ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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バブルへGO、東京のマンション事情

2023年07月23日 | ニュース・コメント

 東京の新築マンションの価格が平均で1億円を超える高値になっていると報道されています。とんでもない高値に思えます。これは平均という言葉のマヤカシが含まれていますので、注意しましょう。どういうことか?

 まず先週の日経ニュースを引用してから解説します。

 

引用

不動産経済研究所が7月20日発表した2023年1〜6月の新築分譲マンションの平均価格は、東京23区内が前年同期に比べ約6割高い1億2962万円だった。上半期では1973年の調査開始以来初めて1億円を突破した。資材高や人手不足などで建築コストが膨らんでいる。

首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の平均価格も、前年同期比1.4倍の8873万円だった。20年(6671万円)を大きく上回って過去最高を更新した。東京都下(前年同期比3.5%高)や神奈川県(同7.6%高)など23区の周辺部も上昇した。

引用終わり

 

 これだけを見ると、普通の方であれば素直に「本当にそんなに高くなっているのか」と思ってしまいます。原因についても、「資材高や人手不足などで建築コストが膨らんでいる。」ということが示されています。

 しかし私のような数字ヲタクはすぐ平均値の裏を見ます。というのは、もともと価格の高い地区のマンション発売数が、安い地区の販売数を大きく上回れば、単価が変わらなくとも平均値は押し上げられるからです。

 ちょっと調べてみると案の定、平均のマヤカシであることがわかります。私が見た情報は、LIFULL(ライフル)という不動産情報会社のレポートです。そこに東京23区の区別平均価格の詳細ランキングが載っていました。

ランク 区名   価格    平米数  1平米単価

1位   港区  3億6千万   167   218万

7位   世田谷 1憶2千万    69     173万

12位  杉並区  8,500万     60      139万

23位  墨田区 4,813万     47      103万

 

 1位港区の平均価格は3億6千万と、23位の墨田区4千8百万の7.5倍もします。港区の販売戸数が多く、墨田区の販売戸数が少ないと、それだけで全体の平均価格は高くなります。中位の杉並区の価格8千5百万を超えて、ニュースにあるような平均1億3千万になってしまうのです。中位と平均はおよそ同じレベルになりそうですが、この統計では両者の乖離が異常に大きいのです。ということは、販売戸数はトップランクの区が多く、全体の価格を引っ張り上げていると推定できるのです。トップ港区の価格は中位の杉並区の4.2倍という恐ろしい価格です。

 

 ちなみに私の住む世田谷区の新築平均価格は上記のように1億2千万、広さは69平米、平米単価は173万円です。私が買ったのは2007年、広さ80平米強、平米単価100万円弱の時でした。16年を経て同じようなマンションの中古価格は約1億円と、一応買値を上回っています。でももちろん売りません、というより売ったら住む場所がないので、売れません(笑)。

  

 さらに分析を加えると、広さを加味した1平米当たりの単価になると、港区は墨田区の2倍、杉並区の1.6倍程度と、だいぶマイルドなことがわかります。つまり広さによる差が大きな価格差の原因でもある、となります。

  不動産研究所も日経新聞も、分析があまりにも稚拙なので、喝!

 最近は港区のいわゆるベイエリアの高層マンションの売り出し数が多いため、平均価格が1年で6割も高くなったという歪んだ平均値が演出されるということに注意しましょう。

 

 では平均3.6億円、167平米のマンションを一体だれが買うのか?

 最近のダイヤモンド誌に掲載されていた不動産業界に詳しい専門家の話では、「圧倒的に転売を目的とした業者が買っている。それもまとめて何軒も一度に買っている」とありました。もう一つは中国人を筆頭に、後に転売するか貸して利回りを得る海外投資家です。最近はそうした海外投資家だけを相手に仲介を行う業者が増えているとのこと。

  一般のサラリーマンの平均年収が500万円にも満たない中では、こんな港区のマンションはとても手が出ませんよね。35年ローンを組んでも、収入のほとんどを返済にあてなくてはいけません。そんなことなどできっこありません。

 さきほどの日経ニュースにある前年比6割高の実態はこのような中身を持っています。ここまで読むと皆さんも思い出しますよね、あの転売から転売に明け暮れた「バブル時代」を。私にはどうもその香りが漂ってきているように感じられます。

 「バブルへGO」という映画がありました。2007年の映画です。私は見ていませんが、内容は1990年にタイムスリップしてバブル崩壊を止め、歴史を作り変えるというプランを立て実行に移すという話だそうです。意外と「みんなの願い」かもしれませんね(笑)。

 

 でもね、たとえ成功しても、そのあとまた破裂しまっせ!

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プーチン負けたり

2023年07月16日 | ロシアのウクライナ侵攻

 NATOの首脳会議が終わりました。ウクライナ側は加入が認められず、将来の期限も示されなかったことに不満を表明していますが、現段階では逆に期限なしの支援継続をとりつけたことをよしとすべきでしょう。

 バイデン大統領は会議後の会見で「プーチンはすでに負けている」と述べています。

7月13日のCNNからの引用です。

 

引用

 バイデン米大統領は7月13日、訪問先のフィンランドで記者会見し、ロシアのプーチン大統領はウクライナでの戦争に「すでに負けた」と述べ、戦争は何年も続かないとの考えを示した。

報道陣からウクライナの北大西洋条約機構(NATO)への加盟がただちに認められないことはプーチン氏を大胆にさせる可能性があるかと問われたバイデン氏は「プーチン氏がウクライナでの戦争に勝つ可能性はない。すでに負けている」と答えた。

バイデン氏は、「ロシアはリソースをそれほど長く維持できないため、ウクライナでの戦争が何年も続くとは考えていない」と発言。また、「プーチン氏がゆくゆくは経済や政治などの観点からロシアにとって戦争は利益にはならないと判断するだろう」と指摘した。

バイデン氏は、ウクライナ軍が現在展開している反攻で前進し、交渉による解決につながることを望んでいると述べた。

引用終わり

 

 この発言、私は実に現在の状況について的を射ていると思います。

 そもそも開戦当初3日もあればウクライナ全土を手中に収められるという大きな見込み違いで始めた侵略戦争でしたが、1年以上たっても占領地は全土の2割に満たない面積でしかありません。侵略開始当初、北部からキーウに至る地域をロシアが占領しましたが、それらすべてをウクライナは奪還しています。

 キーウに対して今は遠方からミサイルなどで民間人を殺りくする以外、攻撃はできていません。しょせん遠吠えにすぎません。そして東部や南部でも防戦のみで、占領地を拡大できていません。ウクライナ側も反撃の効果は考えていたほど順調ではないとおもいますが、プーチンの計算違いはけた違いです。

 

 その上、東部の激戦地で戦っていたワグネルに武器弾薬を供給できずに、最も勇猛果敢なワグネル部隊を失ってしまいました。ウクライナも弾薬の補充をNATOの国々に要求していますが、ロシアの弾薬不足はもっと厳しいに違いなく、アメリカの情報機関を統括するヘインズ国家情報長官はすでに5月、議会上院の公聴会で、「ロシアは弾薬不足から防御しかできない」と指摘していました。戦況はまさにそのとおりに進んでいるように思えます。こうしたこともバイデンの「プーチンはすでに負けている」の裏付けの一つでしょう。

 

 そしてバイデンが言っている「ロシアにとって戦争は利益にならない」というのもそのとおりで、プーチンも引くに引けないことにさぞかし焦りを感じているでしょう。そもそも自らの野心で始めた戦争で、クリミアの2匹目の大きなドジョウを狙ったものの、ドジョウどころかウツボが出てきて噛まれたのです。世界でプーチンを表立って支持しているのは、同病相哀れむベラルーシのルカシェンコくらいです。

 

 そもそもこの戦争の違法性を、日本のウクライナ大使館はHPで以下のように指摘しています。たくさんありますが、そのまま引用します。https://japan.mfa.gov.ua/ja/news/62845-10-faktiv-pro-zbrojnu-agresiju-rosiji-proti-ukrajini

 

引用

ロシアはウクライナに武力侵攻し、国際法、二国間、多国間合意の基本的規範と原則に違反した。ロシアは、ウクライナへの武力侵攻という形で、以下に示す国際法の基本的規範と原則に違反した。

- 国連憲章(1945年)

- ヘルシンキ最終法(1975年)

- 国際連合憲章に従った諸国間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言(1970年)

- 国連総会決議3314「侵略の定義」(1974年)

- 国家の国内問題への干渉の非許容性および国家の独立と主権の保護に関する宣言(1965年)

- 国家の国内問題への干渉および介入の非許容性に関する宣言(1981年)

- 国際関係における武力による威嚇又は武力の使用を自制する原則の効果の向上に関する宣言(1987年)

さらに、ロシアは以下に示す二国間協定や多国間協定に違反した。

- ウクライナの核不拡散条約加盟に関連する安全保障に関するブダペスト覚書(1994年)

- ウクライナとロシア連邦間の友好、協力、パートナーシップに関する合意(1997年)

- ウクライナとロシア連邦間のウクライナ-ロシア国境の合意(2003年)

- ウクライナとロシア連邦間のアゾフ海とケルチ海峡使用の協力に関する協定(2003年)

- ウクライナとロシア連邦間のウクライナのロシア黒海艦隊の地位と状態に関する合意(1999年)

ロシアの占領およびその後のクリミアとセヴァストポリの併合の試み、ドンバスにおけるロシアの違法行為は、国連総会決議「侵略の定義」(3314(XXIX))の附則3条а), b), c), d), e) ,g)に定めた侵略の定義に該当する。以下の行為は、国際平和に対する重大な犯罪であり、ロシア連邦は国家レベルの国際的責任を負い、ロシア指導部は国際的な刑事責任を負うものである。

引用終わり

 

 大使館によるこの指摘は国際的に十分に通用するもので、ロシアの主張はほぼすべてが虚偽で、戦闘行為は違法です。

 オランダのハーグに本部を置く国際刑事裁判所はすでに3月、ウクライナ侵攻をめぐる戦争犯罪容疑で、プーチンに逮捕状を出しています。ロシアが占領したウクライナから子どもたちをロシアへと不法に移送し洗脳している容疑です。プーチンはこれによりプーチン側に立たない国々へ行くことができなくなっています。

 

以上、「プーチン負けたり」でした。

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福岡地方の大量降雨

2023年07月10日 | ニュース・コメント

九州から中国地方の大量降雨は洪水被害を伴って続いていますね。

 おっちょこちょいのななしさーん、大丈夫ですかー?

 2017年には「九州北部豪雨」という名称までついたほどのひどい豪雨がありました。特に福岡県朝倉市から大分県日田市にまたがり山々が崩れ、山津波といわれるほどで、林業で有名な日田は特に大きな被害を受けました。昔から甲子園の常連である高校は、全国でも珍しい「日田林工」という名前を持つ林業高校があります。日田は今回もまた大きな被害が出そうで、とても心配です。

 

 私は1977年から81年にかけて約4年間福岡市に転勤で住んだこともあり、福岡には深い思い入れがあります。そしてその間に、大渇水と長期の降雨被害を受けた経験もあります。77年から78年にかけて大渇水の時、半年以上ほとんど降雨がなく、大きな河川や湖の無い福岡市は、コロナ禍でのシャットダウンよりひどい状態でした。最大のダムの貯水量は、最後にたった1%という悲惨さでした。

 3歳と0歳の子を抱えて水のない所の生活するのは全く不可能で、家内と子供たちは実家へ帰し、半年ほど悲惨な一人暮らしをしました。水道は最初は夕方数時間しか出ない給水制限でしたが、78年の夏はそれでは済まず、4階建て40戸ほどのアパートに、臨時の蛇口がたった1個設置され、全戸がそれですべてを賄ったのです。飲食店も同様で、皿やカップ、箸に至るまですべて使い捨て。風呂屋はクローズ。理美容店もカットだけを行っていました。ただラッキーだったのは同じアパートに住む会社の同僚の親戚が、当時は珍しかったミネラルウォーターの会社を経営していて、「富士ミネラル」という大き目の瓶入りミネラルウォーターを大量に送ってくれ、おすそ分けにあずかることができました。

 そしてそれが終わった80年には考えられないほどの長雨が続きました。6月に始まった梅雨が9月いっぱい、約4か月も毎日降り続き、崖崩れや道路の崩壊被害件数は数えることもできないくらいの状況でした。

 ゴルフ好きの私はゴルファー天国とも言える福岡でゴルフを満喫するはずだったのですが、雨のためにできないだけでなく、ほとんどのコースが山際にあるため、コース自体が雨で流れてしまうという被害を受けました。長雨が終わっても修復に3か月から半年くらいかかるところが続出しました。

それでも私は海と山の幸に恵まれ、東京から来た転勤族の我々にもとても親切な人々の多い福岡は大好きです。

 

 今回の豪雨もすでに大変な被害が報道されていますね。崖崩れや川の氾濫が住宅まで押し流し、死者も多数出ています。紅葉の季節に行ったことのある筑紫耶馬渓(チクシヤバケイ)という渓谷も、下流では洪水になっているようで、とても心配です。

 地元の友人家族と一緒に行った八女の星野村も印象に残っています。八女茶だけでなく、果物がとてもおいしくて、ビワほどの大きな粒の巨峰は特に印象に残っています。そして星野村は「星のふるさと」と言われ、空気が澄んでいるため天の川がとてもきれいに見えました。最近は天体観測のメッカだと聞いています。

 どうかこれ以上長い大雨になりませんように。

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投資は米国債が一番、10年物金利の4%台乗せは、絶好のチャンス

2023年07月09日 | 米国債への投資

 週末のアメリカ市場では米国債10年物金利が4%台に乗せ、にもかかわらずドル円は一気に142円そこそこを付けるという珍しい状況になっています。ここまで米国債金利に沿うようにドルレートは高くなっていたのが、真逆に動いています。

 

 為替レートはともかく、

「10年物金利が4%に台に乗せたら、腰を入れて買うべし!」

 というのが私の意見です。22年の10月末にも4%台に一瞬乗せましたが、その時ドルはいまより5円も高く147円台でした。10年物4%台はその前をたどると14年も前の08年秋までさかのぼらないとその機会はありませんでした。

 08年の秋は、私が1冊目の著書のアイデアを作りはじめた時期でしたが、執筆を始め時間の経過とともに金利は低下し、出版した11年夏に10年物は3.12%。ただし為替レートは81円という超円高局面でした。ちなみにその時30年物金利は4.37%と、超長期物を買うには理想的なタイミングでした。

 この先為替介入で突然意味もなく円高になることはあるかもしれませんが、金利が低下してしまう可能性も考えると、この4%台のチャンスをしっかりとつかむことに分があると思います。

 

 

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米国債は依然買い時継続中、債券計算こそ投資理論の基礎だ

2023年07月05日 | 米国債への投資

 本日の為替レートは144.5円程度、米国債10年物のイールドは3.85%くらいです。このレベルはもちろん投資に値する金利レベルです。これから円をドルに換える方にとっては、若干躊躇する為替レートかもしれません。しかし10年物債券を1年間保有すれば3.85%の金利が付いてきます。その分を現在の為替レートから引き算すると144.5円は139円と同レベルです。ドルベースでは10年で4割もリターンを得られるのです。

 

  今後の為替レートや金利の見通しを予想するのは困難ですが、にもかかわらず投資を考えている方には「チャンス継続中」と申し上げます。

 今後半年程度の期間の単なる可能性ということで申し上げるなら、米国債金利は上昇するより低下する可能性が高いと思います。理由はFRBによる利上げが長く継続はしないし、いずれ景気がスローダウンすると思われるからです。そしてドルが高くなる可能性と安くなる可能性を比べるなら、金利と並行してドル安の可能性が若干高いと思われます。長期では金利を優先して考えるべきだというのが、私の一貫した考えで、長期の実績もそのとおりになっています。

 

 一方、日銀の企業短期経済観測調査によると大企業を中心に先行きに楽観論が拡がったようで、発表後当日の株価は564円高と大きなリバウンドになりました。株式投資をされている方にはご同慶の至りです。もっとも翌日と本日の株価はその半分以上を帳消しにしています。

 

では本題です。

 先日、救われた投資家さんへの返信投稿で、次回は「投資決定の基礎的考え方は、株式であろうが債券であろうが不動産であろうが同じだ」ということを申し上げました。今回はその中身を解説します。

 

 株式、債券、不動産が同じ考え方で説明できる?ほんとかなと思われる方が多いことと思います。投資理論中の最も大事な部分ですので、少し難しい部分もありますが、是非みなさん基本的考え方だけでも勉強してみてください。

 まず初めにみなさんへの問かけです。株式の妥当な価格はどのように計算されるのでしょうか。みなさんは株式投資をされる時に現在の価格の妥当性を理論的に考えたことはありますか。あったとしても会社の収益予想からのPERや過去のトレンド、類似企業の株価比較、あるいは日経平均との連動性などを基におよそ見当をつける方がほとんどですよね。

 ではもっと極端な例として、非上場会社で株価の付いていないA社を買収する場合、どのようにして妥当な株価を算定するのでしょうか。その場合、一般的にはDCF法と略されるDiscounted Cash Flow法により計算されます。日本語では収益還元法と訳されます。考え方は企業の将来にわたる収益見通しを使い、それを株式価格にまとめ上げるのです。この考え方は実は債券価格の決定方法と同じです。

 

 債券の場合、利子の合計と償還元本額は将来にわたり決まっています。それを単に金利で割り引いて合計することで価格は決まります。金利で割り引くとは、例えば償還額100ドルの1年物債券の利回りが5%とすると、1年物の現在価格は95.0 ではなく、95.24になります。1年物のゼロクーポン債の計算例を示します。下の計算を見てください。95だと少し足りないのです。

 

100 ÷ 1.05 = 95.24・・・現在価格

これが1年後の償還価格100を5%の金利で割り引くという計算です。

検算は、 95.24 X 1.05 = 100

ちなみに95だと以下のとおり100に達しません。

95.00 X 1.05  =  99.75

 

 ではみなさんが投資されるような長期債でかつ利付債の場合の現在の債券価格はどう計算するのでしょうか。

 10年債で考えます。半年ごとにもらえる20回分の利子額と最後の償還元本額をそれぞれの年数分、割り引いたうえで合計する必要があります。1年で5%割り引かれるのが2年だと5%の2乗分割り引かれ、以下年数が増えるごとに割り引く乗数が3乗分,4乗分と大きくなります。この場合、実際の数値的には先ほどの例にあるように、1.05%で割り引きます。2年であれば1.05%の2乗ですから1.10%で割り引きます。

 一つの数式でそれを表すのはとても複雑な式となるため、ここでは避けます。興味のある方はネットで「収益還元法」、あるいは「債券計算」というキーワードを検索すると、詳しい解説を見ることができます。もちろんこうした面倒な債券計算は債券計算サイトやエクセルでも数値を入れれば計算してくれます。

 

 では最初の問いに戻ります。非上場であるA社の株価はどう決めるかです。その決定も債券と同様の方式で決めることができます。企業が毎年生み出すであろう予想収益額を現在価値に割り引き足し上げることで理論価格が割り出せます。予想収益額とは買い手にとって利子をもらうのと同じことです。例えば毎年投資額の5%の収益を出せる企業であれば、利回り5%の債券と同じ計算になります。

 債券は償還期限と金額が決まっていますが、企業の場合、毎年の収益額も継続見込み年数も決まっていません。5年は大丈夫そうな企業もあれば、より長期に渡り大丈夫そうな企業もあり、かつ収益額も一定程度の額が継続される場合もあれば、毎年少しずつ成長する企業もあるでしょう。その見通しは買い手と売り手がそれぞれ独自に想定し、計算結果としての合計価格をお互いに売り希望価格、買い希望価格として提示し、売買するか否かを決めます。

 私は10年ほど企業買収に関わってきましたが、株式価格のついていた上場会社1社の買収を除くとほとんどがこうした計算を繰り返し、価格を決めて交渉に臨んでいました。

 

 実は不動産価格も同様なDCF方式で価格を決めるのが世界標準です。最近は日本でもこの方式による価格の査定が一般的になってきました。例えばオフィスビルに投資すると仮定します。その場合、投資額に対する毎年の利回り収入を計算し、妥当な価格を判断します。利回り収入とは毎年の見込み賃貸収入からコストを引いた残りで、それを見込み利回り率で割り引くのです。計算の中に不動産の値上がり益は見込まず、保守的に見て価格は現状維持とするケースが多くなってきています。

 ここまでをまとめますと、「投資とは、債券であろうが株式であろうが不動産であろうが、資産が生み出す将来のキャッシュフローを現在価値に割引き、価格決定をする」ということができます。

 

 ではその割引をする際に使う割引率はどうするのか?

 債券の利子率なら簡単です。発行時に決めて発行されるからです。リスクが大きな社債の場合利子率は高く設定されます。ドル債の場合、ある社債の利回りを決める時、同年限の米国債利回りに何パーセントプラスするかで決めています。その差を国債に対するスプレッドと呼びます。例えば格付けがシングルAの社債はトリプル Aの国債に比べプラス1%、BBBだとプラス3%という具合です。利回りが大きいということは割引率が大きいことなので、現在価値は低くなります。

 債券以外の場合、割引率は買い手が求めるリターンの率で決めます。5%でよければ5%で割引くし、10%欲しければ10%で割り引いて価格を決めます。もちろん取引相手は少しでも高く売りたいので、買い手の提示より高い価格を提示した上で交渉に臨むでしょう。

 

 日本のバブル時代はこうした世界標準のDCF法を一切無視し、売買益を得ることこそ不動産投資であるという愚かな考え方で売買が行われた結果、利回り採算を無視した法外な価格で不動産が取引されていました。そしてそれに輪をかけたのが銀行の愚かな融資姿勢でした。銀行もDCFをまともに計算などせずに、収益力ゼロの地面の買取りにどんどん貸し込んでいました。その結末はみなさん知ってのとおりです。あの時代はゴルフ会員権もしかり、株式相場もしかり。利回りではなく、単なるキャピタルゲイン=価格上昇のみを前提とした狂乱投資の時代だったということです。

 

 ここまでで世界標準の投資理論のおよその基礎を解説しました。ご理解いただけましたでしょうか。正確な理論式を覚える必要はありません。投資とはキャピタルゲインを目指すのではなく、確実な利回りを求めるものだ、ということです。

 株式投資で大成功をおさめ続けるバフェット爺さんの投資哲学も全く同じです。毎年確実なキャッシュフロー収益を生み出す株式に投資して果実を得る。売ったり買ったりを繰り返しません。その収益を蓄積していくのが彼の投資方法です。ですので、金=ゴールドを投資対象にはしません。金塊は金の卵を一個たりとも産まないからです(笑)。

 

 このように、投資理論の基礎を最初に編み出したのは、株式投資ではなく、より厳密な債券計算でした。利子額と償還額が確定しているため、価格が厳密に計算できるからです。もし経済情勢の変化などで金利が上下すれば、保有既発債の価格は計算し直して価格を再設定します。証券会社は毎日そうした計算をして、保有債券の値洗いをしています。また新発債を発行する場合、その時の市場金利を参考にして発行することで実勢金利に合わせることができます。

この債券計算のDCF法を、株式投資や不動産投資でも応用したのです。

 

以上、債券計算こそ投資理論の基礎だ、でした。

 

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