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トランプを眠らせるもんか

2019年12月29日 | アメリカアップデート

  いよいよ年の瀬が迫ってきましたね。みなさんは年末年始をどうすごされるのでしょうか。今年はカレンダーがとてもよい当たり年ですので、長期の海外旅行などに行かれる方も多いと思います。

  私は一年で一番忙しいキャットシッターの家内をサポートする主夫として家事に励みます(笑)。お客様の中で一番長い旅行をされるお客様はドイツ人家庭で、毎年この時期には2週間まるまる海外の暖かいリゾートに出かけるそうです。うらやましー。

   今年は株式市場にとってはとても良い年でした。特にアメリカの市場はダウ、ナスダックなどおしなべて3割も上昇しました。至上最高値にありながらの上昇は相当なエネルギーを必要とします。日本株はそれには及びませんでしたが年間19%の上昇で、日本株としては上々のできでしょう。今年の相場を左右したキーワードは年間を通して「米中貿易交渉」でした。それも年末に第一段階の合意というニュースを受け、株価の最後の一押しの要因になったようです。このまま北朝鮮による挑発行為がなければ、トランプ政権にとってはめでたしめでたしで終わりそうです。しかし彼自身は足元で弾劾訴追が決まり気が気ではないでしょう。

   そして来年はいよいよ選挙イヤーです。それを占うように、年末28日の日経新聞朝刊のトップ記事は、「トランプ4業種 失速」というタイトルで、車・鉄鋼・エネルギー・石油の4業種で激戦州の雇用が急減という内容でした。この4州こそが16年のトランプ勝利の道筋を付けた州です。これらの州はいわゆるラストベルトと言われる錆びついた古い産業の地域で、トランプはその復活を約束して当選しました。その後の雇用回復の結果はどうか。

 記事の要点を引用します。

 史上最長の好景気が続く米国で、トランプ大統領が支援する「自動車」「鉄鋼」「エネルギー」「石炭」の4産業の失速が目立ってきた。2019年は自動車と鉄鋼で雇用者数が減少に転じ、7~9月期の4業種の純利益も前年同期から8割超減った。好況が続くハイテク産業との明暗は鮮明だ。激戦州の中西部4州で製造業の雇用は急減し、トランプ氏は20年大統領選の再選戦略の修正を迫られる。

 その典型が鉄鋼だ。18年3月、海外製品に25%の輸入関税を発動して価格が持ち直したが、19年に自動車や建設需要の低迷で相場が急落。雇用者数は3月以降右肩下がりで、2四半期連続の減益だ。大手のUSスチールは19年夏、約200人を一時解雇した。

 トランプ氏は就任早々、自動車や部品の関税撤廃を盛り込んだ環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱を決めたが、自動車産業は19年1月以降、雇用が急減する。新車市場の低迷で1~10月の国内生産は前年同期を3.4%下回った。ゼネラル・モーターズのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「景気後退に備える必要がある」と3工場の閉鎖を決めた。

エネルギー、石炭両産業はパイプライン建設推進や火力発電所の排ガス規制緩和で支援を受けたが、効果は長続きせず鉱山の閉鎖が相次ぐ。エネルギー産業は7~9月に9割減益、石炭は最終赤字に陥った。

 製造業の不振はトランプ氏の悩みの種だ。激戦州のミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、オハイオ4州で鉄鋼、自動車、機械など製造業の雇用者数は今年約5万人減った。16年大統領選は4州のうち2~3州を落とせば、トランプ氏は敗北していた。

ハーバード大のゲイリー・ピサノ教授は「保護政策で雇用者数を増やそうとしても、米国の製造業の復権にはつながらない」と指摘する。自動車と鉄鋼は環境技術や付加価値の高い製品の創出など、国際競争力の向上が追いつかない。石炭もコスト高で価格競争力に乏しい状況は変わらずだ。

引用終わり

   この記事はいいところを突いてはいるのですが、突っ込みが足りていません。それは、4州でトランプの支持率がどうなっているかの数字が示されていないことです。なので私が調べた数字を追加します。トランプがおちおち寝ていられない理由がはっきりします。

  12月25日付のオンライン・ニュースサイトDaily Wireからの引用で、接戦州におけるトランプ支持率と不支持率の差を16年選挙時と現在で比較したものです。プラスはトランプ支持が多いことを示し、マイナスは不支持が多いことを示します。

 

              16年選挙時  19年12月  (%)

ウィスコンシン州      +0.77     △14

ミシガン州          +0.23     △14

オハイオ州           +8.13     △5

ペンシルベニア州      +7.2      △7

 

  ラストベルトでのトランプは、選挙の投票率ではわずかに勝っていたのですが、現在の支持率は軒並み大きく下がっていて、4州全部がマイナス圏にいます。トランプ政策は掛け声倒れだということが判明した今年の中盤当たりから不支持が上回り始めていました。これで彼が眠れぬ夜をツイッターで紛らわせている理由がおわかりになるでしょう。トランプの全国支持率が45%以下に下がらないといっても、彼を嫌う岩盤も盤石で、支持率は当選以来一度も50%を上回ったことはありません。

  実際の選挙ではウィナーテイクオール(0.01%でも上回っていれば、州の全選挙人を手に入れる)の仕組みから、上の数字のようなわずかな差が勝敗を分けたのです。

    しかし対抗する民主党にはいまだ有力候補がいません。これだけ反トランプ票が待ち受けている舞台でも、役者がいなくては勝負になりません。

   日経記事の最後にハーバード大学教授の言葉が引用されていました。

 「保護政策で雇用者数を増やそうとしても、米国の製造業の復権にはつながらない」

   私は以前トランプのTPP離脱を批判した記事で、以下のように書いています。

 「そもそもアメリカ経済発展の原動力はダイナミックな産業構造の転換によるところが大きい。60年代までの基幹産業であった鉄鋼・自動車など労働人口を多く抱えていた産業が日本、韓国、中国などに市場を奪われたが、逆にシリコンバレーから勃興したIT産業が世界を席巻し、主役が交代した。もし今、鉄鋼産業が中国と競争して雇用を確保しようとするなら、賃金を中国人並みの8分の1にしなければ無理だ。そんなことをしても意味はないし、誰もなり手がいない。TPPの離脱とはそうしたトランプの無知でおバカな政策なのだ。」

   こうした議論はアメリカ経済の順調な成長や株価の上昇により、多くの方は忘れていたと思います。しかし大統領選挙が来年に迫る中で彼の成績を点検すると、こうしたことが見えてきました。トランプ政治3年を経た結果は予想通りで、産業のダイナミックな構造転換を元の木阿弥にしてやろうとトランプがいくらわめいても、無駄な抵抗でしかないのです。

 

 

 

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今年の漢字 「激」

2019年12月22日 | ニュース・コメント

  先日発表された今年の漢字は令和の「令」でした。令に続き支持が多かった字は「新」、3番目に「和」、4番目に「変」と、新しい令和時代にちなんだ字が並び、5番目に「災」、6番目には「嵐」と、今年非常に多かった災害関係の漢字が入ったそうです。ではみなさんの一字はなんだったでしょうか。

 

  私は勝手に「激」を選びました。世界中で起こった気候変動の激化反政府運動の過激化、そしてポピュリスト政権の過激化に通ずる字です。なかでも日本での気候変動の激化は、「50年に一度の・・・」という表現が使われる台風や豪雨などが毎月のように襲い、うちのすぐそばの多摩川沿いの地区が浸水の被害に見舞われたことで、風水害は身の回りにあるということを思い知らされた一年でした。読者の方で少しでも被害に遇われた方がいらしたら、心よりお見舞い申し上げます。

   そうした大災害を目の前にしながら政府をはじめとする日本のCO2対策の遅れははなはだしく、COP20会議の横で行われた不名誉な授与式で、「化石賞」を2回も受賞しています。

   一方、反政府デモも世界各地で頻発し過激化しています。特にこの半年、もっとも報道が多かったのは香港でした。警官が過激化するデモ隊に向け銃を発砲する映像はとても衝撃的で、世界に映像が流れることがわかっていてもなお発砲する警官に、共産党独裁の中国という国の恐ろしさを身に染みて感じた瞬間でした。

   反政府デモのコインの裏側には独裁政権、あるいはポピュリスト政権の過激化が存在します。中国や北朝鮮など、憲法に堂々と独裁が謳われている文字通りの独裁国家もあれば、選挙で選ばれた大統領などが独裁色を強めるロシアのプーチンやフィリピンのドゥテルテ、ブラジルのボルソナロような大統領もいます。ポピュリストということではアメリカのトランプやイギリスのジョンソンも同類です。最近の世界はこの「ポピュリストという病」が伝染病のように蔓延しつつあるのが懸念されます。目には目を、ポピュリストにはポピュリストで対抗するという世界の潮流は本当に警戒すべき流れです。

   しかしいわゆる民主国家としてしっかりとしたルールに則って政治が行われている国々までもが、どうしてこれほどまでにポピュリストに支配され、はやり病のように蔓延するのでしょうか。

   その原因はもちろん選ぶ側の選挙民にもあります。最近の世界的潮流で言えば、SNSを駆使した過激な言葉に同調する人々が独裁的ポピュリストの怪物たちを作り上げていると私は思っています。

   その典型はもちろんサイコパスのトランプです。トランプが嫌うニューヨーク・タイムズはトランプのツイッターを逐次分析していますが、11月の記事の日本語訳を引用します。フェイクニュースではありません(笑)。

 

引用

  • ニューヨーク・タイムズは、トランプ大統領の大統領就任以来、1万1000回を超えるツイートを分析した。
  • その結果、大統領は主に誰かもしくは何かを攻撃するためにツイッターを使用していて、5889ツイートがこれに該当するという。
  • 2000以上のツイートが、自身の仕事ぶりを称賛するものだった。

トランプ大統領のこれまでのツイートを分析したニューヨークタイムスは、いくつかの行動パターンを見つけた。

大統領はツイッターを何よりも"攻撃"に使ってきた。同紙が分析した2017年1月20日から2019年10月15日まで、1万1390ツイートのうち5000ツイート以上が誰かもしくは何かを攻撃するものだった。

このプロジェクトに携わった6人の記者たちによると、トランプ大統領はツイッターを自分自身を称賛するために使うのも好きだということが分かった。大統領は2026回、そうしたツイートをしているという。

例えば2019年7月11日には、大統領は自身を「見た目も素晴らしく、賢い、精神の安定した天才! 」と呼んでいる。2019年10月7日には、トルコ経済を「「完全に破壊し、壊滅させる」と脅し、自身の「素晴らしい、比類なき知恵」を称賛した。

2018年7月3日には、「もしわたしでなければ、今頃、我々は北朝鮮と戦争をしているだろう! 」と自慢していた。

 また、同紙の分析によると、民主党が大統領の弾劾調査に向けて動く中、トランプ大統領のツイッター投稿はここ数週間で大幅に増加している。

10月の最初の2週間でトランプ大統領は500回以上ツイートしていて、このペースでいけば、大統領の10月のツイート数はひと月平均の約3倍にのぼる見込みだという。

 引用終わり

  そして実際12月に弾劾が米下院で審議に入った日の1日のツイート数はなんと123回に及んだそうです。一日24時間は1,440分、それを123で割ると12分に一回ツイートしている勘定になります。寝る暇もなかったということで、サイコパスぶりがいかんなく発揮されました。そこで彼には弾劾の勲章とともに、ツイッター大賞も授与しましょう。まったくご苦労様な話です(笑)。

   もっともどこぞの首相も自画自賛では負けていません。昨日12月21日、今年の報道写真展を見ての発言、今年は「日本が世界の真ん中で輝いた年になった」にそれが表れています。

   彼も上記ポピュリスト達とは仲の良いお友達ですから、自分に都合の悪いことは一切無視、もみ消し、シュレッダーにかけ、それをもって無かったことにする。

  そうだ、麻生副総理も同じ穴のムジナでしたね。自分が指示して作らせた金融審議会の報告書の受け取りを拒否。拒否すればなかったことにできるとは、シュレッダーでなかったことにできると思っている内閣府同様、子供じみて気味が悪いほどです。自衛隊の記録やモリカケで、政府によるミエミエのもみ消しはさすがに終わったと思っていたら大間違い、もみ消しも激化の一途でした。

   令和元年も将来はなかったことにされかねませんね(笑)。

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トランプの弾劾訴追

2019年12月19日 | トランプのアメリカ

  アメリカの下院が本日トランプの訴追を決議しました。上院による裁判では過半数を占める共和党が最終的には否決するので弾劾されることはないでしょう。なにの膨大な時間を使って弾劾プロセスを進行させる意味があるのでしょうか。

   ニュースコメントなどは、民主党としてはトランプの本質をあばく意味はあるとか、逆にトランプが無罪を勝ち取ることで大統領選挙では逆に有利に作用するのではないか、という見方をする人が多いようです。しかもウクライナ疑惑の核心部分は、民主党の大統領候補で依然としてリードしているバイデン氏ですが、バイデン親子がクロとなれば民主党は貧乏くじを自ら引くことになります。

   しかし私自身は少し違った見方をしています。民主党はたとえ選挙でリードするバイデン氏を失ったとしても、しょせんそれは候補の一人にすぎない。現時点での候補者のオッヅはあてにならない。前回のトランプも選挙の1年前は泡沫候補だったし、その前のオバマも泡沫だった。つまりこの時点での泡沫、あるいは泡沫に近い候補が最終的に勝ち残る可能性は大いにあるのがアメリカの大統領選挙なのです。

  ちなみに民主党の候補選びは2月に東部アイオワ州で幕が切っておとされますが、そこでのリードを勝ち得た候補が大統領にまで登りつめるケースは結構あります。アイオワで現在先頭を走っているのが若干37歳、無名のブーティジェッジ氏です。

   そうしてもう一つ言っておきたいことがあります。私はトランプが弾劾訴追を受けること自体がとても大事だと思うのです。弾劾の歴史の話になると、以下3人の大統領の名前が出てきます。

  下院で訴追を受け、上院の弾劾裁判までに至った2人、1868年民主党のアンドリュー・ジョンソンと1998年民主党のビル・クリントンです。2人はいずれも上院では無罪。そして1974年、下院による訴追まで行く寸前に辞任した共和党のニクソンです。

   100年以上前のことも歴史上の汚点として確実に名前が残ります。それに是非トランプの名前も刻んでやろうじゃありませんか。それくらいしかウサを晴らす手立てがないのです(笑)。そしてもう一つは、トランプに決してノーベル平和賞を与えないためにはよい理由になるに違いない! なので断固弾劾支持なのです。

   私のアメリカの友人たちはトランプを「アメリカの恥さらし」、それを支持する40%あまりのアメリカ人たちも同罪だと言い続けています。友人の一人は自分がアメリカ人でいることは耐えがたい苦痛だとまで言っていて、彼はフェースブックで週一回は反トランプのニュースを流してウサ晴らしをしています(笑)。

 

  弾劾裁判に進む現在でもトランプの支持率に変化はありません。18年3月くらいから現在に至るまで、平均的には支持43%前後、不支持53%程度でほぼ不変です。それ以前だと17年には支持37%、不支持58%と言うこともありましたが、この2年弱の波はさざ波でしかない。彼の支持率は40%を割らず岩盤のように固いのは確かです。しかし不支持率も常に50%以上で岩盤なのです。この3年で大きな波があっても彼の支持率が50%を超えたことは一度もありません。

   一方、一番大きな変化は共和党の国会議員たちのトランプ支持で、彼が大統領になりたてのころは2割程度の議員がトランプに対し表立って反旗を翻していました。それが就任後2年目の中間選挙が近づくにつれて不支持を表明する根性を持った議員がいなくなりました。

  もともとアメリカは日本と違い国会の議決にあたり、党の議員に党議拘束をかけることはしない自由投票です。ところが中間選挙の候補者選びの段階から、トランプは自分に盾突く候補への妨害が目立つようになり、そうした議員も黙らざるを得なくなってほぼすべての共和党議員を黙らせたのです。その結果本当にトランプ嫌いの有力共和党議員たちはみな選挙に立候補せず議会を去りました。

 

  さて、今後トランプが自分の裁判で何を叫ぶのか、楽しく見物することにしましょう。

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大英帝国よ、さようなら

2019年12月15日 | ニュース・コメント

   「BREXITの是非を問う選挙」が終わりました。保守党はBREXITを明確に掲げて戦い、労働党は是非を明確にしなかったため、実は「BREXITの是非を問う選挙」にはなっていませんでした。旗幟鮮明な主張を掲げなかった労働党にしょせん勝ち目はなかった、と言うのが私の感想です。

   ではこの選挙、マスコミの見出しのように本当に保守党の圧勝だったのでしょうか。それについて私は疑問を感じています。簡単に数字で分析します。

   全国レベルの投票率はたった67.3%でした。何故「たった」なのか。それは前回メイ首相が党首として戦った選挙の投票率より、今回の投票率は1.5ポイント低かったからです。雌雄を決する国民投票的選挙なのに、投票率が低いなんて、なんとしらけた選挙だったのでしょう。騒いでいたのはジョンソンと世界中のマスコミでした。では国民全体のBREXITの信任率はどれだけなのか、単純計算をしてみます。

  選挙民投票率67.3% X うち保守党得票率43.6% = 選挙民の保守党支持率29.3%

   数字の上では選挙民全体の3割にも満たない賛成票でBREXITを決めたのです。議会制民主主義の生みの親であるイギリス人も、今回は相当しらけていますよね。しかしもちろんこれが民主主義制度、勝ちは勝ちです。ちなみにBREXITだけを掲げて臨んだ新党のBREXIT党は獲得議席数ゼロでした。つまり、何がしたいのか訳のわからない労働党への投票者を含め、国民の7割の人は「どうでもいい」という選択をしたのです。

   今一つ特筆すべきことは、地方政党スコットランド国民党の得票結果です。前回の得票率より0.8ポイント増加させて3.9%となっています。議席数は35から48に大躍進しています。全国レベルでの得票率は少ないですが、スコットランドでは大勝利でした。彼らのメインテーマはBREXITではなく、スコットランドの独立です。これが今回のタイトルである「大英帝国よ、さようなら」へつながります。

   16年のBREXITを決めた全国民による国民投票でも、スコットランドでは62%の人が残留を支持しました。今後イギリスがEUから離脱すると自動的にスコットランドも離脱しますが、もし離脱したイギリスがうまくいかないと見ると、スコットランドでは独立に加えてEU残留、あるいは新加入もついでに目指す運動が本格化するに違いありません。

   独立の是非を問うスコットランド独自の住民投票は2014年に行われましたが、その時は独立できたとしてもEUへの加入見込みが立たなかったため賛成しかねた人が多く、結果は44対55で否決されています。独立してもEUへの加盟条件は加盟国の100%が賛成することなので、イギリスがEUにいた当時は絶対に無理でした。イギリスがEUを離脱したあとは邪魔者がいなくなりますので、独立とEU加盟を目指すことになるでしょう。


   では今後イギリスとEUとの離脱交渉はどうなっていくのでしょう。あまり深く細かいことには立ち入らず、大きな目で見てみましょう。今回のBREXITとは出ることを決めただけで、離脱後のイギリスとEUの関係が決まったわけではありません。イギリスにとって離脱後もっともだいじなことは、いままで同様自由かつ関税なしの貿易ができる状況を保つことです。もし関税交渉や国境管理、金融規制などの交渉がうまくいかないと、1年後にはノーディールブレグジットとなり、大混乱に陥ります。

   EUはイギリスにEU加盟国並み、あるいはそれ以上の好条件を与えるでしょうか。もちろんノーです。何故ノーとはっきり言えるのでしょう。理由は簡単です。EUは加盟国減少への波及を望んでいないからです。

   EUを離脱し協力金を払わなくても同じメリットを得て、難民を受け入れずに済むのであれば、今でも離脱を目指しているポーランドやオーストリアをはじめ、ジョンソン同様のポピュリスト政権をいただく東欧諸国などが雪崩を打って離脱に走ることになりかねません。

  従って、ジョンソンの掲げるいいとこ取りの離脱など絶対にありえないということを示すのがEUの確固たる方針であることは明らかなのです。だから好条件での離脱はありえないと私は断定するのです。

   かたやジョンソンは現状よりよくなることを約束して首相になり選挙で勝った。好条件を取れなければ離脱の意味がなくなる。しかしEUはそんな好条件を非メンバーに与えることは絶対にありえない。

   なので、交渉は難航しイギリスの漂流は続く。そしてその後に待ち受けるのは、スコットランドのいない小英帝国への道、それが私の見立てです。

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日本の金融政策の危うさ その4.日本の住宅ローン

2019年12月05日 | 日本の金融政策

  ある方から「新しい著書の出版はどうなっているのか」という問い合わせをいただきました。ゆっくりと進んでいます。

  実は今年の夏前にすでに出版社は決まっていました。ラッキーなことに今回も最初に持ち込んだ出版社から、「出版をしたいので、話を進めたい」との回答をいただきました。

   ただ私を担当してくださる編集者の方がある理由から超多忙で、少し時間がかかるかもしれないとのこと。私は特に急がなくてはならない都合があるわけでもないため、「おまかせします」というスタンスで臨みました。

   それが約2か月くらいたつと、「打ち合わせをさせていただきたい」と反応があり、いよいよかと出かけて行きました。驚いたことに私の原稿を詳細に把握したうえで、すべてプリントアウトし、赤ペンを入れてくれていました。彼はすでに細部にわたるチェックを終えていたのです。赤ペンは全体構成から言葉づかいにいたるまで実に詳細にわたっていました。私は突然大きく進展したためおどろきました。そして全ページのコピー1部を私に渡し、大事なポイントの数々を2時間くらいかけて細かに話し合いました。彼からの修正提案などは驚くほど的を射ていたため、私からコメントあるいは反論するようなことはほとんどなく、充実したミーティングだったとの印象を持ちました。

   私は正直申し上げて、この方ならすべてお任せできると、とても安堵しました。出版の作業は担当される方に大きく依存するからです。ところがそれからしばらく進展が止まってしまいました。その間、「遅れて申し訳ない」とのメールはあったのですが、11月下旬になってやっと「再起動します」と連絡をいただきました。

  出版社はみなさんがきっと意外な感じを受ける社ですが、今回の「幸せ投資」という投資本としては若干キワモノっぽい趣旨からすると、私にはピッタリとくる出版社なのです。出版時期はまだ不明確ですが、みなさんどうぞご期待ください。以上がみなさんへの経過報告です。

 

  地銀のシリーズに戻ります。かぼちゃの馬車で万事休すとなったスルガ銀行の不動産融資問題から、日本の不動産ローンのおかしな点などを指摘します。大事な教訓が含まれていますので、しっかりお読みください。

   さて日本では不動産ローンで担保をとっているにも関わらず、返済に窮すると銀行は担保を差し出しても許してくれません。不動産の価値は担保流れの処理、つまり売却をする場合買い手が強いため、多くのケースで担保物件の価値は残存ローン額より少なくなります。すると不足分の返済を継続する必要があります。しかし世界では不動産を差し出すことでそれ以上の返済からは免れるノンリコースローンが一般的です。

   そればかりではなく、日本では担保を取った上に連帯保証人を要求するのがまかり通っています。この日本独特の慣習は絶対になくさなくてはいけないと思っています。

   そもそもみなさんは保証人と連帯保証人の違いをご存知でしょうか。連帯保証人のほうが本人と連帯して返済保証をするので、責任は小さいと思っていませんか。それは大きな間違いです。連帯保証人のほうがはるかに大きな返済義務を負っています。

   たとえば借り入れた本人が経済的には返済に窮していないのに返済を拒否したとします。するとただの保証人であれば「まずは本人に払わせろ」と言えるのですが、連帯保証人は借り入れた本人に資産があり、かつ十分な収入があっても、拒否したらすぐに肩代わりする義務が生じます。そんなばかな、と言っても後の祭り。連帯保証をしたら最後、とことん借金取りに追われることになるのです。ゆめゆめ連帯保証などしないことです。

   話が逸れましたので、戻します。

   そもそも日本でも欧米でも「おカネ」の価値がなくなりつつあると私は思っています。「世界は欲しいモノにあふれている」というタイトルのNHKBSのTV番組があります。私はそのタイトルを聞くたびに、もう「欲しいモノなんかないよ」。逆に「世界は貸したいおカネにあふれている」と思ってしまうのです。つまりおカネは欲すればいくらでも手に入る世の中だと感じるのです。どういうことか説明します。

   身近なところで言えば、企業を経営されている方なら、銀行が「借りてくれませんか」と頭を下げてくる場面に数多く出くわしていることと思います。昔とは立場が全く逆転してしまっています。その銀行に預金が潤沢にあるのに銀行は借りてくれと言ってきます。すると古くから付き合いのある経営者は定期預金するほど余裕があるのに、将来資金繰りに窮する場面を考えて、いりもしないお金をお付き合いで借りるということがままあるのです。特に相手がメインバンクであればおいそれとは断れないのでしょう。

   先日もコメント欄で山ちゃんが、欲しくもない投信を買わされそうだと書かれていました。それに対し私は山ちゃんに、「投信の購入を断るのを怖がりなさんな」と申し上げました。すでに現状は「世の中は貸したいおカネにあふれている」からです。

   そして銀行も貸す資金の調達には困りません。銀行に貸したい預金者はいくらでもいて、金利などほぼゼロなのに預金として銀行に貸しているのです。そう、あの1800兆円にのぼる日本人の金融資産がその原資です。銀行はほとんどコストのかからない資金調達が可能になっています。

   しかし地方に行くと県庁所在地ですら商店街はシャッター商店街になっているところが多く、中小の企業や商店は後継者不足により存続が危ぶまれ、地銀は貸出先に窮しているのが実態です。それが例えばスルガ銀行による怪しいかぼちゃの馬車へのローンにつながってしまうのです。一方預金者も少しでも多くのリターンを得ようと、あのインチキ商法のジャパンライフに引っかかる人が多数出てしまっています。

つづく




  

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