまりバズーカを2回も発射しても、アベノミクスに対しては懐疑的な人の方がより多くなってきているのが調査結果に出ている。


2.    将来のインフレ予想

将来のインフレが5%以上になると思っている人の比率

 年収     950~1200万    300万未満

13年4月        16.5%             20.5%  

15年3月        17.5%             32.2%  

悪化度       1.0p       11.7p 

      13年では5%以上のインフレを予想する人はさほど多くはなかったが、15年時点では300万円以下の層で2割から3割へと大きく増加している。これは毎日の食料品の値上がりにかなり強く反応し、低所得者層では将来のインフレを脅威と思っている人が多くなったということだ。

引用終わり

 

  さて、みなさんはこの調査をどう思われますか。

    この数字を見れば、内閣府の消費動向調査が実に的確に一般人の暮らし向きを捉えていることがわかります。所得が300万未満の層では将来の暮らし向きがよくなると思っている人の数は半分程度しかいませんし、このところの食料品物価の高騰で将来インフレ率が5%を超えると思っている人が大きく増えています。

   では一般勤労者の賃金の動向はどうでしょうか。最近3月の賃金の確報が発表されましたので、引用します。

   「2014年度の毎月勤労統計調査の確報によると、実質賃金指数は前年度比3.0%減と4年連続減少し、1990年度の統計開始以来、最大の下げ幅を記録。現金給与総額は同0.5%増の31万5,984円と、4年ぶりに増加した。」

   解説しますと、14年度の賃金そのものは4年ぶりに0.5%上昇したが、物価の値上がり分を差し引いた実質賃金は3%減少し、統計開始以来最大の下げとなったということです。なんとも悲しい結果が示されています。

   年金受給者など所得の上昇がない方は、3+0.5=3.5%くらい実質収入が減ったと読みとれます。これではとてもとても将来に明るい見通しを持つことはできません。

   さて、加藤出氏のコラムの数字は3月調査の数字で、その後に定期昇給やベースアップの数字が決まり、4月になると消費者態度指数などは改善するはずと思われていました。しかし5月中旬に発表された4月調査の数字は悪化していました。消費動向調査の中でもっともよく引用される消費者態度指数などの概要を内閣府のHPから引用してみます。

 

引用

(1)消費者態度指数

平成27年(2015年)4月の一般世帯の消費者態度指数は、前月差0.2ポイント低下し41.5であった。

(2)消費者意識指標

消費者態度指数を構成する各消費者意識指標(一般世帯)について、平成27年(2015年)4月の動向を前月差でみると、「耐久消費財の買い時判 断」が0.9ポイント低下し39.7、「暮らし向き」が0.4ポイント低下し38.4、「収入の増え方」が0.1ポイント低下し39.3となった。一方、 「雇用環境」は0.8ポイント上昇し48.6となった。また、「資産価値」に関する意識指標は、前月差0.3ポイント上昇し43.4となった。

引用終わり

 

  大事な消費者態度指数は改善していません。明るい未来を描こうとする政府・日銀、それにちょうちん記事を書く報道がどう言おうと、内閣府の消費動向調査は4月になってもさらに低下しています。

  今回みなさんにお示しした二つの統計、内閣府の消費動向調査と厚労省の毎月勤労統計に、庶民の実感は比較的正しく反映されています。 つまり実質賃金が増えない中で物価だけだ上昇し不幸の連鎖となっていることが説明されているのです。なのに内閣は自ら調査している統計を無視し、日銀もそれに乗じて不幸の連鎖などどこ吹く風と強弁を続けています。

   消費者は将来の物価上昇や消費税値上げに対して実はかなり不安を感じていて、この先ますます自己防衛的にならざるを得ません。ここに来ての円安でさらに物価の一段の値上がりが見込まれると、エンゲル係数は上がるばかりになり、その他の消費を落とさざるをえなくなります。

  政府が笛吹いて踊るのは一部の高収入消費者だけで、大多数の一般庶民は決して騙されることはなく、消費に踊るなどということはないと私は思っています。

  以上、「一般人の暮らし向き、私は騙されない!」 でした。

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バフェットじいさん、大丈夫? 2

2015年05月08日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

   前回はバフェットじいさんの投資活動で、私が疑問に感じている点を3つ上げました。そして最後に彼が「金利が正常化すれば、株価は全般的に割高のようにみえる」と発言したところまででした。その後、そのせいかどうかわかりませんが、NYダウは下げ続けています。

   それに加えて一昨日はイエレン議長がIMFのラガルド氏との対談講演で「一般的に言えば現在の株価はとても割高だ」と彼女にしては珍しくかなり強い牽制 球を投げました。両者の共通点は単に株価が高いと言っているのではなく、『金利が異常に低いので株は高く買われており、金利が正常に戻ると株価は下がるか もしれないので注意しなさい。』と言っている点です。株式投資をされている方、要注意です。昨日は日本株まで240円ほど下落しました。二人の影響力はと ても大きなものがありますね。

    ではバフェットじいさんとバークシャーの話に戻します。

  第2回目は、バークシャー・ハサウェイ社の会社の本当の形をみなさんにお示しします。14年末のアニュアルレポートからの引用で、会社のサイトに行くと英語ではありますがどなたでも見ることができます。http://www.berkshirehathaway.com/2014ar/2014ar.pdf

   まず投資勘定で保有している株式の状況です。pdfをコピペしたのでちょっと見づらいですが、項目としては会社名、会社ごとの持ち分シェアー、簿価、時 価の順です。たとえば最初にあるAMEXの発行済株式の14.8%に相当する株を保有していて、当初の投資額は1,287百万ドルだったが、時価は11倍 の14,106百万ドルになっている、と読みます。投資額の多い15社をリストアップしていますが、下の順番は投資時期と思われます。

Investments

Below we list our fifteen common stock investments that at yearend had the largest market value.12/31/14  millions

                 % of Owned     Cost*       Market

American Express Company     14.8       $ 1,287     $ 14,106

The Coca-Cola Company      9.2       1,299      16,888

DaVita HealthCare Partners        8.6        843      1,402           

Deere & Company           4.5      1,253      1,365

DIRECTV              4.9      1,454      2,134

The Goldman Sachs Group,            3.0      750      2,532

International Business Machines     7.8    13,157     12,349

Moody’s Corporation         12.1       248     2,364

Munich Re              11.8       2,990      4,023

The Procter & Gamble                    1.9       336      4,683

Sanofi                   1.7       1,721      2,032

U.S. Bancorp               5.4       3,033      4,355

USG Corporation            30.0        836      1,214

Wal-Mart Stores, Inc.            2.1       3,798      5,815

Wells Fargo & Company        9.4      11,871      26,504

Others                               10,180      15,704

Total Common Stocks Carried at Market        $55,056    $ 117,470


  みなさんはあまりバークシャーの中身を見る機会がないと思いますので、じっくりと見てください。勉強になると思います。

  上記の中ではこのところ話題にされているIBM、コカコーラ、そしてウェルス・ファーゴやAMEXが極めて大きな構成比になっていることがわかります。4社の時価総額だけで全体の6割を占めます。

   そうだ、ニュースでは取り上げられていないので指摘し忘れましたが、私は最近のAMEXにも疑問を持っています。カード事業はいいとしてもネット化の進展 でトラベル・エージェントが不要になりつつあるからです。それと一番おかしいと思っていたのは英国の小売スーパーであるTESCOへの投資でした。何故お かしいかの理由の一つは、TESCOは日本で「つるかめ」という、失礼ながらとんでもない小売スーパーを買収していた からです。じいさんは「TESCOは歴史的失敗だった」として売却し、444百万ドルの損失を出しています。そのためリストにはもうありません。上記のリ ストでは、IBMを除けば買値より相当利が乗っていますので、とやかく言うレベルではないのかもしれません。

  これらがバークシャーを語る上でよく話題に上る投資勘定の中のポートフォリオです。しかしバークシャーをこの投資勘定で見るのは実は全くの誤りです。何故ならこの投資から上がって来るキャッシュフローは実に小さいからです。

   投資株式の時価評価資産額は合計欄の117,470百万ドル(14兆円@120円)ですが、会社の総資産額は526,186百万ドル(63兆円)で、総 資産のうち投資株式は22%を占めるにすぎません。その中でも大きなコカコーラは全体に対してはわずか3.2%、IBMは全体の2%にすぎないので、その 株価が上下しても損益にはほとんど影響はないのです。

  ではバークシャーとは何者なのか、売上と税前利益の構成比で見てみましょう。数字ばかりが並びますが、百万ドル単位で14年の数字を載せます。

             売上    構成比    税前利益   構成比

保険         45,625    24%     7,025       25%

鉄道・エネルギー        40,853    21%     8,880       32%

ロジスティック         46,640           24%                435        2%

製造業           36,773     19%      4,811      17%

サービス、他         20,802    11%     3.385      12%

投資         3,782     2%     3,569      13%

合計         194,673(23.3兆円)   28,105(3.4兆円)

   バークシャーとは売上23兆、税前利益3兆円のコングロマリット(複合企業)だということがわかると思います。上の分類では鉄道とエネルギー関連を一緒 にし、製造業もひとまとめにしたため大きな数字になっていますが、単一事業では保険分野が最大分野です。投資の神様の収益の源はわずか1割強の投資事業か らではなく、圧倒的に保険や輸送などその他の実業からの収益なのです。

   再度申し上げますが、投資の中でコカコーラが15%を占めようが、IBMが10%を占めようが、実はどうでもいいと言えるほどの小さな数字なのです。 バークシャーについてものしり顔で語る人がバフェットの株式投資ばかりを話題にしたら、苦笑しながら上の売上・利益の構成比を教えて上げましょう(笑)。

 ではバークシャーの将来をどう見るのか?

次回につづきます。

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バフェットじいさん、大丈夫?

2015年05月06日 | 戦後70年、第2の敗戦に向かう日本

  みなさん、連休はいかがでしたか。私は前半にお知らせした八ヶ岳付近で過ごした以外はずっと東京にいたのですが、普段は仕事があって私と直接合って話のできない方とお会いして、資産運用の相談を受けていました。


   さて本日の話は私の大好きなウォーレン・バフェットじいさんと彼の会社バークシャー・ハサウェイについてです。彼がバークシャー・ハサウェイ社をマネージするようになって50周年を迎えていますが、このところ彼の発言などで私には疑問に感じるいくつかの点があります。例えばポートフォリオの中身では、コカコーラ、IBM、そしてウェルス・ファーゴの3社についてです。

 疑問1.IBM株式の買い増し

バークシャーのポートフォリオの中には、いくつかの伝統的産業に属している古めかしい企業があります。例えば家具やインテリアなどの製造会社や、先日クラフト・フーズと合併したトマト・ケチャップのハインツなどです。そうした企業でも彼の手にかかると素晴らしい企業に変身し、収益に貢献するようになります。

   IBMは古き良き伝統的企業ではありませんが、消長浮沈の激しいIT業界の中ではすでに伝統産業に属すると言ってよいかもしれません。このところ業績が芳しくなく、株価も低迷しています。その株を古くから保有するバフェットじいさんは買い増しているのです。本当に秘策はあるのか、私は疑問を感じています。

 疑問2.コカコーラ株式  

   ニューヨーク市では市民の一層のメタボ化を防ぐため、コカコーラなどの炭酸飲料の大きなボトルの販売規制を検討しました。コカコーラにとっては全米、あるいは全世界の市場から見ればとても小さな影響しかないでしょうが、決して無視はできない動きだと思います。日本などで顕著に見られるように炭酸飲料に関してはアメリカなどでも客離れが進み始めています。日本ではコカコーラ社の自動販売機のほとんどからすでにコークはなくなっています。しかし日本コカコーラは炭酸飲料以外に活路を見出して、大きな飲料シェアーを維持しています。アメリカでも日本のノウハウを取り入れて活路を見出すべきでしょうが、そうした動きにはなっていません。

 その3.ウェルス・ファーゴ銀行(スーパー・リージョナル・バンク)

   バークシャーのポートフォリオのなかでも、このところこの銀行のパフォーマンスは際立って優秀でした。ところが昨日、顧客勧誘方法などでスキャンダルが発生した模様なのです。

   もともとアメリカの西部に地盤を持つとても地味で堅実な個人相手の地方銀行でした。それがリーマンショック時に中西部を基盤とする同業のワコヴィア銀行を買収して全国区に名乗りを上げ、今ではマンハッタンでもこの銀行の駅馬車マークの支店が数多く目立つようになるほど大発展を遂げています。

   FTが発表している世界の株式会社の時価総額でも、ベスト10に入るほど大きな銀行です。ちなみに14年末では金融会社としては、保険業に分類されるバークシャ―とバークシャーが筆頭株主のウェルス・ファーゴ、そして中国商工銀行(ICBC)だけがベスト10にいます。それほどの銀行が顧客の口座で勝手にクレジット・カードを発行して手数料を得たりしていたとのスキャンダルが発生したのです。以前にも住宅金融を巡る取り立てで問題になったことはあるのですが、今回はどうやら違法性が極めて高いようです。それですぐさま業績に影響が出るとは思えませんが、どうもバフェットじいさんの目が、若干濁り始めたのではないかと思わせるニュースなのです。

    バフェットじいさんの記事はバークシャーの50周年記念もあり、特に最近よく見かけるようになっています。先日かの有名なじいさん主催の株主総会がネブラスカ州のオマハで開かれ、相変わらずじいさんが6時間も株主の質問に一人で答え続けています。その後も記者会見などでじいさんの露出は多くなっています。例えば4日の日経ニュースを引用しますと、

『著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは5月2日、定時株主総会を開いた。過去最高値圏にある米株式相場についてバフェット氏は「米国のビジネス環境が良好なことを示している」と高値は許容できるとの見方を示す一方、低金利が支えになっているとして「通常の水準に戻るなら割高に見える」と話した。 中略

   かねてバフェット氏は早期のゼロ金利政策の解除には慎重な発言を繰り返してきた。「(インフレなど)何も悪いことは起こらなかった」と金融緩和政策を改めて評価した。仮に将来、経済が混乱する局面を迎えた場合には「バークシャーは心理的にも財務的にも喜んで資金を供給する準備がある」と述べた。

   後継体制にも注目が集まっていたが、具体的な言及はなかった。「私が去ってからも企業文化は変わることはない。安心していて良い」と株主に話した。84歳のバフェット氏は、昼食を挟んで6時間を超える総会をまとめ上げた。バークシャーは現在、株式投資のほか保険やエネルギー事業などを抱え、年間の純利益はおよそ200億ドル(約2.4兆円)。時価総額は約3500億ドル(42兆円)を超え、エクソンモービルやマイクロソフトなどと並び米国で5本の指に入る規模に到達している。』

引用終わり

   そしてコカコーラとIBMについては4日のインタビュー記事でロイターは以下のように書いています。

『[ニューヨーク 4日 ロイター] - 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、IBM やコカコーラなど、同氏が重点的に投資を行ってきている一部の銘柄を擁護する立場を示した。同時に、金利が正常化すれば、株価は全般的に割高のようにみえるとの見解をあらためて示した。バフェット氏の発言は、IBMやコカコーラなど、同氏が重点投資を行ってきている企業の一角が近年減収傾向にあることが背景。バフェット氏は4日放映されたCNBCとのインタビューで、同氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイ が第1・四半期にIBM株を買い増したことを明らかにした。IBMが今後10年で増益となるとの見通しを示したほか、IBMの自社株買いプログラムが株主にかなりの恩恵をもたらしたと評価した。コカ・コーラについては、「確固たる競争上の地位」を維持しているとの見方を示した。』

引用終わり

  どうも昔からの投資対象に思い入れが強く働き過ぎているように私には思えます。

  次回はこの続きで、世界的金融緩和と株価について彼の語った言葉を解説し、私のバークシャーに対する見方をお示しします。

コメント (12)
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