ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

中国の不動産開発産業と経済のゆくえ

2023年08月20日 | 中国問題

 恒大集団が実質破綻し、アメリカでチャプター11の海外企業向け版であるチャプター15を申請しました。この15の申請とは11と同じで、一応駆け込み寺として逃げ込み、債権者の追及を逃れ、あわよくば再生しようという方法です。しかし中国の不動産市況は悪化の一途をたどっていて、とても再生の見込みなどありません。

 私は8月1日の投稿、「奢れる中国は久しからず」で行き過ぎた不動産投資は中国衰退の引き金になりうるという見解を示しました。日本のバブル崩壊とその後の長期低迷になぞらえています。人口減少も日本の踏んだ轍と同様です。

 すでにこの恒大集団は2021年12月にドル建て債券のデフォルトを起こし、2022年3月には株式の売買も停止されていたため、アメリカではやっぱり来るものが来たかかという程度の受けとめをされています。集団の負債総額はなんと48兆円、けた違いの大きさです。

 こうなると金融市場では次はどこかという犯人探しが続き、日本と同様バブル崩壊への道を歩み始めます。中国で最大規模の不動産開発会社「碧桂園」は、発行したドル建て社債2本(総額2,250万ドル)の保有者に対して、8月7日が期限だった利払いを履行できませんでした。30日間の猶予期間までに支払いができなければ、9月にデフォルトになります。金融市場は既に、碧桂園社債のデフォルトや大規模な債務再編を織り込んでいるといわれていて、同社の人民元建て債券は14日から売買停止、米ドル建て債券の価格は大幅に下落し、流通利回りは実に3,000%を超えています。もちろん株式時価総額も、ピーク時の2018年1月から9割以上減少しています。そして負債総額は恒大集団よりすこし少ないものの、未完成プロジェクトの規模は恒大集団のなんと4倍。デフォルトのマグニチュードは恒大より大きいものがあります。

 すでに各地で大問題になっている完成しないマンション・鬼城問題も相まって、不動産の売れ行きは悪化の一途をたどり、家計の消費にも悪影響を与えています。このため度を超えたオマケ付き販売などが横行しています。たとえばマンション一軒買ったら、2軒目はタダとか、リゾートマンションを無料であげるとかです。完全に末期症状ですね。

 

 中国政府はこうした大手不動産開発企業の状況悪化のニュースは、極力報道しないように規制しているそうです。すでに多くの国民は知ってはいても、さらなる大破綻ニュースは本格的動揺を招くため規制しているのだと思われます。実に姑息ですね。しかし一方で中国株式市場や通貨元の下落は隠しようがありません。

 そして中国の深刻な経済状況は失業者の増加にも表れています。しかし「臭い物にはフタ」の中国政府が、若者の失業率発表を取りやめると発表。それがかえって疑心暗鬼を招いています。今朝のTV報道で中国の専門家である東大の阿古教授が次のようにおっしゃっていました。「16歳から24歳の若者の失業率は21%と報道されていますが、中国の専門家の話では実際には4割以上に達しているそうです。乖離の理由は求職活動をしない相当数の寝そべり族の若者が、失業者にカウントされていないから」とのこと。はたして今後政府が公表する若者の失業率が大きくなるか小さくなるか、見ものですね。

 

 習近平というオレ様独裁者の経済運営は際どい局面に達しているので、要注意です。そのことが新たな危機まで発展すると、世界経済へのインパクトは非常に大きいものがあります。目くらましのための戦争でも起こさないといいのですが。

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

奢れる中国、久しからず

2023年08月01日 | 中国問題

  なでしこジャパン、やりましね。4対0とは驚きの結果です。今朝のBS世界のニュースのスペイン放送で、選手たちはうなだれ「日本は少ないチャンスをすべてものにし、我々は40回もの攻撃でシュートを枠内に打てたのは2回しかなかった。完敗です」と語っていました。この後も楽しみですね。

ガンバレ、なでしこ!

 

  さて、北朝鮮の「戦勝記念日」に、世界の独裁国家、ロシアと中国の代表が集っていましたね。もともと朝鮮半島の南端釜山まで南を追い込んだはずが逆襲を受け、平壌の手前38度線まで押し戻され、しかたなく結んだ休戦協定に過ぎないのに、戦勝記念日だと言い張る金正恩を礼賛するために集まっていました。3国とも国民を国家という名の収容所に閉じ込める世界最悪の国家です。我々は民主的国家に生まれて本当によかったですね。

 その盟主であるアメリカでは強烈な利上げが続いたにもかかわらず、今後不況は避けられソフト・ランディングどころかノーラ・ンディングの可能性すら出てきたという楽観的見方が支配的になりつつあります。そのことからか、米国債長期金利は高止まりドルも高いままですが、投資チャンスは継続しています。

 

 一方対抗馬であるはずの中国は不動産バブルの終焉、人口減少、若者の失業で苦しみ始め、さらに習近平による有力ハイテク企業への規制強化などの強権政治で、人為的に活力を削ぐという愚策も犯しています。すでに世界の有力研究機関などは、これまで予測されていた「GDPでいずれアメリカを追い越す」という見通しを変更。このまま成長しても「アメリカを追い越すことはない」という予測に変わっています。永久政権を手に入れたはずの習近平ですが、無風とは決して言えない状況が生まれています。

 

 では今、中国国内で一番関心の高い不動産業界のすさまじい崩壊ぶりを見ておきましょう。まず22年10月のYOMIURIニュースから。

引用

業界上位100社が2022年1~9月に販売したマンションの累計成約額は約4兆6700億元(約95兆3978億円)と、前年同期比45.4%の大幅な落ち込みを記録した。販売不振は業界大手も例外ではない。

引用終わり

前年比半減とは、悲惨な末路です。また23年7月18日の同ニュースでは巨大不動産ディベロッパー中国恒大集団の最近の実質破綻について以下のように報道しています。

引用

【北京】経営危機に陥っている中国不動産大手の中国恒大集団は17日、公表を延期していた2021年と22年の12月期決算をまとめて発表した。最終利益は2年連続の赤字となり、赤字額は2年分で計約5800億元(約11・2兆円)に上った。

 22年12月期の負債総額は2兆4374億元(約47兆円)に達し、債務超過に転落した模様だ。中国の国内総生産(GDP)の2%に相当する規模となる。20年12月期の最終利益は80億元の黒字だったが、23年1月まで続いた「ゼロコロナ政策」や、政府による不動産融資の総量規制の影響で業績が大きく悪化した。

 開発中や販売目的で保有している不動産の評価損のほか、金融資産の価格下落による損失も広がった。不動産販売も落ち込み、22年12月期の売上高は2300億元と、20年12月期の半分以下に縮小した。

引用終わり

 

  これまで粉飾を隠そうとして決算すら発表しなかったが隠しきれず、2年分まとめた結果が11兆円の赤字とは、ひどいもんですね。これは恒大集団に限った問題ではなく、大手・中小不動産企業は軒並み崩壊の危機に立たされています。そして政府の最大の懸念は、建設途中で放置されたままのいわゆる「鬼城」問題です。

  中国では完成前の物件に対して頭金を入れたり、全額を入れて家を購入するのが常識でしたが、最近はそうした販売方法を違法とする規制が発動。そのため資金繰りに窮するディベロッパーが続出しているのです。途中で工事が止まってしまって困っている人たちの数は150万人ほどだと推定されています。要は自転車操業が不可能になったため、巨大債務のリスクが顕在化したということで、もちろんこの先は日本のバブル崩壊と同じ道を歩むことになります。銀行貸し付けや社債のデフォルトが目白押しになります。すでに格付け会社は不動産大手のダウングレードを始めていて、日本政府の長すぎる名前の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もドル債で100億円の損失見込みになっています。GPIFも米国債だけにしておけばいいのにね。

7月20日の ロイター電です。

引用

 格付け会社S&Pグローバルは20日、中国の不動産大手、大連万達集団(ワンダ・グループ)の傘下企業について、債務を返済できないリスクが高まったとして格付けを引き下げた。格下げは今週2回目。不動産サービス会社の大連万達商業管理グループは20日に2200万ドルの利払いを行い、23日には4億ドルの社債を償還する必要がある。猶予は10日間。S&Pグローバルは、親会社である大連万達集団の資産売却は今のところ大連万達商業管理を支えるには不十分と指摘。同社の債務格付けを「CCC」に引き下げたS&Pグローバルは17日にも「BBプラス」から「BBマイナス」に格下げしている。

引用終わり

 

 では不動産業界の崩壊が中国経済全体にどの程度のインパクトを持つのか、およその景色を見ておきましょう。

不動産及び関連産業のGDPに占める割合は30%~40%と推定されています。信じられないほどの大きさです。ちなみに日本ではバブル期でもそれほどの構成比はなく、1割程度でした。­

  そしてより深刻なのは地方政府の財政です。これは今に始まったことではないのですが、中国の地方政府の歳入のうち約40%は不動産業者への土地売却収入だと言われています。厳密には中国は民間人の土地保有を認めていませんから、長期の使用権売買となります。元々「農地は農民の共同所有、その他は地方を含め国家所有」というのが国のルールです。特に地方政府の財政は土地の売却に大きく依存しています。このところのディベロッパーの大崩壊と鬼城の増加は、今後家を買う人々のニーズに冷や水を掛けています。150万人もが鬼城でスタックしていれば、買う気になんぞとてもなれませんよね。これが中国地方政府の息の根を止めかねません。

 

  では悩み多い中国の不動産以外の要素を見ておきましょう。政府のもう一つの大きな悩みは若者の失業率の高さです。16歳~24歳の失業率は20%に達し、改善の兆しは全くありません。過酷な受験戦争を勝ち抜いてどれほどよい大学を出たところで就職すらできない。先進国、途上国を問わず、これだけの失業率の高さは政権転覆のモメンタムとなりえる数字です。そうなっていないのはもちろん中国が監視社会であり、少しでも怪しい動きがあると強権で抑え込むため、若者も表立った反抗などできません。

  では不満を持った若者はどうするのか?「寝そべり族」になるしかないのです。中国語では「躺平」(Tǎng píng )(寝そべる)です。ひたすら親の家に寄生して寝そべる。こうした言葉が一般化するほど中国の若者問題は深刻で、この連中には天安門に集まる気力すらないでしょう。そして少子化問題解決のため若者を結婚させようにも、それ以前の問題があるとしか思えません。そして人口減少のスピードは日本より深刻になること必定です。

  今年5月に発表された21年の世界212カ国の合計特殊出生率のランキングを下から見ていきますと、

最下位 212位香港 0.77

    211位韓国 0.81

    208位台湾 0.98

    202位中国 1.16

    197位日本 1.30

  

  中国系が多く、なんというひどい地域的偏りでしょう。このランキングはとりもなおさず、「若者にとっての不幸な国ランキング」のような気がしますね。中国は特に様々な観点からこの先お先真っ暗ということを頭に入れておきましょう。

 

  最近中国はアメリカばかりでなく日本にも貿易制限を始めています。特に生鮮食料品は原発とは全く関係のないものまで税関手続きを複雑なものに変更し、通関時間を遅らせると言う暴挙に出ています。生産者の方のご苦労は大変なものがあると思いますが、頑張ってください。この物価高の中です。中国向け商品の仕向け地を日本にしてちょっとだけ安売りをしていただけたら、みんなで大いに支援買いをしましょう。

「奢れる中国、久しからず」でした。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白紙革命の勃発

2022年11月29日 | 中国問題

   先日「オレ様独裁者たちのたそがれ」のタイトルで、10月の共産党大会が習近平の絶頂だと投稿しました。今回の若者を中心とする反乱は、党大会直後の習近平にとってはまさかの反乱だったでしょう。

  直接的にはウルムチの火災による死亡事故から始まり、その原因とされるゼロコロナ政策への反対運動でしたが、それはあくまでマッチを擦った小火でしかなく、都市部ではすでに「習近平は退陣しろ」、「共産党は退陣しろ」から、「自由が欲しい」という大火に変質しています。これまでに積み上がった若者の憤まんのはけ口になっているようです。しかも週末だけと思いきや、週明け月曜日も収まらず、地方の大都市や多くの大学に飛び火しました。今日、11月29日はさすがに若干収まっているようです。

  折角なのでこの大きな動きを彼らの掲げるA4の白紙にちなみ「白紙革命」と命名してあげましょう。と書きながら「白紙革命」をネットで検索してみたら、すでに今回の革命的な運動の名前として認知され始めていました。なお、白色革命という言葉もありえますが、それは60年代すでにイランのパーレビ国王による西欧化の運動で使われていますので、却下。

 

  果たしてこの動きがどれほど拡大するのか、独裁政権を倒すほどになるのか、勝手に想像してみましょう。すでに大きなうねりとなりつつある運動ですが、政権側による完全制圧はけっこう難しいものがありそうです。

  というのは、89年6月の天安門広場での騒動であれば、参加者の学生たちを特定の場所に追い詰め殲滅すれば済みましたが、今回はそうはいきません。全国に分散しており、多くの大学などでも散発的に発生。しかも通信手段のない89年と違い、通信手段は格段に発達しています。もちろん当局はSNSでの連絡網は徹底的に弾圧するでしょう。

 

  中国はそもそも94年のインターネット開通から 2 年ほどでサイトや発言を検閲し取り締まる法律が作られ、さらに 2 年後の 1998 年には「金盾(じゅん)工程」と呼ばれるシステムが公安部によって発案され、2000年代にはほぼ実施に移されています。

  もちろん我々が使用しているようなアメリカを主な発信地とするSNSはすべて禁止され、中国に入っていたグーグルも撤退。中国国内から海外のSNSにアクセスすることもできません。国内にはそれらに相当するSNSが多数ありますが、すべて監視下に置かれていますので、危険とみなされる発言はすべて排除されます。

  その上、金盾工程はさらに精緻になり、公安当局だけでなくあらゆる公的機関が検閲し、最近は人海戦術からAIによる検閲へと自動化が進んでいます。

 

  それでも人々は個人のメールや音声電話などを通じて交信は可能で、活動家側も89年とは格段に優れた通信手段を持っています。しかしそうした個人間の交信すら傍受され監視されているため、安全かつ自由な情報交換はできないのが現実です。それをかいくぐるのに中国のSNSを使用した仲間同志の符牒や暗号による交信手段もあり、活発に使用されているようです。

  今回の白色革命は共産党と習近平に表立って反対をするという、いままでにないレベルに達しているため、党内部は緊迫し混乱しているに違いないと思われます。昨日、政府の広報担当官が会見で質問への回答に詰まり、3分プラス2分も黙ってしまったことがそれを象徴しています。一度こうした主張を表立って叫び始めた若者は、簡単に引っ込むことはないでしょう。

 

  89年6月4日の天安門事件のわずか4か月後、東ドイツでも同じような運動が起こりました。もちろんその時ドイツでもシュタージによる統制は厳しく、個人は通信手段など全く持っていませんでした。若者たちは毎週同じ曜日に集合場所を決めて自由を叫び始め、それが大きなうねりになり、同年11月9日遂にベルリンの壁の崩壊に至ったのです。

 

  やればできる。本当に大きなうねりを止めるのはどんな強権政府であっても難しく、いったん人心が離れれば、習近平でもお手上げ状態になる可能性はあると私は見ています。

 

  以上、勝手なシナリオを描いてみました。

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国は世界制覇できるか、その2.いつかきたみち

2021年12月27日 | 中国問題

 このみちーは、いつかきたみーち。

そうだよー、日本がたどった道だ。

  前回は中国がすでに一人当たり国民所得1万ドルの壁を難なく突破し、1万4千ドルに達していることをお知らせしました。日本も先進国の仲間入りするまでひたすら高度成長を貫き、平均所得1万ドルの壁もなんなく突破。しかしその後の日本は不動産や株式市場の崩壊に見舞われてスローダウンしました。日本と同様、中国でも巨大不動産企業恒大集団が実質的に崩壊。それを国家が介入することで何とか大崩壊に至らないよう支えているのが現状です。その他でも地方の大きな不動産開発業者の倒産が続いています。

  日本はバブル崩壊後の90年代後半にタイミングを合わせるようにして団塊ジュニアの労働参加がピークを迎え、労働人口の増加が止まりました。いわゆる人口のボーナスがなくなり、逆に人口オーナスと言われる足を引っ張る状態になり成長率の低下に見舞われました。

  今の中国も同じみちをたどりつつあります。日経新聞の5月21日の記事を引用しますと、

「人口全体の7割を占める15~64歳の生産年齢人口は20年に9億6776万人と、ピークの13年から3.8%減った。 中国は働き手世代の減少が成長の足かせとなる「人口オーナス」に入っている。」

  中国も日本同様労働人口減少のため経済成長率が低下し始めています。5年ごとに平均成長率を見ますと、2015年までの2桁成長から明らかにスローダウンを始めています。

2001-5年  9,8%

 06-10年 11.3%

 11-15年 11.1%

 16-19年  6.6%  

20年はコロナの影響が大きいため除き、それまでの4年平均です。

  中国の労働人口減少は今後一人っ子政策が本格的に影響を及ぼすため、長期にわたり継続しますし、一人っ子政策が解除された後も教育費などの高騰で少子化がますます進行し、回復の目途は立っていません。

  人口問題の他に日本と大きく異なるのは中国の所得格差がとてつもなく大きく、それが今後全体の足をひっぱることです。80年代の半ばに鄧小平が「先に豊かになれるものから豊かになる」という「先富論」を唱え、そのまま突き進んできましたが、習近平政府は貧富の格差が社会不安を生み出しつつあることに気づき、今年10月の六中全会で「共同富裕論」を唱え方向転換しました。

  では中国の貧富の格差がどれほどのものか見てみましょう。所得格差がどの程度かを国際的に比較するために「ジニ係数」という統計処理方法があります。私はこの係数は役立たずだと思っています。各国の係数を示しますと、

中国;0.47  アメリカ;0.39 日本;0.33

これを見せられても「なんのこっちゃ」、でしかありません。

  むしろ中国首脳の次の言葉がよほど事実を把握しやすいと思います。すでに国民の平均所得が1万4千ドルだと記しました。平均月収に直すと13万円程度です。しかし李克強首相は20年5月に「毎月の収入が1000人民元程度(日本円で1万7000円程度)の人がまだ6億人いる」と述べています。年収に直すと1,800ドルで、平均値の14,000千ドルのわずか13%しか得ていません。人口の45%がたったそれだけの所得にも関わらず平均が14,000ドルになるためには、高所得層の所得がとてつもなく巨額だからにちがいありません。

  共同富裕を目指すのはいいのですが、今は「共同貧困」そのものです。一方で昨今の中国国内ニュースでは、ネット上で活躍するインフルエンサーの女の子に政府が追徴金を含め240億円の支払いを命じました。それを12月21日のNHKニュースから引用しますと、

「黄薇(こうび)氏はおととしから去年にかけてうその申告を行って所得を隠すなどし、およそ6億4300万人民元、日本円で110億円余りを脱税していました。税務当局は黄氏に対し、追徴課税や罰金などとしておよそ13億4100万人民元、日本円でおよそ240億円の支払いを命じたということです。」

  この額、巨額過ぎて把握しかねるほどです。いったい所得の総額はいくらなのでしょうか。その他にも10億円以上の罰金などの支払い命令を受けたインフルエンサーや女優などの摘発が進んでいます。

  これらのニュースは人民のみんなが知ることになったので、私が中国人民だったら当然、「この格差のどこが共産主義だ!」と叫ぶに違いありません。大多数の人民の月収1万7千円とのギャップはあまりにも多すぎ、世界でも有数の格差国が共産主義を標榜することなどありえない。

  さらに規制の網が厳しくなっているのは新興企業に対する規制です。ご存じのようにアリババの創業者ジャック・マーは昨秋から姿を見せなくなり、最近オランダにいるというニュースが流れただけです。21年1月のフォーブスのニュースを引用します。

  「中国一の富豪だったマーが最後に公の場に姿を見せたのは、昨年10月に上海で開催された「外灘(バンド)金融サミット」だった。サミットで、マーは規制当局がイノベーションを阻害していると批判し、11月初旬に政府機関から呼び出しを受けたとされる。

  11月3日には、2日後に控えたアリババ傘下の金融会社「アント・グループ」のIPOが突如中止された。その後、国家市場監督管理総局は、アリババを独占禁止法違反で調査していると発表した。マーは、10月後半から姿を見せていない。」

 

  彼は最近になってオランダにいることが目撃されその身は安全であっても、アリババという巨大ネット企業の成功を当局が嫌っていることは明らかです。こうしたことは今後同様な成功を目指す起業家にとって冷や水を浴びせることになります。インフルエンサーや成功した女優などへの処罰を含め、私に言わせれば「みんなを引き上げる共同富裕は難しいので、とりあえず上が落ちてくるように共同貧困に舵を切った」となります。

  なんともなさけない共産主義であり、習近平独裁体制です。はたしてこの格差の矛盾と成功の芽を摘んでいく新政策がどうなっていくか、さらに見通していきましょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

中国は世界制覇できるか  その1.民主主義サミット

2021年12月11日 | 中国問題

  バイデン大統領の仕掛けた民主主義サミットに対し、中国が見苦しいほど猛反発していますね。のたうち回れば回るほど、自ら最も痛いところを突かれたという宣伝になってしまうことを理解していません。「中国には中国の民主主義がある」などという、笑うしかないようなカワイイ言い訳をしています。

  私に言わせていただければ、「民主主義は自由があることが前提で、自由のない国に民主主義などそもそもあり得ない」

  今年のノーベル平和賞は言論の自由を守ろうと戦ったフィリピンとロシアのジャーナリストが受賞しました。今回のサミットの名称も自由・民主主義サミットとすれば、中国やロシアなど言論統制のひどい国へのより強力なパンチとなったのではないでしょうか。

  日本が戦前に経験した言論統制は、国民をマインドコントロールして戦争賛美一色に導いた最大の要素だと思われます。中国やロシアを見ているとかつての日本そのもので、それにプラスし領土拡大の野心を見せることで国民を一方向に向けようとするに違いない。その危険性をサミットで世界に知らしめることは一定の意義があると思います。

 

  一方、冬のオリンピックに関してもアメリカは人権問題を盾に外交的ボイコットを表明し、それに賛同する国が出てきています。それに対して識者の中には「オリンピックに政治は持ち込むべきでない」という建前論を展開する方がいます。フランスのマクロンもそうですね。

  これも私に言わせていただければ、「人権問題は政治以前の問題で、人類共通の自然権だ」となります。それを踏みにじる中国を非難するのは、人類共通の危機感の表明であって、民主主義対専制主義という政治次元の問題などではありません。中国は今後もきっと次々に北朝鮮並みの子供じみた手を繰り出してくるでしょうが、いちいち相手になどしないことです。

 

  さて、資本主義をファンド資本主義が救うというシリーズの次の展開は、我が世を謳歌する専制主義者習近平の中国の弱点をえぐり出すことです。

  このまま中国が成長を続けるとアメリカを抜き世界一の経済大国になると予想されています。そのことに驚く必要はありません。人口が絶対的に多いのですから、当然過ぎる帰結です。一人当たりのGDPが日本やアメリカを上回ったら、その時は驚いてあげましょう。現在の中国の一人当たりの所得はアメリカの6分の1しかありません。まだまだ中所得国でしかないのです。

  では2020年時点の数字を日本も入れて比較してみましょう。IMFの最近の発表数値を使います。

             アメリカ  中国   日本

GDP、10億ドル      22,267  16,642     5,378

  世界ランク       1    2     3

 

人口、億人           3.3   14.1   1.26

             

一人当たりGDP、万ドル    6.3     1.1     4.0

  世界ランク         5    62     24

  

   GDPで中国はすでに日本の4倍にもなっていて、アメリカにも7割と迫りつつあります。日本経済研究センターの予測では、2028年ごろアメリカに追いつくだろうとされています。しかし一人当たり所得はアメリカの6万3千ドル=約7百万円、日本の4万ドル=約440万円と比べても、1万1千ドル=約120万円の中国ははるか後方にいます。絶対的大きさも力の源泉の一つですが、国民の豊かさは一人当たりの所得です。

  この一人当たり所得の数値の意味を読み取るのにもう一つ大事なことがあります。それは中国が「一人当たりGDP1万ドルの罠」をすでにすり抜けたことです。

  1万ドルの罠とは、発展途上国が数千ドルレベルの中所得国になるまでは順調でも、1万ドル辺りで大きな壁にぶち当たるという一般的経験値があることを指します。その理由は、発展途上にある間は先進国の技術を模倣・移転して高成長を遂げられるが、1万ドルに近づくとそこからは独自の技術力が必要となり、それを超えるのに苦労し停滞するという議論です。

  これは例えばすでに高所得国の仲間入りを果たした韓国や台湾が、90年代にアジア危機の中で壁にぶち当たり苦しんだ時期があったことを想起させます。その後2か国は半導体、エレクトロニクス分野などで突破口を見出し、1万ドルの罠を抜け出しました。最近の数字で韓国は3万2千ドル、台湾は2万8千ドルです。

  今の中国は模倣や技術移転段階をすでに超え、先端技術でも独自の開発力を持っていてすでに壁を乗り越え、1万4千ドルに達しています。一つには技術を盗みまくったという批判があり、当たらずしも遠からずだと思いますが、このところは独自の開発力を持ち、日本がそうであったように1万ドルの罠をするりと一気にすり抜けました。

  今後、中国を待ち受ける別の大きな壁についてさらに分析を進めます。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする