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グローバリゼーションの行きつく先 その4

2018年09月01日 | グローバリゼーションの行きつく先

  8月はガバナンスのないボクシング連盟への批判から始まりましたが、8月末も今度は女子体操の同じ構図のスキャンダルで終わりそうです。全くうり二つの構図を眼前に見ていながら、まだ懲りないパワハラ夫婦がいるとは、あきれます。しかもこの夫婦、山根判定と同じように過去に塚原判定を批判され辞任したことのある前科1犯だそうですね。最初は「宮川の言っていることはすべてウソだ」と言っていたのですが、弁護士によって自分たちの愚かさに気づかされ、謝罪の言葉の多い代筆声明文を出しましたが、本心は「すべてウソだ」にあるとしか思えません。

  と、私はかなり断定的に書いていますが、ほぼ間違いなしと思っています。

  日刊スポーツ紙のサイトによれば、「日本体操協会の副会長で日体大の学長でもある具志堅氏は、宮川の苦しい胸のうちを思い『18歳の少女が嘘をつくとは思えない。協会としては宮川を守っていこうということ。練習環境も確保したいと思う』と語り、早期に第三者委員会を立ち上げる。」とのこと。

  体操協会はボクシング連盟と違って、選手ファーストの精神を持った金メダリストの具志堅氏のようなまともな人がいてよかったですね。

  一方、世界に向かってパワハラ全開のトランプですが、昨日も国連の難民救済組織への拠出金を今後一切止めると宣言しました。不幸な人々をより不幸にするのがトランプ流アメリカ・ファーストの本質のようです。

  一体このパワハラ男を止める力はどこにあるのでしょうか。イランやトルコは経済的に限界が近づいているし、中国の力もイマイチのように思えます。唯一あるとすれば、アメリカ国内の司法でしょう。トランプのすべてを握る元顧問弁護士コーエン氏が司法取引に応じて本当のことをしゃべり始め、8つの罪状を認めたことで、多くのヤバイ事実を検察側が得ました。同時にトランプ選対本部長だったマナフォート氏が同じく8つの罪状で有罪になりました。

  さらにトランプの現在のホワイトハウスでの弁護士マガーン氏の辞任が決まったことなどがトランプの逆風です。彼の個人弁護士として残っているのはトランプと同じ穴のムジナ、元ニューヨーク市長であるジュリアーニだけとなりました。

  そして最新ニュースは、モラー特別検察官が調査の中で、遂に外国との疑惑のシッポを掴んだというものです。ワシントンのロビーストのサミュエル・パッテン氏が上院の諮問委員会でウソの証言をしたことを認めました。彼はウクライナ系のオリガルヒの金をトランプの就任パーティーに非合法に支払ったことを認めたのです。トランプ包囲網は一段と狭まっています。

  今後もモラー特別検察官に期待しましょう。ただし、こうした件でトランプ自身の違法性が認められたとしても、司法省は大統領を訴追はしません。何故か?それについてはまた別途。


  さて、グローバリゼーション・ファティーグのことをしっかりと終えてなかったので、今回は私なりの結論を提示したいと思います。グローバリゼーション・ファティーグそのものの指摘はフランスの人口動態歴史学者であるエマニュエル・トッドの歴史認識から始まりました。

  彼の著書から引用した次のまとめを最初に掲げました。

  戦後世界は3つ目の局面に分かれていて、現在は3番目の局面に入ってきた。

1.1950年―1980年 成長局面・・・アメリカが先行し、日本と欧州が追い付いてきた。消費社会の到来した時代

2.1980年―2010年 経済的グローバリゼーションの時代・・・ここ数世紀の様々な世界的潮流は、例えば民主主義、自由主義などと同様、グローバリゼーションもアングロ・アメリカン、すなわち英国と米国によって推進された。ソ連と中国の共産主義はそれに対抗できなかった。

3.2010年以降、グローバリゼーションのダイナミズムが底をついてきている・・・その兆候は本家のイギリスとアメリカも例外とせず、むしろとりわけこの2国で限界が表われてきている。

   それが現象面としてあらわれているのが、

1.アメリカでは不平等の拡大、支配的白人男性グループにおける死亡率の上昇。社会不安の一般化により、ナショナルな方向への揺り戻しが始まり、その象徴がトランプやバーニー・サンダースの登場である。

 2.イギリスもアメリカ同様にグローバリゼーション行き過ぎの影響を受けた結果BREXITを決め、欧州統合プロジェクトから抜ける決断をした。

   これらを起こした理由は彼によれば、「グローバリゼーション・ファティーグ、行き過ぎたグローバリゼーションによる疲れである。」彼はグローバリゼーションの推進は経済理論の中でもネオリベラリズム(新自由主義)によるものだと断定し、それが移民問題を生起させたとしています。

  それに対して私の批判は、

  エマニュエル・トッドによる歴史の人口動態分析から、すぐに移民問題は導けない。彼はグローバリゼーションが移民を生起させることのクリアーな説明をしていません。逆に移民問題からグローバリゼーションが限界に来ているという議論もすぐには導けません。

  そして私の提案する移民問題の解決策は、グローバリゼーションをより進展させ移民を生み出しているアフリカ諸国などにしっかりとした経済的基盤を作ることだとしました。この主張に対して普段からグローバリゼーションを批判しているような方々からも反論が来ていません。

  ではこの問題の結論に入りたいと思います。エマニュエル・トッドは反グローバリズム、あるいはグローバリゼーション・ファティーグが移民・難民問題を作り出し解決不能に至っていると主張、その結果トランプという怪物が出現し、欧州でも極右勢力が力を得てEUの間に分断が生じていると断じています。

  しかし私はそうではなく、彼や多くの反グローバリゼーション論者は、グローバリゼーションと移民・難民問題をごちゃまぜにしているに過ぎない、と思っています。

  理由を述べます。アメリカではトランプが選挙戦を通じて最も訴えて功を奏したのは、「メキシコ国境に巨大な壁を作り、不法移民を拒絶する」という主張で、それが受けていました。欧州でも移民拒否の政策が大衆受けして極右が票を獲得し、イギリスでは国民投票で反移民派が多数を獲得、イタリアでは連合政権に入り込み、ハンガリーやオーストリアでも政権の一部を担い、フランスではルペンが負けましたが多くの票を獲得、ドイツですらメルケル政権側が極右に地方選挙でしてやられたのです。

  では、移民・難民問題なかりせば、アメリカ・欧州の政治は一体どうなっていたでしょうか。多分アメリカではトランプが勝利することなく、EUではイギリスにしろイタリアにしろ極右寄りの主張が政権を脅かすどころか、極右台頭の余地などなく、かなり平穏に過ごすことができたに違いありません。

  こうしてみると、トッドの著書名にある「問題はイギリスではなくEUなのだ」は間違っていて、「問題はグローバリゼーションとは関係のない、単なる移民問題なのだ」とするのがあるべき題名だと思います。今日の移民問題はグローバリゼーションの行き過ぎの結果などではないからです。

  そして繰り返しますが、前回の「その3」で示したように、「移民問題の解決の決め手はグローバリゼーションの一層の進展である。」となります。

  つまり「グローバリゼーションの行方には明るい未来が待つ」、それが楽観的な私の結論です。

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グローバリゼーションの行きつく先 その3

2018年08月10日 | グローバリゼーションの行きつく先

  日本ではヤクザまがいの独裁者が一人、負けを認めました。辞任の会見では力なく、ロレツも回らず意味不明。見るも無残な最期でした。

   もう一方のアメリカのヤクザは世界を敵に回して依然として意気軒昂です。しかし彼にも隙間風が吹き始めました。秋の中間選挙に影響を与えるオハイオ州の下院議員補欠選挙で、民主党候補が5分5分の戦いぶりを示したからです。

   16年の大統領選挙では、このオハイオ州と隣のペンシルベニア州でトランプが勝利をおさめたのが勝因と言われた元々共和党の強い選挙区です。いわゆるアメリカのラストベルト(錆びついた地帯)の中でも大きな州です。大統領選挙ではトランプ対クリントンの差は11ポイントありましたが、今回の補欠選挙では共和党候補50.2%対民主党候補49.3%となかなか当確が出ないほどの接戦なのです。

   トランプは選挙中と限らずこの州には頻繁に足を運び、支持者集会をおこなっていました。にもかかわらずこの接戦です。最近時々トランプの支持率が改善しているというニュースを見かけますが、私が見ている多くの世論調査のおまとめサイト、Real Clear Politicsの平均値は改善などしていません。特定のメディアで特定日の調査数字を使うとトランプの支持率は悪くない言えないこともないのかもしれませんが、「平均値は変化なし」です。以下はおまとめサイトでの各種調査の平均値を半年ほど見たものです。(四捨五入)

       支持  不支持

2月2日   42%  54%

4月1日   42%  53%

6月2日   44%  53%

7月1日   43%  52%

8月8日   43%  52%

 

  恣意的に特定の日を選んではいません。2か月ごとの月初と直近は1か月前の7月と8月です。数字はほとんど動いていないのが実態で、こういうのを表現するにはベタなぎと言うのが適切でしょう。ということは、4割ほどの人が支持率の岩盤を形成し、5割ほどが不支持率の岩盤だということになります。

  毎日あれだけひどいことを世界中でしでかし、ニュースで批判されても支持率は落ちないし、逆にそれをツイッターでトランプが反論しまくっても、支持率を上げることはできない。貿易戦争や北朝鮮問題、イランやロシアへの制裁など、アメリカ国内の有権者はどこ吹く風と思っているのでしょう。しかし隙間風以上の逆風が彼のあのフェイク・ヘアーを逆なでしているように思われます。

   フェイクと言えば遂に身内からも彼の「フェイクニュースだ」というメディア攻撃を非難する声があがりました。私は何度かイバンカなどの家族がパパのセクハラや傍若無人ぶりに「パパ、いい加減にして。もうやめてー!」と何故言わないのか、と言い続けていましたが、遂にそれが出たのです。8月3日のBBCニュースを引用します。

 「ドナルド・トランプ米大統領が折に触れて、メディアを「国民の敵」と呼び、支持者集会でもメディア攻撃の勢いが高まるなか、娘のイバンカ・トランプ氏は質問に答えて、自分はメディアを国民の敵とは思わないと回答した。」

   こうしたトランプの隙間風とは別に、世界のそこかしこでは怪しい風が吹きつつあります。それらを順不同に箇条書きにします。

まず海外では、

 ・トランプの保護主義が中国経済に悪影響を及ぼし、それが世界へ波及する恐れがでている

・トランプのイラン制裁が欧州・日本を含むイラン関係のビジネスを後退させているが、イラン指導者が制裁に対抗してホルムズ海峡封鎖を言い始めている

・トランプ減税の第2弾・第3弾が選挙対策に使われる懸念が出てきている

・イギリスの無秩序なEU離脱が現実味を帯びてきている

EU内の各国議会で右派が議席を伸ばし、結束が乱れかねない

 

日本では、

・日銀の異次元緩和に手詰まり感が強く出始めている

・金融機関の収益、特に地銀以下がボロボロになり始めている

 これは金融秩序を保つ役目を日銀が放棄し、混乱を促す側に回っているためです。

   今後金融市場などで大きな異変が起こらないか、心配です。

 

  では、シリーズの「グローバリゼーションの行きつく先」に戻ります。

欧州が立ち往生し、EUが崩壊の危機に陥るかもしれないほどの問題の原因は、アフリカ・中東からの移民問題です。

  8月9日付の日経新聞は、「欧州で勢いづく極右」というタイトルの記事で、「スウェーデンで極右政党が第1党をうかがう」というニュースを流していました。極右台頭の最大の原因は「反移民」です。記事はこう続きます。

「欧州で第1党が極右になれば戦後初めて。主要政党は極右との連立に否定的なため、極右政権が誕生するハードルは高いが、各国で移民排斥・反イスラムを掲げる政党が勢いづく兆しが出てきた。」

  移民問題の解決は一朝一夕にできるものではありません。そんな方法があれば、もちろん実行されているに違いありません。でもじっくり構えれば解決への道筋は描けます。それはごく当たり前のことですが、グローバリゼーションに背を向けずに利用し尽すことです。

  日本は明治の開国により発展を遂げました。それに異論はないでしょう。

  明治維新後フランスから機織機を導入し絹織物業を発展させたのが世界遺産に登録された富岡製糸場です。その後綿織物にも広げ、さらに機織機自体を作るところに至ったのがトヨタ自動織機です。戦後のアメリカとの貿易摩擦は繊維産業から始まりました。沖縄の返還交渉は、「縄と繊維の交換」だと言われましたが、沖縄を返還する代わりに繊維の輸出を制限しろというものでした。

  日本は繊維産業の対米輸出をあきらめ、繊維産業は壊滅的打撃を受けましたが、豊田自動織機はトヨタ自動車へと転身することで、会社も日本も大発展することができました。しかしその繊維・縫製産業はその後人件費の安い中国に流れ、それが中国発展の踏み台になっています。

  さらに中国の人件費が上昇すると中国で作っていたユニクロなどがベトナムやマレーシア、そしてミャンマーからバングラデシュへと製造拠点を移して行き、それが各国をテイクオフさせつつあります。これがまさしくグローバリゼーションの果実で、それにより国民所得を向上させることで国内の安全・秩序が保たれるようになり、アジア各国では大きな内乱などがほぼなくなっています。

  シリーズでは前回の最後に「アフリカからの移民問題解決の提案をします」と申し上げましたが、以上のようなアジアでの成功例をアフリカでも実行したらどうかというのが提案内容です。部族間の紛争や宗教対立は根が深いため、それ自体の解決の手立てはとても思いつきませんが、経済から攻めていけば道が開ける可能性は大いにあると思います。

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グローバリゼーションの行きつく先 その2

2018年07月30日 | グローバリゼーションの行きつく先

   トランプの打ち出した政策で唯一評価されているのは法人減税だと以前申し上げました。しかし数日前それに対してアメリカ政府自ら冷や水をあびせました。アメリカの国家予算を計画・管理する行政予算管理局が税収のひどい落ち込みを明らかにしたからです。法人減税は1月から実施され、35%が21%になっています。その結果1-6月の半年の法人税収が3割も減収になったというのです。そのニュースで米国債金利は一昨日上昇しました。

    減税を単純計算すると、21%÷35%=69% なので、当然約3割の減収になります。しかしトランプ政権はその減税が企業に蓄積され、将来の投資に向かったり賃金の上昇につながるので、税収は逆に増えるという皮算用を持っていました。ではそうしたプラスの波及効果を含んで、将来の見通しはどうなるのか。それを行政管理予算局が10年単位で計算し予測した結果は、10年間で財政赤字は円で110兆円の減収、年11兆円のマイナスだという結果を示しました。どうやらトラタヌだったようです。

 

  さて、前回はグローバリゼーションの行き過ぎが「疲れ」という症状を起こし、その反動で以下の二つの現象が起きたというエマニュエル・トッドの解説を紹介しました。二つとは、

 1.アメリカでは不平等の拡大、支配的白人男性グループにおける死亡率の上昇。社会不安の一般化により、ナショナルな方向への揺り戻しが始まり、その象徴がトランプやバーニー・サンダースの登場である。

 2.イギリスもアメリカ同様にグローバリゼーション行き過ぎの影響を受けた結果BREXITを決め、欧州統合プロジェクトから抜ける決断をした。

   グローバリゼーションのどこが行きすぎで、どこが悪いのかと言いますと、彼は不平等の拡大移民問題を取り上げています。それらの解消はトランプの選挙公約で、その公約こそ彼を当選させた原動力だと一般的にも分析されています。

 トランプ当選直後私は当ブログでもグローバリゼーションへの批判が多かったので、逆にグローバリゼーションの擁護論を展開しました。ちょっと長い引用ですが振り返ります。その時のタイトルは「グローバリゼーションについて語ろう」でした。

引用

日本は鎖国から世界に門戸を開いたことによって、大発展を遂げた。日本国内の過去を振り返ってみよう。グローバル化による競争だけでなく、一国内の同一産業でも、競争に破れた企業の従業員は失業する。ある産業全体でも、不要になれば産業全体が衰退し、失業者が出る。日本で言えば石炭産業は壊滅したし、繊維産業や縫製業はかなりの程度衰退し、失業者はたくさん出た。

   石炭産業を防御するために石油の輸入を抑えたりしたら、エネルギー効率を悪化させ産業全体が競争力を失うことになる。中国やバングラデシュからの繊維製品の輸入を制限したりしたら、国民服ユニクロを着ることはできない。それでも制限することに意味はあるのか。

   それよりも石炭産業をあきらめ新興自動車産業の発展に賭け、人手を使う縫製は中国にまかせ、エレクトロニクス産業に賭けたことで日本は大発展を遂げた。では、日本に利用された中国はどうか。グローバリゼーションにより日本に吸い尽くされたか。

   閉じた共産主義の国から貿易立国へと大変身することで人々の所得は爆発的に増加し、天安門広場にあふれかえっていた自転車はすべて自動車にとってかわられた。所得が増えたことで逆に高品質・高価格の日本製品が中国でも売れ、中国人旅行客が来日して日本のデパートで爆買いし、ホテルが儲かり観光地にカネが落ちた。結局、日本にまで大きな恩恵をもたらした。

   利用する側もされる側も、グローバル化の恩恵に浴したのだ。

引用終わり 

 鉄鋼とアルミに高関税をかけることからスタートしたトランプの保護主義は、アメリカ国内の主要産業団体や経済団体はもとより、世界の指導者などからも非難を受け、一昨日はトランプの放火で火の粉をかぶった農家に対して政府が補助金を出すという決断までしています。つまりトランプの保護主義は国内のためになっていないし、農家は実害を受けるところにまでいっていることを政府が認めたのです。

   アメリカで鉄鋼産業が復興することなど、多少の例外はあっても本質的にはありえないのです。ハイテク分野へのシフトが成功したのですから。一方アメリカの低賃金労働者の多くがサービス産業などで働いています。アメリカでマックに入っても白人労働者はほとんど見かけません。多くはアフリカ系、あるいはメキシコなど中南米系の人たちです。ハイテクとサービス産業の賃金格差は非常に大きいものがあります。その解決はハイテク産業をやめて鉄鋼産業にシフトするのではなく、高額所得者への課税強化と最低賃金の引き上げなどで解決すべきですが、トランプは反対に高額所得者の優遇税制を導入しています。言っていることとやっていることは相変わらず真逆です。

  では移民問題はどうか。

  欧州の「グローバリゼーション・ファティーグ」はトッドが指摘しているように、主に移民問題から発生しています。その証拠にBREXITは中東やアフリカからの難民問題が焦点でした。でも彼はその「グローバリゼーション・ファティーグ」と移民の関係を説明していません。私にはグローバリゼーションが海外からの移民を増加させているとは思えません。ちょっと深堀します。

 

  今一番問題になっているのは単なる移民問題ではなく、難民と移民の二つです。それを分けて考える必要があります。一つ目は中東やアフリカからヨーロッパへの「難民」で、その原因は部族間や宗教間の対立による内戦や、ひどい独裁政権による虐殺などから逃れることによるのであって、これらはグローバリゼーションとははっきり言って関係ないと思います。

 

  二つ目の経済的理由からの移民も、むしろこれらの国々と先進世界が貿易でつながり共生関係が構築できれば、つまりグローバリゼーションが十分にワークすれば、移民しなくても自立の道が開けるかもしれません。こちらもグローバリゼーションが原因で経済移民が生じているとはいいがたく、むしろグローバリゼーションは解決手段だと私は思っています。

 

  彼の著書「問題はイギリスではなく、EUなのだ」では移民問題がエマニュエル・トッドの論旨の核心部分ですが、はっきり言って説明不足です。もし「オマエの読み方が不足している」、という方がいらっしゃれば、是非解説をお願いします。

   長くなりましたのでここまでをまとめますと、

   エマニュエル・トッドによる歴史の人口動態分析からすぐに移民問題は導けないし、移民問題からグローバリゼーションの限界論もすぐには導けない。彼は歴史の転換点を的確に予想したが、それと彼の百年単位の人口動態分析は別物ではないか。というのが私なりのエマニュエル・トッドの読み方です。

   では例えばアフリカからの移民問題はどうしたら解決できるのか。次回はその提案をしたいと思います。

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グローバリゼーションの行きつく先 その1

2018年07月27日 | グローバリゼーションの行きつく先

  一昨日のアメリカのトップニュースは、またまた「トランプのウソ」でした。先日来トランプの不倫が問題化しているのですが、一人はポルノ女優、一人はプレーボーイの女性モデルで、プレーメートと呼ばれる女性の一人です。70年代のアメリカではこれぞ全既婚男性の憧れであった不倫相手なのですが、それを彼は2000年代でまだやっていたというのです。もちろん彼はメラニア夫人と結婚していましたので、口止めしようとしました。ウソとはトランプは自分の「弁護士がプレーメートに口止め料を支払ったことなど知らないし、指示もしていない」と言っていたことです。弁護士事務所を捜索した検察官がトランプと弁護士のその件の会話テープを発見し、それをCNNが入手して放映してしまったのです。動かぬ証拠を突き付けられたトランプですが、どう言い訳するのでしょう。

 

  と言っても、かわいいトランプちゃん、不倫相手がプロのポルノ女優であったりプレーメートだと、自慢げに一緒に写真を撮ってしまうので、早くからバレバレなのです。彼にとって不倫程度のウソはウソのうちに入りません。トランプの最大の支持母体はアメリカの福音派キリスト教徒ですが、不倫を自慢しまくるおバカなトランプをよくぞ支持できるなと感心します。

 

  一方で天に唾したトランプに、予想通り大きな2つの唾が戻ってきました。一つは中国によるアメリカ産農産物への対抗措置が効いて、ア「メリカの農業がすでに打撃を受けはじめたため、政府が120億ドル、1.3兆円もの救済補助金を出すというのです。今一つはハーレーダビッドソン製造工場の国外逃亡です。欧州がハーレーのバイクに課す関税を、自社が負担するという決断、そして今後工場を国外に脱出させるというのです。農業もハーレーも、トランプの支持母体ラストベルトにあって、彼の自爆テロで大きな被害を受けつつあります。

  前回のシリーズ記事「トランプでアメリカは大丈夫か?」の最終回に、私のような楽観論に対してかなり悲観的に今後の世界を見ている人がいる。その議論とは

「アメリカのトランプ、イギリスのBREXIT、イタリア、オーストリアなど、反グローバリゼーションを掲げるポピュリズム政党・政治家が、今後も資本主義・民主主義世界を揺るがすことになる」というこわい議論です。

  この議論をリードするのは、世界的人口動態歴史学者であるエマニュエル・トッド氏などですが、今回から今後の世界を占う意味で、こうした議論を私なりに検証したいと思います。

   ではエマニュエル・トッド氏の「グローバリゼーション限界論」に入ります。16年6月に行われたイギリスの国民投票によるEU離脱と、その秋のトランプ当選が米英2か国のポピュリズムへの転換点として歴史に刻まれそうな雲行きです。その後欧州ではオーストリア、イタリア、ポーランドなどEU加盟国でも反移民を旗印にポピュリズム旋風が吹き荒れていますが、ドイツとフランスの選挙ではその動きを阻止しました。ポピュリズムを選択した各国は反EU、あるいはもっとはっきり言えば反ドイツを政策の中心に位置づけているように思えます。

   その上トランプが世界中に突き付けるアメリカ・ファースト=保護貿易やNATOの軍事費負担問題、そしてアメリカのイラン核合意からの離脱が、欧州や世界に大きな混乱をもたらしています。日本も例外ではなく、今後さらに貿易や防衛費負担をめぐり、いずれトランプから激しい攻撃を受けるに違いありません。

  こうした昨今の問題の元をたどると、政治学者の間では「グローバリゼーションの行き過ぎ」に原因があるといわれています。それを確かめる意味で最近私はフランスの歴史学者、エマニュエル・トッ氏の近著をまとめて読んでいます。何故なら彼こそ「行き過ぎ論」の本家本元だと言われているからです。エマニュエル・トッドは人口動態分析をベースとした歴史学者で、歴史の転換点を言い当てることに長けているといわれます。これまでに彼が言い当てたことを並べると、

・ソ連、東側諸国の崩壊

・イギリスのEU離脱

・トランプの当選

 

  こうしたことを予想したといわれています。彼の人口動態分析理論は人類の歴史をさかのぼり、共同体構成の分析から始まり家族構成や婚姻形態など、百年単位での動きの分析を数量的に行うことで歴史上の大きな出来事の背景を説明しています。歴史を数量分析する彼の手法を、数字ヲタクの私は評価はするのですが、百年単位で起こることの分析でトランプ当選を予想できたとはどうしても思えません。

   私が読んだ本は学術的な大部のものではなく新書版程度のもので、タイトルを並べますと、

1.「問題は英国ではない、EUなのだ」16年9月(BREXIT後、トランプ当選前)

2. 「世界の未来」18年2月  これは数人の学者へのインタビューをまとめたもので、彼へのインタビューは一部分です。

3.  鹿島茂氏による「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」17年4月。彼のこれまでの学術的功績をダイジェストで示しています。

 

  このうち3はエマニュエル・トッドの歴史分析の方法論や彼の一番の得意分野である家族構成分析などがメインのため、ここでは対象から除きます。グローバリゼーションの与える影響に関してもっとも直接的に分析しているのは1.の「問題は英国ではない、EUなのだ」です。そこでその本の核心部分を紹介することにします。

   そもそもタイトルにあるとおり、彼はグローバリゼーションの行きついた先がEUという個々の国家主権を制限した統合国家であるが、実態はドイツによるEU支配で、それが強まることが様々な問題を引き起こしているとしています。以下が超簡単ダイジェストです。

 戦後世界は3つ目の局面に分かれていて、現在は3番目の局面に入ってきた。

1.1950年―1980年 成長局面・・・アメリカが先行し、日本と欧州が追い付いてきた。消費社会の到来した時代

2.1980年―2010年 経済的グローバリゼーションの時代・・・ここ数世紀の様々な世界的潮流は、例えば民主主義、自由主義などと同様、グローバリゼーションもアングロ・アメリカン、すなわち英国と米国によって推進された。ソ連と中国の共産主義はそれに対抗できなかった。

3.2010年以降、グローバリゼーションのダイナミズムが底をついてきている・・・その兆候は本家のイギリスとアメリカも例外とせず、むしろとりわけこの2国で限界が表われてきている。

 

  それが現象面としてあらわれているのが、

1.アメリカでは不平等の拡大、支配的白人男性グループにおける死亡率の上昇。社会不安の一般化により、ナショナルな方向への揺り戻しが始まり、その象徴がトランプやバーニー・サンダースの登場である。

 2.イギリスもアメリカ同様にグローバリゼーション行き過ぎの影響を受けた結果BREXITを決め、欧州統合プロジェクトから抜ける決断をした。

   これらを起こした理由は彼によれば、グローバリゼーション・ファティーグ、行き過ぎたグローバリゼーションによる疲れである。彼はグローバリゼーションの推進は経済理論の中でもネオリベラリズム(新自由主義)によるものだと断定し、それが移民問題を生起させたとしています。

 

つづく

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