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日本国債のダウングレード

2015年09月26日 | ニュース・コメント

  日本国債格下げの話に戻ります。前回の記事を簡単にレビューしますと、

・日本国債の格付けが中国、韓国を下回り、シングルA格になった

・格付けにはソブリン・シーリングがある

・トヨタのような国際的企業は、日本ばかりに頼っていないため、ソブリン・シーリングを突き破り、国債より上位にいる

・邦銀は日本にどっぷりと浸かっているため、天井の下げに呼応して格下げになった

ということをお伝えしました。

  金融機関にとって格下げの意味はとてつもなく大きいものがあります。ブルームバーグのニュースではみずほの会長は「慌てることなく、冷静に受けとめている」と述べていますが、実は大慌てです。その理由をお伝えします。

  第一に、国際的な金融ビジネスを展開する銀行にとって、ダブルA格とシングルA格では、雲泥の差なのです。すでに邦銀は今回の格下げ前にシングルA格になっていました。銀行が日本で貸出をするときは、溜まり過ぎているほどの円預金を使えば済みます。しかし前回のシリーズ、M&Aでお伝えしたように日本の保険会社が海外の保険会社を買収する案件にドル融資を行う場合、数十億ドル単位の手持ちがないためドルを調達する必要があります。調達方法は、一般的にはスワップ取引で行います。スワップはちょっと面倒な話ですが、なるべく単純化しますのでみなさんも勉強してみてください。

  ドル円スワップを単純化して説明しますと、ドルを得るために例えば米銀に相当額の円を差し出し、その分のドルを得ます。そのドルをM&Aの買手に貸して金利を得るのです。そして貸出したドル元本の返済を受けたなら、そのドルを米銀に渡し、差し出していた円を戻してもらうのです。その間の受け取り金利も交換します。それがスワップ、つまり交換取引です。邦銀がドルを調達するのに何故ドルを借りずにスワップ取引を行うのか?  ここがスワップのキモです

  一つには、為替リスクを避けるためです。融資の借り手から最後にドルで返済を受けますが、それをスワップ相手に渡せば、相手は最初に差し出した円を返してくれます。為替変動にかかわらずです。もう一つはドルを米銀から借りるのではなく、円をいわば担保に差し出すことで、コストを下げることができるからです。金利が非常に低い中では、ほんの少しのコストでも金額が巨大なため、大きな負担になるのです。例えば5,000億円分の借り入れでコストが0.1%違えば、それは年に5億円にもなります。溜めに溜めた円を利用しない手はないのです。

  では邦銀の格下げはこうしたスワップ取引にどう影響するのか。スワップは契約相手が信用できるか否かが最も大切です。当初の元本の交換と将来の返済元本の交換の時間差がかなりあるため、信用がない相手とは契約しません。そして格下相手に対しては、足許を見てふっかける、つまり高いスプレッドを要求してきます。例えばお互いがシングルA格であれば、信用スプレッドはゼロ。今回の邦銀の格下げはシングルAの中での下げのため、要求されるのは0.1%程度かもしれません。それでも折角スワップで0.1%セーブできたコストが吐き出されてしまうのです。

  では過去に契約したスワップは格下げで影響を受けないのか。そうはいきません。スワップ契約には相手が格下げされると契約を巻き戻したり、スプレッドをもらえるという条項が入っている場合があるためです。以上がスワップの簡単な説明と、格下げによるコスト増の説明です。

  こうしたスワップ取引での影響の他に、直接調達での影響がもちろんあります。特に9月末のような四半期末はその影響が増幅されて出てきます。みなさんは最近、邦銀のドル資金調達コストが上昇しているというニュースをご存知でしょうか。ちょっと難しいのですが、9月17日のロイターニュースを引用しますので、スワップ市場でのジャパン・プレミアムの数字だけでも見てください。

>海外勢の円需要の低下を反映して、ドル/円スワップ1カ月物では、円投/ドル転に際してのジャパン・プレミアム(日米金利差からのかい離)が92.74 ベーシスポイント(bp)まで拡大。欧州危機が深刻化した2011年12月15日以来、3年9カ月ぶりの高水準となった。

  簡単に言いますと、日本勢はジャパン・プレミアムをなんと1%近く(92.74 ベーシスポイント)払わないとドル資金を調達できない状態になっているのです。なお、専門家の方であれば「じゃ、ベーシス・スワップは?」となりますが、それは難しすぎるので省略します。

  ここまで述べてきたことをまとめますと、最近日本勢はドル資金調達でジャパン・プレミアムをかなり払う状態になっている。それが今回の格下げでさらに膨らむ可能性が出てきた、ということです。そうした銀行の調達コストの上昇は、企業の借入コストを上昇させ、それが競争力に大きな影響を及ぼします。決して「慌てることなく冷静に」と言えるレベルではありません。

  最後に日本国の信用力についてです。機関投資家は債券投資をする際に、明確な基準を持っています。例えば3つのレーティングエージェンシーの中から少なくともダブルAを二つ持っている発行体の債券に限る、などと言う基準です。ダブルAの中で例えばAA+がAAフラットになってもさほどの影響はないのですが、ダブルがシングルになったとたん、投資をしてもらえないという大きな影響が出ます。

  今一度、S&Pのコメントを引用します。「日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い」。

  日本政府はこの言葉を真摯に受けとめるべきで、新3本の矢などと言っている暇はないのです。

おわり

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日本国債10年物、取引不成立

2015年09月25日 | 債券相場

  昨日、9月24日の国債市場で、最も流動性の高いはずの10年物新発債の取引が成立しないという異常事態が起こりました。体温計を壊した日銀のおかげです。

  以前にも申し上げましたが、日本では市場と言えば株式市場のため、債券のニュースは専門家以外気にする人がいませんので、普通のニュースにはなりません。しかしこれは大ごとです。債券市場の規模は株式の時価総額よりよほど大きな資本市場なのですから。もし米国債10年物でこの事態になったら、世界が震撼します。

  このニュースについて本日の日経新聞を引用します。

引用

長期金利の指標となる新発10年債の取引が成立しなかった。取引不成立は1年5か月ぶり。日銀が異次元緩和の一環として大量の国債を買い入れ続ける中、市場に出回る国債の不足が一段と深刻になっている。前回の14年4月の不成立は、13年ぶりの異例の事態だった。

引用終わり

  この異常事態に政府も日銀も何もコメントしません。

  もっとも今日のクロちゃんは8月の物価統計が発表され、生鮮食品を除く総合指数がマイナスに沈んだので、顔を見せられないのでしょう(笑)。甘利経済相が、「変動の激しい食料とエネルギーを除けば0.8%上昇している」とフォローを入れました。

  じゃ、物価に反応する金利はどう動いたのか。きのうは----なので比較できません(笑いごとじゃない)。

  一方、アベチャンはオリジナル3本の矢がどこかに飛んで行ってしまったので、新しい矢を放ちました。きっと私が大声で、

It’s the Economy, Stupid!

と言ったのが聞こえたのか(笑)、はたまたヤバイ安保法制から目を逸らさせるためか、「新3本の矢を用意しました」とのこと。

  今度はどうやら「新3本の矢、私は騙されない!」シリーズを書く必要がありますね(笑)。

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日本国債のダウングレード

2015年09月23日 | ニュース・コメント

   連休中の天気はとても安定していましたね。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。私は両親の墓参りと家内の実家を訪問したくらいで、あとはいつもどおりですがたくさん運動をしました。この時期、自転車での遠出は最高です。世田谷区を縦断して流れる野川のサイクリングコースを、深大寺まで遡るコースで往復2時間弱。快適なサイクリングでした。

   アベチャンに対して9月7日に私は、

It’s the Economy, Stupid!

とコメントしました。国会が大荒れの最中、16日にアメリカの格付け機関S&Pが日本国債を静かに格下げしています。かつてのトリプルAからダブルAを経て、遂にシングルA格まで落ちました。韓国や中国よりも下になりました。まずロイターの記事を引用します。

  「格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は、日本のソブリン格付けを「AA─/A─1+」から「A+/A─1」に引き下げると発表した。S&Pでは引き下げの理由について、日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い、としている。

  S&Pは、日本の強い 対外ポジションと金融政策決定が、ソブリンの信用力のファンダメンタルズを支えているが、日本の財政状況が極めて脆弱であることは、信用指標における重大な弱みだと指摘。さらに、日銀の国債購入が政府の資金調達費用を低く抑えているが、が金融政策を正常化すれば、金利が上昇する可能性があり、日本の債務の借り換え率(短期債務を含む)は世界で最も高い水準に達することになるとしている。」

引用終わり

  この格下げに対して国債市場の反応はなしでした。その理由は私がかねてから指摘しているように日銀が日本という患者の金利という体温計を壊してしまったからです。いくら格下げしようが日銀が国債を買いまくって金利上昇を阻んでいるのです。そのため患者は予想もできない突然死に襲われる可能性が高まります。なお、ムーディーズは昨年末、安倍政権の消費増税先延ばしをもってすでに日本国債をダブルA格からシングルA格にすでに下げています。

  繰り返しですがS&Pは「日本経済がソブリンの信用力を支える効果が過去3、4年間低下しており、この傾向を今後2、3年で好転させる可能性は低い」と言っています。これは過去3年のアベノミクスは全く効果を及ぼさず、今後2-3年もダメ」と言っているのと同じです。

   とまあ、この程度のことはみなさんもニュースなどでご承知のことと思います。私は債券の専門家なので、そこから一歩踏み込み警鐘を鳴らします。

   ソブリン・シーリングという言葉をご存知の方もいらっしゃるでしょう。一般に信用格付けは国(ソブリン)が一番高く、その国の企業などは国よりも上位には格付けられないということを指します。つまり、主に日本で事業をしていれば、国が信用力を下げると企業なども影響を受け下げられるのです。

   国債の格下げの翌日、S&Pは日本の金融機関の格付けを下げました。ブルームバーグを引用します。

「米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズは17日夕、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループとそれぞれ傘下銀行のほか、三井住友信託銀行、農林中央金庫などの格付けを引き下げたと発表した。格下げは1段階。S&Pによる前日の日本国債の格下げを受けたもの。

みずほFG、三井住友Fはそれぞれ「A」から「A-」に引き下げた。格付見通 しは「安定的」とした。S&Pでは三菱UFJフィナンシャル・グループについて、国債の格下げに伴う直接の影響はないとしている。

全国銀行協会の佐藤康博会長(みずほフィナンシャルグループ社長)は17日の会見で、みずほを含む日本の金融機関のS&Pによる格下げについて、「国債とリンクしてオートマチックに下がるもの。慌てることなく冷静に受け止めている」と述べた。 」

引用終わり

   みずほ会長の言うとおり、慌てる必要は本当にないのでしょうか。

   さて、金融ではなくインダストリーの代表選手であるトヨタ自動車の格付けはどうなっているでしょう。実は日本国債がムーディーズ、S&PともにシングルA格になっているにも関わらず、ダブルA格を保っています(Aa3、AA-)。銀行との差はどこから来るかと申しますと、邦銀のビジネスの大半は国内に頼っているのに対して、トヨタは国際展開を十分にしているため、国内市場のインパクトが相対的に小さいからです。つまりソブリン・シーリングと言っても最近は一概に全企業が影響を受けるのではなく、実質的影響度を計って格付けをしているということです。

   では金融機関の格下げの意味を考えます。金融機関はもし金融危機が起こると、アメリカがそうだったように政府に支援を仰ぐ可能性が大です。みなさんの預金も預金保険機構による実質政府保証がありますが、銀行界全体も金融システムとして考えると明示的にはなっていませんが、実質政府保証です。その政府の信用力が落ちれば、当然金融機関の信用力もその分落ちます。

  もっと見たいけど、今回はここまで。さらに大事な分析は次回をお楽しみにー(笑)。

つづく

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バブルの足音 その2

2015年09月19日 | M&A

   日本では嵐のような国会騒動がアベチャンの勝利に終わり、一件落着となりました。私はサイバーサロンというところに、以下のような主旨の投稿をしています。

タイトル「安保法制、私は騙されない」

  集団安保賛成派の主旨は、「中国や北朝鮮のような脅威が迫っているのに、のんびり憲法談義をしている暇はない」というものです。

私は賛成派の人達に以下の問答を投げかけました。

林;集団的自衛権が発効したら、だれと一緒に日本を守るのか

回答;世界最強のアメリカだ

林;だったら今の日米安保と同じではないのか

回答;・・・・・

  どなたからも有効な回答はもらっていません。あるわけもないのです。タイトルである「私は騙されない」の主旨は、迫りくる脅威は日米安保で事足りるし、集団的安保といってもアメリカと協定を結ぶなら同じだ。賛成派は日米安保を忘れて政府の誘導に乗ってしまっている。そんなことに私は騙されたくないのです。

  そもそも日米安保は日本一国で国を守る個別的自衛権の行使ではなく、集団的自衛権行使の変形です。「変形」と加えたのは、普通は相互に義務が生じるのですが、日本だけが守ってもらう片務協定だからです。それが、「日本が存続の危機にあるとき」という条件付きながら、今度からはアメリカを守る必要が生じるのです。そのどちらが抑止力として有効かは、判断が付きかねます。

  問題は、そのような50歩100歩のことで、日本が法治国家であることを放棄することです。私は法治国家に暮していたい。

  どうしても必要なら、日米安保が守っていてくれるのですから、正々堂々憲法をじっくりと見直すべきです。もちろん自衛隊も憲法で認知すべきだと私は思っています。今後憲法学者を中心に違憲訴訟を起こすことにするそうですので、それをじっくり見守りましょう。


  さて、バブルとM&Aの話題に戻ります。

  前回は保険業界のあきれた横並び海外M&Aを批判しました。一方、もっと笑える買収もあります。横並び買収や高値買収を論評する立場にいるはずの報道機関による買収の件です。世界で大きな批判を受けたのは、日経新聞による英フィナンシャル・タイムズの買収です。

  アメリカのブルームバーグ社の記事を引用します。

  「日経がFTグループの企業価値を2014年の売上高の約2.5倍(1,600億円)と評価しているのに対し、ワシントン・ポストは売上高を60%下回る価格で(アマゾンの)ベゾス氏に売却 された。FTの買収額はFTの営業利益の35倍に達するが、ベゾス氏が支払ったのは、EBITDA(利払い・ 税金・減価償却・償却控除前利益)の17倍にすぎない。 」

  ブルームバーグは二つの指標から日経の買収を相当な割高と批判しています。一つは売上高と価格の比較で日経の買収額はFTの売上の2.5倍、アマゾンのベゾス氏の買収額は0.4倍と6倍の開き。もう一つは営業利益額の倍率で日経は35倍も払い、ベゾス氏は17倍と2倍の開きがある。海外買収をはやし立てる日経新聞が自らも模範を示したようですが(笑)、むしろこれぞ高値買収の見本と世界では笑われているのです。

  日経新聞は理由を「FTのデジタル・ビジネスを学びとるため」と説明しています。日本とイギリスにあっては本社や印刷工場やデリバリー・システムを統合して合理化するなどということはできません。デジタル・ビジネスのノウハウに1,600億円も払う必要はあるのか。世界一流のコンサルティング会社に100分の1の16億円も払えば、かなり高度なノウハウくらい簡単に手に入ると思います。この買収、文字通りの「高い授業料を払う」ことになりそうです。

  M&Aは失敗ばかりでなく成功例もあり、それにより大きく成長した企業があります。典型例は永守氏率いる日本電産です。優秀な技術を持ちながら経営に失敗した企業を買収し再生する形のM&Aで成長してきました。しかもほとんど失敗がありません。

  LIXILはもともとトステム、イナックス、新日軽、サンウエーブの合併企業から出発し、世界的ブランドのグローエやアメリカン・スタンダード社などを買収し、発展してきました。しかしここに来て買収企業が破綻し、今けつまづき中になっています。今後円安下での海外案件は、黙っていても以前の1.5倍の買収額になるので、要注意です。

  最後にやはりバブルの足音の例として、どうかと思われることが3つありますので、指摘しておきます。

その1.日本のメガバンクによる海外融資拡大

保険会社と同じく、国内市場の成長性不足を補う目的で、どんどん海外融資をふやしてきました。それも特に新興国に集中しています。その結果がどうなるか、まだ結論には至っていませんが、FRBの引き締めが1年以上前から見えていた中での融資拡大です。

その2.商社のエネルギー開発

すでに失敗と結論が出てしまっています。大手がこぞって海外に巨額の投資を行いました。以前シェールガス・オイルの話の中で、住友商事の巨額損失について指摘しましたが、その他の大手商社も今回のエネルギー価格の暴落で同じ様に深手を負っています。

その3.日本の大都市不動産投資

先週発表された全国地価調査で、都市部の上昇を報道ははやし立てていますが、すでにJ-REITのインデックスが株よりも早くピークを打ち、下落基調に入っています。著書でも指摘しましたが、世田谷のマンションの11階にある私の家の窓から見える都心方面の空はスカスカで、供給力余力は無限です。うちの周りの大きな住宅はどんどん取り壊され、マンションと老人ホームに変わりつつありますが、それとてまだまだいくらでも開発可能です。

  以上のようにバブルが各所で散見され、その一部がはじけ始めていることを、今後も注意して見て行きましょう。

  次回は、Owlsさんからご指摘のあった日本国債の格下げに関して書く予定です。

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バブルの足音 その1

2015年09月16日 | M&A

  FRBはどう動くのでしょうか。外野の騒々しさは近年にないほどになっています。コンセンサスを作り過ぎると、裏を掻かれますので要注意です。株式投資をされている方は大変そうですね。私はのんびりと外野のフェンスの外で眺めているような風情ですが、今回利上げがなくてもいずれは上げるでしょうから、いつ上げても大差はないように思うからです。一つだけ気になるのは、IMFが昨日も本気で「やめてくれ!」と言っていることです。理由は一つ、彼らは新興国の破綻による自分達の負担が生じるのを面倒くさがっているためです。

  さて、今日の話題はバブルの足音です。

  私の手元に、1冊のパンフレットがあります。ページ数16ページほどの小ぶりの冊子です。そこに驚愕の数字が載っていました。冊子はゴルフクラブのシャフトメーカーのセブンドリーマーズ・ラボラトリーズのパンフレットです。そのシャフト1本の価格、最高級の「プレミアム」がなんと1,200万円です。1万2千ではなく、12万でもなく、120万でもなく、1,200万円です!もちろん数10万円台のものもあるので、アイキャッチな価格としてつけたとは思いますが、最高クラスでなくとも普通の10倍ー30倍くらいはします。

  宣伝に顔を出している有名人は2人、ゴルフ好きのプロ野球解説者古田敦也氏、日本女子プロゴルフ協会元会長樋口久子氏、顔も名前も出ていませんがそのご主人、もちろんプロゴルファー松井功氏です。樋口氏がインタビューに応え、このシャフトを使用た主人の飛距離が20ヤードも延びたと言っています。古田氏は「飛んで曲がらない」と言っていますが、具体的数字は出ていません。

  私はこうした宣伝文句には騙されないたちなので、あまりクラブをとっかえひっかえしません。それでもキャリア30年以上の間にドライバーは3-4年に一度程度、つまり10回は替えています。その度に聞く謳い文句は何故か「10ヤード飛ぶ」。さすがに20ヤード飛ぶと言う話は聞いたことはありません。ボールも同様で、私はボールにはまったくこだわらないので拾ったボールで十分なのですが、友人ゴルファー達は1-2年に1回は「飛んで曲がらない新製品」に変更しています。そして謳い文句はクラブと同様です。それらを単純に累積すると私のドライバーの飛距離はとっくにプロにも勝る350ヤードを超えているはずですが、実際の伸びは悲しいことにわずか30年以上かかって20~30ヤード程度です。

  最近はさすがにクラブもボールも技術の限界を迎えたため、具体的に「10ヤード伸びる」という数字を表示しなくなりました。良心がとがめるのか、誇大広告との認定を避けるのか、さだかではありません。

  ところがこのシャフト、いろいろ技術の御託はならべていますが、長さわずか1mちょっと、50g-70gのシャフトが1,200万円。それだけカネを払えば「20ヤード伸びる」と言っているのです。いや、言わせているのです。それも本人ではなく、夫が飛距離を伸ばしたのをこの目で見た、と書いてあります。

  誇大か否かは今回の議論の的ではなく、1,200万円というシャフトの価格のバブリー具合です。最近ちょくちょく、おやバブっているな、と思わせるようなことに出会います。超豪華列車の旅、超豪華ホテルや旅館での宿泊、超豪華タワーマンションなどです。一般庶民とは別世界、一部の人達の話ですから私はこれをもってバブルが再来するとは思っていません。せいぜいこうした一時のあだ花に乗ると、ろくなことはないという警鐘だけならしておきます。

  長くなりましたが、ここまでは前置きです。本題は実は日本の企業や銀行によるM&Aバブルです。私は最近のM&A指向の強さを、流行りモノに手を出すバブルだと見ています。以下に今年になって突然目立ち始めた日本の保険会社の買収例だけを挙げます。直近の例からさかのぼりますと、

9月 三井住友海上⇒英損保 アムリン6,420億円

8月 日本生命⇒三井生命 3,300億円

8月 住友生命⇒米生保 シメトラファイナンシャル 4,666億円

7月 明治安田生命⇒米生保 スタンコープ 6,250億円

6月 東京海上⇒米損保HCCインシュアランスHD 9,400億円

2月 第一生命⇒米生保 プロテクティブ 5,750億円

  まずなんといってもこの華々しい横並びにあきれます。そして価格も数千億円台にそろっていますし、ニッセイを除くと海外の保険会社ばかりです。かつてのバブル時代にも、およそ横並びで投資をしたものについては後で一斉に火傷を負ったのに、全く懲りていないとしか思えません。各社は「人口減少の日本では成長機会に乏しい」という同じ理屈をつけ、「でもうちのM&Aだけは違う」とへ理屈をこねているのでしょう。しかし実は「競合他社も検討していますよ」と投資銀行に焚きつけられ手を出しているに違いありません。人口減少など30年前にわかっていたはずです。

  買収タイミングはどうかというと、円がこれでもかと安くなってからだし、アメリカ・イギリスの株価は直近の値下がりを加味しても高値圏にいます。どう見ても割高な買収で、これはもう横並び意識による買収以外の何物でもないのです。

つづく

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