ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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グレート・ローテーションについて

2014年01月23日 | 2014年の資産運用

 今回は債券から株式へという資金の流れを指す言葉、「グレート・ローテーション」についてです。

 21日のアメリカの金融ニュースのトップ記事は、ピムコという世界的債券投資会社のCEO兼CIO(最高投資責任者)の辞任ニュースでした。ピムコの大きさはなんと運用資産が200兆円という巨大さです。日本のゆうちょは総資産200兆円、みなさんの年金を預かり運用するGPIFの運用資産が124兆円ですから、一民間会社の預かり運用資産が200兆円というのが、いかに大きいかわかります。
 
 そのトップの辞任理由は運用成績が振るわないためでした。成績不振の原因は言うまでもなく金利の上昇です。これまで長年にわたり金利が低下傾向にあったものが、リーマンショック後はどうやらボトムをヒットして、若干の上昇傾向になり始めていることによる成績不振です。

 どれくらい長期に渡ってアメリカの金利が低下してきたかと申しますと、私の著書の最後のほうにある「投資年数別パフォーマンス比較表」(P.256)の中では30年間が最長ですが、その開始時点である1980年ころをピークに、低下傾向が始まったと見て差し支えありません。

 じゃ、今後30年に渡って逆転傾向が続くのか?

 そんなことはないと思います。今後は一方通行にはなりそうもないと私は見ています。その見通しはまた別の機会に述べることにして、グレート・ローテーションの話に戻ります。

 一般的にアメリカでは日本と違い投資戦略アドバイザーの仕事の第一は、オカネのアロケーション比率をアドバイスすることです。大きく分ければ株式・債券・現金の比率をアドバイスするのです。個別株式銘柄のアドバイスなどは二の次です。比率の調整はけっこう頻繁に行われ、半期、四半期ごとに指示します。アロケーションの比率が重要であると投資家も認識しているため、関心が強いのです。

 日本の投資戦略アドバイザーはそれをすっ飛ばして「〇〇銘柄を買え」となります。株を売ってしばらく現金にしておけとか、債券を買えとはほとんど言いません。日本の投資とはイコール株式投資だからです。

  
 最近言われているグレート・ローテーションとは、長い目でみると「債券の時代が終わり株式の時代に移行しつつある」ということを言っています。もちろんそれは債券を買わないのではなく、債券投資比率を減らす、あるいは今後しばらく金利が上昇する局面になる可能性が強いため、債券投資はそれを見極めてからでも遅くはないということです。

 グレート・ローテーションという言葉を最初に使ったのは2012年の年末にバンクオブアメリカ・メリルリンチのレポートが最初で、「債券よさようなら、株式よこんにちは」という意味で使用しました。この見通しは昨年1年間の金利と株式の動向をみると、結構当たっていました。世界最大の債券運用会社ピムコのCEOはそうした大きな動きを見誤り成績不振になった責任を取ったのです。

 ではこのグレート・ローテーションがまだ続くとすると果たして債券の時代は終わりに向かうのか、またこのことが債券投資を考えているみなさんに今後どのような影響を与えるか、それを次回は考えてみましょう。

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アメリカの金利をどう見るか

2014年01月22日 | 2014年の資産運用
 前回は、世界を撹乱するリスクはアメリカにはなく、中国リスクと可能性はまだ小さいが日本リスクを考えておく必要があると申し上げました。

そして金利については、

 アナリストのコンセンサスは10年債で3%台前半をみていますが、私は3%台の後半に乗せる可能性が大いにあるとみています。

と申し上げています。


理由はアナリストの見方はそもそも「リスクとは、株価下落につながるリスク」という偏った見方をしているからです。

 金利上昇は株価にとって邪魔者で、その兆候に対してはFRBがテ―パリングのペースを緩めるなどの施策を実施するに違いない、いやすぐにでも実施しろ、という主張が背景にあるのです。

 このことはアメリカのアナリストだけでなく、日本の証券系アナリストやストラタジストも同様であることに十分に注意しましょう。彼らの関心はどうしたら株価が上昇するか、どうしたら株式市場の邪魔者を排除できるかだけです。

 ですので例えば消費増税に対しては「悪影響の緩和策は必要か」ではなく、「政府は何をいつしてくれるのか」ということをすでに言いだしています。わたしはこうした人達を「オネダリ君」と呼んでいます。

 オネダリ君たちに言わせれば「アメリカ経済にとってのリスクは金利の上昇にある」ということになるのですが、それはあくまでオネダリ君たちの言い草だということを申し上げておきます。経済が回復すれば金利上昇は当然であり、それを人為的に抑えていればいずれはゆがみが生じて暴発することにつながります。テ―パリングに過剰反応する人達こそが、経済を歪める元凶なのです。

 ということで、私の見方は実体経済の強さに合わせてFRBはテ―パリング(緩和策の縮小)を順調に進行させ、金利は正常に反応していくと考えています。そのため3%台後半になる可能性があるとみているのです。
 成長率で言えばアメリカ経済の実質成長率は2%台後半、インフレ率は控えめに見も1%台半ばだとすれば、両方をプラスして名目成長率は4%くらいになります。その成長率で金利が3%台後半になるのは全くもって自然なのです。

 一方、テ―パリングが新興国の投資に甚大な影響を与える可能性があると見るエコノミストが多いことも事実です。アメリカの株式相場が順調に上昇し、日本やヨーロッパの株式市場も同様に上昇すると、世界のカネは新興国から先進国へと流れるというものです。

 私はこの考え方にも賛成しません。新興国の経済はアメリカ経済が順調に拡大すれば並行して拡大
し、新興国の株式市場もそれなりの上昇はあり、一方的に新興国からカネが流失するとは見ていません。

 もうひとつ、最近なにかと注目される東南アジア経済ですが、中国への依存度が大きいため、中国のスローダウンが影を落としていると言われます。これは事実ですが、中国経済もやはりアメリカ経済に依存している部分が大きいことから、アメリカ経済の回復の恩恵を受けると思われます。

 しかしリスクのところで申し上げたとおり、中国は独自の政治経済的リスクを抱える国ですから、混乱が生じる可能性はあると見ておく方が安全です。

 次回は米国債券市場に関わりのある「グレート・ローテーション」という言葉について解説します。今言われているグレート・ローテーションとは、長期的に見たお金の流れが債券市場から株式市場にシフトしていくことを表す言葉です。

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アメリカ経済をどう見るか

2014年01月18日 | 2014年の資産運用
 2014年の資産運用のお話しに戻ります。

 前回のお話をおさらいしますと、私は

・10年もので3%に乗った金利レベルは、投資に値するレベルだ

・3%台の後半になれば腰を据えて投資のできるレベルだ


と申し上げています。

 そして米国債に投資する際に避けて通れない為替リスクについて、まず以下のようなシミュレーションをお示ししました。

10年債 金利3% 為替レート105円で投資 ⇒ ブレーク・イーブンの為替レートは78.2円

30年債 金利4% 為替レート105円 ⇒ ブレーク・イーブン32.4円

 そして結論的には日米のファンダメンタルズから見て、10年債も30年債も為替レートで負けることはほとんどなさそうだ、と申し上げました。

 今回はアメリカのファンダメンタルズと金利をどう見ているかについてです。

 まずアメリカ経済ですが、これまでも申し上げてきましたが短期・長期ともにかなり楽観的に見ています。

 このブログの読者のみなさんには、長期の債券投資をお薦めしています。そこで投資のタイミングを計るための短期見通しと共に、米国債の信用リスクを計るため長期的視野でのアメリカのファンダメンタルをみてみましょう。

 みなさんが目にする成長率見通しのほとんどは、「今年の経済はどうなる」と言う非常に短期の見通しが多いと思います。それらによれば

 ・アメリカ経済は前年の実質成長率2%台が今年も継続し、むしろ若干加速する
 ・日本経済は前年の2%台が、消費税の値上げにより個人消費が落ち込み、今年は1%前後に低下する

 このあたりがいわゆる多くのエコノミストによるコンセンサス見通しです。私は日米ともにもう少し強めの成長率をみていますが、基本的には異論がありません。

 ではリスクはないのか。2つあると見ています。

1.中国の政治的・経済的混乱リスク;可能性 中

2.日本の財政リスク;可能性 小



 実は世界を撹乱する大きなリスクはアメリカ経済にはなく、外にある中国と日本にリスクがあると見ています。これに触れ始めるときりがなくなりますので、ここでは省略します。

 では、アメリカの金利はどうみているか。

 アナリストのコンセンサスは3%台前半をみていますが、私は3%台の後半に乗せる可能性が大いにあるとみています。

 次回はその理由をさらに詳しく見てみます。
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シリコンバレー その2

2014年01月16日 | 旅行

 しばらく間があいてしまい、申し訳ありません。連休から昨日まで、今シーズンの初滑りで八方尾根にスキーに行っていました。友人8人連れの大世帯なのですが、実は同じメンバーで1月末から2月初めにかけてアルプスのフランス側にスキーに出かけるための足慣らしです。アルベールビル・オリンピックのアルペンスキー会場のひとつに行きます。

えっ、シューマッハの怪我したところ?

 はい、近いところですが、あそこは超高級リゾート、我々は庶民リゾートですし、ゲレンデ外滑走は絶対にしません(笑)。

 
さて、目白のおっちょこちょいさんからシリコンバレーについて、コメントをいただきました。その中にあったニュースとビデオを拝見しました。

 「新たな支配層」という言葉、あの地区に住み恩恵を受けていないか、もしくは迷惑をこうむっているとしたら、言いたくなりそうな言葉ですよね。目白のおっちょこちょいさんのコメントには「不気味」ということも書かれていました。

>アメリカのIT企業なかでも Google, Amazon は進化が早く、様々な分野にまで手を広げていて不気味ですね。・・・・IT第1世代のMS, Apple はPCベースの会社の枠を出てませんが、第2世代の Google, Amazon はITの使い方が徹底的ですね。

 Google, Amazonのスピードと進化ぶりを不気味と見るのか、これぞシリコンバレーの真骨頂と見るのか、意見は分かれるところですね。

 設立目的からして「人類が使うすべての情報を集め整理し、提供する」ということですし、世界のベスト・アンド・ブライテストを集めて目的を実行しつつあります。

 不気味さも感じますが、すでに人類の進歩に貢献しつつもあります。私自身は行き過ぎれば必ず反動や規制が入るので、不安視する必要はないとみています。

 
 さて、シリコンバレー2回目のお話は、日本との関係です。シリコンバレーに住む私の友人は社会人になって大半の人生をこの地域で過ごしていますが、日本とシリコンバレーの一般的関係は、その間にほとんど変化はないという感想を持っていました。日本の存在はどこにあるかと聞くと、個人起業家の進出はとても少なく、日本である程度成功したIT系企業が、判で押したように出先を作っては消え作っては消える、その繰り返しだと言うのです。

 そして起業家はもちろん、技術者として目立つような日本人はほとんどいない。最近目立つのはインド人でありその前は中国人だそうで、日本人の存在感はいつになってもとても薄いとのこと。彼女の家の隣人も、ほとんどがインド人になりつつあり、娘の学校もしかりだそうです。

 私の叔父(父の兄)はすでに2000年代後半90歳で他界されているのですが、40歳過ぎから85歳くらいまで、なんと40数年にわたりかつてのシリコンバレーの中心地サノゼに住んでいました。元々が技術者で、日本に向けてテクニカル・ニューズレターを書いていました。

  その叔父も日本の存在感はどの時代をとってもとても薄く、シリコンバレーという言葉ができてのち世界の注目度が高まった後もほとんどなかった。それが故に自分は長く彼の地で生きてこられた、と言っていました。

  日本人は戦前の移民を除くと、世界のどこに行っても駐在員社会を作るか、あるいは留学生がそのまま居ついくかしかないように思います。つまり志高くその土地で骨をうずめる人がとても少ないように思えるのです。

  旅行をする1か月ほど前に、起業を目指す二人の青年を囲む会に出席しました。二人ともUCバークレー(カリフォルニア大学バークレー校)出身で、現在はスタンフォードのMBAに通う日本人です。彼らは帰国しなかった帰国子女で、一人は日本での起業、一人はシリコンバレーでの起業を目指しています。スタンフォード大学はシリコンバレーの中心に君臨し、シリコンバレーに人材供給をするアメリカでいま最も注目されている大学です。

  彼らを純粋日本人の若者にカテゴライズすることはできませんが、志の高さは見上げたもので、1人30分程度で大人達を相手に堂々と起業プランについて説得力のあるプレゼンをして、喝采を受けていました。こうした日本人の若者が少しでも増えてくれることを祈ります。

  しかし二人とも、ベンチャーにつきもののファイナンスを日本で募るつもりはないとのこと。日本人は話は聞いてくれるが、オカネはだしてくれないと冗談交じりに言っていました。

  2012年のベンチャー投資額は、日本が1,026億円、アメリカが2兆7,800億円だったそうで、28倍の開きがあります。そして日本ではベンチャー・ビジネスの成功事例が少ないため、投資の道が開かれていないように思えるのです。

  成功のためにはベンチャーキャピタルやそこで働くベンチャーキャピタリストという人達が必要なのですが、簡単には育ちません。だったら外人、それもシリコンバレーの経験者を招き入れればよいと思うのですが、政府系ベンチャーファンドには天下りが、銀行系ファンドや企業系ファンドにも企業内天下りが居座るのが日本の習わしなので、とても無理と言うものでしょう。

 長くなりましたが以上がシリコンバレーに住む友人のお話と、私の感想でした。次回はいつもの話題に戻ります。
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シリコンバレー事情

2014年01月11日 | 旅行
 年末に友人夫妻と2夫婦でアメリカ西海岸へ旅行しました。その旅行の報告を、させていただきます。

 今回はサンフランシスコ・シリコンバレー、ペブルビーチ、ポイント・レイズ海岸というサンフランから40マイ ルほど北にあるリゾートの3カ所を、それぞれ何泊かずつ訪れました。

 まずはシリコンバレーです。シリコンバレーは元気いっぱいでした。

 シリコンバレーに住む大学時代の後輩に、自宅近くのアップル本社と隣町のグーグル本社付近を案内してもらいました。彼女はアメリカ人と結婚し、アップル本社のあるクパチーノ市に長く住んでいます。ご主人はベンチャー・ビジネスに携わり、彼女も子育てをしながら日本企業とシリコンバレー企業の橋渡しを仕事にしています。

 みなさんもよくご存知のように、シリコンバレーはIT系企業にとって世界の聖地です。この地域全体の栄枯盛衰を見るのに一番簡単な方法はアメリカの新興株式市場NASDAQの相場を見ることです。でも株式相場は時価総額の大きな企業の相場に引っ張られる傾向が強いため、現在のようにたとえシリコンバレー全体が非常に明るい状況にあっても、NASDAQ指数は2000年の最高値をいまだに抜けていません。もっと他に的確な方法はないでしょうか。

 私がある地域全体の状況を見るのに使える指標だと思っているのは、その地域の不動産相場の動向です。これだと目立った企業だけに引っ張られることなく、地域全体に人が集まってきているのか離散しつつあるのか、一目遼然なのです。

 それによればシリコンバレーは好調継続中です。例えばシリコンバレー全体(サンタクララ・カウンティ)とアップル本社のあるクパチーノ市で、不動産取引のあった戸建て住宅の平均価格を1年前と比較しますと以下の通りです。

                   12年11月  13年11月  対前年比
サンタクララ・カウンティ     89万ドル  107万ドル   +20%
クパチーノ市           124万ドル   146万ドル   +32%


 カウンティ全体では前年比で20%も上昇し、平均の取引価格が1億円を超えています。それに対してその中の一地区であるクパチーノ市では32%も上昇し、平均価格が1.5億円にも達しています。私の勝手な想像ですが、クパチーノ市で訪れた閑静な住宅街にある友人の自宅もこの平均に近いレベルだと思われます。この統計は不動産価格そのものの統計ではなく、あくまで取引事例に限った統計ですが、傾向値は十分に捉えられると思われます。

 この不動産価格をNASDAQバブルのピークである13年前と比較しますと、株価はまだ2割ほど低いレベルなのですが、カウンティ全体の不動産取引の平均価格はピーク時をすでに4%上回り、アップルのあるクパチーノ市ではなんと40%も上回っているのです。

 こうして不動産取引から見てみると、シリコンバレー全体の中でもアップル本社付近の隆盛ぶりがみてとれます。

つづく

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