ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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日本国債のCDSスプレッドに注意信号!

2011年09月28日 | 資産運用 

本題の前に、『日本国債に注意信号が点滅しています!』

 日本のCDSスプレッド(国債のデフォルトをカバーする保険料)が昨日5%近く急上昇し、147bpになっています。

 9月17日のブログでおしらせしたレベルは、9月9日、110。9月15日126でした。震災後8月まではだいたい100くらいでしたので、この1か月で5割方の上昇です。簡単に見過ごせるレベルではありません。なお、アメリカのスプレッドは、55とほとんど動いていません。

 このブログでは、今後もCDSスプレッドについては、しっかりとフォローしていきます。



ついでにもう一つ、超安全資産のハズの『金』はしょせん投機対象だということが明らかになりつつあります。ピークから突然12%ほど下落しました。私は著書で金投資については、「今後はババ抜きゲームなので、最後のババをつかむな」と言っています。そしてその本質を以下のように解説しています。

・金は金の卵を生まない
 金はいくら長く保有して暖めたからと言って、絶対にかえらないし、金の卵、つまり金利を生みません(笑)
・金は長期投資では債券のパフォーマンスの足許にも及ばない
この30年間、米国債を保有していると元利合計は23倍、金はたったの2.5倍です
・金を含む商品投資とは、しょせん短期のバクチにすぎない
価格が大きく下落する可能性のある資産は、デフォルトしないからといって安全資産などとは決して言えない

みなさんはくれぐれも、「長期では実物資産がいいかな」などというバクチ屋さんの甘い言葉にはのらないようにしてください。



さて、本題です。前回は、不思議な国日本の投資のゆがみについて私なりの解説を試みました。日本人の投資行動のゆがみは、基本的知識の不足からきているということでした。

日本の政府や銀行、証券会社はそれをフルに活用しています。活用の仕方は、

政府;個人資産に頼り、無駄使いの山を築くことができた。負債を1千兆円も積み上げてしまい、この負債バブルが破裂した時にはとりかえしがつかないほどの大きさにしてしまった。

銀行・郵貯;個人の安全志向を利用して、とてつもないリスク資産である政府の発行する債券を買いまくっている。国債は会計基準ではリスク資産として認識されないことをいいことに、預金金利と国債金利の間の利鞘を稼ぎたい放題稼いでいる。

証券会社;運用とは、リスクを取ってリターンをもとめることだという日本独特の神話を作り出し、世界の投資基準ではありえないほどのリスクを個人に負わせて稼いでいる。

ではこのおかしなゆがみに気付いた人は、どうするべきなのか。それをおしらせすることが、私が今回のシリーズの最初、9月7日に申し上げた「今後の投資はどうしたらいいのか」の回答につながります。

次回からは回答編です。
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日本人の預金好きの理由

2011年09月22日 | 資産運用 

前回のお話は、
「日本人の金融資産の9割がリスク資産には投資されていない。逆に投資を果敢にする人の8割が株に投資している。」
ということでした。

何故こんなに偏った投資行動をするのか、謎を解いてみましょう。

私の分析による答えは、「日本人は債券投資を知らないからです。」

解説します。

リスク資産に投資しない人はどうしているかというと、大半は預金しています。その額は800兆円を超えていますが、約半分が貯蓄性預金(定期預金)です。

銀行の定期預金の10年物の金利が0.15%、国債の1年物の金利が1.0%程度です。同じ期間なら、国債を買えば6-7倍も金利が付くのに、何故400兆円も無為に定期預金にしておくのでしょうか?

答え、その1.日本人は日本国債が買えると思っていないから

このブログを読んでいただいている方にこのような方はいらっしゃらないと思いますが、実はこの単純で意外な答えは、普通の方にはあたりまえの答えです。個人向け国債だけが個人が買えると思っている方が多いのです。

以前の個人向け国債は、政府による個人財産の収奪に等しい、詐欺まがいの低利国債でしたが、何も知らない個人はそれしか買えないと信じ込まされ、兆円単位で買っていました。同じ年限ではるかに高い金利の普通国債があるのに。

私は昔から、こうした日本独特のおかしな因習は改めるべきだと思っています。軟式野球、軟式庭球、果ては軟式卓球とか、ガラパゴスでしか通用しないものがどうして日本には普及したのか、さっぱり理解できません。どなたか解説をおねがいします。きっとその解説の中に、何故個人向け国債というマカ不思議な国債を何兆円も買う人がいるのかの答えをみつけることができるでしょう。

横道に逸れましたが、貯金している人は、きっと同じ年限で高利の債券があることを知らないのではないでしょうか。知っているのにわざわざ6分の1の金利を好むはずはありません。

もし、安全性を絶対的に追及するのであれば、銀行のリスクより国のリスクのほうがまだましです。リスクが低くて金利は高い、でもそれに投資をしない。

答えその2.銀行預金が投資だと思っていないから

預金しかしない安全志向の強い人は、預金は投資だとは決して思っていません。しかし残念でした、預金は立派な投資です。銀行の債券を買っているのと何ら変わりません。もっとも1千万円までは保険付きですので、ちょっとだけ安全に見えます。

これが実は「見えるだけ」、と思っている人もほとんどいないと思います。

何故見えるだけかといいますと、例えば日本国債が暴落を始めると、銀行は簡単に破綻します。その規模は預金保険機構でカバーできるほど小さくないので、実は保険で安全というのは、そう見えるだけなのです。保険機構の破綻をバックアップできるのはやはり国ですから、1千万円までの安全と言うのは、しょせん日本国に頼るだけで、国のリスクを取る投資なのです。

さて、日本人の極端な投資行動の謎解きに戻りますと、理由は

1. 日本人の極端な安全志向の理由は、実は知識不足からきている。不足している知識とは、

①銀行預金はリスクのある投資だと思っていない
②個人でも普通の日本国債は買える


2. 極端にリスクを取ることしかしない投資好きな人は

① 投資とは株式投資だと思っている。
② やはり債券投資を知らない


どうやら投資の世界では3分の2を占める重要な債券投資を知らないために、日本人の投資行動はかなり歪んでしまったようです。

次回は、その歪みが円高をもたらす、ということについて解説します。
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リスクの好きな日本人投資家

2011年09月20日 | 資産運用 


CDSの話は横に置いておいて、前々回からの話題に戻ります。

前々回のまとめをしますと、

・日本人とアメリカ人の金融資産の保有残高は、一人当たりに直すと、それほど大きな違いはない

・つまりアメリカ人は借金漬けではなく、実はたくさん貯蓄している

・金融資産の内訳では、株・債券・投信などのリスク・アセットの保有比率では、日本人はわずか12.3%、アメリカ人は52.5%と大きな差がある。


ということでした。

日本人がリスク・アセットに対する投資に委縮しているとはいえ、投信の中身を見ると、実はちょっと違った姿もあります。今日はそれがテーマです。

投信協会は、投資信託の投資対象の内訳を毎月統計として発表しています。その中身を見てみましょう。

投信の全体像は、8月末で61.8兆円です。
前々回、個人の金融資産の3月末の内訳数字はこれより少ない53兆円でしたが、その差は法人需要でしょうか。61.8兆円のうち外貨建て投信は25.8兆円と42%を占めます。なかなか果敢なリスクの取り方ですね。

また全体を株式・債券・MMFに分けると、

 株式投信;51.3兆円(83%)
 債券投信;8.5兆円 (13.8%)
 MMF ;2.1兆円 (3.4%)


以上から言えることは、投信を買っているような投資家は、

・外貨のリスクを42%も取っている

・株式のリスクを83%も取っている


なんという果敢なリスクテーカー(リスクを取る人)でしょうか。これはとてもアメリカ人の比ではありません。

こうした数字を私の独断で判断すると、以下のように表現できます。

・日本人はリスクを取らない人が9割がたである

・リスクの好きな1割の人は、8割も株のリスクを取っている


日本人は非常に偏った投資の仕方をしているとも言えます。
しかも株式投資はではきっと20年間も負け続けているのにね。

統計数字をかなり大雑把に独断で判定していますが、私がいままでアドバイスを差し上げた方の平均像と、おおむね重なりますので、どうやら見当違いではなさそうです。

その平均像とは、「投資をしている人はリスクを取り過ぎていて、損ばかりしている」というものです。


この結果は、みなさんの実感と比べると、果たしてどうでしょうか?
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CDS、クレジット・デフォルト・スワップの保険料が動いた

2011年09月18日 | 資産運用 
  このところギリシャ問題を巡って、欧州の債券市場が騒がしくなっています。その余波は欧州内だけでなく、日本を含む財政問題を抱える国々に波及しています。余波を一番冷静に映す指標はCDSのスプレッドです。今日は、ちょっと本題から離れて、今注目を集めているCDSの解説をします。

 クレジット・デフォルト・スワップは、債券の保有者がその債券の信用に不安を感じたときに、ヘッジをする手段です。ちょうど保険の仕組みと同じで、保有する債券の大きさに比例した何%かの保険料を払うと、いざデフォルトしたときには、まるまる保険金が支払われるという仕組みです。

 債券市場は別名をクレジット市場と言われますが、発行している国や企業の信用力に陰りが出ると、その債券の市場価格が変動するため、クレジット市場と言われます。例えば日本国債の投資家は、投資開始時点では安全だと思って投資を開始しますが、何年か経るうちに財政状況が悪化してくると不安を感じます。そこで将来デフォルトした場合に備えて、CDS市場で保険料を払って保険金をもらう契約をします。特に大口の投資家で数百億円も投資をしていると、デフォルトした時の損失は甚大で、回復のしようがありません。そこで保険をかけるのです。
 保険の引き受け手は実際の保険会社かといいますと、そうとは限りません。AIGのように、サブプライムのCDSの引受手になっていた実際の保険会社もありますが、単に保険料目当てに勝負をする投資家もいます。保険料はデフォルトさえしなければ、もらい得だからです。
  このCDS市場は買いにいけば売ってもらえるというものではなく、プロ同士が相対のスワップ契約を結ぶ市場です。一定の条件を満たすプロの投資家や、投資銀行、保険会社などしか参加できません。

  さて、日本国債を例にとって、実際の保険料(CDSスプレッド)がいくらになっているのか、見てみましょう。
  我々がネットで簡単に見られるCDSスプレッドは、Markitという会社のサイトにあります。
URLは;http://www.markit.com/en/about/news/commentary/cds/cds.page

 ここで見られるのは期間5年間のスプレッドです。それだけ毎年支払えば、保険がかけられます。
では日本国債の保険料をアメリカと比較しながらみてみましょう。表示されている単位は0.0001ですので、100が1%にあたります。

               
9月15日 日本 126   アメリカ  50
9月9日 日本 110   アメリカ 51
      
日本の保険料は9月9日と比較すると、若干上昇しました。3月11日の震災直後につけた116を上回っています。日本に大きなインパクトをもたらすイベントがない中での上昇はちょっと気になる動きです。日本のレベルは、どういう意味をもっているか説明しますと、5年物国債を買うと年率0.35%の金利をもらえますが、その国債のデフォルトリスクに保険を掛けると、1.26%もコストがかかり、投資しても意味がないということになります。ですので、投資家は保険抜きでリスクを丸取りする以外ありません。
一方、アメリカはダウングレード騒ぎのときにピクリとしたくらいで、この半年ほとんど動いていません。米国債の金利は5年物で0.91%ですので、保険をかけてもリターンは残るレベルです。

今後もこのCDSの動きは、株や単なる債券市場の動きと違い、プロ同士の冷静な判断に基づく動きですので、常に注意をしておく必要があります。これが跳ね上がった時、日本国債の終わりの始まりかもしれませんので、このブログでは今後も定期的に動きを追っていきます。
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日本人の投資対象

2011年09月14日 | 資産運用 

 今回のテーマは、1,467兆円にもなる日本人の投資対象はどうなっているかです。これを見るためは日銀の作成する資金循環統計をみると、家計の金融資産の行き先が出ていますのでそれを使います。ついでに日米で同様の比較してみましょう。すると、日本のゆがみの一端が見えてきます。日銀はこうした比較表も作成してくれています。

          日本11年3月末    米国11年3月末  兆円(@80円)
金融資産計   1,476(100%)      3.904(100%)
現金預金      816(55.3%)       546(14%)
債券          38(2.6%)       320(8.2%)
投資信託       53(3.6%)       500(12.8%)
株式・出資金     90(6.1%)      1,230(31.5%)
保険・年金準備金  420(28.4%)    1.175(30.1%)
その他           59(4.0%)     133(3.4%)

この表からまず一般的にわかることを、太字で示しました。そして、私が勝手に深読みして推定したのが、各項目のあとにあるカッコ内です。

1.日本人は株・債券・投信ともに忌避している

(株は安くなる一方だし、債券は金利が低いので、他に選択肢はないともいえる。)

2.日本人は現預金が異常に多く、銀行に預けるという行為が投資だとは思っていない。(実は預貯金は3分の1が国債に投資されているし、生保に預けた金の投資先も4割が日本国債。わざわざ銀行・郵貯・生保を儲けさせるためにただでお金を預けているともいえる。その分自分で直接国債に投資すれば、金利を10倍くらいかせげるのに)

3.アメリカ人は一人当たりでいえば、日本人並みに金融資産をもっている。つまり貯蓄している。
(アメリカ人は借金漬けというのは、事実ではない。日本の家計の約3倍も金融資産を持っているが、人口も約3倍なので、一人当たりでは貯めに貯めこんでいる日本人とかわらないレベルの金融資産を持っている)

とこうなります。

次回は、日本人が本当にリスクを回避してばかりいるのか、別の観点から見てみます。
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