ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アメリカ国債と日本国債、どちらが安全か、2

2014年09月28日 | 2014年の資産運用
 アメリカ国債と日本国債のリスクを比較するにはまず前提となる経済力に関して見ておく必要があります。前回は両国の潜在成長力には大きな差があるというお話を差し上げました。最後の部分をおさらいしますと、

アメリカ
IMF見通し2.5%+シェール革命0.3%+イノベーション?=3%程度

日本
IMF見通し0.7%+アベノミクス?+イノベーション??=0.7%±?


そして(?)となっているイノベーションについても、ベンチャービジネスの状況を見ると、日米の差はさらに開きそうだ、と申し上げました。

 
 今回は日米の国債の安全性を、債務残高と返済能力から見てみましょう。政府の債務残高のGDP対比はOECDのEconomic Outlookにある2013年末ベースによりますと、

アメリカ= 106%
日本  = 232%


  累積債務の返済能力はどう推定するのかと申しますと、まずはGDPの大きさから見ます。その理由を簡単に説明します。

  GDPの6割を占める最大項目である消費の額に消費税率を掛ければおよその消費税収入額となります。(厳密には非課税のものが多いこともあり金額は大きく違いますが、傾向はちがいません。)そして消費の裏付けとなる所得に税率を掛ければ所得税収になります。法人税も利益に税率を掛けるのですが、両者ともにおよそGDPに比例的に動きます。

 そのベースとなるGDPは毎四半期ごとに発表される実質GDPではなく名目GDPのため、デフレはGDPを縮小させ税収を縮小させる効果を持ちます。ですのでインフレ率が常に日本を上回るアメリカの返済能力はより高くなります。日本はこれまでデフレが長く続いたため返済能力は実は年々小さくなっていったのです。ちなみに7年前に515兆円だった名目GDPは、直近(4‐6月期の年率換算)で487兆円。5.4%も減少しています。

 ということは、日本のように名目GDPが減ると債務が増加しなくともGDPに対する債務比率は増えてしまうのです。債務返済の原資となる名目GDPはなんとしても増やさなければいけません。その意味である程度のインフレが必要という政策の方向性は間違っていません。

 しかし何度も申し上げ、山ちゃんも言っていましたが、賃金が増えてのディマンドプルインフレならみんなが幸せになれても、賃金が増えないのに物価が上がり消費税が上がるのは単なる不幸の連鎖なのです。私を含めベースアップのない世界に暮す人達は、物価上昇、消費増税に対しては財布のひもを締めるしかないのです。

  そしてこの不幸の連鎖は高齢者を中心に預貯金の食いつぶしにつながり、日銀が買わなくても預金を取り崩された銀行が国債を売ることにもつながるのです。

  もう一つ大事なことがあります。
ここんとこ、テストにでますよ!古いか(笑)

  インフレで税収が上がったとしても、物価や人件費が上昇すれば財政支出も増えてしまい、財政健全化にはつながらないことです。

  特に日本の場合、財政支出の大きな割合を占める社会保障費は医療・介護など人件費の割合が大きいため、インフレと賃上げで財政収支は悪化するというジレンマを抱えているのです。

 このことは将来ハイパーインフレで国が借金の実質踏み倒しに成功した暁にも、財政の健全化は容易には達成できないということにもつながるので、テストに出るほど重要なのです。


 こうして一国の経済を分解したり、潜在成長力までしっかり見たりすると、日米の国債のリスク差は今後も間違いなく拡大の一途をたどるのがよくご理解いただけると思います。

 さて、私は以前から「アメリカに失われた10年など来ない」と言い続けてきました。リーマンショックの吸収力の高さがそれを証明しています。それでも、「現在の先進国経済は中央銀行によるカンフル剤注射で生きながらえているので、それをなくせばまた不況に戻る」と言う人がいます。先進国を一緒ごたに考えてはいけません。アメリカは10月で緩和策を停止することが決定しました。それから半年後には金利の引き上げが始まるかもしれません。欧州は周回遅れでこれからが中央銀行の勝負どころだと言われています。

 それに対して日本はどうか。すでに手を出し尽くしてしまっています。なのに「まだ買えるものはいくらでもある」と、大本営発表を続けている方がいます。しかしその効果はチョー怪しい。このところの円安はこうした潜在成長力の差から来る安全性の差も大いに反映しているのだと私は思っています。

 11月に7-9月期のGDPが発表されると12月には消費税の再値上げと来年度予算でてんやわんやになるでしょう。できれば目白のおっちょこちょいさんやたかさんのようにドルを握りしめて、アベチャンとクロチャンのお手並みを拝見といきたいところです(笑)


コメント (51)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アメリカ国債と日本国債、どちらが安全か

2014年09月25日 | 2014年の資産運用

 プチ炎上の議論では日本の将来とともに、アメリカの将来についても議論の的になっていました。ここでアメリカの将来をどう見ているか、日本と比較しながら私の考えをお示ししたいと思います。といっても、これまでとは特段の変化はないことをあらかじめ申し上げておきます。

 アメリカの格付けと成長力に関して、9月19日にロイターが以下の記事を書いています。

タイトル;アメリカの成長力

格付け会社フィッチ・レーティングスは19日、米国の長期外貨・自国通貨建て発行体デフォルト格付け(IDR)を「AAA」に据え置いた。見通しは「安定的」。フィッチは声明で、米経済の回復ペースは他の多くの先進国を上回っていると指摘。米成長率は、2014年は2%、2015年は3.1%、2016年は3%になるとの予想を示した。また、米連邦準備理事会(FRB)によるぜロ金利政策解除時期は2015年半ばになるとの見方を示した。


 一国の信用格付けは債券の安全性を見る上で重要です。ソブリン格付けでは調査力からみて信用をおけるのは、フィッチ・レーティングス、ムーディーズ、S&Pの3社です。そのうちS&Pだけが3年前にアメリカの格付けをAAAからAA+に引き下げています。私はこれを「ミス」だと申し上げてきました。何故はっきりミスといえるのか。

 私の著書が出版される直前の11年7月にアメリカ議会が大混乱した「財政の崖」問題を巡って、S&Pはそれが政争ではなく深刻な財政危機だと見誤ったのです。その後崖が来るたびに私が何度も何度も「たとえ本当に利払いや償還が延期されても、そんなものは単なるスリップダウンで、ノックアウトではない」と言い続けたあのバカ騒ぎです。先日コメント欄で書かれていたダイヤモンド・オンラインでの私の連載でもそのことを書いています。

 その時にS&Pはアメリカの財政赤字の将来見通しの数値を100兆円も計算間違いをしてそれを財務省などから指摘され、発表からわずか2週間後に会長の首が飛びました。それでも挙げたコブシを下ろさずに、いまだに「ダウングレードは間違っていなかった」と言い張ってAA+にしたままです。今後またどこかで「財政の崖が・・」とか言い出したら、みんなで笑い飛ばしてあげましょう(笑)。

 先ほどの引用にありましたが、フィッチ・レーティングスは将来のアメリカ経済の成長力見通しを3%程度と見通しています。証券会社のイケイケ見通しよりも常に物事を慎重に見るクセのある格付け会社の見通しのほうが、信頼がおけそうです。ではその妥当性を私なりに見てみます。

 それぞれの国の経済にはその国が潜在的に持っている潜在成長率というものがあります。それはまず2つの指標で計られます。
1. 労働人口増加率
2. 資本増加率(設備など)


 そして同じ一人の労働者が生産性を上げれば経済にはプラスアルファを生みだせます。設備も同じで、設備の生産性が高くなればプラスアルファを生み出せます。そこで上の2つに加えて

3. 2つの要素の生産性向上率


 これら3つの足し算が一国の潜在成長率と言われる指標です。IMFが見ている今後5年ほどのアメリカの潜在成長率の見通しは2.5%程度で、日本は0.7%程度です。アメリカと日本は仮に資本の増加率や生産性の要素に違いがないとしても、労働人口の増加率がかたやプラス、かたやマイナスという、いかんともしがたい差があります。安倍政権が女性の労働参加を前面に取り上げているのは大いに評価されてしかるべきです。

 加えて、シェール革命の影響については、今後アメリカにかなりのプラスの影響をもたらすものと思われますが、大和総研がそれによる将来の潜在成長率への寄与はプラス0.3%と推定数値を出しています。数字は小さく見えてもとても大きなインパクトを持っています。それを単純に加味すると日米の潜在成長力差は2%を超えてくることになります。IMFがそれをどの程度加味しているは不明です。
 
 今後の成長率はここで示した潜在成長力に現在は想定できていないイノベーションによる生産性向上や競争力を足し引きし、さらに景気循環や世界経済の動向などを織り交ぜた数値になります。私はベンチャービジネスの大きさと幅の広さが、今後のアメリカに大きなプラスアルファをもたらすと見ています。とすると先ほどのフィッチ・レーティングスの経済見通しである3%程度の成長は、十分に実現可能な数値に思えます。

アメリカ
IMF見通し2.5%+シェール革命0.3%+イノベーション?=3%程度

一方日本はどうか。

IMF見通し0.7%+アベノミクス?+イノベーション??=0.7%±?


アベノミクスは不成功の確率もみておく必要があるため±と書きました。

 ということでひとまず潜在成長力の観点からみた日米の将来の成長力較差は、かなり大きいと言えます。

 国債の安全性を考える際に最も直接的に重要な債務残高や返済能力については次回に述べることにします。


コメント (27)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ちょっと炎上でしたね(笑)

2014年09月23日 | 2014年の資産運用
 時折意見が対立することがあっても、いたって平穏なこのブログですが、今回はめずらしくちょっと炎上でしたね。異論、反論、もちろんあって当然ですし、議論が沸騰することがあっても、ある程度の秩序が保たれていれば構わないと私は思っています。みなさんにとってそうしたことも含めて役に立つブログでありたいと思います。

 その中で、よく発言をいただくスーパー・フリークエント・ビューアーのみなさんやバードさんのように発言の多くない方からも私やブログをサポートする発言をいただいたことは、正直とても嬉しく思っています。でも、反論は好ましくないということでは決してありませんので、念のため。

 また証券管理手数料の件では、ひさびさのPuffinさんやしこさんから大手でもやりかたによっては手数料を無料にする証券会社もありとのアドバイスをいただきました。ありがとうございます。私が実は裏でネット証券を使ってデイトレーダーをしているなんてことがないことが、計らずも明らかになりました(笑)。

 では今回の炎上を使わせていただき、私がブログ管理者という立場から、みなさんにも興味ありと思われる数値を披露させていただきます。この間のアクセス数が普段よりどれくらい増えたかを見ることで、頻繁にアクセスいただいている方のおよその数を推定することができるのではないかと思い、勝手な推定をしてみたのです。

 まずブログ全体の概観から。ブログの最初に表示されている累計アクセス数ですが、おかげさまで84万アクセスを越えるところまできました。どうやら100万アクセスが見えてきましたね。これもひとえにみなさまのおかげと感謝いたします。ブログを始めた当初に、まさか100万アクセスまでいくなどとは、夢にも思っていませんでした。書いていることがとにかく真面目で地味ですからね(笑)。

 ではこの1週間の平均アクセス数と、普通の1週間を比べてみます。普通の1週間として8月の週間平均数をとります。私が取得することのできる数値は毎日・週間のページ・ビュー(PV)、IP数、goo blog内にある2百万ブログのうちの順位です。

                PV        IP数    順位(200万ブログ中)

8月週間平均       11,240    2,811    1,064位

9月22日までの1週間  13,413     3,259     854位


 週間平均のPVは8月と比較してこの1週間は2,173PV増加しています。1日平均では約300PVの増加です。IP数(アクセスした固有のPC、スマホなどの数ですが、人数とします)は週間で448人の増加でしたから、1日平均では64人の増加です。そして順位は1,064位から854位へ200位も上昇しています。13年の春ごろの順位は2千位くらいでしたから、それが3ケタへ上昇したのは、驚くべき上昇です。炎上しなくても3ケタを確保できるよう努力するつもりです(笑)。

 これだけの数字からほぼ毎日見ていらっしゃるスーパー・フリークエント・ビューアーの方の人数をどう推定したらよいのか、けっこう難しい推定ですね。

 1週間に1度くらいご覧いただいている方をフリークエント・ビューアーとすれば、その方も炎上に興味を抱いて先週は毎日見たという方もいらっしゃるかもしれません。ですので確実なことは言えませんが、平均で64人の増加ということは、ほぼ毎日ご覧いただいているスーパー・フリークエント・ビューアーの方の人数は、どうやら数十名くらいだ、ということは言えるかもしれません。みなさんの実感はいかがでしょうか。

 次に8月平常時の数値を、1年前の数値と比べてみます。

                 PV     IP数    順位(200万ブログ中)

8月週間平均       11,240   2,811    1,064位

13年8月週間平均     8,102    2,054    2,117位



 なんとPV数とIP数がともに4割増し。順位が1年前の2,000番くらいから1,000番くらいにまで上がっています。これは驚きの上昇です。コンスタントに3ケタの位になるのも十分ありえる位置まで来ていますね。

 今回バードさんからは、「林さんの様な方は、『奇跡的な良い方』という括りに入ってまして、滅多にいない方」とのお褒めの言葉をいだたきました。本当にありがとうございます。

 ということで、この1週間は私にとっては様々な反省材料やとても役に立つ情報などもいただくことができ、とても有意義な1週間でした。

 今後もみなさまからの励ましと支援をいただきながら、しっかりと私の考えをお伝えし、世の中の方が投資で道を誤らないよう光を照らして行くつもりです。

 どうかよろしくお願いいたします。

コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劣等生さんへの回答 その2.米国債か社債か(長文です)

2014年09月18日 | 2014年の資産運用
読者のみなさんへ

 前回の記事にたくさんのコメントをいただいています。ありがとうございます。まずは前回に引き続き、劣等生さんの質問に回答させていただき、その後にみなさんへのコメントを書かせていただきますので、しばしお待ちを。

劣等生さん

 私からの質問に回答いただき、ありがとうございます。それと買った時の考え方も説明いただき、だいぶクリアーになりました。ありがとうございます。

 今回の社債・金融債への投資はこれまでの豊富な投資経験や、様々なリスクの認識もお持ちの上の投資なので、さほど大きなコメントはありませんが、きっと他の方にも参考になると思いますので、私の考えを回答させていただきます。

 まず、劣等生さんのおっしゃるとおり償還までの持ち切り投資であれば、あとはクレジット・リスク(信用の多寡)と為替のリスクだけですが、それを飲み込む覚悟の元に投資されているので、それはそれで私は反対はしません。せっかくですので、ここではクレジット・リスクについてだけ詳しくコメントします。

 債券の専門家としては個別の社債などではなく、やはり米国債をお薦めします。理由の第一は、我々が個別株式の将来を予測できないように、会社・銀行などの個別会社の債券の安全性も予想は難しいからです。これについては後ほどもう少し詳しく解説します。プロの見方も参考になると思います。

第二は、社債に付与されている条件は極めて個別性が高く、シロウトの方が債券の内容を理解するのはほぼ不可能だからです。一応簡単にご説明します。

劣等生さんの保有されている社債は以下のように書かれています。

>銀行や生命保険の発行した社債です。投資適格債です。私の購入債券は金融機関の普通の債権と劣後債、両方があります。劣後債コーラブルで、ファーストコールまで10年程度です。社債の中では比較的安全な金融機関の債権にしました。リーマンを見ろと言われるかもしれませんが、リーマンがあったからこそ金融機関はより安全な投資先になったと思っています。トゥービッグトゥーフェイルだと思っています。甘いでしょうか。


 まず債券の条件ですが、コールが10年だとしてそのままコールされない場合、償還は何年先になるのでしょう。とてもつなく長いと、その間に世の中がどうなるかわかりませんよね。高いと思った金利がとてつもなく低いことになっているかもしれない。これは長期の米国債でも同じだと思われるかもしれませんが、コールをするかしないかの権利を相手に渡してしまっているリスクはとてつもなく大きいのです。コールなしの債券は、発行体と保有者の権利義務は同等です。コールのリスクの理論的大きさは、実際にはオプション理論で計算可能ですが、われわれは計算もなにもできませんから、言い値で買わざるをえません。

 この際なのでみなさんにもお知らせしますが、債券の発行体は実はコールの権利行使権限を債券の発行を仲介した投資銀行に売って、なにがしかの利益を得ています。その分、債券投資家は損しています。ところが、投資銀行などの債券の仲介者にとって、世の中でオプションほどオイシイ商売はないのです。説明はとても難しいのですが、スワップ契約を発行体と結び、発行体のコールの権利を買って、実は巨大なリスクを相手に被せるのです。発行体もそのリスクの大きさを計量する技量は持ち合わせませんので、大きなリスクを背負わされているとは思っていません。ましてや債券の投資家はオプション理論などちんぷんかんぷんですから、投資銀行はオイシサ一人占めなのです。コールのオプションには実はかなりの価値があってそれを投資銀行だけが享受するということです。

 わかりづらいですよね。でもなんとなく煙に巻かれていそうだということは理解できると思います。

 次にクレジット・リスクについてです。

 私の感覚では、クレジット・リスクについてはかなり甘いとおもいます。理由は、たとえばさほど遠くない将来、ネット銀行以外は無用になるかも、といったことがあります。

 より現実的には、リーマンショックで巨大銀行を救ったのは、救わないとシステミック・リスク(金融恐慌になり国が立ち行かなくなる)が大きすぎるからで、単独銀行のデフォルトで済むと思ったら、FRBは潰すことは大いにあると思います。例えば投資銀行だけの破綻は、一般の人にはあまり迷惑がかかりませんので、リーマンは破綻させました。

 アメリカの投資に関する基本的思想は、「自己責任」です。例えばある一行が隠ぺい工作をした上でとんでもないリスクを取っていたのがバレ、巨額損失を出したらお取りつぶしでしょう。預金者も預金保険の10万ドルを超える部分はなにも保証されないと思います。

 たとえTOO BIG TO FAIL銀行であっても、様々な処理の仕方があります。わかりやすいようにJALの例で言いますと、大事な交通インフラなので破綻になっても運行をストップはさせなかった。しかしリスクを取って投資している株主や社債保有者などの債権者はすべてゼロでリターンはなし。しかし運行できる体制は維持させる。

 納税者に負担を強いるには、その前に少なくとも株主と社債権者からはすべてを吐き出させないと説明責任を果たせないからで、そのやり方は日本よりアメリカのほうが一般的にはシビアです。預金者の10万ドルは法的にそこまでは保護する約束をあらかじめしています。そして巨大銀行であれば、決済インフラがなくなると困るのでJALの運行確保同様、通常業務は継続できるようにする。しかし株主・劣後債保有者、金融債保有者はロハ。大いにありえると思います。

 ちょっと脅かしすぎかもしれませんが、可能性はあります。

 次に、投資適格債のデフォルトについてです。

 投資適格債の長期のデフォルト率に関して、ネットで見つけることができたのは、フィッチ・レーティングスの事業会社のデフォルト統計だけでしたので以下にそれを示します。一般的にアメリカの場合、金融機関のデフォルト率も事業会社同様に高いので、当たらずしも遠からずと思われます。

<1990年から2013年末までの累計>

格付け付与から        5年以内デフォルト率   10年以内デフォルト率

投資適格債             1.17%            2.27%
投資不適格債(ハイイールド)  10.70%           13.38%


 上の表の見方は「この23年間の累計では、たとえ投資適格債でも、格付けを付与してから10年以内に2.27%の企業はデフォルトした」と読みます。今大人気のハイイールド債では、10.7%の企業が5年以内にデフォルトしています。

 2%にぶつかってしまえば、すでに自覚されているようにほぼ100%を失います。投資の考え方としては、保有されている金融機関債の利率が同年限の米国債と比べてどれくらいスプレッド(上乗せ)があるかで、リスクとの見合いを判断することになります。金融機関の格付けとスプレッドは見合っているでしょうか?

 とまあ、こうしたことを見ていくのがプロの見方です。すいぶんときびしいことを書きましたが、私の率直な意見です。今後の参考にしてください。

別件の債券計算ですが、

>米国債を買っておけば「3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがある」とあります。データと式でご説明いただければと思います。

これはこのブログでも何度か説明をさせていただいていますが、四則演算で簡単には示せません。HP17というイールド計算機か、エクセルのイールド計算機能を使います。その計算機のインプットの仕方と計算原理を説明するだけで、本が一冊になるくらいです。原理的にはまず将来償還される元本額と将来に渡るすべての支払いクーポン金利額を現在価値に引き直すという計算をしますが、それを次に市場金利を動かしながら債券価格の変動を率で計算していくのです。

わかりづらいですよね。私の著書(P.171)にもそのあたりの基礎が書いてありますので、参考までに見ておいてください。

以上です。

コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

劣等生さんからの質問への回答、その1

2014年09月16日 | 2014年の資産運用
 劣等生さんから債券投資に関する質問をいただきました。

 「劣等生さん」とか、「○○おっちょこちょいさん」というお名前をそのまま書くのは、読者の方の失礼にあたりそうで気が引けるのですが、それ以外に方法がないので、このまま失礼いたします(笑)。

 質問の主題は「米国債よりちょっとリスクのある社債なども投資対象になるのでは?」という部分だと思いますが、勝手ながらご質問をいくつかに分解させていただき、回答させていただきます。

劣等生さん;株だとかFXだとかリスキーな投資の本はいくらでもある。
債券の本はほんのわずか。


この理由を、私が本を出版する時に編集者と交わした会話の一問一答形式で記しておきます。まずは債券の本がない理由から。

 私も何故債券の本がないのかという質問を出版社にぶつけました。その答えは「債券の本は売れたためしがないからです」とのこと。

 「じゃ何故私の原稿を出版しようと思ったんですか?」と聞いたところ回答は「原稿を読んだ編集局の人はみんな米国債を買おうと思ったから」というものでした。「説得力抜群で、これでは買わざるをえないでしょう」とも言っていました。

 それともう一つ言っていたことは「投資の本はあまたあっても、『次はこの銘柄が上がる』などと具体的銘柄が書いてある本は最初から大外れか、ちょっと経てば賞味期限が切れる。一方、投資の一般論が書いてある本はポートフォリオがどうしたとか書いてあっても、具体的にこれを買えという回答は書いてない。あなたの原稿には投資の基礎プラスこれだという解決編が書いてある」ということでした。

 それでもきっと編集部の方で実際に米国債を買った方がいるかはかなり疑問です。このたった3年間で30年債だと8割の儲け、10年債でも5割の儲けがあると知れば、きっと「買っときゃよかった」と思うでしょう(笑)。もっとも私のブログを読んでいないでしょうから、この事実も知らないでしょう。

劣等生さん;われわれ素人は債券投資に資金を割くべきだと思います。
そうですね、証券会社、銀行、ファイナンシャル・アドバイザーの方々が本当に投資家の立場に立つ人であれば、きっとそれを薦めるでしょうが、彼らの関心事は手数料を稼ぐことなので、「米国債を売らないなら口座を引き上げる」とでも言わない限り(笑)、絶対に薦めないのです。1億円を米国債に投資してもらっても、年間収益は3千円の口座管理料だけです。それでは証券会社は自己否定することになります。その分でもし米国債の投信を買ってもらえば、0.9%として年間100万円近く手数料が入るでしょう。オイシサ300倍です。

では、何故株だとかFXだとかリスキーな本はいくらでもあるのか。

 理由はもちろん「売れるから」なのですが、それだけでは答えとしておもしろくありませんので、私なりの見解をお示しします。

 本屋さんに行くと、投資と限らず○○攻略本があまた並んでいます。株式投資やFXの本の大半はこの攻略本のたぐいだと思います。パチンコか競馬かはたまた宝くじか。リターンの期待値からして勝てっこない賭けごとでも勝つための攻略法を見つけようとする。このブログの読者の方からすれば「アホらしい」の一言で片づけることができますが、のめり込んでいる人は真剣に勉強して勝とうとしているのです。そしてこうした攻略本の多さは、参加者の人数が多いことも影響していると思います。株やFXの本の大半もこの攻略本のたぐいだと思います。

 一方、攻略本とは一線を画す投資本もたくさんあります。そうした本の著者は大学の教授もいれば大手投資会社のアナリストや著名な投資家、中にはちょっと怪しげな株式アナリストもいます。内容的には投資に必要な経済の基礎知識、世界各国の情勢から業界や企業の分析などファンダメンタルズ教えるものから、投資の歴史、成功した投資家のノウハウや投資のABCなど実に様々な本が出版されています。

 こうした内容の本は「投資はバクチではない、科学だ」という標語のもとに、知的好奇心の旺盛な方、勉強好きな方を惹きつけます。刻一刻と変化するファンダメンタルズや相場のテーマを追うため、本屋の本棚もあふれかえることになります。

 そしてここが肝心ですが、私に言わせれば「本の数が多いのは『これが極意だ』という必勝法などないことの証拠」なのです(笑)。必勝法があれば本は一冊で足ります。そんなベストセラーは聞いたことがありません。そして投資の場合はみんなが同じことをしてしまうと、儲からなくなるという自己矛盾を抱えています。ということは、必勝法はあったとすれば誰にも教えないのです。

 最近、HFT(ハイ・フリークエンシ―・トレーディング)という超高速コンピューターを駆使した投資法がはやり、大きな利益を出すヘッジファンドが話題になっていますが、これとてそのうちみんなでやりすぎて儲からなくなるし、規制も入るでしょう。かつて私のいたソロモン・ブラザーズが債券を中心としたアービトラージ(裁定取引)で大儲けをしていましたが、やりかたを他社が学習したら儲けがなくなってしまったのと同じです。


 出版社は常に「売れそうな本を売る」という使命を負っています。ですので、必勝法という理想郷を求めて出版し続けることが使命であり自己防衛の方策なのです。

 債券投資、特に私の提唱する「持ち切り投資法」は必勝法が存在しいて、しかも方法は一つなので一冊でおしまいです(笑)。

 債券投信がやるような、ポートフォリオの入れ替えをしながら債券に投資する方法は、理屈が難しい割に結局株式投資と変わず、相場に翻弄されることになりますので、私はお薦めしません。

 以上がご質問の前段にあった疑問などへの回答です。


劣等生さんの次の質問は

劣等生さん;投資対象は米国債なのでしょうか。リスキーな投資の対極として米国債はわかります。しかしそれよりちょっとリスクのある社債も投資対象になるのではないでしょうか。私の投資内容に対する評価と合わせてご意見を伺えれば幸いです。

これがご質問の本質部分ですね。回答は長くなりますので、次回にさせていただきますが、一つだけ質問があります。保有債券は銀行・保険などの金融機関債とありますが、その債券は劣後債ですか、それとも通常のシニア債ですか。お答えいただけると、回答しやすくなります。不明の場合は不本意な株屋さんに聞いてみてください。よろしくおねがいします。



コメント (45)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする