円安と米国債の金利高が止まりませんね。米国債投資チャンスを狙っている方にはチャンスが継続していますが、円安は物価高の副作用を伴います。特にガソリンの値上がりは家計を直撃しますし、車を持たない方でも運賃がジワジワと値上がりするので、間接的に生活費に影響するようになりそうです。
今回の話題に入ります。私が属しているネット上のサイバーサロンを主催されている方から「7月末に日銀の行った政策変更について、説明してほしい」と要望を受けました。すでに2週間すこし経過していますが、この超難解な政策変更に関して、なるべく簡単な説明を試みます。この内容をおよそでも理解できると、今後の日本が抱える大きな問題が見えてきます。
そもそも日銀の今回の政策変更を一口で言うなら、「YCC(イールド・カーブ・コントロール)政策の一環で行っている主に10年物長期金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」ということです。
と言われても、呪文を唱えられたとしか思えませんよね。YCC自体、世界でも日銀だけが行っている特異かつ異常な政策です。長期金利を一定以下に抑える政策ですがその副作用が大きくなったので、平たく言えば「市場の圧力に屈し、実質的に長期金利の利上げを行った」ということです。「10年物金利の変動許容幅を0.5%から1%に拡大した」という説明は人を煙に巻く「霞ヶ関文学」の類です。実際には金利は下げには向かわず上昇しかしないので、「上限を切り上げた」にすぎません。
YCCという特異な政策は、もちろん大きな副作用を伴います。副作用とは、金利という重要な指標が、指標としての役に立たなくなってしまったということです。毎日変動する株価をあらわす代表的指標である日経平均株価が日銀によりむりやり抑え込まれれたり、「今日は取引が成立しなかった」としたらどうでしょう。「そんなバカな」ですよね。それと同じことを債券市場で実行しているのです。
それもこれもすべては黒田氏が13年に始めたデフレ克服のための異次元緩和の悪影響です。2年という期間限定だったから異常な資金供給政策を認めたのですが、10年を経過したいまでも効果がないまま継続しています。というよりその間に政策はより強化され、国債だけでなく株式まで買いまくり、長期金利のコントロールまで始めてしまった。それでも人々のデフレマインドを変えることはできませんでした。このところのインフレと賃金上昇は、あくまでロシアのウクライナ侵略により始まった世界的インフレの影響によるもので、10年近くたって政策の効果がやっと出たなどというものではありません。それは日銀も認めています。インフレはすでに3%に達し、賃上げも同様に3%程度に達しているのに、日銀はまだ定着はしていないと言っています。つまり日本経済が活性化したためなんかでは決してないのです。
YCCの副作用をもう少し説明します。市場規模では株式全体の時価総額800兆円より大規模な1,000兆円の債券市場がその機能を失っているということは、実はとんでもないことなのです。この数年で長期金利の指標である最も大事な10年物国債の取引が一日中「成立せず」という日が何日もあり、金融市場が機能しなくなっていました。金融市場で最も大事な「流動性の枯渇」を日銀自身が作り出しているのです。一般の方は債券市場の重要性を認識できないため、大ごととは思えないと思います。しかし資本市場の関係者にとっては商売を奪われ、企業は金利の参考指標を失って社債発行を適切な金利でできないため資金調達がままならず、銀行・生保・郵貯などの債券投資家は収益機会を失いました。
もちろん我々の家計にとっても異次元緩和は大きなインパクトを与えました。大事な金利収入を失ったのです。家計の金融資産2千兆円のうち預貯金にある1千兆円は金利をほとんどもらえません。預金金利がたった1%でもあれば、家計は年に10兆円も得られるはず。1千万円預金すれば金利だけで年に10万円ももらえます。
銀行は収益を得るためにシロウトの小金持ちの方に向け、詐欺的投資商品を売りつけるまでに至りました。仕組債に投資したら元金が半年で8割失われたという事例まであったことをみなさんにもおしらせしました。銀行は庶民の味方であるはずが、犯罪者集団に成り下がった。それも、これも異次元緩和のおかげです。
さらに政府は低金利をよいことに国債をいい気になって増発し、累積赤字はGDPの260%にまで達してしまった。黒田氏による異次元緩和が始まって以来、日銀の買った国債の総量570兆円は、その間に国が発行した国債の総量とほぼ同じです。日銀は法律で国のファイナンスを行ってはいけないのに、法を迂回して犯罪を行っています。
570兆円を巻き戻すことなど不可能で、どこかの時点で債券バブルは崩壊し、金利は猛烈に上昇し、企業は資金調達ができなくなり、我々はローンで家を買うことなどできなくなります。
いつもそうであるように、日銀は自分の政策には間違いなど絶対にないということを標榜しつづけるため、「この変更は、金融政策の正常化への一歩ではない。利上げではなく金利の許容変動幅を拡大しただけだ」と言い張っています。もちろんこの変動幅拡大という苦しい言い訳を市場関係者の誰もが、「単なる利上げだ」と思っています。何故なら金利は低下などせず、上にしか行かないので、「上下の幅を拡大」という苦しい言い訳など誰も信じないからです。
日銀の目指す正常化とは、まずは短期の政策金利を現在のマイナスレベルからプラスの世界に戻すことを指します。ちなみにアメリカもかつてゼロ金利政策を実施しましたが、今は政策金利を5%以上にして、正常化しました。ヨーロッパなども同様です。
世界の孤児となった日銀がいったいいつまでこの愚かな政策を続けるのか。結局ポイント・オブ・ノーリターンを超えたため、巻き戻したくとも戻せません。金利が激烈な上昇を始めたら株式は暴落し、不動産も暴落、債券投資家は巨額の損失を出すことになります。それが我々には関係ないと思ったら大間違い。すべての銀行や郵貯、そして生保も大きな損失を出し、我々の銀行通帳や保険証書は紙切れ同然になる可能性すらあります。国内市場は抑え込めても、国際的に取引される為替取引を完璧に抑え込むことなどできないからです。
昨年円安が高進した時に、財務省がドル売り介入をして一応成功しました。きっと財務省も日銀同様、オールマイティー幻想を抱く人たちの塊ですから、今後もそれを繰り返すでしょう。しかし無限の介入などできっこない。外為会計で保有しているドルが尽きれば運の尽き。きっとアメリカ政府との通貨スワップ協定を結んだりして引き延ばしにかかるでしょうが、それとていつかは反対取引を行う必要があります。
日銀の植田総裁は、「今後1年から1年半をかけて異次元緩和のレビューを行う予定」と明言しました。なんで1年も1年半もかかるのか?私がすでにここで総括してあげたのに(笑)。きっとこれからそのレビュー内容を小出しにしては市場の反応を見て、「霞ヶ関文学」を仕上げていくのでしょう。
そのようなことをいくらやっても、我々はすでに政府日銀を信用していないため、
異次元緩和を続ければ続けるほど不安が募り、預貯金を取り崩して投資したり消費したりなんかしません。東京財団による最近の世論調査では「財政赤字に不安を感じる」という人が70%を占め、問題ないという人はわずか10%でした。
太平洋戦争に突き進んだ軍部は負けを決して認めず、大本営発表で撤退は「転戦」、敗戦を「終戦」と言い換えていました。私には政府日銀の失敗を認めない姿勢は、戦時中の軍部とダブって見えてしまうのです。
さあ、どうする政府日銀?