ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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クロちゃん、お気の毒様です

2016年04月30日 | ニュース・コメント

  久々のゴールデンウイーク狙い撃ちトレードでしたね。すでにコメント欄で様々な意見をいただいていますが、私はここへ来ての超短期的円高はヘッジファンドが暴れているのだろうと思っています。

  その昔ヘッジファンドや投資銀行は、たびたび日本のFX投資家が留守になる年末年始とGWに大暴れして、ポジションを強制的に解消せざるを得なくしてしまうトレードを仕掛けていました。簡単に言えば「踏み上げさせる」ということで、日本の投資家の休日トレードのしづらさを狙っての仕掛けでした。最近は休日が続くGWや年末年始でもネットでのトレードの容易さから、そうした狙い撃ちはなくなったのだろうと私は思っていました。今回は何もしなかったクロちゃんの虚を突いたのでしょうね。

   しかし今回ばかりはクロちゃんに同情してあげます。物価の2%目標の先送りなんて当たり前だし、打つ手なんかもともとないんですから。

   今年の2月1日、私はクロちゃんのムーン・ウォークについてこう書いています。

 引用

最後に大事な大事なクロちゃんのコミットである2%のインフレ達成時期について、いったいどこまで後退しているかを見てみましょう。13年春に「2年で2%」とコミットしたので、当初目標は15年春のはずでした。しかしその時期が来ると16年前半と1年後退、さらに15年秋には16年後半になり、今回は17年前半に後退しています。私がクロちゃんならこう言います。

「2%達成時期は、これからいつも日銀発表から2年後だ!」(爆)

引用終わり

   このジョークは、今回ぴたりと当たりました。2%の達成時期は発表から2年後に変更したのですから(笑)。

   かわいそうに1月のマイナス金利導入で株の暴落と円の急騰に見舞われたクロちゃんですが、今回は悪さは何もしていないのにまた株の暴落と円の急騰です。

   それでも私は珍しくクロちゃんに同情します。株やさんちのアナリスト連中が勝手に日銀の追加策を煽りまくって株価を押し上げたのが、クロちゃんが何もしなかったので暴落したのでしょう。何かすればするで暴落、しなきゃしないでまた暴落。どーすりゃいいんだ・・・

    でもねークロちゃん。それもこれもやりすぎの結果ですよ。もう出口がないことを誰もがわかったからには、何をしても無駄だし、何をしなくてもダメです。今後も日銀の決定会合のたびにこうしたことが繰り返されるのでしょう。

   ところでアメリカ株ですが、アップルの暴落だけでどんどん下に引っ張られています。ダウにしてもナスダックにしても、アップルの影響が大きすぎるのです。その下げの中で「お見事!」と言わざるをえないのが、物言う投資家カール・アイカーンです。

     彼は3年前からアップル株を買い進んだのですが、去年の第4四半期から売りに回り、今週売り切ったようです。その儲けがいくらになったのか正確にはわかりませんが、どうやら20億ドルにはなったようです。その曲者アイカーンのアイカーンたるブラッフがなんぼのものか、どうぞ去年5月26日のフォーブスの報道を見てください。ちょっと長いですが、おもしろいですよ。その時の株価は最高値の132ドル一歩手前でした。

 引用

物言う投資家のカール・アイカーンは、アップルの株価は「著しく過小評価されている」と今でも考えており、5月18日に目標株価を再び引き上げた。アイカーンはアップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)に宛てた公開書簡で、なぜ同社が誤って評価されていると考えるのかを詳しく記し、さらなる自社株買いを促した。

  アイカーンは、ほんの数カ月前には216ドルと言っていたアップルの目標株価を240ドルに引き上げた。5月15日の同社株終値を86%上回る。アップルの株価は翌週月曜(5月18日)におよそ1%値上がりし129.97ドルになった。

  アイカーンの高い目標株価は、アップルがテレビと自動車に参入するという彼の観測に基づいている。「アップルは合わせて2兆2,000億ドル規模と見られる2つの新市場(テレビには来年、自動車には2020年までに)に参入して両市場で優位に立つと我々は見ているが、こうした見方を投資家は全く評価に織り込んでいないようだ」と記している。

  「2兆2,000億ドルの市場機会は、アップルウォッチを除けばアップルの既存市場の3倍の規模に相当する」とアイカーンは言う。仮にそれが真実だとしても、アップルには自動車製造を始める計画があるとの兆候は見られない。アイカーンは「研究開発費を増額することは、理にかなっている」と指摘する。

  「株価が240ドルに到達するためには一株当たり利益が12ドルなければならないが、2016年度には達成可能だ」とアイカーンは予想している。これは ウォール街の大方の予想よりかなり高い。アイカーンはまた、アップルを純利益の18倍で評価しているが、市場の平均倍率である10倍よりも高く、むしろ S&P 500の17倍に沿うものである。

  「大手機関投資家やウォール街のアナリスト、ニュースメディアなどは皆アップルについて誤った評価をし続けている」とアイカーンは記している。書簡でアイカーンはアップルが先月、自社株買いの承認額を500億ドル増やしたことを賞賛したが、さらに増やすべきだと主張している。「今こそもっと多額の買い戻しをすべきだ」と記している。

  時価総額世界一を誇るアップルは巨額の手元現金を抱えている。昨年末の残高1,780億ドルはマイクロソフトの902億ドルやグーグルの644億ドルをはるかに凌ぐだけでなく、アメリカの法人企業全体の手元現金の10%を占めている。

 引用終わり

    これだけ持ち上げておきながら、しっかり売り逃げています。彼は3年前の株価が60ドルから80ドルくらいの時に買い始め、15年5月の130ドル手前のころに目標は240ドルだと持ち上げたにもかかわらず、すでに去年の第4四半期には売却を始め、今年に入って売り切ったのです。アップルの株価はこの目標宣言の直後に最高値132ドルを付けその後下落に転じ、現在の株価は93ドルと強気宣言より3割下落しています。ポジショントークはこうあるべきだの見上げたお手本です(笑)。

   アップルの株価下落は成長神話の終わりの始まりかもしれません。iPhoneの限界が見え始めた中で、次の成長機会を見いだせていません。私は以前、アップルの成長神話はそろそろ限界だろうと申し上げました。覚えていらっしゃる方がいるかもしれません。それは株価の面では大外れでした。iPhone以降新機軸を打ち出せていないのに、iPhoneのヒットが続き株価は2倍近くに上昇したからです。たしかアイカーンが買い始めるより早く「売りだ」と言ってしまったのですから、株のアナリストにはなれませんね(笑)。

   昨日のコメント欄に、「ストレスフリーの本質とは」というタイトルで (山主)さんが長期の見通しについて、書かれています。それと為替の急激な動きについては、みなさんの議論をしばし拝見させていただきます。いずれ私なりの解説を試みたいと思いますが、GW中は不在にすることもあり、ご勘弁を。

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投資経験談、陽子さんのカミングアウト

2016年04月27日 | ストレスフリーの資産運用

陽子さん、カミングアウト、ありがとうございます。

皆さんにも役に立つと思い、私のコメントとともに、こちらに掲載させていただきます。

 >今回もわかりやすいです。林様から見えるいろんな動きを、このようにまとめて頂きとてもありがたいです。

 勉強熱心ですね。お役にたてて、嬉しく思います。

 >話の中心からはずれてると思いますが、私の拙い経験談,,、皆様の参考になれば。

いいえ、大いに参考になると思い、本文にて取り上げさせていただきました。

>生保の外貨建て年金のお話が出たので、私の紹介も兼ねて少しお話を。
この仕組みに10年ほど前に気づき、自分でゼロクーポン債を買った口です。それが私の外債デビューです。償還年を色々取り揃えて、個人年金を自分で作ったのです。

 いやー、陽子さん、生保年金の仕組みに気づくなんて驚きです。

そして自分年金を作ったなんて、実にお見事!

ブログ読者の鏡ですよ。

>それがですね、リーマンショックの後にゼロクーポン債がドルベースで3割ほど上昇。天地がひっくり返るような騒ぎだったので、先が見えない怖さから、一旦米ドル分は全部売却、しかも円転してしまいました。あのまま売らずに置いていたら、林様にも、このサイトにも出逢わずにいたことでしょう、今頃ほくほくかも(笑)

おやー、残念。

もっと早めに私が本を書いておけばよかったですね。そしたら「債券は持ち切ることでストレスフリーの資産運用になる」、ってことが頭に残ったかもしれませんね。

陽子さんの経験の中で肝心なことがいくつかあります。第一は、

 >リーマンショックの後にゼロクーポン債がドルベースで3割ほど上昇

 この部分です。米国債の本質がここにあります。

 たびたび申し上げますが、米国債の本質は世界で一番安全な金融資産のため、世界に激震が走ったときに買われることです。その震源地がアメリカであっても買われてキャピタルゲインがなんと3割も出たということ、それこそが一番肝心な部分です。

 >どっちみち、その後の円高時に怖くて手放したと思うので、2008年中に売っていて良かったことにしています。

ここんとこも大事ですよ、みなさん。

   最近ある友人から途中売却に関して相談を受けています。億単位の資産を保有し、2000年代の初めころから私のアドバイスで資産の3分の2を外債、それも米国債を中心に豪ドル債などにも徐々に投資をしていました。

   彼はリーマンショックあたりまで3分の1を日本株にしたままでした。株式投資をなんと90年代から開始したためやられまくっていて、その後外債にシフトしたのですが、その残滓が3分の1でした。しかしそれもリーマンショック後にはすべて売却しています。そして外債シフトのお陰で損失も一掃し、十分におつりがきています。おそかりしGPIFより、上出来です。

   ただ彼は長年の投資経験が邪魔をしていて、120円までの円安の時にはほくそ笑んでいたのですが、今年になっての円高で恐怖感を覚え、

「まだ大きくもうかっているうちに一旦すべてを売却したいがどうか」、と言ってきたのです。

   相場に翻弄され続けた人は、ちょっと保有資産の価格が低下すると、売りたくなる。悪いクセです。どうせ相場を張るなら、高くなり続けている最中に思い切って売らないといけないのに、下がると売りたくなる。それが普通の人のサガですね。

   私は彼に「相場に振り回されず、そのまま最後まで保有すべきだ」と何度もアドバイスしているのですが、果たしてどうなるか。もともと20年以上の投資スパンで債券投資を開始しているのに、やはり投資経験があればあるほど毎日の円ドル相場に振り回されてしまのでしょう。

   ここまで陽子さんの経験談をもとに、友人の例を交えながら現時点での私のアドバイスを述べました。

   陽子さんもご自分の経験をしっかり活かして、早めにストレスフリー生活に入られることをお祈りします。

   以上、みなさんの参考になればと思います。

   そう、友人がどう動いたか、結果報告もしますね。彼は私のブログを読んでいないので、みなさんに披露しても大丈夫です(笑)。

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大丈夫か日本財政 その9 財政破たん派、どこが間違っているのか 7

2016年04月25日 | 大丈夫か日本財政

    円安が進行していますね。さまよえる為替アナリスト達の悲鳴が聞こえます。円も一夜にして安全になったり危険になったり、忙しいですね(笑)。

  前回は日銀のマイナス金利導入について、銀行の代表である三菱UFJの社長が表立って反対に回り、企業もアンケート調査で8割が反対しているという実態について述べました。そうした銀行や企業は、徐々に投資活動などが委縮して、自己防衛の方向にシフトしているようです。その中で凶暴なるクロちゃんが今週の日銀決定会合で果たして何を打ち出すのか、見ものです。

  政府も日銀も月例報告のたびに「穏やかな回復基調が続いている」と言いながら、一方で臆面もなく経済対策を打ち出すという矛盾した行動をとり続けています。株屋さんちのアナリスト連中も株価を上昇させてくれる政府日銀に対しては、どんな矛盾した政策であろうが文句ひとつ言いません。株価さえ高くなればあとのことなどどうでもいい。もっと極端に言えば、自分が高額な給料をもらっているうちだけ株を高くする政策を打ってもらい、後遺症など知ったことかということなのでしょう。我々はたまったものではありませんよね。

  マイナス金利導入でいま一つ企業にとって厳しくなっているのが退職年金の債務だというニュースが、本日の日経新聞1面トップを飾っています。日経オンラインを引用します。

引用

日銀のマイナス金利政策の影響が、年金の負担増を通じ企業収益を圧迫し始めた。長期金利の利回りがマイナス圏に下がったことで、企業が将来の年金の支払い に備えて用意する必要のある金額が増えるためだ。関連費用は判明分だけで1000億円を超えた。日清食品ホールディングスや住友不動産などで今期の関連費用が膨らむ見通しで今後、上場企業に同様の処理が広がりそうだ。

引用終わり

   かなりわかりづらいニュースだし、現役の方には影響もあるので解説します。退職金や年金制度を有している企業は将来の退職金や年金支払いに備えた積み立てをしなければなりません。退職年金債務という言い方をします。その積み立て必要額は将来の支払い見込み額を割引率で現在価値に割り引いて毎年算出し、過不足を調整します。金利が低下していくと割引率も低下するため債務は逆に増加してしまいます。割引率はおよそ20年物国債金利と連動して動いています。なかなかイメージしづらいですよね。

  これを簡単にイメージするには多くのみなさんが投資されているゼロクーポン債の価格を考えるとわかりやすいのでそれを使って説明します。ゼロクーポン債は、金利が高いと現在の価格は安く買えます。満期で同じ100をもらうのに、金利が高いと例えば50払えば済む。しかし金利が低ければ70支払う必要があります。それと同じことが企業年金でも起こるのです。将来100を支払うのに、いままで50の積み立てで済んでいたのが、金利が低下したため70の積み立てが必要になった。そこで企業は不足分20の積み立てを追加する必要が生じた、ということです。記事では不足分が判明した企業分だけで1,000億円にもなった、ということです。企業にとっては当期の収益に直結する大事なファクターですから、マイナス金利に反対するのもうなずけます。もちろん将来金利が上昇すると積み立て必要額は減少します。借金をする必要のない企業にとって、マイナス金利はいいとこなしなのです。

 

  さて、本題に戻ります。ここで今一度、財政破たん派は「どこが間違ったのか」ポイントだけ振り返りますと、

・家計の金融資産は団塊の世代が取り崩し側に回っても減らなかった。理由は長生きリスクのため、貯め込んだ

・個人投資が外貨建て資産の購入にシフトしなかった。理由は外貨建て資産はなじみがなく、為替リスクが大きいと思っているから

   という点が挙げられます。しかしこれは永遠に続くというものではありません。団塊の世代もいつまでも貯蓄を使わずに貯め込むわけではなく、いずれかの時点では取り崩しに入ります。また、外貨建て資産への投資にしても、個人投資は進展しなくても、機関投資家はマイナス金利によって外貨建て資産を増やす傾向が顕著になりつつあるからです。

   例えばゆうちょ銀行です。4月22日の日経新聞で日本郵政社長である長門氏のインタビュー記事が載っていました。ゆうちょ銀行は総資産が205兆円程度ですが、円建て債券、それも国債中心だったポートフォリオを、リスク資産である株式や外貨資産に大きくシフトさせつつあり、14年時点で40兆円台だったリスク資産を17年までに60兆円台に増やすことを掲げています。しかもマイナス金利が導入されたことで16年3月末時点ですでに60兆円を達成したというのです。それも増加は外国証券がほとんどです。安全第一のゆうちょ銀行にしては、大胆なシフトだと思います。なお、ゆうちょ銀行の言うリスク資産には株式の他10数兆円の円建て地方債や社債も含まれていて、外国証券となっている外債・外株は40兆円程度です。

   さらに我々の年金を運用しているGPIFですが、ご存知のようにGPIFは一歩先に行っていて、14年10月の方針変更で外貨建て資産が24%であったものを40%まで増加させることにしました。そして15年末にはすでに37%が外貨建て資産になっています。もっともその間の円安を考えると、外貨建ての多くがドル建てだとすると1割程度は為替だけでも増加しています。

   それだけではありません。このところニュースにたびたび顔を出すのが生保です。生保は昨年私が揶揄したように、みんなでそろって海外の同業者を買収しました。ごていねいにも円が一番安い時にです(笑)。そしてマイナス金利導入後は、外貨建て債券などを増額するという宣言を各社が相次いで出しています。

   家計の金融資産の外貨比率は増えなくとも、預け先が外貨建てを増やしています。しかし間違ってほしくないのは、そのことが個人資産の外貨比率を増やすことにはならないことです。大きく円安に動いたからと言って、為替差益が個人にもたらされるわけではありません。80円が120円になったのに、それで預金が増えたなんてことは一切ありません。金融機関のフトコロが潤うだけです。

   もちろん外貨建て個人年金に投資していれば分配金が外貨ですから、これは別です。しかしついでに繰り返しますが、生保のドル建て年金の仕組みは、預かった円をドルに替え、そのまま米国債に投資するだけ。そして米国債の金利から自分たちの利ザヤを抜いて残りを配当するので、直接米国債に投資するのに比べると彼らの利ザヤ分、確実に損します。他の通貨建ても同様ですので、絶対に買ってはいけない資産です。

   というように、機関投資家の投資行動は、さすがに個人の投資リテラシーよりも進んでいて、超保守的だったゆうちょ銀行にしても為替のリスクを取らざるを得なくなっている、つまり外貨へのシフトは確実に進展しつつあるのです。

つづく

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大丈夫か日本財政 その8 財政破たん派、どこが間違っているのか 6

2016年04月21日 | 大丈夫か日本財政

  今日の市場は円安と株高がカップリングし、どうやら株式市場はひところの悲観一色からまだら模様くらいにはなってきているようです。その裏に日銀の追加緩和策への期待があるのかもしれません。しかし、だとすると、裏切られた時のリパーカッションには注意が必要でしょう。

   さて、ちょっとあいてしまった「大丈夫か日本財政」のシリーズに戻ります。「財政破たん派、どこが間違っているのか」は、4月7日が最後でした。おさらいしますと、

   

1. 赤字財政のファイナンスであり、財政支出に歯止めがなくなり、通貨供給過多からやがてハイパーインフレにつながるハズ

2. リスクを察知した格付け会社がダウングレードすると国と通貨の信用力が低下し、投資家が国債投資を回避するため金利が上昇ハズ

ところが、以下の2つの理由でそうはなっていないという解説をしました。

①  日本と世界、ともにカネ余り状況にあることが一つ

②  アメリカやユーロッパで中央銀行が自らの国債を大量に買い入れていてもインフレにつながらないため、それが先進国では当たり前の政策として世界的にリスクと認知されづらくなっている

  つまり欧米よりはるかに累積債務の大きな日本でも、中央銀行による財政ファイナンスが、禁じ手とみなされないで済んでいるということです。

  そして、

3. リスクを感じた投資家が資金を国外に逃避させる行動に出るハズ

そのため通貨価値が下落し、国債価格も下落するハズなのですが、日本ではなかなか起こりそうもありません。その理由は、日本人の多くが国際標準の投資リテラシーを持っていないためと思われます。

   ここまでが前回でした。

   国際分散投資をしない日本の個人の投資行動をよいことに、政府は毎年史上最大の予算を組み続け、国債発行により累積債務を増やし続けています。それはいつまでも続けていけるのでしょうか。

   あらためて一つ申し上げておきたいことがあります。それは、どこが間違っていたのかの分析は、あくまで「現時点までは」ということで、このままずっと間違ったままでいくということではありません。誤解のないように。

 

    日本では、個人のおカネの多くが銀行や郵貯、生保などに預けられています。ではその金融界の現状はいったどうなっているのでしょう。このところ彼らの行動に変化の兆しがあります。それはマイナス金利導入によりもたらされたと私は見ています。

   先日のマイナス金利の導入では実際の導入前にもかかわらず、発表しただけで銀行の貸し出しサイドの金利が低下しました。代表的には住宅ローン金利です。そして企業への貸し出し金利も低下しています。

   一方で預金に代表される銀行の調達サイドはもともとの金利が低いため、低下のしようがありません。例えば我々が普通預金に預けている金利も、もともと雀の涙程度だったものが、ついに肉眼では見えないくらいになったというだけです。すると当然利ザヤが縮小していきます。利ザヤの縮小は利益の低下に直結するため、銀行をはじめとする金融株が大きく下げました。2月以降の株安も、金融株の下落が一番ひどくなっていました。

   4月14日には三菱UFJの社長でさえ講演で以下のように述べています。ロイターからの引用です。

引用

「三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長は14日、東京都内で講演し、日銀のマイナス金利政策について『銀行業界にとって短期的には明らかにネガティブだ』と述べ、貸出金利の低下などにより、銀行収益に打撃を与えると懸念を表明した。

 日銀はマイナス金利による市場金利の低下で、企業の投資や個人の消費意欲が高まる効果を強調する。これに対し、平野社長は『ゼロ金利環境が長く続く日本では既に貸出金利が低水準のため、個人も企業も効果に懐疑的になっている』と反論。

 その上で、平野社長は『銀行はマイナス金利(による負担)を顧客に転嫁できないだろうから、利ざやはさらに縮小し、基礎体力低下をもたらすことになる』と指摘した。

 邦銀の経営トップが日銀の金融政策に疑問を呈するのは珍しい。」

引用終わり

   遂に日銀にとってはいわば身内のハズの最大手銀行すら日銀に反旗を翻しました。国債での運用をメインとしている郵貯や生保なども、今後は利ザヤの縮小に苦しむこと になります。その上もっと深刻なのは、日銀の国債爆食により、投資対象自体が枯渇してきたことです。国債が市場からなくなり、株式も下げ始めると、一体金融界はなんで食べて行こうとするのでしょうか。

   さらに、ロイターが本日発表した企業調査によると、なんと8割の企業がマイナス金利の拡大に反対しているという結果が出ています。

引用

「4月のロイター企業調査によると、日銀が導入したマイナス金利の拡大に8割近い企業が反対しており、導入自体が失敗との見方も目立った。

マイナス金利での資金調達を検討している企業は1割強にとどまり、資金調達コスト低下が設備投資計画に寄与するとはみていない企業が全体の3分の2を占めた。

マイナス金利政策は、導入から1カ月以上経過してむしろ評価が下がっている。」

引用終わり

  本来貸出金利の低下でメリットを受けるはずの企業までが、さらなるマイナス金利拡大に反対しているというのは、無視しえない結果です。私が繰り返し述べた「個人も企業もがちょうじゃない」ことが裏付けられました。

 つづく

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マイナス金利導入と前日銀審議委員の告白

2016年04月19日 | マイナス金利導入をどうみるか

   昨日の日経平均は驚くほど大きく下げ、今日は一転して大きく上昇。私の言う血圧計が血圧計らしい動きになっています。

  週末の一番の悪材料は、主要石油輸出国の会議にイランが出席せず、増産を抑制する合意ができず原油価格が下落したことと、熊本を中心とする地震によりサプライチェーンに支障が出ることだったようです。しかし昨日のNYの株価はアメリカが産油国であるにも関わらず原油価格下落に反応せず堅調で、日本株の暴落なども問題にしていませんでした。このためどうやら日本株の暴落は過剰反応だったとの反省から、今日の暴騰となったようです。

   私は何度も「原油価格の下落は石油消費国にとって懸念材料などではなく、喜ぶべきことだ」と言い続けています。アメリカはそれに気づいているようです。原油価格の下落を懸念しているのは株屋さんのアナリスト達で、彼らの目先の相場見通しが自ら株式相場を崩していると見ています。

 

   さて、今回はマイナス金利に関する日銀の考え方についてのアップデートです。

  マイナス金利の導入に反対した日銀審議委員が3月末に任期満了を迎えました。国際金融に詳しい白井さゆり氏です。慶応大学大学院を出て海外留学を経てIMFのエコノミストなどを経験し、慶応大学に教授として戻り、2011年に白川総裁のもとで日銀の審議委員に就任した方です。審議委員は日銀の政策決定会合で投票権を持つ重要な役割を担っています。

  3月に退任したばかりですが、先週4月14日にテレビ東京のモーニングサテライトに生出演し、マイナス金利導入に関してインタビューに応えていました。日銀の籍からはずれ、ある程度自由な立場でものが言えるようになったところでどのような発言をするのか、私は興味津々でインタビューを聞いていました。インタビュアーは最も重要なポイントにズバリと切り込んでいました。その質疑応答の要旨は以下のとおりです。

  マイナス金利導入に反対した理由は?  ・・・以下は私の解説です。

①   国債大量購入による緩和策が奏功していないと市場が判断するリスク・・・つまり量的緩和がダメなので、また低金利を強めることにした、ととらえられてしまう

②   金融機関に混乱が生じるリスク・・・国債の流動性が低下し、市場が混乱。銀行などの収益機会が国債を日銀に売る黒田プットに偏ってしまっている。つまり収益を金利収入や通常の債券売買に頼れなくなってしまった

  さらに白井氏が言っていたのは、

「本来なら当座預金金利は超短期金利の代表の一つであるため、そこにマイナス金利を導入したら短期金利が下がり、長期金利には大きく影響を与えずイールド・カーブがスティープに(傾斜がきつく)なるはずだと思っていたが、そうはならず長期金利が短期金利以上に下がり、そのことも金融機関の収益を奪うことになっている」という指摘でした。

こうした理由から、白井氏はマイナス金利のこのタイミングでの導入は成功とは思っていないようです。

インタビュアーがさらに、「導入後に市場が株安円高に動いたのは効果がなかったからではないか」と聞くと、イエスともノーとも明確には答えませんでしたが、以下のように言っています。

・銀行がマイナス金利に慣れるのはもうしばらくかかる

・国債の大量購入の有効性をしっかりと判断すべき

・出口はFRBと同じくまずはテーパリング、つまり量的緩和を停止し、その後に金利を上げる順序とすべき

・いったん導入してしまったマイナス金利を取り下げることはできない。何故ならそれは金融引き締めへの転換と判断されてしまうから

  これらの意味するところを林が勝手に判断すると、「マイナス金利導入以降の市場の混乱はまさにマイナス金利導入によるものだ。本当は量的緩和だけでもよかった」ということだと思います。

  しかし日銀政策を表立って批判することは日銀の権威を傷つけ、これまでの審議委員としても実績を自己否定してしまうため、婉曲な言い回しでの批判にならざるを得ないのでしょう。

  さて、私がもう一つ注目したのはクロちゃんのことです。同じ日に日銀総裁クロちゃんは、G20(蔵相・中銀総裁会議)参加のためアメリカを訪れていて、NYのコロンビア大学において講演を行っています。司会はコロンビア大学教授の伊藤隆俊氏でした。講演後の質問で「市場の混乱を招いたマイナス金利導入は間違いだったのではないか?」と問いかけられると、「そんなことはない。もしマイナス金利を導入しなかったら、もっと円高・株安になっていただろう」と成果を強調しました。司会は最近かなり政府寄りになってしまった伊藤隆俊氏のため、それ以上の追及はしませんでした。

   しかしちょっと待てよ、クロちゃん。あれでマイナス金利が奏功したと言い張るということは、それまでの日銀政策だともっとひどいことになっていたはず、つまり効果がなかったことを自ら認め、別の手を繰り出したんですよね、クロちゃん!

   しかも彼はいつものように「必要があればさらなるマイナス金利も躊躇なく実行する」と言っています。負けを認めない凶暴なるクロちゃんの凶暴さが、大事な金利という体温計を市場から奪い、流動性も奪っていくことに、徐々にちまたのアナリスト連中も危うさを感じ始めているようです。

   初めは株さえ上がれば文句を言わなかった従順なアナリストも、さすがに日銀政策のやり過ぎが株価下落につながったことで、やっと目を覚まし始めたのかもしれません。

   株価てこ入れにしか目が向いていないおねだり君アナリスト達は、日銀の量的緩和策やマイナス金利の限界に気が付きはじめ、次なる矛先をさがしはじめています。それはまたゾロ財政出動です。

   実態面でGDPのマイナス成長に熊本震災の影響が加わると、財政出動論議が本格化するに違いありません。そこに選挙もからんだ消費増税先送りがかぶれば、格付け会社に格好の格下げ材料を与えることになります。

  かつてバズーカ2号や、今回のマイナス金利導入に反対した白井審議委員が3月末で退任し、代わって大政翼賛会側のトヨタ出身者が審議委員になっています。

   そしてつい先ほど、6月に退任予定でこれまたマイナス金利に反対票を入れた石田氏に代わり、おねだり君代表、新生銀行の執行役員で為替アナリストの政井氏がノミネートされたというニュースが流れました。

   これで9人中4人いた邪魔者もわずか2人となり、今後は薄氷の票決もなく日銀の政策決定会合はクロちゃんの意のままになります。中央銀行の独立性などクソくらえと、財政出動を支えるキャッシュマシーンに成り下がった日銀の恐ろしさだけが増すことになりました。

以上

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