「ハンバーガーはお好き?」
ホワイトハウスに招かれた大学フットボールリーグのチャンピオンチームを招いたトランプ、毎日々々自分が食べている大好きなハンバーガー、ビッグマック300個をピザとともに大判振る舞いしました(笑)。チームメンバーは豪華でおいしいパーティー料理を期待していたのですが、トランプが自分で招いた政府機関閉鎖のあおりで料理人がいないため、「君たちも大好きだろう」と照れ隠ししながら振舞ったのです。NHKのBS世界のニュースで毎週土曜日にNYからレポート送ってくるマイケルさんは、「アメリカ・ファースト」が「アメリカ・ファースト・フード」になったと茶化していました(座布団1枚!)。自業自得とはこういう時のためにあることわざでしょう(笑)。
今回の話題はサガンの小説でなく、BREXITです。かわいそうなメイ首相、彼女の離脱案は議会で大差で否決されましたね。もともと残留派の彼女は、自分の頭の中とやっていることの矛盾にさぞ混乱していることでしょう。この問題を外から見ていると、何が争点なのか、ますますわからなくなっています。メイ首相も否決後反対派に向かって、「あなたがたは一体どうすれば合意できると思っているの?」とさじをなげたような言葉を吐いていました。実はイギリス内でも何が問題なのか、わかっていない人がけっこう多いと私は見ています。
15日の否決直後に、議会の外でデモをしていた人々にBBCがインタビューを行っていました。以下はその回答例です。
まずBREXIT反対、つまり残留派のおばさんに「今回の否決どう感じますか?」と聞くと、
「最高よ、だってこれで残留できることになったんだから」
えっ? なに勘違いしてるの??? イギリス人でしょあんた。私はもうびっくりでした。
今度は離脱派の人へ「今回の否決をどう思いますか」と聞くと、
「最高よ。これですべての束縛から逃れられるのだから」と答えていました。
これも、えっ? あんた、なにか束縛受けてたの???
議会の外のデモ隊は離脱賛成派と離脱反対派の双方がいまだに「離脱を争点に」デモを行っています。一方、議会内の争点は、「離脱は決まっていて、その離脱の仕方がどうか」で賛否を争っています。国民の争点と議会内の争点がまるでズレているのです。このズレがあるままでの議決や離脱論争が事をより複雑にしていると私には見えます。
議会内の議論も実はとても混乱しています。メイ首相の保守党内も、メイ氏の考え方である穏健離脱とは別に、強硬離脱派、残留派もいまだにいます。なので多くの離反者が出ました。労働党も内実は同じ。なのに議会ではみんなが自分に都合の良い離脱方法の議論を行っていて、合意はとても無理に思えます。たとえイギリス議会で合意できてもEUが「うん」と言うはずのない方針で合意しても無意味です。21日の再提案を見てみましょう。
この問題でイギリスが混乱しているのは、議員の中に条件闘争などせずにとにかくEUの束縛から自由になりたいという主張をしているおバカな議員がいて、それが離脱派の国民の支持を多く得ているためです。それをリードしているポピュリストは、「EUとは束縛だけをする存在で、メリットはゼロだ」といっていたあのボサボサ金髪頭のジョンソンや、独立党の党首として離脱を主導していたのにすでに離党してしまったあのファラージです。彼ら扇動者のついた嘘に踊らされて離脱に票を入れた人々の根本的無知や勘違いが、そのまま今日でも同じレベルに放置されているので、デモ隊の人々のとんちんかんな答えになっているのです。
一方EUはイギリスをEU諸国への見せしめとすべく、厳しい離脱条件を設定しました。そもそも言い出しっぺにして敵前逃亡をしたジョンソンやファラージは、いいとこどりして離脱できるというのが主張で、分担金さえ払わなければイギリスは自由を得て裕福になれると主張。国民投票の前にEU分担金の額を何倍にも偽って国民を騙し、BREXITを勝ち取りました。でもEUからの手切れ金だけで5兆円にもなることを突き付けられ、逃げを打ったのです。
真の離脱論者であれば条件闘争などせずに離脱すればいいのです。それをいいところだけ得たままに、義務は果たさないで済むという愚かな扇動者の主張を信じて自爆しつつある。それが現在のイギリスです。壁の建設費はメキシコが払うと言って大統領になったトランプと同レベルの幼稚なウソツキです。
そもそもEUに加入すると何がメリットになるのでしょう。
実は自由です!束縛なんかではありません。
・人の移動の自由(移動と他国での就労の自由)
・モノの移動の自由(関税や規制抜きででの自由貿易)
・カネの移動の自由(イギリスを除き通貨はユーロで、資本の移動の自由)
・サービスの移動の自由(他国への自由なサービス提供。輸送・金融・小売りなど)
離脱とはこれらの自由を失うのに、束縛からの自由を得たいと言っている愚かな主張だと私は考えます。ただこれらの自由を得るのに当然義務が生じますが離脱派は義務はやだと駄々っ子のような主張をしているのです。
では合意なき離脱はイギリス経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。自動車メーカーなど国をまたいだサプライチェーンで成り立っている産業は、国境の通関と関税の復活で時間とコストがかかり、ひどい影響を受けます。銀行もいままでEU内で自由に商売できたのに、国ごとに免許を得る必要が出ますし、資本の移動規制を受け国境をまたぐ商売が自由にできなくなります。産業界はそれを回避するにはイギリスを出る以外ないと、「イギリスよさようなら」の準備を始めています。
実はイギリス政府も中央銀行であるイングランド銀行も、それぞれ合意なき離脱の影響を試算していますので、そのうちの最悪シナリオの数値をあげます。政府試算では15年後にEU残留と離脱の差はGDPで▲9.3%。イングランド銀行は4年後の23年末で▲10.5とさらに厳しい結果を予想しています。エコノミストなどにはこれでも甘いという見方が多いのです。それにもしイギリスGDPの9%を占めるスコットランドの離脱が現実となると、イギリスはさらに小さな島国でしかなくなります。
いったいイギリスはどこへ行こうとしているのでしょうか。かつて世界に冠たる大英帝国であり、アダムスミスを産んだ資本主義の総本山で産業革命発祥の地は、ただの博物館になりたいのでしょうか。議会や一般人の賛成・反対のデモ隊の衝突などの混乱を見ていると、たとえ離脱をしようがしまいが、国の分断は修復しようもないように思えます。あたかもトランプによる分断されたアメリカと同じです。両者ともポピュリストの扇動に乗せられた愚かな国民と、乗らなかったまともな国民が反目し合い、国は今後も迷走を続けるにちがいありません。