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さて5月は世界の債券市場で債券高=金利低下となりました。特に最終週になってからはアメリカ、欧州各国の国債に加えて日本国債そして新興国の債券までもが買われ金利が低下しました。
しかも株式相場もおしなべて高く、特にアメリカ株はダウ平均・S&P500ともに最高値を更新して5月が終わりました。「5月相場は逃げるが勝ち」ということわざにもめげず、株までが高値更新です。
債券と株式の間は投資マネーが行ったり来たりするだけではありません。債券高と株高が同時並行することはありうることで、足元の景気がイマイチのときに債券が買われて金利が低下すると、先行きの景気の回復を見込んで株高に振れることはよくあります。しかし今回の株高は世界に地政学的なキナ臭さが漂う中での株高・債券高で、こうしたことは珍しいと思います。普通はリスク回避に走り、株が売られ債券が買われます。これについては今後また触れることにします。
本日の話題は、長期的にドルへの投資を考えていらっしゃる方々に向けて、基軸通貨としてのドルの地位をどう見るかについてです。きっかけは先週の日経新聞経済教室に載った「ドル基軸は消去法の選択」という記事です。寄稿者はエスワード・プラサドというコーネル大学の教授です。彼はインド生まれでマドラス大学を経てアメリカの大学で博士号を取り、IMFやアメリカ政府の機関などで国際経済・ファイナンスについて研究を重ね、現在コーネル大学の教授をしています。キャリアとしては申し分のない人物です。
はじめに日経新聞に寄稿された基軸通貨ドルについて寄稿内容を紹介します。
<要約>
まず一般論としていわれていることは、
・20世紀の大半、ドルは準備通貨として圧倒的な地位を維持してきた
・世界的金融危機後、危機克服のためドル供給量は増大
・ドルの没落の可能性が言われている
しかし現実は
・各国の準備通貨としてのドルの地位は金融危機以降逆に強まっている
・07年以降海外投資家は3.5兆ドルの米国債を買った
・世界の準備通貨として常に6割強を占め続けている
・世界の安全資産供給は限られていて、欧州と日本の国債は盤石ではない
・人民元は中国の経済規模が大きくなっても外人投資家は安全資産とはみなさない
・日本円は高い政府債務比率にもかかわらず今後も重要な安全通貨であり続ける。理由は日本には堅固な制度と厚みのある金融市場が備わっているから
そして全体の結論としては、
・海外の中央銀行を含む外人投資家の米国債保有は6兆ドルに達し、国債以外のドル資産も数兆ドルある
・そのため諸外国はドルの下落を望まず、むしろドルを支える強い誘因が存在する
・買ってしまったので価値の下落は望まないという「ドルの罠」にはまっている
・今後当分の間、ドルは準備通貨として君臨するが、理由はよりよい選択肢がないという消極的理由からだ
以上のような論旨でタイトルは「ドル基軸は消去法の選択」となっています。しかし日本については「日本国債は盤石ではない」と言いながら「円は安全通貨であり続ける」と矛盾した論理が述べられています。こうした国際金融の専門家中の専門家でも日本の扱いはどうしてよいかわからず、矛盾ともとれることを述べてしまっているようです。
この寄稿のタイトルには「基軸通貨」という言葉があり、内容には「準備通貨」という言葉が使われています。この二つ、厳密には違う言葉です。簡単に解説しますと、
「基軸通貨」の一般的定義は、
① 国際間の貿易・資本取引に広く使用される決済通貨である
② 各国通貨の価値基準となる基準通貨である(為替で言うクロスレート、例えば円とユーロの換算レートの真ん中にいる)
③ 通貨当局が対外準備資産として保有する準備通貨である
「準備通貨」という言葉は、上の基軸通貨の定義③に出てきますすが基軸通貨より狭い言葉で、対外支払い準備用通貨のことです。これだけの機能を十分に果たせるのは、米ドルをおいてほかにありません。
基軸通貨としてどれほど影響力を持つかを厳密に計ることが難しいので、一般的には各国の準備通貨統計から、影響力を推定します。以下は世界各国が対外支払いに備えて準備している通貨の構成比を%で示したもので、長期のトレンドがわかります。
95 00 05 10 13年
米ドル 59 71 66 62 62%
ユーロ -- 18 25 26 24
英ポンド 2 3 4 4 4
円 7 6 4 4 4
その他 32 2 2 4 4
90年代を通じて準備通貨として増え続けてきたドルは、71%をピークにユーロの導入後はいったん地位を低下させましたが、ユーロの増加が10年あたりでストップすると、構成比の低下も止まりました。
円やポンドはコンスタントに4%程度と、しょせん一部の代替通貨にすぎないようです。円は90年代以降もほぼ一貫してドルに対して価値を切り上げてきましたが、準備通貨として増えることはなく、地位はほぼ一定でした。
準備通貨は各国の裁量で決められますが、通常は上記の有力通貨から選ばれます。
つづく
さて5月は世界の債券市場で債券高=金利低下となりました。特に最終週になってからはアメリカ、欧州各国の国債に加えて日本国債そして新興国の債券までもが買われ金利が低下しました。
しかも株式相場もおしなべて高く、特にアメリカ株はダウ平均・S&P500ともに最高値を更新して5月が終わりました。「5月相場は逃げるが勝ち」ということわざにもめげず、株までが高値更新です。
債券と株式の間は投資マネーが行ったり来たりするだけではありません。債券高と株高が同時並行することはありうることで、足元の景気がイマイチのときに債券が買われて金利が低下すると、先行きの景気の回復を見込んで株高に振れることはよくあります。しかし今回の株高は世界に地政学的なキナ臭さが漂う中での株高・債券高で、こうしたことは珍しいと思います。普通はリスク回避に走り、株が売られ債券が買われます。これについては今後また触れることにします。
本日の話題は、長期的にドルへの投資を考えていらっしゃる方々に向けて、基軸通貨としてのドルの地位をどう見るかについてです。きっかけは先週の日経新聞経済教室に載った「ドル基軸は消去法の選択」という記事です。寄稿者はエスワード・プラサドというコーネル大学の教授です。彼はインド生まれでマドラス大学を経てアメリカの大学で博士号を取り、IMFやアメリカ政府の機関などで国際経済・ファイナンスについて研究を重ね、現在コーネル大学の教授をしています。キャリアとしては申し分のない人物です。
はじめに日経新聞に寄稿された基軸通貨ドルについて寄稿内容を紹介します。
<要約>
まず一般論としていわれていることは、
・20世紀の大半、ドルは準備通貨として圧倒的な地位を維持してきた
・世界的金融危機後、危機克服のためドル供給量は増大
・ドルの没落の可能性が言われている
しかし現実は
・各国の準備通貨としてのドルの地位は金融危機以降逆に強まっている
・07年以降海外投資家は3.5兆ドルの米国債を買った
・世界の準備通貨として常に6割強を占め続けている
・世界の安全資産供給は限られていて、欧州と日本の国債は盤石ではない
・人民元は中国の経済規模が大きくなっても外人投資家は安全資産とはみなさない
・日本円は高い政府債務比率にもかかわらず今後も重要な安全通貨であり続ける。理由は日本には堅固な制度と厚みのある金融市場が備わっているから
そして全体の結論としては、
・海外の中央銀行を含む外人投資家の米国債保有は6兆ドルに達し、国債以外のドル資産も数兆ドルある
・そのため諸外国はドルの下落を望まず、むしろドルを支える強い誘因が存在する
・買ってしまったので価値の下落は望まないという「ドルの罠」にはまっている
・今後当分の間、ドルは準備通貨として君臨するが、理由はよりよい選択肢がないという消極的理由からだ
以上のような論旨でタイトルは「ドル基軸は消去法の選択」となっています。しかし日本については「日本国債は盤石ではない」と言いながら「円は安全通貨であり続ける」と矛盾した論理が述べられています。こうした国際金融の専門家中の専門家でも日本の扱いはどうしてよいかわからず、矛盾ともとれることを述べてしまっているようです。
この寄稿のタイトルには「基軸通貨」という言葉があり、内容には「準備通貨」という言葉が使われています。この二つ、厳密には違う言葉です。簡単に解説しますと、
「基軸通貨」の一般的定義は、
① 国際間の貿易・資本取引に広く使用される決済通貨である
② 各国通貨の価値基準となる基準通貨である(為替で言うクロスレート、例えば円とユーロの換算レートの真ん中にいる)
③ 通貨当局が対外準備資産として保有する準備通貨である
「準備通貨」という言葉は、上の基軸通貨の定義③に出てきますすが基軸通貨より狭い言葉で、対外支払い準備用通貨のことです。これだけの機能を十分に果たせるのは、米ドルをおいてほかにありません。
基軸通貨としてどれほど影響力を持つかを厳密に計ることが難しいので、一般的には各国の準備通貨統計から、影響力を推定します。以下は世界各国が対外支払いに備えて準備している通貨の構成比を%で示したもので、長期のトレンドがわかります。
95 00 05 10 13年
米ドル 59 71 66 62 62%
ユーロ -- 18 25 26 24
英ポンド 2 3 4 4 4
円 7 6 4 4 4
その他 32 2 2 4 4
90年代を通じて準備通貨として増え続けてきたドルは、71%をピークにユーロの導入後はいったん地位を低下させましたが、ユーロの増加が10年あたりでストップすると、構成比の低下も止まりました。
円やポンドはコンスタントに4%程度と、しょせん一部の代替通貨にすぎないようです。円は90年代以降もほぼ一貫してドルに対して価値を切り上げてきましたが、準備通貨として増えることはなく、地位はほぼ一定でした。
準備通貨は各国の裁量で決められますが、通常は上記の有力通貨から選ばれます。
つづく