ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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基軸通貨としてのドル その1

2014年05月31日 | 2014年の資産運用
 私からお願いした読者のみなさんのプロフィール登録にここまでご協力いただいた方々、ありがとうございます。まだの方、来週金曜日を〆切りにしていますのであと一週間あります。なるべく多くの方の登録をお待ちしいたします。


 さて5月は世界の債券市場で債券高=金利低下となりました。特に最終週になってからはアメリカ、欧州各国の国債に加えて日本国債そして新興国の債券までもが買われ金利が低下しました。
 しかも株式相場もおしなべて高く、特にアメリカ株はダウ平均・S&P500ともに最高値を更新して5月が終わりました。「5月相場は逃げるが勝ち」ということわざにもめげず、株までが高値更新です。
 債券と株式の間は投資マネーが行ったり来たりするだけではありません。債券高と株高が同時並行することはありうることで、足元の景気がイマイチのときに債券が買われて金利が低下すると、先行きの景気の回復を見込んで株高に振れることはよくあります。しかし今回の株高は世界に地政学的なキナ臭さが漂う中での株高・債券高で、こうしたことは珍しいと思います。普通はリスク回避に走り、株が売られ債券が買われます。これについては今後また触れることにします。


 本日の話題は、長期的にドルへの投資を考えていらっしゃる方々に向けて、基軸通貨としてのドルの地位をどう見るかについてです。きっかけは先週の日経新聞経済教室に載った「ドル基軸は消去法の選択」という記事です。寄稿者はエスワード・プラサドというコーネル大学の教授です。彼はインド生まれでマドラス大学を経てアメリカの大学で博士号を取り、IMFやアメリカ政府の機関などで国際経済・ファイナンスについて研究を重ね、現在コーネル大学の教授をしています。キャリアとしては申し分のない人物です。

はじめに日経新聞に寄稿された基軸通貨ドルについて寄稿内容を紹介します。

<要約>

まず一般論としていわれていることは、
・20世紀の大半、ドルは準備通貨として圧倒的な地位を維持してきた
・世界的金融危機後、危機克服のためドル供給量は増大
・ドルの没落の可能性が言われている

しかし現実は
・各国の準備通貨としてのドルの地位は金融危機以降逆に強まっている
・07年以降海外投資家は3.5兆ドルの米国債を買った
・世界の準備通貨として常に6割強を占め続けている
・世界の安全資産供給は限られていて、欧州と日本の国債は盤石ではない
・人民元は中国の経済規模が大きくなっても外人投資家は安全資産とはみなさない
・日本円は高い政府債務比率にもかかわらず今後も重要な安全通貨であり続ける。理由は日本には堅固な制度と厚みのある金融市場が備わっているから


そして全体の結論としては、
・海外の中央銀行を含む外人投資家の米国債保有は6兆ドルに達し、国債以外のドル資産も数兆ドルある
・そのため諸外国はドルの下落を望まず、むしろドルを支える強い誘因が存在する
・買ってしまったので価値の下落は望まないという「ドルの罠」にはまっている
・今後当分の間、ドルは準備通貨として君臨するが、理由はよりよい選択肢がないという消極的理由からだ

 
 以上のような論旨でタイトルは「ドル基軸は消去法の選択」となっています。しかし日本については「日本国債は盤石ではない」と言いながら「円は安全通貨であり続ける」と矛盾した論理が述べられています。こうした国際金融の専門家中の専門家でも日本の扱いはどうしてよいかわからず、矛盾ともとれることを述べてしまっているようです。

 この寄稿のタイトルには「基軸通貨」という言葉があり、内容には「準備通貨」という言葉が使われています。この二つ、厳密には違う言葉です。簡単に解説しますと、

 「基軸通貨」の一般的定義は、
① 国際間の貿易・資本取引に広く使用される決済通貨である
② 各国通貨の価値基準となる基準通貨である(為替で言うクロスレート、例えば円とユーロの換算レートの真ん中にいる)
③ 通貨当局が対外準備資産として保有する準備通貨である


「準備通貨」という言葉は、上の基軸通貨の定義③に出てきますすが基軸通貨より狭い言葉で、対外支払い準備用通貨のことです。これだけの機能を十分に果たせるのは、米ドルをおいてほかにありません。

 基軸通貨としてどれほど影響力を持つかを厳密に計ることが難しいので、一般的には各国の準備通貨統計から、影響力を推定します。以下は世界各国が対外支払いに備えて準備している通貨の構成比を%で示したもので、長期のトレンドがわかります。

           95   00   05  10   13年
米ドル       59    71   66  62   62%
ユーロ       --     18   25   26   24
英ポンド      2     3     4    4    4
円          7     6    4    4    4
その他       32    2    2    4     4


 90年代を通じて準備通貨として増え続けてきたドルは、71%をピークにユーロの導入後はいったん地位を低下させましたが、ユーロの増加が10年あたりでストップすると、構成比の低下も止まりました。

 円やポンドはコンスタントに4%程度と、しょせん一部の代替通貨にすぎないようです。円は90年代以降もほぼ一貫してドルに対して価値を切り上げてきましたが、準備通貨として増えることはなく、地位はほぼ一定でした。

 準備通貨は各国の裁量で決められますが、通常は上記の有力通貨から選ばれます。

つづく

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みなさまのプロフィール調査 追加

2014年05月29日 | 2014年の資産運用
アンケート調査の回答内容でお一人目の方から回答をいただき気付いたのですが、もし差し支えなければ男女の別を入れていただけますでしょうか。

質問1.回答例 60歳代 男性

以上、よろしくおねがいします。
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みなさまのプロフィール調査

2014年05月28日 | 2014年の資産運用
 みなさんの「いなか」論議、とても興味深く拝見させていただきました。それに加えておっちょこちょいのななしさんからいただいた地方都市の外人労働者の話なども、今後人手不足が深刻化するなかで、看過できないお話だと思いました。労働者不足が本格的に深刻化する可能性もあり、政府も半鎖国状態の解放を真剣に考えざるをえない段階が近付いているように思います。しかしななしさんお話しにあるような不都合な事態が日常的に起こるようだと、ヨーロッパと同じ様に極右の台頭といったこともありえなくはありません。ちょっと心配です。


 今回の議論の中でななしさんから興味ある提案が出されました。それはこの「ブログに集まっていらっしゃるみなさんのプロフィールと構成比がどのようなものか知りたい」というリクエストです。私も含め、みなさんも興味があるかと思い、可能な範囲でプロフィール調査をしてみたいと思います。

ななしさんのコメントを引用しますとプロフィールの分類例は

引用
①元金融機関にお勤め(意外と多いんじゃないかな~だって「ななし」からみると皆様方リテラシー高すぎ。ななしの周りはななしと同じレベルばかりかも・・)
②自営業者
③ななしみたいなただのおばちゃん(主婦)
④資産運用が巧くいったアーリーリタイアメントした若者
⑤あとちょっとで定年で、これからどっしょうかな~って人
⑥親からの相続でいきなり資産運用に迷子になっている人
⑦年金制度が大丈夫か不安な人
⑧リーマンショックetcにやられた人
⑨おひとり様(結婚して無い女性、男性)
⑨上記組み合わせ者

林様のブログにたどり着いた方々の金融資産額別職業や意識、またどういういきさつでたどりついたのか、統計分布でみてみたい
引用終わり


 では、このリクエストにお応えするために以下のように質問を設定させていただきますので、この記事へのコメントで回答をおねがいします。調査回答の要領は、以下のとおりとさせていただきます。

○回答期間;5月28日から約2週間後の6月12日(木)を〆切りとさせていただきます。その間、私の記事は通常通り進行いたします。
○ハンドルネームを付けるか否かは、みなさんの自由といたします。従来からのハンドルネームを使われることもかまいませんし、匿名(UNKOWN)でも結構です。
○数値は年齢・資産額なども含め、およそでけっこうです。例えば50歳代、資産額3百万円程度など。
○資産額は少額だからといって分け隔てすることは決してありませんので、なるべく正直に申告していただくと助かります。
○資産構成例;現金・預金 %、株式 %、株式投信 %、・・・等。うち外貨建て構成比  % (数値は絶対金額でも結構です)

以下の回答用紙をコピペしてご利用ください

・・・・・・・回答用紙・・・・・・・・

ハンドル・ネーム;
質問1.年齢

質問2.資産額

質問3.現状の資産内容

質問4.職業、リタイアされている方は元の職業

質問5.ななし分類、上記①-⑨のどこに該当するか。該当なき場合、自己申告で

質問6.どうしてこのブログにたどりついたか

質問7.今後米国債への投資を検討しているか

・・・・・・・回答用紙・・・・・・・・

不明な点があればどうぞ遠慮なくご質問ください。


 実は3年ほど前に、みなさんにこれまでの資産運用成績と現状の資産構成の開示をお願いし、数名の方から投資対象の具体名を含めかなり詳細な運用成績を公表いただきました。成功談ばかりでなく失敗談も多かったため、その時も大変参考になったとのコメントや、フェイスブックのメール機能で私に直接多くのコメントをいただき、反響の大きさに驚いたことがあります。今回もそうした回答を期待しております。

 締め切り後は私が内容をまとめるようにいたしますので、今回もみなさんのご協力をよろしくお願いいたします。

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アメリカ長期金利の低下について

2014年05月22日 | 2014年の資産運用
 このところ米国債金利が10年物で2.5%を割り込んだりしています。それに対して多くの日本のアナリストは以下のような要因を上げています。

1.アメリカ住宅投資のスローダウン
2.欧州景気が後退し、ドルにマネーが回帰
3.新興国の景気が後退し、ドルにマネーが回帰
4.ウクライナ危機・南シナ海など地政学上の影響

 このうちアメリカの国内事情は1だけで、2,3,4.は海外の事情です。とすると、みなさんとこのところ議論をしていた「安全資産の円買い」と矛盾する話だと思いませんか。何故なら2.3.4.の海外要因は明らかに「安全資産の米国債への逃避」です。だったらどうしてドルに対して円高になるのでしょう。

 とまあ、「アナリストの分析などその場でふさわしそうな理屈をくっつけるだけだ」という私の話を裏付けることになってしまっています。もっと言えば、為替のアナリストは為替の説明に都合がよい理屈を述べ、金利のアナリストは金利の説明に都合がよい理屈を述べるだけ

 それと、ひところ言われていた「グレート・ローテーション」、債券から株への歴史的かつ巨大なうねりが発生していることを指しますが、その話はどこへ?
都合が悪くなったので今回から『グレート・ローテーションの巻き戻し』に変更したのでしょうか(笑)。

 これもアナリスト連中のご都合主義を象徴しているのかもしれません。

 では今回の金利低下の理由は?

 あるアメリカの債券アナリストと、ロイターの報道によれば「巻き戻し」です(笑)。グレートな巻き戻しではなく、「シカゴの債券先物市場で金利上昇を見越した売り建て玉が非常に多くなっていたのが、金利が思惑通り上昇せず、踏み上げさせられた」とのこと。踏み上げとはカラウリ筋を締め上げて買い戻させるために買い方がさらに買い上げることを言います。これは建て玉数という「数値」で見ることができるため、フィーリングで説明する「安全資産への逃避」説よりは信憑性があります。今のアメリカ金利の急低下が売り筋の買い戻しによるものかは、もうしばらくで判明すると思います。

 でははこの先の金利をどう見るか?

 まず金利予想の前提となる経済の見通しをアナリストではなく、より信頼のおける人達から聞いてみましょう。信頼性の高さから言えば、なんといってもFRB議長のイエレン氏と連銀の理事達です。金利について直接言及していませんが、アメリカ経済の見方を要領よくまとめてくれていますので、参考になります。

 イエレン議長は5月の議会証言で以下のように述べていました。

・労働市場はかなりの改善を遂げたが、長期失業や賃金の上昇ペースがまだ問題
・住宅部門に軟調の兆しあり
・物価は落ち着いている
・地政学的緊張が高まっている
・新興国市場における金融問題の可能性(主に中国を指すと見られる)


 それにもめげず地区連銀を代表する理事達はイエレン議長よりは経済実態を強めに見ていて、この一両日の2名の発言では利上げの可能性について議長の国債購入が終わって数カ月後というより早目の利上げに言及しています。といっても彼らの取り上げる金利はFF金利など翌日物の政策金利です。

 そして昨日発表された4月のFOMCの議事録でも、早期の利上げはないものの、計画通りの緩和縮小に向かっていることが確認されました。

 では、私はどう見ているか。

 私は一貫してアメリカ経済に対しても長期金利の見通しについても、いわゆるコンセンサス予想より強気ですが、それは変化していません。イエレン発言を否定はしませんし、経済の現況はその通りなのでしょう。そしてFRBによる国債購入はもちろん年内に終了すると見ています。それが本当に終了する時期が見えてくると、政策金利の利上げがまだ実施されていなくても、長期金利は上昇を始めると見ます。そのレベル感はコンセンサスの3%前半ではなく、3.5%程度を見ています。

 理由はアメリカの長期金利は何と言っても雇用情勢と物価見通しにかかっていて、雇用情勢はとても順調な回復をみせ、物価水準は高くないもののデフレなどには陥らないからです。
 そして住宅投資については、スローダウンが金利を低下させるものではありません。「住宅投資は金利の従属変数で金利の決定要因ではない」のです。つまり金利が高いと投資が低下し、低いと投資は伸びるという関係であって、住宅投資が減るので金利が低下するわけではないのです。

 ということで、緩和縮小の終わる時期が近付くにつれ、利上げに至らずとも長期金利の上昇は始まり、3%以上になる可能性があると見ています

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「安全資産の円買い」について

2014年05月19日 | 2014年の資産運用
 Owlsさんから「「安全資産の円買い」というフレーズが間違った印象を与えていると思います」というコメントをいただきました。最近よく聞く言葉ですが、私も強い違和感を持っています。それについて、私の見解です。

 まず「安全資産の円買い」という言葉そのものについてです。この言葉は特に根拠をもって使われたり、意図を持って使われたりしてはいないと思います。使っているのは主にアナリストとそれを引用するマスコミです。円高の説明がつかない時に使う言葉だと私は思います。

 2・3年ほど前のギリシャに端を発するユーロ危機の際に使われた言葉は「安全資産のドル・円買い」でした。当時は「リスク・オフの円ドル買い」とも使われました。その時はドルと円はセット動きくことが多かったからそう言われていました。今回のように円がドルに対して高くなるとそれでは説明がつかなくなり、彼らは次の言葉として「安全資産の円買い」を考え出しました。

 いい加減な理由として言っているだけなので、「何故近頃は円が単独で「安全資産の円買い」になってしまったのか?」と聞いても、適切に説明できるアナリストはきっといないでしょう。もちろんマスコミも説明できないので、アナリストの尻馬に乗るわけです。

 為替は毎日様々な要素で変動します。アナリストは変動の理由を毎日解説することを求められますが今日の変動要因は「わからん」とは言えません。そこで様々な言葉を編み出すわけです。今年になって円ドルレートの膠着状態が続いている中で、微々たる変動しかありません。そのたびに今日は世の中がきな臭いので「安全資産の円買い」、今日は臭わないので「安全資産の円売り」などと言うこと自体ナンセンスです(笑)。世界の情勢が毎日毎時安全から危険に大きく振幅するなどということはありえないからです。

 そして「安全資産の円売り」とは決して言いません。円高の時だけ言うのです。何故か?

 その理由は円高の説明がつかないからです。経常収支が悪化し、政府・日銀が一体となって円安を推進している中だと円安は理由を見出しやすい、しかし何故円高になるのかは説明できないので「安全資産の円買い」と言ってごまかすのです。

 では本当にドルに対して「円は安全通貨か」に関してですが、私は円がもちろん安全通貨などとは思っていません。Owlsさんと同様、非常にミスリードな言葉だと思います。

 これまでも述べてきましたが、どの数値をもってしても円は将来的に大いなる危険通貨で、安全通貨などではないと思っています。FSXさん、ただの投資家さんも共通の意見を持たれているようです。経常収支が悪化し財政赤字が放置されている国の通貨が安全通貨だとはとても思えません。
 
 みなさんも毎日解説を義務づけられているアナリストさんを、私と一緒に「お気の毒さま」と慰めてあげましょう(笑)

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